ISSN 2189-1621

 

現在地

DHM 079 【前編】

2011-08-27創刊                       ISSN 2189-1621

人文情報学月報
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄Digital Humanities Monthly

             2018-02-28発行 No.079 第79号【前編】 720部発行

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 ◇ 目次 ◇
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【前編】

◇《巻頭言》「書物を隅々まで〈読む〉-「近代書物流通マップ」「蔵書印データベース」のビジョン」
 (青田寿美:国文学研究資料館・総合研究大学院大学)

◇《連載》「Digital Japanese Studies寸見」第35回「DH Awards 2017出場作品に学ぶ」
 (岡田一祐:国文学研究資料館古典籍共同研究事業センター)

【後編】

◇人文情報学イベントカレンダー

◇イベントレポート(1)「第132回アメリカ歴史学協会年次国際大会」
 (小風尚樹:東京大学大学院人文社会系研究科欧米系文化研究専攻西洋史学専門分野博士課程2年)

◇イベントレポート(2)「第20回漢字文献情報処理研究会大会」
 (菊池信彦:京都府立京都学・歴彩館)

◇編集後記

◇奥付

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【人文情報学/Digital Humanitiesに関する様々な話題をお届けします。】
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◇《巻頭言》「書物を隅々まで〈読む〉-「近代書物流通マップ」「蔵書印データベース」のビジョン」
 (青田寿美:国文学研究資料館・総合研究大学院大学)

 書物には、そこに記された本文(テクスト)以外にも実に多くの情報が溢れている。書物を「モノ」として眺めたとき[1]、それがどのような形態をしているか、どのように作り/造られたか、どのようにして流通し/読み継がれ/伝えられてきたのかを、装丁や奥書・書込・印記、刊記や奥付などから判断することができる。そして、これらの諸情報を書物から仔細に読み解き正確に記述することによって、古典籍書誌学はもちろん近代書誌学も、研究の端緒を開くことになる。

 しかしながら、古典籍と近代文献とでは、図書館等で通常作成される書誌情報に大きな隔たりがある。CiNii Booksを例にとれば一目瞭然だが、細かな書誌注記を有する古典籍データ群に比べて、近代文献のそれは皆無に等しく、基本の書誌事項・詳細情報すらも簡素といって過言ではない[2]。例えば、NACSIS-CATをはじめJAPAN/MARC等に準拠したフォーマットで作成された書誌データでは、奥付に記載される情報のうち、印刷日や印刷者・印刷所そして売捌所などは採録対象となっていないのが現状である[3]。

 稿者が所属する国文学研究資料館では、独自の詳細な書誌調査要領[4]に基づく近代文献の調査を1998(平成10)年から継続的におこなっており、文献資料調査で得られた書誌情報を「近代書誌データベース」[5]として公開している。採録書誌の違いは、同一タイトルの文献で見比べてみると分かりやすい。

□『三英双美/政海の情波』第一巻(1886(明治19)年10月発行)の書誌
 (1)CiNii Books: https://ci.nii.ac.jp/ncid/BN11757277
 (2)国立国会図書館オンライン: http://id.ndl.go.jp/bib/000000518515
 (3)近代書誌データベース: http://dbrec.nijl.ac.jp/BADB_SUMI-00357

 (1)と(2)の書誌記述はほぼ同じ[6]で、それらと比較すると一層(3)の詳細さが際立つ。「近代書誌データベース」は、奥付の情報を可能な限り逐一採録するようフォーマット設計されているが、唯一省略されがちなのが売捌所の情報[7]である。『三英双美/政海の情波』の場合、(3)の書誌では次のように記述されている。

  売捌所総数:141
  売捌所:府下売捌所 中西屋ほか計7、地方売捌所 横浜弁天通 丸善書店ほか計134

 明治中期の売捌所は取次と小売を兼ね、出版物流通のキーとなる存在であった。近代文献の奥付頁末尾において、しばしば10肆以上が名を連ね、前掲書のように3桁(5頁分)に及ぶこともある[8]。近代日本における書物の販売流通網を考究する上で重要な情報源と言えよう。

