ISSN 2189-1621

 

現在地

DHM 046 【後編】

【件名】[DHM046]人文情報学月報【後編】「博物館資料と情報」(亀田尭宙)ほか

2011-08-27創刊                       ISSN 2189-1621

人文情報学月報
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄Digital Humanities Monthly

             2015-05-27発行 No.046 第46号【後編】 567部発行

_____________________________________
 ◇ 目次 ◇
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

【前編】
◇《巻頭言》「博物館資料と情報」
 (亀田尭宙:京都大学地域研究統合情報センター)

◇《連載》「西洋史DHの動向とレビュー
      ~西洋史学はウェブ情報をどのように位置づけているのか~
      『研究入門』を題材に」
 (菊池信彦:国立国会図書館関西館)

◇《連載》「Digital Japanology寸見」第2回
 「ADEACのアーカイブ追加
      :日本文化研究で小規模デジタル・アーカイブズをどう使うか」
 (岡田一祐:北海道大学大学院文学研究科専門研究員)

【後編】
◇人文情報学イベントカレンダー

◇イベントレポート(1)
ミシガン大学「デジタル人文学と日本研究の未来:シンポジウム・研修
       Digital Humanities and the Future: a symposium and workshop」
 (横田カーター啓子:ミシガン大学大学院図書館 日本研究専門司書)

◇イベントレポート(2)
「AAG 2015 Annual Meeting参加報告」
 (瀬戸寿一:東京大学空間情報科学研究センター)

◇イベントレポート(3)
「TOKYO 2020/2030-文化資源で東京が変わる」第1回東京文化資源区シンポジウム
 (鈴木親彦:東京大学大学院人文社会系研究科 博士課程(文化資源学))

◇奥付

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
【人文情報学/Digital Humanitiesに関する様々な話題をお届けします。】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

◇人文情報学イベントカレンダー(□:新規掲載イベント)

【2015年06月】
■2015-06-01(Mon)~2015-06-03(Wed):
Joint ACH & Canadian DH Conference 2015
(於・カナダ/University of Ottawa)
http://ach.org/2014/10/20/joint-ach-canadian-dh-conference-2015/

■2015-06-01(Mon)~2015-06-05(Fri):
Digital Humanities Summer Institute@Victoria
(於・カナダ/University of Victoria)
http://www.dhsi.org/

■2015-06-04(Thu)~2015-06-07(Sun):
アジア歴史空間情報システムによるグローバル・ヒストリーの新研究
第3回 研究会
(於・東京都/東京大学 本郷キャンパス)
http://www.l.u-tokyo.ac.jp/ahgis/info_j.html

■2015-06-06(Sat)~2015-06-07(Sun):
JADS 2015年度 アート・ドキュメンテーション学会年次大会
(於・東京都/国立西洋美術館)
http://www.jads.org/news/2015/20150607.html

■2015-06-08(Mon)~2015-06-12(Fri):
Digital Humanities Summer Institute@Victoria
(於・カナダ/University of Victoria)
http://www.dhsi.org/

□2015-06-12(Fri)~2015-06-13(Sat):
国立情報学研究所 オープンハウス2015
「価値ある未来の創成へ-未来を紡ぐ情報学」
(於・東京都/学術総合センター)
http://www.nii.ac.jp/openhouse/

□2015-06-13(Sat):
明治学院大学文学部芸術学科・ハーバード大学東アジア言語・文明学部
人類学部 歴史学部 共同シンポジウム「アクセスの再定義
-日本におけるアクセス、アーカイブ、著作権をめぐる諸問題」
(於・東京都/明治学院大学 白金校舎)
http://www.meijigakuin.ac.jp/event/archive/2015/2015-05-14-1.html

■2015-06-15(Mon)~2015-06-19(Fri):
Digital Humanities Summer Institute@Victoria
(於・カナダ/University of Victoria)
http://www.dhsi.org/

■2015-06-29(Mon)~2015-07-03(Fri):
DH2015@Sydney
(於・豪州/University of Western Sydney)
http://dh2015.org/

【2015年07月】
□2015-07-20(Mon)~2015-07-24(Fri):
Digital Humanities at Oxford Summer School 2015
(於・英国/St Anne's College)
http://dhoxss.humanities.ox.ac.uk/2015/

