ISSN 2189-1621

 

現在地

DHM 007

2011-08-27創刊

人文情報学月報
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄Digital Humanities Monthly

                 2012-2-24発行 No.007   第7号    

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 ◇ 目次 ◇
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
◇「テキスト解釈の科学に向けて」
 (村井源:東京工業大学大学院)

◇人文情報学イベントカレンダー

◇イベントレポート(1)
第93回人文科学とコンピュータ研究会発表会
(山田太造:人間文化研究機構本部)

◇イベントレポート(2)
シンポジウム「文化情報の整備と活用-デジタル文化財が果たす役割と未来像-」
(福島幸宏:京都府立総合資料館)

◇イベントレポート(3)
Code4Lib Conference 2012参加報告
(大向一輝:国立情報学研究所)

◇イベントレポート(4)
第7回Osaka.R
(小林雄一郎:日本学術振興会)

◇編集後記

◇奥付

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【人文情報学/Digital Humanitiesに関する様々な話題をお届けします。】
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◇「テキスト解釈の科学に向けて」
 (村井源:東京工業大学大学院)

1.解釈にまつわる問題
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 新年早々、オウムの平田容疑者が警察に出頭したというニュースが流れていまし
た。オウムの教祖は「ヨハネの黙示録に記された最終戦争であるハルマゲドン」が
間もなく起きると予言し、予言を自ら実現するためにサリンをまき散らしたそうで
す。
 実は「ハルマゲドン」の語に最終戦争の意味はないのですが、教祖の解釈を信じ
た人々は大量殺人を行ってしまいました。この種の問題は残念ながら過去の話では
ありません。
 ご存知の方も多いと思いますが、聖書やコーラン、仏典など古代の思想テキスト
を正確に理解することは非常に困難です。理解が困難な理由はいくつかあります。
第一に、書かれた内容自体がそもそも難解です。第二に、古代語で書かれていて、
翻訳のみでは正確な意味が伝わりません。第三に、時代や文化など背景が現代と大
きく異なるため、筆者が当時の常識に基づき、こう書けば読者に意味が伝わるはず、
と思って記したことが、我々の常識では理解できません。
 このため、古代の思想テキストを扱う場合、哲学や思想、古代語、当時の歴史的
文化的背景や修辞技法などを学ばなければなりません。解釈の妥当性の判断には、
これらの背景的知識が必要ですが、その習得には莫大な労力と時間が必要です。そ
のため、たとえば、カルトの教祖が一般の人より多くの知識を習得して独自の解釈
を構築すると、大部分の人にとっては妥当性の判断が困難になります。専門家なら
ばカルト的解釈の問題点の指摘は可能ですが、客観的に間違いを証明することはや
はり困難です。なぜなら、どれだけ知識を積み上げても失われた古代の文脈を100%
正確に再現するのは原理的に不可能であり、唯一の正しい解釈を反証として提示で
きないからです。
 本来、人々がより良く生きる道を示すために生み出された書物が、いかようにも
解釈できてしまう状況はどうにかならないものでしょうか?

2.解釈の客観化
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 唯一の正しい解釈が提示できないとしても、解釈をより客観的に分析、比較、評
価することで事態を多少なりとも改善する方法はないでしょうか?物事を客観的な
分析手法として一般的に用いられるのは科学です。厳密には科学も100%客観的では
ないのですが、他の方法に比べて著しく客観性を高めることが可能です。もし科学
的な方法を解釈に適用できれば、少なくとも現在よりは客観性の高い議論が可能に
なるはずです。そこで、テキスト解釈を科学的に捉えることを考えます。
 テキストを科学的に扱うためには、テキストに含まれる様々な特徴や属性を数値
として捉える必要があります。抽象的な特徴や属性であっても数値で表現できれば
科学的分析が適用できるからです。テキスト中の要素の計量は人手でも可能ですが、
精細な分析や複雑で大規模な分析にはコンピュータの活用が有効です。そこでテキ
ストのデジタル化が解釈の科学化の第一のステップになります。聖書学で扱うテキ
ストは仏典などと比較して少なく、校訂されたテキストに合わせて文法など言語学
的情報も電子的に利用できる環境が整っています。これらを活用して、文章を単語
に分割する形態素解析や、単語間の修飾関係を分析する係り受け解析を行えば、分
析のための基本的な情報を得ることができます。
 そこで次に問題になるのは、このような基本的情報が、専門家が行う高度な意味
解釈とどのように結び付いているのか、どのような情報処理を行えば解釈のメカニ
ズムを再現できるのかということです。

