ISSN 2189-1621

 

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DHM 030 【後編】

2011-08-27創刊

人文情報学月報
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄Digital Humanities Monthly

             2014-01-28発行 No.030 第30号【後編】 428部発行

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 ◇ 目次 ◇
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【前編】
◇《巻頭言》
「人文学を『分かる』」
 (美馬秀樹:東京大学工学系研究科/知の構造化センター)

◇《連載》「Digital Humanities/Digital Historyの動向
      ~2013年12月中旬から2014年1月中旬まで~」
 (菊池信彦:国立国会図書館関西館)

◇人文情報学イベントカレンダー

【後編】
◇イベントレポート(1)
PNC Annual Conference and Joint Meetings
Asian Network for GIS Studies: アジア歴史地理情報学会
 (清野陽一:人間文化研究機構本部)

◇イベントレポート(2)
シンポジウム「東洋学におけるテクスト資料の構造化とWebの可能性」(前半)
 (岩崎陽一:東京大学大学院人文社会系研究科特任研究員)

◇編集後記

◇奥付

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【人文情報学/Digital Humanitiesに関する様々な話題をお届けします。】
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◇イベントレポート(1)
PNC Annual Conference and Joint Meetings
Asian Network for GIS Studies: アジア歴史地理情報学会
http://www.l.u-tokyo.ac.jp/~angisj/2nd_ANGIS_Meeting_j.html
 (清野陽一:人間文化研究機構本部)

 2013年12月9日(月)にPNC[1]Annual Conference and Joint Meetings 2013[2
]の一環として、京都大学百周年時計台記念館にてANGIS(Asian Network for GIS
Studies:アジア歴史地理情報学会)[3]の第2回国際会議が開催された。当日のプ
ログラムとアブストラクトについては公式サイトのウェブページ[4]に公開されて
いるので、そちらを参照していただきたい。なお、昨年の第1回国際会議のレポート
については近藤康久氏のレポート[5]を参照していただきたい。

 本年は、2日間に渡る開催だった昨年とは違い、1日のみの開催であった。しかし、
PNCと共催という位置付けだったために、海外からの参加者は昨年にも増して多かっ
た印象がある。

 開催日数が減ったことによる発表本数の減少は避けられず、また同時開催だった
PNC、ECAI、じんもんこんなどで同一、あるいは隣接分野の発表を予定しており、
ANGISでの発表ができなかった方がいたのかもしれないが、昨年より少し長い発表時
間が与えられたことにより、内容の濃い議論が展開されていたように思われる。

 時間的制約もあったため、本年は昨年のようなテーマ別のセッションは行われず
(最後にエジプトエリアを対象とする発表は集中したが)、全て独立した研究発表
として扱われた。発表者の所属地域は日本、インドネシア、台湾、フィリピン、イ
ンド、エジプトの6地域となり、昨年と少しラインナップは異なるものが増加してお
り、また発表された研究対象地域や時代も非常に幅広く、昨年からの飛躍が感じら
れた。学会として順調に発展しているといえるだろう。

 具体的な発表内容の概要についてはプログラムとアブストラクト、更には今年中
に発刊されるであろうプロシーディングスに各発表の詳細は譲るが、ここでは筆者
が会場にいて感じた、本分野の研究発表会のあり方について若干述べさせていただ
く。

 地理情報を扱った発表は主として、

1.ツールとしてGISを用い、主として分析とその解釈を行う発表
2.公開したいデータがあり、それに関するシステムを構築した内容についての発表

の2種類に大別することが出来ると思うが、ANGISという学会の場合、さらに歴史や
地理というテーマがそこに加わってくるため、学問の伝統的なスタイルとして、(
個人)研究としての分析結果を発表する傾向が強くなるのだろう。

 今年は発表本数が減少して絞られたせいか、昨年以上に具体的な分析を解釈した
発表が多かった印象を受けた。こうした具体的テーマについての分析発表の場合、
その地域や時代に関心や予備知識を持っていない者が発表を聞いた時に議論のポイ
ントや問題点を理解することが難しいことも多く、フロアとの活発な議論が起きに
くいことも多々ある。カバーしている範囲が十分に多く、セッションが多数存在す
る場合は自分の興味のあるセッションを選んで聞きに行くという手もあるが、そこ
まで本数が多くない場合はどのようにそれを乗り越えるかが課題となると思われる。
ただし、通時代的・通地域的な議論を全員が行うことに主眼であればこれでも良く、
現在のANGISはその方向を目指していることもあって、全員が様々な時代や地域の発
表を聞いている状況である。

