ISSN 2189-1621

 

現在地

DHM 037 【後編】

【件名】[DHM037]人文情報学月報【後編】

2011-08-27創刊

人文情報学月報
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄Digital Humanities Monthly

             2014-08-26発行 No.037 第37号【後編】 504部発行

_____________________________________
 ◇ 目次 ◇
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

【前編】
◇《巻頭言》「技術音痴の人文情報学」
 (久木田水生:名古屋大学大学院情報科学研究科 准教授)

◇《連載》「Digital Humanities/Digital Historyの動向
      ~2014年7月中旬から8月中旬まで~」
 (菊池信彦:国立国会図書館関西館)

◇《特集》「デジタル学術資料の現況から」第6回
 「集合知で読む歴史史料-SMART-GSが実現するグループリーディング」
 (橋本雄太:京都大学大学院文学研究科 博士後期課程)

【後編】
◆発表・論文募集◆第20回公開シンポジウム「人文科学とデータベース」ほか

◇人文情報学イベントカレンダー

◇イベントレポート(1)
Digital Humanities 2014
 (橋本雄太:京都大学大学院文学研究科 博士後期課程)

◇イベントレポート(2)
第103回 人文科学とコンピュータ研究会発表会
 (永崎研宣:人文情報学研究所)

◇イベントレポート(3)
「漢デジ2014:デジタル翻刻の未来」
 (岡田一祐:北海道大学大学院 博士後期課程)

◇イベントレポート(4)
「国際仏教学会学術大会IABS2014:デジタル仏教学関連セッション」
 (永崎研宣:人文情報学研究所)

◇編集後記

◇奥付

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
【人文情報学/Digital Humanitiesに関する様々な話題をお届けします。】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

◆発表・論文募集

◇人文科学とコンピュータシンポジウム「じんもんこん2014」
 オープン化するヒューマニティーズ~その可能性と課題を考える~
期日:2014年12月13日(土)~14日(日)
会場:国立情報学研究所/学術総合センター/一橋講堂(東京都千代田区)
★概要論文締切:2014年9月12日(金)
★詳細: http://www.jinmoncom.jp/sympo2014/

◇第20回公開シンポジウム「人文科学とデータベース」
 このシンポジウムでは、人文科学や芸術とデータベースに関連する幅広い内容の
発表を募集しております。奮ってご応募ください。
期日:2014年12月20日(土)
会場:近畿大学東大阪キャンパス(本部キャンパス)21号館543教室(予定)
★発表申込締切:2014年10月10日(金)
★詳細: http://www.osakac.ac.jp/jinbun-db/5.html

◇Digital Humanities 2015: Global Digital Humanities
期日:2015年6月29~7月3日
会場:UNIVERSITY OF WESTERN SYDNEY
★概要論文締切:2014年11月3日(midnight GMT)
★詳細: http://dh2015.org/cfp/

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

◇人文情報学イベントカレンダー(□:新規掲載イベント)

【2014年9月】
■2014-09-06(Sat)~2014-09-07(Sun):
Code4Lib JAPANカンファレンス2014
(於・福井県/鯖江市図書館)
http://www.code4lib.jp/2014/06/1166/

■2014-09-06(Sat)~2014-09-08(Mon):
露光研究発表会 2014
(於・沖縄県/沖縄県立芸術大学)
http://rokouken2014.wordpress.com/

■2014-09-19(Fri)~2014-09-21(Sun):
JADH2014
(於・茨城県/筑波大学)
http://conf2014.jadh.org/

■2014-09-20(Sat):
計量国語学会 第58回大会
(於・東京都/東洋大学 城山キャンパス)
http://www.math-ling.org/

【2014年10月】
□2014-10-03(Fri)~2014-10-04(Sat):
Research Summit on Collation, Mu:nster(Germany)
(於・ドイツ/Mu:nster)
http://eadh.org/news/2014/07/01/cfp-research-summit-collation-m%C3%BCnst...

