ISSN 2189-1621

 

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DHM 061 【後編】

2011-08-27創刊                       ISSN 2189-1621

人文情報学月報
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄Digital Humanities Monthly

             2016-08-31発行 No.061 第61号【後編】 642部発行

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 ◇ 目次 ◇
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【前編】
◇《巻頭言》「デジタル・アーカイブズと歴史の諸カテゴリー」
 (宮本隆史:東京大学文書館)

◇《連載》「Digital Japanese Studies寸見」第17回
「デジタルメディアで「古典日本文化」を学ぶ」
 (岡田一祐:東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)

【後編】
◇人文情報学イベントカレンダー

◇イベントレポート(1)「ICOM Milano 2016」参加報告
 (阿児雄之:東京工業大学博物館)

◇イベントレポート(2)
国際研究集会「日本古典籍への挑戦-知の創造に向けて-」
 (古賀崇:天理大学人間学部総合教育研究センター)

◇編集後記

◇奥付

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【人文情報学/Digital Humanitiesに関する様々な話題をお届けします。】
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◇人文情報学イベントカレンダー(□:新規掲載イベント)

【2016年9月】

■2016-09-10(Sat)~2016-09-11(Sun):
Code4Lib JAPAN Conference 2016
(於・大阪府/大阪府立労働センター エル・おおさか)
http://wiki.code4lib.jp/wiki/C4ljp2016

■2016-09-12(Tue)~2016-09-14(Thu):
JADH2016
(於・東京都/東京大学 本郷キャンパス 福武ホール)
http://conf2016.jadh.org/

■2016-09-14(Wed)~2016-09-17(Sat):
2016 EAJRS conference in Bucharest
(於・ルーマニア/"Carol I" Central University Library)
http://eajrs.net/

【2016年10月】

□2016-10-29(Sat):
情報処理学会 人文科学とコンピュータ研究会第112回発表会
(於・京都府/同志社大学 室町キャンパス)
http://www.jinmoncom.jp/

【2016年11月】

□2016-11-03(Thu):
JADS アート・ドキュメンテーション学会 季研究集会
(於・東京都/恵比寿ガーデンプレイス 東京都写真美術館)
http://www.jads.org/news/2016/20161103.html

Digital Humanities Events カレンダー共同編集人
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小林雄一郎(東洋大学社会学部)
瀬戸寿一(東京大学空間情報科学研究センター)
佐藤 翔(同志社大学教育文化学科 助教)
永崎研宣(一般財団法人人文情報学研究所)

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◇イベントレポート(1)
「ICOM Milano 2016」参加報告
http://network.icom.museum/icom-milan-2016
(阿児雄之:東京工業大学博物館)

 2016年7月4~9日の日程で、イタリア・ミラノにおいて「ICOM Milano 2016」が開
催された。ICOM(International Council of Museums)とは、172の国と地域、
35,000人の博物館関係者、20,000の博物館が参加している、博物館・美術館に関す
る国際的代表機関である[1]。本会議は、3年に1度開催されるGeneral Conference
の第24回大会であり、約3,500名が参加した大規模なものであった。報告者にとって、
今回がICOM General Conferenceへの初参加であったため、要領を得ない部分も多々
あったが、会議の様子を本稿にて少しでも伝えることができれば幸いである。

 会期中の大まかなプログラムは次の通りである。詳細についてはICOM Milano
2016のウェブサイトを参照いただきたい[2]。
7/4(月) keynote speech, Committee Session, Opening Ceremony and Party
7/5(火) keynote speech, Committee Session, Special Open Night
7/6(水) Committee Session, Concert in Duomo of Milan
7/7(木) OFF-SITE Meeting
7/8(金) Excursion Day
7/9(土) General Assembly, Closing Ceremony and Party

 ICOMには、30ものInternational Committeeが存在し、それぞれに興味深いテーマ
について議論・研究・実践をおこなっている[3]。本会議においても各committee
が企画開催するセッションがプログラムの核である。ただし、ひとつのcommitteeで
あっても同時に3つのセッションが開催されるなど、いずれもテーマの魅力的かつ多
様性には驚くばかりでありものの、時間帯が重なり参加を諦めざるをえないセッシ
ョンも出てくるという側面もあった。ここでは、私が参加したCIDOCが開催したセッ
ションについて報告する。

 CIDOCは博物館・美術館におけるDocumentationに関するCommitteeである。収蔵品
情報(名称、法量、来歴など)や学芸・研究・教育普及活動などを記述する際の概
念参照モデルのひとつである“CIDOC CRM[4]”は、このCommitteeのワーキンググ
ループで議論され策定されており、version5.0.4は2014年にISO 21127:2014として
国際標準化されている。日本でCIDOC CRMに準拠した形で収蔵品や活動情報を記述・
活用している機関が多くないのは残念であるが、世界各地の博物館・美術館と収蔵
品・活動情報を連携させる上では避けては通れない最も基礎的かつ標準的なモデル
である。