Digital Humanities Events カレンダー共同編集人
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
小林雄一郎(日本学術振興会特別研究員PD)
瀬戸寿一(東京大学空間情報科学研究センター)
佐藤 翔(同志社大学教育文化学科 助教)
永崎研宣(一般財団法人人文情報学研究所)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
◇イベントレポート(1)
ミシガン大学「デジタル人文学と日本研究の未来:シンポジウム・研修
       Digital Humanities and the Future: a symposium and workshop」
       (2015年3月14日・15日開催)
http://www.ii.umich.edu/cjs/eventsprograms/ci.digitalhumanitiesandthefut...
 (横田カーター啓子:ミシガン大学大学院図書館 日本研究専門司書)

 このシンポジウムと研修については既に講師の一人である橋本雄太氏の報告
(DHM044)[1]があるが、それに加えて海外の日本研究DH現状紹介としてミシガン
大学主催側から企画経緯を含む報告をしたい。

 デジタル人文学はミシガン大学においては主に英米文学、メディア文化研究など
英語による研究が主流で、社会科学や生命情報科学も含む全学でのデジタル学術研
究を統合し情報を発信するようなセンターは存在しない。2013年1月にデジタルアー
カイブ学の世界的権威であるミシガン大学情報学大学院のPaul Conway教授がロンド
ン大学での研究から同学に戻られたのをきっかけに、情報学大学院生が中心となり
研究者・司書を含む会合が催された[2]。ちょうどその頃、日本政治学研究の大学
院生がデータマイニングが可能な日本語資料について、歴史学専攻の大学院生がIT
を自分の中世史研究に生かしたいと相談に来るようになった。また、フランスから
のポストドクターが福島原発放射線被害調査地図を作成する市民活動研究に取り組
むなど、日本研究では教授達よりもいち早く大学院生達がデジタル研究手法を探り
始め、私は彼らに啓発されて「新しい仕事の扉」を開くことになった。

 調べてみると人文学の諸学部ではすでに将来の教員採用を視野に入れてデジタル
学術研究に取り組む若手研究者を他校から講演シリーズに招いていた。つまり、現
在の大学院生はデジタル研究手法を知らなければ将来の就職はかなりの狭き門にな
る。図書館でもVisualization librarian, Data librarianの新規雇用、テキスト以
外に画像やデータ等を保存し洗練された諸機能を持つリポジトリハードウェアの検
討、学生向けのGIS,Encodingの研修等、新しい動きが始まっていた。日本研究者と
学生のために日本研究に絞ったデジタル人文学のセミナーを開くことは喫緊の課題
と感じられた。

 研究専門司書の重要な役割は、大学研究・教育の使命達成のために学術情報基盤
を整備することである。研究手法の変化は図書館サービスの変化を促す。そこで、
私は日本学研究センター所長にセミナー開催を提案した。幸運にもセンター所長で
あるJonathan Zwicker准教授(近世・近代文学)も同様の必要性を感じていた。情
報学大学院のPaul Conway教授の協力も得て、図書館・日本学研究センター・情報学
大学院の共催として日本研究センター理事会に助成金申請を行うと、デジタル人文
学の重要性と共催という多様な分野の協力という点も評価されて無事に承認された。

 企画内容にあたっては「海外には二次資料はあるが、一次資料は日本にあり、ま
た海外から利用できる日本語電子資料も乏しい状況にあって、海外におけるデジタ
ル日本研究とは何なのか」という基本点と、デジタル人文学の教育利用をまずじっ
くり話し合いたいというZwicker准教授の強い希望があったため、広く公開せず地元
関係者のための会合ということになった。図書館では、今回の日本イベントは「外
国語によるグローバルなデジタル地域研究支援を計画する」ことへのきっかけとな
り新しい流れを創り出した。

 企画はシンポジウム形式になり、開催実現にはデジタル人文学についての勉強や
講演者への依頼と日程調整など含めて一年近くかかったが、日本から立命館大学赤
間亮教授、東京大学永崎研宣特任准教授、京都大学橋本雄太氏のご協力を得て内容
の濃い充実したものとなり、講師の皆様にはあらためて感謝申し上げる。開催日が
他の会合と競合したためか肝心の日本研究者と大学院生の参加が低く「笛吹けど踊
らず」の感になったのは否めない。米国の研究者、学生は過密スケジュールをこな
している。汎用性のある内容だと宣伝したが、技術とは疎遠な研究者とその指導下
にある大学院生や、既にデジタル研究を行っている若手の社会科学者の参加がなか
ったのは、日常的コミュニケーションの欠落と企画の仕方が原因だったのではない
かと反省点も多い。