□2014-10-04(Sat)~2014-10-05(Sun):
英語コーパス学会 第40回大会
(於・熊本県/熊本学園大学)
http://english.chs.nihon-u.ac.jp/jaecs/

□2014-10-18(Sat):
情報処理学会 第104回 人文科学とコンピュータ研究会発表会
(於・大阪府/関西大学 千里山キャンパス)
http://www.jinmoncom.jp/

□2014-10-21(Tue)~2014-10-23(Thu):
PNC 2014 Annual Conference and Joint Meetings
(於・台湾/National Palace Museum, Taipei)
http://www.pnclink.org/pnc2014/english/

□2014-10-22(Wed)~2014-10-24(Fri):
2014 TEI Conference
(於・米国/Northwestern University)
http://tei.northwestern.edu/

Digital Humanities Events カレンダー共同編集人
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
小林雄一郎(日本学術振興会特別研究員PD)
瀬戸寿一(東京大学空間情報科学研究センター)
佐藤 翔(同志社大学教育文化学科 助教)
永崎研宣(一般財団法人人文情報学研究所)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
◇イベントレポート(1)
Digital Humanities 2014
http://dh2014.org/
 (橋本雄太:京都大学大学院文学研究科 博士後期課程)

 7月7~12日、デジタル人文学分野の連合学術団体であるAlliance of Digital
Humanities Organizationsが主催する年次国際学術大会「Digital Humanities 2014
」が、スイスのローザンヌ大学と隣接するスイス連邦工科大学ローザンヌ校(以下、
EPFL)にて開催された。

 本大会(以下、DHカンファレンス)は、1989年にデジタル人文学分野の連合学術
大会として開始されてから、今年で数えて26回目の開催となる。世界的なデジタル
人文学研究の流行を反映してか、本年は例年と比べても特に参加者が多かった様子
である。大会運営委員長のMelissa Terras氏によれば、ワークショップやパネル・
セッション形式の発表も含めて、今大会には750件以上の発表申込があったという。
個別の発表内容については、全発表のアブストラクト[1]がWeb公開されているの
で、そちらを参照されたい。筆者がDHカンファレンスに参加するのは今回が初めて
であったが、テキスト解析やアーカイブ論など、デジタル人文学の主流をなすテー
マの研究報告と並行して、音声や映像データの人文学における取り扱いを論じる発
表が多数見られたことが印象的であった。

 筆者が出席した発表で特に興味深かったのは、Joris van Zundert氏が司会を務め
たパネル・ディスカッション、"What is Modeling and What is Not?"[2]である。
このセッションでは、人文学研究、特にデジタル人文学研究における「モデル構築
」のあり方が論じられた。ここで言う「モデル」とは、物理学や生物学に見られる
ような、現実世界の現象を記述するために導入される図式的・数学的枠組みのこと
である。パネリストらは、近年のデジタル人文学研究において、「モデル構築」が
大きな役割を果たしていることを指摘し、計算機を利用した人文学研究にとって最
適な「モデル」とは何か、といった科学哲学にも通じるような問題を議論していた。
パネリストの中には、XMLの仕様策定に携わり、またTEI(Text Encoding
Initiative)グループの主要委員を歴任したMichael Sperberg-McQueen氏の姿も見
えた。議論の対象は情報科学からスピノザやヴィトゲンシュタインの哲学にまで及
び、デジタル人文学の学際的性質を感じさせるものであった。

 筆者自身は、大会4日目のポスター・セッションにて、名古屋大学情報文化学部の
久木田准教授と共同で、歴史文献研究の支援ツールであるSMART-GS[3]のデモを行
った。ポスター・セッションの会場は大変な盛況で、筆者らのポスターには1時間の
発表時間のうちに30名以上の来場があった。このため発表時間中は来場者の対応に
右往左往することになったが、SMART-GS開発プロジェクトを海外の研究者に紹介す
る上では大変に良い機会となった。

