ISSN 2189-1621

 

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DHM 044 【後編】

2011-08-27創刊                       ISSN 2189-1621

人文情報学月報
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄Digital Humanities Monthly

             2015-03-28発行 No.044 第44号【後編】 552部発行

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 ◇ 目次 ◇
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【前編】
◇《巻頭言》「建築データベースから物語へ-ドラマ『昼顔』の中の夕照橋-」
 (谷川竜一:京都大学地域研究統合情報センター)

◇《連載》「西洋史DHの動向とレビュー
      ~デジタルヒストリー×パブリックヒストリー~」
 (菊池信彦:国立国会図書館関西館)

◇記事訂正のお知らせ:第38号【前編】イベントレポート(2)
 (編集室)

【後編】
◇人文情報学イベントカレンダー

◇イベントレポート(1)
「国立国会図書館のウェブページを使い尽くそうアイデアソン
 ~NDLオープンデータ・ワークショップ」
 (橋本雄太:京都大学大学院文学研究科 博士課程後期)

◇イベントレポート(2)
シンポジウム「Digital Humanities & The Futures of Japanese Studies」
 (橋本雄太:京都大学大学院文学研究科 博士課程後期)

◇イベントレポート(3)
公開研究会「イメージのサーキュレーションとアーカイブ」
 (古賀 崇:天理大学人間学部総合教育研究センター)

◇編集後記

◇奥付

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【人文情報学/Digital Humanitiesに関する様々な話題をお届けします。】
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◇人文情報学イベントカレンダー(□:新規掲載イベント)

【2015年04月】
■2015-04-21(Tue)~2015-04-25(Thu):
AAG Annual Meeting 2015
(於・米国/シカゴ)
http://www.aag.org/annualmeeting

【2015年05月】
■2015-05-16(Sat):
情報処理学会「第106回 人文科学とコンピュータ研究会発表会」
(於・東京都/国立国会図書館 東京本館)
http://www.jinmoncom.jp/

【2015年06月】
□2015-06-01(Mon)~2015-06-03(Wed):
Joint ACH & Canadian DH Conference 2015
(於・カナダ/University of Ottawa)
http://ach.org/2014/10/20/joint-ach-canadian-dh-conference-2015/

□2015-06-01(Mon)~2015-06-05(Fri):
Digital Humanities Summer Institute@Victoria
(於・カナダ/University of Victoria)
http://www.dhsi.org/

□2015-06-08(Mon)~2015-06-12(Fri):
Digital Humanities Summer Institute@Victoria
(於・カナダ/University of Victoria)
http://www.dhsi.org/

□2015-06-15(Mon)~2015-06-19(Fri):
Digital Humanities Summer Institute@Victoria
(於・カナダ/University of Victoria)
http://www.dhsi.org/

□2015-06-29(Mon)~2015-07-03(Fri):
DH2015@Sydney
(於・豪国/University of Western Sydney)
http://dh2015.org/

Digital Humanities Events カレンダー共同編集人
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小林雄一郎(日本学術振興会特別研究員PD)
瀬戸寿一(東京大学空間情報科学研究センター)
佐藤 翔(同志社大学教育文化学科 助教)
永崎研宣(一般財団法人人文情報学研究所)

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◇イベントレポート(1)
「国立国会図書館のウェブページを使い尽くそうアイデアソン
 ~NDLオープンデータ・ワークショップ」
http://lab.kn.ndl.go.jp/cms/?q=opendata2015
 (橋本雄太:京都大学大学院文学研究科 博士課程後期)

 2015年2月21日、国立国会図書館東京本館にて「国立国会図書館のウェブページを
使い尽くそうアイデアソン~NDLオープンデータ・ワークショップ」が開催された。
同イベントは2015年の「インターナショナル・オープンデータデイ」に合わせて開
催されたもので、国立国会図書館が公開している各種のオープンデータの新しい活
用方法を、一般参加者のアイデアソンによって考え出そうという趣旨の企画である。
当初の募集人数は20名とのことであったが、当日は30名ほどの参加者が集まる盛況
であった。

