ISSN 2189-1621

 

現在地

DHM 038 【前編】

2011-08-27創刊

人文情報学月報
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄Digital Humanities Monthly

             2014-09-27発行 No.038 第38号【前編】 509部発行

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 ◇ 目次 ◇
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

【前編】
◇《巻頭言》「なぜ、日本版ヨーロピアナが必要なのか?」
 (生貝直人:東京大学附属図書館新図書館計画推進室・大学院情報学環特任講師)

◇《連載》「Digital Humanities/Digital Historyの動向
      ~2014年8月中旬から9月中旬まで~」
 (菊池信彦:国立国会図書館関西館)

◆発表・論文募集◆第20回公開シンポジウム「人文科学とデータベース」ほか

◇人文情報学イベントカレンダー

◇イベントレポート(1)
Digital Humanities 2014
 (上阪彩香:同志社大学大学院文化情報学研究科)

◇イベントレポート(2)
「2014公開ワークショップ デジタル・ヒューマニティーの最前線と経済学史研究」
(2014年8月25日、於東京大学大学院経済学研究科・小島ホール1階第1セミナー室)
参加記
 (森脇優紀:東京大学経済学部資料室・特任助教)

◇イベントレポート(3)
「The 9th AWLL international workshop on writing systems and literacy」
 (岡田一祐:北海道大学大学院博士後期課程)

【後編】
◇イベントレポート(4)
「JADH2014雑想」
 (日野慧運:東京大学特任研究員)

◇基調講演和訳
「外から見た人生:コレクション、文脈、そして、Wild Wild Web」
 (Tim Sherratt:オーストラリア国立図書館・Trove Manager)
 (日本語訳/高橋洋成:筑波大学人文社会系・研究員、
       永崎研宣:人文情報学研究所)

◇編集後記

◇奥付

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
【人文情報学/Digital Humanitiesに関する様々な話題をお届けします。】
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◇《巻頭言》「なぜ、日本版ヨーロピアナが必要なのか?」
 (生貝直人:東京大学附属図書館新図書館計画推進室・大学院情報学環特任講師)

 筆者の本来の専門分野は、デジタル技術に関わる著作権やプライバシー、表現の
自由などの法制度上の諸問題について、EU・米国と日本の状況を比較検討すること
である。特に最近では、2011年から東京藝術大学の文化芸術デジタルアーカイブ構
築に携わる他、今年の4月からは東京大学本郷キャンパスで工事が進む「新図書館計
画」のスタッフとして、同計画の電子図書館・デジタルアーカイブ構想に携わるよ
うになったことから、EUや米国のデジタルアーカイブとその関連法制度を参照し、
日本の実践に活かす研究に注力している。

 そのような中で焦点を当てているのが、「ヨーロピアナ(Europeana)」という、
欧州全域の文化芸術デジタルアーカイブ・ポータルである。本媒体の読者ならば日
常的に利用している方も少なくないだろうが、まだご覧になったことの無い人は、
ぜひ「 http://europeana.eu 」にアクセスし、関心のある芸術家の名前やキーワー
ド等で検索してみてほしい。全欧州2,300を超える文化施設が提供する、3,000万点
以上の画像データや3Dデータ、動画像の中から、必ずや「欧州に旅行したときにあ
の美術館で」、あるいは「あの博物館の企画展で」見たことのある高精細な作品デ
ータを無数に見つけ、そしてそれらの多くが自由に再利用可能であることに驚愕す
るだろう。

 研究者としての、そして少なからず文化資源デジタルアーカイブの実践に携わる
者としての筆者の関心の中心は、このヨーロピアナの「日本版」を、いかにすれば
構築できるかということなのだが、ヨーロピアナが「どういうものなのか」の詳細
については様々な媒体でも解説しているので[1]、ここでは割愛させて頂く。本稿
で焦点を当てたいのは、大規模な全国的デジタルアーカイブ、そしてヨーロピアナ
のような統合的ポータルが、「なぜ」必要なのか、という問題である。

 本媒体の読者であれば、その必要性はおよそ自明の理であるとも思われるが、筆
者のような別分野からこの領域に関心を持つようになった人間にとっては、周囲の
研究者などからも、こうした「なぜ」を問われることは少なくない。特に今後、公
共政策として本格的な推進をしようとする際には、より広く納税者を、あるいは国
会議員を説得できるだけの、強固な「なぜ」の論理を持つ必要性は一層高くなる。
ここではこの分野の「新参者」である筆者の、あくまで原始的な問いかけへの理由
付けという形ではあるが、研究や実践を進める上で考え続けている、3つの理由につ
いて書かせて頂きたい。

 第一に、文化資源の価値を、特に若い世代の人たちに広く伝えていくためである。
筆者は1982年生まれで、成人する頃まで実際に美術館や博物館に行く機会も関心も
なく、多くの美術品についても、国立西洋美術に行くよりもウィキペディアの画像
データで見た方が先である。これは若干極端な例に聞こえるかもしれないが、現在
の若い世代は、周知の通りその文化的生活の大部分を、インターネットやスマート
フォンといった「デジタル」の世界に移し始めている。いわば「ググって見つから
ないものは世の中に存在しない」という冗談が、決して冗談として通じない世代は、
既に存在しているし、今後も増え続けていくことは間違いない。

 そのようなときに、今後経済の縮小が進み、国の負債は増え続け、おそらくは老
後の年金も出ない世代に対して、「税金によって文化資源を保存し続ける」ことの
価値と必要性を、どのように伝えていけばよいのであろうか。国立国会図書館の大
場利康氏が論じる通り[2]、文化資源は、「その文化資源を保存する主体となるべ
き人々にとって価値がなければ、あっという間に散逸・破壊の憂き目に会う」。デ
ジタルの世代に文化資源の価値を伝え、それを継承し続けていくために、文化資源
のデジタルアーカイブ化と利活用の促進は、最善と言うよりも、むしろ唯一の手段
であると考えるべきではないだろうか。

 特に日本の文化関連予算の総額は、おおよそのGDP比で見たときに、フランスの1%、
韓国の0.8%にも遠く及ばない、0.1%前後の水準が長く続いている。この文化予算を
何とか少しずつでも増大させていくためには、今後さらに切迫する経済状況を生き
る若い世代を説得し、その投資に対する十分な「対価感」のあるデジタルアーカイ
ブの構築は不可欠である。さらに文化芸術分野で著名な福井健策弁護士がよく引き
合いに出すように、デジタルアーカイブは「道路に劣らず重要な情報産業の基礎」、
そして「情報の公共インフラ」に他ならない[3]。そのようなアクセスしやすい文
化資源の集積は、必ずや新たな創作活動の原資になり、我が国の文化的、経済的成
長に資することだろう。

 第二に、さらに広く、文化資源の価値を、「文化施設に直接来られない」人たち
に伝えるためである。筆者の勤務する東京大学・東京藝術大学のすぐ近くには、ア
ジア有数の文化施設の集積地である上野公園が存在し、授業や業務の少ない日であ
れば、大学の帰り道等に頻繁に企画展等を覗くことも可能である。しかしたとえば、
本稿を読んでくださっている中にも多くいらっしゃるであろう、北海道や沖縄等に
在住している方々にとってはどうだろうか。飛行機を使えば数時間の距離だとは言
え、実質的にそこには、決して小さくはない「文化施設ディバイド」が存在してい
ると言わざるを得ないだろう。

 さらに2020年には、東京で56年ぶりのオリンピックが開催され、そのときに世界
の人々の目がこの国に一斉に注がれることは間違いがない。直接日本の会場に来訪
した外国人の方々には、さまざまなガイドを参考に、直接各地の文化施設を見て頂
くことができるかもしれない。しかし、いかに6年後の未来とはいえ、経済的理由な
どのさまざまな事情で日本に来ることができず、おそらくはインターネット放送な
どを通じて日本の会場を見て、日本の文化に関心を持って頂ける外国人の数は、数
億人、いや昨今の人口増加を考慮すれば数十億人を下ることはないだろう。その数
十億人の人々が、自分の国から、「ukiyoe」や「kabuki」、あるいは「taikan」と
いうキーワードを入力するだけで、日本の膨大な文化的蓄積にアクセスできる「お
もてなし」のための基盤を、何としても、2020年までに用意したい。

 そしてこのようなアクセシビリティの向上は、身体に障害を持つ人々、あるいは
これから年をとり文化施設に直接行くことができなくなる人々、つまり我々全員の
将来にとっても資するところが大きい。実際に筆者が今年の7月に右膝を骨折し、夏
の旅行に行くこともできなくなった間は、ひたすらベッドでiPadからヨーロピアナ
を検索したり、ロシアのエルミタージュ美術館の公式アプリでまだ見ぬ文化施設を
ヴァーチャルに散策することに没頭していた。さらに「図書館」や書籍のデジタル
化は、音声読み上げを通じて、視覚障害の人々にとっての読書を飛躍的に容易にす
る。そうした福祉政策という観点からも、デジタルアーカイブの価値は、現代の技
術的水準を前提として改めて評価される必要がある。筆者は、歩けなくなっても美
術品を見たいし、目が見えなくなっても本が読みたい。

 最後に、我々がデジタルアーカイブを通じて、この国を、あるいはアジアという
「我々自身」を知るためである。個人的経験の述懐が多くいささか恐縮ではあるが、
筆者は埼玉県に生まれ育ち、現在は東京都千代田区に居住する、いわゆる完全な関
東ローカルの人間である。そのため旅行の機会でもない限りは、関東圏以外の文化
施設、あるいは有形無形の文化資源に直接アクセスできる機会はきわめて限られて
いる。先に上野公園を「アジア有数の文化施設の集積地」という表現を用いたが、
これは少なからず、筆者のこの国の、あるいはアジアの文化資源に対するあまりの
無知が故に使いうる表現なのかもしれない。

 本家のヨーロピアナがそうであるように、「日本版ヨーロピアナ」は、日本の津
々浦々に存在する中小規模の文化施設を、可能な限りくまなく包摂するものでなけ
ればならない。地域の文化施設、たとえば公民館の一部を改修したような町立の美
術館で、その作者は世界的な名声こそ得ていなくとも、心うたれるような名作に出
会ったことは、この分野に関わりのある人間であれば、一度や二度ではないと思う。
文化施設に静的に固定されない、有形無形の文化資源も同様である。日本版ヨーロ
ピアナが、本当にそうした多様な文化資源のデジタル公開の結節点になることがで
きれば、私たちがこの国について、あるいはより広くアジアの文化に触れる機会は、
まさに爆発的に増大することだろう。

 ちょうど骨折中に、Kindleのまさにデジタル書籍で川北稔氏の『イギリス 繁栄の
あとさき』(ダイヤモンド社、1995年)を読む中で、興味深い記述に触れる機会が
あった。イギリスでは19世紀末まで若いジェントルマンの教育の総仕上げとして、
大陸に「グランド・ツアー」に行くことが常識化していたものが、ウィリアム・ギ
リピンの『ワイ川の観察』(1880年)の影響等により、イギリス国内の原風景を見
て回る「ピクチャレスク」の旅に転換するようになったという。「グランド・ツア
ーからピクチャレスクの旅への移行は、いわば「旅の輸入代替」であり、イギリス
が文化情報の受容国から、その発信国に転換したことの証でもあった。わが国の若
者たちが、外国への卒業旅行から、日本の秘境探索に転じる日は、いつか来るのだ
ろうか。」(前掲川北、Kindle版1370/2133)

 日本人は、あるいはアジアは、デジタルアーカイブを通じてこそ、世界に対する
文化の「発信」主体としての位置付けを獲得することができるのではないだろうか。
本稿表題の問いを「なぜ、日本版ヨーロピアナという表現を用いるのか?」という
問いに代えるとすれば、それはおそらく、私自身が西洋文化の「受容」という態度
に染まりきっているからに他ならないだろう。2020年までには、必ずや「日本版ヨ
ーロピアナ」に代わる、新しい、我々の文化の結節点を表現する言葉を発見してい
たい。

[1]「オープンデータと図書館-最新の海外事例と動向 国立国会図書館びぶろす
  biblos」 http://www.ndl.go.jp/jp/publication/biblos/2014/7/01.html
[2]「CA1458 - 文化資源保存論 / 大場利康」 http://current.ndl.go.jp/ca1458
[3]福井健策「『全メディアアーカイブを夢想する』-国会図書館法を改正し、
  投稿機能付きの全メディア・アーカイブと権利情報データベースを始動せよ-」
http://www.kottolaw.com/column_110530_2.html

執筆者プロフィール
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
生貝直人(いけがい・なおと)専門分野は日米欧の情報政策・文化芸術政策。2005
年慶應義塾大学総合政策学部卒業、2012年東京大学大学院学際情報学府博士課程修
了。博士(社会情報学)。東京大学附属図書館新図書館計画推進室・大学院情報学
環特任講師。東京藝術大学総合芸術アーカイブセンター特別研究員、科学技術振興
機構さきがけ研究員、NPO法人デジタルヘリテージデザイン監事等を兼任。単著に
『情報社会と共同規制』(勁草書房、2011年)、共著に『デジタルコンテンツ法制』
(朝日新聞出版、2012年)等。

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《連載》「Digital Humanities/Digital Historyの動向
      ~2014年8月中旬から9月中旬まで~」
 (菊池信彦:国立国会図書館関西館)

 前号に引き続き、2014年8月中旬から9月中旬までのDigital Humanities/Digital
Historyに関する動向をまとめた。

○新聞・ブログ記事
8月22日、アメリカ議会図書館のTrevor Owensのブログで、“Where to Start? On
Research Questions in The Digital Humanities”という記事が掲載されている。8
月上旬にTwitter上でJason HepplerとOwensらが行っていた、“Fit the tool to
the research question, not the other way around.”をめぐる議論について、彼
なりの考えをまとめたもの。研究上の問いと一次史料、そしてDHツールとの関連性
について論じている。
http://www.trevorowens.org/2014/08/where-to-start-on-research-questions-...
https://twitter.com/jaheppler/status/497766788579753984

8月24日、楊暁捷のブログ「絵巻三昧」に“DH再考”という記事が掲載された。8月
にカナダで開催されたReplaying Japan 2014という学会での感想を記したもので、
この中でDHの受け止め方/発信の仕方について次のような記述がある。「いわく、
DHという言葉は、学者受けが良くて、研究者同士、ひいては教育機関の運営者から
すれば魅力的なものだ。しかしながら、いったん社会に向き変えると、受け止め方
はまったく異なる。」
http://emaki-japan.blogspot.jp/2014/08/dh.html

8月25日、Academic Commonsのサイトに、“Wheaton College Digital History
Project”の取組みを紹介する記事が掲載された。ウィートン・カレッジの所蔵する
アーカイブズ資料や特別コレクションを利用して、Digital Historyの方法を教える
教育プロジェクトについて詳細がまとめられている。
http://www.academiccommons.org/2014/08/25/discipline-specific-learning-a...

8月25日、City Labに掲載された“How to Track Climate Change? Digitize a
Century's Worth of Moldy Old Records”という記事では、過去の気候変動を探る
貴重なデータをデジタル化して“救出”する複数のプロジェクトについて紹介して
いる。
http://www.citylab.com/weather/2014/08/the-quest-to-scan-millions-of-wea...

8月27日、UK Web Archive blogに、英国図書館のウェブアーカイブで提供されてい
る、“Interject”というユーザー主導のデジタル保存を行うプロトタイプシステム
の解説記事が掲載されている。
http://britishlibrary.typepad.co.uk/webarchive/2014/08/user-driven-digit...
http://www.webarchive.org.uk/interject/

OCLC Researchは、7月7日から8月15日にかけて行った、Linked Dataを使用したサー
ビスやプロジェクトについての調査の結果を、8月28日および8月29日付のブログで
紹介している。これは、どのような機関が、どのようにLinked Dataを使用している
のかについて調査したもの。
http://hangingtogether.org/?p=4137
http://hangingtogether.org/?p=4147
http://current.ndl.go.jp/node/26929

9月2日のWikimediaドイツのブログに、Histropediaプロジェクトの紹介記事が掲載
されている。同プロジェクトは、WikipediaとWikidataを利用してタイムラインを作
成できる環境を提供している。
http://blog.wikimedia.de/2014/09/02/why-wikidata-is-so-important-to-hist...
http://www.histropedia.com/

9月6日、GoogleのResearch Blogに、“Building a deeper understanding of
images”という記事が掲載されている。これは、世界最大の学術的なコンピュータ
ー・ヴィジョン・コンテストであるImageNet Large-Scale Visual Recognition
Challengeの分類部門と検出部門で1位となった、GoogLeNetというチームの画像認識
技術について解説したもの。
http://googleresearch.blogspot.jp/2014/09/building-deeper-understanding-...
http://wired.jp/2014/09/09/google-research-object-recognition/

9月8日、MARTINGRANDJEANのブログに、DH界隈のTwitterのフォロー・被フォロー関
係をヴィジュアル化した記事“The Digital Humanities network on Twitter:
Following or being followed?”が掲載されている。
http://www.martingrandjean.ch/digital-humanities-network-twitter-following/

9月8日、Chronicle of Higher Educationに、“Digital History Center Strives
to Connect With the Public”という記事が掲載された。ジョージア大学の
Claudio SauntとStephen BerryらによるDigital Public Historyプロジェクト
eHistoryにおける、複数の取組みを紹介している。
http://m.chronicle.com/article/Digital-History-Center-Strives/148657/

○イベント・出来事
8月4日から2週間、ジョージ・メイソン大学のロイ・ローゼンツヴァイク歴史とニュ
ーメディアセンター(RRCHNM)主催で、中堅の歴史研究者に対してDigital History
の手法を教えるセミナー“Doing Digital History 2014”が開催された。
http://chnm.gmu.edu/news/doing-digital-history-in-august/
http://history2014.doingdh.org/
http://history2014.doingdh.org/historians-spreadsheet/

9月9日、人文・社会科学系研究者コミュニティH-NetのDigital Historyグループ“
H-Digital History”が、Twitterアカウントを開設している。
https://twitter.com/HDigitalHistory
https://networks.h-net.org/node/3276/discussions/40834/h-digital-history...

9月10日、2015年と2016年のDHの日(Day of DH)のホスト機関が、スペイン・マド
リードにある国立通信教育大学のDHラボLaboratorio de Innovacio‘n en
Humanidades Digitalesに決定した。
https://twitter.com/DHcenterNet/status/509372045315280896

来年2015年にシドニーで開催されるDH2015の発表募集が始まっている。締め切りは
11月3日。
http://dh2015.org/cfp/

9月27日、リクルートにおいて、第2回 OpenGLAM JAPANシンポジウム「オープンデー
タ化のもたらすアーカイブの未来」が開催される。
https://www.facebook.com/events/1471592599761850/?source=1

○プロジェクト・ツール・リソース
8月12日、スミソニアン協会がデジタル化資料のテキスト化をクラウドソーシングで
行うプロジェクトサイト“Smithonian Digital Volunteers: Transcription Center
”を開設した。
http://newsdesk.si.edu/releases/volunteers-needed-massive-smithsonian-di...
https://transcription.si.edu/

8月13日、Europeanaが、検索語を最大6つのヨーロッパ言語に同時翻訳して検索する
機能を実装した。
http://labs.europeana.eu/blog/new-translation-method-in-API/
http://blog.europeana.eu/2014/08/improving-search-across-languages/

8月21日、アメリカのゲティ財団が、ゲティ研究所のThesaurus of Geographic
Names(TGN)をLinked Open Dataとして公開した。芸術や建築等に関係する歴史的
な場所、都市、遺跡等の200万件の名称を含んでいるとのこと。
http://blogs.getty.edu/iris/getty-thesaurus-of-geographic-names-released...
http://current.ndl.go.jp/node/26857

8月25日、ミシガン州立大学のDHラボであるMatrix Digital Media Labが、“I Am
A Digital Scholar”と題した動画シリーズの配信を開始した。これは、デジタル社
会科学の研究成果の発信等とともに、デジタル技術が今後の学術研究の発展にどの
ように役立つのかを見極めるために行われているもので、現在、同大学でアフリカ
研究・フットボール史を教える歴史学教授Peter Alegiの動画が公開されている。
http://www2.matrix.msu.edu/2014/08/i-am-a-digital-scholar-video-series/

アメリカのホロコーストミュージアムとInternational Center of Photography
(ICP)が、ホロコースト以前の東欧におけるユダヤ人の生活を写したRoman
Vishniacの写真史料群を公開した。
http://vishniac.icp.org/
http://www.infodocket.com/2014/08/26/new-digital-archive-of-images-of-pr...

8月28日、W3CのLinked Data Platform(LDP)ワーキンググループが、Working
Group Noteとして、LDPの実装にあたってのベストプラクティスとガイドラインをま
とめた“Linked Data Platform Best Practices and Guidelines”を公開した。
http://www.w3.org/TR/2014/NOTE-ldp-bp-20140828/
http://current.ndl.go.jp/node/26915

8月29日に、Internet Archiveは、260万点の挿絵画像をFlickr Commonsで公開した。
Internet Archiveがデジタル化した200万以上のパブリック・ドメインの電子書籍に
掲載されている1400万点以上の挿絵画像の一部で、Internet Archiveは今後さらに
画像を追加していく予定とのこと。
http://blog.archive.org/2014/08/29/millions-of-historic-images-posted-to...
https://www.flickr.com/photos/internetarchivebookimages
http://www.bbc.com/news/technology-28976849
http://current.ndl.go.jp/node/26922

9月4日、オレゴン州立大学図書館・出版局の特別コレクション・アーカイブズリサ
ーチセンターが、冷戦期にアインシュタインらが結成した「原子力科学者の危機管
理委員会」(Emergency Committee of Atomic Scientists)の書簡史料のデジタル
アーカイブを公開した。このアーカイブでは、単にデジタル化資料を公開している
だけではなく、OmekaのプラグインScriptoを使ってクラウドソーシングでのテキス
ト化を可能にしている。
http://oregonstate.edu/ua/ncs/archives/2014/sep/osu-seeks-public%E2%80%9...
http://scarc.library.oregonstate.edu/omeka/exhibits/show/ecas/the-fear/f...

9月9日、DBpedia 2014がリリースされた。
http://blog.dbpedia.org/2014/09/09/dbpedia-version-2014-released/
http://www.infodocket.com/2014/09/09/linked-data-dbpedia-releases-versio...

奈良文化財研究所が、「考古関連雑誌論文情報補完データベース」を作成、公開を
開始した。CiNiiに収録されていない考古学関連雑誌論文情報を収録したデータベー
スであるとのことで、CiNiiとあわせて利用することで真価を発揮するとされている。
http://mokuren.nabunken.go.jp/ronbunhokandb/ronbun.html
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140910-00000124-san-soci (リンク切れ)

9月11日、RRCHNMの運営するSeptember 11 Digital Archiveがリニューアル公開され
た。アーカイブ資料へのアクセスがより容易になったとのこと。
http://chnm.gmu.edu/news/a-new-look-and-improved-access-and-stability-fo...
http://911digitalarchive.org/

○論文・学術雑誌・研究書
Literary & Linguistic Computingの29巻3号が刊行された。特集テーマは“
Digital Humanities 2013: Freedom to Explore”で、全てオープンアクセスで公開
されている。
http://llc.oxfordjournals.org/content/29/3?etoc

アメリカ歴史学協会の月刊誌“Perspectives on History”の2014年9月号に、“
Mapping the History Twittersphere”という記事が掲載された。NodeXLを利用し、
歴史研究者のコミュニティが使用するハッシュタグ#Twitterstorians等のツイート
を分析した結果を示している。
http://www.historians.org/publications-and-directories/perspectives-on-h...

8月28日発行のカレントアウェアネス-Eに「エルゼビア社のテキスト・データ・マイ
ニング方針とその論点」という記事が掲載されている。
http://current.ndl.go.jp/e1599

スペインの情報専門家向け雑誌El Profesional de la informacio'nの23巻5号
(2014年9-10月号)が、“Humanidades digitales”(Digital Humanities)という
特集をしている。2本の論文がオープンアクセスとして公開されている。
http://www.elprofesionaldelainformacion.com/index.html

○報告書等
8月15日、スウェーデンの国立公文書館に設置されている、デジタル化に関する問題
に取り組むDigisamが、文化遺産のデジタル化と保存、そしてアクセス保障に関する
14のガイドラインをまとめた文書の英訳版を公表した。
http://www.digitalmeetsculture.net/article/guidelines-for-digitization-a...
http://digisam.se/index.php/hem/entry/digisam-s-guiding-principles-now-t...

8月にフランスのリヨンで開催されたIFLA大会の場で、New Media Consortiumが“
Horizon Report 2014”図書館版を公開した。同シリーズの中で図書館版が刊行され
るのはこれが初となる。Horizon Reportは、今後1年以内、今後2~3年のうちに、そ
して今後4~5年のうちに、影響を与えるであろうと思われる技術について解説する
レポートで、これまで高等教育機関版等が毎年刊行されている。
http://www.infodocket.com/2014/08/20/library-futures-first-ever-horizon-...
http://www.nmc.org/news/its-here-horizon-report-2014-library-edition

8月29日、イギリス・ロンドンにあるThe Finnish Institute in Londonが“
Digital Humanities and Futhre Archives”と題した調査レポートを刊行している。
これは、急速なデジタル化による情報の喪失、いわゆる「デジタル暗黒時代」が、
人文学の研究と教育、そして文化遺産の保存にどのような影響を与えるのか、歴史
学研究とアーカイブズ領域に焦点を絞って調査をしたものとのこと。
http://blog.finnish-institute.org.uk/2014/08/preserving-and-sharing-cult...

北米研究図書館協会(ARL)が報告書シリーズ“SPEC Kit”の第341号を刊行した。
今号では、「デジタルコレクションの評価とアウトリーチ」がテーマとされている。
http://current.ndl.go.jp/node/26919
http://publications.arl.org/Digital-Collections-Assessment-Outreach-SPEC...

The American Academy of Arts and Sciencesが、“2012-13 Humanities
Departmental Survey”を公表した。これは、アメリカの人文学部・研究科の現状に
ついての調査結果をまとめたもので、2007-2008年版以来の2回目となる。調査は、
美術史や言語学、歴史学等の個々の専門領域ごとにまとめられており、各項目の最
後にはその分野に関わるDHの状況が掲載されている。概して、DHという言葉の流行
(Buzz word)とは裏腹に、学部・研究科レベルではDHは限定的なものにとどまって
いると指摘されている。
http://www.humanitiesindicators.org/content/indicatordoc.aspx?i=457
http://www.humanitiesindicators.org/content/indicatordoc.aspx?i=458
http://www.humanitiesindicators.org/content/indicatordoc.aspx?i=463
http://blog.historians.org/2014/09/2012-13-survey-humanities-departments...

アキュートアクセント付きO:O'

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◆発表・論文募集

◇第20回公開シンポジウム「人文科学とデータベース」
 このシンポジウムでは、人文科学や芸術とデータベースに関連する幅広い内容の
発表を募集しております。奮ってご応募ください。
期日:2014年12月20日(土)
会場:近畿大学東大阪キャンパス(本部キャンパス)21号館543教室(予定)
★発表申込締切:2014年10月10日(金)
★詳細: http://www.osakac.ac.jp/jinbun-db/5.html

◇Digital Humanities 2015: Global Digital Humanities
期日:2015年6月29~7月3日
会場:UNIVERSITY OF WESTERN SYDNEY
★概要論文締切:2014年11月3日(midnight GMT)
★詳細: http://dh2015.org/cfp/

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◇人文情報学イベントカレンダー(□:新規掲載イベント)

【2014年10月】
■2014-10-04(Sat)~2014-10-05(Sun):
英語コーパス学会 第40回大会
(於・熊本県/熊本学園大学)
http://english.chs.nihon-u.ac.jp/jaecs/

■2014-10-18(Sat):
情報処理学会 第104回 人文科学とコンピュータ研究会発表会
(於・大阪府/関西大学 千里山キャンパス)
http://www.jinmoncom.jp/

■2014-10-21(Tue)~2014-10-23(Thu):
PNC 2014 Annual Conference and Joint Meetings
(於・台湾/National Palace Museum, Taipei)
http://www.pnclink.org/pnc2014/english/

■2014-10-22(Wed)~2014-10-24(Fri):
2014 TEI Conference
(於・米国/Northwestern University)
http://tei.northwestern.edu/

【2014年12月】
□2014-12-01(Mon)~2014-12-02(Tue):
5th International Conference of Digital Archives and Digital Humanities2014
(於・台湾/Academia Sinica)
http://www.dadh.digital.ntu.edu.tw/index.php?LangType=en

□2014-12-01(Mon)~2014-12-02(Tue):
FOSS4G-ASIA2014
(於・タイ/バンコク)
http://www.foss4g-asia.org/2014/

□2014-12-13(Sat)~2014-12-14(Sun):
人文科学とコンピュータシンポジウム「じんもんこん2014」
オープン化するヒューマニティーズ-その可能性と課題を考える
(於・東京都/国立情報学研究所)
http://jinmoncom.jp/sympo2014/

Digital Humanities Events カレンダー共同編集人
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小林雄一郎(日本学術振興会特別研究員PD)
瀬戸寿一(東京大学空間情報科学研究センター)
佐藤 翔(同志社大学教育文化学科 助教)
永崎研宣(一般財団法人人文情報学研究所)

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◇イベントレポート(1)
Digital Humanities 2014
http://dh2014.org/
 (上阪彩香:同志社大学大学院文化情報学研究科)

 Digital Humanities(DH2014)が、7月7日から12日まで、スイス・ローザンヌに
あるローザンヌ大学(UNIL)とスイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)で開催さ
れた。

 本会議は、8つのPanel SessionとPoster Sessionでの報告が116件、Long Paper
Sessionでの報告が134件、Short Paper Sessionでの報告が82件あり、参加者は700
名を超えるという大規模な大会であった。日本からの発表は、12件であった。
Paper Session、Poster Sessionでは、どの会場にも多くの聴衆が集まり、活発な
議論が行われていたのが大変印象的であった。また会期中には、研究者の交流の場
が多く設けられ、参加者はここでも熱心に情報を交換していた。

 DH2014のウェブサイト( http://dh2014.org/ )では、本会議の多くの情報が公
開されている。Videos( http://dh2014.org/videos/ )にてOpening Night・
Zampolli Award Lecture・Community Plenary Lecture・Closing Plenary Lecture
の4本のビデオが公開されており、閲覧することが可能である。また本大会のアブス
トラクトはAbstracts( http://dh2014.org/program/abstracts/ )にて、閲覧およ
びダウンロードが可能である。

 来年度のDigital Humanities2015(DH2015)は、オーストラリア・シドニーのウ
ェスタンシドニー大学で開催されることがすでに決定している。本会議は26年の歴
史を持つが、ヨーロッパとアメリカ以外の地で会議が開催されることは初めてのこ
とである( http://dh2015.org/ )。DH2015のPoster、Short paper、Long paper、
Multiple paper session proposalsの締め切りは11月3日であり、2015年2月6日ま
でに結果が知らされる( http://dh2015.org/cfp/ )。またDigital
Humanities2016(DH2016)はオランダ・ユトレヒトのユトレヒト大学で開催される
ことが発表された( http://dh2016.org/ )。

 筆者は幸運にも昨年度に引き続き、Digital Humanities学会の年次大会に参加す
る機会を得ることができ、Poster Sessionにて発表を行った。発表の場には、昨年
度、Digital Humanities(DH2013)のセッションでChairpersonであった先生や同じ
セッションで発表した先生方も見に来てくださり、研究への助言をいただけて大変
嬉しく思った。筆者は自身の研究領域であるテキスト研究に関する報告を中心に聴
講したが、世界の最先端の研究に大きな刺激を受けた。また発表方法や発表資料の
作成法などの面で今後の研究発表の参考になることも多く、非常に有意義な大会で
あった。これからもDigital Humanities学会の大会に参加する機会が得られたなら、
ぜひ参加したいと希望している。

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◇イベントレポート(2)
「2014公開ワークショップ デジタル・ヒューマニティーの最前線と経済学史研究」
(2014年8月25日、於東京大学大学院経済学研究科・小島ホール1階第1セミナー室)
参加記
 (森脇優紀:東京大学経済学部資料室・特任助教)

 当ワークショップを主催する「デジタル資源を活用したA・スミス経済思想の多元
的学際的構造分析の新たな試み」研究班(日本学術振興会科学研究費補助金・挑戦
的萌芽研究, 課題番号: 40194609, 代表者:小野塚知二・東京大学・教授)では、東
京大学経済学図書館所蔵の「アダム・スミス文庫」について、近年のDigital
Humanities(以下DH)の成果に基づき、Web上で学術利用し得るようなシステムのパ
イロットケースを提示し、経済学史研究の情報基盤整備を進めることを一つの目的
として活動している。そこで、最近のDH研究の潮流を知り、その具体的な研究成果
を当該研究プロジェクトに活かすべく、本ワークショップが企画された。なお、筆
者の専門は歴史研究であり、DH研究の恩恵も多大に受けているため、その動向には
非常に関心を持っている。以下、筆者の関心に沿って内容を報告する。

 まず、永崎研宣・東京大学特任准教授(人文情報学研究所主席研究員)が「人文
学におけるクラウドソーシングのインパクト:国内外のデジタル・ヒューマニティ
ーズの事例を通じて」と題し、DH研究の近年の動向とその中で展開されているクラ
ウドソーシングプロジェクトの具体的事例を紹介した。

 DHは、1940年代にデジタル技術を人文学研究に活かそうとする潮流の中で生まれ
た研究手法で、日本では1950年代から用いられるようになった。デジタル技術が著
しく進歩した現在では、DH研究の各団体がAlliance of Digital Humanities
Organizationsを結成するなど、大規模な組織を形成している。

 最近のDH研究者の間では、“Methodological Commons”が提唱され、各分野が互
いの方法論を比較・検討しつつ共有することで、各研究分野においてデジタル技術
をどのように用いるべきかを検討し、新しい研究成果につなげていく活動が行われ
ている。こうした流れの中で、University College London(以下UCL)のBentham
Project(以下BP)はTranscribe Bentham(以下TB
http://blogs.ucl.ac.uk/transcribe-bentham/ アクセス日:2014年9月17日、以下
同)を展開することとなった。

 人文学におけるクラウドソーシングにおいては、Web上でテキストデータをデジタ
ル翻刻し、タグ付けをすることが有効であり、不特定多数が一様の方法で資料を扱
い、作業したものを共有してチェックし合える点が特徴である。デジタル翻刻にあ
たっては、人文学の多様な資料・情報を共有するために定められたルールである
Text Encoding Initiative(以下TEI)ガイドラインを採用している。ただし、日本
語の特性に対応できていないことから、日本ではTEIの知名度は低く、現在は複数の
機関で日本語対応に向けた議論が進められている。

 クラウドソーシングによるデジタル翻刻の事例として、TBのほか、米国公文書記
録管理局の”National Archives Transcription Pilot Project”(
http://blogs.archives.gov/online-public-access/?p=7171 )、ニューヨーク公共
図書館の”What’s on the menu?”( http://menus.nypl.org/ )、アイルランド
の“The Letters of 1916 Project”( http://dh.tcd.ie/letters1916/ )がある。
国内には、「翻デジ2014」( http://lab.kn.ndl.go.jp/dhii/omk2/ )があり、日
本デジタル・ヒューマニティーズ学会が中心となって、国立国会図書館と国立情報
学研究所の協力を得ながら、国立国会図書館の近代デジタルライブラリーで公開さ
れている文献についてテキストデータ化している。

 また、DHにはCrowd4uプロジェクトに代表される分業化や、Transmediaのような画
像化処理の技術も利用されることがある。

 こうしたクラウドソーシングプロジェクトは、基本的に人手による作業ではある
が、それがもっとも正確で有効といえる。ただし、適切なフレームワークの確立と、
現実的なワークフロー、例えば、デジタル翻刻したものをチェックする人員とチェ
ックするプロセスをいかに確立するかが、不可欠であると永崎氏は指摘する。

 永崎報告を承け、DHにおけるクラウドソーシングの代表例として、UCLのフィリッ
プ・スコフィールド教授(Professor Philip Schofield)、ティム・コーザー博士
(Dr Tim Causer)、クリス・グリント博士(Dr Kris Grint)が、”
tranScriptorium and Transcribe Bentham : How to succeed with scholarly
crowdsourcing”と題し、UCLに設置されたBPの概要と、BPが運営するプロジェクト
として、ベンサムの手稿資料をクラウドソーシングでテキスト化するTBの具体的な
作業内容と課題について分担して報告した。

 BPは1959年に設立され、ベンサムの著作や主としてUCLの図書館が所蔵する彼の手
稿を集成した”The Collected Works of Jeremy Bentham”の刊行を目指した。その
際BPは、手稿資料を正確に翻字することから始めたという。1985年より作業にコン
ピュータを使用するようになり、2010年にTBが開始された際にはすでに20,000葉が
デジタル翻刻されていたという。

 TBは2010年4月に始まり、同年9月に一般公開された。TBでは、ヴォランティアは
デジタル翻刻の経験の有無を問われず、ベンサム関係の手稿資料を翻字し、エンコ
ーディングする複雑な業務を担う。データは、テキストの正確さとタグ付けの一貫
性のチェックを受け、承認されれば編集できないようにロックがかけられる。デー
タに重大な欠陥があったり、作業が部分的であったりする場合には、そのデータは
編集可能な状態に保たれる。

 作業実績は、2014年8月までに、部分的なものも含めて10,195点の文書がデジタル
翻刻されている。不特定多数のヴォランティアによる翻字ではあるが、そのうちの
92%が要求された品質を満たしていたようである。こうした実績の背景には、TBのプ
ラットフォームであるTranscription Deskの開発と改良がある。さらに、大英図書
館が所蔵するベンサム家の書簡等の手稿資料が利用可能になったことから、資料へ
の関心が高まり、ヴォランティアの数も確保することができているようだ。

 一方で、不特定多数の参加が可能であることから生じる問題もある。TBの登録ア
カウント数は10,000あるが、実際に機能しているのは、そのうちの半分か三分の一
である。また作業には440名が参加したが、その三分の二は1点をデジタル翻刻した
だけで終わっている。これは、翻字とエンコードの作業がいかに難しいものである
かを示している。また、歴史的手稿資料の翻字に精通したスーパー・トランスクラ
イバーと呼ばれる25名のヴォランティアが全体の96%をデジタル翻刻しており、彼ら
に依存せざるを得ないのが現状だという。こういった状況から、TBが真のクラウド
ソーシングと呼べるまでには至っていないと、TBのメンバーである報告者も自覚し
ているようである。

 TBは現在、EUから資金提供を受けて歴史的手稿資料のデジタル翻刻を行うプロジ
ェクトtranScriptoriumに参加し、ギリシャやスペインの情報科学者、オーストリア
のアーキヴィスト、ドイツの辞書学者などと協力して、ベンサムの手稿資料を読み
取り、TBに反映させるシステムを開発している。

 tranScriptoriumでは、OCRではなく、Handwritten Text Recognition(以下HTR)
の技術を用いている。HTRは、単語個別の文字解析やノイズの消去、書入れ線の検出
と分別のほか、文字単位で分析する文字検索や単語の予測が可能である。また、隠
れマーコフモデルを応用し、これまでに蓄積されたデータに基づいて、原文と一致
する文字列のイメージを抽出し、最適のものを提示することができる。こうした技
術によって、ユーザーは自動翻字されたものを修正・編集することとなる。
ただし、こうした手稿資料を自動認識する技術が、TBのデジタル翻刻作業の正確性
と効率性の改善策となるのか、ヴォランティア等の経験・スキルを高めるものとな
るのか、またヴォランティアの役割が、デジタル翻刻作業から自動翻字されたテキ
ストの修正・編集へと変化することで、参加者の減少を招いてしまうなど、HTRの有
効性を認めつつも、TBに導入する上では課題が残されると報告者は指摘している。

 筆者は、16・17世紀の欧文マニュスクリプトを研究で扱っており、翻字作業が困
難であること、翻字できる人材の不足を日々体感しているため、クラウドソーシン
グを通してより多くの人が手稿資料に触れてデジタル翻刻に関心を持つこと、そし
て作業の正確性と効率性を高める技術の開発に期待をしている。ただし、報告者と
同様、自動翻字による作業に依拠することにはまだ慎重になるべきと考える。技術
開発に加えて、パレオグラフィーのような翻字のための学問や訓練の場をさらに充
実させるなど、手動の翻字のレヴェルを上げる方法の模索も同時に必要ではないだ
ろうか。
なお、二つの講演終了後には総合討論が行われ、クラウドソーシングの参加者とし
てどのような人材を求めるべきなのか、クラウドソーシングに参加する一般人(社
会)と大学の研究機関や専門家との関係をいかにして築いていくべきかという内容
について議論が交わされた。

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◇イベントレポート(3)
The 9th AWLL international workshop on writing systems and literacy
http://www.sussex.ac.uk/english/newsandevents/orthographic
 (岡田一祐:北海道大学大学院博士後期課程)

 2014年9月4日から5日にかけて、イングランドのサセックス大学で、Association
for Written Language and Literacy(「書記言語・リテラシー協会」)主催の第9
回ワークショップ(以下WS)が行われた。今回のテーマは「表記データベースと語
彙」(“Orthographic Database and Lexicon”、本稿では、orthographyを一貫し
て表記法と称し、データベースはDBとする)ということで、多方面からの発表が行
われた。ここでは、各発表の細部にまで及ぶことはできないので、発表をおおまか
に区分して報告してゆきたいと思う。発表のキャンセル等があって、暫定版のプロ
グラムと順番がいささか異る。末尾に実際の発表順を引用しておくので参照された
い。なお、予定にはなかったが、Joyce et alとパネル・ディスカッションのあいだ
に、Des Ryan氏(Trinity College Dublin)によって英語の表記法について議論提
起がなされ、盛んに議論が交わされていた。

 今回のWSでの発表は、おおまかにいえば、表記DBに関する発表、レジスターと表
記に関する発表が多かった。電子的手段の有効的な利用を強く意識したディジタル・
ヒューマニティーズというよりは、よくある言語学系の研究会といった趣もあるが、
諒とされたい。表記DBに関しては、初日のRoberts報告、Zuidema and Neijt報告、
ポスターのMasuda et al、Beeksma et al、二日目のCahill報告、Joyce et al報告
の計6件であり、ほとんどを占める。

 ついで、レジスターと表記法の関係を扱う初日のJoppe報告、Verheijen報告、ポ
スターのCrook and Cahillの3件があった。その他については、句読法辞書の諸言語
における可能性を述べたForemniak報告、続け字の相互比較とDBの利用について述べ
たOkada報告、オランダにおける表記法教育について模索したポスターのPeters et
al、多言語の表記DBをもとに、類縁の音・表記を有する語(phonological and
orthographic neighbour:音韻・表記隣接語)を多言語間で検討することができる
システムについて解説した招待講演のMarian講演、英語とドイツ語の表記には、音
韻の制約によるのではない最小単位があることを論じたEvertz報告があった。

 表記DBについての発表がもっとも多かったのはプログラムからも見て取れること
であるが、関心の持ちようは相互に異る。たとえば、表記DBをどのような要素から
構築するかという観点のものには、カビエKabiye語において表記法と音調をどのよ
うに関係させるべきか論じたRobertsや、表記法と音韻、そしてその結合パターンを
基礎単位とするトリプレット構造を扱ったZuidema and NeijtおよびBeeksma et al
があり、また、表記DBを構築したものとしては、アルファベットでの記録を前提と
したオントロジーDBの日本語表記への拡張を行ったJoyce et al、日本語の二字漢語
における個々の字の字義とそれを合成したときの二字漢語の意義の関係について検
討したMasuda et al、多言語での表記法と音韻の対応関係を見たDBの構築を述べた
Cahillがある。

 レジスターと表記法の関係を扱ったものは、電子コーパスがはばひろく利用可能
になった現代ならではのテーマであろう。レジスターとは、言語学においては、言
語の「使用域」という意味の専門用語であり、どんな性格の場面で用いられること
ばであるかに係わる。Joppe、Verheijenともに現代の電子テキストのメッセージに
おける非標準的表記法について、ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)上な
どから作成されたコーパスを利用した研究である。Joppeは、SNS上で比較的公定の
表記法に拠らない表記が見られることをたよりに、複合語の表記の様相を検討した
もので、この点表記DBと係わりがある。また、Verheijenは、コンピューターを介す
るやりとりにおける非標準的表記法と年齢層、使用域の相互関係について論じたも
のである。Crook and Cahillは、手で書いた手紙と、ワープロで印刷した手紙の差
を論じたもので、異色であった。

 言語学においては、コンピューター言語学、あるいはコーパス言語学というもの
が古くから成立するほどに機械との係わりが深い分野であって、顕示的にそのよう
なものとの係わりを持たない研究であっても、私的なDBに基づいて研究が行われる
ことは珍しくない。こと表記法を中心とした研究は、言語研究を邪魔する厄介者と
してなおざりにされてきた面がないわけではないが、それでもあたらしく出現した
テーマではない。そのようななかで、どのようにこのような研究会議を組織するか
は難しい舵取りが求められよう。今回の会議においては、表記DBの多様性というと
ころに重点が置かれたように思われる。そのようなばあい、稿者も参加者かつ発表
者のひとりとして責任はあるのだが、会議の中心となるテーマとの自身の研究の繋
がりを明示することや、異る出自を持つもの同士でお互いを知ることに焦点を当て
てもよかったかもしれない。実際、そのような理由によって質疑が活発にならなか
ったものがあったように思う。

 発表をキャンセルされたもののなかに、Nanna Fuhrhop“Graphematic databases
”というものがあり、これは多言語での表記法に関する全般的なナレッジベースに
ついて論ずる予定であったという。パネルディスカッションにおいて、Fuhrhopの要
旨をもとにそのようなナレッジベースについてどのように「新しく」作ってゆくか
簡単に議論されたが、すでに各言語には表記法をDB化する試みはあまたあるのであ
り、別箇に作られてきたそれを統合するこころみ-Joyce et alのような-がそのよ
うな多言語表記ナレッジベースの基盤に置かれるべきなのではなかろうかという感
想を持った。

9/4
1.Joppe
2.Foremniak
3.Roberts
4.Okada
5.Zuidema and Neijt
6.Verheijen
7.Posters: Masuda et al / Beeksma et al / Crook and Cahill / Peters et al

9/5
1.Marian
2.Evertz
3.Cahill
4.Joyce、 Hodos~c~ek and Masuda
5.Panel discussion

ハーチェク付き文字:s~、c~

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 続きは【後編】をご覧ください。

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 配信の解除・送信先の変更は、
    http://www.mag2.com/m/0001316391.html
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【発行者】"人文情報学月報"編集室
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