ISSN 2189-1621

 

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DHM 014

[DHM014]人文情報学月報

2011-08-27創刊

人文情報学月報
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄Digital Humanities Monthly

                 2012-9-26発行 No.014   第14号

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 ◇ 目次 ◇
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◇「人文情報学を教える苦しみ・楽しみ」
 (師茂樹:花園大学)

◇人文情報学イベントカレンダー

◇イベントレポート(1)
「日本行動計量学会 第40回大会」
 (小野原彩香:同志社大学大学院文化情報学研究科博士後期課程)

◇イベントレポート(2)
「Girls and Digital Culture: Transnational Reflections on Girlhood 2012」
 (北村紗衣:ロンドン大学英文学科博士課程)

◇イベントレポートの予告:JADH2012国際会議

◇編集後記

◇奥付

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
【人文情報学/Digital Humanitiesに関する様々な話題をお届けします。】
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◇「人文情報学を教える苦しみ・楽しみ」
(師茂樹:花園大学)

1.マッチポンプに勤しむ日々
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 どんな学問領域であれ、研究と並んで教育活動が不可欠だというのは、異論のな
いところだと思う。昨今は経済界からの要求で、即戦力になる「グローバル人材」
なるものを大学で養成せよ、という外部からの要求の声が強くなって来ているが、
大学の内部の要求、つまり研究の発展という目的のためにも、教育は必要不可欠で
ある。

 研究成果を論文として発表しても、それを読んでくれる人、引用してくれる人(
肯定的であれ批判的であれ)がいなければ、価値が生まれない。そのためには、問
題意識を共有し、方法論を理解し、ある程度の専門知識を持った読者が必要である。
読者は、同時代人とは限らない。場合によっては、100年後に読者が現れて、その
論文の価値を発見してくれる、という場合もあるかもしれない(100年は人文科学
にとってそれほど長い時間ではないではないが、デジタルアーカイブにとっては想
像を超える時間かもしれない)。読者を作るためには、一般向けの啓蒙書、入門書
で、幅広い関心を集めることも有効であるが、先人の研究を引用し、新しい論文を
再生産する研究者の養成は、大学などの教育機関における継続した教育活動が不可
欠であろう(肯定的な引用は縮小再生産になる可能性があるので、批判的に引用さ
れる方がいいのかもしれない)。論文は引用されることによって新たな価値と読者
を獲得する。別の言い方をすれば、大学教員がやっていることとは、一方では論文
を書き、一方ではその読者を作るという、自作自演、マッチポンプそのものだと言
えるかもしれない。

2.何を教えてますか?
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 さて、コンピュータを使った人文科学研究もしくは人文科学に対する情報技術等
の応用について研究する分野(最近では人文情報学やデジタルヒューマニティーズ
など、いろいろな呼称があるが、ここでは一括して人文情報学とよぶことにする)
でも上の状況は変わらない。分野として歴史が浅く、研究者の絶対数も他の分野と
比べて(数えたことがないので予想になるが、多分)少ないであろう人文情報学に
とっては、読者の再生産というのはより深刻な課題と言えるかもしれない。

 筆者もいくつかの大学でこの分野の授業を持っている。ゼミナール形式の専門的
な授業もあるが、「人文学とコンピュータ」のような、文学部の普通の(≒人文情
報学専攻ではない)学生向けの概論的な授業もいくつか持っている。後者の授業で
毎年悩むのは「何を教えたらよいのだろう?」ということである。人文情報学の「
概説」となるべき内容とは何なのか。何を教えたら、だいたい概要を教えたことに
なるのか。もしこのコラムを読んで、同様の悩みを抱えている方がいらっしゃるな
ら、ぜひとも情報交換をしたいものである。

 ちなみに、花園大学で開催した人文系データベース協議会第16回公開シンポジウ
ム「人文科学とデータベース」で機会した特別セッション「人文科学とデータベー
スの教育に関わる現状と課題」ラウンドテーブルは、花園大学(文化遺産学科・情
報歴史学コース)・同志社大学(文化情報学部)・大谷大学(人文情報学科)・立
命館大学(文学部・デジタル人文学コース)での教育について情報交換や議論を行
う、というものだった。また『漢字文献情報処理研究』第13号(2012年)でも、同
じ問題意識に基づくアンケート調査の結果が掲載されているので、興味のある方は
参照されたい。

