ISSN 2189-1621

 

現在地

DHM 033 【前編】

2011-08-27創刊

人文情報学月報
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄Digital Humanities Monthly

             2014-04-29発行 No.033 第33号【前編】 468部発行

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 ◇ 目次 ◇
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
【前編】
◇《巻頭言》「ソーシャルメディアとフィールドワーク」
 (近藤康久:総合地球環境学研究所)

◇《連載》「Digital Humanities/Digital Historyの動向
      ~2014年3月中旬から4月中旬まで~」
 (菊池信彦:国立国会図書館関西館)

◇《特集》「デジタル学術資料の現況から」第2回
 ペルセウス・デジタル・ライブラリーのご紹介(2)
  -Perseusでホメロス『イリアス』を読む-
 (吉川斉:東京大学大学院人文社会系研究科 西洋古典学研究室)

◇人文情報学イベントカレンダー

【特別編】
◇基調講演和訳
「デジタル人文学の将来」
 (Neil Fraistat:メリーランド大学教授・ADHO会長)
 (日本語訳:長野壮一・東京大学大学院人文社会系研究科博士課程)

【後編】
◇イベントレポート(1)
シンポジウム「東洋学におけるテクスト資料の構造化とWebの可能性」(最終)
 (北岡タマ子:お茶の水女子大学)

◇イベントレポート(2)
『東洋学へのコンピュータ利用』第25回研究セミナー
 (安岡孝一:京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター)

◇イベントレポート(3)
「Code4Lib 2014」参加報告
 (高久雅生:筑波大学)

◇イベントレポート(4)
第2回「京都デジタル・ヒューマニティーズ勉強会」
 (上阪彩香:同志社大学大学院文化情報学研究科)

◇編集後記

◇奥付

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
【人文情報学/Digital Humanitiesに関する様々な話題をお届けします。】
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◇《巻頭言》「ソーシャルメディアとフィールドワーク」
 (近藤康久:総合地球環境学研究所)

 研究室を離れて行うフィールドワーク(臨地調査)は、学術調査であると同時に
他所(よそ)への訪問であり、非日常の場に身をおいて行う研究活動である。とく
に地理学や人類学に関連するフィールドワークでは、調査活動のみならず、現地の
食事や宿舎、風景、人々など、あらゆるものごとが記録の対象となる。それ以外の
分野においても、非日常に身をおくことからして、あらゆるものごとがめずらしく、
記録の対象となる。

 Twitter( http://twitter.com )やFacebook( http://facebook.com )に代表
されるソーシャルメディアには、特定の話題を多数の人々に効率よく伝えることが
できるという特長がある。また、昨今はインターネット回線の世界的な普及により、
これまで僻地と見なされてきた場所からリアルタイムないし準リアルタイムで(そ
の日のうちに)情報を投稿できることも多くなった。いまや、ソーシャルメディア
はフィールドワークの情報を日々発信するのに最良の媒体である。

 それでは、フィールドワーカーは現地でソーシャルメディアをどのように使うの
だろうか。この疑問を解くために、筆者は2012年12月から2013年4月にかけてアラビ
ア半島のオマーンで考古学のフィールドワークを実施した際に、調査参加者のソー
シャルメディア利用状況を調査した。調査対象者は4名、みなTwitterまたはFacebook
あるいはその両方のユーザーであり、現地宿舎においてインターネットに常時接続
できる環境にあった。ソーシャルメディアへの発信内容は、研究者としての良識の
範囲内で、メンバーの自由に委ねられた。

 フィールドワーク終了後、対象者4名のTwitterとFacebook、位置情報ソーシャル
ネットワークサービスであるfoursquare(http://4sq.com)の投稿内容を分析した
[1]。100日間に424件の投稿があり、そのうち最も多かったのは、自分の居所を知
らせる投稿であった(102件、全投稿に占める割合は24.06%)。次に多かったのは、
別の投稿に対する応答(69件・16.27%)であった。以下、買い物などの物資調達に
関する話題(31件・7.31%)、食事に関する話題(26件・6.13%)、天候に関する話
題(23件・5.42%)、室内作業に関する話題(23件・5.42%)、他所を訪問する話題
(18件・4.25%)、風景(16件・3.77%)、現地事情(14件・3.30%)、雑感(14件・
3.30%)が上位を占めた。この他、出入国(11)、野外作業(9)、研究ニュース(9
)、現地生活一般(9)、現地通信事情(9)、現地の動物(7)、望郷の想い(6)、
行動予告(6)、現地の人々との付き合い(4)に関する話題や、年賀の挨拶(3)な
どが投稿された(括弧内の数字は投稿件数を示す)。

 これらの情報は4つのグループにまとめることができる。第一は単純に居所を知ら
せるものであり、全体としてはこれが最も頻度が高かった。特に、foursquareのア
プリをGPS機能付きスマートフォンにインストールして使うと、現在地(ベニュー)
を簡単に投稿でき、訪問地を時系列順に一覧できる。TwitterやFacebookと投稿を同
期することもできるので、旅程記録ツールとして大変有用であることが分かった。