3.計量的テキスト解釈
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 残念ながら現状では、人間に匹敵する解釈を科学的に実現することはできません
が、部分的にいくつかの解釈技法を計量的に再現できるようになっています。最後
にそれらの例をいくつか紹介したいと思います。
 計量化のアプローチは大きく二種類あります。一つ目は解釈対象テキストの分析、
二つ目は解釈の結果として産出されるテキストの分析です。一つ目は直接的ですが、
対象テキスト中に解釈に必要な情報が十分に含まれるとは限らないため、浅い分析
になる懸念はあります。二つ目は間接的ではありますが、解釈の詳細をより明確に
抽出できる可能性があります。
 まず直接的アプローチでは、単語の頻度に基づく特徴語の抽出が基本です。TF-IDF
などの手法でどの語が特徴的であるかは数値的に計算できます。特徴的な語が分か
れば、その語の詳細な意味を理解するために、共起分析や係り受け分析が有効です。
共起分析は対象語と共通に出現する語の分析で、係り受け分析は対象語と修飾関係
にある語の分析です。解釈においては語の意味が問題になりますがこれらの手法で
語の詳細なニュアンスの分析が可能です[1]。これらはコンコルダンス解釈と呼ば
れる技法を数値化したものに相当します。他に単語の出現傾向をベクトル化し、テ
キスト間の類似や文体の変化を科学的に分析することもできます[2]。
 次に間接的アプローチでは、対象テキストと解釈結果を記したテキストの関係が
重要です。テキスト間の関係を分析するには、引用解析が有効です。引用解析で、
ある個所の解釈や複数箇所の解釈間の関係が分かり、解釈者の思想構造も視覚化で
きます[3]。また、解釈結果を記したテキストに含まれる語彙を分析することで、
解釈に用いられる背景知識や思想が抽出できます[4]。他には、翻訳と原文の単語
の対応関係を比較し翻訳者の解釈を抽出する手法もあります[5]。
 このように様々な解釈手法の計量化が可能ではありますが、テキストに記されな
い情報(作者の経歴、歴史的事実など)が必要な解釈は手つかずで、他にも計量化
が難しい領域として、物語分析、修辞分析、談話分析などが残っています。課題は
山積みで解釈の科学の実現はまだ先になりそうですが、このような研究に興味を持っ
てくださる方が増えれば幸いです。

[1]村井源他, Webの計量言語学的分析からみた政治的感性の特徴, 感性工学会研
究論文集, Vol. 7, No. 3, pp. 561-569, 2008.
[2]工藤彰他, 計量分析による村上春樹長篇の関係性と歴史的変遷, 情報知識学
会誌, Vol. 21, No. 1, pp. 18-36, 2011.
[3]村井源他, Co-citation Networkによる宗教思想文書の解析, 人工知能学会論
文誌, Vol. 21, No. 6, pp. 473-481, 2006.
[4]村井源他, 文芸批評の計量解析による批評行為の背景的特徴の抽出, 情報知
識学会誌, Vol. 20, No. 2, pp. 117-122, 2010.
[5]村井源, 漸近的対応語彙推定法に基づく翻訳文の解釈的特徴の抽出-日本語翻
訳聖書の計量的比較-, 情報知識学会誌, Vol. 20, No. 3, pp. 293-310, 2010.

