ISSN 2189-1621

 

現在地

DHM 036 【前編】

人文情報学月報
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄Digital Humanities Monthly

             2014-07-26発行 No.036 第36号【前編】 490部発行

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 ◇ 目次 ◇
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
【前編】
◇《巻頭言》「板木デジタルアーカイブ構築・公開とその効用」
 (金子貴昭:立命館大学衣笠総合研究機構)

◇《連載》「Digital Humanities/Digital Historyの動向
      ~2014年6月中旬から7月中旬まで~」
 (菊池信彦:国立国会図書館関西館)

◇《特集》「デジタル学術資料の現況から」第5回
 「Enigma 中世写本のラテン語の難読箇所を解決する」
 (赤江雄一:慶應義塾大学)

【後編】
◇人文情報学イベントカレンダー

◇イベントレポート(1)
CH102 人文科学とコンピュータ研究会参加報告
 (永崎研宣:一般財団法人人文情報学研究所)

◇イベントレポート(2)
2014年度アート・ドキュメンテーション学会年次大会
シンポジウム「芸術アーカイブと上野の杜連携」および研究発表会
 (古賀 崇:天理大学人間学部総合教育研究センター)

◇イベントレポート(3)
情報メディア学会第13回研究大会報告
 (天野 晃:理化学研究所バイオリソースセンター
  石川大介:科学技術・学術政策研究所
  角田裕之:鶴見大学 文学部
  中林幸子:東北文教大学短期大学部 総合文化学科
  原島大輔:東京大学大学院 総合文化研究科
  岡野裕行:皇學館大学 文学部
  植松利晃:科学技術振興機構 総務部
  岡部晋典:同志社大学 学習支援・教育開発センター)

◇編集後記

◇奥付

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【人文情報学/Digital Humanitiesに関する様々な話題をお届けします。】
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◇《巻頭言》「板木デジタルアーカイブ構築・公開とその効用」
 (金子貴昭:立命館大学衣笠総合研究機構)

 筆者は江戸時代の出版を研究しており、それにあたり、出版産業において用いら
れていた板木(はんぎ)を研究資源としている。板木は「版」であるから、板本が
出来するまでの印刷工程において、間違いなく道具として活躍した。それだけでな
く、当時は板木を所有することが、すなわち板株(いわゆる版権)の所有を意味し
た。つまり道具として、存在として、板木は江戸時代の出版産業の根幹を為すもの
であり、江戸時代の出版を知りたければ、板木がどのように扱われたかを追わなけ
ればならない。

 しかし、板木を扱うことは難しい。板木の原物は大きくて重たい。墨を使って摺
るため、現存の板木表面には墨が堆積しており、閲覧すればひどく汚れる。また、
図工の版画を思い出せばたやすく想起できるが、板木には鏡像で内容が彫られてい
るから、内容の判読にも困難が伴う。さらに、墨が堆積しているため、板木は真っ
黒である。したがって文献資料を白黒印刷の紙焼き写真で複写するような手法で、
板木を資料として流通させることはできなかった。こうした状況から、板木は上述
の重要性と裏腹に、比較的最近までほとんど研究資料として扱われることのないま
ま、時を過ごしてきたのである。

 筆者が板木を研究資料として扱うにあたり、上述の困難を同時に克服するために
は、板木のデジタルアーカイブを構築することが最も適切であるという判断に至っ
た。むろん、デジタルアーカイブも一筋縄にはいかず、彫りの様子を捉えるための
ライティングには工夫を要したが、ともかくも奈良大学所蔵の板木資料を中心に構
築・公開しているものが「板木閲覧システム」[1]である。同時に、関連の資料-
-例えば現存の板木で摺刷された板本--をも収集・デジタル化し、立命館大学ア
ート・リサーチセンターの「ARC書籍閲覧システム」[2]を通じて、可能な限り公
開している。また、それらを基盤として創出した成果が拙著『近世出版の板木研究
』(2013年2月、法藏館)である。板木デジタルアーカイブなどの詳細は拙著をご覧
いただきたいが、板木を観察する術を示し、環境を提供し、関連資料と合わせた出
版研究実践を踏まえつつ、板木を研究資料として共有することができたと自負して
いる。