 ところが、(1)(2)に顕著なように、従来の近代文献書誌記述は、著者ならびに出版者(出版物を作成し売り出す主体、発行元)を中心に綴られてきた。そこで、(3)の国文学研究資料館が積み重ねてきた営為をさらに補填し、利活用を図る一つの提案として作成したのが、「近代書物流通マップ」である。

 「近代書物流通マップ」は、国文学研究資料館「近代書誌データベース」から明治17~21年発行の書籍747点をピックアップし、それらの奥付画像等によって、書物の作成に関わる印刷業者、完成した書物を売り出す発行元、そして書物流通の要となる売捌所の名称を、それぞれの所在地情報と併せて新規に採録し、位置情報(緯度・経度)を使用してマップ上に描出することを試みた。マップに登録した位置情報は、合計3,552件にのぼる。
従来の近代書誌記述では顧みられることの少なかった印刷・売捌という業態にも照明を当て、位置情報を地図上に点描することで、近代日本の書物をめぐる複合的な動態を可視化し、近代知の伝播と啓蒙の軌跡を新たに捕捉することを目指したものである。

 当該マップについては、本誌『人文情報学月報』No.062【前編】(2016-09-30発行)に、岡田一祐氏による詳細なレビュー[9]が寄せられている。以下、岡田論へのいささかの応答と情報の補足[10]を交えながら、簡単な紹介をおこないたい。

□「近代書物流通マップβ版」
 エントランス(解説サイト): https://the-artifacts.firebaseapp.com/
 マップ(Googleマイマップ): https://www.google.com/maps/d/viewer?usp=sharing&mid=16pCB6dIC_4fgtPwds7...

 マップの使い方と概要は、エントランスページの「Usage」「Description」に記しておいた。マップデータの公開環境は、Googleマップのマイマップ機能を使ったが、そのメリットは2つ。1つは、Googleアカウントがあれば比較的簡単にウェブ地図を作成し公開できること。もう1つは、地図データをエクスポートして再現できることである。後者は、マイマップにある「KMLをダウンロード」(KML/KMZにエクスポート)機能によって、閲覧者による(個人的な利用範囲内での)再編・再利用が可能となっている。
一方、デメリットも2つある。マイマップのサイズ制限[11]と、閲覧時にマップデータの処理にかかる時間が長いことである。Googleマイマップで軽便に描出・操作できる限界も考慮し、ひとまずβ版として公開した次第である。

 「近代書物流通マップβ版」(Googleマイマップ)のデフォルトビューでは、採取した業種(発行元・印刷所・売捌所)の全レコード3,552件を表示する[12]。それ以外にも、レイヤーを切り替えることで、文献別(書籍6点)や印刷所・発行元に限定した位置情報ピンの表示が可能となっている。いずれのレイヤーにおいても、ピンアイコンをクリックすると、当該書物の出版年や奥付記載の住所表記等がサイドバーに表示され、情報を取得した「近代書誌データベース」の個別レコードへとURLリンクから遷移できる。

 文献別のレイヤー6点は、50以上の売捌所が記された書籍を選び、当該書がどのような販売網をもっていたかを個別にビジュアライズしている。そのうちの1つが、前掲した『三英双美/政海の情波』第一巻である。本書は東京京橋の印刷所・耕文社で印刷され、東京の二書店、日本橋の丸善書店と京橋の博聞社から合版(あいはん=共同出版)で発行され、日本全国141の売捌所から流通していたことが一望できる。
書物流通の実態については今後検討を要するところだが、本書刊行の1886(明治19)年という時点で、小売販売網がどのように整備され販路が確立されているか、また出版物が流通し読者の手に渡っていく様態についても、さらなる分析活用への契機となることが期待される。

 今後の展望としては、デフォルトで表示されるマップデータを、出版当時に近い時代の地図を利用するなどして、出版と流通状況の文化的・空間的把握を促進することや[13]、年代ごとの量的・地域的な推移をみるために、マップに年次別でアニメーションによる効果を付けるなど[14]、「近代書物流通マップ」データは様々な展開の可能性を内包している。