 研究発表プログラム以外では、EPFLのロレックス教育センターで催されたバンケ
ットや、レマン湖上を周回するボートクルーズなど、研究者間の交流を促す種々の
イベントが会期中に設けられていた。この機会に筆者も拙い英語で幾人かの研究者
と情報交換をすることができた。また、筆者は会場近くのユースホステルの4人部屋
に宿泊していたのだが、偶然にもHathiTrust[4]プロジェクトの主要メンバーであ
るPeter Organisciak氏と同室になった。HathiTrustは、Googleブックスやインター
ネット・アーカイブを包摂する巨大デジタル・ライブラリーである。Organisciak氏
からは、HathiTrustを支える情報インフラ(NoSQLデータベースや分散処理フレーム
ワークなど)の技術詳細について、貴重な話を聴くことができた。

 DHカンファレンスは、デジタル人文学研究に携わる数百、数千名の研究者が一堂
に会する大規模学術大会である。会期中に筆者が見知り得た範囲はカンファレンス
全体のごく一端に過ぎないが、国内の学術大会では得難い量の情報に接することが
でき、大変良い刺激となった。可能であれば今後とも継続的に参加していきたい。

 2015年のDHカンファレンスは、オーストラリアの西シドニー大学にて開催される。
すでに同大会の公式Webサイトが立ち上げられている[5]。例年、発表申し込みの
概要締切りは10月末頃になるとのことである。

[1] http://dharchive.org/sessions.php?c=DH2014
[2] http://dharchive.org/paper/DH2014/Panel-671.xml
[3] http://en.sourceforge.jp/projects/smart-gs/
[4] http://www.hathitrust.org/
[5] http://dh2015.org/

Copyright(C)HASHIMOTO, Yuta 2014- All Rights Reserved.
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
◇イベントレポート(2)
第103回 人文科学とコンピュータ研究会発表会
http://www.jinmoncom.jp/
 (永崎研宣:人文情報学研究所)

 2014年08月02日(土)、兵庫県立歴史博物館にて、第103回 人文科学とコンピュ
ータ研究会発表会が開催された。本メールマガジンではお馴染みの定例研究会だが、
今回は当博物館を中心に活躍する妖怪研究者の方々をお招きした「妖怪特集セッシ
ョン」を核としての開催であった。前半の一般セッションは、以下の通りつつがな
く開催された。個々の発表要旨については上記Webサイトに掲載されているので参照
されたい。筆者の個人的な印象としては、様々な方法論に基づく研究や事例が報告
されるなかで、かみ合う議論だけでなくかみ合わない議論も散見されたが、この研
究会の学際性を考慮するなら、むしろ、議論のかみ合わなさにこそ、常に学ぶべき
点があるのかもしれないと思わされるところであった。また、先行事例・類似事例
についての情報提供が様々に行なわれていたところは、学際的研究会の醍醐味であ
ったと言えるだろう。

- - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.情報検索時代の事例研究(その3)
 藤野清次(九州大学)、久野孝子(栄屋プロジェクト)

2.「地球環境学リポジトリ」-セマンティック技術による研究資源の異分野連携
 関野樹(総合地球環境学研究所)、原正一郎(京都大学地域研究統合情報センタ
 ー)、近藤康久(総合地球環境学研究所)、窪田順平(総合地球環境学研究所)
 秋道智彌(総合地球環境学研究所)

3.砂岩製石造遺物における銘文の風化傾向と銘文の取得方法について
 上椙英之(神戸学院大学)、上椙真之(宇宙航空研究開発機構)

4.原資料の分析に基づく図書館情報学アーカイブズの構築
 田中僚(筑波大学)、芦川大樹(筑波大学)、松村敦(筑波大学)、宇陀則彦(
 筑波大学)

5.人文科学データベースからの人名一覧表示システムの構築
 清野陽一(人間文化研究機構本部)、山田太造(東京大学史料編纂所)、高田智
 和(国立国語研究所)、古瀬蔵(国文学研究資料館/総合研究大学院大学)