 その一方で、少数の日本研究大学院生に加えて、情報学大学院と日本研究以外の
学生や多くの図書館関係者が州外からも参加してくれた。Smart-GSの研修には「こ
れを20年前から待っていた」と研究者は感謝し拍手が沸き起こった。司書としては
これからのデジタル学術研究を踏まえての資料収集や基盤整備など多くの知見を得
るために、日本の関係者と緊密な交流を続けていくことを強く望んでいる。

 参加者一同、講師の方々の学識の深さと香り高い品格にはたいへん感銘を受け鼓
舞さされた。海外では「日本のテクノロジーでなぜ」とデジタル化とアクセスの悪
さをよく嘆かれ「遅れた日本」と沈みがちである。しかし、今回の研修ではITが歴
史的に深い学問の蓄積と結びつくとどのような洗練された学術研究が可能になるの
か、グローバルな協同研究の企画など、大いなる潜在的な可能性を感じ、日本学術
文化の底力に触れたような自信さえ得ることができた。多くの参加者達は、浄化さ
れるような爽やかな感動に包まれ勇気付けられた。

 多様な可能性があるだけに、デジタル研究の発展には紙の資料による研究にはな
い協同作業が欠かせない。この点でもこのイベントが研究者・司書・運営スタッフ
の協同企画作業であったことは重要である。異なる立場の多忙な人々同士、スムー
ズなコミュニケーションは困難でもあった。日本研究においてはデジタル学術研究
に適する電子資料が乏しいため、資料取得そのものが難しい。このイベント趣旨に
あるようにデジタル人文学は「研究者、司書、アーカイビストの継続的な会話を提
供する知的空間の創造」を目指すものであるが、それ以上に、デジタル学術研究発
展には、出版社、ソフトウェア開発者、プラットフォームプロバイダー、法的関係
者なども含めたネットワーク構築と協同事業が欠かせない。このイベントはその第
一歩になった。デジタル学術研究は「変化、多様性、越境、協同、グローバル」の
要素をその性質上持ち、そして、持続的な変化に伴い柔軟に成長することを要求す
る。これまで以上に日本の各方面関係者にご協力を仰ぎ、グローバルな日本研究を
共に深化させ発展させていきたいと心から願っている。

[1] http://www.dhii.jp/DHM/dhm44-2
[2] http://www.dhii.jp/DHM/dhm35-2

Copyright(C)YOKOTA, Carter Keiko 2015- All Rights Reserved.
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
◇イベントレポート(2)
AAG 2015 Annual Meeting参加報告
 (瀬戸寿一:東京大学空間情報科学研究センター)

 American Association Geographers(AAG)[1]の年次会議がアメリカ・シカゴ
で4月21日~25日に開催された。この学会は、地理学の国際学会の中でも最大規模で、
約100の大小におよぶセッション会場を舞台に5日間(うち、3日間は平行してポスタ
ーセッションとGoogleやEsriなど大手企業も出展した企業展示、20を超えるフィー
ルド・トリップ)に渡って開催され、5,000人を超える参加登録者があった。

 今回のメインテーマは例年多岐に渡るものの、地球規模による環境変化・社会経
済的不平等・領土問題などを背景とした、地理学自体の学際的な研究手法を内在的
に批判することに-その延長上に、空間的アプローチに基づく健康に関する研究や、
自然地理学の再考に関する特別セッションも-あった。ちなみに本学会では幾つか
の特別講義や「Author Meets the Critics」と称する地理学者として有名著者によ
る最新著書の紹介レクチャーも開催された。中でもDavid Harveyによる最新著
「Seventeen Contradictions and the End of Capitalism (Oxford, 2014)」のセッ
ション[2]には、約200名以上の参加者がおり会場も超満員となった。

 さらに、AAGでは約20年ぶりとなる論文誌として「GeoHumanities」が2015年中に
発刊されることとなり、大きなニュースとなった。GeoHumanities(地理人文学)は、
2007年のAAG特別セッション開催を発端に、2011年には2つの著書「Envisioning
Landscapes, Making Worlds: Geographyand the Humanities(Routledge,
ISBN:0415589789)」と「GeoHumanities: Art, History, Text at the Edge of
Place(Routledge, ISBN:0415589800)」がそれぞれ発刊されたことを契機として、
さらにデジタル・ヒューマニティーズ分野との研究交流により、英語圏の地理学に
おいて大きな関心となった。