 居所に次ぐ第二の話題グループは食事や風景、動物、人々との交流など、現地の
生活体験や見聞に関するものであり、第三は買い物やメンバーの去来などロジステ
ィクスに関する情報であった。第四は調査地や調査成果に関する情報であるが、こ
れには研究協定やセキュリティの関係上、守秘を要するものが含まれるため、頻度
としては相対的に少なかった。現地のカウンターパートや監督官庁にもソーシャル
メディアの利用者がいることから、たとえ日本語で投稿してもグーグル翻訳などの
すぐれた機械翻訳ツールを誰もが無料で利用できる昨今では、現地滞在にまつわる
ネガティブな投稿は厳に慎まなければならない。

 さて、これらのソーシャルメディアを通じて発信される情報が、伝統的な紙媒体
のフィールドノート(野帳)に比肩するほどの情報量を持ち合わせているかという
と、肝心の調査成果を配信しづらいために、まだまだ野帳の情報量にはかなわない。
しかし、日々の居所(そこからフィールドワークの内容を推し量ることができる)
や食事など、定型的で発信しやすい情報に関しては、野帳の記録を補って余りある。
また、調査成果のニュースリリースに関しては、既存のメディアよりも拡散が早い
という長所がある。そのため、ソーシャルメディアを公式のニュースリリースと上
手く組み合わせることによって、一層効果的な情報発信・アウトリーチが可能にな
るものと期待される。

 なお本稿は、日本地球惑星科学連合2013年大会「ソーシャルメディアと地球惑星
科学」セッションでの口頭発表[2]を下敷きにして執筆した。

[1] Twitterの過去ツイート取得にはTweet Tunnelを使用した。
[2] 近藤康久・野口 淳・三木健裕・小口 高(2013)「ソーシャルメディアによ
 るフィールドワーク内容のリアルタイム発信:オマーンにおける地考古学調査の
 事例から」日本地球惑星科学連合2013年大会、口頭発表MTT39-03.
 要旨: http://www2.jpgu.org/meeting/2013/session/PDF/M-TT39/MTT39-03.pdf
 スライド: http://www.slideshare.net/yaskondo/jp-gu2013-kondoetalsmpub

執筆者プロフィール
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
近藤康久(こんどう・やすひさ) 2014年4月より総合地球環境学研究所・研究高度
化支援センター・准教授。研究所では地球環境学リポジトリ事業の推進を担当。バ
ックグラウンドは考古学で、オマーンの世界遺産バート遺跡群をフィールドに地理
学・情報学と連携した学際研究を進めている。また、ソーシャルメディアを活用し
たアカデミック・コミュニティの形成にも関心をもっている。Twitterアカウント:
@yaskondo

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《連載》「Digital Humanities/Digital Historyの動向
      ~2014年3月中旬から4月中旬まで~」
 (菊池信彦:国立国会図書館関西館)

 前号に引き続き、2014年3月中旬から4月中旬までのDigital Humanities/Digital
Historyに関する動向をまとめた。

○新聞・ブログ記事
 3月20日付のThe New Yorkerで、スタンフォード大のFranco Morettiの“Distant
Reading”が取り上げられている。Morettiの研究手法の紹介にとどまらず、記事後
半では批判的な見解にも言及している。
http://www.newyorker.com/online/blogs/books/2014/03/franco-moretti-and-t...
 ちなみに、4月2日にはLondon School of Economics and Political Scienceのブ
ログに、DHのデータ共有と再利用をテーマとした記事が掲載されており、このなか
でもMorettiのデータが引用・紹介されている。
http://blogs.lse.ac.uk/impactofsocialsciences/2014/04/02/re-purposing-da...

 4月5日、British Libraryのブログに“Digital history and the death of quant
”という記事が掲載された。記事は、デジタルヒストリアンが備えるべきでありな
がら、その重要性が看過されているスキルとして、量的な研究手法、すなわち、統
計学的な研究スキルを指摘している。記事では重要性が見過ごされてきた理由とし
て、統計学的手法で研究が行われていた社会経済史研究から、それをあまり使わな
い文化史にシフトしたという史学史の流れがあるとしている。
http://britishlibrary.typepad.co.uk/digital-scholarship/2014/04/digital-...