 板木に関わらず、資料画像を集積したり、それらにデータを付けて情報を蓄積し
てゆく過程は、たとえその時点でそこから何も見出されなくとも、純粋に楽しい。
データが徐々に成長することを楽しみつつも、意図を持って蓄積したそれらの情報
は、そのうちに必ず意味を持ち始める。

 板木デジタルアーカイブの収録範囲は、現在は奈良大学に留まらず、複数の板木
所蔵機関へと拡大している(非公開を含む)。江戸時代の出版は現代とは異なり、
複数の板元による共同出版が常套的に行われており、その際、1点の板本の板木は一
箇所で保存するのではなく、複数の板元間で板木を分けて所有するのが慣例だった。
それらの板木は別々のルートをたどって現存に至り、別々の所蔵機関に収まってい
て、ようやくデジタルアーカイブ上で1点の板本の板木として組み合わさる場合があ
る。別々の所蔵機関に収蔵される資料そのものを、一所に集積することは難しいの
で、デジタルアーカイブ上で1点の板本の板木を統合的に扱える点はもちろん有意義
である。それは同時に、江戸時代の板木分割所有の実態をデジタルアーカイブ上で
明示していることに気付かされたりするのである。

 筆者は現在、上述の板木・板本に加え、当時の板元や同業者仲間が残した記録の
データ構築に努めている。板木を見てもよく分からなかったことが、板本と組み合
わせて分かるようになる場合、記録を読めば分かるようになる場合、またはそれら
の逆の事例など、いくつかの情報が組み合わさって調査・研究が進展することは多
々ある。デジタルで蓄積された資料や情報が一つ一つのピースとなって、ジグソー
パズルが組み立てられていくのは実に面白い。そして組み立てられたパズルは、研
究成果の一部や次の着眼点になっていく。

 そんなことは紙の上でもできるのでは、と思われる向きもあるだろう。しかし情
報量が増えれば増えるほど、また特に板木のように原物の取り扱いや複製に困難が
伴う場合には、デジタルで蓄積しておくことが研究にとって有効に作用するに違い
ないのである。

 さて、先に紹介した拙著の初版では、著者校正以外に社内校正をかけていただい
たが、時間の都合もあり、刊行前に外部の専門家に見ていただくことはできなかっ
た。このたび重版の機会を得て(2014年7月予定)、筆者の研究内容をご存じの方に
校正を依頼したところ、内校では気付き得なかっただろう修正点が頻出している。
いずれも論旨を揺るがさない程度の修正であるが、拙著で扱った資料が公開されて
いるゆえに見出していただいた誤りも少なくない。自身の研究の客観性を担保する
ためには、情報蓄積とその公開が極めて有効に作用すると実感している次第である。

 筆者の行く先、まだまだ調査されていない板木が積み上げられている。いつまで
かかるか分からないが、当分は板木と、板木に関わる資料のデジタルアーカイブ構
築に、楽しみつつ取り組んでいきたい。

[1] http://www.arc.ritsumei.ac.jp/db9/hangi/
[2] http://www.arc.ritsumei.ac.jp/db1/books/search.php

執筆者プロフィール
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
金子貴昭(かねこ・たかあき)立命館大学衣笠総合研究機構准教授。博士(文学)。
日本学術振興会特別研究員、文部科学省グローバルCOEプログラム「日本文化デジタ
ル・ヒューマニティーズ拠点」(立命館大学)ポストドクトラルフェロー、立命館
大学専門研究員を経て現職。近著に『近世出版の板木研究』(2013、法藏館)。同
書で第35回日本出版学会賞奨励賞を受賞。

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《連載》「Digital Humanities/Digital Historyの動向
      ~2014年6月中旬から7月中旬まで~」
 (菊池信彦:国立国会図書館関西館)