 とりあえず筆者の最近のやり方では、『A Companion to Digital Humanities.』
(Blackwell, 2004.)の目次を眺めるところから出発して、受講生の関心のありそ
うな分野に流れていく、という手法をとっている。海外の Digital Humanities と、
日本の人文情報学その他とは重なるところと重ならないところがあるので、本来で
あれば日本の人文情報学全般を見渡せるような本が欲しいのであるが、残念ながら
そういうものはないので(その意味では、内容的にちょっと古いとはいえ、『講座
人文科学研究のための情報処理』が入手困難なのは残念である)、しかたなく英語
の本を使っているという状況である。

 もっとも、人文情報学の領域が曖昧である、というのは、日本だけでなく海外で
も同じような状況のようで、ここ数年毎年開催されている「A Day in the Life of
the Digital Humanities」というイベントで、「How Do You Define DH?」という恒
例の問いかけが行われるのは、その現れであろう。

 筆者の場合、たとえば昨年度であれば、上記のようにざっと目次を眺めて(海外
の)人文情報学の範囲をとらえたあと、東日本大震災の記憶が生々しく残っていた
こともあって、震災の写真のアーカイブなどの話から、メタデータの問題などにつ
ないでいった。なにぶん、人文科学という大雑把なくくりのなか、加えて人文情報
学というジャンルの境界があいまいということもあり、こんなやりかたでいいのだ
ろうか、と思いながら「概説」を試みている。

3.問題意識を芽生えさせるために
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 こういった領域の曖昧さという点以外にも、教育という面で筆者個人が関心を持っ
ているのが、上に述べたような問題意識を学生にどう持たせるか、ということであ
る。ある研究書のなかで「“概説”とはもっとも非学問的な態度だ」というのを読
んだことがある。これは、概説という行為に必然的に孕む批判精神の欠如、という
ことではないかと思う。極端な例になるが「そもそも人文情報学なんてものが必要
なのか?」という根本的な批判は、概説という活動のなかでは生じにくい。

 ふりかえってみると、人文情報学という営みのある面は、ある意味「そんなこと
をやって人文科学の役に立つのか」、もっと雑な言い方をすれば「コンピュータみ
たいな機械を使って文献が読めるようになるのか」という批判的なまなざしを意識
し続けてきた歴史だったのではないか、という印象がある(筆者も実際にそういう
ことを言われたことが何度もある)。そこには常に、自身の立ち位置の危うさに対
する不安があるが、ただそれは、学問としての人文情報学にとってはむしろ財産で
はないかとさえ思えてくる。

 「人文情報学なんてものは必要ない(かもしれない)」というニュアンスを概説
の授業で言うのは、学生を混乱させるだけである。やはり入門的な科目では、ある
程度教条的に教えた方がよいのだろうと思う。しかし、そういった(自己)批判的
な視線が人文情報学にはあるんだよ、ということを、学生に何とか伝えられないか、
と試行錯誤をすることは存外楽しい。学生にも、そういう混乱を楽しむ知性がある
のだ、と信じながら。

執筆者プロフィール
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師茂樹(もろ・しげき) 花園大学文学部准教授。漢字文献情報処理研究会代表、
情報処理学会(人文科学とコンピュータ研究運営委員会)運営委員。文字情報処理、
漢字文献の文体や音韻の分析にコンピュータを応用する研究など。漢字文献情報処
理研究会では、大学での教育や、電子書籍、資料のデジタル化における法律問題な
どにも積極的に取り組んでいる。

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◇人文情報学イベントカレンダー(■:新規イベント)

【2012年9月】
□2012-09-29(Sat):
計量国語学会 第56回大会
(於・愛知県/名古屋大学東山キャンパス)
http://www.math-ling.org/

□2012-09-29(Sat)~2012-09-30(Sun):
英語コーパス学会 第38回大会
(於・大阪府/大阪大学豊中キャンパス)
http://english.chs.nihon-u.ac.jp/jaecs/

【2012年10月】
□2012-10-06(Sat):
三田図書館・情報学会 2012年度研究大会
(於・東京都/慶應義塾大学 三田キャンパス)
http://www.mslis.jp/annual.html