 4月12日、日本西洋古典学会のサイトに、第3回目となる「西洋古典学の研究支援
サイト」の紹介記事が掲載された。著者は古代ローマ史研究者の藤井崇。記事では、
特にギリシア語銘文学に関するサイトが紹介されている。なお、過去2回はメーリン
グリスト、書評サイト、奨学金関係サイトなどが主に取り上げられていた。
http://clsoc.jp/agora/izanai/2014/140412.html

 3月7日にダブリンで開催されたセミナーOCLC Research Distinguished Seminar
Seriesにおいて、Digital Public Library of America事務局長 Dan Cohenが、“
Inside the Digital Public Library of America”と題した講演を行っている。4月
14日に、その講演資料と動画が公開された。
http://www.infodocket.com/2014/04/14/video-dpla-executive-director-dan-c...
http://oclc.org/research/events/2014/03-07.html

○イベント・出来事
 3月18日、人文学研究者と情報系の研究者等とのアンカンファレンスイベントを開
催するTHATCampの委員会が、初の委員投票を実施した。7人中4名分が対象。3月26日
に、Anastasia Salter、Jeff McClurken、Fre'de'ric Clavert、Micah Vandegrift
の選出が発表された。
http://thatcamp.org/03/18/vote-in-the-first-thatcamp-council-election/
http://thatcamp.org/03/26/introducing-the-thatcamp-council/

 3月21日、ギリシアが、ヨーロッパ各国における芸術・人文諸科学のための電子研
究インフラ構築プロジェクトDARIAH(Digital Research Infrastructure for the
Arts and Humanities)への参加を表明し、DARIAH-GRの設立が発表された。
http://dariah.eu/news/articles/details.html?tx_news_pi1%5Bnews%5D=132&tx...
 また、DARIAH関連として、4月9日にドイツのDARIAH-DEのポータルサイトがリニュ
ーアル公開されている。プロジェクトレポート類を公開する“DARIAH-DE Working
Papers”のページや、トピックモデルによるテキスト分析を学ぶチュートリアルペ
ージ等が新規公開されたとのことである。
http://dhd-blog.org/?p=3323
https://de.dariah.eu/

 3月27日、全米人文科学基金(NEH)の研究助成プログラムの結果が発表され、そ
のうちOffice of Digital HumanitiesによるDHスタートアップグラントを獲得した
20件の研究課題も公表された。
http://www.neh.gov/news/press-release/2014-03-27
http://www.neh.gov/divisions/odh/grant-news/announcing-20-digital-humani...

 4月2日、centerNetが運営しているDHコミュニティサイトDH Commonsが、“
DHCommons journal”の創刊に向けて原稿募集を発表している。締め切りは8月15日
で、創刊号の刊行は今秋の予定。
http://dhcommons.org/blog/2014/04/02/first-call-project-statements-dhcom...

 4月7日、人文社会科学領域のオープンアクセスメガジャーナル構築プロジェクト
Open Library of Humanities(OLH)が、アンドリュー・W・メロン財団からの助成
獲得を発表した。この助成金をもとにOLHは、今後12か月間に、ビジネスモデルの構
築、掲載論文の募集とピアレビューの実施、インフラの整備を行うとしている。
https://www.openlibhums.org/2014/04/07/funding-from-the-andrew-w-mellon-...

 4月8日、今年のDHの日(Day of DH 2014)が開催された。この「DHの日」は、各
国のDH研究者らが自分の研究内容等をウェブで発信する取り組みである。
http://dayofdh2014.matrix.msu.edu/about/

 4月9日に、今年7月にスイスのローザンヌで開催されるDH大会の詳細スケジュール
が公表された。
http://dh2014.org/2014/04/09/dh2014-detailed-schedules/

 日本政府のデータカタログサイト(試行版)であるdata.go.jpが3月31日をもって
閉鎖したのを受けて、4月9日、データカタログ部分の機能を提供する仮サイト
datago.jpが、Data for Japanによって立ち上げられた。Data for Japanは、Linked
Open Data Initiative、Code for Japan、Open Knowledge Foundation Japanによる
有志のグループ。なお、データカタログサイト(試行版)は再開のための手続きを
進めているところであり、datago.jpは本家サイトの再開後には閉鎖する予定という。
http://datago.jp/
http://data.go.jp/

 4月14日、日本オープンオンライン教育推進協議会が、日本版MOOCの提供を開始し
た。まずは東京大学の本郷和人教授による「日本中世の自由と平等」等の3つのコー
スが開講されている。なお、今年夏以降の開講予定の中に、立命館大学の矢野桂司
教授と木立雅朗教授による「歴史都市京都の文化・景観・伝統工芸」がある。
http://www.jmooc.jp/wp-content/uploads/2014/04/PressRelease20140414.pdf
http://gacco.org/list.html#rits
 関連する話題として、3月24日に東京大学が講義の動画を提供するオープンコース
ウェア(OCW)のテキスト検索機能を実装した。これは、講義中に投影するスライド
からテキストを自動抽出してインデックス化する技術を用いることで、キーワード
検索を可能にしたものとのこと。
http://it.impressbm.co.jp/e/2014/03/24/5718

○プロジェクト・ツール・リソース
 3月19日、国土地理院が「誰でも・簡単に・日本全国どこでも」地理院地図を3次
元で見ることができ、また、3Dプリンターで印刷(立体模型を作成)することも可
能な「地理院地図3D」を公開した。
http://cyberjapandata.gsi.go.jp/3d/index.html