執筆者プロフィール
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村井源(むらい・はじめ)東京工業大学大学院社会理工学研究科助教 博士(工学)
聖書などの思想テキストや、政治関連のテキスト、文学や種々の批評・評論文など
のテキストコーパスを構築し、計量的な手法を用いた意味解釈と、テキストの背後
にある価値観や思想に関する情報の抽出に関する研究を主に行っている。所属学会
は情報知識学会、情報処理学会、認知科学会、日本感性工学会、Society of
Biblical Literatureなど。

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◇人文情報学イベントカレンダー(■:新規イベント)

【2012年2月】
□2012-02-29(Wed):
第5回 SPARC Japanセミナー2011「OAメガジャーナルの興隆」
(於・東京都/国立情報学研究所)
http://www.nii.ac.jp/sparc/event/2011/20120229.html

【2012年3月】
■2012-03-05(Mon)~2012-03-06(Tue):
第1回 コーパス日本語学ワークショップ
(於・東京都/国立国語研究所)
http://www.ilcc.com/corpus/

■2012-03-07(Wed)~2012-03-08(Thu):
統計数理研究所言語系共同研究グループ合同発表会「言語研究と統計2012」
(於・東京都/統計数理研究所)
http://language.sakura.ne.jp/s/stat.html#stat2012

■2012-03-16(Fri):
「東洋学へのコンピュータ利用」研究セミナー
(於・京都府/京都大学人文科学研究所本館)
http://kanji.zinbun.kyoto-u.ac.jp/seminars/oricom/

□2012-03-19(Mon)~2012-03-20(Tue):
Interedition Symposium Scholarly Digital Editions, Tools and Infrastructure
(於・オランダ/The Huygens ING, The Hague, The Netherlands)
http://www.interedition.eu/?p=186

□2012-03-26(Mon)~2012-03-30(Fri):
Computer applications and quantitative methods in Archaeology 2012
(於・英国/University of Southampton)
http://www.southampton.ac.uk/caa2012/

□2012-03-28(Wed)~2012-03-30(Fri):
Digital Humanities Australasia 2012: Building, Mapping, Connecting
(於・オーストラリア/Australian National University)
http://aa-dh.org/conference/

【2012年4月】
□2012-04-11(Wed)~2012-04-14(Sat):
European Social Science History Conference 2012
(於・英国/Glasgow University)
http://www.iisg.nl/esshc/

【2012年5月】
■2012-05-12(Sat):
日本図書館情報学会春季研究集会
(於・三重県/三重大学上浜キャンパス)
http://lis.human.mie-u.ac.jp/jslis2012s/

■2012-05-26(Sat):
第94回 人文科学とコンピュータ研究会発表会
(於・東京都/同志社大学東京オフィス)
http://jinmoncom.jp/index.php?%E9%96%8B%E5%82%AC%E4%BA%88%E5%AE%9A%2F%E7...

【2012年6月】
□2012-06-04(Mon)~2012-06-08(Sun):
Digital Humanities Summer Institute
(於・カナダ/Victoria)
http://www.dhsi.org/

□2012-06-12(Tue)~2012-06-15(Fri):
The IS&T Archiving Conference
(於・デンマーク/Copenhagen)
http://www.imaging.org/ist/conferences/archiving/

□2012-06-15(Fri)~2012-06-17(Sun):
GeoInformatics 2012
(於・中国/香港)
http://www.iseis.cuhk.edu.hk/GeoInformatics2012/

【2012年7月】
□2012-07-16(Mon)~2012-07-22(Sun):
Digital Humanities 2011
(於・ドイツ/Hamburg)
http://www.dh2012.uni-hamburg.de/

Digital Humanities Events カレンダー共同編集人
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小林雄一郎(大阪大学大学院言語文化研究科/日本学術振興会特別研究員)
瀬戸寿一(立命館大学文学研究科・GCOE日本文化デジタルヒューマニティーズ拠点RA)
佐藤 翔(筑波大学図書館情報メディア研究科)
永崎研宣(一般財団法人人文情報学研究所)

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◇イベントレポート(1)
第93回人文科学とコンピュータ研究会発表会
http://www.jinmoncom.jp/
(山田太造:人間文化研究機構本部)