□2012-10-12(Fri):
情報処理学会 第96回 人文科学とコンピュータ研究会発表会
(於・東京都/国文学研究資料館)
http://jinmoncom.jp/

□2012-10-13(Sat)~2012-10-14(Sun):
地理情報システム学会 第21回研究発表大会
(於・広島県/広島修道大学)
http://www.gisa-japan.org/conferences/

□2012-10-25(Thu)~2012-10-26(Fri):
The 5th Rizal Library International Conference:
"Libraries, Archives and Museums: Common Challenges, Unique Approaches."
(於・フィリピン/Quezon)
http://rizal.lib.admu.edu.ph/2012conf/

【2012年11月】
□2012-11-01(Thu)~2012-11-04(Sun):
37th Annual Meeting of the Social Science History Association
(於・カナダ/Vancouer)
http://www.ssha.org/annual-conference

□2012-11-02(Fri)~2012-11-04(Sun):
MediaAsia 2012/Third Annual Asian Conference on Media and
Mass Communication 2012
(於・大阪府/ラマダホテル大阪)
http://mediasia.iafor.org/

□2012-11-05(Mon)~2012-11-10(Sat):
2012 Annual Conference and Members’Meeting of the TEI Consortium
(於・米国/Texus)
http://idhmc.tamu.edu/teiconference/

□2012-11-17(Sat)~2012-11-18(Sun):
情報処理学会 人文科学とコンピュータシンポジウム「じんもんこん2012」
(於・北海道/北海道大学)
http://jinmoncom.jp/sympo2012/

□2012-11-17(Sat)~2012-11-18(Sun):
第60回 日本図書館情報学会研究大会
(於・福岡県/九州大学箱崎キャンパス)
http://www.jslis.jp/

□2012-11-17(Sat)~2012-11-19(Mon):
2012 Chicago Colloquium on Digital Humanities and Computer Science
(於・米国/Chicago)
http://chicagocolloquium.org/

□2012-11-20(Tue)~2012-11-22(Thu):
第14回 図書館総合展
(於・神奈川県/パシフィコ横浜)
http://2012.libraryfair.jp/

■2012-12-22(Sat):
人文系データベース協議会 第18回 公開シンポジウム
(於・大阪府/大阪電気通信大学寝屋川キャンパス)
http://www.osakac.ac.jp/jinbun-db/5.html

Digital Humanities Events カレンダー共同編集人
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小林雄一郎(大阪大学大学院言語文化研究科/日本学術振興会特別研究員)
瀬戸寿一(立命館大学文学研究科・GCOE日本文化デジタルヒューマニティーズ拠点RA)
佐藤 翔(筑波大学図書館情報メディア研究科)
永崎研宣(一般財団法人人文情報学研究所)

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◇イベントレポート(1)
「日本行動計量学会 第40回大会」
http://www.unii.ac.jp/bsj2012/
(小野原彩香:同志社大学大学院文化情報学研究科博士後期課程)

 2012年9月13日から16日、日本行動計量学会第40回大会が新潟県立大学にて行われ、
筆者も一発表者として大会に参加した。今大会は、1件のチュートリアル・セミナー、
2件の特別企画シンポジウム、21テーマの特別セッション、63件の一般セッションと、
たいへん大きな規模の大会となった。本レポートでは、本大会に参加して感じたこ
とと行動計量学について考えたことを書き留めてみたい。

 そもそも、行動計量学とは何か?ということについて簡単に触れておく。『行動
計量学序説』(林知己夫, 1993)によれば、行動計量学とは、人間の行動(個人、
グループ、組織、社会、国、民族などさまざまなレベルがある)や動物の行動を計
量的な方法をもって――つまりどのようにデータをとり、どのように分析するかを
考えることを意味する――研究し、明らかにすることを志向する学問である。そし
て、データの獲得と分析とを通して、諸現象を解明し、有用な情報を取り出すこと
を標榜する。行動計量学は、実験・調査・観察・整理のような操作的概念に基づく
ものであり、具体的な結果はもちろん、それを生み出すまでの方法的成果ならびに
それに関与する一切のもの(考え方、方法論、諸行為を含む)すなわち全過程を含
む。このように定義される行動計量学であるが、1969年の第1回行動計量学シンポジ
ウムが母体となり、1973年に日本行動計量学会が設立された。なお、行動計量学会
の理念については、 http://www.bsj.gr.jp/about/introduction.html を参照され
たい。

