ISSN 2189-1621

 

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DHM 059 【前編】

2011-08-27創刊                       ISSN 2189-1621

人文情報学月報
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄Digital Humanities Monthly

             2016-06-29発行 No.059 第59号【前編】 642部発行

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 ◇ 目次 ◇
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【前編】
◇《巻頭言》「文献学研究とデジタル情報:固定的情報という思い込みからの脱却」
 (小島浩之:東京大学大学院経済学研究科・経済学部講師)

◇《連載》「Digital Japanese Studies寸見」第15回
「宮内庁書陵部収蔵漢籍集覧-書誌書影・全文影像データベース」公開
 (岡田一祐:東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)

《特集》海外DH特集「フランスのDH-リヨンCIHAMを中心として」
 (長野壮一:フランス社会科学高等研究院博士課程)

【後編】
◇人文情報学イベントカレンダー

◇イベントレポート(1)
「デジタル・ヒューマニティーズ関連ワークショップ」参加報告
 (福田名津子:一橋大学附属図書館)

◇イベントレポート(2)
「財務記録史料デジタル化の方法論をめぐる国際ワークショップ」参加報告
 (小風尚樹:東京大学大学院人文社会系研究科欧米系文化研究専攻
       西洋史学専門分野博士課程1年)

◇編集後記

◇奥付

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
【人文情報学/Digital Humanitiesに関する様々な話題をお届けします。】
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◇《巻頭言》
「文献学研究とデジタル情報:固定的情報という思い込みからの脱却」
 (小島浩之:東京大学大学院経済学研究科・経済学部講師)

 筆者の専門は中国隋唐時代を中心とする東洋史と、歴史資料の保存と活用に関す
る諸研究である。本来、官僚制度や人事政策、法制史に興味をもっていたのである
が、最近は本務である資料保存との兼ね合いもあり、古文書学や書誌学といったモ
ノを扱う分野からの歴史学研究にどっぷりと浸かっている。このためデジタルと人
文学という点で、目新しい情報を持ち合わせてはいないが、最近のモノ研究が機縁
となって考えたことなどを書き連ね、読者諸氏のご批正を乞おうと思う。

 古文書学や書誌学など、モノに関わる研究は原資料をモノとして観察することが
重要となる。かつ、関連するモノ情報をできる限り多く集積し、それらのデータを
比較検討することで精度を高める必要がある。対象とするモノが図書館や博物館
(以下、保存公開機関とする)の所蔵品であれば、比較的、調査しやすい。一方、
原資料が非保存公開機関、たとえば個人や私企業の所有にかかると、よほどの人脈
でも無い限り調査は難しい。そもそも、こういったものはモノの存在は知られてい
ても、相続や転売による所有権の移転が繰り返され、現在の所有者がわからないも
のも多い。

 こういった原資料へのアクセスが不可能なものについて、過去に撮影された写真
は重要な情報源となる。保存公開機関に所蔵されている写真やネガにアクセスでき
れば最もよいが、図書や文書のデータベース化すら完全ではないなか、写真資料の
整理まで終えていることは稀である(これに関連して、筆者は2015年度から2年間の
予定で、東京大学史料編纂所一般共同研究「東京大学史料編纂所所蔵東アジア関係
古文書資料の調査・研究」 https://www.hi.u-tokyo.ac.jp/collaboration/kyoten/h27/seika.2015.html#4
を主宰し、同所所蔵のアジア関係の古写真情報を集成することに取り組んでいる)。

 次に考えられるのは、(1)図書や雑誌の掲載写真、(2)博物館図録掲載写真、
(3)オークションカタログなど売買に関わる資料の掲載写真、などである。これら
はいずれも刊行物には違いないが、博物館図録は、流通経路が広範囲ではなく一般
書店では取り扱うことがほぼないため、入手しやすい資料とは言い難い。また、特
に特別展など限定展示の図録は、短期集中で編集されることもあってか、増刷のた
びに修正が加えられるのが常態化しており、決定版がないのが実情であるという。
一方のオークションカタログは、当該オークションへの入札参加者むけに作成され
た図録や目録のことで、一般書店での発売はなく、オークションハウスやオークシ
ョン会社で頒布される。日本では戦前から売立目録、入札会目録などとして古美術
品のオークションにおいて作成されてきた。各国の国立図書館の納本対象となって
おらず、一部、博物館・美術館附設の図書館が収集しているものの、網羅的な収集
機関はほぼない。

