ISSN 2189-1621

 

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イベントレポート(3) 公開研究会「イメージのサーキュレーションとアーカイブ」

◇イベントレポート(3)
公開研究会「イメージのサーキュレーションとアーカイブ」
http://kobe-eiga.net/event/2015/03/527/
 (古賀 崇:天理大学人間学部総合教育研究センター)

 2015年3月21日(土)に、神戸映画資料館(神戸市新長田)にて、神戸大学地域連
携事業「映像を媒介とした大学とアーカイブの地域連携」、および一般社団法人神
戸映画保存ネットワークの共催により、標記の研究会が開催された。神戸では2014
年3月に「大学・地域・連携シンポジウム:映像、アマチュア、アーカイヴ」が開催
されており、本研究会はそれに続き「映像、アマチュア、アーカイブ」を考察する
機会と位置づけられる。

 簡単に補足しておくと、共催のプロジェクト・団体のうち、前者は「兵庫県唯一
の映像メディア・アーカイブである神戸映画資料館が所蔵する多数の映画フィルム
や映画関連資料の一部を整理・活用することによって、本学(引用者注:神戸大学)
における今後の映像メディアを用いた教育研究活動と地域連携の基盤を生み出すこ
とを目的」とする神戸大学大学院国際文化学研究科のプロジェクトであり(参照:
http://www.office.kobe-u.ac.jp/crsu-chiiki/news/130620_kokubun.html )、後
者は神戸映画資料館のアーカイブ部門を担い、同館が所蔵する(もとは1970年代よ
り大阪のプラネット映画資料図書館が収集してきた)映画フィルムの調査作業も実
施している。本研究会に先立つ2014年のシンポジウムでは、19世紀後半より日本内
外の人々が映像技術・写真技術にどう向き合ってきたかを検証しつつ、「映像・写
真アーカイブの調査成果」の具体的事例として、大正末期~昭和前期に日本のアマ
チュア映像愛好家に用いられた9.5mmフィルム「パテ・ベビー」による作品などが紹
介・上映された(参照: http://repre.org/repre/vol21/topics/03/ )。

 本研究会の第一部「散逸と(再)統合」では、板倉史明氏(神戸大学)の解説の
もと、日本のアマチュア影絵アニメーションの先駆として、1930・40年代に制作さ
れた作品が上映された。ここでの作品の作者は、坂本為之、竹村猛児、荒井和五郎、
そして2014年のシンポジウムより「戦前関西におけるアマチュア映像のキーパーソ
ン」として取り上げられている森紅(もり・くれない、1885-1941)である。

 第二部「映像のミクロストリア」では、2人の人物に焦点を当て、彼らが撮影・制
作した作品の上映もまじえつつ、アマチュア映像とその背景について討議が成され
た。まず前述の森紅については、松谷容作氏(神戸大学)が「森という映像作家に
焦点を当てるだけでなく、撮影対象の素材ないし「モノ」に焦点を当てて、社会や
地域の動向・変化の中でアマチュア映像の位置づけを考える必要性」という問題提
起を行った。また藤原征生氏(京都大学)は、森が制作した映像作品の中でも「音
楽と連動したアニメーション(レコード・トーキー)」という点でユニークな『ヴ
ォルガの舟歌 扇光樂』(音程とリズムを扇形の変化で示す)について、実際にど
んなレコードが用いられたかを突き止めつつ、「森紅作品における映像と音楽、音
楽文化」について論じた。

 もうひとりの重要人物として取り上げられたのが、東京を拠点に活躍した荻野茂
二(1899-1991)である。荻野は1928年から1984年に至るまで、何度かの中断期をは
さみつつ、多様な(あるいは一貫性の見いだしにくい)映像を撮り続けた。彼はま
た1960年より「オギノ8ミリ教室」を東海道地域に展開し、その活動報告を『小型映
画』誌に掲載するなど、「メディアミックス」的な活動も行った。本研究会では、
原田健一(新潟大学)、水島久光(東海大学)、北村順生(新潟大学)、榎本千賀
子(新潟大学)、椋本輔(横浜国立大学)の各氏が、荻野の映像作品や活動をめぐ
って討議を行った。なお、浅利浩之「荻野茂二寄贈フィルム目録」が、『東京国立
近代美術館研究紀要』第18号(2014年)に掲載されている(寄贈先は同館フィルム
センター)。( http://www.momat.go.jp/research/#kiyo18

 ここで筆者自身の感想などを記すが、荻野の多様な映像作品の中でもひとつの
「スタイル」と言えるのが「対象の記録」である。今回上映された作品の多くは、
戦前の『電車が軌道を走るまで』『器用な手』(伝統工芸の手作業の記録)や、戦
後の『淺草雷門』『佃の渡し』など、対象との一定の距離を保ちつつ、その動きを
淡々と記録する、というスタイルが目立つものであった。筆者自身は、「これらは
行政マンといった匿名の立場での記録映像、と言われてもおかしくない」という印
象を抱いた。ここで筆者として思いを巡らせたのは、「荻野らの在野のアマチュア
映像のコミュニティと、別の意味での「アマチュア」である行政での映像記録担当
者との交わりはあったか否か」という点である。というのは、筆者が各地域の公文
書館や公立図書館に出向く際に、書庫で映像フィルムが残されているものの、映写
機の廃棄や故障、あるいはフィルム自体の物理的破損の恐れなどで上映機会のない
ままになっている、という場面に出くわすことが少なくないためである。森や荻野
らの在野のアマチュア映像が、寄贈や調査によって救出の機会に恵まれる反面、公
文書館・公立図書館といった「公の施設」で眠ったままの、行政の立場で撮られた
映像(「公文書的」な性格を帯びる映像記録)も多く存在するはずである。これら
に目を向けることで、地域の映像アーカイブのあり方、あるいは電子時代・ネット
時代のこれからの映像アーカイブのあり方をより広く、深く追求できるのでは-と
いうことを、感じた次第である。

 ともあれ、本研究会でも強調された通り、「映像、アマチュア、アーカイブ」を
めぐる研究は、まだ緒に就いたばかりの段階である。今後、さまざまな立場の研究
者・実践者が加わり、多面的な研究・実践が成されることによって、映像というメ
ディア、あるいはその他のメディアと人々とのかかわりが豊かな姿を見せてくるの
ではないか、と考える。末筆になるが、こうした考察の機会を与えていただいた、
主催者・発表者各位にお礼申し上げる。

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