 3月20日、NTTデータは、バチカン図書館所蔵のマニュスクリプトのデジタル化を
実施すると発表した。まずは4年間で3,000点が対象となり、将来的には約8万点全て
のマニュスクリプトをデジタル化する大規模プロジェクトになる見込みという。
http://www.nttdata.com/jp/ja/news/release/2014/032000.html
http://www.vatlib.it/home.php?pag=in_evidenza_art_00232&BC=11
 なお、バチカンのPontifical Commission of Sacred Archaeologyが、カタコンベ
等を写した歴史的な写真1万点や、同委員会の議事録等2万点を提供するデジタルア
ーカイブをこのほど公開した。
http://www.archeologiasacra.net/pcas-web/home
http://www.eagle-network.eu/pcas-archive-now-online/

 3月21日、Perseus Digital Libraryがラテン語の語彙データセットをOpen Linked
Dataとして公開した。今後ギリシア語も公開するとしている。
http://sites.tufts.edu/perseusupdates/2014/03/21/announcing-the-perseus-...

 3月21日、“Trading Consequences”が正式公開された。英エジンバラ大学をはじ
め、カナダの大学等が共同で開発したもの。これは、19世紀イギリス帝国の商取引
記録のテキスト化を行い、テキストおよび地名からブラウジングできるようにした
もので、これにより、これまで一部の商品あるいは一部の地域のみに限定的な形で
の研究になりがちであった19世紀イギリスの商取引について、その全容を調べるこ
とが可能になったという。
http://tradingconsequences.blogs.edina.ac.uk/2014/03/21/official-launch-...
http://tradingconsequences.blogs.edina.ac.uk/files/2014/03/DiggingintoDa...
http://www.ed.ac.uk/schools-departments/informatics/news-events/recentne...
http://theconversation.com/data-mining-uncovers-19th-century-britains-fa...

 3月24日、英国図書館がTranscribe Benthamに協力すると発表している。図書館が
所蔵しているベンサムの史料をデジタル化し、プロジェクトに提供するとのこと。
http://britishlibrary.typepad.co.uk/untoldlives/2014/03/meet-the-bentham...

 3月24日、ヨーロッパのフィルムアーカイブに関するプロジェクトEuropean Film
Gatewayが、第一次世界大戦期における映画史を紹介するウェブ展示“European
Film and the First World War”を公開した。
http://project.efg1914.eu/virtual-exhibition-european-film-and-the-first...
http://exhibition.europeanfilmgateway.eu/efg1914/welcome

 3月25日、英JISCとWellcome Libraryが19世紀の薬学関連史料1,000万ページのデ
ジタル化で協力すると発表した。
http://www.jisc.ac.uk/news/historical-medical-books-database-gets-a-boos...

 3月26日、国立国会図書館のNDLラボが、近代デジタルライブラリーの資料を共同
でテキストデータ化するためのプラットフォーム「翻デジ」(バージョン0.8)を公
開した。これは、日本デジタル・ヒューマニティーズ学会(JADH)の分科会である
SIG-Transcribe JPが提供するもので、日本語文献の検索性を高めること、クラウド
ソーシングによるデジタル翻刻を提供し、同種のプロジェクトを立ち上げやすい状
況を作ること等がその目標とされている。なお、2月19日に開催された翻デジ公開シ
ンポジウムの様子は、本誌前号に掲載されている。
http://lab.kn.ndl.go.jp/dhii/

 イギリス、スコットランド国立図書館が1840年代から1950年代までの全ウェール
ズとイングランドを対象にした地図史料を公開した。Googleマップを使って調査地
域をブラウジングできるようにしている。
http://maps.nls.uk/os/6inch-england-and-wales/
http://www.infodocket.com/2014/03/25/reference-national-library-of-scotl...
 また、地図関連では、3月28日にニューヨーク公共図書館が歴史地図2万点をオー
プンアクセスで公開している。
http://www.nypl.org/blog/2014/03/28/open-access-maps

 3月28日、バージニア大学Scholars' LabがOmekaとFedraCommonsのそれぞれのアイ
テムをリンクさせるプラグインFedoraConnectorがver.2.0としてリリースした。
http://www.scholarslab.org/announcements/fedoraconnector-2-0/
また、Scholars' LabはNeatlineのプラグインNetalineTextを3月31日にリリースし
ている。Neatlineで作成した展示のテキスト部分と画像部分とをリンクさせること
ができるもの。
http://www.scholarslab.org/announcements/neatline-text/
http://omeka.org/add-ons/plugins/neatlinetext/

 4月3日、米国議会図書館のブログにおいて、ボローニャ大学の開発したウェブベ
ースのXMLマークアップツールLIME Editorが紹介されている。LIME Editorのサイト
では、Akoma Ntoso、TEI、Legal RuleMLの3つのマークアップ手法についてのデモ環
境が提供されている。
http://current.ndl.go.jp/node/25855
http://lime.cirsfid.unibo.it/

 4月7日、Google歴史アーカイブで手塚治虫コレクションが、アトムの誕生日であ
るこの日にあわせて公開された。コレクションは、手塚プロダクションとの協力に
より、同社が所蔵する手塚治虫の作品やその生涯を紹介するおよそ170点の資料と、
手塚治虫記念館のミュージアムビューで構成されている。なお、Google歴史アーカ
イブに漫画家が登録されるのは今回が初。
http://googlejapan.blogspot.jp/2014/04/google.html
http://www.google.com/culturalinstitute/collection/tezuka-osamu?hl=ja%E2...