 さて、歴史学研究においてより信用に足る情報源とは、いうまでもなく固定的情
報である。かつこの固定的情報は、第三者による検証可能性が担保できるよう歴史
学研究者のコミュニティーにおいて共有し得ることが望ましい。このため印刷物と
インターネット上の情報を比べた場合に、通常は前者がより優位な情報源となると
考えられてきた。歴史学に限らず、およそ文献学研究においてはほぼ同じ状況と考
えられ、文献学の研究者の一部にいまだにデジタル情報への忌避がみられるのは、
こういった点も強く影響しているのではないだろうか。

 しかし、印刷物であっても博物館特別展の図録のように可変的で個体差が激しい
ものは、その修正の経緯履歴が現物からわからない以上、随時可変的情報であるイ
ンターネット上の情報と大差ないように感じられる。また、第三者検証の担保とい
う観点からすれば、オークションカタログのように一般に入手できない情報源より、
誰もが参照できるインターネット上の情報源の方が優れているとすら言える(この
点については、拙稿「南宋告身二種管見 併論:インターネット情報と歴史学研究」
漢字文献情報処理研究会編『論集:中国学と情報化』好文出版, 2016.3で具体的に
指摘しておいたので、興味のある方は参照されたい)。

 実は、印刷物は固定的情報であるというのは、幻想・思い込みに過ぎない。図書
には版(はん:edition)と刷(すり:printing)があり、一般には版の相違が内容
にかかわる相違であるのに対して、刷は印刷の時期の相違を示すもので版が同じな
らば刷が異なっても内容は同じと理解されている。このため、日本の図書館のOPAC
では、原則として刷の相違によって書誌を変えることはしない。ISBNについても版
違いであれば別番号となるが、同一版であれば刷違による番号変更はない。しかし、
実際には出版社がISBN変更の手間と費用を惜しみ、内容に大幅な修正があっても刷
の相違として出版されるものも多い。たとえば、本来2版として出版すべきものが初
版2刷として堂々と売られており、図書館目録でも区別できないということになって
いる。このように、現代の印刷物であっても版表示だけではわからない個体差のあ
る場合もあり、アナログな固定的情報だからといって無批判に信用してはならない
のである。そもそも、書誌学の存在じたいが固定的情報における個体差の存在を認
めているにもかかわらず、これを古典籍にだけに当てはめ、現代の書籍類一般につ
いては都合良く捨象していたことを我々は反省しなければならない。

 閑話休題、中国史研究に利用される文献の標準テキストは、この一世紀あまりの
間に、版本の複製版から校訂活字本へ、さらにはインターネットの進展に伴い電子
テキストへと変化してきた。

 また、インターネットの普及により、図書館等の目録データが電子化され、誰も
が容易に古典文献の所在を知ることができるようになり、従来は見過ごされていた
史料が再発見され、新出史料として活用されることが珍しくなくなった。さらに、
古典籍の電子画像の公開が盛んに行われ、原本の閲覧が全ての研究者に開かれつつ
ある。このため、歴史研究者にとっては、「見られなかった」・「存在が確認でき
なかった」という言い訳が許されなくなりつつある。

 これら電子画像で公開されている版本は、活字本やそれに基づいたデータベース
の誤りを訂正するよき材料ともなっている。つまりデジタル化の進展のおかげで、
他者の校訂により出版された活字史料に安易に依拠することがいかに危険を孕むか
が(中国史ではないが、こういった活字史料と原文書との間のギャップについては、
森脇優紀「欧文古文書を読み解く:16・17世紀のイエズス会宣教師の日本関係書翰
を事例として」『Better Storage』196, 2015年が参考となる)、改めてクローズア
ップされたのである。

