ISSN 2189-1621

 

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イベントレポート(1) 東京大学大学院情報学環附属社会情報研究資料センター高度アーカイブ化事業共同研究会&記念シンポジウム「研究者資料のアーカイブズ‐知の遺産 その継承に向けて‐」

◇イベントレポート(1)
東京大学大学院情報学環附属社会情報研究資料センター高度アーカイブ化事業共同
研究会&記念シンポジウム「研究者資料のアーカイブズ‐知の遺産 その継承に向
けて‐」: http://www.center.iii.u-tokyo.ac.jp/sympo
(添野勉:国立民族学博物館外来研究員)

 2011年11月26日、東京大学本郷キャンパス福武ホールにおいて、東京大学大学院
情報学環附属社会情報研究資料センター高度アーカイブ化事業共同研究会&記念シ
ンポジウム「研究者資料のアーカイブズ‐知の遺産 その継承に向けて‐」が開催
された。本シンポジウムは東京大学大学院情報学環附属社会情報研究資料センター
(以下、社会情報研究資料センターとのみ表記)と、新たに立ち上げられた同大学
院メディア・コンテンツ総合研究機構が主催し、アート・ドキュメンテーション学
会と日本図書館情報学会の共催を受けて行われた(後援:国立大学図書館協会、日
本アーカイブズ学会)。

 社会情報研究資料センターの高度アーカイブ化事業は、現物の新聞・メディア資
料保存公開施設であった同センターのアーカイブ機能強化を眼目として2007年度よ
り5年間に亘り推進されてきた事業である。そこでは現物資料保存機能の強化ととも
に、先進的なデジタルアーカイブ開発が行われてきた。もともと2004年度より情報
学環で開始された21世紀COE「次世代ユビキタス情報社会基盤の形成」(代表:坂村
健教授、2008年度終了)の一環として資料整理・分析とアーカイブ化が進められて
きた東京帝国大学教授、坪井正五郎(人類学・考古学)の関係資料を包含しつつ、
これに情報学環の前身である新聞研究所の創始者小野秀雄の関係資料を加え、研究
者資料を活用したさらなる次世代アーカイブ開発を目指したのがこの高度アーカイ
ブ事業である。斯く記す筆者も特任教員として21世紀COEの時代からアーカイブ構築
に従事しており、今回のシンポジウムを企画した研谷紀夫氏とともに、情報学環に
おけるアーカイブ開発の歩みに直接関わった者として、今回の総括的かつ未来志向
のシンポジウムの開催には感慨深いものがあった。

 このような事業の展開を背景に、各大学における研究者資料の保存・利活用状況
に注目し、その現状と課題を包括的に議論しようと試みたのが、今回の「研究者資
料のアーカイブズ」シンポジウムである。共催するアート・ドキュメンテーション
学会の秋期研究会と合同開催の形式を採用し、午前中は2トラック8テーマの研究発
表が行われた。その内容に簡単に触れると、東京大学大学史史料室の谷本宗生氏は
史料室の所蔵する東大総長関係資料をもとに、渡邊洪基や古在由直の資料について
そこに内包された可能性と史料室運営上の課題を述べ、金沢工業大学の栃内文彦氏
は坪井家資料の一環である坪井誠太郎資料の科学史的意義を論じた。慶應義塾大学
の本間友氏は同大学アート・センターの所蔵する油井正一アーカイヴの内容を解説
し、玉井建也氏は社会情報研究資料センターの小野秀雄資料の整理に従事した立場
から、その活用可能性と課題について言及した。

 もう一方の自由テーマセッションでは大阪大学の要真理子氏がローラ・アシュレ
イ社の企業アーカイブについて、筒井弥生氏がワシントンD.C.のアリス・ルーズベ
ルト・ロングワース旧蔵コレクションについてそれぞれ報告を行い、お茶の水大学
の北岡タマ子氏は研谷氏とともに凸版印刷との共同研究の成果として作成した「文
化資源のデジタル化に関するハンドブック」について、その特徴を解説した。日下
九八氏は論点をデジタルに特化し、ウィキペディアを活用した資料・情報の活用に
ついて自身の経験を交えつつ報告を行った。いずれもアーカイブの本質に関わる重
要な論点を内包しており、筆者には聴き応えのある報告であった。

 午後のシンポジウムは、基調講演として東京女子大学に寄贈された丸山眞男関係
資料の整理を主導されている平石直昭氏より、受け入れの経緯や整理作業上の課題、
供用に向けてのクリアすべき課題が提示された。続く東京藝術大学の植村幸生氏か
らは、小泉文夫記念資料室という現物の楽器を大量に所蔵する機関ならではの活用
方法や、教育用デジタルコンテンツに関する報告がなされた。さらに京都大学総合
博物館の五島敏芳氏・山下俊介氏からは、研究資料と研究者資料という、似て非な
るアーカイブのありようについて、現状に対するかなり厳しい意見を交えつつ、理
想のアーカイブをいかにして形成するかについての実践的な課題が提示された。こ
れらの登壇者に続き、研谷紀夫氏と大和裕幸氏からは、東京大学において情報学環
と新領域創成科学研究科という別々の部署で制作されたアーカイブのもつそれぞれ
の課題と教育への活用について、実例とともに言及がなされた。

 これらの内容について、ここで詳しく触れる紙幅はないが、資料の収集から公開・
共有に至るアーカイブという一連の行為のいくつかの段階ごとにそれぞれの課題が
存在し、そのいずれの段階において困難に直面したかが、各登壇者の論じる内容に
色濃く影響しているように感じられた。それは丸山文庫で言えば資料収集・選別の
時点にあろうし、京都大学ではアーカイブにおける資料分類の方法論の時点であり、
大和氏の平賀譲アーカイブや芸大の小泉記念室であれば、利活用の部分である。し
かし、困難は同時に新たな発見の契機でもあり、必ずしも全てのアーカイブで困難
が乗り越えられたとは言い切れないまでも、ともすればデジタル化・フラット化さ
れて個性を失ってしまう研究・研究者の資料アーカイブがそれぞれ独特の「表情(
かお)」を再獲得する機会をそこに見出すことができるのではないかと思われた。

 最後に、こうしたアーカイブをいったい大学のどこが受け皿となっていくのか、
ということであるが、パネルディスカッションでも人材養成とともにその点が繰り
返し議論されていた。登壇者の多くは大学図書館にその役割を期待しており、デジ
タル化の波が急速に押し寄せる大学図書館の新たな機能として、研究の軌跡をどの
ように保存し共有していくかが課題として挙げられていた。当日は多くの大学図書
館や資料館の関係者が会場に参集していたが、共感・反論も含め、今後ますます議
論が深められることを期待したい。

 なお、今回のシンポジウムで配布された予稿集はまもなく社会情報研究資料セン
ターのサイト(*1)にて公開・配布される予定である。超満員のため締切に間に合
わず、会場に足を運べなかった方にもぜひご一読いただき、論点を共有していただ
ければ幸いである。

(*1)社会情報研究資料センター: http://www.center.iii.u-tokyo.ac.jp/sympo

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