 このように本月報とも近しい地理人文学は、長年に渡り地理-人文学およびデジ
タル・ヒューマニティーズを牽引してきたPeter K. Bol(Harvard University)を
AAG Honorary Geographer Awardとして表彰する[3]とともに、同誌の発刊記念と
して、大会3日目に特別セッションが開催された。本セッションでは、Peter K. Bol
による地理学的知識・中国GIS研究を中心とする基調講演に続き、Douglas
Richardson(AAGのエグゼクティブ・ディレクター)・Nicholas Entrikin
(University of Notre Dame)、および学会誌のエディターであるTim Cresswell
(Northeastern University)とDeborah Dixon(University of Glasgow)によるパ
ネルディスカッションが行われた。同誌は、これまでの地理学における学際性や人
文学(特に歴史学や哲学)の系譜を継承しつつも、新しい側面としてデジタル・ヒ
ューマニティーズを背景に巨大なデジタルデータを扱う必要があること、またメデ
ィアや芸術分野における地図・地理情報の活用といった社会的側面を探求すること
に焦点を合わせている。したがって、国際的な観点からも、アジアとりわけ日本に
おける積極的な議論への参加や成果発信が求められる。

 他方、筆者の関心である「参加型GIS」研究に関するセッションも多数開催された
ため、その概略について簡単に紹介する。関連する企画セッションの全タイトルに
ついては、カナダの地理学者らを中心とするGISとオープンデータの研究ネットワー
ク「Geothink.ca[4]」らによるまとめが参考になるため、本記事と合わせて参照
頂くと良い。

 参加型GISは、1990年代前半のGIS批判を契機に議論され20年近くが経過した。そ
こで、参加型GISの回想とさらなる展開を模索するためのセッションが複数企画され
た。特に近年では、情報科学・技術やデータ駆動型(data-driven)による土地利用
計画という側面に加え、これらの技術力を持った活動的な市民(Civic Tech)との
関わりが、参加型GISの推進とも大きく関連しているとされており、このような状況
を地理学的にどのように評価するかについて議論が活発に行われた。また、行政機
関におけるデータ開放(オープン・データ)と開かれた行政(オープン・ガバメン
ト)が活発化する中で、これらの社会現象とGIS-地理学の理論がどのように結びつ
くかが直近の課題である。

 多様の人々による参加に基づく地理情報の共有や動機の向上については、自由な
地理データベース作成プロジェクトである「OpenStreetMap(オープンストリートマ
ップ)」を題材としたセッションが2つ企画されたことが大きい。さらにこうした膨
大なデータベースを、アカデミック内外の場で積極的に活用し新たな産業を産み出
すべく、米国の地理情報のベンチャー企業に所属する若手エンジニアが議論する企
画セッションも2つ開催された。なお、筆者は都合により参加できなかったが、多数
のGIS研究者・技術者が一堂に会するということで、Matthew Zook(University of
Kentucky)らの呼びかけによるハッカソンイベントも企画された(加えて別の日
にシカゴ市内で、市民エンジニアが中心となってOpen Gov Hack Night[5]という
イベントが開催され、私を含めAAG参加者も4人ほど参加した)。

 地理学の科学的側面に関する研究報告が大きな割合を占める一方で、地理的知識
やGIS技術に関する社会的実践やアウトリーチをめぐる企画セッションも数多く開催
され、改めて英語圏における地理学やGIS分野のダイナミクスさに感心した。一方、
日本においても徐々にではあるが、デジタル・ヒューマニティーズ分野との接点や
GIS学会を中心とした斬新な企画セッション・ハンズオンが開催されつつある状況で、
このような活動が継続的かつ多様な人々の参加を通して活性化することが望まれる。

[1] http://www.aag.org/cs/annualmeeting
[2] http://news.aag.org/2015/04/author-meets-critics-david-harveys-seventeen...
[3] http://news.aag.org/2015/04/2015-honorary-geographer-peter-bol/
[4] http://geothink.ca/american-associaton-of-geographers-aag-2015-annual-me...
[5] http://opengovhacknight.org/