 人文学研究、なかでも文献研究を中心とする諸分野の進展のためには、書籍=完
成された固定的情報という思い込みを一旦捨て去り、アナログもデジタルも同列に
並べて、その特性を相互評価し得るような学問体系を構築しなければならないだろ
う。筆者は、2015年度から3年間の予定で、科学研究費補助金・挑戦的萌芽研究「情
報化時代における新たな史料学構築の可能性:『唐六典』を例として」(課題番号:
15K12938)を主宰などし、これらの課題に取り組んでみてはいるが、まだ道半ばで
ある。

執筆者プロフィール
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小島浩之(こじま・ひろゆき)1998年、京都大学大学院文学研究科修士課程修了、
現職は東京大学大学院経済学研究科講師・経済学部資料室室長代理。専門は東洋史
学および歴史資料の保存と活用に関する研究。なかでも近年は、中国古文書学と
「図書館資料保存論」の二つの理論体系化に取り組みつつある。編著に『図書館資
料としてのマイクロフィルム入門』日本図書館協会, 2015年3月、最近の論考に「何
に記録を残すのか:「紙」の誕生とその伝播」豊田浩志編『モノとヒトの新史料学:
古代地中海世界と前近代メディア』勉誠出版, 2016年3月などがある。

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◇《連載》「Digital Japanese Studies寸見」第15回
「宮内庁書陵部収蔵漢籍集覧-書誌書影・全文影像データベース」公開
 (岡田一祐:東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)

 2016年6月3日に慶應大学附属斯道文庫から「宮内庁書陵部漢籍集覧」が公開され
た[1]。これは、宮内庁書陵部図書寮文庫蔵の漢籍のデジタルアーカイブを作成す
るためのプロジェクトの成果のひとつであり[2]、昨年度当初よりかぎられた機関
で試験公開されていたものである[3]。漢籍集覧の公開にともない、シンポジウム
が開催された[4]。稿者はこのシンポジウムに参加できなかったので、あまり十分
な紹介にはならないが、以下、かんたんな紹介を試みたい。

 図書寮文庫は、律令制下の朝廷の機関に淵源し、直接には、近代になって宮内省
に再度文庫として設置された機関に由来し、戦後諸陵寮と統合して書陵部となった。
律令制下および近代のものは「ずしょりょう」と呼ぶのが一般的かとは思うが、現
代の文庫は「としょりょう」と呼ぶらしい。さて、図書寮文庫ではすでに所蔵資料
のデジタル化に取り組んでいて、目録が公開されているほか[5]、国文学関係の和
書に関しては国文学研究資料館のシステムを利用して画像が一部公開されている。
その現状は書陵部の杉本氏の紹介がある[6]。図書寮の所蔵品については、すでに
各種の紹介があるが[7]、禁裏・親王家伝来本や旧幕府からの移管本、大小の公家
や大名、学者からの献納本などから成り立つものである。これらには貴重なものも
少なくなく、書陵部蔵本を影印ないし翻刻出版するものは数知れない。杉本氏は
「日本古典籍総合目録データベース」において相当数の資料が書陵部のみの蔵書で
あることを触れるが、デジタル画像化はかならずしも進んでいるとは言いがたかっ
たという。しかしながら、デジタル化されていない品々にも少なからぬ貴重書が含
まれる。とくに宋版という、漢籍のなかでも指折りの評価を受ける品々を数多く持
つことは有名であろう[8]。