 一方で、新規のシステム構築などのテーマで発表した場合は、テストデータやデ
モとして個別具体的な時代・地域のデータも取り上げることがあったとしても、技
術論にフォーカスしていれば、参加者も何らかの体験を伴っていることが多く、フ
ロアを議論に巻き込みやすいと思われる。また、最新、あるいは自分が知らない情
報技術の収集を目的に参加している者にとっては得るものが大きいだろう。ただし、
その場合、程度の問題もあるが、哲学的な視点が欠如してしまうと、ただの技術発
表会となってしまい、議論が拡散してしまうおそれも懸念される。情報技術も取り
扱いつつ、歴史・地理学分野を取り扱うというこの分野は上記のような問題のバラ
ンスを上手く取りながら進めていく必要があり、運営するには非常に多くの困難が
伴うため、これまであまり積極的に学問分野として独立して取り扱われてこなかっ
た。その困難に挑戦している学会に敬意を表し、万難を排して開催にこぎつけ、発
表の場を用意してくださっている諸先生方に感謝して筆を擱くこととしたい。

 なお、学会の最後に、次回はタイにおいて開催されることが発表された。初の海
外開催となる。多くの方が参加されることで盛会となることを祈念している。

[1] http://pnclink.org/
[2] http://www.pnclink.org/pnc2013/english/
[3] http://www.l.u-tokyo.ac.jp/~angisj/
[4] http://www.l.u-tokyo.ac.jp/~angisj/2nd_ANGIS_Meeting_program_j.html
[5] http://www.dhii.jp/DHM/dhm17

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◇イベントレポート(2)
シンポジウム「東洋学におけるテクスト資料の構造化とWebの可能性」(前半)
http://www.dhii.jp/dh/zinbun/sympo2013.html
 (岩崎陽一:東京大学大学院人文社会系研究科特任研究員)

 まず、総合司会を兼ねる班長の永崎研宣氏(人文情報学研究所)から、本シンポ
ジウムの趣旨説明が行われた。研究班が主催する今回のシンポジウムにおいて、登
壇者の多くが研究班の外部から招かれたことには、深い意図があるという。今回の
企画は、人文学研究にこれからDHを活用しようとしている登壇者と、人文学の発展
を促す技術や方法論を開発しようとしている研究班員の双方にとって、利益が最大
になる場を設けようとの考えにもとづいている。登壇者が、現在の研究方法に対す
る批判も含めて自由に報告をする。研究班員はそれを受けて、登壇者にとって有益
な情報や提案を供すると同時に、DHの進むべき途に対する指針をそこから得、自ら
のDH研究の足場を固め直すための機会とする-そのような双方向の討議を生みたい
という願いを、主催者はこのシンポジウムに込めている。

 一人目の登壇者、杉浦静氏(大妻女子大)は、「日本近現代文学研究における草
稿研究とデジタル化-富永太郎草稿のデータベース化の場合」と題する報告を行っ
た。文学作品の草稿は、書店に流通する批判校訂本からは読み取れない多くの情報
を湛えている。作者は本文やタイトルを幾度も消しては直し、消しては直しし、作
品を作り上げていく。研究者らは、そういった消されたテキストから、或いはどう
いう順番で、どういう消し方で消したかという痕跡から、研究に有益な情報を読み
取る。

 こういった情報は、批判校訂本には記録されていない。草稿の内容を見たとおり
に活字で再現する「ディプロマティック版」は、テキストに線を引いて消し、その
脇に訂正を書いた形跡が草稿にあれば、それをその通りに記載する。しかし、どう
いう順番で校正が行われたかという情報は、それが時にきわめて重要であるにもか
かわらず、読み取ることはできない。結局のところ、研究者は草稿そのものにあた
ることになる。

 杉浦氏は、詩人・富永太郎の草稿を研究するにあたり、この状況を放置するので
はなく、デジタル技術を用いてなんとか打開できないかと考えている。たとえば、
XMLにより草稿を記述することにより、校正の行われた順序を表現し、また第1段階
校正と第2段階校正といった校正のレイヤー構造を扱うことができないだろうか。杉
浦氏はそのような期待をもっている。

 この発表に対し、正倉院文書のデジタル化を手がけた後藤真氏(花園大学)から
コメントがあった。正倉院文書においても、テキストの書き直しが行われており、
書き直しの順番を調べることが要請されているという。しかし、書き直しの履歴ま
で電子的に記述することは、正倉院文書の場合は、コストの関係で諦めざるを得な
かった。

 杉浦氏がこれに答えて言うには、たとえば宮沢賢治の草稿の場合、校正履歴を読
み解くところまではできているので、純粋に、その記述方法が問われている。記述
方法については、永崎氏から、TEIの利用を検討すべきとの提案がなされた。ただし
同時に、草稿の精緻な記述についてはTEIが助けになるだろうが、そのレンダリング
と検索機能の実装についてはユーザーに任されており、これから我々が構築してい
かなければならないという課題も示された。その課題を達成できれば、国際的にも
大きな貢献ができるだろう。