6.古漢字データベースの要件に関する試論
 守岡知彦(京都大学人文科学研究所)
- - - - - - - - - - - - - - - - - -

 昼休みを挟んで、午後からは妖怪に関する特集セッションであった。まず一般応
募による発表が2件行なわれた後、招待セッションとなった。一般応募の発表ではAR
(拡張現実)の技術を用いたシステムの報告と、原資料を基礎としつつ一般市民に
も活用可能な地域の伝説・伝承データベース作成の試みについての報告が行なわれ
た。その後、招待セッションとして、民俗学・歴史学の立場からの妖怪研究の紹介
が行なわれ、妖怪を含む怪異現象についての日本人のとらえ方の変化についての統
計結果の報告が行なわれ、さらに、国際日本文化研究センターで公開されている妖
怪データベースの報告とそれを活用した研究についての報告が行なわれた。妖怪と
いう実在証明が困難なものについての様々な捉えられ方が提示された後に、それを
データベース化することで得られるメリットとデメリットについての報告と議論が
行なわれたということで、妖怪に関わるデジタル化研究にあたっての様々な観点を
網羅的に検討できる興味深い機会となったように思われる。土着の物語の中での妖
怪と印刷物の中で正規化されていく妖怪の在り方との差異がデータベースの効率的
な構築と利用という現場においていかにして扱われるべきかという問題は、人文学
一般にとっての課題が人文情報学における具体的なテーマとして現れてきたものと
みるべきだろう。今回の特集セッションはここに閉じて終わってしまっては少しも
ったいないように思われるものであった。今後の展開があればと、筆者としては期
待している。

【特集セッション:妖怪研究の最前線と情報技術】
7.妖怪を追いかけて-日本の文化を探る旅システム-
 堀野あゆみ(筑波大学)、時井真紀(筑波大学)

8.地域の伝説・伝承データベース作成と活用の可能性~尼崎を事例に~
 大江篤(園田学園女子大学)、久禮旦雄(日本学術振興会特別研究員)、久留島元
 (園田学園女子大学地域連携推進機構)

9.妖怪をめぐる誤解・誤解が生み出す妖怪
 香川雅信(兵庫県立歴史博物館)

10.情報・知識として見る日本近世の「妖怪」
 木場貴俊(関西学院大学博物館)

11.日本人は妖怪をどう捉えているか-「合理・非合理」との関連-
 林文(統計数理研究所)、吉野諒三(統計数理研究所)

12.「怪異・妖怪伝承データベース」による妖怪研究の展開
 松村薫子(国際日本文化研究センター)

13.妖怪から読み解く身体観
 安井眞奈美(天理大学)

14.パネルディスカッション「妖怪研究の最前線と情報技術」
香川雅信、木場貴俊、林文、松村薫子、安井眞奈美

Copyright(C)NAGASAKI, Kiyonori 2014- All Rights Reserved.
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
◇イベントレポート(3)
「漢デジ2014:デジタル翻刻の未来」
http://www.let.hokudai.ac.jp/event/2014/07/7404
 (岡田一祐:北海道大学大学院 博士後期課程)

 2014年8月5日、北海道大学にて、公開シンポジウム「漢デジ2014: デジタル翻刻
の未来」が行われた。20名ほどの参加者を得て、大雨と空調の利きぐあいに悩まさ
れながらも、朝から夕方まで、急遽設定された1件の講演もふくめ、計5件の講演と
質疑が行われるという充実したものとなった。末尾にプログラムを附すので参照さ
れたい。閉会時、司会の永崎研宣氏より開催の趣旨が説明された。筆者の理解なり
にまとめると、人文系研究者がどのようにデータベースを作っているのかを知り、
また情報学の立場から--とくにそれを公有のものとしようとするときに--どの
ように係われるかを模索することにあったようである。