 漢籍集覧は、現在のところ、南北朝以前の漢籍を対象として、書誌解題データベ
ースと、全文影像データベースを提供している。書誌解題の全文検索が可能なほか、
個別に、題目、著者、刊写、工名、伝来、印文、函架番号から検索できるようにな
っている[9]。書誌解題はどれも精密である。漢籍集覧の開発途上の報告が住吉氏
と高橋氏からあり[10]、それによれば若手研究者に素案を書かせ、プロジェクト
全体で詳細に検討したものだそうである。納得のものである。適宜本文画像へのリ
ンクが張られており、書誌をすみやかに原本で確認できるのが、ことに便利である。
全文影像データベースは、それとくらべればあまり注力されていないように映る。
プロジェクトの期間の長さを思えば多少のシステムの古さは否めないが、画像の表
示にFlashを採用しているため、セキュリティ上などの問題からFlash playerを入れ
ていないばあいなど、そもそも表示できないことが予想される。大学によっては、
学内ネットワークでFlash playerを利用することを禁止しているところもあるらし
く、なにかべつの表示手段が望まれる。Flash playerが入っていないはずのiOSで閲
覧できたことを見るに、そういうもの自体はあるのだろうか。FlashはFlash player
という私企業の製品に依存する点で問題が多く、利用に制限を課すにしても、国際
的な規格に則ったものが望ましい。また、拡大縮小が自在にできないのは歯がゆい。
紙までよく見たいということもあるのではなかろうか。その一方で、デジタルアー
カイブには珍しいスライドショー機能などはあり、均衡が取れていないように思わ
れる。

 杉本氏によれば、図書寮文庫では、他機関との連携によって画像公開を進めてゆ
くことを目指すとのことで、現在国文学系の和書に関しては「資料目録・画像公開
システム」から国文研へのリンクが張ってあるように、いずれ漢籍集覧へのリンク
が張られるようになるのであろう。そうなると、図書寮文庫のシステムとしては、
画像公開先へのハブとしての機能が求められてゆくこととなるように思われ、たん
にべつべつのデータベースとして存在させるのではなく、もうすこし深いところま
でリンクできるようになってくれれば便利さも増すのではなかろうか。その点でい
うと、書誌解題データベースは、伝統的な書誌解題の枠組みとしては相当の出来ば
えだが、コンピューターで活用されるがデータベースという観点では、表に出てい
ないだけかもしれないが、発展の余地があろうように思われる。

 国文研のデータベースで図書寮文庫の画像が公開されたとき、ウォーターマーク
の入れ方が話題になった。今回のものでも比較的大きいものが入っている。さきの
杉本氏の紹介においてもどのようにあるべきか触れられていたが、コピーもできず
(凡例では、そういうばあいにはまったく触れられない)、拡大もほとんどできな
いほどの利用者側への制限に追加して付けるべきほどのものか、このデジタルアー
カイブによって、したしく資料に接する機会は得がたくなったのに、ということを
考えた。著作権もないのだからと、利用にいかなる制約も附すべきではないという
主義は取らないが、所蔵者と利用者のトレードオフはどこにあるべきなのだろうか。

[1] http://db.sido.keio.ac.jp/kanseki/T_bib_search.php
 公開日は次を参照した http://current.ndl.go.jp/node/31763
[2]KAKEN-宮内庁書陵部収蔵漢籍の伝来に関する再検討-デジタルアーカイブの
 構築を目指して- https://kaken.nii.ac.jp/grant/KAKENHI-PROJECT-24242009/
 日本所在漢籍に見える東アジア典籍流伝の歴史的研究-宮内庁書陵部蔵漢籍の伝
 来調査を中心として- http://ricas.ioc.u-tokyo.ac.jp/joint/study_results.h26-2.html
[3] https://www.nijl.ac.jp/pages/library/images/syoryobukanseki.pdf
[4]東洋学研究情報センター:国際研究集会「日本における漢籍の伝流」を開催し
 ます http://ricas.ioc.u-tokyo.ac.jp/news/news.php?id=WedJun11042362016
[5]書陵部所蔵資料目録・画像公開システム:図書寮文庫 http://toshoryo.kunaicho.go.jp/Kotenseki
[6]杉本まゆ子「宮内庁書陵部における古典籍資料:保存と公開」情報の科学と技
 術 65(4)、2015
[7]ここでは櫛笥節男『宮内庁書陵部書庫渉獵:書写と装訂』(おうふう、2006)
 を挙げておきたい。
[8]たとえば、上海古籍出版社では、『日本宮内廳書陵部藏宋元版漢籍選刊』と称
 して善本を170冊にもわたって影印刊行している。
[9]はなしはずれるが、「書陵部所蔵資料目録・画像公開システム」では函架番号
 の検索を用意していないようなのであるが、不便ではないのだろうか。やむを得
 ず、今回、図書寮文庫所蔵の漢籍全体の目録と本データベースを比較することは
 あきらめた。
[10]住吉朋彦「蔵書研究としてのデータベース構築:デジタルアーカイブ「宮内
 庁書陵部収蔵漢籍集覧」の射程」『明日の人文学』32、2014
 高橋智「日本所在漢籍に見える東アジア典籍流伝の歴史的研究:宮内庁書陵部蔵
 漢籍の伝来調査を中心として」『明日の人文学』34、2015
 両号ともに https://ricas.ioc.u-tokyo.ac.jp/pub/newsletter.html でPDFが閲
 覧可能である。