 筆者が所属する同志社大学文化情報学部および文化情報学研究科も行動計量学の
理念に基づき設置された教育・研究機関である。本機関では、統計学並びに行動計
量に関係する諸分野を学ぶための教育プログラムが実施されている。本大会でも、
特別セッション「新指導要領を踏まえた大学における統計教育の動き」中の「文理
融合系学部におけるデータサイエンス教育の試み-ゆとり世代から新指導要領へ-
」(大田 靖、大森 崇、宿久 洋(いずれも同志社大学文化情報部))として、教育
プログラムの特質をアピールする報告が行われた。

 また、行動計量学というフィルターを通して本大会を眺めてみると、実に行動計
量学の理念をきちんと反映した構成になっていることが分かる。特別セッションで
扱われたテーマは、大きく社会調査、教育関係、政治、経済、医療、環境、言語、
数学・統計である。実際のデータ獲得に関わる分野からデータをどのように扱うか
を議論する分野まで網羅的なセッション構成であることが見て取れる。

 数学・統計セッションでは、理論的な議論がなされる一方で、実際のデータを用
いてその方法論の検討が行われる、といった形で、どちらか一方に偏ること無く、
データを中心とした議論が繰り広げられた。

 また、言語のセッション(方言調査に関するもの)においては、データの分析と
いう着地点を見据えたデータ収集のあり方についても議論が行われた。データの収
集後にまで目を向けることによって、データに収集のあり方も大きく変わってくる。
データの分析によって何が明らかにできるかということが提示されたことによって、
クローズアップされた議題であった。

 他の特別セッションにおいても、それぞれの分野における近年の動向を踏まえた、
あるいは方向付ける活発な議論が行われた。また、一般セッションにおいても、次
世代を担うような興味深い発表があった。

 今回、一番の醍醐味であったのは、初日に行われたチュートリアル、大阪大学の
清水昌平氏による「構造方程式モデルによる因果推論:因果構造探索に関する最近
の発展」であろう。これは、近年、注目を集め始めている因果推論に関するもので
ある。因果推論とは、観察される相関関係にガイドラインを設け、因果関係を推定
するものである。本チュートリアルでは、その因果推論の中でも構造方程式モデル
からのアプローチにおける近年の動向、非ガウス因果構造探索モデルが詳しく解説
された。このモデルは、脳科学、遺伝子学、行動遺伝学、経済学、心理学などです
でに適用されており、今後さらに多分野への活用が期待される。

 データから何ごとかを語るという行為は、研究の分野に限らず、今や日常生活に
おいても当たり前のこととして浸透して来つつある。こういった時代に、当学会の
役割はますます大きなものとなっていくと感じられる。筆者自身も、データを中心
にした研究を行っている者として、常にそのあり方を意識していきたい。

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◇イベントレポート(2)
「Girls and Digital Culture: Transnational Reflections on Girlhood 2012」
http://gdc.cch.kcl.ac.uk/
(北村紗衣:ロンドン大学英文学科博士課程)

 2012年9月13日から14日にかけて、ロンドン大学キングズカレッジのストランド
キャンパスにて、若い女性とデジタル文化をテーマとする学会‘Girls and
Digital Culture: Transnational Reflections on Girlhood 2012’(「女子とデジ
タル文化:女子であることについての国境を超えた省察2012」)が開かれた。本学
会はキングズカレッジの文化・メディア・創造産業学科(Department for Culture,
Media and Creative Industries)及びデジタル人文学科(Department of Digital
Humanities)の主催で行われたものであり、UKのみならずオーストラリアやイスラ
エルなど世界各国からジェンダーやセクシュアリティと情報技術のかかわりに関心
を寄せる研究者が集った。