 最初の講演では、池田証壽氏が自身の構築する「平安時代漢字字書総合データベ
ース」の現況について報告した。「平安時代漢字字書総合データベース」は、平安
時代に日本で作成された漢字字書のデータベース化、およびそのおおきく依拠する
中国の先行字書のデータベース化を目指すもので、Unicodeやリレーショナルデー
タベース(RDB)を利用して相互参照を可能としている。報告では、データベース
化の対象の字書や進捗状況、各データベースの構成と相互連携について紹介がされ
た。質疑では、公開の際はリンクト・オープン・データ(LOD)形式が適すのではな
いかということ、相互参照を可能とするための同字の認定や記述のありかた、また
その検討過程について記録を残しておくべきではないかということ、また、主要資
料の略称の共有を公的に検討すべきではないかということなどが議論された。

 第二講演では、鈴木慎吾氏が『切韻』の残存諸本から陸本をどのように復元でき
るか、その資料整理の現況に関する報告があった。『切韻』は、陸法言によって隋
代に編まれた韻書であり、中国語史研究にとって重要な資料であるが、陸氏本は散
逸し、後世の増補本もほとんど散逸して、ただ『広韻』一種を残すのみであった。
しかしながら、20世紀になって敦煌・トルファン文献や中央から『切韻』残巻が大
量に見いだされたことで、『切韻』の陸氏本の復元の可能性が出てきた。しかし、
既存の研究は系統関係の究明が不十分で、本文批判に基づいた陸氏本の復元が必要
である。そのために、小韻ごとの収録字をひとつずつ検討し、増補の関係を明らか
にするというものである。その結果、王仁★(日に句)本系とそれ以外の諸本の比
較によれば、まず確実に陸氏本が復元できるということが明らかにされた。また、
諸本の字体の扱い方から諸本の書写態度まで見えてくるということ、そして、氏の
整理している逸文データベースに関して簡単な紹介が行われた。質疑では、データ
ベースで利用する先行研究や資料に関する権利問題や、TEIを使ってみてはどうかと
いった問題が議論された。

 午前中の講演を受け、午後、急遽LODについての解説の時間が設けられ、大向一輝
氏が講演した。LODの概要の説明ののち、大向氏の過去の実践例が紹介され、LODに
は異なるデータベース上のデータを繋いで、あらたな利用価値を生み出す可能性が
あることが示された。質疑では、人文系の研究でデータ整理によく用いられるエク
セルデータからのLODへの変換について質問があり、そのようなデータはLODにする
には簡潔にすぎることが多く、情報を補う必要があることが多いとの返答があった。
さらに、京都大学の守岡知彦氏より補足として、文字データベースにおいてLODを用
いた例としてCHISEが紹介され、さらなるLODの効用として、一意のID(URI)が附
与されることにより、階層的な記述が可能となるということが説明された。

 その後、予定された講演に移り、永崎氏と王一凡氏から慧琳撰『一切経音義』の
UCS符号化(Unicodeと互換)について報告がされた。まず、『大正新脩大蔵経テキ
ストデータベース』(SAT)の外字問題が説明された。SAT外字には問題もあるが、
仏教学における『大正新脩大蔵経』(大正蔵)の位置を考えると、そのまま符号化
するのが望ましいというSATの立場が説明された。そこで、大半の外字は検討のうえ
でUCSへの登録を申請したが、『一切経音義』および希麟撰『続一切経音義』の外字
についてはあまりに量が多く見送られた。さらに大正蔵、とくに『一切経音義』の
本文上の問題が説明されたのち、王氏から『一切経音義』の外字の問題が説明され
た。SAT外字のなかでとくに問題がある字について、大正蔵の祖本を参照しつつ、そ
の程度などからUCSに存在する字に包摂するもの・UCSへ登録申請するもの・IVSとし
て登録申請するものの3種に分ける方針が具体例に即して説明された。質疑では、
SATにおけるIVS登録の方針とUCSでの包摂規準の問題などが議論された。