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◇《特集》海外DH特集「フランスのDH-リヨンCIHAMを中心として」
 (長野壮一:フランス社会科学高等研究院博士課程)

 フランス第2の都市として知られるリヨンは、中世期に司教座都市として発展し、
学術・文芸の中心地として栄えた。ソーヌ河畔に建てられた街のシンボルであるサ
ン=ジャン大聖堂では、神聖ローマ皇帝フリードリヒ2世の帝位剥奪や修道士プラノ・
カルピニのモンゴル帝国派遣を決議した重要な公会議が開催された[1]。

 そんなリヨンに今日、中世学研究の中心拠点である中世史・中世考古学大学間共
同センター(CIHAM : Centre Inter-universitaire d'Histoire et
d'Arche`ologie Me'die'vales)が置かれていることは不思議ではない[2]。CIHAM
は社会科学高等研究院(EHESS)の付属センターを母体として1977年に創設され、そ
の後1994年に国立科学研究センター(CNRS)の組織する共同研究ユニット(UMR)と
なった。現在、CIHAMには社会科学高等研究院、リヨン人間科学館(ISH Lyon)、リ
ヨン高等師範学校、リュミエール=リヨン第2大学、ジャン・ムラン=リヨン第3大
学、アヴィニョン大学の6つの研究機関が参加している。

 CIHAMは歴史学、考古学、文学といった多分野の研究者を擁し、5つのテーマ基軸
「領域、周辺、境界」「東西両洋における権力と権威」「知の構築と交流」「エク
リチュール、書物、翻訳」「人間、財産、市場」に基づく学際的な研究プロジェク
トを主催している[3]。これらのテーマ基軸から独立して、DHに関する活動、特に
史料の電子出版を主導しているのが横断的基軸「デジタル人文学」である[4]。

 横断的基軸「デジタル人文学」ではCNRS研究員のMarjorie Burghart氏による主導
の下、複数の研究プロジェクトが行われている。以下ではCIHAMの携わる合計6つの
プロジェクトについて、デジタルツールおよび史料コーパスの2つのカテゴリに分け
て紹介する。

1.デジタルツール

1.1.Enigma[5]
 中世写本における難読箇所の解決補助ツール。単語の一部を入力すれば可能性の
ある候補がリストアップされる。仏英日ほか各国語に対応している。詳細について
は日本語版の作成者である赤江雄一氏による解説記事(本誌36号に掲載)を参照の
こと[6]。

1.2.Interactive Album of Mediaeval Palaeography[7]
 学生やアマチュア研究者による写本読解技術習得の支援を目的とした古書体学の
翻刻練習ツール。同様のツールにくずし字学習支援アプリKuLAがあるが[8]、
Interactive Album of Mediaeval Palaeographyでは、史料の言語は羅仏伊、時代は
9~15世紀、難易度は「Easy」「Average」「Difficult」から選択することができ、
写本の読解をゲーム感覚で学ぶことができる。仏英語に対応しており、開発には
XML/TEIやCSSの技術が用いられている[9]。

1.3.TEI Critical Apparatus Toolbox[10]
 TEIで批判的校訂を行った際、異本表現がうまく反映されているかチェックするた
めの開発者向けツール。TEIファイルをアップロードすれば、要素内の
ないしタグによる異本ごとの分岐がブラウザ上でどのように反映されるのか
確認できる。