 前号に引き続き、2014年6月中旬から7月中旬までのDigital Humanities/Digital
Historyに関する動向をまとめた。

○新聞・ブログ記事
 6月11日、AMeeTに米国議会図書館(LC)の中原まり氏のインタビュー記事「建築
デジタル・アーカイブの可能性」が掲載された。LCによる写真資料をFlickrで公開
するFlickr Pilot Projectや、スカイスクレーパー・ミュージアムによるデジタル
アーカイブ等が紹介されている。
http://www.ameet.jp/digital-archives/digital-archives_20140611-2/

 6月21日、イギリスBBCに、14世紀のスウォンジの街並みを再現したCity Witness
projectの紹介記事が掲載された。プロジェクトのサイトでは、ヴァチカンの写本に
も「2度絞首刑となった男」として登場するWilliam Craghを扱ったゲームもある。
http://www.bbc.com/news/uk-wales-south-west-wales-27927320

 7月7日、カナダのActive Historyのサイトに、“Three Tools for the Web-Savvy
Historian: Memento, Zotero, and WebCite”という記事が掲載されている。論文で
引用するウェブ情報がしばしばリンク切れになってしまうことを踏まえ、記事では、
その回避策としてZoteroやWebCite、Mementoの使い方を紹介している。
http://activehistory.ca/2014/07/two-tools-for-the-web-savvy-historian-me...

 7月2日のITproの記事に、東京大学生産技術研究所喜連川研究室がオープンソース
ソフトウエア(OSS)の地理空間データベース(DB)「PostGIS」に、喜連川優教授
の研究チームが開発した「非順序型実行原理に基づく超高速DBエンジン技術」を実
装し、従来に比べて処理速度を100倍以上高速化したとの記事が掲載されている。そ
の内容については、7月9日に開催された「FIRST喜連川プロジェクトの報告とビッグ
データの今後に関するシンポジウム」で報告されたとのこと。
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20140702/568564/
http://www.tkl.iis.u-tokyo.ac.jp/FIRST/info_20140709.html

 7月7日、ITmediaに「江戸時代の旅人の地図、米アーティストがデジタル技術で再
現 伝統的手法との融合で」という記事が掲載されている。江戸時代の日本地図を
伝統的な方法とデジタル技術を組み合わせて製作するプロジェクト“A Land of
Narrow Path”が、Kickstaterで出資を募っていたとのこと。
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1407/07/news145.html

○イベント・出来事
 6月10日、連邦第二巡回区控訴裁判所は、HathiTrustによるデジタル化はフェアユ
ースにあたり著作権侵害ではないとする連邦地方裁判所の判決を一部支持し、
Authors Guildの訴えを退ける判決を下した。
http://www.hathitrust.org/authors_guild_lawsuit_appeal_ruling
http://chronicle.com/blogs/wiredcampus/hathitrust-digital-library-wins-l...
http://gigazine.net/news/20140621-google-win-authors-guild-again/
http://current.ndl.go.jp/node/26570
http://current.ndl.go.jp/node/26328

 6月20日から22日にかけてサウスカロライナ州チャールストンにおいて、「図書館
におけるDH」をテーマとしたカンファレンス“Data Driven: Digital Humanities
in the Library”が開催された。下に挙げたDH+Libのブログでは、カンファレンス
の関連記事がまとめられている。また、同カンファレンスの報告内容等は2015年に
パデュー大学出版局から刊行予定となっている。
http://acrl.ala.org/dh/2014/07/01/posts-data-driven-conference-wrap/
http://dhinthelibrary.wordpress.com/
「図書館におけるDH」に関連した動きとして、6月26日から7月1日にかけてラスベガ
スで開催された米国図書館協会の年次大会において、“Digital Humanities and
Academic Libraries: Practice and Theory, Power and Privilege”というセッシ
ョンが開催されている。登壇者の一人であるRoxanne Shiraziが自身のブログでその
報告内容を公開している。
http://roxanneshirazi.com/2014/07/15/reproducing-the-academy-librarians-...
http://ala14.ala.org/node/14591

 6月25日、フランス語圏のDH協会サイト“HUMANISTICA”が公開された。後述のDH
2014の開催にあわせ、7月8日にローザンヌで総会が開催された。
http://www.humanisti.ca/