 特筆すべき点としては、事前に主催者から #digitalgirls2012 というツイッター
用ハッシュタグが告知され、参加者には学会中にラップトップやスマートフォンな
どで使用できるワイヤレスのパスワードが配布されるなど、デジタル文化をテーマ
とする学会にふさわしくインターネットの使用環境が整えられていたことがある。
こうした学会中のツイッター利用については主に三つの利点があげられるであろう。
まず、発表に関連するウェブサイトのリンクなどをハッシュタグで聴講者の参考の
ためにツイートする参加者がおり、参加者はタグを追うことで、リアルタイムで発
表の補足情報を得ることができる。二つめに、主催側であるキングズカレッジデジ
タル人文学科の教授であるアンドルー・プレスコット(Andrew Prescott)本人が述
べたように、二つのセッションが並行して開催されている場合や途中でセッション
を抜ける必要がある場合でも後でハッシュタグを検索すれば議論の内容をある程度
知ることができる。三つめに、発表者は発表終了後にハッシュタグで検索すれば、
時間に限りのある質疑応答では把握しきれない参加者の感想を知ることができる。
学会終了後にテキサス大学から参加したキム・A・ナイトがツイッター上で報告した
ところによると、本タグで会期中426個のツイート報告があったという(*1)。ツイ
ートの言語は英語の他、ポルトガル語や本報告の筆者が行った日本語もあり、学会
の題目にふさわしいトランスナショナルなものとなった。

 学会においてはSNSなどデジタル文化ときいて容易に思いつくようなものから養子
縁組など即座に主題と結びつくとは思えないような意外性のある話題まで様々なテ
ーマの発表が行われたが、まず特筆すべきなのはリサ・ナカムラ(Lisa Nakamura)
が初日の最初に行った基調講演‘"Trash Talk", Instrumental Racism, and
Gaming Counter-publics’であろう。この基調講演は主に女性コミュニティを取り
上げたものが多い学会中の他の発表とは異なり、男性が多いオンラインゲームコミュ
ニティにおいて一部のユーザが発する露骨な‘Trash Talk’、即ち人種差別発言・
性差別発言・性的指向に基づく差別発言と、それに対する他のユーザたちの反応を
分析したものであった。ナカムラはトラッシュトークをはじめとする様々な慣習を
含んだゲームによって男性ユーザたちが社会関係資本などの「ゲーマー・キャピタ
ル」(gamer capital)を育んでいると論じる一方、女性ユーザがこうした資本を持っ
ていないと見なされがちであり、ゲームの世界において不利な立場に置かれがちな
ことも指摘している。質疑応答においてフリーメイソンの研究者であるプレスコッ
トはこれに関してトラッシュトークが所謂「男性性」と見なされているものを実現
するための一種のイニシエーションになっているのではないかと述べ、オンライン
ゲームとフリーメイソンという全く違う二つの文化に男性結社としての意外な共通
点があることを指摘した。本講演とその関連議論は2012年末にブラックウェルから
公刊される予定の『Kelly Gates ed., Media Studies Futures』に掲載される予定
である。

 男性ユーザ中心のゲームコミュニティと女性ユーザ中心のTumblrなどのオンライ
ンコミュニティの文化的差異はこの講演後の質疑応答でも議論されていたが、二日
目のセッションで行われた発表のいくつかをナカムラの講演と比較すると、女性ユ
ーザ中心のコミュニティにおいてはユーザ同士の絆が比較的重要視され、コミュニ
ティの安心感を減少させるトラッシュトークのような行為がイニシエーションとし
ての価値を持つようなことは非常に稀であるように見える。14日昼のセッション
‘Social Networks and Community’は、とくにこのような女性中心のオンラインコ
ミュニティの文化的特質を明らかにするものであった。ラ・トローブ大学で文化人
類学を専攻している西谷真希子は‘Kinship and Digital Media: Networked Social
World of Girls of Tongan Descent in Melbourne, Australia’と題する発表を行
い、オーストラリアに住むトンガ系移民の若い女性たちがSNSサイト「Bebo」のフレ
ンズ申請において親族紐帯を非常に重視し、家族を大事にしたいという価値観に基
づくコミュニティ形成を行っていることを明らかにした(*2)。同セッションにて
カリフォルニア大学のローレン・E・シャーマン(Lauren E. Sherman)は‘"At
Least There's a Place Like This:" Community, Support, and Empowerment in
Online Message Boards for Pregnant and Parenting Teens’と題する発表で妊娠
・出産した十代の女性たちのオンラインコミュニティを調査し、圧倒的多数が女性
からなるこうしたコミュニティにおいてはネガティヴなポストがほとんど見られず、
妊娠・育児により疎外されたと感じている若い女性たちにとって精神的な支えとなっ
ていることを明らかにした。また、この次のセッションである‘Tween Spaces’に
おいてウォリック大学のイジー・ガタリッジ(Izzy Gutteridge)が行った発表
‘The Ugly Side of Stardoll’も、出会い目的で入り込んでくる男性ユーザがどれ
ほど女性ユーザの嫌悪感を引き起こしているか、そして女性ユーザがこうした安心
感を削ぐユーザにどう対処しているかといった事例を通して、トウィーン(Tween、
Teenより若い十歳前後の子どもたちを指す)向けの人形遊びサイトであるスタード
ールが基本的には少女たちが安心して遊べるコミュニティとして機能する一方、様
々なリスクに対処する方法を学ぶ場でもあることを示すものであった(*3)。

