ISSN 2189-1621

 

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DHM 000

人文情報学月報
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄Digital Humanities Monthly

            2011-07-29発行 No.000 創刊準備号
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 ◇ 目次 ◇
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◇人文情報学月報への招待(永崎研宣:人文情報学研究所)

◇人文情報学イベントカレンダー

◇編集後記

◇奥付

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◇人文情報学月報への招待(永崎研宣:人文情報学研究所)

盛り上がる国際会議
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6月19-22日、世界中のDigital Humanitiesに関わる研究者がアメリ
カ西海岸のスタンフォード大学に集結しました。そこでは、人文学
資料のデジタル化の手法やその学問的な意味、デジタル化された資
料の応用の仕方、さらには、そのための費用確保への道筋といった
ことまで、多種多様な議論が展開されました。毎年欧州と北米で交
互に開催されるこの国際会議の盛り上がりの様子は、ツィッターの
ハッシュタグ、#dh11での数千のツィートから垣間見ることができ
ます。日本からの参加は前年のロンドン大会の半分ほどでしたが、
それでも十数名の研究者が参加しました。

日本での位置づけ
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欧米ではかなりの盛り上がりを見せるDigital Humanitiesですが、
日本ではどのような位置づけとなっているでしょうか。まず、言葉
としては、英語表記そのままで「Digital Humanities」、カタカナ
で「デジタルヒューマニティーズ」といった表現が使われており、
また、「人文情報学」「デジタル人文学」がこれにあたる言葉とし
て使われるようになってきています。他にも、実質的に同じような
内容を含む様々な言葉があります。特に近年は、日本でも、こう
いった事柄を扱う大学の学部や大学院が徐々に新設されるように
なってきています。統一するのはなかなか難しいのですが、ここで
は仮に、「人文情報学」を、Digital Humanitiesを含む言葉として
用いることとします。

デジタル化の流れ
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では、こうした動向は、最近急に始まったのかと言えば、必ずしも
そうではありません。このような動きには、実は、コンピュータ自
身と同じくらいの歴史があります。ヨーロッパ中世の著名な神学者
トマス・アクィナスの著作の索引をコンピュータを用いて作成し始
めたのは、1946年のことでした。その後も、コンピュータの進歩に
伴い、次々と新しい手法が現れ、対象となる資料の種類も増えてい
きました。最初はテキストだけを対象としていましたが、やがて、
画像も、動画も、人の動作も…となっていき、一方、手法について
も、様々に深化を遂げてきています。欧米では1970年代、日本で
も1980年代末には、そういった動きが学会活動として形成される
ようになっていきます。

インターネットと共に
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インターネットが普及してからは、変化はさらに加速していきまし
た。誰でもどこからでもいつでもアクセス可能であるという特徴は、
人文学における新しい可能性への期待をとりわけ高めました。そし
て一方で、媒体としての紙が持つ性質による制約のいくつかがなく
なってしまったデジタル媒体が普及しつつあることから、資料や成
果発表の方法に紙を主に用いていた時代にその制約を生かしつつ連
綿と築かれてきた分量や可搬性、書式などの様々なルールは、デジ
タル媒体では再考の必要が生じてきており、実際に再構築しようと
する動きが出てきています。インターネット登場以前からも理念や
設計としては様々な情報システムが提案され、人文学への応用も研
究されてきていましたが、インターネットの普及と高度化により、
それは現実のものとして実践的研究の対象ともなってきており、人
文情報学の重要な側面として、現在、まさに世界中で展開されてい
るところです。

人文情報学における研究活動
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さて、では具体的にはどのようなことが行われているのでしょうか。
まず、人文学、と言っても、様々な分野があります。伝統的には哲
学・史学・文学が挙げられますが、大学の文学部・人文学部等を見
てみると、文化人類学・心理学・社会学など、人間文化に関する様
々な切り口からの研究分野が含まれています。人文情報学は、そう
した幅広い人文学を対象として、デジタル化に関わる手法や意味を
問うとともに、ソフトウェアの開発やその基盤となる規格の制定な
どを通じて実践的に検証しフィードバックしていくという螺旋的な
研究活動ということができるでしょう。聖書や仏典、古文書や文学
作品など、様々な文献資料がそのようにして人文情報学の対象とな
っており、全文検索やOCR、あるいは、断片資料を用いた原文の再
構築や翻刻の支援、内容の構造を記述する手法やその標準化、さら
には内容の理解を助けるための辞書や索引などのツールの作成、そ
して、デジタル化された資料の構造をコンピュータで解析してネッ
トワーク図を作成して内容分析の手がかりにする、といった様々な
アプローチが行われています。外字を手がかりとした文字(特に漢
字)の扱い方についても人文学資料の扱いという観点からはまだ検
討の余地を大きく残しています。また、土器や遺跡といった考古学
的な資料、あるいは、美術品、工芸品や建築物をはじめとする有形
文化財に関しては、それについての情報をどう記述するか、という
点が重要となり、目録情報や写真画像のみならず、三次元的な情報
の記述手法も含まれてきます。対象が点ではなく地域となった場合、
近年普及しつつあるGIS(地理情報システム)が重要となり、そこで
さらに時間の経過も対象としたHistorical GISと呼ばれる手法も広く
展開されつつあります。音楽を対象とするなら、楽譜の記述と音の
記述に関わる検討が必要であり、映画であれば動画が対象となり、
さらに、舞踊などの研究に至っては、三次元の動作まで記述するこ
とになります。そして、いずれの場合も、記述したものをどう生か
し、どこにつなげていくか、ということも重要な課題となります。
一方、人間文化の研究という視点からは、現在ものすごい勢いで蓄
積されつつあるブログやWeb掲示板、ツィッターなどの書き込みは
そのまま分析の対象となりますし、また、漫画やアニメーション、
ゲームといった、いわゆるサブカルチャーに対する研究も含まれる
ことになりますが、そういった場合にもそれぞれの資料の持つ独自
性を反映していく必要があるでしょう。
…と、色々挙げてみましたが、これでもとてもすべてを網羅してい
るとは言えません。人文情報学の範囲とはそれほど広く、また、新
しい技術の登場とともに、さらに活動領域は広がっていくことにな
ります。全貌をつかむことすらなかなか困難な状況であると言って
もいいかもしれません。

メールマガジン「人文情報学月報」では、そのような人文情報学の
現状を少しでもつかみやすくすべく、人文情報学と位置づけること
のできる様々な研究について、それぞれの分野の気鋭の専門家のみ
なさまにご紹介していただくとともに、その時々の国内外のホット
な情報についてもお伝えしていきたいと思っております。どうぞよ
ろしくお願いいたします。

参考URL
Kiyonori Nagasaki's Home http://www.dhii.jp/nagasaki/

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◆次号は……

 花園大学の後藤真さんにご寄稿いただく予定です。
 
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◇人文情報学イベントカレンダー

2011-07-30(Sat) 10:30-17:20
情報処理学会 第91回 人文科学とコンピュータ研究会発表会
(於・大阪府/大阪電気通信大学 寝屋川キャンパス)
http://www.jinmoncom.jp/

2011-09-12(Mon)~2011-09-14(Wed):
Osaka Symposium on Digital Humanities 2011
(於・大阪府/大阪大学 豊中キャンパス)
http://www.lang.osaka-u.ac.jp/~osdh2011/
*8月15日までの早期申込みにて参加費割引あり

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 配信の解除・送信先の変更は、
    http://www.mag2.com/m/0001316391.html
                        からどうぞ。

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◆編集後記(編集室:ふじたまさえ)
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人文情報学月報の編集をお手伝いすることになりました。このメー
ルマガジンの意図は、とにかく様々な分野にわたる人文情報学をそ
れぞれの立場にかかわらず、広く俯瞰することにあります。
すでに研究テーマを持って取り組んでいる方々にも、研究テーマを
別の視点から見る機会を少しだけ持っていただき、総じてその時々
の人文情報学における位置づけをご確認いただけるように、人文情
報学全般に関わるイベント情報も掲載していきます。
人文情報学の入り口として、門戸を広く、さまざまな可能性を秘め
たメールマガジンを発行できたら、嬉しく思います。

◆人文情報学月報編集室では、国内外を問わず各分野からの情報提供
をお待ちしています。
情報提供は人文情報学編集グループまで...
DigitalHumanitiesMonthly[&]googlegroups.com
                [&]を@に置き換えてください。

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人文情報学月報 [DHM000] 2011年7月29日(月刊)
【発行者】"人文情報学月報"編集室
【編集者】人文情報学研究所&ACADEMIC RESOURCE GUIDE(ARG)
【E-mail】info[&]arg-corp.jp [&]を@に置き換えてください。
【サイト】 http://www.dhii.jp/
Copyright (C) "人文情報学月報" 編集室 2011- All Rights Reserved.
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