 4月8日、THATCampの様々なサイトのブログポストを一元的に閲覧できるポータル
サイト“Proceedings of THAT Camp”が公開された。
http://chnm.gmu.edu/news/introducing-the-proceedings-of-thatcamp/
http://proceedings.thatcamp.org/

 4月8日、グラナダ大学のDH研究プロジェクトGrinUGRとMapa HDの両プロジェクト
が共同で、スペイン語・ポルトガル語圏のDHおよびデジタル社会科学研究に携わる
研究者・研究センター、そしてそれらによるプロジェクト等をマッピングした“
Atlas of Digital Humanities and Social Sciences”を公開した。
http://grinugr.org/mapa/
http://wp.me/p3M99u-9e

 4月10日、ドイツのライプツィヒ大学のDH研究ユニットが、“Corpus Scriptorum
Ecclesiasticorum Latinorum”のEpiDoc XMLバージョンをOpen Greek and Latin
ProjectのGitHubで公開したと発表した。
http://www.dh.uni-leipzig.de/wo/csel-is-now-on-github/
http://www.csel.eu/

 一週間分のDH関連ニュースを毎週月曜日にダイジェスト版として紹介する“DH
Trends”という取り組みがスタートしている。これは、プラットインスティテュー
トの図書館情報学大学院の授業の一環として行われているもの。プラットフォーム
としてStorifyが利用されている。
http://acrl.ala.org/dh/2014/04/15/resource-dh-trends/
https://storify.com/DHtrends/

○論文・学術雑誌・研究書
 DH雑誌の新刊が相次いだ。Digital Humanities Quarterlyの 8巻1号、Literary
and Linguistic Computingの29巻1号、そしてInternational Journal of
Humanities and Arts Computingの8巻1号等である。特にInternational Journal of
Humanities and Arts Computingは、“Digital Methods and Tools for Historical
Research”と題した特集が組まれている。
http://www.digitalhumanities.org/dhq/vol/8/1/index.html
http://llc.oxfordjournals.org/content/29/1.toc
http://www.euppublishing.com/toc/ijhac/8/1

 L'Institut Franc,aisがフランスにおけるDHの研究の現状をまとめた“
Humanite's nume'riques - E'tat des lieux et positionnement de la recherche
franc,aise dans le contexte international”をオープンアクセスで刊行した。著
者はMarin DacosとPierre Mounierの二人で、ともに人文・社会科学系の学術コミュ
ニケーションポータルOpen Editionの責任者である。
http://leo.hypotheses.org/11224
 また、そのOpen Editionからは、このほど“What is the Text Encoding
Initiative?”が刊行されている。TEIを入門者向けにわかりやすく解説したものと
のことで、ウェブ版はオープンアクセスで公開されている。
http://books.openedition.org/oep/426

 また、スペインからは、黄金世紀を対象にした雑誌JANUSの別冊(Anexo 1(2014)
)として、2013年7月に開催されたスペインDH学会結成大会(HDH2013)をまとめた
論文集“Humanidades Digitales: desafi'os, logros y perspectivas de futuro”
が刊行されている。
http://www.janusdigital.es/anexo.htm?id=5
 なお、その大会の様子については、本誌第27号の「HDH2013 報告/スペインにお
けるデジタル・ヒューマニティーズ学会設立大会」の記事で紹介済み。
http://www.dhii.jp/DHM/dhm27-1

 その他、ナバラ大学出版局からは、電子ジャーナルや電子出版、電子図書館をテ
ーマに25編の論文で構成される論文集“Visibilidad y divulgacio'n de la
investigaci o'n desde las Humanidades Digitales. Experiencias y proyectos”
がオープンアクセスで刊行されている。
http://grisounav.wordpress.com/2014/04/10/publicado-visibilidad-y-divulg...
http://www.unav.edu/publicacion/biblioteca-aurea-digital/BIADIG-22

○レポート・報告書等
 4月4日、欧州委員会は、研究目的でのテキストマイニングやデータマイニングを
許可する方向に欧州の著作権法を改正していくことを提案する報告書を発表してい
る。
http://current.ndl.go.jp/node/25878
http://ec.europa.eu/research/innovation-union/pdf/TDM-report_from_the_ex...

特殊文字については次のとおり表記しました。
アクサン・テギュ:e'
セディーユ:c,
アセント:o'

Copyright(C)KIKUCHI, Nobuhiko 2013- All Rights Reserved.
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
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◇《特集》「デジタル学術資料の現況から」第2回
ペルセウス・デジタル・ライブラリーのご紹介(2)
-Perseusでホメロス『イリアス』を読む-
 (吉川斉:東京大学大学院人文社会系研究科 西洋古典学研究室)

 前回ご紹介したとおり、Perseus Digital Libraryは、古代ギリシア・ローマの文
献を収めた電子図書館です。今回は、西洋文学の古典中の古典、ホメロス『イリア
ス』を例にとって、Perseus Digital Libraryの機能を簡単にご紹介します。

 なお、本稿執筆にあたっての私の環境は、Windows 8.1 Update + Firefox 29.0で
す。画面は執筆時点(2014年4月)のPerseusのものであり、将来的に変更される可
能性もあります。あらかじめご了承ください。

1.準備

 まずは、ギリシア語のホメロス『イリアス』のページまで辿ってみます。

  http://www.perseus.tufts.edu/hopper/ にアクセスします。Digital Libraryの
文字列は目に付きますが、「電子図書館」とは分かりにくい見た目です。各種文献
を読む場合、ページ上部のメニューにある「Collections/Texts」をクリックします。

http://www.dhii.jp/DHM/imgs/figure01.png
(図1:Perseusトップページ・上部)

 古代ギリシア・ローマの文献を読む場合は、「Collections/Texts」ページに進み、
さらにページ上部の「Greek and Roman Materials」を辿ります。(他のコレクショ
ンを読む場合は、それぞれのリンクを進みます。)

http://www.dhii.jp/DHM/imgs/figure02.png
(図2:Collections/Textsページ)

 右側のカラムには、各コレクションに含まれる語彙数が表示されています。近代
の英語文献を除けば、Classicsが圧倒的に多いことが分かります。また、以前
Perseusに含まれていたコレクションで、現在は外部に移されているものは、「
External Collections」としてページ下部に記載されています。

 各コレクションのページでは、基本的に著者別に作品がまとめられています。作
品が複数ある著者については、初めは作品リストが閉じられていることがあります。
その場合、著者名左の三角形をクリックして、リストを展開します。ホメロスの場
合、作品リストを展開すると図3のようになります。

http://www.dhii.jp/DHM/imgs/figure03.png
(図3:作家別著作リスト。赤丸の部分をクリックしてリストを展開)

 『イリアス』の場合、「Iliad. (Greek)」からギリシア語版、「Iliad. (English
)」から英語版を読むことができます。(現在、英語版は2種含まれています。)

 なお、トップページ(に限りませんが、ページ)右上の検索欄で「Homer」と入力
して検索すると、ホメロス関係の所蔵作品リストを得られます。目的がはっきりし
ている場合は、検索の方が早いかもしれません。

http://www.dhii.jp/DHM/imgs/figure04.png
(図4:「Homer」検索結果)

 ともかくも、これで『イリアス』を読む準備が整いました。(URLは以下の通り)
http://www.perseus.tufts.edu/hopper/text?doc=Perseus:text:1999.01.0133

2.本文を読む

 さて、それでは実際に『イリアス』冒頭の画面を見てみましょう。

http://www.dhii.jp/DHM/imgs/figure05.png
(図5:ホメロス『イリアス』1巻より)

 ページのメインカラムにギリシア語の本文が表示され、右カラムに、各種関連文
献やツールが表示されます。ページ上部には「browse bar」が表示されており、「
book」から『イリアス』全24巻の各巻へ飛べます。また、「card」は、1ページで表
示される本文のブロックです(ここでは第一巻内部の区分)。「card」の番号は、
そのブロックの開始行番号に対応します。現在自分が参照している箇所は青色で表
示され、作品全体の中での位置を視覚的に把握できるようになっています。(「hide
」で「browse bar」を隠すこともできます。)

2.1 右カラム

 右カラムについては、たとえば「English (1924)」の部分で、「load」をクリッ
クすると、図6のようにギリシア語表示部に対応する部分の英訳が読み込まれます。
同一画面に表示されるため、対訳本を眺めるような読み方も可能です。

http://www.dhii.jp/DHM/imgs/figure06.png
(図6:『イリアス』英訳の読み込み)

 「hide」をクリックすると再び隠れます(一度読みこんだ後は「load」が「show
」に変わります。「show」で再表示です)。「focus」をクリックした場合は、ギリ
シア語ページから移動して英訳ページを表示します。

 また、「Notes (Allen Rogers Benner, 1903)」や「Notes (Thomas D. Symour,
1891)」は、ギリシア語本文に対する注釈です。「load」すると、英訳同様に読み込
まれます。

http://www.dhii.jp/DHM/imgs/figure07.png
(図7:注釈の読み込み)

 Perseusの特徴のひとつとして、内部の文献との相互参照が容易である点を挙げら
れます。図7の注釈中でウェルギリウス『アエネイス』1.4への言及がありますが、
その部分のリンクからPerseusに所蔵される『アエネイス』原文の該当箇所を参照す
ることができます。その他、右カラム本文で青色になっている部分はそれぞれ各種
文献の該当箇所や語彙分析ツールへのリンクです。本文と関係する箇所としては、
「References」欄も参考になります。

 以前のPerseusにおいても、ウェブ上で『イリアス』原文を読むことはできました。
しかし、たとえばそこから英訳や注釈を読もうとした場合、ページ遷移(あるいは
新しいウィンドウ)が必要でした。現在は関連文献を右カラムで動的に読み込み可
能になったため、一画面で複数の文献を参照できるようになり、以前に比べて利便
性が格段に上がっています。そしてまた、そうした利便性の向上が、ウェブ技術の
向上と相まって、ユーザー側に特別な負担を強いることなく実現されている点も評
価すべきでしょう。(Perseusプロジェクトが、積極的に新しい技術を導入してきた
結果ともいえます。)

2.2 語彙分析ツール

 次は、ギリシア語本文の部分に注目します。参考までに、冒頭2行の日本語訳を示
しておきます。

 怒りを歌え、女神よ、ペーレウスの子アキレウスの、
 おぞましいその怒りこそ 数限りない苦しみを アカイア人(びと)らにかつは
 与え、
                              (呉茂一訳)

http://www.dhii.jp/DHM/imgs/figure08.png
(図8:『イリアス』ギリシア語本文)

 見た目では分かりませんが、単語一つ一つがリンクになっています。赤い枠で囲
った部分の冒頭の単語をクリックすると、図9の画面が開きます(新ウインドウまた
は新タブ)。

http://www.dhii.jp/DHM/imgs/figure09.png
(図9:ギリシア語本文の単語「μ~ηνιν」をクリックした場合)

 Perseusの要として、強力な語彙分析ツールの存在が挙げられます。ギリシア語・
ラテン語・アラビア語など、Perseusに含まれる文献の各言語について、語彙の形態
分析、見出し語や文献内での該当語彙の使用率、辞書的語義の確認等を容易に行え
ます。単語一つ一つのリンクは、この語彙分析ツールへのリンクとなっています。

 「μ~ηνιν」の分析の結果、女性名詞「μ~ηνισ」の「単数・対格」であ
ることが示されます(赤枠内)。また、代表的な語義は右上に「wrath」と示されて
います。したがって、「μ~ηνιν」は日本語訳の「怒りを」に相当する語彙であ
ることが分かります。ギリシア語やラテン語を学習する際、語彙の形態変化を把握
することが非常に重要ですが、この語彙分析ツールはそのための手掛かりとなりま
す。(が、後述する通り、完全なものではありません。)

 「Show lexicon entry」の欄で辞書名をクリックすると、各辞書における語義が
表示されます。ホメロス作品の場合は、3種のギリシア語辞書が利用可能となってい
ます。

http://www.dhii.jp/DHM/imgs/figure10.png
(図10:辞書における語義の表示。LSJの場合)

 たとえば、図10の赤枠内の「LSJ」をクリックすると、Liddell & Scott, A
Greek-English Lexiconにおける「μ~ηνισ」の語義が下部に表示されます。さ
らに、その語義の中でも相互参照が有効になっており、机に本を積まずとも、文献
同士が容易につながっていきます。

 また、「Word Frequency statistics」の「Max」の部分の数字をクリックすると、
作品内での該当語彙(ここでは『イリアス』における「μ~ηνισ」)の用例一覧
が得られます。

http://www.dhii.jp/DHM/imgs/figure11.png
(図11:『イリアス』における「μ~ηνισ」の用例リスト)

 赤枠の部分をクリックすると、リストが展開されます。

http://www.dhii.jp/DHM/imgs/figure12.png
(図12:『イリアス』における「μ~ηνισ」の用例リスト・展開後)

 『イリアス』における「μ~ηνισ」の用例として、全部で18例が表示されます。
ただ、「μ~ηνισ」の変化形ではない、似た綴りの別の語彙もリストに含まれて
しまっているため、最終的な判断は利用者が行う必要があります。ちなみに、「Word
Frequency statistics」の欄ではMax:28でMin:12となっています。それに対して
このリストでは18例となる理由は、筆者も把握できていません。(なお、他の用例
検索ツールを用いたところ、『イリアス』における「μ~ηνισ」の使用例は15例
程度ありそうです。完全に確認できているわけではありませんが。)

 次に、ギリシア語本文の「Πηλη"ι|αδεω」を調べてみます。日本語訳で
いう「ペーレウスの子」にあたる語彙です。結果は図13の通りです。

http://www.dhii.jp/DHM/imgs/figure13.png
(図13:「Πηλη"ι|αδεω」分析結果)

 「μ~ηνιν」の例と異なり、語彙分析ツールで該当する情報が見つかりません。
(ただし、「Πηλη"ι|αδεω」に関しては、右カラムで読み込み可能な注釈
の中に説明が見られます。)

