ISSN 2189-1621

 

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DHM 063 【後編】

2011-08-27創刊                       ISSN 2189-1621

人文情報学月報
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄Digital Humanities Monthly

             2016-10-30発行 No.063 第63号【後編】 649部発行

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 ◇ 目次 ◇
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【前編】
◇《巻頭言》「インキュナブラ研究とcopy-specific information」
 (徳永聡子:慶應義塾大学)

◇《連載》「Digital Japanese Studies寸見」第19回
「市民がウィキペディアに係わる:ウィキペディアキャンパスin北大に参加して」
 (岡田一祐:東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)

【後編】

◇人文情報学イベントカレンダー

◇イベントレポート
「PNC(Pacific Neighborhood Consortium)2016」参加報告
 (永崎研宣:人文情報学研究所)

◇編集後記

◇奥付

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【人文情報学/Digital Humanitiesに関する様々な話題をお届けします。】
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◇人文情報学イベントカレンダー(□:新規掲載イベント)

【2016年11月】

■2016-11-03(Thu):
JADS アート・ドキュメンテーション学会 季研究集会
(於・東京都/恵比寿ガーデンプレイス 東京都写真美術館)
http://www.jads.org/news/2016/20161103.html

■2016-11-08(Tue)~2016-11-10(Thu):
第18回図書館総合展
(於・神奈川県/パシフィコ横浜)
http://www.libraryfair.jp/

■2016-11-11(Fri)~2016-11-12(Sat):
Digital Humanities Workshop: The Impact of the Digital on Japanese Studies
(於・米国/The University of Chicago)
https://ceas.uchicago.edu/page/digital-humanities-workshop

□2016-11-28(Mon):
DNP研究寄付講座 開設1周年記念シンポジウム
「産官学民の連携によるデジタル知識基盤の構築」
(於・東京都/東京大学 福武ホール)
http://dnp-da.jp/events/%E3%82%A4%E3%83%99%E3%83%B3%E3%83%881/

【2017年3月】

□2017-03-10(Fri):
「東洋学へのコンピュータ利用」研究セミナー
(於・東京都/京都大学 人文科学研究所本館)
http://www.kanji.zinbun.kyoto-u.ac.jp/seminars/oricom/

Digital Humanities Events カレンダー共同編集人
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小林雄一郎(東洋大学社会学部)
瀬戸寿一(東京大学空間情報科学研究センター)
佐藤 翔(同志社大学教育文化学科 助教)
永崎研宣(一般財団法人人文情報学研究所)

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◇イベントレポート
「PNC(Pacific Neighborhood Consortium)2016」参加報告
http://www.pnclink.org/pnc2016/
 (永崎研宣:人文情報学研究所)

 少し前の話になってしまって恐縮だが、ロサンゼルスのゲティ・センターで開催
されたPNC2016国際会議に参加した。といっても、ここでは、あくまでも筆者の関心
の範囲について若干報告しているに過ぎず、会議の大きさや充実ぶりに比して断片
的なものとなってしまっていることはご容赦いただきたい。

 PNC(Pacific Neighborhood Consortium)は、カリフォルニア大学バークレー校
と台湾中央研究院(アカデミア・シニカ)が中心となって運営されている組織で、
毎年、環太平洋地域のいずれかの場所で情報技術の応用的な研究に関する国際会議
を開催してきている。第一回はホノルルで1993年に開催されており、日本でも2002
年(大阪市立大学)と2013年(京都大学)に開催されたことがある。2016年は、情
報技術の活用に注力しつつあるJ・ポール・ゲティ美術館におけるゲティ・センター
での開催となった。

 国際会議としては、充実した基調講演者と一般発表・ポスター発表から成ってお
り、日本からもH-GIS研究会のメンバーを中心とした歴史GISに関わる様々な発表や
国立国語研究所からの発表などがあり、環太平洋地域における日本の存在感は十分
なものだったと言っていいだろう。