 6月28日、情報メディア学会第13回研究大会が開催され、この中で「デジタル化を
拒む素材とアウトリーチ」をテーマとしたパネルディスカッションが催された。当
日の動画やTwitterのまとめ、関連ブログ記事を以下にまとめた。
http://www.jsims.jp/kenkyu-taikai/yokoku/13.html
https://www.youtube.com/watch?v=qpq9zqf9V1I
http://togetter.com/li/685786
http://egamiday3.seesaa.net/article/401589399.html
http://egamiday3.seesaa.net/article/400797440.html
http://egamiday3.seesaa.net/article/399973311.html
http://d.hatena.ne.jp/xiao-2/20140629/1404050455
http://d.hatena.ne.jp/xiao-2/20140702/1404313744
http://senolight.hateblo.jp/entry/2014/06/30/184348
http://senolight.hateblo.jp/entry/2014/06/30/212005

 7月7日に「じんもんこん2014」の発表原稿の募集がスタートした。締め切りは、
9月12日。今年は12月13、14日に国立情報学研究所で開催される。
http://jinmoncom.jp/sympo2014/

 7月7日から12日にかけて、スイスのローザンヌでDH2014が開催された。DH+Libが
その関連エントリをまとめて紹介する記事を公開している。その他、Bethany
Nowviskieの基調講演スクリプトやDH2014参加者インタビュー動画、会期中のTwitter
のアーカイブ等を下に挙げた。この大会の場で、2016年のDH大会がポーランドのク
ラクフで開催されることが発表された。なお、来年2015年はオーストラリアのシド
ニーで行われることがすでに決まっている。
http://dh2014.org/
http://acrl.ala.org/dh/2014/07/15/post-wrapping-dh-2014-lausanne/
http://www.adho.org/announcements/2014/adho-chair-neil-fraistat-welcomes...
http://nowviskie.org/2014/anthropocene/
https://www.youtube.com/playlist?list=PLATY2oU-UaF617L-WVPIerNGfduq3AaVs
https://storify.com/ADHOrg
http://www.martingrandjean.ch/dataviz-digital-humanities-twitter-dh2014/
http://dh2015.org/
http://adho.org/announcements/2014/krak%C3%B3w-selected-site-dh-2016-con...
http://adho.org/announcements/2014/godh-and-mcml-partner-initiative-mult...
http://britishlibrary.typepad.co.uk/digital-scholarship/2014/07/digital-...

○プロジェクト・ツール・リソース
 6月12日に、複雑なデータセットの分析のためのソフトウェアMirador(Ver.1.0)
がリリースされた。
http://fathom.info/mirador/
http://flowingdata.com/2014/06/25/mirador-a-tool-to-help-you-find-correl...

 6月20日、時間情報解析ソフトウェアHuTimeの最新版が公開された。今回のアップ
デートで、Web上のデータを表示する機能等が追加された。
http://www.hutime.jp/

 DHの今を素描する試みとして、6月21日から80日間かけて、世界の新旧DHプロジェ
クトを紹介する“Around DH in 80 Days”のプロジェクトがスタートした。この中
には、国立情報学研究所等による「デジタル・シルクロード・プロジェクト」も取
り上げられている。
http://www.arounddh.org/

 6月24日、Yahoo! Labsは、Yahoo! Webscopeの研究用のデータセットとして
約9,930万件の画像と約70万件の動画を、Flickr上でCCライセンスで公開した。
http://yahoolabs.tumblr.com/post/89783581601/one-hundred-million-creativ...
http://current.ndl.go.jp/node/26516

 7月2日、国立情報学研究所は、CiNii Artriclesで提供している本文PDFに、OCRに
よる文字情報を付与したと発表した。
http://ci.nii.ac.jp/info/ja/index_2014.html#20140702
http://current.ndl.go.jp/node/26499

 DHツールの情報をディレクトリにまとめて提供するProject Bambooの終了に伴い、
7月3日、“DiRT Directory”への名称とURL変更が発表された。
http://dirtdirectory.org/goodbye-project-bamboo
http://www.projectbamboo.org/

 7月4日、アメリカ地質調査所(USGS)とGIS等のサービス提供企業ESRIが、1884年
から2006年までのデジタル化歴史地図へのアクセスを提供する“USGS Historical
Topographic Map Explorer”を公開した。
http://historicalmaps.arcgis.com/usgs/
http://www.infodocket.com/2014/07/09/a-new-reference-resource-wow-the-us...

