ISSN 2189-1621

 

現在地

DHM 033 【後編】

2011-08-27創刊

人文情報学月報
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄Digital Humanities Monthly

             2014-04-29発行 No.033 第33号【後編】 468部発行

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 ◇ 目次 ◇
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【前編】
◇《巻頭言》「ソーシャルメディアとフィールドワーク」
 (近藤康久:総合地球環境学研究所)

◇《連載》「Digital Humanities/Digital Historyの動向
      ~2014年3月中旬から4月中旬まで~」
 (菊池信彦:国立国会図書館関西館)

◇《特集》「デジタル学術資料の現況から」第2回
 ペルセウス・デジタル・ライブラリーのご紹介(2)
  -Perseusでホメロス『イリアス』を読む-
 (吉川斉:東京大学大学院人文社会系研究科 西洋古典学研究室)

◇人文情報学イベントカレンダー

【特別編】
◇基調講演和訳
「デジタル人文学の将来」
 (Neil Fraistat:メリーランド大学教授・ADHO会長)
 (日本語訳:長野壮一・東京大学大学院人文社会系研究科博士課程)

【後編】
◇イベントレポート(1)
シンポジウム「東洋学におけるテクスト資料の構造化とWebの可能性」(最終)
 (北岡タマ子:お茶の水女子大学)

◇イベントレポート(2)
『東洋学へのコンピュータ利用』第25回研究セミナー
 (安岡孝一:京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター)

◇イベントレポート(3)
「Code4Lib 2014」参加報告
 (高久雅生:筑波大学)

◇イベントレポート(4)
第2回「京都デジタル・ヒューマニティーズ勉強会」
 (上阪彩香:同志社大学大学院文化情報学研究科)

◇編集後記

◇奥付

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【人文情報学/Digital Humanitiesに関する様々な話題をお届けします。】
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◇イベントレポート(1)
シンポジウム「東洋学におけるテクスト資料の構造化とWebの可能性」(最終)
http://www.dhii.jp/dh/zinbun/sympo2013.html
 (北岡タマ子:お茶の水女子大学)

 最後の発表者、苫米地等流氏(人文情報学研究所)は、XMLを用いたサンスクリッ
ト文献校訂本の作成について発表した。これはコンピュータに入力して作成したテ
クストからXMLを用いて効率的に紙媒体の校訂本を作った経験についての話であった。
発表者はこれまでにオーストリア科学アカデミーでサンスクリット文献の校訂に携
わってきた。作業にはそのオーストリア科学アカデミーで開発・管理されているエ
ディタClassical Text Editor( http://cte.oeaw.ac.at/ )が使用された。

 校訂テクストを作成するにあたっては、当初からXMLを利用して作成を行なった。
まず、写本から翻刻を行なってDiplomatic editionを作成し、その後、校訂を行な
ってCritical editionを作成するという流れであった。すなわち、写本が複数ある
ときは、系統を勘案して校合を行なった。また、サンスクリット語からチベット語、
中国語に翻訳された文献もそれぞれの大蔵経の中に残されており、注釈文献も同様
に種々伝承されているため、それらをも参照しつつ校合を行なった。結果として、
校訂本には、本文平行句(パラレルパッセージ)、引用、出典/異読表記といった
情報が記載されることになった。また、別の要素として、セクション番号、パラレ
ル指示、対応漢訳、注釈レファレンス、校注の有無、写本葉番号といった情報も記
載する必要があった。これらの情報をXMLで記述するために、文書形式(スキーマ)
の設計を行なったが、当時のText Encoding Initiativeガイドラインに準拠するの
はやや難しかったため、独自に設計することとした。

 このスキーマに従ってテクストをマークアップしていき、フォーマットの変換を
行なうプログラムも作成し、TEXに落とし込んだ上、最終的に版下のPDFファイルを
作成した。

 結果として、校訂本の要素(Element)として採用したのは、章/セクション/パ
ラグラフ/本文(散文/韻文、校注、引用文(出典情報)、校注(異読情報、引用
元/平行句)といったものであった。このように構造化したことのメリットとして
は、データの操作、再利用、多様なメディアへの変形・変換といったことがしやす
いという点があげられた。これは、単にPDFやRTF、紙媒体といったものだけでなく、
Webや電子書籍にて公開する際にも同様である。