 最後に高田智和氏から国立国語研究所の提供しているアメリカ議会図書館本源氏
物語の翻字と画像のデジタル公開について報告があった。これはアメリカ議会図書
館が2008年に購入した源氏物語写本で、全巻を揃え、室町後期との鑑定の折紙をそ
なえる。その書誌的な特徴や折紙と実際の書写年代の問題、本文系統がくわしく説
明されたのち、翻字の公開と、3巻についての画像の公開方法について説明された。
画像を公開するにあたっては、翻字を併記して、あるいは翻字を画像に重ねて見る
ことが可能とされた。それによって、このような仮名写本に慣れていない人に対す
る教材ともなるよう意図しているとのことである。議会図書館では、著作権の失効
したものについて積極的に公開する姿勢であり、今回もむしろ勧奨を受けたという。
質疑では折紙の問題や、本文系統の問題、画像や本文の公開に関する一般的な問題
が議論された。

 閉会に先だち全体討議が持たれた。池田氏から、資料を共有していくうえで共通
の名前や略称を確定していくことも重要ではないかなどとの提起があり、それにつ
いてくわしい議論がなされて閉会となった。

 最後に、稿者の感想を述べて終えたい。研究者はデータは作っても、かならずし
もデータ公開・共有にくわしくない、あるいはそもそも意図していないことがある。
今回のシンポジウムでも、公開・共有を前提としたデータの処理やデータベースの
設計、公開・共有の様態などについて、あらためて問題となったのではなかろうか。
データ作成者は、個々の資料の特質に目が行きがちだし、公開・共有を主張するも
のは共通するものを重視するので、そもそも見ているものが異なるのかもしれない。
しかし、稿者としては、両者の折り合ったところに学術の未来があるのもたしから
しく思えるので、有限の資源をうまく使いつつ両立を目指していきたいと、いささ
か夢のようなことを考えるのである。

プログラム(タイトルは発表時のものによる)
講演1 池田証壽(北海道大学)
 平安時代漢字字書総合データベース-現状と課題2014夏-

講演2 鈴木慎吾(大阪大学)
 『切韻』諸本による陸本の復元について

講演3 大向一輝(国立情報学研究所)
 セマンティックウェブとLinked Open Data

講演4 王一凡(東京大学)、永崎研宣(人文情報学研究所)、下田正弘(東京大学)
 UCS符号化という観点からの『慧琳撰一切経音義』の検討

講演5 高田智和(国立国語研究所)
 米国議会図書館本源氏物語の翻字と画像公開について

Copyright(C)OKADA, Kazuhiro 2014- All Rights Reserved.
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
◇イベントレポート(4)
「国際仏教学会学術大会IABS2014:デジタル仏教学関連セッション」
https://iabs2014.univie.ac.at/
 (永崎研宣:人文情報学研究所)

 2014年8月18~23日、ウィーン大学にて、3年に一度の国際仏教学会学術大会が開
催された。前回、台湾にて開催された学術大会では、デジタル仏教学(仏教学にお
けるデジタル化に関わる研究活動をここでは仮にこう呼ぶことにする)セッション
が丸一日開催された上にポスターセッションまで開催されるなど、デジタル仏教学
の隆盛が遺憾なく発揮されていた。これに比べると今回はやや小規模となり、通常
セッションでは1セッション、3つの発表が行なわれたに過ぎなかった。しかし一方
で、プロジェクト・プレゼンテーションという場が設けられ、ここで、いくつかの
進行中のデジタル仏教学プロジェクトに関する発表が行なわれた。まずは、これら
について、簡単に報告したい。

 デジタル仏教学に関するプロジェクト・プレゼンテーションは、主に19日に開催
された。ハンブルク大学・東京大学等の大規模レクシコン構築のコラボレーション
であるITLRプロジェクト、ハイデルベルク大学・ウィーン大学等によるサンスクリ
ットテクストアーカイブ構築プロジェクトSARIT、オックスフォード大学によるテク
ストリポジトリ構築プロジェクトS'a_stravidによる報告がそれぞれ行なわれた。