 General Conferenceということもあってか、CIDOCの最初のセッションはCIDOCの
活動全般を紹介するものである。これは初参加の私にとって、CIDOCの全容を知るの
に最適であった。CIDOCの活動趣旨に続き、各ワーキンググループの紹介があった。
ワーキンググループは小規模であるが、それぞれが年に数回会合を開いており、そ
の活動は活発である。CIDOC CRMもこのようなワーキンググループな活動から生まれ
てきた。

 考古学資料の記述方針について検討するセッション(Archaeological Sites
Working Group)へ参加したのであるが、その場はまさに標準モデルを作り上げてい
く場であった。少人数ながらも各地域・館種の特徴をお互いに発表しながら、収蔵
品の記述方針を議論検討していたのである。とりあげられた話題は“人骨資料の保
管”に関する記述である。あるA博物館では、人骨は専用の収蔵スペースを備えて保
管・目録整備しており、法医学者とも情報を共有するものの、その情報アクセスは
制限されている。一方、B博物館ではあくまでも生物の骨として捉え、馬や鹿などの
動物遺骸と同等に扱っている。このような現状を話しながら、その場でセッション
参加者が議論し、具体的に“人骨の保管”に関する記述方針文章を執筆していく。
共通部分と差異を洗い出し、記述方針に関する文言を執筆していくのである。

 参加以前、このような標準モデルや記述標準は一部の専門性を有した研究者が素
案を作り、練り上げていくものだと思っていたが、実際には記述標準を利用する人
々が議論し、文章表現にまで携わっていることを初めて知った。これまで、CIDOC
CRMやその他の国際標準モデルの導入には、日本特有の状況があって、欧米中心に考
えられてきた仕組みを導入できないという声を聞いたことがあったが、その一因は
このような議論の場に参加していないことにあるのかもしれないと痛感した。この
他に参加したセッションも有意義なものばかりであったが、全てを紹介することは
できないので、あと一つだけ興味深い取り組みを紹介したい。

 LIDO(Lightweight Information Describing Objects)[5]は、博物館・美術館
収蔵品のためのXMLベースのハーヴェスティング スキーマである。CIDOC CRMに準拠
しており、美術・建築・人文科学・自然科学・科学技術といった多種多様な収蔵品
情報を収集し、提供することを目的としたポータルサイトでの利用を想定し設計さ
れている。実際の活用事例として、Athena Plus[6]などが挙げられる。日本でも
林正治らが着目し、文献資料と非文献資料を包括的に取り扱う学術資源リポジトリ
構想において、LIDOの表現力と国際的なデータ互換性について評価している[7]。

 本会議において開かれたLIDOに関するセッションは、特定の発表テーマなどを設
けず、LIDOについて興味ある者がそれぞれに話を交わすという形であった。正直、
LIDOに関しては、その名前を知っている程度でしかなかったので不安であったが、
幸い少人数でおこなわれたこともあり、LIDOのコンセプトそのものから説明をうけ
ることができた。CIDOC CRMは広い範囲の情報記述をカバーしているものの、その一
方取り扱いが困難である。特に多数の収蔵品データベースや分野のことなる資料を
一度に取り扱うことを考えると、複雑なメタデータ整理が必要となる。その点、
LIDOは機械ベースでのデータ互換性・交換性を重視しているため、扱い易いとのこ
とである。

 本稿を読まれている方には、文献資料(テキスト情報)とそれに関わる実体資料
や画像データを連動させて調査・研究に携われている方も多いと思われる。これま
で大変だった、各博物館・美術館・その他文化機関が有している資料データベース
を自身で連携させることも、LIDOを介することによって、容易になると期待される。
まだ日本における情報発信は少ないが徐々に増えてくるであろう。

 3日間にわたるセッションが終わり、4日目はオフサイトミーティングの日であっ
た。文字通り、各Committeeの活動に即した機関と連携し、参加者がミラノ市内やジ
ェノヴァ・トリノなど近隣都市へ赴き議論する点は、とても面白い仕掛けであるな
と感じた。大規模な国際会議ではひとつの会議場に閉じこもりがちであるが、各都
市・関連諸機関が一体となることによって、参加者も現地での文化的取り組みを目
の当たりにでき、単なる見学・訪問に比べ、一層深いやりとりがなされる。