 質疑応答では、岩崎氏(東京大学)からスキーマの公開予定があるかどうか尋ね
られ、TEIへのフィードバックをすることで規格がより実践的なものになることに貢
献することへの期待が述べられた。永崎氏により、現行のバージョンでは、比較的
対応しているはずであるという点とTAPASプロジェクト(TEI Archiving Publishing
and Access Service, http://www.tapasproject.org/ )に貢献するという手もある
かもしれないとの補足がされた。

 大向氏(国立情報学研究所)は、目指すところを適切に反映していくためには
XSLTのみではない変換が必要になるだろうと指摘した。SGMLですべきようなXMLで書
けない構造をあえて書いているので、それをフォローするプログラムと構造が必要
になっている。人間言語との構成の違いが反映されていると言われ、今であればRDF
のアプローチであろうかという指摘もあった。永崎氏も、自然文を表現するには各
種の工夫が必要であることを指摘した。

 守岡氏(京都大学)は、設計したスキーマに合致しているかどうかの確認の困難
さと、TeXでは代替できないのか、等の指摘をおこなった。これに対しては、TeXで
は使い回しが効かないという回答があった。山田氏(東京大学)は、TeXからXMLへ
の変換に関して、大日本史料では、索引の位置は頁についているので、資料への関
連づけは二次的にしかわからないという状況であり、人名、地名は別に取り直して
いるということを述べた。また、紙で出力するにはTeXが良いと指摘した。

 最後のフリーディスカッションでは、大向氏からデータの利用における「信頼性
」についての話題が挙げられた。自らではなく、他者がデジタル化したものを使用
して研究するときに「ひどい目に遭う(遭った)」ということをよく聞くが、それ
の示すところは何であろうか。データベースを利用した際にCitationを行なおう、
また、それを評価しよう、という動きがあるが、そういうことで解決できるのだろ
うか。データの評価やデータセットに関するジャーナルが立ち上がるなど、関心が
高まってもいる。プロが作る情報、コミュニティが作る情報、いずれであっても参
照が取れることが大事なのではと思うがどうか。学術世界におけるコラボレーショ
ン(による人知の発展)と継続を考えるところにおいて、今後どのようなルールを
設けていくのかに関心があると述べた。

 それに対して永崎氏は、研究者が自身で一次資料を見ることの、人文学における
重視は変わらずにあるとしつつ、人文学研究者も(自身の研究対象の)コアでない
ところについては二次資料を使うことがあり、そのような場合には、他人のデータ
を使うということがあると指摘した。大内氏(筑紫女学園大)は、古典の文献にお
いては同じ字でも文脈によって違うように読まなければいけないことがあり、他者
の情報を参考にした場合、疑問が生じて調べ直すことになると余計な時間がかかる。
目録情報でも、記録されている尺が実際と違っていたりということがある。源氏物
語の研究においては池田亀鑑による『源氏物語大成』が多く参照され、大島本は参
照されにくかった。しかし原本にあたると、『源氏物語大成』も無批判には使えな
いことがわかる。納得した上で参照することが必要。一度評価が決まったものを無
批判に取り入れるということがあると、反対に研究に足かせになる。そのようなこ
とがあって、作られたデータではなくて自分で元に当たるということが研究そのも
のと言える部分があるという。お墨付きのあるデータがあるとよいが、それも難し
い。『源氏物語別本修正』では、ひとりが8割を確認して、次のひとりが大方をみて、
最後の一人が最終確認する、という方針で行なった。どのような過程でそのデータ
が作られたかということがわかることも重要だ。責任を持って確認できる人が確認
するということは大事だが、目指しているデータ量は、一人の人が取り組んで誤り
を発見していけるようなデータ量なのか。

 現状として、永崎氏からは、(とにかくあるデータを使用していくために)デー
タセット作成と貢献者の明示(評価)、DB使用の明記の呼びかけを始めている。作
られたデータをオーソライズすることの流れは出てきているという話があった。