 本学会の醍醐味のひとつは、「女子とデジタル文化」と銘打っているにもかかわ
らず、男性が多数を占めるゲームのコミュニティを基調講演のテーマに据えること
で、デジタル文化において「男性性」というものがどのように意味づけされている
のかということについて考えるヒントを与えてくれたことであろう。目的やユーザ
の民族的背景などにより違いはあるものの、若い女性が圧倒的多数をしめるオンラ
インコミュニティは男性が多数を占めるオンラインコミュニティと非常に異なるコ
ミュニケーションのスタイルを持っている。今後は安易な本質主義に陥ることなく、
何がこうしたコミュニティの性格の差異を生み出しているのか、その文化的背景を
さらに詳細かつ多角的に検討することがより適切で実りのあるデジタル文化とジェ
ンターへの理解につながるであろう。

(*1) https://twitter.com/purplekimchi/status/246708059714490368
(*2) http://www.bebo.com/
(*3) http://www.stardoll.com/

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◆イベントレポートの予告:JADH2012国際会議

 先月号でお知らせしたとおり、9月15日から17日、東京大学本郷キャンパスにて、
JADH2012国際シンポジウムが開催されました。国内外の研究者による様々な発表や
基調講演、TEIの最先端の規格を扱うワークショップ、HathiTrust Reseach Center
の最新の動向に関する報告など、盛りだくさんの内容でした。アブストラクト集は
すでにWebに公開されていますが、( http://www.jadh.org/jadh2012 )開催後のレ
ポートについては、次号にて掲載いたしますのでしばしお待ちください。(編集室)

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 配信の解除・送信先の変更は、
    http://www.mag2.com/m/0001316391.html
                        からどうぞ。

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◆編集後記(編集室:ふじたまさえ)
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 巻頭言にて師茂樹さんが触れている「日本の人文情報学全般を見渡せるような本」
というのは確かにこれといったものが存在しないようですね。日本語のWikipediaを
覗いてみても、「人文情報学」というキーワードでは大学や研究所の名称として検
索されるのみで、「デジタル・ヒューマニティーズ」という項目では、英語の
「Digital Humanities」に相当する内容がまとめられているにとどまっているよう
です。私自身の身近にある図書館業界では、「人文情報学」でも「デジタル・ヒュ
ーマニティーズ」でもなく「デジタル人文学」という言葉も目にすることが多いよ
うです。本メールマガジン「人文情報学月報」の趣旨である「人文情報学の現状を
少しでもつかみやすくする」ということの意味を改めて考えさせられました。ご寄
稿、ありがとうございました。

 人文情報学月報では今後も、さまざまな立場からのご寄稿を掲載していきたいと
思います。

◆人文情報学月報編集室では、国内外を問わず各分野からの情報提供をお待ちして
います。
情報提供は人文情報学編集グループまで...
       DigitalHumanitiesMonthly[&]googlegroups.com
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人文情報学月報 [DHM014] 2012年9月26日(月刊)
【発行者】"人文情報学月報"編集室
【編集者】人文情報学研究所&ACADEMIC RESOURCE GUIDE(ARG)
【E-mail】DigitalHumanitiesMonthly[&]googlegroups.com
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