 「アイデアソン(ideathon)」という用語に馴染みのない方も多いと思われるが、
これはideaとmarathonを組み合わせた用語で、特定のテーマに沿ってチーム単位で
アイデアを提出し、それを一定の時間内でまとめ上げ発表する作業である。同様の
イベントとしては、昨年の「じんもんこん2014」の併設イベントとして開かれたア
イデアソン「じんもんそん」が記憶に新しい。

 今回のイベントでは、事前アンケートの結果に基づいて、次の3つのディスカッシ
ョンテーマが設定された。

(1)書誌・典拠データを使い尽くす
(2)デジタルコレクションを使い尽くす
(3)レファレンスデータを使い尽くす

 上記のテーマ別に、5~6名から成る計7つのグループが作られた。ちなみに筆者が
参加したのは(2)のグループである。グループ分けが完了した後、各グループ内で
国立国会図書館がWeb上で公開しているデータを用いた新サービスを考案し、最後に
2分間のプレゼンテーションを行う。自由な発想が求められるため、アイデア出しの
最中の批判は厳禁である。

 筆者がアイデアソンイベントに参加するのは今回が初めてであったが、2時間程の
ごく短い時間内でグループのアイデアをまとめ上げ、発表できる形まで持っていく
のは、なかなかに骨の折れる作業であった。当日のイベントの模様については、参
加者のツイートをまとめたものを公開しているので、こちらも参照されたい(
http://togetter.com/li/786838 )。

 グループ作業の結果、筆者のグループでは、国立国会図書館デジタルコレクショ
ンと位置情報データを結びつける「陣取りゲーム」を提案した。他グループでは、
「Twitter上のツイート情報をもとに近代デジタルライブラリー上の資料をレコメン
ドするbotサービス」や、書誌・典拠データを活用した「藩主の人生を追体験できる
江戸時代人生ゲーム」、「時空間情報と概念情報の2軸で資料間のつながりを可視化
するサービス」などなど、非常に面白いアイデアが提出されていた。全体としては、
ソーシャルデータとの連携や、資料メタデータの可視化についてのアイデアが多か
ったことが印象的であった。全グループのアイデア発表後、同志社大学の原田隆史
教授から全体の講評があり、イベント終了となった。

 今回のイベント開催に限らず、ここ最近の国立国会図書館の動向からは、同館が
オープンデータへの取り組みを強力に推し進めていることが伺い知れる。2015年1月
には、同館のデジタルコレクションの全書誌データが一括ダウンロード可能になっ
た( http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/standards/opendataset.html )。筆者は
同館が運営する「近代デジタルライブラリー」向けのモバイルリーダー(
https://itunes.apple.com/jp/app/jindejirida/id959002223 )を開発しているが、
こうした国立国会図書館の提供サービスに依拠したアプリケーション開発に携わる
人間にとって、同館の取り組みは非常に頼もしいものである。今回のアイデアソン
イベントも、同館が推し進めるオープンデータへの取り組みの延長線上にあり、オ
ープンデータの具体的な活用法を探るための企画であると言える。今後とも、同館
が継続的にこうしたイベントを開催し、その過程で様々なアイデアや意見の交換が
行われることを期待したい。

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◇イベントレポート(2)
シンポジウム「Digital Humanities & The Futures of Japanese Studies」
https://www.si.umich.edu/events/201503/symposium-digital-humanities-futu...
 (橋本雄太:京都大学大学院文学研究科 博士課程後期)

 2015年3月14日から15日の2日間にわたり、米ミシガン大学アナーバー校にて国際
シンポジウム“Digital Humanities & The Futures of Japanese Studies”が開催
された。ミシガン大学は米国の公立大学の名門校として有名であるが、日本研究の
有力拠点としても知られている。同校の日本研究センター(Center for Japanese
Studies, http://www.ii.umich.edu/cjs/ )には、今回のシンポジウムのオーガナ
イザーであるJonathan Zwicker教授ほか多数のスタッフが勤務しており、頻繁に日
本研究に関する講演やシンポジウムが開催されている。

 今回のシンポジウムの趣旨は、デジタル・ヒューマニティーズ研究の世界的流行
を受け、デジタル・ヒューマニティーズが日本研究の発展に、特に、日米間の国際
的な共同研究の実現に寄与する可能性を日米の研究者で論じようというものである。
シンポジウムにはミシガン大学の日本学研究者とデジタル・ヒューマニティーズ研
究者4名に加えて、日本から立命館大学の赤間亮教授、人文情報学研究所の永崎研宣
氏、そして筆者の3名が講演者として参加した。

 シンポジウム1日目は、赤間教授による基調講演“Digital Humanities for
Japanese Arts and Culture: The Case of the Art Research Center,
Ritsumeikan University”によって幕開けした。赤間教授の講演の中心となったの
は、自らが立命館大学アート・リサーチ・センターで実践する文化財のデジタル化
方式「ARCモデル」の紹介である。赤間教授の講演に続いて、ミシガン大学の
School of Informationで教鞭を取り、文化遺産のデジタル化を専門にするPaul
Conway教授による“Digitization and Access to Live Sound Recordings: Two
Case Studies from American Folk and the African Field”、今回のシンポジウム
のオーガナイザーであり、近世・近代日本文学の専門家であるJonathan Zwicker教
授による“From Ephemerality to the Enduring Ephemeral: Performance and the
Archive in the Digital Age - the Case of Japan”、ミシガン大学図書館の日本
学専門司書である横田カーター氏による“Building Library Support for Digital
Scholarship in Japanese Studies”、またHathiTrustプロジェクトのAssistant
directorであるJeremy York氏による“Digital Humanities in HathiTrust:
Research at Any Scale”とミシガン大学関係者の講演が続いた。いずれも日本研究
とデジタル・ヒューマニティーズの専門家が、それぞれの立場から人文学研究にお
けるデジタル技術の利用について論じた充実の内容で、質疑応答のセッションでは
活発な意見交換がなされた。当日の詳細なスケジュールや講演者のプロフィールは、
ミシガン大学のイベント告知ページから確認できるので、ご関心のある方は合わせ
て参照されたい。

 シンポジウム2日目には、“From Theory to Practice: Tools and Technics in
Japanese Digital Humanities”というセッションタイトルのもと、永崎氏と筆者の
二名が講演とワークショップを行った。永崎氏の講演“Data Visualization of
Japanese Literature”では、日本語テキストの統計解析とその可視化に利用できる
ツールとしてVoyant( http://voyant-tools.org/ )およびMIMA Search(
http://mimasearch.t.u-tokyo.ac.jp/ )の紹介が行われた。続く筆者の講演では、
歴史史料画像の研究支援ソフトウェアであるSMART-GS(
https://sourceforge.jp/projects/smart-gs/ )の紹介を行った。さらに午後の部
では、各参加者のラップトップPCにSMART-GSをインストールしてもらい、ハンズオ
ン形式でSMART-GSを利用した日本語史料読解を体験してもらうワークショップを実
施した。

 シンポジウムを挟んで計4日間にわたるミシガン滞在中、強く印象に残ったのは、
米国の大学の人材の豊富さと多様さである。シンポジウムの合間、現地で日本学を
専攻している大学院生数名と話す機会があったのだが、ほぼ完璧な日本語を話すの
で驚いてしまった。また、大学図書館司書の方々の旺盛な活動ぶりも印象的であっ
た。シンポジウム2日目の参加者は、恐らく半数近くが図書館関係者だったのではな
いかと思う。イリノイ大学など、近郊の大学の図書館からも多くの参加者があった
ようだ。

 今回のシンポジウムのテーマでもある日米間の“long-distance collaborative
enterprise”の実現は、今後のデジタル・ヒューマニティーズ研究の主要課題とな
り得るテーマであろうと思われる。通信情報技術の発達により、太平洋を隔てた日
米間のコミュニケーションは、ほぼゼロコストで行うことが可能になった。しかし
ながら人文学、特に文学研究の分野では、これを最大限活用して国際的な知的交流
を実現した事例は、いまだ僅少であるからだ。日米の日本文学研究者が、Web上に構
築された何らかのプラットフォームを利用して、式亭三馬や上田秋成の作品解釈に
ついて意見を戦わせ、共同で研究を進める-そうした状況を形作るための情報環境
の構築が今後求められるように思われる。

 最後に、ごく個人的な感想になってしまって恐縮だが、今回のような長時間にわ
たる英語発表(講演とワークショップを合わせて2時間45分)は筆者にとって初めて
の経験であり、これを無事に終えられたことは研究者を志す人間として大きな自信
になった。いち大学院生に過ぎない私に発表の機会を与えてくれたミシガン大学の
Zwicker先生と、SMART-GSプロジェクトを先方に紹介して頂き、現地でも多数のアシ
ストをして頂いた永崎先生に、この場を借りて厚く御礼申し上げたい。

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◇イベントレポート(3)
公開研究会「イメージのサーキュレーションとアーカイブ」
http://kobe-eiga.net/event/2015/03/527/
 (古賀 崇:天理大学人間学部総合教育研究センター)

 2015年3月21日(土)に、神戸映画資料館(神戸市新長田)にて、神戸大学地域連
携事業「映像を媒介とした大学とアーカイブの地域連携」、および一般社団法人神
戸映画保存ネットワークの共催により、標記の研究会が開催された。神戸では2014
年3月に「大学・地域・連携シンポジウム:映像、アマチュア、アーカイヴ」が開催
されており、本研究会はそれに続き「映像、アマチュア、アーカイブ」を考察する
機会と位置づけられる。

 簡単に補足しておくと、共催のプロジェクト・団体のうち、前者は「兵庫県唯一
の映像メディア・アーカイブである神戸映画資料館が所蔵する多数の映画フィルム
や映画関連資料の一部を整理・活用することによって、本学(引用者注:神戸大学)
における今後の映像メディアを用いた教育研究活動と地域連携の基盤を生み出すこ
とを目的」とする神戸大学大学院国際文化学研究科のプロジェクトであり(参照:
http://www.office.kobe-u.ac.jp/crsu-chiiki/news/130620_kokubun.html )、後
者は神戸映画資料館のアーカイブ部門を担い、同館が所蔵する(もとは1970年代よ
り大阪のプラネット映画資料図書館が収集してきた)映画フィルムの調査作業も実
施している。本研究会に先立つ2014年のシンポジウムでは、19世紀後半より日本内
外の人々が映像技術・写真技術にどう向き合ってきたかを検証しつつ、「映像・写
真アーカイブの調査成果」の具体的事例として、大正末期~昭和前期に日本のアマ
チュア映像愛好家に用いられた9.5mmフィルム「パテ・ベビー」による作品などが紹
介・上映された(参照: http://repre.org/repre/vol21/topics/03/ )。

 本研究会の第一部「散逸と(再)統合」では、板倉史明氏(神戸大学)の解説の
もと、日本のアマチュア影絵アニメーションの先駆として、1930・40年代に制作さ
れた作品が上映された。ここでの作品の作者は、坂本為之、竹村猛児、荒井和五郎、
そして2014年のシンポジウムより「戦前関西におけるアマチュア映像のキーパーソ
ン」として取り上げられている森紅(もり・くれない、1885-1941)である。

 第二部「映像のミクロストリア」では、2人の人物に焦点を当て、彼らが撮影・制
作した作品の上映もまじえつつ、アマチュア映像とその背景について討議が成され
た。まず前述の森紅については、松谷容作氏(神戸大学)が「森という映像作家に
焦点を当てるだけでなく、撮影対象の素材ないし「モノ」に焦点を当てて、社会や
地域の動向・変化の中でアマチュア映像の位置づけを考える必要性」という問題提
起を行った。また藤原征生氏(京都大学)は、森が制作した映像作品の中でも「音
楽と連動したアニメーション(レコード・トーキー)」という点でユニークな『ヴ
ォルガの舟歌 扇光樂』(音程とリズムを扇形の変化で示す)について、実際にど
んなレコードが用いられたかを突き止めつつ、「森紅作品における映像と音楽、音
楽文化」について論じた。

 もうひとりの重要人物として取り上げられたのが、東京を拠点に活躍した荻野茂
二(1899-1991)である。荻野は1928年から1984年に至るまで、何度かの中断期をは
さみつつ、多様な(あるいは一貫性の見いだしにくい)映像を撮り続けた。彼はま
た1960年より「オギノ8ミリ教室」を東海道地域に展開し、その活動報告を『小型映
画』誌に掲載するなど、「メディアミックス」的な活動も行った。本研究会では、
原田健一(新潟大学)、水島久光(東海大学)、北村順生(新潟大学)、榎本千賀
子(新潟大学)、椋本輔(横浜国立大学)の各氏が、荻野の映像作品や活動をめぐ
って討議を行った。なお、浅利浩之「荻野茂二寄贈フィルム目録」が、『東京国立
近代美術館研究紀要』第18号(2014年)に掲載されている(寄贈先は同館フィルム
センター)。( http://www.momat.go.jp/research/#kiyo18

 ここで筆者自身の感想などを記すが、荻野の多様な映像作品の中でもひとつの
「スタイル」と言えるのが「対象の記録」である。今回上映された作品の多くは、
戦前の『電車が軌道を走るまで』『器用な手』(伝統工芸の手作業の記録)や、戦
後の『淺草雷門』『佃の渡し』など、対象との一定の距離を保ちつつ、その動きを
淡々と記録する、というスタイルが目立つものであった。筆者自身は、「これらは
行政マンといった匿名の立場での記録映像、と言われてもおかしくない」という印
象を抱いた。ここで筆者として思いを巡らせたのは、「荻野らの在野のアマチュア
映像のコミュニティと、別の意味での「アマチュア」である行政での映像記録担当
者との交わりはあったか否か」という点である。というのは、筆者が各地域の公文
書館や公立図書館に出向く際に、書庫で映像フィルムが残されているものの、映写
機の廃棄や故障、あるいはフィルム自体の物理的破損の恐れなどで上映機会のない
ままになっている、という場面に出くわすことが少なくないためである。森や荻野
らの在野のアマチュア映像が、寄贈や調査によって救出の機会に恵まれる反面、公
文書館・公立図書館といった「公の施設」で眠ったままの、行政の立場で撮られた
映像(「公文書的」な性格を帯びる映像記録)も多く存在するはずである。これら
に目を向けることで、地域の映像アーカイブのあり方、あるいは電子時代・ネット
時代のこれからの映像アーカイブのあり方をより広く、深く追求できるのでは-と
いうことを、感じた次第である。

 ともあれ、本研究会でも強調された通り、「映像、アマチュア、アーカイブ」を
めぐる研究は、まだ緒に就いたばかりの段階である。今後、さまざまな立場の研究
者・実践者が加わり、多面的な研究・実践が成されることによって、映像というメ
ディア、あるいはその他のメディアと人々とのかかわりが豊かな姿を見せてくるの
ではないか、と考える。末筆になるが、こうした考察の機会を与えていただいた、
主催者・発表者各位にお礼申し上げる。

Copyright(C)KOGA, Takashi 2014- All Rights Reserved.
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 配信の解除・送信先の変更は、
    http://www.mag2.com/m/0001316391.html
                        からどうぞ。

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◆編集後記(編集室:ふじたまさえ)
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 年度の節目にあたり、巻頭言では意外な切り口でデータベースを読み解くストー
リーについて語っていただきました。2回目となる菊池さんからの連載では、パブリ
ックヒストリーを切り口に、また、イベントレポートでは、橋本さんに2本もご寄稿
いただきました。また、古賀さんからは、人々とメディアのかかわりについて思い
を巡らせたレポートをいただきました。いずれも、今後につながる話でもあり、わ
くわくしながら読ませていただきました。ご寄稿ありがとうございました!

 今回もさまざまな視点からのレポートをありがとうございました。次号も、引き
続き、わくわくする話題をお届けしたいと思います。お楽しみに。

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います。
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人文情報学月報 [DHM044]【後編】 2015年03月28日(月刊)
【発行者】"人文情報学月報"編集室
【編集者】人文情報学研究所&ACADEMIC RESOURCE GUIDE(ARG)
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