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Digital Humanities 2010の紹介

King's College London

 Digital Humanities 2010 (以下、DH2010)は、2010年、ロンドンのKing's College Londonにおいて 開催された、人文学におけるデジタルメディアの応用に関する研究をテーマとする 最大級の国際会議である。この会議は元々、 ALLC (The Association for Literary and Linguistic Computing, 1973年設立)と ACH (Association for Computers in the Humanities, 1978年設立) による共同国際シンポジウムに始まり、2006年、パリでの国際会議においてDigital Humanitiesの 名を冠するようになり、現在に至る。 現在は、上記の2団体に加えてSDH-SEMI(The Society for Digital Humanities)によって構成される ADHO (Alliance of Digital Humanities Organisations) が主催している。

Japanese panel

 King's College Londonで開催されたDH2010は420名の参加者を集め、日本からも26名と、 これまでにない多数の参加者があった。テクストのマークアップに関する規則に 関する議論やそれらをアーカイブするための手法、あるいはテクスト分析等を 中心にしつつ、絵画や音楽、映像に関するデジタル化についての議論など、 人文学におけるデジタル化に関する様々な話題が展開された。 会議の アブストラクト集からもその様子はよくわかるだろう。 また、日本における人文学デジタル化を テーマとするパネルセッションも開催され、日本の人文学デジタル化の動向を紹介する良い 機会となったことは付け加えておきたい。これも含めたシンポジウムの様子については、 東京大学東洋文化研究所の松田訓典先生による参加報告 を参照されたい。

Plenary lecture

 また、会議の締めくくりとなる総会において行われた University College LondonMelissa Terras博士による 講演 "Present, Not Voting: Digital Humanities in the Panopticon" は、彼女が取り組んでいる Transcribe Bentham(哲学者ベンタムの草稿のテキストデータ化プロジェクト)を 手掛かりとしつつDigital Humanities(人文情報学)の様々な問題を広範に取り上げて論ずるという、 この分野にとって大変示唆に富んだ刺激的なものであり、大盛況の うちに終わり、その後も Times Higher Educationに採り上げられるなど、様々な論議を呼んでいる。このスピーチの 原稿ビデオは現在のところWebで閲覧可能だが、このうちスピーチの 原稿をベンタム研究者である 東京大学大学院医学系研究科医療倫理学分野の児玉聡先生に訳出していただいた("Present, Not Voting: Digital Humanities in the Panopticon" の全訳)。 日本における人文学のデジタル化への取り組みにとっても刺激的な 内容が多く含まれているのでぜひ参考にされたい。

 なお、最後になるが、DH2011は スタンフォード大学で開催予定である。アブストラクトの 締め切りが11/1となっているので、関連の研究者の方々はぜひ投稿をご検討いただきたい。 投稿の要領はこちらを参照。

(人文情報学研究所 永崎研宣 / Kiyonori Nagasaki)