 鉄道による全国交通網が未だ完備されない明治中期において、「出版物輸送は、人手で、荷車で、荷駄(駄馬運送)で、輸送馬車で、一部を鉄道で、つぎつぎと中継ぎしつつ遠隔地まで運ばれ、鶴首して待つ僻地読者の手にわたった」[15]。新刊の新聞・雑誌や書籍はもちろん、脈脈と読み継がれ承継されてきた古典籍も含めて、読者の手を離れた書物は再び「流通」する。家族縁者や知人等が次の所有者となり、あるいは古書肆の扱うところとなって幾代にも亘って次なる所有者のもとへと流れていく。
その経路を証する情報-書物の来歴・出所・伝来を明らかにする上で重要な役割を果たす“旧蔵者情報としての蔵書印”、また、書物の流通・媒介者の実態を解明する“流通情報としての書肆印”をも集積し、公開しているのがNIJL「蔵書印データベース」である。

□NIJL「蔵書印データベース」
 トップページ: http://base1.nijl.ac.jp/~collectors_seal/
 簡易検索画面: http://base1.nijl.ac.jp/infolib/meta_pub/G0038791ZSI
 詳細検索画面: http://base1.nijl.ac.jp/infolib/meta_pub/CsvDefault.exe?DEF_XSL=detail&G...

 「近代書物流通マップ」は、書物の奥付を中心に隈無く情報を拾って〈読む〉、すなわち、発行元・印刷所・売捌所として記載される名称および所在地を採録し、資料記載の住所から、現在の位置を特定(推定)し、緯度・経度情報を確定する作業が中核となっていた。
一方、「蔵書印データベース」は、書物のどこに印影が捺されているかを、表紙から本文・後ろ表紙まで時には袋綴じの中[16]まで緻密に探すことから始めて、蔵書印はもちろん蔵書票・整理票の類や所蔵者名等の書き入れ、また、写本等で作成に関わった人物の印記、仕入れ印や貸本屋印を含む書肆印や書店票、といった具合に、旧蔵者に関わるありとあらゆる情報を〈読む〉ことで、印影を中心とする書誌レコードの蓄積とデータベースの構築をおこなってきた。
加えて、より広範な利用者層を見据えて書画等の落款印についても検索できるよう複数の印譜類から情報を搭載する他、印材コレクター[17]のご協力により印章(印材)とその印面画像(実■:金偏に今という漢字)の新規公開にも着手した。

 2012年3月末の一般公開開始からまもなく6年が経とうとしている。この間、科学研究費補助金等外部資金の導入によってレコード数を増強してきたのはいうまでもないが、採録項目数を公開当初の21から29項目へと多様化させたことは特筆すべき点と自認する。

□NIJL「蔵書印データベース」の採録項目
[蔵書印情報] 蔵書印ID、蔵書印文、蔵書印文別表記、サイズ(縦×横)、色、陰陽、形状、印影外郭、印文文字数、印文出現位置、印文行数、印文改行表記
[蔵書印主情報] 人物ID、蔵書印主、蔵書印主よみ、印主職種、時代、人物情報
[典籍情報] 典籍ID、書名、書名よみ、著者、刊記、所蔵先、請求記号
[その他] レコードID、典拠資料、備考、画像有無

 求める印影を迅速かつ手軽に探し出すための有効な検索方法とは何か。その模索を続けてきた結果が、上掲の多彩な項目設計であり、各項目の特性を活かした検索機能の設定でもあった。
各々の機能については、前掲した「詳細検索画面」を見ていただきたいのだが、例えば、蔵書印の[サイズ]と[色]は、「縦3cm未満」「縦3cm~5cm」「縦5cm以上」や「朱系」「緑系・青系」「黒系」「それ以外」といった選択項目を設け、[印文文字数]と[印文行数]については数値の範囲指定検索をおこなうことで、視認上の個人差や判読不能印の誤差等を包括する“曖昧な検索”に対応した。また、[印文出現位置]の検索項目なども、国内外の蔵書印データベース[18]では設定されていない特殊な検索フィールドである。

 冊子体の蔵書印譜として最大の採録数を誇る『増訂 新編蔵書印譜』[19]は、印文の1文字目と2文字目の五十音順索引が用意されているが、1・2文字目がともに読めない場合には印文索引が全く利用できない。一方、NIJL「蔵書印データベース」では、上限20文字までが文字順情報との組み合わせで検索可能となっている。例えば、尾崎紅葉の所用印の1つに88文字からなる詞句印[20]がある。
全文釈読は難解の部類に入るが、7文字目「能」や19文字目「力」の比較的読みやすい篆書がわかると、「7能」あるいは「19力」の情報によって、釈文とその出現位置の数字をキーとした[印文出現位置]フィールドで検索が可能である。

 冊子体の篆刻字典や蔵書印譜類の探しづらさは、印影に用いられた篆書体の音訓・部首・総画数がわからず、ましてや印章の使用者が不明の場合において往往にして体験することである。いかに大部の字典・印譜であっても、全く見当をつけられない印影の検索には適さない。
「蔵書印データベース」は、印文が一部分でも読める、印文は読めなくても何文字の印であるかが大体わかる、そして印影の形状や色などの判断材料を様々にプラスしていくことで、蔵書印を〈読む〉ことを諦めさせないツールとして、公開以来広く活用されていると推察される[21]。1つでも多くの印影が「蔵書印データベース」の利用によって釈読でき、CiNii Booksを始めとする書誌注記や目録情報に記述されていくことを願ってやまない。

 印影を探すツールとして改修を重ねてきた「蔵書印データベース」だが、先述したように、書物の移動史や流通の実態を解明し、“書脈”と“人脈”の繋がりと広がりを可視化するツールとして、学術的な利活用に応える情報基盤の整備を目指している。例えば、典籍IDを検索キーに、その書物がどのように移動・流通しているのかを一覧でき、人物IDを検索キーに、その蔵書印主がどのような学問的背景や知的興味のもとにコレクションを形成したのか等を、多層的に把握することも可能となってこよう。
散逸したコレクションをバーチャルに復元するための重要な情報源ともなり、これまで顧みられてこなかった書肆印をはじめとする流通情報のコンテンツ分析のためにも、4万件近い蔵書印レコード(3万超の印影を搭載)に更なる情報の蓄積と提供を続けていきたい。

 「近代書物流通マップ」と「蔵書印データベース」は、書誌目録の網目からこぼれ落ちる情報を積極的に拾って〈読む〉ことをベースに、情報の可視化による新たな知識の体系化を目指したツールという側面で、軌を一にする。いずれも稿者個人の興味と必要性から構想し、獲得できた経費の範囲内で、関心を共有してくれる有能な作業メンバーを得て、これまで構築をおこなってきたものである。
今後、資金の不足でデータベースの更新が止まる、あるいは、運営主体(特に個人)がデータベースの管理から退くことで更新もメンテナンスも行き届かなくなり、利用頻度も下降していくという近未来は、容易に思い描くことが出来る。人文情報学全体の課題でもあろうが、永続的な環境の確保が出来ない場合を想定して、研究資源をどのように次世代へと引き継いでいくことが望ましいのかを考える時期に来ていると痛感する。

[1]堀川貴司『書誌学入門 古典籍を見る・知る・読む』(2010年4月、勉誠出版)参照。
[2]拙稿「近代文献調査が拓く新たな研究の可能性 附・忍頂寺務『潮来舟』紹介」(『近代文献調査研究論集』2016年3月、国文学研究資料館)参照。
[3]夙に、書誌情報における「印刷者」や奥付の重要性について、内田明氏 @uakira2 が指摘している。
 「JAPAN/MARCやKOMARCが、MARC21に存在する「Printer」情報を書誌データに蓄積すれば、その「こういう年代のこういう活字で」っていう部分にスゴく効いてくるんじゃないか」(2014年1月26日ツイログ http://twilog.org/uakira2/date-140126/allasc
 「「Printer」(印刷者)の項目を独立項目として書誌データ化する枠を設けてけろ!!」(2014年10月3日ツイログ http://twilog.org/uakira2/date-141003/allasc
 「奥付ツイートの際に、コマ画像中にある「印刷者名」の、およその位置情報が簡単に付加できたりすると、超便利。SMART-GS的な何かを活用できるかも。」(2014年1月25日ツイッター https://twitter.com/uakira2/status/426900814133592064
 「近デジサムネ画像パターン処理→NDL書誌メタ注記」(はてなダイアリー「日本語練習中」2014年7月7日 http://d.hatena.ne.jp/uakira/20140707
[4]「近代文献調査マニュアル」としてPDF公開 http://www.nijl.ac.jp/pages/images/youryou_kindai.pdf 、補助ツールとしての「近代文献調査マニュアル 別冊」 https://www.nijl.ac.jp/pages/images/youryou_kindai_betsu.pdf あり。
[5]「近代書誌・近代画像データベース」 http://base1.nijl.ac.jp/~kindai/
データベースの概容は、「近代文献情報データベースポータル」 http://school.nijl.ac.jp/kindai/ 参照。
[6](2)の国立国会図書館は、2箇所の発行所のうち「丸善」しか採録せず。また、(3)の資料の所蔵先である神戸大学附属図書館のOPACでも https://op.lib.kobe-u.ac.jp/opac/opac_details/?lang=0&opkey=B15179823930... 、ほぼ(1)(2)に同じ。
[7]注[4]の「近代文献調査マニュアル」には、「転記するのに時間を要する多数の売捌所が記載されているときは、代表的なものだけを記入し」とあり。
[8]「近代画像データベース」 http://school.nijl.ac.jp/kindai/SUMI/SUMI-00357.html#183 で確認可。売捌所一覧の末尾 http://school.nijl.ac.jp/kindai/SUMI/SUMI-00357.html#185 には「其他各地売捌書店に於て孰れも取次致候」とあり。
[9]岡田一祐「ビジュアライゼーションとデータ:「近代書物流通マップ」に寄せて」 https://www.dhii.jp/DHM/dhm62-1 参照。
[10]既にツイッター上で言及した内容とも一部重複する。笠間書院のサイトにまとめ記事あり http://kasamashoin.jp/2017/07/post_4003.html 、併せてご参照願いたい。
[11]Googleマイマップヘルプ https://support.google.com/mymaps/answer/3433053?hl=ja&ref_topic=3024924 参照。
[12]マップアクセス時に初期表示される地図が2つのレイヤーに分割されているのは、Googleマイマップの機能制限「各レイヤには、合計2,000個のライン、シェイプ、場所を追加できます」による。注[11]のヘルプ参照。
[13]例えば、内田明氏が、明治19年「大日本帝国駅逓区画郵便線路図」等の「郵便の伝達経路の地図」と重ね合わせることの有用性を提言している。 https://twitter.com/uakira2/status/892369729360322560 参照。
[14]例えば、人文学オープンデータ共同利用センターが2017年11月に公開した「参勤交代アニメーション」 http://codh.rois.ac.jp/bukan/book/200018823/trip/ のような、ビジュアライズを想定。
[15]清水文吉『本は流れる-出版流通機構の成立史』(1991年12月、日本エディタースクール出版部)26頁。本書37頁では、「明治二十年代の初めごろ、東京で発行された雑誌、書籍が、前記の北陸地方は富山、金沢、福井三県の各都市へ到着するのに、七日余りを要した」として、実際に辿った経路を推定している。
[16]例えば以下の様な箇所への押捺。
http://base1.nijl.ac.jp/~collectors_seal/L0030022.jpg
http://base1.nijl.ac.jp/~collectors_seal/L0030082.jpg
http://base1.nijl.ac.jp/~collectors_seal/L0031048.jpg
http://base1.nijl.ac.jp/~collectors_seal/L0031642.jpg
[17]「丼古庵印材コレクション」。拙稿「NIJL「蔵書印データベース」を起点に、書物・人・知のネットワーク+αへ」(『リポート笠間』62号「特集2・デジタル化で未来をどう創るか」、2017年5月、笠間書院) http://kasamashoin.jp/shoten/report62_full.pdf 参照。
[18]印影を搭載し検索機能を備え且つ無料で利用できるものとして、把握している限りで6つのデータベースがある。「蔵書印DBリンク」 http://base1.nijl.ac.jp/~collectors_seal/link.html 参照。
[19]渡辺守邦・後藤憲二編、日本書誌学大系103(1)~103 (3)、2013年10月~2014年12月、青裳堂書店。
[20]蔵書印文は、「世皆称孟嘗君能得士士以故帰之而卒頼其力以脱於虎豹之秦嗟乎孟嘗君特鶏鳴狗盗之雄耳豈足以言得士不然擅斎之強得一士焉宜可以南面而制秦尚取鶏鳴狗盗之力哉鶏鳴狗盗之出其門此士之所以不至也」 http://dbrec.nijl.ac.jp/CSDB_69737 参照。
[21]アクセス数の推移とユーザ層に関して、注[17]の拙稿参照。

※本稿は、科学研究費補助金挑戦的萌芽研究「蔵書印データベースの機能強化による典籍移動史の可視化の為の情報プラットホーム整備」(研究期間:2016年度~2017年度、研究代表者:青田寿美)の成果の一部を含む。

執筆者プロフィール
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青田寿美(あおた・すみ)国文学研究資料館・総合研究大学院大学准教授。大阪大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。神戸女子大学専任講師を経て、2003(平成15)年より現職。専門は日本近代文学。科学研究費補助金等による構築データベースに「明治期出版広告データベース」「蔵書印データベース」「近代書物流通マップβ版」がある。

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◇《連載》「Digital Japanese Studies寸見」第34回「DH Awards 2017出場作品に学ぶ」
 (岡田一祐:国文学研究資料館古典籍共同研究事業センター)

 今年もDigital Humanities Awardsがやってきた[1]。DH Awardsは、副題をHighlighting resources in Digital Humanitiesとし、前年に始められたり、おおきなリニューアルを迎えたりしたDHにまつわるリソースのなかから、いいものをみんなで選ぼうという試みである。2013年に始められ、2014年のものについては、過去菊池信彦氏が取り上げておられる[2]。推薦はすべて公募であり、自由参加でGoogle Formで投票するいわば、お祭りである(副賞もない)。今回は、推薦作品を概観したい(各々のURLは[3]参照)。
なお、投票の楽しみを邪魔しないよう、評論のたぐいは避ける。

 DH Awards 2017は、6部門で推薦を受け付けていたが、「DHの失敗例についての最も良い調査」については残念ながら推薦はなかったようである。じつに興味深い部門ではあり、来年に期待したい。
「最も楽しいDHの活用事例」には、6例が挙がる。“Cancionero Escolar”は、20世紀前半のコロンビアの童謡集をアニメなども添えてリバイバルしたもの。“PostcardTree”は、はがき収集・検索サービス。過去探しということらしい。“Public Domain Cut-Up”は、NYPLやメトロポリタン美術館のパブリックドメイン画像を重ね合わせてTwitter上で紹介し続けるサービスで、一個人が運営している。“Real Words :: Imagined Tweets”は、オーストラリアの政治家の議事録上の発言をTwitterの投稿として見たらという発想によるもの。

 “SIAMESE: Similar Advertisement Search”は、新聞広告とOCRの相性の悪さへの解決を試みたもので、20世紀後半のオランダの新聞上の広告を類似によって検索する。“Visual Haggard”は、ビクトリア朝イギリスの小説家ハガードの小説の挿絵をデジタル化し整理したもの。
「最も良いDHのツールやツール群」は12例。“Checklist for Digital Humanities Projects”はDHプロジェクトの自己評価ツールを提案するもの。“China Biographical Database”は、中国人についての米中共同の伝記プロジェクト。“Chinese Text Project”は、著名な民間の漢籍翻刻・活用プロジェクト。“Easy Linavis”は劇等における人物相関関係をネットワーク化する教育ツール。“Ed. Jekyll theme for minimal editions”は、本文提供に特化したCMSを提供する。“Edition Visualization Technology”は、TEIで本文を編集するためのGUIツール。
“HILAME”は、大航海時代スペインにかかわる人名帳作成プロジェクトというところか。“Incite”は、歴史文書の翻刻やタグ付けをする研究支援ツール。“Pelagios Commons”は、歴史的資料をLOD(Linked Open Data)に位置づける試み。“The Digital Image Archive of Medieval Music”はアクセスできなかった。“travel!digital Corpus”は、オーストリアの旅行記を電子化し、地図化したもの。“Wycliffite Bible: Digital Edition”は、ウィクリフ英訳聖書を電子化し、あらたな校訂版を生み出す試み。