 2012年1月27日-30日奄美市立奄美博物館において、奄美市教育委員会および奄美
郷土研究会との共催による第93回人文科学とコンピュータ研究会発表会(CH93)が
開催された。
 CH93の開催経緯について述べる。これまでCH研究会では、情報技術を活用した人
文科学分野の研究や人文科学に関連する情報資源の記録・蓄積・提供などを中心に
報告がなされてきた。CH研究会は、かつては各地方の研究者との交流していくため、
全ての都道府県で開催する目標を立て、2006年にこれを実現するに至った。
 しかしながら、地方史・地域文化のような地方特有の人文科学を中心とした研究
や地方における情報資源を対象とした研究報告は多くない。そこで、地方史研究に
おける情報資源とその活用をテーマとした研究報告を人間文化研究機構理事である
石上英一氏にお願いした。石上氏は奄美市における「市民と共に育て継承する奄美
遺産事業」などに参加されており、奄美群島を中心とした地域の歴史・文化に造詣
が深い。また、2010年3月まで東京大学史料編纂所に所属されており、日本史史料に
関するデータベースであるSHIPS(東京大学史料編纂所歴史情報処理システム)の構
築における中心人物でもある。地方史・地域文化の研究はどのようであるか、そこ
での情報にはどのようなものがあるか、どのように管理されているか、などの点に
おいて石上英一氏ほどふさわしい人物はいないであろうと私は考えている。

 地域に密着した研究報告会は、現地に赴きそこで行われる方が実感がわき、より
研究成果ならびにその地域の文化資源の重要性が把握しやすいと考えた。そこで、
現在石上氏が研究の対象としている奄美において開催することとした。
 さらに石上氏より奄美市教育委員会文化財室長である中山清美氏、および奄美郷
土研究会の弓削政己氏をご紹介いただき、CH93にてご報告いただくことができた。
この関係から奄美市教育委員会および奄美郷土研究会との共催を実現することがで
き、多大なご協力をいただくことができた。ここにて石上英一氏、中山清美氏、弓
削政己氏ならびに奄美市教育委員会、奄美郷土研究会に厚く御礼申し上げる。

研究報告会について述べる。CH93のプログラムは次のとおりである。

○1日目
・一般セッション
(1)日本古文書ユニオンカタログ-古文書情報を網羅するための
  “古文書リンケージ”プラットフォーム
  山田太造(人間文化研究機構)、近藤成一(東京大)、野村朋弘(東京大)
(2)網羅性を志向しない異体漢字対応テーブル
  高田智和(国語研)、盛思超(国語研)、山田太造(人間文化研究機構)
(3)Dickens, Collins共著作品への文体統計学的アプローチ
  田畑智司(大阪大)
(4)モーションデータを用いたバレエ古典作品の群舞シミュレーション
  吉田逸生(龍谷大)、曽我麻佐子(龍谷大)
(5)学校英文法の学参例文データベースとその応用
  -日本人英語科学論文における学校文法項目の使用傾向-
  田中省作(立命館大)、小林雄一郎(大阪大)、徳見道夫(九州大)、
  後藤一章(摂南大)、冨浦洋一(九州大)、柴田雅博(九州大)
注)(3)と(4)の発表順が入れ替わった。

○2日目
・企画セッション「歴史文化遺産とその情報資源化」
(6)奄美遺産から日本列島史を見直す
  石上英一(人間文化研究機構)
(7)奄美歴史遺産データーベースによる地域歴史文化遺産の活用と保全
  中山清美(奄美市立奄美博物館)
(8)奄美群島歴史文書の概要と歴史像の再構築について
  弓削政己(奄美郷土研究会)
・パネルディスカッション「歴史文化遺産とその情報資源化」
・奄美大島遺跡等巡検(奄美市笠利赤木名地区)

○3日目
・奄美博物館、奄美パーク、奄美図書館等巡検

 研究報告について述べる。
 1日目の一般セッションには20名以上の参加があった。関東・関西で開催するCH研
究会と遜色のない参加人数である。奄美までの交通事情や開催時期を鑑みると関心
の度合いは高かったと考えられる。5件の発表内容は、それぞれ、日本史に関する古
文書目録のシステム構築事例、異体漢字対応テーブルの作成事例、19世紀英国の作
家の共著作品の文体特徴分析、バレエの群舞のシミュレーションを行うシステム構
築とCGアニメーション、学校英文法の学参例文データベースの構築とそれを用いた
科学論文の特徴分析であった。いずれも今後の研究の進展が期待され、次の研究報
告が待ち遠しい。
 2日目は「歴史文化遺産とその情報資源化」と題した企画セッションが行われた。
CH研究会関係者だけでなく、奄美教育委員会や奄美郷土研究会の関係者、報道陣な
ど全体で80名以上が参加した。