 本稿では紹介できなかったが、キーノートスピーチやソーシャルイベントも趣向
を凝らしたものであった。スフォルツェスコ城でのオープニングパーティー、ドゥ
オーモでのコンサートなど、ミラノに点在する文化遺産や美術館などを会場にして
特別な催しが目白押しであった。そして、同時に多くの博物館・美術館がICOM参加
者向けに夜間延長開館をおこなっていた。単なる国際会議における研究交流にとど
まらず、ミラノがもつ文化すべてを体感できる仕組みになっていたのである。そし
て、次回2019年は京都で開催されることが決定している(2019年9月初旬予定)。ミ
ラノで話した人々の多くは、京都に興味をもち、もちろん参加すると話されていた。
ぜひ、みなさんも今すぐスケジュールに入れておいていただきたい。

[1] ICOM http://icom.museum
[2] ICOM Milano 2016 http://network.icom.museum/icom-milan-2016
[3] ICOM International Committee http://network.icom.museum/cidoc
[4] CIDOC CRM http://www.cidoc-crm.org
[5] LIDO http://network.icom.museum/cidoc/arbeitsgruppen/lido
[6] AthenaPlus http://www.athenaplus.eu
[7] 林正治 他「学術資源リポジトリにおけるLightweight Information
 Describing Object(LIDO)の検討」情報知識学会誌, Vol.23, No.2, pp.292-297,
 2013

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◇イベントレポート(2)
国際研究集会「日本古典籍への挑戦-知の創造に向けて-」
http://www.nijl.ac.jp/pages/cijproject/sympo20160729.html
(古賀崇:天理大学人間学部総合教育研究センター)

 2016年7月29日(金)・30日(土)に、人間文化研究機構 国文学研究資料館(国
文研、東京都立川市)において、標記の国際研究集会が開催された。この研究集会
は、国文研が2014年度より10年計画で実施している大規模学術フロンティア促進事
業「日本語の歴史的典籍の国際共同研究ネットワーク構築計画」(通称:歴史的典
籍NW事業 http://www.nijl.ac.jp/pages/cijproject/ )の「第2回 日本語の歴史的
典籍国際研究集会プログラム」として開催されたものである。第1回の国際研究集会
(2015年7月31日・8月1日 http://www.nijl.ac.jp/pages/cijproject/research20150731.html
については本誌『人文情報学月報』での報告はないが、歴史的典籍NW事業について
は、2015年2月の「キックオフ」的国際シンポジウムの報告(永崎研宣氏執筆、本誌
43号に掲載 http://www.dhii.jp/DHM/dhm43-2 )や、松田訓典氏による事業紹介
(本誌54号に掲載 http://www.dhii.jp/DHM/dhm54-1 )など、本誌でも度々取り上
げられている。筆者は国文学・日本文学の専門家ではなく、本報告はあくまで「図
書館情報学・アーカイブズ学をベースに、人文情報学ないしデジタル・ヒューマニ
ティーズに関心をもつ」という立場から、この研究集会の内容を一部のみ抜粋しつ
つ、紹介することとしたい。プログラムの全体については、本報告冒頭に掲げたウ
ェブページをご参照いただきたい。

 第1日目は基調講演と3つの研究報告(オーロラと古典籍・総合書物学の構想・人
情本コーパス)、ならびに「異分野融合共同研究」としての歴史的典籍NW事業の紹
介が行われた。その中で、楊暁捷氏(カルガリー大学教授)は、「デジタル時代と
古典研究 -画像資料のあり方を手がかりに-」と題する基調講演において、楊氏自
身の取り組みや日本の諸機関などの成果を振り返りつつ、「デジタル時代」におけ
る日本の「古典研究」の現状と課題を述べた。楊氏が掲げたポイントは多岐にわた
り、筆者として的確なまとめが難しいが、印象的な点のみ挙げておきたい。ひとつ
は、日本における古典籍デジタル化に関して「確立された三つのモデル」として、
「早稲田大学古典籍総合データベース( http://www.wul.waseda.ac.jp/kotenseki/ )」
「国立国会図書館(NDL)デジタルコレクション( http://dl.ndl.go.jp/ )」「e
国宝(国立文化財機構 http://www.emuseum.jp/ )」を挙げ、それぞれの特色を
「OPACへの反映(早稲田)」「法改正からの出発(NDL)」「拡大画像への対応とア
プリ作成(e国宝)」とまとめた。一方、楊氏自身は「紙でできないことをデジタル
でやる」というモットーのもと、早くから「動画による変体仮名の書き方の再現」
に取り組み、最近も「くずし字(連綿体)の動画表現」のアプローチに立ち返って
いる-日本での取り組みでは顧みられていないこともあって-という。また、「デ
ジタル資料の引用の仕方の提示など、デジタル上の学術研究を進める上でのルール
作りが必要」「知の形成のためには、成果を示すだけでなく、『場(playground)』
を構築することも必要」といった楊氏の提言も、刺激的であった。なお楊氏は、歴
史的典籍NW事業の一環として先行公開されている「国文研古典籍データセット(
http://www.nii.ac.jp/dsc/idr/nijl/nijl.html )」が、オープンデータとして提
供されていることにより、ウェブ上の翻刻やくずし字学習アプリなどの活用例につ
ながっている点で、「『場(playground)』の構築」に寄与している点を評価して
いた。