1.4.Correcteur Orthographique de Latin[11]
 ラテン語スペルチェッカー。MS WordおよびOpenOffice等互換ソフトで使用できる。

2.史料コーパス

2.1.Sermones latins[12]
 ラテン語の説教集。『黄金伝説』の著者として知られるヤコブス・デ・ウォラギ
ネや、アッシジの聖フランチェスコによるテクストが公開されている。形式はTEIに
よりタグ付けされた電子テクストであり、写本ごとの異同や、XQueryによる要素検
索が可能となっている。なお本コーパスの技術的側面については、Burghart氏によ
る仏語論文がある[13]。

2.2.Ressources comptables en Dauphine', Provence,Savoie et Venaissin
(XIIIe-XVe sie`cle)[14]
 ドフィネ、プロヴァンス、サヴォワ、ヴナスクの南仏4伯領における会計史料のア
ーカイブ。地方文書館から収集した史料のデジタル画像が公開されている。本コー
パスは科研費プロジェクト「中世における統治技法の生成[15]」の成果物である。

 以上がCIHAMにおけるDH研究の一覧である。これらのツールやコーパスは当該分野
の研究者が今すぐ利用できるのみならず、TEIによるマークアップの応用事例として、
西洋中世研究の専門家以外にとっても興味深い。

 ところで、これらの研究プロジェクトはいかにして資金調達を行っているのだろ
うか。CIHAMではセンター全体で公的研究資金配分機関であるフランス国立研究機構
(Agence Nationale de la Recherche)から科学研究費を獲得し、その一部をDH部
門に配分している。民間の財団からは資金調達を行っていないという話である。

 さて、筆者が本稿の取材のためにリヨンを訪れた際、近年再開発の進むコンフリ
ュアンス地区に立ち寄る機会を得た。マッシミリアーノ・フクサスや隈研吾ら著名
な建築家の手によるポストモダン様式の集合住宅が建ち並ぶ街区を歩き、冒頭で述
べたサン=ジャン大聖堂を中心とする旧市街の石畳とのギャップが印象に刻まれた。
フランスのDH研究シーンにおいてCIHAMの有する独特の存在感は、伝統を誇りつつも
新技術の導入を厭わないリヨン市民の気質に基づいているのかもしれない。

[1]藤崎衛監訳「第一リヨン公会議(1245年)決議文翻訳」『クリオ』第30号、
 2016年、100-127頁。
[2] http://ciham.ish-lyon.cnrs.fr/
[3] http://ciham.ish-lyon.cnrs.fr/presentation/
[4] http://ciham.ish-lyon.cnrs.fr/axe-transversal-digital-humanities/
[5] http://ciham-digital.huma-num.fr/enigma/
[6]赤江雄一「Enigma:中世写本のラテン語の難読箇所を解決する」『人文情報学
 月報』第36号、2014年。 http://www.dhii.jp/DHM/dhm36-1/
[7] http://ciham.ish-lyon.cnrs.fr/paleographie/
[8] https://itunes.apple.com/jp/app/id1076911000/
[9] http://ciham.ish-lyon.cnrs.fr/paleographie/techinfo.php?l=en
[10] http://ciham-digital.huma-num.fr/teitoolbox/
[11] http://drouizig.org/index.php/en/binviou-en/correttore-ortografico-di-la...
[12] http://sermones.net/
[13]Marjorie Burghart, 《Annotation collaborative d'un corpus de
 documents me'die'vaux : outils pour l'analyse de la structure et du
 contenu des sermons de Jacques de Voragine》, Le Me'die'viste et
 l'ordinateur, 43, 2004. http://lemo.irht.cnrs.fr/43/43-11.htm
[14] http://ressourcescomptables.huma-num.fr/
[15] http://www.agence-nationale-recherche.fr/?Projet=ANR-10-BLAN-2011

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 続きは【後編】をご覧ください。

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人文情報学月報 [DHM059]【前編】 2016年06月29日(月刊)
【発行者】"人文情報学月報"編集室
【編集者】人文情報学研究所&ACADEMIC RESOURCE GUIDE(ARG)
【 ISSN 】2189-1621
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