 「最も良いDHのブログ記事や一連の記事」は6例。ブログ記事は議論のなかに位置づける必要があるのでここでの紹介は控える。

 「DHでの最も良いデータ視覚化」も6例。“LOD Navigator”は、イタリアでのホロコースト被害をLODを援用して視覚化する試み。“Mapping Islamophobia”は、アメリカ合衆国におけるイスラーム憎悪を理解するために現象を地図化するもの。“Renewing Inequality”は、アメリカ合衆国における再開発に伴う不均衡再生産を地図化したもの。“Roman Open Data”はLODを用いてローマ陶器と碑文を地図化したのだと思われる(動作しなかった)。
“Six Degrees of Francis Bacon”は、近世イギリス人哲学者のベーコンにまつわる人物相関ネットワークを提示して、当時の社会状況の理解につなげるもの。“The Shape of History”は難解・抽象的な視覚化の可能性を19世紀イギリス人作家のピーボディの提起する歴史の抽象化というものを通じて検討する。

 「DHへの一般参加の最も良い活用例」はもっとも多く20例。“Archive Alert”は、文化遺産保存施設等における資料の保存状況等について共有するもの。“Archive of Malian Photography”は、マリにおける重要な写真家のデジタルアーカイブ。“Augmented Reality Freedom Stories”はARを用いて自由を訴える試みのようだが、Flashが必要で動作しなかった。“Cultural Heritage Through Image”は、(アメリカ合衆国にとっての)他国の文化遺産と個々人がつながるための試みのようである。
“Epoiesen: A journal for creative engagement in history and archaeology”は、歴史・考古学における市民参加に関する学術誌。“Galassia Ariosto”は、近世イタリアの物語詩における挿絵比較。“Ima'genes y Relatos de un Viaje Por Colombia”は、コロンビアを旅したスペイン人の旅行記をデジタル化したもの。“In the Spotlight”は、小劇場等のビラを電子化の翻刻プロジェクト。“Letters 1916-1923”は、20世紀初期アイルランドの市民の手紙の翻刻プロジェクト(1916年はイースター蜂起の年)。
“Rebooting Electronic Literature”は、e文学をYouTubeに記録する試み。“Livingstone Online”は、ビクトリア朝イギリス探検家リビングストンの記録を電子化し、帝国史に位置づけるもの。“Mapping Cultural Philanthropy”は、アメリカ合衆国首都における文化的慈善事業の歴史をたどるもの。“Mapping the Fourth of July”は、南北戦争期アメリカ合衆国における独立記念日を資料翻刻から理解する試み。“Memoria Chilena”は、チリ史の記憶に関わる資料を集めたもの。
“Minna de Honkoku”は、かつて本連載で取り上げたこともあるが、日本の地震史料を翻刻する試み。“The Comics Grid: Journal of Comics Scholarship”は漫画研究に関する学術誌。“The Du'chas.ie Project”は、アイルランド民話の翻刻プロジェクト(を含む)。“The PARTHENOS Training Suite”は、研究基盤の構築に関する教育資源。“To be continued: The Australian Newspaper Fiction Database”は、オーストラリアの新聞に掲載された創作作品の目録化プロジェクト。“What America Ate”はアクセスできなかった。
紙幅ゆえ紹介しきれなかったが、デジタル化と一言にいっても、どれも同じではない。ぜひ実際にアクセスしていただきたい。そうでなくとも、Google翻訳など駆使して眺めているだけでも楽しいものである。

[1]DH Awards 2017 | Digital Humanities Awards http://dhawards.org/dhawards2017/
[2]《連載》「西洋史DHの動向とレビュー~DHアウォーズ2014ノミネート作にみる西洋史DH~」 https://www.dhii.jp/DHM/dhm43-1/n2-weu_review/n1
[3]DH Awards 2017 Voting http://dhawards.org/dhawards2017/voting/

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 続きは【後編】をご覧ください。

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人文情報学月報 [DHM079]【前編】 2018年02月28日(月刊)
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【編集者】人文情報学研究所&ACADEMIC RESOURCE GUIDE(ARG)
【 ISSN 】2189-1621
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