 今回は筆者の発表はなく、別件での渡米のついでに参加したのだが、興味深い発
表が多く、大変勉強になった。特に興味深かった発表を以下に少しご紹介したい。

 UCバークリー名誉教授Michael K. Bucklandによる冒頭の基調講演「データとリア
リティの構築」では、データを歴史的にはドキュメントとみなした上で、ドキュメ
ントの技術は歴史的に複製の多様化と時空間の影響を減らしてきたとした上で、書
記・印刷・遠隔通信・複製・コーピングという風に展開してきたとした。その上で、
ドキュメント・データ技術の将来の発展としては、書記⇒すべてを記録、印刷⇒な
んでも再生成、遠隔通信⇒幅広い交流、複製⇒ドキュメントやデータの分析、表示、
視覚化、コーピング(書誌情報など)は、すべてを包括するWebにおいてすべてのも
のがつなげられ関連づけられる、とした。一方で、ドキュメント(データ)は社会
的・物理的・認知的要素のトライアングルにおける相互関係によって成り立ってい
るとした。この相互作用についての考察が興味深く、筆者としては、特に後者のト
ライアングルが、日本の「デジタルアーカイブ」の問題を考える上で有効そうだと
いう感想を持った。

 次の基調講演はゲティ研究所のMurtha Bacaによる「我々は、ユーザが探している
ものへとユーザをつなげることに効果的にデータを活用しているか?」というタイ
トルで、大変刺激的な内容だった。まず、デジタル化したからといって、平等なア
クセスが提供されるわけではなく、適切なドキュメント(書誌情報など)のないデ
ジタルコレクションは管理も保存も本質的に今案であり、やりとりしたり共有した
りすることは困難であり、しばしばアクセス不能であり、さらに、ドキュメントが
きちんと用意されたコレクションであっても、技術的文化的言語的障壁からうまく
アクセスできない場合があると指摘した。そして、世界の人口の4割程度しかインタ
ーネットにアクセスできず、15%しか高速なインターネットアクセスができないと
いう現状では、ユニバーサルアクセスとは未だ神話に過ぎず、デジタルディバイド
こそが現実である、とした。Webは民主的でも組織されたものでもなく、その困難さ
の例として、「ディープ・ウェブ」、商用という障壁、組織という障壁、情報リテ
ラシーという障壁、政治的な障壁、メタデータの障壁、言語の障壁、文化の相違、
といったものを挙げていた。困難は多いが、少なくとも言語の障壁に限って言えば、
ゲティ・ヴォキャブラリーズのような電子シソーラスが有効だろうということだっ
た。現在はLinked Open Dataへの変換が進められているゲティ・ヴォキャブラリー
ズは、多言語で構築されており、一つの資料に関して、英語、中国語、ギリシャ語、
フランス語、オランダ語、スペイン語など、様々な言語での情報が付与されている。
https://www.getty.edu/research/tools/vocabularies/ )そして、故宮博物館
のコレクション用シソーラスがゲティのシソーラスにマッピングされている様子も
紹介された。そして、「ビッグデータ」と言っても、人文学に関しては、データの
分析が行われる前に、データセットやデータ構造の問題、言語、セマンティクス、
データマッピングといったものが必要であるとした。そして、高精細画像があった
としても、メタデータや言語の問題から見つけることが困難であり、オープンなコ
ンテンツだと言っても平等なユニバーサルアクセスだということにはならないと強
調した。そして最後は、「バックエンドの良いメタデータとフロントエンドの良い
技術は、利用者をデジタル代替物と同様に実物にも導くことができる」という言葉
で締めくくった。この次の講演者が、ゲティ・ヴォキャブラリーズについてさらに
詳しく発表してくれたが、ゲティでは、このヴォキャブラリーズを国際的な協働作
業の中で着実に作り上げてきているようであり、芸術と建築のシソーラスでは43083
の概念で334638語、地名のシソーラスでは2493720の場所で4032702の語、芸術家の
名前に関しては、242103人で637934の名前が用意されている、といった具合であっ
た。シソーラスの例の中には部分的には日本語も見受けられたが、日本からどうい
う風にこれに関わっているかはよくわからなかった。

 ヴォキャブラリーズの話に加えて、もう一つのゲティからの話の柱はIIIF
(International Image Interoperability Framework)だった。IIIFについての発
表は、最近になってスタンフォード大学からこのゲティにセマンティック・アーキ
テクトとして移籍した、IIIF Consortiumの中心メンバーでありW3CのWeb
annotation working groupのチェアでもあるRobert Sandersonによるものであった。
発表の内容は基本的にはIIIFの紹介であり、それについては前号の筆者の記事など
を参照されたい。ここでは、筆者としては、ゲティがIIIFに取り組むにあたって彼
を雇用したという点に、IIIFに対する取組みその真剣さを強く感じたということを
報告しておきたい。

 他にも興味深い発表は多く、特にこの会議の設立の経緯に仏教学者が大きく関与
していたこともあり、デジタル仏教学に関する発表も複数行われていた。そのなか
でも、仏典のデータベースを作っているという台湾からの発表で、筆者が(運営者
としてではなくプログラマとして)構築しているSAT大蔵経テキストデータベースを
利用しているものがあり、これはありがたいことであった。

 PNC会議は、デジタル・ヒューマニティーズの潮流が来る前から着実にそういった
研究発表を積み重ねてきた会議の一つであり、人文情報学/デジタル人文学/デジ
タル・ヒューマニティーズに関わる研究者にとっては有益な内容を多く含んでいる。
特に関連する研究者の方々におかれては、ぜひ注目していただき、可能であれば、
参加・発表などもされるとよいかもしれない。

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 配信の解除・送信先の変更は、
    http://www.mag2.com/m/0001316391.html
                        からどうぞ。

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◆編集後記(編集室:ふじたまさえ)
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 今月の人文情報学月報いかがでしたか?コンパクトにまとまりつつも、濃い内容
だったと思います。ご寄稿いただいた皆さま、ありがとうございました!

 特に今回の巻頭言の中では、現代の技術で作られた複製物と、インキュナブラ研
究で扱われる時代における複製(copy)の間には微妙な違いがあるんだろう、とい
うことに気づいて面白さを感じました。

 また、岡田さんの連載でご紹介のあった「ウィキペディアキャンパスin北大」に
ついては奇しくもメールマガジン『アカデミック・リソース・ガイド(ARG)』の第
612号( http://www.arg.ne.jp/node/8606 )で北海道大学附属図書館の川村さんか
らご寄稿をいただいて掲載したところです。こちらもご参考までにご覧ください。

 毎回、さまざまな分野の話題が盛り込まれますが、実は、こちらから執筆者の推
薦、紹介ををすることはあっても、実際にどんな方からの寄稿が集まるかは、原稿
が集まってくるまでわかりません。コーディネートしているのは、人文情報学研究
所の永崎さんです。ご多忙な中、執筆依頼から原稿集め、さらには今回のようにイ
ベントレポートまで書いてくださることもあります。その懐の広さに、いつも感謝
しながら編集作業をさせていただいています。

次号もお楽しみに。

◆人文情報学月報編集室では、国内外を問わず各分野からの情報提供をお待ちして
います。
情報提供は人文情報学編集グループまで...
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人文情報学月報 [DHM063]【後編】 2016年10月30日(月刊)
【発行者】"人文情報学月報"編集室
【編集者】人文情報学研究所&ACADEMIC RESOURCE GUIDE(ARG)
【 ISSN 】2189-1621
【E-mail】DigitalHumanitiesMonthly[&]googlegroups.com
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【サイト】 http://www.dhii.jp/

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