 Perseusの語彙分析ツールでは、コンピュータによる自動的・機械的な語彙の形態
判定機能の実現に取り組んでいます。語彙が使用される文脈などを統計的に評価し、
語彙の形態の候補を表示するだけでなく、語彙の形態の判定までを機械的に可能に
しようとする興味深い試みです。最初に挙げた「μ~ηνιν」は他に候補がなく、
判定が容易なものでしたが、もっと複雑な用例もあります。以下、ギリシア語本文2
行目の「μυρ|ι'」「}/αλγε'」を例に、その実態を確認します。

http://www.dhii.jp/DHM/imgs/figure14.png
(図14:「μυρ|ι'」分析結果)

 まずは「μυρ|ι'」ですが、全部で12の候補が表示されます。そして、ピンク
色で示される列が、Perseusの語彙分析ツールによって判定された語彙の形態です。
他の語彙分析ツールの場合、候補が羅列されるのみのことが多いですが、Perseusで
は一歩進んで判断を示します。なお、「μυρ|ι'」は形容詞「μυρ|ιοσ」の
「複数・中性・対格」と判定されていますが、これは正解です。日本語訳では「数
限りない」に該当する語彙です。

 ただし「It may or may not be the correct form」と注意書きされている通り、
まだ確度が高いものではありません。

http://www.dhii.jp/DHM/imgs/figure15.png
(図15:「}/αλγε'」分析結果)

 「}/αλγε'」の分析結果は図15の通りです。Perseusの語彙分析ツールの評価
では動詞「}αλγ|ωε」の「三人称・単数・未完了過去・直説法・能動態」の特
殊形として判定されていますが、これは誤りです。正しくは赤枠で囲んだ部分、中
性名詞「}/αλγοσ」の「複数・対格」の特殊形です。日本語訳では「苦しみを
」に対応する語彙であり、形容詞「μυρ|ι'」の被修飾語です。つまり両者あわ
せて「数限りない苦しみを」ということになります。

 古典ギリシア語において、形容詞は修飾する名詞と性・数・格が一致します。形
容詞「μυρ|ι'」の判定は正しいわけですから、「μυρ|ι'」の被修飾語であ
る名詞「}/αλγε'」の判定が誤っている点を考えると、機械判定にはまだまだ改
善の余地があるように見えます。(なお、「More info」の部分から、判定の基準を
見ることができます。単語間の修飾-被修飾の関係などは現状では読み込まれてい
ないようですが、現在のPerseusプロジェクトの展開からすると、将来的には評価基
準に含まれるようになりそうです。)

 こうした機械判定の不備を補うため、Perseusの語彙分析ツールが(おそらく最近
)始めた興味深い試みが「ユーザー投票」です。利用者が正しいと考える形態を「
投票」してもらう仕組みです。各候補の右端にある[vote]をクリックすることで投
票できます。機械判定に対して、人の手による判断を集計しているわけです。「
}/αλγε'」の例で見ると、機械判定と異なり、正しい形が最多得票となっていま
す。このあたりの評価の相違は、今後機械判定の精度をあげるために利用されてい
くものと思われます。

 しかし、この投票システムにも問題がないわけではありません。誤った形にも一
定数の投票が見られるためです。結果として最多得票の語形判定が正しいという場
合が多そうですが、語彙の形態の正誤は多数決で決まる性質のものでもないため、
注意が必要です。投票のぶれはPerseus利用者の古典語に対する理解度を示すものと
もいえます。Perseusはだれでも利用可能なサイトであるため、様々なレベルの利用
者が混在しています。「ユーザー投票」はPerseusのようなサイトだからこそ可能な
興味深い取り組みではありますが、その一方で、有象無象の利用者状況の中で、い
かに情報の精度を担保していくかという点は、これから課題となるように思います。

 こうしてみると、Perseusの語彙分析ツールは非常に便利なツールではありますが、
現状で提示される答えは完全なものというわけではありませんので、使いこなすた
めにはやはり一定水準の古典語の知識が求められることになります。

                * * * * *

 さて、今回はホメロス『イリアス』を題材として、Perseusの機能の一部をご紹介
しました。語彙分析ツールは現在進行形で開発が進んでいるため、少し時間が経て
ば、より確実なものとなっているかもしれません。

 次回も引き続き『イリアス』を題材としつつ、(今回説明できなかった)Perseus
におけるギリシア語表示の裏側などを紹介していきたいと思います。

[編集室注]
メールマガジンではアクセントつきギリシア文字が文字化けする恐れがありました
ので、変換しています。実際の古典ギリシア文字は、本文中に掲載したURLから図を
ご覧いただくか、人文情報学月報の公式サイトにてご覧ください。
公式サイトURL: http://www.dhii.jp/DHM/An_Introduction_to_Perseus_Lib_2

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特殊文字については次のとおり表記しました。
ティルデ:n~

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小林雄一郎(日本学術振興会特別研究員PD)
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