 データ作りを担う人を評価する手段がないことの問題は依然としてあるが、仕事
とすればできないことはない。では、だれが担うべきことなのか、という問いもあ
った。それについて、職として専門化して、サブジェクトライブラリアン、URA(大
学リサーチアドミニストレータ)などのように、DBを作っていくための人がいても
よいだろう、とは大向氏。バイオ系では専門職化してきている。先ほどのデータに
関するジャーナルの対象になるようなコミュニティが成立してきている。ただこれ
にはデータとしてもある程度の規模感が必要になる。永崎氏も、アドミニストレー
ションとパラレルにDB作成が成立するようなことが可能になれば、それにも期待が
持てるという。既存の職種(職能)としてあるアーキビストの評価や司書の評価と
の比較ではどうかとは安岡氏。DBのアドミニストレータ、デザイナはそれらと同じ
ように評価されるべきなのだろうか。評価のシステム(枠組み)が必要だろう。

 守岡氏はデータを作るということの地道さを強調した。構成がまずむずかしい。
誤りが見つかることは10年後かもしれないという時間的スパン。90%達成と100%達
成の間に相当の労力差があるがそこに取り組まねばならない。結局、継続性と量を
重ねることが価値になる。現在の学術制度からいくと資金獲得の対象にも成りづら
い。競争的資金をとることは評価になるし、初期達成は評価になるが、それが継続
できるかは問われず、失われるものも多い。維持管理に適合するものがない。デー
タの正確性の検証についてカバーされないものが多く、電子化の必要性とコストの
バランスがどうかという問題もある。そのあたりにも、個人の評価や組織の評価が
関係してくるのだろう。

 一方で、青空文庫のまた別の大変さに守岡氏は触れた。機械支援可能だったかも
しれない点ができなかった例で、人文学が扱わなかった領域であり、自然言語の処
理の問題やコーパスのなさが影響している。DBの評価はできてきているかもしれな
いが、DB作成のためのツールの評価も必要。基盤をつくるための労力に対する評価。
「使われた」ということでの評価も必要だろうか。大向氏はルールが多すぎて新規
編集者が入りにくいウィキの例もあるという。オープンソースのコミュニティのス
タイルは、5年前からみてもやり方自体の更新・進化がある。フィードバックを衝突
させないツールなど、技術面のみだけではなく人間的な困難の解決のためにもツー
ルを使っていく余地があるのではないか。

 最後に、青空文庫編集者のひとりから、構造化していくことがデータ汎用の道だ
とすれば、大衆化のレベルで、学校教育の作文教育等で構造化に関することを学習
できるとよいかと思ったという感想が述べられた。

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◇イベントレポート(2)
『東洋学へのコンピュータ利用』第25回研究セミナー
http://kanji.zinbun.kyoto-u.ac.jp/seminars/oricom/2014.html
 (安岡孝一:京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター)

 2014年3月14日(金)京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センタ
ーにおいて、『東洋学へのコンピュータ利用』第25回研究セミナーが開催された。

 この研究セミナーは、1990年以来、年1回の頻度で開催されており、最初の13回は
京都大学大型計算機センターの主催だった。その後、2003年より京都大学人文科学
研究所附属漢字情報研究センターの主催となり、さらに2010年からは、京都大学人
文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センターが主催するに至っている。

 『東洋学へのコンピュータ利用』第25回研究セミナーは、これまでとは会場を変
え、東アジア人文情報学研究センター2F大会議室でおこなわれた。スパニッシュ様
式の修道院を模した白亜の建物で、午前に2件、午後に4件の発表があった。

(1)国際化ドメイン名における「堺」と「界」
 安岡孝一(京都大学)

(2)比較的最近のCHISE
 守岡知彦(京都大学)

(3)時間情報を取り扱うための課題の整理を試みる-日本史資料を題材に-
 後藤真(花園大学)

(4)日本南北朝期古記録テキストを用いた潜在的トピックの検出と時系列変化
 山田太造(東京大学)・野村朋弘(京都造形芸術大学)・井上聡(東京大学)

(5)Conventions for a repository of premodern Chinese texts
 Christian Wittern(京都大学)

(6)東洋学のツールとしての翻デジ2014における諸課題
 永崎研宣(人文情報学研究所)