 石上氏の発表は、奄美諸島史研究におけるこれまでの流れとその誤り、奄美諸島
史の見直しの試み、奄美における歴史文化の基本構想とその課題についてであった。
奄美における史料や周辺地域との関係などに対する再考の必要性、それを裏付ける
ための史料・考古などの情報群に関する重要性などを含んでいた。またこれらの文
化遺産的情報群を把握するための事業についても触れていた。
 中山氏の発表は、奄美大島における環境・民俗・考古などでの情報群についてで
あった。墓地における調査を通した地域の特徴の考察や奄美大島における自然的・
文化的景観について報告があった。2010年10月の奄美大島豪雨災害後の文化財レス
キューの取り組みについても報告された。これはまさに奄美市立奄美博物館におけ
る文化遺産に対する取り組みの報告であった。
 弓削氏の発表は、中世・近世から明治までの奄美群島関係史料の概要とその重要
性、調査・保存の必要性などについてであった。奄美群島関係史料は奄美群島史料
だけではなく薩摩関係史料や琉球関係史料さらには清などの海外の史料とリンクす
るという史料の構造を示すとともに、そこから新たな奄美史の解釈についても報告
された。
 いずれも地方の歴史・文化に関する情報群とその利活用に関する発表であり、ま
さにCH研究会が対象としている分野であると考えている。惜しむらくは、内容が多
岐に渡ったため時間が足りず、もう少し深く聞きたい内容が多々あったのが残念だっ
た。その後のパネルディスカッションでは企画セッションの題目「歴史文化遺産と
その情報資源化」をテーマに、奄美における情報資源のデジタル化の状況・方法・
公開・活用について意見交換が行われた。

 以上、粗末な報告で申し訳ない。個人的にはCH93を奄美大島で開催したことは大
成功だったと思っており、CH研究会にとっても非常に意義があったと感じている。
日本には奄美以外にまだ多くの地方特有の研究がある。地方特有の人文科学を中心
とした研究や地方における情報資源を対象とした研究報告をCH研究会で今後も続け
ていくべきであると考えている。

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◇イベントレポート(2)
シンポジウム「文化情報の整備と活用-デジタル文化財が果たす役割と未来像-」
http://www.digital-heritage.or.jp/symposium3/
(福島幸宏:京都府立総合資料館)

 本レポートは、2012年2月2日(木)の午後、東京駅前の丸ビルホールで開催され
たシンポジウム「文化情報の整備と活用-デジタル文化財が果たす役割と未来像-」
についてのものである。主催は一般財団法人デジタル文化財創出機構、後援は総務
省と文化庁で、当日は2012年で一番の大雪にかかわらず、230名の参加者を集めた。
なお筆者はデジタル文化財創出機構の戦略研究委員の一員であるため、その立場か
らのレポートであることをお断りしておく。また、詳細なプログラムは、主催のデ
ジタル文化財創出機構の情報( http://www.digital-heritage.or.jp/symposium3/
に譲り、筆者の印象に残った論点を中心に述べる。
 デジタル文化財創出機構は、「文化財のデジタル化と公開による世界レベルの文
化情報発信と交流に寄与すること」を目的として2010年5月に発足した財団で、これ
まで2回のシンポジウムと10回以上の研究会を行ってきた。今回は、2012年春を目処
にまとめる「文化力発信のための政策提言」の検討と、関係者を糾合した「文化情
報の整備と活用「100人委員会」」発足を目的として開催された。

