ISSN 2189-1621

 

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DHM 079 【後編】

2011-08-27創刊                       ISSN 2189-1621

人文情報学月報
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄Digital Humanities Monthly

             2018-02-28発行 No.079 第79号【後編】 720部発行

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 ◇ 目次 ◇
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【前編】

◇《巻頭言》「書物を隅々まで〈読む〉-「近代書物流通マップ」「蔵書印データベース」のビジョン」
 (青田寿美:国文学研究資料館・総合研究大学院大学)

◇《連載》「Digital Japanese Studies寸見」第35回「DH Awards 2017出場作品に学ぶ」
 (岡田一祐:国文学研究資料館古典籍共同研究事業センター)

【後編】

◇人文情報学イベントカレンダー

◇イベントレポート(1)「第132回アメリカ歴史学協会年次国際大会」
 (小風尚樹:東京大学大学院人文社会系研究科欧米系文化研究専攻西洋史学専門分野博士課程2年)

◇イベントレポート(2)「第二十回漢字文献情報処理研究会大会」
 (菊池信彦:京都府立京都学・歴彩館)

◇編集後記

◇奥付

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【人文情報学/Digital Humanitiesに関する様々な話題をお届けします。】
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◇人文情報学イベントカレンダー(■:新規掲載イベント)

【2018年3月】

□2018-03-03(Sat):
人文系データベース協議会 第23回公開シンポジウム「人文科学とデータベース」
(於・大阪府/大阪府立大学)
http://www.jinbun-db.com/news/23th_cfp

□2018-03-03(Sat)~2018-03-05(Mon):
国際ワークショップ「日本の古地図ポータルサイト」
(於・京都府/立命館大学 衣笠キャンパス ほか)
http://www.arc.ritsumei.ac.jp/GISDAY/2018/workshop.html

□2018-03-09(Fri)~2018-03-10(Sat):
デジタルアーカイブ学会第2回研究大会
(於・東京都/東京大学 本郷キャンパス)
http://digitalarchivejapan.org/1562

□2018-03-12(Mon):
第6回CODHセミナー 歴史ビッグデータ「過去の記録の統合解析に向けた古文書データ化の挑戦」
(於・東京都/国立情報学研究所)
http://codh.rois.ac.jp/seminar/historical-big-data-20180312/

【2018年5月】

■2018-05-12(Sat):
情報処理学会 第117回人文科学とコンピュータ研究会発表会
(於・東京都/東京電機大学)
http://jinmoncom.jp/index.php?CH117

■2018-05-15(Tue)~2018-05-16(Wed):
EuropeanaTech Conference 2018
(於・蘭国/ロッテルダム)
https://pro.europeana.eu/event/europeanatech-conference-2018

■2018-05-21(Mon)~2018-05-25(Fri):
2018 IIIF Conference
(於・米国/Library of Congress)
http://iiif.io/event/2018/washington/

Digital Humanities Events カレンダー共同編集人
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小林雄一郎(日本大学生産工学部)
瀬戸寿一(東京大学空間情報科学研究センター)
佐藤 翔(同志社大学免許資格課程センター 助教)
永崎研宣(一般財団法人人文情報学研究所)
亀田尭宙(京都大学東南アジア地域研究研究所)
堤 智昭(東京電機大学情報環境学部)

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◇イベントレポート(1)「第132回アメリカ歴史学協会年次国際大会」
 (小風尚樹:東京大学大学院人文社会系研究科欧米系文化研究専攻西洋史学専門分野博士課程2年)

 2018年1月4日から8日にかけて、氷点下10℃前後のアメリカのワシントンDCにて、第132回アメリカ歴史学協会(American Historical Association. 以下AHAと略)の年次国際大会が開催された。筆者は、1月5日の午前中に、国立歴史民俗博物館との「古代の百科全書『延喜式』の多分野協働研究」プロジェクトおよびMEDEAワークショップ(財務記録史料構造化のための国際的取り組み)の成果報告の一部として、同大会のパネルセッションの一つで研究発表を行った。
学会全体のプログラム詳細については大会ホームページをご覧いただきたいが[1]、非常に多岐にわたるテーマ別セッションが310にのぼったことは指摘しておきたい。本レポートではこれらすべてについては紹介できないので、筆者が触れることができた範囲で、特にデジタル・ヒストリーに関する研究発表の内容について紹介したい。なお、デジタル・ヒストリーに関するセッションだけで5日間の学会スケジュールを組むことも可能であるほどの充実ぶりであった。