Copyright(C)SETO, Toshikazu 2015- All Rights Reserved.
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
◇イベントレポート(3)
「TOKYO 2020/2030-文化資源で東京が変わる」第1回東京文化資源区シンポジウム
http://tohbun.jp/event/
 (鈴木親彦:東京大学大学院人文社会系研究科 博士課程(文化資源学))

 2015年5月21日、前週15日にグランドオープンしたばかりのテラススクエア(神田
錦町)で、東京文化資源会議によるシンポジウム「TOKYO 2020/2030-文化資源で東
京が変わる」が開催された。この会議は、2020年に開催される東京オリンピック・
パラリンピックに向け、東京の文化資源、特に東北部の文化資源の活用・連携・再
創造のあり方を考え、発信していくことを目的とした組織である。

 シンポジウムには地域の関係者、各種メディアをはじめとする企業人、研究者、
アーティストなど多様な人々が参加していた。300人が収容できるカンファレンスル
ームが満員、追加席を用意するほどの盛況ぶりで、この取り組みへの注目度の高さ
が見て取れた。

 はじめに会長である早稲田大学特命教授、伊藤滋から全体的な趣旨説明が行われ
た。続いて東京大学教授の吉見俊哉が、前回1964年に行われた東京オリンピックの
際に行われた東京の都市整備と開発に触れながら、今回構想されている「東京文化
資源区」の枠組みについての説明を行った。

 東京文化資源区の説明については、東京文化資源会議のサイト( http://tohbun.jp/
)に掲載され、また個々のプロジェクトについても近日中に同サイトで公開される
予定とのことなので、ここでは大まかに概要のみを述べるにとどめる。

 プロジェクトでは、谷中・根津・千駄木(いわゆる谷根千)から、上野、本郷、
秋葉原、神田、神保町までの地域、湯島がほぼ中心にあたる地域を「東京文化資源
区」としている。そこに集積している様々な文化資源を活用することで、前回のオ
リンピック以来経済中心の発展に偏ってきた東京に新たな発信力を生み出すことを
目指すのである。この地域の利点、半径約2kmにすべての地区が収まる「地の利」、
地域活動が盛んなだけでなく大学という人的資源の宝庫も多数有数「人の利」、そ
して2020年のオリンピックというスポーツのみならず文化の祭典が行われるという
「時の利」を活かすことも期待されている。

 続いて元国会図書館館長の長尾真による京都での先行事例の紹介が行われる予定
であったが、急用とのことで会議の事務局長を務める柳与志夫による代読に変更さ
れた。最後に、文化資源を発掘し活かす活動をしてきた3名、都市デザインを研究す
る明治大学教授小林正美、NPO台東歴史都市研究会で地域の伝統的建物を活用する活
動を行っている椎原晶子、アーツ千代田3331のディレクターとして地域を拠点にア
ート活動を推進している東京藝術大学教授中村正人に、吉見俊哉を加えたパネルデ
ィスカッションが、早稲田大学演劇博物館館長の岡室美奈子の司会で行われた。

 ここで全ての事例とディスカッションの内容を示すことはできないので、人文情
報学の視点で注目に値するものに絞って説明する。長尾の示した京都での先行事例
および、パネルディスカッションの中で小林が示したデジタル・ファブリケーショ
ンを活用した街づくり事例である。

 京都は、地の利および人の利、そして歴史的積み重ねという点で東京に勝るとも
劣らない可能性を秘めている。東京で枠組みをつくるプロジェクトは今回始まった
ばかりであるが、京都では既に行政とのタッグを組んで個別の活動を支援し、街全
体としての文化資源を活用する動きが始まっている。具体的には町屋の活用や伝統
工芸を活かしたコスプレなどの取り組みが示され、さらに歴史的な文脈のコンテン
ツをVR技術によって活用する事例なども紹介された。なかでも重要な事例はデジタ
ル・アナログの活動問わず、全体を整理し相互活用を可能にするデジタル・アーカ
イブの構想であろう。代読した柳によれば、東京での取り組みでは現在のところデ
ジタル・アーカイブの構想は遅れているとのことであった。ただし、会議の中心メ
ンバーとして『アーカイブ立国宣言』(ポット出版、2015)の主な著者が複数参加
していることを考えると、東京文化資源デジタル・アーカイブの立案も今後なされ
ていく可能性は高い。