 7月8日、首都大東京の渡邉英徳らの研究チームが、「台風リアルタイム・ウォッ
チャー:台風情報と『減災リポート』のリアルタイム・マッシュアップ」を公開し
た。国立情報学研究所の北本朝展による「デジタル台風:台風画像と台風情報」と、
株式会社ウェザーニューズのサービス会員「ウェザーリポーター」が提供する「減
災リポート」のデータがマッシュアップされているとのこと。
http://typhoon.mapping.jp/
http://www.huffingtonpost.jp/hidenori-watanave/post_8008_b_5582553.html
http://www.forest.impress.co.jp/docs/news/20140708_656914.html

 7月9日、オーストラリア政府が、地理空間情報のオープンデータサイト
“National Map Open Data initiative”を公開した。
http://www.minister.communications.gov.au/malcolm_turnbull/news/national...

 7月11日、ジョンズ・ホプキンス大学のSheridan Libraries、ユニバーシティ・カ
レッジ・ロンドンのCentre for Editing Lives and Letters、そしてプリンストン
大学図書館のDH共同プロジェクト“The Archaeology of Reading in Early Modern
Europe”が、アンドリュー・W・メロン財団からの助成金獲得を発表した。同プロジ
ェクトは、近世の初期刊本に残された書き込みから、行為としての読書を探る「考
古学」的研究とされる。
http://hub.jhu.edu/2014/07/11/archaeology-of-reading
http://www.ucl.ac.uk/news/staff/staff-news/0714/15072014-ucl-cell-secure...
http://www.theguardian.com/books/2014/jul/17/web-project-renaissance-sch...

○論文・学術雑誌・研究書
 電子出版・編集や電子リソースのレビュージャーナル“RIDE”が創刊され、この
ほどその創刊号が刊行された。
http://ride.i-d-e.de/
http://ride.i-d-e.de/issues/issue-1/

 人文学のインタラクティブなデザインや技術をテーマにしたオープンアクセスジ
ャーナル“Journal of Interactive Humanities”のVol. 2: Iss. 1が刊行された。
Christopher Egertらによる“Interactivity: New Rules of Engagement for the
Humanities”等3本の論考が掲載されている。
http://scholarworks.rit.edu/jih/vol2/iss1/

 国立国会図書館の『カレントアウェアネス』No.320が6月20日に刊行された。この
うち、DH関連としては、高橋さきの「CA1821 - 辞書の向こう側:生きた用例と辞書
を往き来する」と大向一輝「CA1825 - オープンデータと図書館」がある。
http://current.ndl.go.jp/ca/no320

 6月24日、データマイニングとDHをテーマとしたJournal of Data Mining and
Digital Humanitiesの創刊号が刊行された。もちろんデータマイニング関連の論考
が多くを占めるが、中には“Exploring Regional Development of Digital
Humanities Research: A Case Study for Taiwan”といった論文もある。
http://jdmdh.episciences.org/

 7月に、“Digital Humanities, Public Humanities”を特集テーマに掲げるオー
プンアクセス誌“NANO”の第5号が刊行された。
http://www.nanocrit.com/issues/5/

○レポート・報告書等
 6月12日、アメリカのニューメディアコンソーシアム等が“Horizon Report”K-12
版を刊行した。今後5年間に世界のK-12教育に影響を及ぼすと考えられる新しい技術
やその課題がまとめられている。
http://www.nmc.org/news/and-cosn-release-horizon-report-2014-k-12-edition
http://www.infodocket.com/2014/06/19/information-technology-2014-nmc-hor...
http://current.ndl.go.jp/node/26416

 6月18日、Ithaka S+Rが、DHプロジェクトの持続のための高等教育機関による支援
をテーマとしたレポート“Sustaining the Digital Humanities”を刊行した。これ
については筆者が、7月10日に刊行された国会図書館のメールマガジン「カレントア
ウェアネス-E」262号で紹介記事を書いているので、そちらをご覧いただきたい。ま
た同じ号には、「E1581 - 文化情報資源と創造産業の融合:Europeanaアプリコンテ
スト」といった記事もある。
http://sr.ithaka.org/research-publications/sustaining-digital-humanities
http://current.ndl.go.jp/e1583
http://current.ndl.go.jp/e1581

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◇《特集》「デジタル学術資料の現況から」第5回
「Enigma 中世写本のラテン語の難読箇所を解決する」
 (赤江雄一:慶應義塾大学)

 Enigma [1]は、西欧中世ラテン語写本を読む際に避けられない難読箇所の解読
を援助するために開発された簡便ながら効果的なウェブ上検索システムである。以
下、 Enigma を紹介したい。Enigma の使い方については同サイト上に日本語で説明
があるので、それを繰り返すことは極力さけて、この場では Enigma が必要とされ
る文脈や、その画期的な特徴を論じ、最後に Enigma 開発の背後にある開発者のメ
ッセージを伝えたい[2]。

 このツールを必要とするのは、西欧中世の--したがってほとんどの場合グーテ
ンベルクの活版印刷以前の--手書きの写本のラテン語テクストを読もうとする人
たちである。当時のリングア・フランカであるラテン語で書かれた史料や著作のな
かでとくに重要とされるものについては、近現代の学者によって写本から編纂され
読みやすい活字で印刷された校訂版が存在していることが多い。したがって、西欧
中世研究にとりかかりはじめたときには必ずなんらかの校訂版を用いることになる。
その後も研究のタイプによっては校訂版に依拠するだけですむ場合は多い。しかし、
既存の校訂版では確かめる、あるいは知ることができない情報をつきとめる必要が
生じることもある。校訂版がそもそも存在していない史料も数多くあるし、古い校
訂版の場合は編纂者の方針によってはテクストの一部が意図的に省かれていること
などもあるからである。

 そういうわけで必要に迫られて、ともかくも目当ての中世ラテン語写本のイメー
ジを入手したとしよう。ただラテン語のひととおりの文法的知識を持っていても、
中世ラテン語写本には最初歯が立たないだろう。まず用いられている字体とラテン
語の短縮綴りに慣れなければならない。つまり、必ずしも体系的でなくても古書体
学 palaeography の知識が必要になる[3]。校訂本ではラテン語の綴りは完全なも
のになっているが、それは編纂者によって写本から復元されたものである。それに
対して写本上ではラテン語の綴りは短縮あるいは省略されたかたちをとっている。
たとえば主君・領主等を意味する dominus という語は写本上では dns( n の上に
短縮綴りであることを示す横棒 macron が付される)と記される。これらの略語に
ついては A. Cappelli の有名なラテン語略語辞書[4]を参照する必要がある。
Enigma はラテン語略語を元の綴りに復元することを目的としたツールではない。上
記の省略綴りの例を使えば d*n*s とワイルドカード(検索する際にどんなパター
ンにも適合する特殊文字)のひとつを使って Enigma で検索してもよいが、これで
はあまりにもヒット数が多すぎて元の綴り dominus をつきとめることはできないだ
ろう。これらの基本的ラテン語略語は初心者には難しいかもしれないが、 Enigma
が対象とする「難読箇所」ではない。難読箇所とは、 Enigma のサイトにもあるよ
うに「読み取りがたい書体、不明確な筆跡、写本自体への損傷などさまざまな理由
で、ひとつの単語のなかでもすべての文字を解読するのは不可能な」箇所である。
加えて、 Cappelli の略語辞典等に記載されていない(長めの)略語も含めてよい
だろう。

 Enigma が画期的なのは、このような難読箇所につきあたって頭をひねるまえに、
ともかくも読みとれるかぎりの文字を入力し、わからない文字のところにはワイル
ドカードをあてはめて検索すれば、常に求めている単語だけがヒットするわけでは
なくても、可能性のある語彙の選択肢が絞り込まれてリストアップされる点である。
サイトでの説明からもわかるように、一つの検索のなかで複数の種類のワイルドカ
ードを組み合わせてもちいることができるのは便利である。リストアップされた単
語は William Whitaker が作成したオンライン版ラテン語英語辞書 WORDS にリンク
されており、クリックひとつで基本的な意味と語形も確認できる(ただし Whitaker
の WORDS のみに頼ってはならない。古典ラテン語辞典および中世ラテン語辞典も参
照する必要がある)。これらがいかにありがたい機能であるかは、わからない文字
の部分に嵌まりうる複数の綴りをリストアップし、しかもその中に正解が含まれて
いるかどうかもしばしば定かでないままに複数のラテン語辞書のあちこちを引く、
その作業に費やされる時間と手間を想像してもらえれば理解されるだろう。

 筆者は、自らの研究で用いている写本の保留状態にしていた難読箇所について
Enigma を使ってみた。その結果、すべての難読箇所の解決をもたらす万能薬では
ないものの、難読箇所の解決にあたっての出発点としては非常に有用だと評価する。
とくに筆者が感心したのが、i, n, u, m といった文字に含まれる縦線(minims)を
感嘆符( ! )というワイルドカードで置き換える検索方法である[5]。写本で用
いられている羽ペンの筆跡では、上下に走る縦線(minims)は太く明瞭に見えやす
いが、横の線( n や m の上部、u の下部)が細くなり、結果として不明瞭になり
やすい。その結果 i, n, u, m の識別が難しくなっている場合が多々ある。たとえ
ば nimis という単語が省略なしに綴られているとする。しかし写本での見かけ上、
最初の4文字 nimi が4文字であるかどうかすらわからない場合がある。その場合確
実に視認できるのは、見かけ上の縦線7本の後に s が続いていることだけである。
Enigma なしでは、下手をすれば s よりも前の部分について i, n, u, m の順列組
み合わせによって本来の単語を推測せざるをえないだろう。ここで多大な労力が発
生しうる。Enigma ではこのような単語について推測を重ねるのではなく、見かけの
とおりに !!!!!!!s と検索できる。そうすると inuiis, minis, nimis, uiniis,
uinu, uiuus, uniusという6通りがヒットする。まだ6通りも残されていると思われ
るかもしれないが、むしろ即座にここまで候補が絞りこまれることが大きなメリッ
トなのだ。Enigma を使っているうちに、なぜこれまでこれがなかったのかと筆者は
感じるようになった。筆者は前述の作業を面倒だと感じていたが、実際にそれがこ
ういうかたちである程度解決されうると思っていなかったのである。

 Enigma を使いこなすには若干のコツを知っておくと便利である。たとえば、縦線
での検索を可能にする第3のワイルドカードのために i, u, n, m という文字を入れ
て検索をかけると、何もヒットしないことがある。この場合は必要に応じてこれら
の文字を縦線に置き換えて(すなわち i は1つの ! 、n と u は2つの !! 、 mは3
つの !! に)検索したほうがよい。また、c と t が相互置換的に検索されることも
知っておくべきだろう。これは、羽ペンの運筆上 c と t の筆跡はしばしば著しく
似ていることを加味した結果であろう。

 Enigma は比較的シンプルなつくりだが、以上述べたことからも分かるように、普
段から中世の写本に触れている者にとって痒いところに手が届く配慮がなされてい
る。それは開発者自身の研究現場の必要に応えるために Enigma が開発されたから
である。マージョリー・ブールガールMarjorie Burghart[6]は、リヨン第二大学
で中世カトリック教会の13世紀説教写本の研究で博士号を取得した後、引き続き同
大学に主要拠点を置く共同研究機関〈CIHAM中世キリスト教およびイスラム教世界歴
史・考古学・文学〉[7]の技官 Inge’nieur d’e’tude として Digital
Humanities の様々なプロジェクトで活躍しつつ、彼女の専門領域の研究を続けて
いる。彼女はさらにデジタル・メディアに携わる中世研究学者のウェブ上のコミュ
ニティーである Digital Medievalist[8]の運営委員を2008年から2012年まで務め、
その後もこのコミュニティーの中心的存在である。彼女はこれまでに Whitaker の
WORDS を利用したOCR用スペルチェック用ラテン語語形リスト Verba[9]、これを
利用したラテン語スペルチェッカー COL(Correcteur Orthographique de Latin)
[10]を開発した(Enigma は COL の発展形でもある)。これらの活躍により、
2013年にはフランス国立科学研究センター CNRS の優秀な技術・行政系のスタッフ
に贈られる Crystal CNRS 賞[11]を受賞している。

 今回の原稿執筆にあたってマージョリーにFacebook上でインタビューを行ったが、
そこで彼女が強調していたのが、人文学の研究に関わり続けることの重要性だった
のは印象的だった。「私には、中世や近代初期の歴史や文学などの分野で博士号な
どをとって、その後 Digital Humanities(DH)の分野に移った友人が何人もいるが、
彼らは元の研究分野からかけ離れた分野で仕事をすることになっている。それはDH
の領域で彼らが〈より役に立つ〉と思われているからだけれども、彼らには所属組
織から元の分野の研究を継続できる余地がまったく与えられていないことが多い。
私が幸運なのはDHと中世説教研究の両方を行える状況にあることだ。私が望むのは
DHの分野でより多くの人が私と同じように両方を行えるようになることだ。彼ら自
身のためだけではなく、DHにとってもよいことだから。これが Enigma の背後にあ
る私の考え、世界に対する私のメッセージです。」フランスあるいはヨーロッパの
状況と日本の状況には違う点も数多くあるだろうが、彼女の言葉は日本のDHの今後
を考えるうえでも示唆に富んでいるのではないだろうか。Enigma は人文学とDHの結
合がいかに有益なものでありうるかをまさに証明するものだから。

[1] http://ciham-digital.huma-num.fr/enigma/?l=jp
[2]筆者はこのシステムの公開に際して開発者の依頼でインターフェイスの日本語
  版作成に協力したが、システム自体の開発には携わっていない。
[3]たとえば How to Read Medieval Handwriting(Paleography)
http://isites.harvard.edu/fs/docs/icb.topic453618.files/Central/editions...
  を参照。(書体学の定義や学問としての発展については日本語では高山博・池
  上俊一編『西洋中世学入門』東京大学出版会 2005年 27-53頁、高宮利行「古書
  体学」『大修館英語学事典』大修館 1983年 961-73頁など、古書体については
  スタン・ナイト著『西洋書体の歴史―古典 時代からルネサンスへ』高宮利行訳
  (慶應義塾大学出版会、2001)があるが、上掲のハーバード大学のサイトで提
  供されているような「実用的」な情報は管見の限り日本語の公刊されたかたち
  ではほとんど著されていない。)
[4]Cappelli のラテン語略語辞書は著作権が切れているのでオンラインで入手可
  能である(Enigma サイトを参照)。なお Abbreviationes(TM) Online
http://www.ruhr-uni-bochum.de/philosophy/projects/abbreviationes/
  という有料のウェブ上検索システムも存在する。
[5]中世では通常 v と u は区別して用いられていなかった(ラテン語にはもとも
  と u しか存在していなかったわけだが)。校訂版では大文字については V、小
  文字については u に統一してあることが多い。Enigma のアウトプットでは v
  と u はすべて u に統一してあるようである。
[6] http://ciham.ish-lyon.cnrs.fr/membres/marjorie-burghart
[7] http://ciham.ish-lyon.cnrs.fr/
[8] http://www.digitalmedievalist.org/
[9]Verba https://sourcesup.renater.fr/verba/
[10] http://latin.drouizig.org 現在も開発継続中とのこと。
[11] http://www.cnrs.fr/fr/recherche/prix/cristal/2013.htm

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