[Getting Started in Digital History Workshop]

 まず筆者が参加したのは、初日に開催されたデジタル・ヒストリーの入門ワークショップのうち、Gephiを用いたネットワーク分析を扱った3時間のハンズオン・ワークショップである。Jason Heppler氏による講演の補助資料がWEB上に公開されているので、ご関心の向きはご確認いただきたい[2]。セミナーなどで参考にされる場合は、Jason Heppler氏の貢献に対して彼の氏名をクレジットしていただきたい。他のセッションに比べて、紹介の分量が多くなることを断っておく。

 このワークショップではまず、ネットワーク分析に入る前に、データ・ビジュアライゼーションの概要について、その手法上の目的や認知心理学などの観点から語られた。そもそも良いデータ・ビジュアライゼーションとは、「データについての真実を語るのは当然として、膨大なアイデアや知見を圧倒的に短い時間で、かつ必要最低限のスペースで表現すること」と定義された[3]。
議論の材料となるデータというのは、スプレッドシートを眺めているだけではその本質を掴むことは難しいため、まずは自らの理解のためにデータを探索し、そして他者に表現するためにデータ・ビジュアライゼーションが有効である[4]。また、可視化されたデータは、色や形に代表される要素同士の類似性、要素同士の近接性やグループ化などの認知心理学的な原則によって、意図しない結果をもたらすことも指摘された。その意味で、本当にデータ・ビジュアライゼーションが必要なのかどうか、強く問い続けなくてはならない。

 データ・ビジュアライゼーションの概要を述べた後は、歴史研究におけるネットワーク分析に関する事例がいくつか紹介され[5]、参加者の間でも実践例の共有が行われた。ネットワーク分析で重要なことは、例えばコミュニケーションの履歴に関する基本的事実が明らかになること、そしてその基本的事実をもとに議論を組み立てることである。

 こうした理論面での導入が行われた後、後半のハンズオン・ワークショップでは、ネットワーク分析のためのアプリケーションGephiの実習を行った[6]。Gephiは表形式のデータを読み込んで、ネットワークを構成する主体(ノード)とそれらをつなぐ線(リンク)の情報を作成してくれる特徴がある。
ワークショップの中で印象的だったのは、ネットワーク生成に必要な表形式のデータを作成する際に、参加者でGoogleスプレッドシートを共有し、自分の名前と研究キーワードを入力することによって、ネットワーク生成のデモンストレーションにつなげたことである。ハンズオン・ワークショップの進め方として新鮮であり、その場でしか生まれないネットワークが可視化されることに知的興奮を覚えた。もちろん、ネットワーク分析のためのツールや技術はGephiだけに限らないため、ご関心の向きは関連リンクをたどっていただきたい[7]。

 筆者も自らの研究でネットワーク分析を組み込んだ経験があったため[8]、新たな気づきや共感できるポイントを含めて、非常に実りの多いワークショップであった。

[Facilitating Global Historical Research on the Semantic Web: MEDEA]

 1月5日には、筆者がパネラーとして登壇としたセッションが開催された。セマンティックWebの議論を財務記録史料構造化に応用するとともに、国際的に共同研究を促進するためのMEDEA(Modeling semantically Enriched Digital Edition of Accounts)ワークショップの報告である。
MEDEAは、アメリカNEH(the National Endowment for the Humanities)とドイツDFG(the Deutsche Forschungsgemeinschaft)の支援により開催されており、筆者もこれまでアメリカのWheaton Collegeで開催された国際ワークショップで発表した経験があり[9]、今回のAHAもMEDEAの活動の一環である。

 パネルでは3つの報告が行われ、すべて共通して財務記録史料の構造化に関するポーランド、日本、ドイツの研究プロジェクトが紹介された。特にドイツの研究プロジェクトを主導するGeorg Vogeler氏は、MEDEAワークショップの主要メンバーの一人であり、欧米圏で中世後期に確立された複式簿記の理論をTEIで表現するためのセマンティックWebの枠組みについて研究している[10]。

 筆者の報告は、律令制下の日本における施行細則を定めた『延喜式』のテクストをTEI[11]でマークアップする国立歴史民俗博物館との共同研究プロジェクトの一環であった。『延喜式』は行政マニュアルとしての性質を持ち、散文形式ではあるものの、貢納品の規定など財務記録として把握できる記述も多いため、MEDEAワークショップの趣旨に沿うものである。
発表の中では、各国の財政規模を比較するための正税・公廨稲の額に基づく地図上でのデータ・ビジュアライゼーションや、当時社会に広く流通していたアワビの呼称を一覧できる円グラフ、そしてアワビの生産・消費状況を検証するための原文対照インタフェースの構築について主に発表した。今後も、MEDEAワークショップの成果発信によって、財務記録史料の構造化プロジェクトが普及し、統計情報の裏付けが欠かせない社会経済史などの領域で新しい知見が生まれることを、ワークショップの一員としても期待したい。

[Primary Sources and the Historical Profession in the Age of Text Search Part 3: Digital Texts and the Future of Digital History: Challenges, Opportunities, and Experimentation in Digital Documentary Editing]

 AHAでは、テクストサーチの時代における一次史料の扱いと歴史家としてのあり方を議論するDHセッションが5つ開かれた。本レポートでは、筆者が触れることができ、また聴衆の議論も盛り上がったパート3について紹介したい。

 このセッションでは、史料テクストの電子版を提供することに主眼を置いた実際のプロジェクトやすでに公開されているWebサービスを事例に、デジタル・ヒストリーの可能性を検討するものであった。ここで特に驚かされたのは、セッションで紹介されたほぼすべてのプロジェクトがTEIマークアップを基本としていることであり、そもそもTEIのメリットについて時間を割いて説明をしていないことであった。
XSLTその他の各種変換プログラムによって、検索利便性の高いデータベースが構築されるという認識は、すでにAHAの参加者にとっては前提知識となっているという印象を受けた次第である。

 具体的に紹介されたプロジェクトの例としては、ヴァージニア大学によるPapers of George Washington[12]、アメリカ国務省関連史料を扱うOffice of the Historianのプロジェクト[13]、19世紀初頭における「テキサス入植の父」として知られるスティーブン・オースティンの書簡を扱ったDigital Austin Papersプロジェクトなどがある[14]。筆者は、特にDigital Austin Papersプロジェクトが印象に残った。
というのも、このプロジェクトが公開するインタフェースでは、TEIマークアップに基づく基本的な検索(書簡の差出人・宛名、年月日、地名)はもちろんのこと、書簡の中での頻出語や頻出人名・地名についてのワードカウント、書簡を送受に関する地理情報のGoogle Map上での可視化、書簡が出された年代別の推移が提示される。そして最も目新しい機能として提示されたのは、書簡の文章における感情表現を表す語彙から感情分析を行うスコアを算出し、それぞれの書簡がどういった感情を表しているかの目安も表示することであった。
スコアの算出基準や、算出後の感情分類については議論の余地もあろうが、感情史の取り組みとしても注目に値すると感じた[15]。

 同セッションの最後では、FromThePageのBen Bloomfield氏が[16]、電子版の史料テクストをいかに持続可能なものにしていくかについて、アメリカにおける人文科学への助成金削減問題と絡めて論じた[17]。ここで提案されたのは、第一に、データの再利用を促進するためのデータ公開(GitHubや各機関のリポジトリ[18])、第二に、技術的な複雑さを極力減らすこと(ミニマル・コンピューティングの実践[19])、そして第三に、データ互換性の担保、である。
基本的なガイドラインではあるものの、具体的なプロジェクトがいくつも紹介されたセッションの中で位置づけられるにふさわしい内容であったように感じた。

[History from below in 3D: Digital Approaches to the History of Carceral Institutions]

 最後に紹介するのは、歴史研究における3D分析のセッションである。

 まず聴衆の関心を引いたのは、功利主義者ベンサムの考案した刑務所デザインであるパノプティコンの3D可視化のプロジェクトである[20]。円形に配置された独房の特徴から[21]、3Dモデリングのプロセスでは、ピザを描くのと同じ要領で、パターンの繰り返しにより円柱を生成したというエピソードに聴衆が沸いた。重要な指摘としては、3Dモデリングはあくまでモデル構築に過ぎず、完成形の提示というよりは分析の過程における可視化という意味合いが強い、というものであった。
本レポート冒頭で紹介したJason Heppler氏によるデータ・ビジュアライゼーションの概要ともリンクする指摘として、重要だと感じた。

 そして、大変完成度の高いプロジェクトと感じたものに、History of Crime in 3Dがある。これは、Old Bailey Onlineという近世イングランドにおける裁判記録集成として著名なデータベース構築を主導したTim Hitchcock氏の監修によるプロジェクトで、法廷における被告人や裁判員の位置関係の3D表示、裁判記録に見る裁判参加者それぞれの発言時間の年代別推移のカラーコーディングなど、多角的な統計情報を提示するもので、興味深く感じた。
こうしたデータベースの活用あるいは構築は、これからの歴史研究者にとって決して他人事と片づけられる問題ではないと思いを強くした次第である。

 AHAのセッションとは別に、1月5日の午後にはスミソニアン博物館の自然史博物館に赴くことができた。少しの時間ではあったが、躍動感ある剥製の展示など、記憶に鮮明に残る体験であった。末筆ながら、ワシントン滞在中にお世話になった国立歴史民俗博物館の後藤真先生、渋谷綾子先生に改めてお礼申し上げたい。

[1] https://www.historians.org/annual-meeting/2018-program
[2] https://jasonheppler.org/courses/aha-workshop-2018/
[3]Edward R. Tufte, The Visual Display of Quantitative Information, Graphics Pr. 2001.
[4]日本でも、データ・ビジュアライゼーションに関する書籍は多く出版され、セミナーなども多く開催されている。ほんの一例として、鈴木雅彦・鈴村嘉右『データビジュアライゼーションのデザインパターン20:混沌から意味を見つける可視化の理論と導入』技術評論社、2015年、Data Visualization Japan( https://data-visualization-japan.connpass.com/ )などを挙げておきたい。
[5]例えば、Ryan Cordel, David Smith, "Network of 'Viral Text' Sharing, 1836-1860" ( http://viraltexts.org/ ); Lincoln Mullen, "America's Public Bible" ( http://americaspublicbible.org/ ); Mapping the Republic of Letters ( http://republicofletters.stanford.edu/ ); PRBIS the Stanford Geospatial Network Model of the Roman World ( http://orbis.stanford.edu/ ); "Everything on Paper Will Be Used Against Me:" Quantifying Kissinger ( http://blog.quantifyingkissinger.com/ ) が挙げられた。
[6]Gephiについては以下を参照。 http://oss.infoscience.co.jp/gephi/gephi.org/index.html また、Gephiの使い方などについては、以下も参照。東京大学グローバル消費インテリジェンス寄付講座「データ可視化」 http://gci.t.u-tokyo.ac.jp/tutorial/visualization/
[7]D3.js( https://d3js.org/ ); Palladio( http://hdlab.stanford.edu/palladio/ ); cytoscape ( http://www.cytoscape.org/ )などが挙げられた。
[8]ネットワーク分析手法については、筆者のブログ記事に掲載した。atelier DH:デジタル・ヒストリーの作業場「天津条約改正交渉をめぐる情報ネットワークの可視化過程(1)~(5)」 https://naokicocaze.wordpress.com/2017/05/28/
[9]拙稿「『財務記録史料デジタル化の方法論をめぐる国際ワークショップ』参加報告」『人文情報学月報』第59号【後編】、2016年6月、 https://www.dhii.jp/DHM/dhm59-2 .
[10]Web上で閲覧できる比較的新しい成果としては、以下を参照。George Vogeler, ‘The Content of Accounts and Registers in their Digital Edition’, hcommons.org, https://hcommons.org/deposits/objects/hc:13208/datastreams/CONTENT/conte...
[11]Text Encoding Initiativeの略。人文学史資料のテクストを構造化するための国際的な枠組み。2018年9月には、非欧米圏で初めて東京でTEI年次国際大会が開かれる。
[12] http://gwpapers.virginia.edu/
[13] https://history.state.gov/
[14] http://digitalaustinpapers.org/
[15]感情史については、例えば以下を参照のこと。森田直子「感情史を考える」『史学雑誌』第125号第3編、2016年3月、375-393頁;伊藤剛史・後藤はる美編『痛みと感情のイギリス史』東京外国語大学出版会、2017年。
[16] https://fromthepage.com/
[17]発表スライドについては、Web上で公開されている。 http://content.fromthepage.com/preservable-digital-editions-at-aha2018/
[18]TEIファイルのリポジトリとしては、やはりTAPASプロジェクトが紹介された。 http://tapasproject.org/
[19] http://go-dh.github.io/mincomp/
[20] https://blog.digitalpanopticon.org/
[21]パノプティコンの構想図面は、以下を参照。 https://en.wikipedia.org/wiki/Panopticon

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◇イベントレポート(2)「第二十回漢字文献情報処理研究会大会」
http://jaet.sakura.ne.jp/?%E5%A4%A7%E4%BC%9A%E3%83%BB%E8%AC%9B%E6%BC%94%...
 (菊池信彦:京都府立京都学・歴彩館)

 2018年1月20日(土)、花園大学において、第二十回漢字文献情報処理研究会(以下、漢情研と略)が開催された。以下、各報告の概要をまとめ、最後に筆者の感想を述べることとしたい。なお、後述する上地報告以外の内容は、当日予稿集として会場で配布された『漢字文献情報処理研究』第17号に掲載されているので、あわせて参照してほしい。

 大会冒頭、花園大学の師(敬称略、以下同じ)による開催趣旨説明の後、まず、千田大介(慶應義塾大学)から「中国学研究・教育オープンプラットフォームのためのオープンプラットドーム構築-コンテンツを中心に-」と題した報告があった。その内容は、千田も参加している科研費プロジェクト「情報時代における中国学研究・教育オープンプラットフォームの構築」(研究代表者:二階堂善弘関西大学教授)に関する紹介であった。
プロジェクトは、日本における中国学の地盤沈下と若年層の情報行動の変化(すなわちPCからスマホへという変化)等を背景に、情報時代に対応した中国学の教育・研究方法の支援とその普及のためのコンテンツ等ウェブリソースの開発を行うというものである。その成果は、漢字文献情報処理研究会のウェブサイトにMediawikiを設置し、2019年度から公開を始める予定とのことであった。

 次に、上地宏一(大東文化大学)は、「大規模漢字集合の文字検索を自作する」と題し、「UCS漢字の公開IDSデータを加工したオリジナルの部品指定による漢字検索システムの試作」について、デモンストレーションを交えた報告を行った。報告者曰く、目的の漢字を「探せない」ものではないが、まだ課題の残るものとの評価であった。

 休憩を挟んで、特別セッション「デジタルデータの利活用と長期保存:大学図書館および人文・社会系研究者の役割」が開催された。ここではまず、小島浩之(東京大学大学院経済学研究科)からセッションの趣旨説明があり、その後、安形麻理(慶應義塾大学文学部)「デジタルアーカイブの動向と研究者の関わり」、森脇優紀(東京大学大学院経済学研究科)「クラウドソーシングによるデジタル資料(マニュスクリプト資料)の活用:Transcribe Benthamを事例として」、
西岡千文(京都大学附属図書館研究開発室)「IIIF準拠京都大学貴重資料デジタルアーカイブでの取り組み」、矢野正隆(東京大学大学院経済学研究科)「『デジタル化』とメディアの『保存』」の四氏からそれぞれ報告があった。

 安形は、デジタルアーカイブの定義の多様性の説明から始め、デジタルアーカイブの利活用に絡む問題として著作権と孤児著作物の動向を紹介し、書誌学研究者としての視点からデジタルアーカイブの問題点を指摘、最後に研究者によるデジタルアーカイブへの開発参加の必要性を指摘した。森脇は、クラウドソーシングの翻刻プロジェクトの「成功例」としてしばしば参照されるTranscribe Benthamを、西岡は自身が携わった京都大学貴重書デジタルアーカイブのIIIF対応事例をそれぞれ紹介した。
矢野報告は、上述の三者とは視点を変え、デジタル化による媒体変換が資料保存の上で持つ意味について論じるものであった。

 特別セッションの質疑応答では、デジタルアーカイブでたびたび優良事例のように取り上げられるクリエイティブ・コモンズ(CC)ライセンスについての議論があった。すなわち、CCライセンスは、作者が著作権を保持したまま、受け手側がライセンス条件の範囲内で再配布やリミックスなどをすることができるようにするものであるにもかかわらず[1]、すでに著作権が既に切れてしまっているようなデジタルアーカイブのコンテンツに対してもCCライセンスを掲げるのは、どのような根拠、あるいは理由があるのかという問題である。
もう一つの議論が、デジタルアーカイブの利用規定がそのウェブサイトの中でも利用者から見つけにくいような欄外最下部にあることが多いのは、利用契約上意味のあることなのかという問題である。筆者からは、マニュスクリプトのクラウドソーシング翻刻がもたらす西洋史研究への貢献は首肯するものの、しかしそのことによって、そもそもマニュスクリプトの読解能力を、特に若手研究者から失われることになりはしないのかという懸念を述べた。

 最後に筆者の感想を述べておきたい。漢情研は、会の名称が示す通り、特に東洋学を対象にした人文情報学的な研究会として知られている。今大会の前半の報告2件は、いずれも東洋学(あるいは中国学)を対象にした人文情報学研究であり、研究会のこれまでの積み重ねが感じられる充実した内容であった。筆者の専門は西洋史学であるが、日本の西洋史学における同様の取組や研究会活動は寡聞にして知らず、彼我の差を感じさせられた。
また、特別セッションは幅広い分野から報告者を集めて行われたもので、その分、テーマが東洋学から若干離れてしまった感はあったものの、そのことはむしろ漢情研の研究会コミュニティの広がりを示すものと評価すべきであろう。特別セッションの研究プロジェクトは、今後、関東で研究会を開催予定とのことだったので、これからの活動に期待したい。

[1]クリエイティブ・コモンズ・ライセンスとは. https://creativecommons.jp/licenses/ ,(アクセス日:2018-01-23)

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 配信の解除・送信先の変更は、
    http://www.mag2.com/m/0001316391.html
                        からどうぞ。

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◆編集後記(編集室:ふじたまさえ)
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 2月があっというまに過ぎ去りそうです。大変お忙しいところ、ご寄稿いただいたすべてのみなさまに感謝申し上げます。ありがとうございます!

 IIIFのイベントで、技術としては“枯れた”ものを採用しているところがミソだという主旨のツイートを見かけました。今回の巻頭言にも指摘された永続的な環境の確保にも関連するところとは思いますが、とても複雑な心境です。ソフトウェアの技術的な完成とハードウエアの進歩のかけ算をして最新のものにアップデートし、サービス提供を行っている身としては、提供する側の視点だけでなく、ユーザーの視点としても新しいものがよいはずだという認識を持っているからです。
この点についてはモヤモヤとしながらも、諦めずにずっと考え続けて向き合っていかねばならない課題なのだと思います。

 次号もお楽しみに。

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人文情報学月報 [DHM079]【後編】 2018年02月28日(月刊)
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