 ITLRは筆者がシステム開発者として関わっているものであり、やや手前味噌な話
になってしまうが、ハンブルク大学のDorji Wangchuk教授が立ち上げた、インド・
チベットにおける仏教用語のレクシコンをWebコラボレーションにより構築するプロ
ジェクトである。すでに数年間開発を続けてきており、誰もが比較的容易に構築に
参加できるグラフ型データベースとして、着々とデータの構築も行なわれてきてい
る。今回のプレゼンテーションでは、オープンエンド、プロジェクト間連携といっ
たレクシコンのコンセプトが報告され、さらに、Webコラボレーションシステムや、
D3.js等も活用してそれを効果的に閲覧できるWeb Viewerが紹介された。

 SARITは、現在ウィーン大学に所属するDominik Wujastyk博士らが始めたサンスク
リット電子テクストアーカイブに起源を持つものであり、現在はハイデルベルク大
学のBirgit Kellner教授が中心となって構築・開発を続けている。すでにBirgit
Kellner教授は、TEI(Text Encoding Initiative)ガイドラインに準拠して極めて
深くマークアップを行なった電子テクストを多く有しており、今回のプレゼンテー
ションではそれを効果的に検索するためのWebインターフェイスの報告が主であった
ようだ。N-gramとLuceneによる検索、検索結果におけるTEIエレメントに基づいたテ
クストの説明など、深いTEIマークアップがいかにして高度に活用可能かということ
を端的に示してくれたプレゼンテーションであったように思われる。

 このセッションの最後、S'a_stravidは、オックスフォード大学のJan Westerhoff
博士によるインド仏教デジタルテクストのためのリポジトリシステムの報告であっ
た。このシステムは、やはりWebコラボレーションを念頭に置いたもので、「プロジ
ェクト」単位でテクスト群を管理し、テクスト中の概念関係などを提示する機能を
も有していた。ただ、テクスト中の概念関係の提示というのが、自動的に行なわれ
るわけではないようであったところがやや気になった。これについては近々確認す
る機会があるので、その折りにまた報告したい。

 これらの後に、ワークショップとしてTibetan Buddhist Resource Center(TBRC)
によるデジタル化チベット仏典の扱い方等についてのワークショップも開催された。
TBRCはチベット語の木版大蔵経の多くをデジタル化しつつ、それらの書誌情報や関
連情報のオントロジーを構築しているなど、この方面のデジタル化を主導するセン
ターである。

 さて、次に、23日に開催されたデジタル仏教学セッション「Information
Technologies in Buddhist Studies」についても報告したい。ここでは、オースト
リア科学アカデミーのSakya Research Centreプロジェクト、ミュンヘン大学・シド
ニー大学等により共同で展開されているGandhariプロジェクト、筆者が技術担当を
しているSATプロジェクトからの発表が行なわれた。

 Sakya Research Centreは、Mathias Fermer氏によるチベットの歴史研究のための
Webデータベースである。Web技術の研究をするGro:ssing, Benjamin氏との共同プロ
ジェクトであり、Fermer氏が人名・地名・年号等についてTEIによるマークアップを
行なう。人名、地名、年号はそれぞれ、テクストはいじらずにマークアップによっ
て正規化を行ない、それをBenjamin氏がリレーショナル・データベースに静的に置
換して、Web上で効果的に閲覧できるようにするという流れになっているとのことで
ある。会場からは、正規化の際にTBRC等の既存のオーソリティデータとリンクする
と良いのではというコメントが出ていたが、筆者も同様の感想を持った。

 次に、Gandha_ran Research Systemについての報告が行なわれた。このシステム
は、ミュンヘン大学においてStefan BaumsとAndrew Glassによって進められてきた
Gāndhārī語の写本や碑文のデジタル化プロジェクトのための次世代プラットフォー
ムである。発表者であるIan McCrabbは、IT企業の創業者でありながら大学院博士課
程に入って仏教学研究に取り組んでいるということであった。発表では主に、シス
テムの構築にあたっての技術・ワークフロー・資料といった様々な観点から分析さ
れたモデルが提示され、その結果としてどのようなシステムが構築されたかという
一般的な内容が語られた。それ自体はそれほどのインパクトではなかったように思
われるが、その後、数分ではあったが実際のシステムのデモンストレーションが行
なわれ、これにはかなりのインパクトがあった。行がどうなっているかさえ読み取
りにくい石に刻まれた碑文のテクストが、様々な粒度でまとめられ、それぞれの粒
度で画像上の各文字につけられた枠とリンクして表示される様と、これがマルチユ
ーザシステムとして稼働するという話には、少なからぬ感動を覚えたところであっ
た。

 最後に、筆者が発表を行なった。手前味噌で恐縮だが簡単に紹介させていただく
と、筆者が技術担当者として取り組んでいるSAT大蔵経テキストデータベース研究会
の活動の紹介と、それを通じた、デジタル仏教学の将来的な可能性についての検討
を行なった。SAT2012として公開されたシステムにおける、英語関連の各種検索機能、
他のWebリソースとの連携機能等について報告を行い、近年の活動としては、
Unicodeへの漢字や悉曇文字異体字の提案や、ITLRプロジェクト、仏教伝道教会との
連携、テクスト本文の校正等について報告した。将来の可能性に関しては、まず、
技術の進歩を適切に分析しつつついていくことが大切であること、しかし、仏教テ
クスト研究の方法論の分析を進めないままデジタル化に取り組むと技術の進歩に飲
み込まれるだけになるので、方法論の分析が重要であること、個々のプロジェクト
の独立性を尊重しながらのデジタル仏教学プロジェクト間の連携も重要だが、それ
だけでなく、仏教学の文脈の外で蓄積されつつある膨大なデジタル化資料と連携す
ることも重要である、といったことについて指摘した。

 IABS2014での発表のうち、タイトルからも明らかにデジタル仏教学に関連するこ
とがわかるようなものは以上である。これら以外にも、発表の内容としてデジタル
仏教学に関わることを含むものはあったかもしれないが。直接聴講する機会に恵ま
れなかったため、本稿はここまでとする。

Copyright(C)NAGASAKI, Kiyonori 2014- All Rights Reserved.
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 配信の解除・送信先の変更は、
    http://www.mag2.com/m/0001316391.html
                        からどうぞ。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆編集後記(編集室:ふじたまさえ)
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 第37号はいかがでしたか?今号もたくさんのご寄稿をいただきありがとうござい
ました。今回のキーワードとしては、やはり「DH2014」、「SMART-GS」に関する話
題が盛り上がっていたようです。もちろん、巻頭言の「ちくわぶ」な先生の想いも、
普段エンジニアに囲まれて仕事をしている私自身には、かなり身近な感覚として共
感しました。

 さて、今回のニュースの中では、特に8月4日の小説の世界をマッピングする、と
いうものに興味を惹かれました。この他、イベントレポートも盛りだくさんでした。
前回の編集後記にて予告したDH2014のレポートは次号にも掲載する予定です。お楽
しみに。

◆人文情報学月報編集室では、国内外を問わず各分野からの情報提供をお待ちして
います。
情報提供は人文情報学編集グループまで...
       DigitalHumanitiesMonthly[&]googlegroups.com
                  [&]を@に置き換えてください。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
人文情報学月報 [DHM037]【後編】 2014年08月26日(月刊)
【発行者】"人文情報学月報"編集室
【編集者】人文情報学研究所&ACADEMIC RESOURCE GUIDE(ARG)
【E-mail】DigitalHumanitiesMonthly[&]googlegroups.com
                 [&]を@に置き換えてください。
【サイト】 http://www.dhii.jp/

Copyright (C) "人文情報学月報" 編集室 2011- All Rights Reserved.
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

Tweet: