ISSN 2189-1621

 

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DHM 060 【後編】

2011-08-27創刊                       ISSN 2189-1621

人文情報学月報
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄Digital Humanities Monthly

             2016-07-30発行 No.060 第60号【後編】 642部発行

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 ◇ 目次 ◇
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【前編】
◇《巻頭言》「ヨーロッパの初期印刷本とデジタル技術のこれから」
 (安形麻理:慶應義塾大学文学部)

◇《連載》「Digital Japanese Studies寸見」第16回
「日本学におけるデータ共有?オープンサイエンスというながれをまえにして」
 (岡田一祐:東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)

【後編】
◇人文情報学イベントカレンダー

◇イベントレポート
「研究データ利活用協議会」公開キックオフミーティング参加報告
 (永崎研宣:人文情報学研究所)

◇編集後記

◇奥付

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【人文情報学/Digital Humanitiesに関する様々な話題をお届けします。】
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◇人文情報学イベントカレンダー(□:新規掲載イベント)

【2016年7月】

□2016-07-29(Fri)~2016-07-30(Sat):
大規模学術フロンティア促進事業「日本語の歴史的典籍の国際共同研究
ネットワーク構築計画」第2回 日本語の歴史的典籍国際研究集会プログラム
(於・東京都/国文学研究資料館)
http://www.nijl.ac.jp/pages/cijproject/sympo20160729.html

■2016-07-30(Sat):
情報処理学会 人文科学とコンピュータ研究会 第111回研究発表会
(於・長崎県/五島市福江文化会館)
http://www.jinmoncom.jp/

□2016-07-30(Sat):
JADS アート・ドキュメンテーション学会 シンポジウム
「学芸員養成と情報技術教育を考える」
(於・東京都/日本大学芸術学部江古田校舎)
http://d.hatena.ne.jp/JADS/20160711/1468218622

【2016年8月】

■2016-08-02(Tue)~2016-08-05(Fri):
Balisage: The Markup Conference 2016
(於・米国/Bethesda North Marriott Hotel & Conference Center)
http://balisage.net/

■2016-08-16(Tue)~2016-08-18(Thu):
PNC 2016 Annual Conference and Joint Meetings
(於・米国/The Getty Center)
http://balisage.net/

□2016-08-24(Wed)~2016-08-26(Fri):
FOSS4G2016
(於・独国/Bonn)
http://2016.foss4g.org/home.html

□2016-08-31(Wed):
The 1st International Workshop on Models of Japanese Texts and TEI
(於・東京都/東京大学)
http://21dzk.l.u-tokyo.ac.jp/DHI/index.php?teijpsig

【2016年9月】

■2016-09-10(Sat)~2016-09-11(Sun):
Code4Lib JAPAN Conference 2016
(於・大阪府/大阪府立労働センター エル・おおさか)
http://wiki.code4lib.jp/wiki/C4ljp2016

■2016-09-12(Tue)~2016-09-14(Thu):
JADH2016
(於・東京都/東京大学 本郷キャンパス 福武ホール)
http://conf2016.jadh.org/

■2016-09-14(Wed)~2016-09-17(Sat):
2016 EAJRS conference in Bucharest
(於・ルーマニア/"Carol I" Central University Library)
http://eajrs.net/

Digital Humanities Events カレンダー共同編集人
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小林雄一郎(東洋大学社会学部)
瀬戸寿一(東京大学空間情報科学研究センター)
佐藤 翔(同志社大学教育文化学科 助教)
永崎研宣(一般財団法人人文情報学研究所)

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◇イベントレポート
「研究データ利活用協議会」公開キックオフミーティング参加報告
 (永崎研宣:人文情報学研究所)

 2016年7月25(月)午後、国立研究開発法人科学技術振興機構 東京本部にて、
「研究データ利活用協議会」公開キックオフミーティング(
https://japanlinkcenter.org/top/index.html#top_kyogikai )というイベントが
開催された。「研究データ利活用協議会」設立の趣旨の説明、参加機関及び個人参
加代表からの10分間ずつの決意表明、その後のアンカンファレンスによる個別のコ
メント収集など、研究データの利活用を中心とした盛りだくさんのイベントであっ
た。

 冒頭の本協議会の会長でもある国立情報学研究所(NII)の武田英明氏による開催
趣旨説明では、この協議会が、国際的な学術情報等の識別子であるDOIを登録するこ
とのできる機関として、日本国内では唯一の認定機関であるジャパンリンクセンタ
ー(JaLC)によって、オープンサイエンスの実現に向けて議論を継続していくべく
設立されたものであり、幅広いコミュニティを形成していくことを眼材しているこ
と等が説明された。

 その後、参加機関からの決意表明、ということで、科学技術振興機構(JST)、物
質・材料研究機構、NII、国立国会図書館(NDL)、情報通信研究機構、産業技術総
合研究所から、それぞれの取組みについての説明があり、その後、科学技術予測セ
ンターの林和弘氏による個人参加代表としての決意表明が行われた。それぞれに取
組みの方向性は異なるものの、研究データを利活用することを目指すという点で一
致していたことは、将来に大きく期待するところであった。

 その後のアンカンファレンス(アンカンファレンス、というのは、「非カンファ
レンス」、すなわち、カンファレンスのような形式張った仕方をとらない集会につ
いて付けられる名称であり、アンカンファレンスという定まった形式が存在してい
るわけではない)は、100名近くの参加者を8つのテーブルに分けて、それぞれのテ
ーブルで話をして、3つのテーマごとに席替えをして色々な人の話を聞く、という流
れで実施された。テーマは、「夢」「困難」「自分自身の取組み」であり、それぞ
れに参加者が思いの丈を数分ずつ語り、テーブルごとにリーダーがそれをまとめ、
最後にリーダー達がそれぞれのテーブルで出た話をまとめて壇上で紹介した。議論
をする時間はほとんどなかったものの、それぞれの問題意識を、少しずつではあれ、
対面で共有できたという経験は、今後のこのコミュニティにとって大きな財産とな
っていくことだろう。

 さて、ここからは筆者の個人的な感想だが、設立趣旨にはオープンサイエンスと
いう言葉が出てきているものの、全体として、オープンであること、あるいは、オ
ープンにすることの困難さが共有された会であったとも言える。実際の所、公金で
作られたデータであれば誰でも自由に使えるようにすべき、という話と、オープン
にしておけば誰かが使ってくれるだろう、という話、その一方で、誰が使うのかわ
からないオープン化にどの程度のコストをかけられるのか、かけ続けられるのか、
といったところで困難さを感じている人が少なくないように見受けられた。オープ
ン化すること・オープンであることの成果をどのようにして作りだし、提示し、説
明責任を果たしていくのか、という課題は、オープン化することへのインセンティ
ブにも直結するものであり、筆者が関わっている人文系においても避けて通ること
はできない。

 人文系においては、そもそもオープン化以前に、オープン化すべきデジタルデー
タやデジタルデータを作成する体制・仕組みが十分でないこともあって、まずは共
有可能なデジタルデータを作るところにきちんと取り組まなければならない状況で
ある。しかし、現在のオープン化の流れは、むしろ、オープン化を前提としたデー
タ作成によってデータが生み出す成果を創出しやすくすることが可能であり、最近
の例では、オープンデータとしてZIPファイルで公開された国文学研究資料館による
「国文研データセット」( http://www.nii.ac.jp/dsc/idr/nijl/nijl.html )の
350点の古典籍デジタル画像とその関連情報が注目される。これは、一次配布サイト
では単なるZIPファイルでの公開となっているため内容の確認さえ困難だが、配付開
始後すぐに、筆者の「国文研データセット簡易Web閲覧」(
http://www2.dhii.jp/nijl_opendata/openimages.php )や立命館大学アート・リサ
ーチセンターのデータベースに収録され、容易に内容の閲覧や簡単な検索ができる
ようになった。特に前者に関しては、さらに、オープンに開発されている国際的な
画像共有規格であるIIIF( http://iiif.io/ )に準拠した形式でも公開され、ハー
バード大学・スタンフォード大学等でオープンソースで開発公開されているIIIF対
応WebビューワMirador( http://projectmirador.org/ )を、筆者がさらに東アジ
ア系古典籍向けにカスタマイズしたもので表示できるようになった(
http://digitalnagasaki.hatenablog.com/entry/2016/06/21/042727 )。さらに、
Miradorを採用したことで、利用者が自らのブラウザ上で画像内の任意の箇所にタグ
付けできる機能も提供されることとなった。今月に入ってからは、岡田一祐氏によ
る『和翰名苑』仮名字体データベース( https://kana.aa-ken.jp/wakan/ )のデー
タを用いてディープラーニングによってくずし字を認識できるようにするWeb APIが
2SC1815J氏 ( https://twitter.com/2SC1815J )によって公開され、「国文研デー
タセット簡易Web閲覧」からも利用できるようになるなど、オープンな取組みが重な
り合うことにより活用例も大きく広がりつつある。このようにして活用事例が様々
に登場しそれが認知されていくことは、オープン化に対するインセンティブを高め
ていくことにつながる。オープン化を推進しようとするなら、こうした活動に自ら
取り組んでみたり、あるいはそれを支援してみたり支援する枠組みを作ってみたり
することも重要だろう。

 とはいえ、この「国文研データセット」を巡る一連の取組みは、まだショーケー
ス的な、いわば実験的なものであり、研究のインフラとして役立っているとまでは
言えないだろう。より本格的に活用される日本の人文系の研究データはすでにいく
つか存在するが、ここでは筆者が直接に関わる仏教学のデータベース(
http://21dzk.l.u-tokyo.ac.jp/SAT/ )を少しだけご紹介しておきたい。ここでは、
より広範かつ網羅的な形でオープンなデータのネットワークが世界規模で形成され
ている。研究活動の一環としてテクストを精読するために必要な資料が徐々に世界
中でデジタル化され公開されつつある状況において、テクストごとに必要な資料を
一覧できるポータルが形成され運用されている。そこに来れば、研究の基礎となる
テクストのテクストデータと頁画像、そのテクストの元になった13世紀と16世紀に
刊行された木版資料、さらには、8世紀の敦煌文書や奈良平安時代に書写された日本
の古写本などを閲覧できる場合もある。同じテクストにチベット語訳があればその
テクストデータと画像も確認できるようになっている。サンスクリット語の写本画
像も部分的には提供されている。そして、関連する二次資料も検索可能である。こ
こでは、日本のみならず、韓国、台湾、米国、英国、フランス等、様々な国が提供
するデジタルリソースが集約されて一つの研究環境が形成されているのである。そ
して、ただWebに公開するだけでなく、この研究環境の具体的な利用方法を周知しつ
つさらなるユーザの要望を掘り起こすべく、国内外で利用者向け講習会を適宜開催
している。こうした状況の背景には、基盤となる資料も研究対象の地理的言語文化
的広がりも世界規模で分散してしまっている仏教学ならではの事情が横たわってい
るとは言え、すでに仏教学のみならず日本史や日本文学等においても広く活用され
ており、様々な研究成果も生み出されていることから、データ利活用という観点か
らは一つの事例となり得るだろう。

 また、決意表明やその後のアンカンファレンス、そしてそのまとめを一通り拝聴
して改めて感じたのは、コンテンツを作成する立場とシステムやインフラを提供す
る立場とで視線がかなり異なっているようであったという点である。このギャップ
は、この場に限らず、機関リポジトリの話やオープンサイエンスの話をおうかがい
していても感じるものであり、そこを埋めていくことは我国の学術情報流通を考え
ていく上で喫緊の課題であるように思われた。

 加えて、産業界との接点におけるオープン化の困難さという話も出ていた。これ
に関連して、企業によるデータ交換のマーケット形成への取組みという話がアンカ
ンファレンスで出ていたのは、この協議会の名称が「オープン」を冠していないこ
とと符合して、一つの可能性を感じさせるところでもあった。持続可能なオープン
化のためには何らかの形で継続的に費用を捻出する必要がある。これをどの段階で
どのように行うのか、ということも避けて通れない課題である。「オープン化」に
対する公的補助金のみでは先細りや不必要な規制が生じる可能性もあり、それ自体
がある程度自律的に、たとえば紙媒体での出版のような形で利用者から少額の利用
料を徴収して全体のエコシステムを支えるような仕組みもある程度整備される必要
があるのかもしれない。たとえば、一次的な資料やデータはオープンで提供される
が、そこから作成された一般向けのコンテンツの一部に関しては、オープン化のエ
コシステムを支えるために薄く広く課金されるといったことを選択肢として考えて
みるとよいのかもしれない。

 最後に、今回は、研究データ利活用に関して人文系からの話がほとんどなかった
という点はやや気になるところであった。人文系でもいくつかの分野はそれなりに
進んでいるのだが、そのような取組みからの情報発信がこの方面のコミュニティに
対して十分でないことが原因の一つかもしれない。これは、むしろ筆者にとっての
重要な課題であり、今後も継続的に取り組んでいきたい。

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 配信の解除・送信先の変更は、
    http://www.mag2.com/m/0001316391.html
                        からどうぞ。

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◆編集後記(編集室:ふじたまさえ)
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 今月も、まずはご寄稿いただいた皆さんへ感謝の気持ちをお伝えしたいと思いま
す。ありがとうございました!今回のキーワードは「研究データの質」と「オープ
ンサイエンス」でしょうか。

 はやいもので、今回で第60号目のメルマガ発行を迎えました。5年前の状況とは変
化が強まってきたと感じています。「オープン」とは何か、永崎さんのレポートの
投げかけも、巻頭言での「データの質」もつながっているように思います。
引き続き、皆さまからのご寄稿をお待ちしています。

次号もお楽しみに。

◆人文情報学月報編集室では、国内外を問わず各分野からの情報提供をお待ちして
います。
情報提供は人文情報学編集グループまで...
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人文情報学月報 [DHM060]【後編】 2016年07月30日(月刊)
【発行者】"人文情報学月報"編集室
【編集者】人文情報学研究所&ACADEMIC RESOURCE GUIDE(ARG)
【 ISSN 】2189-1621
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