 (1)は、漢字の異体字における日本と中国の差異が、国際化ドメイン名において
どう問題となっているかを明らかにするものだった。(2)は、オブジェクト指向の
文字処理技術として発展してきたCHISEが、微視的にはグリフ階層というモデルを取
り入れ、巨視的には古典中国語形態素用例を取り入れることで、どのように発展し
てきているかについての発表だった。(3)と(4)は、いずれも日本史資料に対す
る研究発表で、(3)は時間概念の導入、(4)はLDAによる潜在的トピック抽出、と
いうそれぞれ最先端の話題に関するものだった。(5)は、古典中国テキストの管理
手法として、gitベースでの分散システムを提案し、自由に改変可能な古典テキスト
と、その管理手法の得失について論ずる発表となった。(6)は、進行中の翻デジ
2014プロジェクトに関し、デジタル翻刻というものの設計思想から実際例に至るま
で、幅広い発表となった。

 なお、当日は会場の都合上、公式USTREAMは流されなかったが、当日のTweetをま
とめた http://togetter.com/li/642076 に、かなり有用な情報やリンクが含まれて
いる。興味のある向きは、ぜひ参照されたい。

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◇イベントレポート(3)
「Code4Lib 2014」参加報告
http://code4lib.org/conference/2014/
 (高久雅生:筑波大学)

 2014年3月24日から27日まで、米国ノースカロライナ州ローリーで開催された国際
会議Code4Lib 2014に参加してきた。筆者は2010年にこの会議に初めて参加してから、
5年連続の参加となる。

 この会議はアメリカ・カナダを中心とする、図書館及び類縁機関におけるソフト
ウェア開発者たちの草の根コミュニティによる運営で開催されている。このコミュ
ニティの中心にいるのは、オープンソース好きで、ギークを自称するエンジニアた
ちである。国内における図書館サービス用のソフトウェアは、ソフトウェア企業が
開発したパッケージソフトウェアをカスタマイズして導入するケースが大半なので、
あまりなじみがないかもしれないが、北米では、図書館サービスを開発する際にエ
ンジニアを雇用し、内製によりソフトウェア開発を行うスタイルも比較的よく見ら
れる。特に、外部資金等を調達し、新しい図書館サービス用のオープンソースソフ
トウェアの開発チームをつくり、その開発されたソフトウェアを使って図書館サー
ビスを運用していくというパターンも見られる。また、ソフトウェアエンジニアだ
けでなく、図書館員、ソフトウェア運用サポート担当者、メタデータ専門家、アー
キビストなど、その境界も広げながら、コミュニティ自体が広がりを持っているの
も特徴的である。数年前に始まったエンジニアの求人用システムcode4lib jobs[1]
もコミュニティ自身の手によるものであり、職名や求人機関の豊富さは、そのよう
なコミュニティの広がりを反映している。博物館や文書館におけるシステムやサー
ビス開発のための取り組みについても取り上げられている。

 さて、会議の話に戻ろう。会議の内容は、プレカンファレンス、基調講演、口頭
発表、ライトニングトーク、ブレイクアウトセッションの5つから構成される。また、
期間中の朝食とランチは会議による提供であり、食事を取りながらも参加者との会
話を楽しめる。

 プレカンファレンスはワークショップ形式のもので、10~20名程度の小部屋に分
かれて、各セッションテーマについての発表や議論を行う。筆者は「図書館・文書
館・博物館における自然言語処理」(Computational Linguistics for Libraries,
Archives and Museums)セッションに参加した。テキストマイニングによる曖昧性
解消や画像OCR化、音声書き起こしなど様々な技術的な課題を持つ機関関係者や研究
者による発表ののち、ディスカッションを行った。

 口頭発表セッションでは多様な発表があり、印象的なものをいくつか紹介したい。

●電子化書籍のWeb用ビューア:エジプトのアレクサンドリア図書館で開発したスキ
 ャンした電子化書籍を閲覧するためのビューアの開発に関する事例報告。著作権
 処理の状態に応じて表示方式を変えたり、ブックマークできる機能などに特徴が
 ある。
●ディスカバリーサービスにおける検索内容をリアルタイムに流す可視化ツール:
 従来の資料が電子リソースに置き換わっていく中で、図書館員たちが利用者の探
 索の様子を実感することができないという課題を解決するために、Summonディス
 カバリーサービスの検索クエリをリアルタイムに取得して可視化するツールを開
 発したとの報告。
●主題ブラウズのための検索ツール:OPAC上でのブラウジング機能に資するための
 類似書誌表示機能の開発事例の報告。件名標目データの類似度を元に類似図書を
 リスト化して推薦する仕組みを開発し、運用してみた評価結果を報告した。
●ニューヨーク公共図書館(NYPL)における蔵書ネットワークデータの可視化:
 NYPLにおける図書館蔵書コレクション全体を、主題件名等の情報を使ってクラス
 タリングし、ネットワーク状に可視化する試みの報告。全蔵書が主題ごとにネッ
 トワーク可視化された様子は圧巻だった。

 これらの発表に加えて、5分間のライトニングトーク発表が毎日10件前後あり、さ
らに基調講演が2件あった。初日の基調講演はWikimedia財団のSumana
Harihareswara氏で、MediaWikiソフトウェアの開発、運用チームを率いている経験
から、ユーザエクスペリエンス(UX)重視と、それがもたらす多様性配慮やユニバ
ーサルデザインの重要性について熱く語った。最終日の基調講演はソフトウェア開
発業界における女性の役割や権利向上を訴えるNPO組織Ada Initiativeの創始者
Valerie Aurora氏で、講演形式ではなく、インタビュー形式で行われた。インタビ
ュアーはRoy Tennant氏(OCLC)が務め、ソフトウェア開発やオープンソースコミュ
ニティにおける女性支援の役割などが議論された。基調講演は2人とも女性開発者に
よるものであったが、どちらの講演者も、ソフトウェア開発者という男性人口が多
いコミュニティにおいて、女性やマイノリティ等の多様性を確保したり、支援する
ことが、より広い意味で人々の暮らしを豊かにすることにつながるとの示唆を与え
る内容であった。

 なお、これらの発表セッションの模様はすべてYouTubeを通じて配信され、アーカ
イブされているので、関心のある方はぜひご覧いただきたい[2]。

 今年の会議の発表全体を通じて目立ったキーワードは「可視化」と「多様性」だ
ったように思う。可視化技術の報告が増えていることは、ビッグデータとも言われ
る膨大な電子化リソースの情報などを処理する機構が整ってきた影響に加え、D3.js
を始めとするフロントエンドツールがそろってきたポジティブなサインのようにも
思える。

 また、多様性という点では、参加者そして発表者がさまざまな立場からあること
も重要である。今年の会議は主催者発表では10カ国351名の参加者であった。その中
には、北米(アメリカ、カナダ)だけでなく、エジプト、インドネシア、ノルウェ
ーなど、アジア・ヨーロッパ圏からの参加者も見られ、もちろんわれわれ、日本か
らの参加も毎年のこととしてアナウンスされた。さらに、こういった遠方からの参
加者多様性を確保するために、スポンサーを募って、マイノリティ参加のための助
成金を出すことも毎年続いている取り組みだ。今年は9名の参加者が助成金を得て参
加していた。

 また、会議初日には地元のノースカロライナ州立大学(NCSU)のハント図書館の
見学も行われた。NCSUは全米屈指の図書館サービス開発チームを擁する先進的な図
書館であり、ハント図書館は自体もそれに呼応するかのように、自動書庫をその場
で操作できるデモ検索端末や、Web上の百科事典ウィキペディアが編集される様を可
視化、可聴化する「Listen to Wikipedia」展示スペースなど、ギークっぽい面白い
仕掛けにあふれていたのも印象的だった。

 最後に、会議は毎年開催され、来年は西海岸ポートランドでの開催が決まった。
Code4Lib JAPANは北米の会議に刺激を受けて2010年に始まった取り組みだが、昨年
夏にはついに国内でCode4Lib JAPANカンファレンスを開催した。今夏にもカンファ
レンスは開催される予定となっているので、ぜひ多くの方に参加いただきたい[3]。

[1] http://jobs.code4lib.org/
[2] http://code4lib.org/conference/2014/schedule
[3] http://wiki.code4lib.jp/wiki/C4ljp2014

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◇イベントレポート(4)
第2回「京都デジタル・ヒューマニティーズ勉強会」
 (上阪彩香:同志社大学大学院文化情報学研究科)

 2014年4月13日(日)、京都市内にて第二回目の勉強会を行った。本勉強会は、デ
ジタル・ヒューマニティーズ研究の最新動向を追い、理解を深めることを目的とし
ている。前回の勉強会に引き続きThe Journal of Digital Humanities Vol.1 No.2
[1]を題材とし、参加者が各々の担当記事についてレジュメを作成し、報告すると
いう形式で行われた。

橋本雄太(京都大学大学院文学研究科)
担当記事:Diane M. Zorich, “Transitioning to a Digital World: Art History,
its Research Centers, and Digital Scholarship”
 このエッセイでは、美術史研究の分野におけるデジタル技術による革新の多くが、
伝統的な研究組織の外部で行われる傾向にあることを指摘し、この分野におけるデ
ジタル技術の利用に関する意識調査から、デジタル技術を用いることには賛否両論
がみられるが、将来、若い世代の研究者が活躍するころにはデジタル技術を美術史
に用いるというアイディアは受け入れられると多くの研究者によって考えられてい
るということが紹介された。

Kyle Alexandar Tompson(京都大学大学院文学研究科)
担当記事:Andrew Prescott, “An Electric Current of the Imagination: What
the Digital Humanities Are and What They Might Become”
 このエッセイでは、芸術作品を例として、デジタル・ヒューマニティーズの現状
と将来について述べられており、著者は科学者、学芸員、人文学研究者、芸術家の
協力のもとにデジタル・ヒューマニティーズが成し遂げられるよう努めるべきだと
主張している。

上阪彩香(同志社大学大学院文化情報学研究科)
担当記事:Ted Underwood and Jordan Sellers, “The Emergence of Literary
Diction”
 英語は社会的要因から12世紀以前と以後を境界として単語の起源が区別されるが、
このエッセイでは、文学作品のカテゴリーにおける単語の用いられ方の違いを以前
に使用され始めた単語と以後に使用され始めた単語に着目することで、文学史にお
ける傾向を定量的手法によって、視覚的に示している。

 今回の勉強会も専門が異なる参加者の間で、活発な意見交換ができた。普段、自
らの研究分野の記事を読むことが多いため、このような勉強会で様々な分野の考え
に触れられ、刺激を受けた。

 第三回目の勉強会は、6月14日(土)に京都市内で開催予定である。(参加希望の
方は、橋本 yhashimoto1984[&]gmail.com までご連絡下さい)
(注)[&]を@に置き換えてください。

[1] http://journalofdigitalhumanities.org/1-2/

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 配信の解除・送信先の変更は、
    http://www.mag2.com/m/0001316391.html
                        からどうぞ。

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◆編集後記(編集室:ふじたまさえ)
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 今号は、特別編として講演原稿の和訳をお届けしましたので、全体として3部構成
とさせていただきました。特別編の本文だけで2万字近くありますが、ぜひ時間をか
けてでも読んでいただけたら幸いです。

 本編についても、巻頭言をはじめ、たくさんの皆さまにご協力いただきました。
ご寄稿、ありがとうございました。

 第32号から始まった特集ですが、具体的なツールの紹介に入ってきて、サイトを
ぱっと見ただけではわかりづらいような使い方も理解できました。次号以降では、
このサイトの裏側をご紹介いただけるとのこと、楽しみです。

 ちなみに、今回のギリシア古典文字については、次のサイトの変換ツールを使っ
て文字の対応を進めさせていただきました。

【ユーティリティ:ギリシア文字パッド】
http://www.babelbible.net/lang/grpad.htm

 そもそもギリシア語自体が不慣れな私にとっては単純なアルファベットの対応が
わかるだけでも大変助かりました。

 イベントレポートの中では、個人的には、Code4Lib 2014カンファレンスのレポー
トを楽しみにしていました。次回の西海岸での開催はもちろん、Code4Lib JAPANカ
ンファレンスも夏に開催予定とのことで、こちらも楽しみです。

 ご寄稿をいただいた全ての皆さまに改めてお礼を申し上げつつ、第33号を締めく
くりたいと思います。ありがとうございました。

◆人文情報学月報編集室では、国内外を問わず各分野からの情報提供をお待ちして
います。
情報提供は人文情報学編集グループまで...
       DigitalHumanitiesMonthly[&]googlegroups.com
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人文情報学月報 [DHM033]【後編】 2014年04月29日(月刊)
【発行者】"人文情報学月報"編集室
【編集者】人文情報学研究所&ACADEMIC RESOURCE GUIDE(ARG)
【E-mail】DigitalHumanitiesMonthly[&]googlegroups.com
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【サイト】 http://www.dhii.jp/

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