 小林が示したアメリカの事例は、空きビルに3D工作機械や共同ワーキングスペー
スを設置することでコミュニティーを再組織し、アートと産業の両面で活性化に成
功したというものである。個人レベルによる工作の推進で、大量生産以外の製造の
在り方を拓いてきたデジタル・ファブリケーションやメイカーズ・ムーブメントが
軸となっている。この動きは、デジタル・データの加工の容易さや3D機材の普及が
後押しとなって拡大し、渋谷や鎌倉、筑波などにFablabができるなど、すでに日本
にも広がっている。人文情報学においても3D技術は、例えば考古学遺物や美術品な
どの研究や、VRでの歴史的コンテンツの活用などに利用されている。今回の事例か
ら、市民一人一人が「作り手」となるような動きもまた重要な研究対象となりえる
のではないかと感じられた。

 パネリストが示した様々な事例を始め、東京東北部で行われている活動は多数あ
り、それぞれが大きなポテンシャルを持っている。著者も東京大学文化資源学研究
室と東京芸術大学文化財保存学専攻の人的資源を結び合わせ、神田明神と協力して
新しい祭を考えて実践するプロジェクトを行って来た。

 吉見が示した全体的な枠組みや行政との連携と、実際に行われている個々の活動
がつながるためには、その間をつなぐさらなるレイヤー、活動を横断的にコーディ
ネートするマネジメントのレイヤーが必要になる。このレイヤーが会議の成果によ
って制度的に支えられるものになれば、地域活動も研究活動もさらに活発化できる
というのが、自身の経験を思い返したうえでの著者の印象である。

 すでに会費100万円の賛助会員として複数の企業が参加しており、また会長である
伊藤も「行政や税金を動かす、理想論以外の部分」にも全力を尽くすことを宣言し
ていた以上、このプロジェクトが東京の文化にとって重要な核の一つになっていく
可能性は高い。その中で、理論と実践をつなぐ人材の育成、およびそれを支えるシ
ステムの設計や運用について、人文情報学の成果を活かすべだろう。

 熱気にあふれ実現の可能性を感じさせるシンポジウムであったが、一つだけ気に
なったところがある。「文化資源」とは何かについて、ほとんど説明がなされなか
った点である。著者が「文化資源学」研究室に属しており、そこでどのような研究
成果が積み重ねられて来たかを研究してきたからこそ生じた疑問かもしれない。

 説明がなかったことは、翻れば「文化資源」が一般名詞化し、語り手によってさ
まざまな意味を込められる言葉となってきた証左ともいえる。しかし、本プロジェ
クトが取り組みの単なる集合を超えて、東京を再発信する枠組みとしても成功する
ためには、「文化資源」という言葉をこの場でどう位置づけていくか、語っていく
必要もあるだろう。

Copyright(C)SUZUKI, Chikahiko 2015- All Rights Reserved.
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 配信の解除・送信先の変更は、
    http://www.mag2.com/m/0001316391.html
                        からどうぞ。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆編集後記(編集室:ふじたまさえ)
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 今月も、さまざまな立場から人文情報学にまつわる論考を寄せていただきました。
ご寄稿いただいた皆さま、ありがとうございました。

 特に、今回は、人文情報学があつかうデータや情報源、資料にフォーカスがあた
っていたように感じます。一方でイベントレポート(1)では、なかなか知ることが
できないイベントの企画側からの視点でレポートをいただきました。

 個人的な視点では、「文化資源」という言葉に注目しています。東京では一般名
詞化しているという実感がともなうレベルに来ているのかもしれませんが、日本全
国へ広まっていくのには時間がかかりそうです。今後の展開に期待しています。

 次号もお楽しみに。

◆人文情報学月報編集室では、国内外を問わず各分野からの情報提供をお待ちして
います。
情報提供は人文情報学編集グループまで...
       DigitalHumanitiesMonthly[&]googlegroups.com
                  [&]を@に置き換えてください。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
人文情報学月報 [DHM046]【後編】 2015年05月27日(月刊)
【発行者】"人文情報学月報"編集室
【編集者】人文情報学研究所&ACADEMIC RESOURCE GUIDE(ARG)
【 ISSN 】2189-1621
【E-mail】DigitalHumanitiesMonthly[&]googlegroups.com
                 [&]を@に置き換えてください。
【サイト】 http://www.dhii.jp/

Copyright (C) "人文情報学月報" 編集室 2011- All Rights Reserved.
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

Tweet: