ISSN 2189-1621

 

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DHM 043 【後編】

2011-08-27創刊                       ISSN 2189-1621

人文情報学月報
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄Digital Humanities Monthly

             2015-02-26発行 No.043 第43号【後編】 550部発行

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 ◇ 目次 ◇
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【前編】
◇《巻頭言》「文学部教員から見た人文情報学」
 (小林正人:東京大学文学部)

◇《連載》「西洋史DHの動向とレビュー
      ~DHアウォーズ2014ノミネート作にみる西洋史DH~」
 (菊池信彦:国立国会図書館関西館)

【後編】
◇人文情報学イベントカレンダー

◇イベントレポート(1)
情報処理学会「人文科学とコンピュータ研究会 第105回研究発表会」
 (小林雄一郎:日本学術振興会)

◇イベントレポート(2)
国際シンポジウム「歴史的典籍画像の30万点Web公開と国際共同研究」
 (永崎研宣:人文情報学研究所)

◇イベントレポート(3)
「Europeana Tech 2015」
 (永崎研宣:人文情報学研究所)

◇編集後記

◇奥付

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【人文情報学/Digital Humanitiesに関する様々な話題をお届けします。】
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◇人文情報学イベントカレンダー(□:新規掲載イベント)

【2015年03月】
■2015-03-09(Mon):
国際学術情報流通基盤整備事業 第4回 SPARC Japan セミナー2014
「グリーンコンテンツの拡大のために我々はなにをすべきか?」
(於・東京都/国立情報学研究所)
http://www.nii.ac.jp/sparc/event/2014/20150309.html

□2015-03-20(Fri):
「東洋学へのコンピュータ利用」研究セミナー
(於・京都府/京都大学)
http://www.kanji.zinbun.kyoto-u.ac.jp/seminars/oricom/

■2015-03-24(Tue)~2015-03-26(Thu):
Council on East Asian Libraries(CEAL)年次会議
(於・米国/シカゴ)
http://www.eastasianlib.org/CEAL/AnnualMeeting/CEALMeetingSchedule/CEAL2...

【2015年04月】
□2015-04-21(Tue)~2015-04-25(Thu):
AAG Annual Meeting 2015
(於・米国/シカゴ)
http://www.aag.org/annualmeeting

【2015年05月】
□2015-05-16(Sat):
情報処理学会「第106回 人文科学とコンピュータ研究会発表会」
(於・東京都/未定)
http://www.jinmoncom.jp/

Digital Humanities Events カレンダー共同編集人
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小林雄一郎(日本学術振興会特別研究員PD)
瀬戸寿一(東京大学空間情報科学研究センター)
佐藤 翔(同志社大学教育文化学科 助教)
永崎研宣(一般財団法人人文情報学研究所)

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◇イベントレポート(1)
情報処理学会「人文科学とコンピュータ研究会 第105回研究発表会」
http://www.jinmoncom.jp/
 (小林雄一郎:日本学術振興会)

 2015年1月31日、大阪国際大学にて、情報処理学会人文科学とコンピュータ研究会
第105回研究発表会が開催された。一般口頭発表としては、坂本昭二氏(龍谷大学)
による「古文書料紙の科学分析データベースの構築に向けて」、丸川雄三氏(国立
民族学博物館)による「身装画像におけるモチーフの分析と絵引の研究」、市川創
氏(大阪文化財研究所)ほかによる「大阪上町台地を対象とした古地理図の作成と
普及について」、山田太造氏(東京大学)による「地域研究資料と対象とした時空
間情報に着目したデータの構造化」、高橋洋成氏(筑波大学)ほかによる「画像、
TEI、LODを用いた文字研究・言語研究のためのプラットフォームの構築」、白鳥和
人氏(筑波大学)ほかによる「法律業務のタスク構造化と支援システムに関する予
備検討」という報告がなされた。

 そして、今回の研究会では、「若手研究者と考えるCH研究会の次の一歩」という
企画セッションが開かれた。企画者である松村敦氏(筑波大学)が最初に趣旨説明
を行ったあと、上阪彩香氏(同志社大学)による「古典文を対象とした計量的研究
の現状」では、計量的言語研究の課題として、資料の電子化の遅れ、解析ツール開
発の遅れ、複数の写本の存在、などの問題点が指摘された。次に、小林の「デジタ
ル技術は人間の知性を再現できるか?-自動採点システムの現状と課題」では、人
工知能技術を用いた研究の可能性と限界、学際的研究に対する評価のあり方などの
話題が提案された。続いて、亀田尭宙氏(京都大学)による「知識・言葉の情報学
と地域研究」では、データ整備に関する要件や知見を共有し、評価するための枠組
みや媒体の必要であることが報告された。また、瀬戸寿一氏(東京大学)による
「参加型社会におけるGISと地理情報科学の役割」では、データや知識をどのように
入手しやすくするか、(研究者以外に)どのような人々がデータ発信を担っている
のか、などの論点が提起された。そして、清野陽一氏(奈良文化財研究所)による
「日本における考古学研究とCH研究の関係についての所感」では、学際領域の研究
者の育成にあたって、どのように教育していくか、どのような就職先があり得るか、
などの議論がなされた。

 最後に、企画セッションでの議論をふまえて、フロアを含めたパネル・ディスカ
ッションが行われた。発展途上の研究や「はみ出した」研究の成果を載せられるよ
うなディスカッション・ペーパーの発行、(主に)若手研究者の養成を目的とする
サマー・スクールの開催、若手の意見やニーズを汲み上げるような体制作り、海外
のトップ会議やトップ・ジャーナルにおける潮流の紹介など、多くのアイデアが提
案された。このように、今回の研究会は、単に分野の問題点を洗い出すだけでなく、
その問題点の解決に向けた「次の一歩」を考えていくことの重要性を認識し、関連
分野の研究者と共有・議論する良い機会であった。今後は、具体的な問題解決に向
けて、(私自身も含めて)個々の研究者が実際にアクションを起こしていくことが
求められている。

 なお、個々の報告の予稿は、情報処理学会の電子図書館(
https://ipsj.ixsq.nii.ac.jp/ej/index.php?action=pages_view_main&active_a...
)から入手することが可能である。

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◇イベントレポート(2)
国際シンポジウム「歴史的典籍画像の30万点Web公開と国際共同研究」
http://bokyakusanjin.seesaa.net/article/412275308.html
 (永崎研宣:人文情報学研究所)

 2015年2月18日 (水) 、国際シンポジウム「歴史的典籍画像の30万点Web公開と国
際共同研究」が大阪大学文学研究科にて開催された。筆者の知る限りでは最初の、
通称「歴史的典籍プロジェクト」の公開の場での発表ではなかったかと思う。筆者
としてはとても気になっていたプロジェクトの一つであったため、とにかく、大阪
まで出向いてお話をうかがうことにした。

 さて、この「歴史的典籍プロジェクト」が、何故気になっていたかというと、読
者の多くの方はすでに御存知かと思うが、このプロジェクトが最初に注目を浴びた
のは、「学術の大型施設計画・大規模研究計画のマスタープラン」の課題の一つ、
それも、人文科学系では唯一の課題として、テキストや画像を含む、日本の歴史的
典籍の統合的なデータベースを構築すべく210億円を投入する、という、その計画の
圧倒ぶり故であった(参照:http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-21-t90-2-2.pdf
)。この計画は海外でも公表され(参照:NAGASHIMA Hiroaki: 日本語の歴史的典籍
のデータベースの構築―文部科学省による学術研究の大型プロジェクトの推進と関
連して-(The Construction of a Database for Japanese Antiquarian Books:
the Advancement of a Large-scale Scholarly Project Funded by the Ministry
of Education, Culture, Sports, Science and Technology), EAJRS, 2011, at
Newcastle University,
http://eajrs.net/files-eajrs/EAJRS%202011%20programme%20%2818%20July%202...
)、世界中の日本文化研究者からの大きな期待を寄せられつつ、煮詰められていっ
たようである。

 最終的に、このプロジェクトは、国文学研究資料館が中心となる「日本語の歴史
的典籍の国際共同研究ネットワーク構築計画」ということになり、テキストデータ
ベースを中心に据えることを取りやめて画像の撮影収集を中心としつつ、国際的な
共同研究を組織していくという形に落ち着いたようである(参照:
http://www.nijl.ac.jp/pages/cijproject/ )。プロジェクトのWebサイトを見ると、
国内外の主要研究機関との連携を構築し、異分野との融合研究を醸成し、画像デー
タベースを提供する、という3つの柱によって構成されていることがうかがえる。筆
者としても、人文学における大型プロジェクトであると同時に、仏典に関わる部分
でも直接にこのプロジェクトとの関わりが出てくる(筆者は仏教学研究者として仏
典のデータベースの管理運営に携わっており国内外の仏典画像データベースへのリ
ンクも作成している)ことから、大きな期待を抱きつつ、その中間的な報告が公表
されることを心待ちにしていたのであった。

 このプロジェクトの(おそらくは)初の会合だろうということで、大入りが予想
されたため、筆者は早めに会場入りして席を確保していた。案の定、会場はほぼ席
が埋まる状況となった。おそらく70人くらいが参加していたものと思われる。平日
の午後のこうしたイベントとしてはかなり多い方なのではないかと感じたところで
あった。

 シンポジウムの具体的な状況については、数人の実況ツィートをまとめたものが
あるので、詳細はそちらを参照されたい(参照: http://togetter.com/li/784967
)。

 シンポジウムは、冒頭、三谷副研究科長によるご挨拶があった後、国文学研究資
料館・古典籍共同研究事業センター山本和明副センター長による「日本語の歴史的
典籍画像データベース構築計画について」という講演から始まった。このプロジェ
クトは「人文社会科学分野として初めての大規模学術フロンティア促進事業」とし
て平成26年度から開始され、SINET、KAGRA、TMT計画等の他の大規模学術プロジェク
トと一つの財布として運営されることになる、単年度毎に予算請求を行なう類のも
のであると紹介された。海外の文化資料デジタル化プロジェクトに比べて日本の立
ち後れが目立ってきているという危機感が背景にあることにも言及しつつ、10カ年
で画像データ約30万点をWeb公開し、平成28年度中から新データベースを公開する一
方、タグ付けを行なうことで検索機能の高度化し、多くのユーザの検索の便を図る
べく、本文中の人名・地名などの固有名詞、術語にタグを付与し、それらの検索も
可能とすること、等の具体的な計画が語られた。

 また、網羅的に資料を探す場合はサイト毎に検索しなければならず、そもそも
「そこにある」ことがわからなければ検索が困難であるという現状について、「古
典籍総合目録データベース」を国文研から発信しているので、それに画像をプラス
して発信していくと言う形でユーザの利便性を向上させようとしていることも明ら
かにされた。さらに、DOIを用いた古典籍コードの導入を導入し、研究者がそれを引
用・参照することで、読者がすぐにWebで典拠を確認できるようにするという構想も
語られた。さらに、資料画像を用いて、異分野融合型の研究や、Web上での翻刻や絵
本化、メディアミックス展開など、様々な目に見える具体的な成果が、プロジェク
トの存続発展のためにも、ひいては人文学の発展のためにも必要とされているとい
うことが強調された。

 その後、エレン・ナカムラ「世界の果てまで広がる日本の歴史的典籍と近世医学
史研究」(オークランド大学)、田世民「懐徳堂文庫所蔵典籍の画像データベース
化と懐徳堂研究」(淡江大学)の発表が続いた。いずれも、海外の日本研究者とし
て資料にどのように向き合ってきたのか、という話から、デジタル画像をどのよう
に活用して研究を行なっているか、という報告まで、幅広く具体的な講演で興味深
いものであった。

 最後は、総合討論を経て閉会となった。色々な課題が明らかになりつつ、それら
に真摯に向き合おうとしている状況がよくわかり、筆者としては得るものの多いシ
ンポジウムであった。このようなシンポジウムを開催された大阪大学文学研究科の
方々にも感謝すること至極であった。

 また、もう一つ、興味深かった事柄として、「日本語の歴史的典籍画像データベ
ース構築計画について」の講演の中で出てきた「検証可能な人文学の確立」という
言葉がツィートされたところ、これに反応するツィートが続出し、少し議論になっ
たことが挙げられる。「人文学は検証可能ではなかったのか」という驚きや、「検
証可能でないところがあるのが人文学の一側面だ」という受け入れ方など、様々な
反応があったが、筆者としては、同じ一次資料をきちんと確認できる体制を確立す
ることがそれにあたるのではないか、という反応が妥当であるように感じた。筆者
自身も、一次資料を確認しようとしたらすでに所蔵先とされる図書館には存在せず
確認のしようがなくて途方に暮れた経験が幾度かあり、また、存在することは知ら
れているものの閲覧するための手続きが特に明確に定められていない一次資料を、
相当な時間をかけてなんとかお願いして参照したこともあった。こういったことが、
画像データベースの構築によって問題なくごく短時間で行えるようになれば、それ
だけでも大きな進歩だろう。