 二人目の発表者は大内英範氏(筑紫女学園大)。「古典研究とデジタルテクスト」
と題し、日本古典文学研究における、いわゆる電子テキストの利用をめぐる現状と
課題が報告された。大内氏によれば、日本古典文学の研究の現場において、電子テ
キストを「積極的に」利用した研究、すなわち電子テキストでなければできない研
究はほとんど行われていない。

 電子テキストを積極的に利用した稀な例として、近藤みゆき氏(実践女子大)に
よる、N-gram統計処理を用いた一連の文学研究がある。電子テキストを用いた研究
の有用性が理解されているにもかかわらず、なぜこのような研究は実際には余り行
われないのか。大内氏は、その問題の原因は、電子テキストの作成と利用が個人的
な範囲に留まっていることにあると考える。研究者個々人は、膨大な量の電子テキ
ストを作成し、個人的に利用しているはずである。しかしそれらのデータは、主に
著作権と版権の問題から公開できず、したがって共有が困難になっている。

 一方で、研究者間で共有できる電子テキストも存在する。各出版社が発売してい
る商用電子テキストである。しかしこれらには、テキストデータをCD/DVDから抜き
出して自由に検索・利用することができなかったり、特定の写本のみを用いてテキ
ストを作成しているため情報が不完全であったり、といった問題がある。以上の状
況を踏まえ、大内氏は、(1)何をどこまで電子化するか、そして(2)それをどう
共有するか、という二つの問題を立てる。

 (1)については、理想的にはあらゆる作品のあらゆる版を電子化すべきであるが、
差しあたっては1作品につき1つの版を電子化し、ただし底本以外の写本は画像で付
属させる、というあたりが現実的であるという。また、異読等の情報を電子テキス
トに付与できるようにしておくことが重要であると指摘する。

 一方、(2)については、まず個々の研究者が作成している電子データを集約する
ための共通データフォーマットと共有リポジトリが必要であるという。著作権の問
題については、解決の糸口は見えていない。また、異読等の付加情報をリポジトリ
で集約するか、それとも個人的な蓄積に留めるかという検討課題が提起された。こ
の背景には、他の研究者が付与した誤情報にミスリードされる、という現実に起き
ている問題を回避するすべを考えなければならないという事情がある。最後に大内
氏は、「すべきこと」の議論は何度もなされてきたが、どうやって実現するのか、
誰がやるのか、という議論の段階には未だ進めていないことを厳しく指摘し、これ
を最大の課題とした。

 文献の電子化に関するプロジェクトは多数進行しているものがあるため、討議の
時間には、他のプロジェクトとのノウハウの共有が図られた。永崎氏の進める大蔵
経データベースでは、大内氏が課題とする付加情報の集約が、まさにいま進行中で
あるという。ただしそこでも、誤った付加情報を排除するために個々の情報をどう
オーソライズするか、という問題が検討事項とされている。また、山田太造氏(東
京大学)からは、国文学研究資料館(国文研)が行っている古典文献の電子化プロ
ジェクトの紹介がなされた。ただし、国文研は電子テキストを作成せず、画像での
公開を事業内容としているため、大内氏のプロジェクトと協業するには、さらに多
くの課題が存在するという。

(後半は来月号にて掲載いたします)

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 配信の解除・送信先の変更は、
    http://www.mag2.com/m/0001316391.html
                        からどうぞ。

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◆編集後記(編集室:ふじたまさえ)
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 2014年最初の号は、掲載した寄稿文がどれもコンパクトにまとまりつつ、読み応
えのあるものとなっています。ご寄稿いただいた皆さま、ありがとうございました。

 特に、巻頭言では「分かる」ということはどういうことなのか、考えさせられる
ものでした。デジタルツールを使うということの意味を改めて考えなおすきっかけ
になりそうです。

 連載の中では、間もなく刊行予定の『DHjp』が気になります。

 また、後編のイベントレポートは前号に引き続き、12月に開催されたPNCのレポー
トです。次号にもシンポジウムの後編が掲載予定ですので、楽しみですね。

◆人文情報学月報編集室では、国内外を問わず各分野からの情報提供をお待ちして
います。
情報提供は人文情報学編集グループまで...
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                  [&]を@に置き換えてください。

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人文情報学月報 [DHM030]【後編】 2014年01月28日(月刊)
【発行者】"人文情報学月報"編集室
【編集者】人文情報学研究所&ACADEMIC RESOURCE GUIDE(ARG)
【E-mail】DigitalHumanitiesMonthly[&]googlegroups.com
                 [&]を@に置き換えてください。
【サイト】 http://www.dhii.jp/

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