 まず、青柳正規・独立行政法人国立美術館理事長と長尾真・国立国会図書館長か
らキーノート報告が、青木保国立新美術館長からゲストスピーチが行われた。青柳
氏は現状を歴史的に位置付けた上で、Europeana( http://www.europeana.eu/ )の
取り組みなどを紹介して、デジタル化をテコとして文化行政の将来構想・戦略を形
成していく事の重要性を強調した。長尾氏は、ユネスコのワールドデジタルライブ
ラリ( http://www.wdl.org/ )の事例などを引いて、利用者がどこにいても資料を
利用できるように整備することが目的とされるべき、と述べた。青木氏は、東アジ
アにおける国際的な文化環境の激変のなかで日本の政府や企業は何も仕掛けてない
のでは、と危機感をあらわにし、特に現代の日本文化の発信を軸に、日本への関心
を喚起する仕掛けを作って行くことを主張した。3氏とも大きな視点から文化戦略構
築の重要性を述べたと言えよう。
 続いて、八村広三郎・立命館大学教授、大貫美佐子・アジア太平洋無形文化遺産
研究センター副所長、藪内佐斗司・東京藝術大学教授、吉見俊哉・東京大学教授か
ら、最新動向の報告が行われた。八村氏は近年のデジタルヒューマニティーズの動
向を参照しつつ、特に貴重な資料を対象としたデジタルアーカイブズから「普通」
の資料を大量に処理する発想の転換が重要とし、大規模デジタル化には国家的支援
が必要、とした。大貫氏はインドや国内での経験から、無形文化保存のための記録
化とその活用の重要性を強調した。藪内氏は迅速な基礎教育のためのデジタルデー
タの活用と、一種のエンタメ化による当該分野発展の可能性を示唆した。
 最後に、まとめも兼ねて登壇した吉見氏は、現状からの飛躍のために総合的なプ
ラットフォームの構築が重要、とし、課題の発見、目的の共有、制度の構築という
ステップの中で第2・第3段階に至っているとして、これまでの戦略研究委員会での
議論をとりまとめ、(1)文化資源の俯瞰的な調査、(2)新しいタイプの人材育成、
(3)法的整備、(4)地域と全国的な拠点の形成、を政策提言のたたき台として示
した。
 休憩ののち行われた「100人委員会」総会では、戦略研究委員会で議論してきた、
MALUI(*1)連携やプレ文化資源、3層構造の人材と拠点の素案が高野明彦・国立情
報学研究所教授と佐々木秀彦東京都美術館交流担当係長から示され、人材育成と拠
点形成に絞って議論が行われた(これらについての基礎的検討はNPO知的資源イニシ
アティブ編2011『デジタル文化資源の活用』(勉誠出版)
http://bensei.jp/index.php?main_page=product_book_info&products_id=20007
に掲載されている)。
 各委員からは、これまでの取り組みの達成点整理や個別の活動を結びつける仕組
みの重要性、自発性喚起の仕組み、MLA連携を行う際の留意点、現物資料との関係、
検索システムの課題、利用者層の設定とメリットの提示、マネタイズの視点や産業
化との関係、資金調達の問題などが出され、非常に活発な議論が行われた。最終的
に一種の運動体として100人委員会が継続されるべき事、さらに恒常的に議論される
なかで制度化につなげていくことが提起された。
 最後に、森本公誠東大寺長老から新設された東大寺総合文化センター
http://culturecenter.todaiji.or.jp/ )の取り組みについてのゲストスピーチ
が行われた。森本氏は多様な価値を内外に伝達する発信施設としてセンターを位置
付け、今後は所蔵資料をデジタル化と関連させて整理していく方針を述べられた。

 現在、様々な政府機関や団体が美術品・文化財・書籍・歴史資料を大規模にデジ
タル化する仕組みを構想している。この機構の活動や今回のシンポジウムも、その
動向のなかで捉えられるものであろう。その視点で見れば、あまたある試みのひと
つにすぎないとも言える。しかし、分野や立場の違いを超えた議論はすでにはじま
っている。具体的な政策提言と、それを実現化するための短期的なゴールと中期的
なタイムスケジュールの設定を練り込む準備は充分にある。関係政府機関や各法人、
地方自治体への働きかけを行い、構想を実現化していく過程で、この活動はユニー
クなものとなって行くであろう。みなさまの積極的な参加を望みたい。

(*1)MALUI:MはMuseum、AはArchives、LはLibrary、UはUniversity、IはInudustry
の意

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◇イベントレポート(3)
Code4Lib Conference 2012参加報告
http://code4lib.org/conference/2012/
(大向一輝:国立情報学研究所)

 2012年2月6日から2月9日にかけて、シアトルにてCode4Lib Conference 2012が開
催された。
 Code4Libは図書館の中でソフトウェアや情報サービスに関わる人々のコミュニテ
ィーであり、主に図書館員やエンジニアが参加している。年に一度のConferenceは2
006年から開催されており、今回は7回目にあたる。
 250名の参加枠が予約開始から約1時間で埋まるほどの人気で、会場は熱気にあふ
れていた。

 会議は2つの基調講演、一般発表、ブレイクアウトとライトニングトークの4種類
のセッションから構成されている。また会期初日はプレカンファレンスとしてチュー
トリアル形式のセッションがあった。

 一般発表は事前に募集された提案の中から参加者による投票で選ばれた22件であ
る。
 ブレイクアウトセッションは、当日会場の掲示板に話題にしたいテーマを書いて
おき、セッションの時間帯に希望者が集まって議論するという形式である。ライト
ニングトークは1人5分の短いプレゼンテーションである。
 すべての発表はリアルタイム配信され、録画もされているので興味のある方はご
覧いただきたい。
http://www.livestream.com/code4lib

 基調講演の1つめはDan Chudnov氏(ジョージ・ワシントン大学)。Chudnov氏は
Code4Libの立ち上げに深く関わっており、自身のライフヒストリーを通じてCode4Lib
設立の目的や今後の展望について語った。Code4Libは「connect」を重視しており、
規模が拡大しても参加者同士ができるだけ交流できるようシングルセッション形式
を維持したいとのことであった。
http://cynng.wordpress.com/2012/02/07/code4lib-day-keynote-on-code4libcon/

 最終日に行われた2つめの基調講演者であるBethany Nowviskie氏(バージニア大
学)はオープンソースの次世代図書館システム「Blacklight」の開発に関わってい
る。その経験から、多人数でのプロジェクト運営に際する意思決定は全員の合意を
待つのではなく、反対意見が出るまで原則として先に進むべきという「lazy
consensus」の考え方が紹介された。またオープンな態度でのコミュニケーションの
重要性が指摘された。
http://cynng.wordpress.com/2012/02/09/code4lib-day-3-keynote-2-lazy-cons...

 一般発表の内容は多岐に渡るが、Linked Open Data(LOD)に関する発表とオープ
ンソースの検索エンジンSolrに関する発表がやや目立った。LODについてはデータ公
開の手段として広く認知され、図書館システムの標準対応が進んでいる模様である。
また、SolrについてはHathiTrust(書籍の全文デジタル化・保存プロジェクト)な
どの大規模なサービスでも利用されており、検索結果のランキングをどのようにチュー
ニングするかといった実務的な議論がなされていた。

 他にもユーザインターフェイスやログ解析など様々なテーマの発表があったが、
ほとんどのプロジェクトでソースコードが公開されており、ウェブ開発者のコミュ
ニティーによく似ているという印象を受けた。一方で、投票によって選ばれた発表
のためか、汎用的な技術に関する発表が多く、個別の事例紹介が少ないのが残念だ
った。

 ライトニングトークは30件近い枠が設けられ、うち4件が日本からの発表だった。
図書館・博物館などの施設情報・被災情報を収集するsaveMLAKプロジェクトと、南
三陸町図書館に対する支援に関する発表は参加者に強い印象を与えたようである。
また、図書館の統合検索サービス「カーリル」と、図書館の貸出履歴から人をマッ
チングする「Shizuku」についても大きな反響があった。

 全体の印象として、技術レベルだけを見れば国内も海外も大きな差はないことが
改めて確認できた。また、図書館コミュニティにおける技術者の層がそれほど厚く
ないという状況も変わらない。しかしながら、プロジェクトに対するリソースの集
め方、成果の見せ方の面では一日の長があり、その点で差があるのもまた事実であ
る。
 目に見える成果をコンスタントに出しながら、広く開発者を惹きつけていくこと
が重要であると感じた。

 次回2013年のConferenceはシカゴで開催される。(*1)

(*1)なお、Code4Lib JAPAN主催によるCode4Lib Conference 2012 参加報告会が、
3月5日に開催予定となっている。
詳細: http://www.code4lib.jp/2012/02/947/

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◇イベントレポート(3)
第7回Osaka.R
http://atnd.org/events/25001
(小林雄一郎:日本学術振興会特別研究員)

 2012年2月12日、大阪大学豊中キャンパスにて、統計解析言語Rの勉強会である
Osaka.R(*1)が開催された。
 R(*2)は、S言語をモデルとして1990年代に誕生して以来、進化を続けているオ
ブジェクト指向のプログラミング言語で、高度な統計解析機能と強力なグラフィッ
クス機能を兼ね備えた開発環境である。そして、Rは誰でも無料でインターネット上
からダウンロードして、自由に利用することができるため、今では「統計解析の共
通語(lingua franca)」(B. S. Everitt & T. Hothorn, A Handbook of
Statistical Analyses Using R, Chapman & Hall, 2006)と呼ばれるほどである。
また、世界中で多くのR勉強会が結成され、国内では、Osaka.R以外に、Tsukuba.R、
Tokyo.R、Nagoya.R、Hiroshima.R、Okinawa.Rなどが存在し、2010年からは年に一度、
Japan.Rという全国大会も開かれている。

 第7回Osaka.Rでは、90分間の初心者講習会のあと、Rで綺麗な図を作成するための
フォントの使い方、Rを直観的に操作するためのGUIの紹介、Rによるテキストマイニ
ングの前処理、Google AnalyticsとRを使ったアクセスログの解析、Rによる方言の
ネットワーク分析に関する5件の発表があった。他のR勉強会に比べて、Osaka.Rは、
言語学系の参加者が多く、過去には、「R言語によるコーパス分析入門」(第4回)、
「TwitterのデータをRであれこれ」(第4回)、「Rでとる文体指紋:英国Victoria
朝の作家Charles DickensとWilkie Collins」(第5回)などのテキストマイニング
に関する発表が行われた。
 人文情報学との関係では、Rは地理データの解析に用いられることも多く、谷村晋
「Rで学ぶデータサイエンス7-地理空間データ分析」(共立出版、2010)という書
籍も出版されている。また、それに関連するR勉強会の発表としては、「Rを使用し
たGISの表現基本編」(第6回Osaka.R)、「rgdalパッケージを用いたリモートセン
シング解析(ヒマラヤの氷河の事例)」(第5回Nagoya.R)、「空間データのための
回帰分析」(第1回Hiroshima.R)、「Rを用いた地震データの可視化」(第2回
Hiroshima.R)などが挙げられる。

 近年は、人文学研究にデータ解析が援用されることも多く、情報処理学会の人文
科学とコンピュータ研究会などでも、Rによる統計処理や可視化を用いた発表が徐々
に増えつつある。このようなRの普及とともに、様々な分野におけるデータ処理技術
が発達し、それぞれの学問領域に何らかのパラダイムシフトが起こることに期待し
たい。

リンク
(*1)Osaka.R #7 http://atnd.org/events/25001
(*2)The R Project for Statistical Computing http://www.r-project.org/
(*3)人文科学とコンピュータ研究会 http://www.jinmoncom.jp/

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 配信の解除・送信先の変更は、
    http://www.mag2.com/m/0001316391.html
                        からどうぞ。

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◆編集後記(編集室:ふじたまさえ)
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 前月に引き続き、充実のラインナップとなりました。個人的な話題で恐縮ですが、
普段はCode4Lib JAPANの事務局のお手伝いをしているので、今号に初めて掲載した、
Code4Lib Conference 2012についてはどのようなレポートになるのか楽しみにして
いました。人文情報学と図書館についての話題は、情報を扱うという点において共
有できる話題が多いと改めて実感しました。このメルマガをお読みの方々の興味は、
研究にあるのかもしれませんが、その研究を支えるデータや情報を扱う図書館につ
いての話題も適宜取り入れたいと考えています。

その他、ぜひ共有したい話題等ございましたら、遠慮なく情報提供をいただければ
掲載させていただきます。

◆人文情報学月報編集室では、国内外を問わず各分野からの情報提供をお待ちして
います。
情報提供は人文情報学編集グループまで...
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人文情報学月報 [DHM006] 2012年2月24日(月刊)
【発行者】"人文情報学月報"編集室
【編集者】人文情報学研究所&ACADEMIC RESOURCE GUIDE(ARG)
【E-mail】info[&]arg-corp.jp [&]を@に置き換えてください。
【サイト】 http://www.dhii.jp/

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