 第2日目は「アジアのなかの日本古典籍」「日本漢文学」「中世の異界」「古典籍・
情報の活用」に関する、4つのパネルが行われた。この中では、人文情報学に近いと
ころで、「古典籍・情報の活用」に関するパネル-正式な標題は「古典籍を活用す
る/情報を活用する」-を取り上げたい。大澤留次郎氏(凸版印刷(株))は「く
ずし字OCR技術の現状と展望」として、「大量の書籍・文書の翻刻に有効なOCR」と
いう立場から、専門家(ここでは文学)-非専門家-作業者の協働モデルを提示し、
文字認識手法など現状と課題を述べた。林正治氏(一橋大学助教)の「古典籍画像
のための実験的ウェブアノテーションツール」では、デジタル画像相互運用のため
の国際規格International Image Interoperability Framework(IIIF)の活用によ
り、仮想的なコレクションの提示(館や地域ごとに分散した画像のとりまとめ)や、
画像の流通促進(単に画像ファイルをウェブに提示するだけの段階を超えて)など
の可能性がもたらされることを論じた。北本朝展氏(国立情報学研究所准教授)の
「人文学オープンデータ共同利用センターにおける日本語歴史的典籍の利活用」で
は、2016年4月に情報・システム研究機構に準備室が設立された同センター(
http://agora.ex.nii.ac.jp/codh/ )の取り組み・構想として、くずし字オープン
データ(2016年秋に公開予定)の活用による文字認識の促進や、シチズンサイエン
ス(歴史的典籍データの生活上の利活用)の展開などを述べた。

 第2日目はその他、前述のテーマに関する発表と討議が行われたが、筆者が想起し
た点としてひとつだけ、「出版の問い直し」について述べたい。例えば「アジアの
なかの日本古典籍」のパネルにおいては、中国の『詩経』に基づき江戸期に刊行さ
れた博物図鑑『毛詩品物図考』(1785)が、清末期に中国に伝えられ、さらに版木
も中国に輸入され、和名・返り点などを削って中国の紙で印刷・販売された、とい
う事例が、陳捷氏(国文研教授)により紹介された。その他、特に漢籍を中心に、
書物の日本国内での受容のみならず、中国・朝鮮・ベトナムといった漢字文化圏ほ
か国際的な位置づけと、出版にかかわる人々(作者、プロデューサー、スポンサー、
印刷・販売者、読み手、輸出者・輸入者など)の役割が、各パネルで示唆された。
翻って考えると、歴史的典籍NW事業にせよ、あるいはさまざまなデジタルアーカイ
ブ(読解・分析・調査対象のデジタル化と発信)にせよ、本研究集会で論じられた
出版史の視点から見直すと、コンテンツの「正当性」「真正性」をどのように担保
できるだろうか。これは、前述した楊氏の講演のポイントである「学術研究上のル
ール作り」「『場(playground)』の構築」にも密接にかかわる点である。

 以上、本報告は分量の都合もあり、この研究集会で示された多様な論点のごく一
部を述べたに過ぎない。歴史的典籍NW事業は、情報技術を開発・活用しつつ日本文
化を多角的・国際的に検証する取り組みと言えるものであり、今後もさまざまな成
果や議論の提示、および、繰り返すが「ルール作り」「場の構築」につながること
を期待したい。

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 配信の解除・送信先の変更は、
    http://www.mag2.com/m/0001316391.html
                        からどうぞ。

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◆編集後記(編集室:ふじたまさえ)
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 今号もたくさんの皆さまにご寄稿いただき、ありがとうございました。巻頭言か
らイベントレポートまで、いずれも大切な視点が含まれていたと思います。特に巻
頭言の宮本先生がおっしゃっていることは、研究者ではない私でも、日々の生活の
中でも感じ、実感を持ってうなずけることでした。

 海外の動向を踏まえつつ、ご自身の体験を持ってレポートくださる岡田さんの連
載も素晴らしいものでした。いつも、ありがとうございます。

 イベントレポート2本も、最新の動向をつかみつ、お二人の視点がよく伝わってく
るレポートでした。ありがとうございました。

次号もお楽しみに。

◆人文情報学月報編集室では、国内外を問わず各分野からの情報提供をお待ちして
います。
情報提供は人文情報学編集グループまで...
       DigitalHumanitiesMonthly[&]googlegroups.com
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人文情報学月報 [DHM061]【後編】 2016年08月31日(月刊)
【発行者】"人文情報学月報"編集室
【編集者】人文情報学研究所&ACADEMIC RESOURCE GUIDE(ARG)
【 ISSN 】2189-1621
【E-mail】DigitalHumanitiesMonthly[&]googlegroups.com
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