 このプロジェクトに潜在する吸引力の故か、多くの参加者、盛り上がるツィッタ
ーだけでなく、そのツィートのまとめ(参照: http://togetter.com/li/784967
もまた、本稿執筆時点ですでに4400viewを超え、さらに増え続けている。我国の文
化資料の根幹に関わる部分の話であり、関心が高いのはむしろ当然であるとも言え
るが、こうした期待を引受け、実現していけるよう、プロジェクトの方々には引き
続き大いに活躍していっていただきたく、また、機会があればぜひとも御協力させ
ていただきたいと思った次第であった。

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◇イベントレポート(3)
「Europeana Tech 2015」
http://www.europeanatech2015.eu/
 (永崎研宣:人文情報学研究所)

 2015年2月12-13日、フランス国立図書館にて、Europeana Tech 2015が開催された
(Europeanaについては、詳しくは http://current.ndl.go.jp/ca1785 等を参照さ
れたい)。250人以上の参加者を集めたこの国際会議は、ヨーロッパ中から集まった
デジタル文化資料Geekによる報告会、という雰囲気であった。ヨーロッパの主要な
文化機関の大物がいたかと思えば、Europeanaのオープンデータを活用した新しいサ
ービスを売り込みにきている一人ベンチャー企業の社長さんや、そういった企業に
投資したいベンチャーキャピタルの人など、なんとも言えない熱気に包まれていた。
そうした中に、国立情報学研究所(NII)の高野明彦教授や、米国デジタル公共図書
館(DPLA)のExecutive Director 、Dan Cohen博士など、幾人かの欧州外からの参
加者の姿もあった。

 一連の発表では、技術的な話がある程度の割合を占めていたが、それと同等かそ
れ以上に重視されていたのは、いかにして、この文化遺産ハブとしてのEuropeana
を中心とした文化遺産コミュニティを形成していくか、という点にあったようだっ
た。カンファレンスの全体の報告については、「カレントアウェアネス・ポータル」
http://current.ndl.go.jp/node/28031 )にいくつかのブログがリンクされてい
るのでそちらに譲るとして、ここでは筆者が気づいたいくつかの個別の点について
の報告をさせていただくことにする。

 多くの報告においてキーワードになっていたのは、クラウドソーシング、オープ
ンデータ、地図上へのマッピング、といったものであった。デジタル資料に情報が
不足するところはクラウドソーシング、すなわち、多くの人々に実作業へと参加し
てもらうことによって補い、より便利なサービスを提供するために補助システムや
別のシステムを構築したりする場合にはオープンデータとして公開されているデー
タを再利用し、必要に応じて現代の地図や古地図上にアイテムをマッピングする、
あるいは古地図を現代に地図にマッピングする、といった形で話が展開されていた。

 たとえば、一時期、大英図書館が19世紀の書物から100万点以上の画像をFlickrに
公開したことが話題になった( http://current.ndl.go.jp/node/25080 )。しかし、
これらはメタデータが十分でないためにWikimediaに掲載することができない。一方
で、地図が大量に含まれているため、それを50000件抽出して、クラウドソーシング
と自動処理を組み合わせて現代の地図上にマッピングしつつメタデータを充実させ、
Wikimediaに掲載するという取組みが進められているという。また、いわゆるゲーミ
フィケーションのような位置づけで、ユーザにメタデータを楽しくどんどん追加さ
せつつ評価もさせていくシステム、ウェールズ国立図書館における19世紀の地図上
での位置情報参照(ジオリファレンス)やテクスト起こしのクラウドソーシングプ
ロジェクト等、クラウドソーシングは、問題解決のための現実的で有力な選択肢の
一つとなりつつあるようだった。ヨーロッパの例ではないが、今回ビデオ会議シス
テムで参加したTim Sherratt博士によるオーストラリア国立図書館のTroveに関する
講演では、同図書館で公開されている過去の新聞記事のOCRテキストの修正に多くの
人々が参加していたという報告をしていたことも紹介しておきたい(なお、
Sherratt博士のこの種の活動については本メールマガジンの過去記事も参照された
い。 http://www.dhii.jp/DHM/dhm38-2 )。

 オープンデータとしての面白さという観点からも色々な活用例が紹介されていた
が、特に筆者が気になったものは、“Let's Go Euroepana”
http://europeana.nialloleary.ie/index.php というサイトである。これは、完全
にEuroepana APIに依拠し、検索毎に戻ってきたデータを見やすい形に処理して表示
するというものである。地図、年表、グラフ表示など、現在普及しているWeb技術を
これでもかとばかりに盛り込んでEuropeanaのコンテンツを本家サイト以上に見やす
くわかりやすく表示するこのサービスは、典型的な技術をうまく組み合わせればで
きてしまう教科書的な例ではあるものの、その作り込みの情熱、そして会社を立ち
上げてそれに取り組んでいるというところに、Europeanaが徐々に根付きつつあるこ
とを実感させてくれた。また、Linked TVというプロジェクトでは、テレビ番組表と
Europeana APIをリンクしてテレビを見ながらEuropeana上の関連情報を手元のタブ
レットに表示させるというサービスを展開しようとしているようだった。ここでは、
その関連情報のセレクションを改善するところで独自の技術を追求しているという
ことだった。ノルウェーのラジオ番組のメタデータを作成公開しているというプロ
ジェクトでは、メタデータをきちんと作成した上でオープンにすることで色々な他
の情報とどんどん関連づけていって楽しいコンテンツを増やしていく、という話を
していた。

 他にも興味深い発表は色々あったが、本稿での紹介はとりあえずこの辺りで締め
くくりたい。この会議自体は、あくまでも欧州の事業についての会議であり、たと
えば多言語主義と言った時にしばしば出てくるのはEUにおける非公用語の扱いの問
題であり、必ずしもアジア等の別の地域の言語までもが問題とされるわけではない、
ということをはじめ、問題意識の次元がややヨーロッパローカルに向いている傾向
は否めない。それでもやはり、オープンデータとすることで自由な利活用の環境を
実現し、クラウドソーシングを含めた様々なサービスの提供によって文化遺産に関
わる人々を着実に増やしていき、それによってさらに、活動の意義を高めていこう
とするEuropeanaの取組みには、学ぶべきものが多くあったように感じた。我国でも
Europeanaのようなものを作っていこうという動きが盛り上がりを見せつつあるが、
システムや制度面だけでなく、このようにして文化遺産を介して人と人とのつなが
りを促していこうとする面も大いに参考にしていくとよいのではないだろうか。

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 配信の解除・送信先の変更は、
    http://www.mag2.com/m/0001316391.html
                        からどうぞ。

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◆編集後記(編集室:ふじたまさえ)
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 今回の人文情報学月報はいかがでしたか?まずは全ての寄稿者の皆さんに感謝の
気持ちを伝えたいと思います。ありがとうございました!

 巻頭言では、人文情報学について「文学部教員」という視点から語っていただき
ました。「文学部」の目指すところがわからない私でも、その違和感や危惧されて
いることについては、理解できました。このような視点も常に忘れずにいたいと思
います。

 また、連載のスタイルの転換については、「はじめに」を読んで納得いただけた
かと思いますが、毎回の切り口が、どのような展開になっていくのか、今後も楽し
みですね。

 イベントレポートは今回もどれも素晴らしかったのですが、特に最後の“Let's
Go Europeana”が気になりました。APIを活用したビジネスがあることにより、研究
に縁が遠い人にもその活用が進むことで、さまざまな立場の方に活用されます。今
後の動向にも注目していきたいです。

次号も、さまざまな話題をお届けしたいと思います。お楽しみに。

◆人文情報学月報編集室では、国内外を問わず各分野からの情報提供をお待ちして
います。
情報提供は人文情報学編集グループまで...
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人文情報学月報 [DHM043]【後編】 2015年02月26日(月刊)
【発行者】"人文情報学月報"編集室
【編集者】人文情報学研究所&ACADEMIC RESOURCE GUIDE(ARG)
【 ISSN 】2189-1621
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