ISSN 2189-1621

 

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イベントレポート(2) 「慶應義塾大学デジタルメディア・コンテンツ統合研究 センター移転記念シンポジウム デジタル知の文化的普及と深化に向けて」

◇イベントレポート(2)

慶應義塾大学デジタルメディア・コンテンツ統合研究センター移転記念シンポジウム
デジタル知の文化的普及と深化に向けて
(永崎研宣:人文情報学研究所)

2011年11月24日、慶應義塾大学日吉キャンパス西別館において、慶應義塾大学デジ
タルメディア・コンテンツ統合研究センター( http://www.dmc.keio.ac.jp/ 以下、
DMC研究センター)移転記念シンポジウム「デジタル知の文化的普及と深化に向けて」
が開催された。公式Webサイトにおける紹介文によれば、DMC研究センターは、2010年
4月、慶應義塾大学デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構が改組されて発足し
たものであり、さらに、2011年10月には慶應義塾大学の三田キャンパスから、4Kス
テレオ3D上映可能な設備を含む、新たな編集・撮影・上映空間を備えた日吉キャン
パス西別館に移転したとのことであり、この移転を記念してのシンポジウムが開催
されたとのことである。
シンポジウムはDMCスタジオで開催され、それほど広い部屋ではなかったものの、
多くの参加者により熱気に満ちた会合となった。長谷山彰・慶應義塾常任理事によ
り、慶應義塾大学によるUniversity Museum構想への期待が語られた後、DMC研究セ
ンター所長である松田隆美・文学部教授による基調講演「文化財コンテンツのコン
テクスト化とDMC」があった。ここに至るまでに、DMC研究センターの前身となる組
織には、海外の各地の関係機関と連携しながら展開されたグーテンベルク聖書のデ
ジタル化という著名なプロジェクト( http://www.humi.keio.ac.jp/treasures/incunabula/B42-web/b42/html/index_j... )があり、これに拠りつつ、文化資料のデジタルコンテンツにおいて展開し得
る、これまでにはない幅広いコンテクストの付与と共有との可能性と、その面での
デジタル技術との協働への期待が提示された。
続いて、副所長である斎藤英雄・理工学部教授による講演「デジタルコンテンツの
実世界提示技術」が行われた。ここでは仮想現実や拡張現実といった様々なデジタ
ルコンテンツ提示技術の来歴を含む紹介が行われ、技術的チャレンジに向けた様々
な可能性が提示された。
その後、休憩の後、3D 映像閲覧用メガネが配布され、4Kステレオ3D映像を含む2011
年度作成コンテンツダイジェストが上映された。ダンスを撮影した高精細な3D映像
だけでなく、慶應対立教の野球の試合や、東京都心の断片を切り出す映像などが3D
で上映された。この3D映像の編集作業はとても時間のかかるものであり、直前まで
編集を行っていたとのことであった。
さらに、金子晋丈・研究センター特任講師によって行われた講演「持続的なデジタ
ルインフラの発展をめざして」では、上記のような超大容量データをいかにして安
全かつ効率的に扱うかという課題についての技術開発の現状が紹介された。筆者に
特に印象に残ったのは、10Gネットワークを駆使してネットワーク上でデータを分散
して保持する技術、地球の裏側のコンピュータリソースを活用することによってコ
ストを下げる構想などであった。
最後に、奥田倫子・国立国会図書館関西館電子図書館課副主査より、「欧州におけ
るデジタル化:オランダを中心に」と題する講演が行われた。ここでは、2年間のオ
ランダ留学に基づく知見により、ヨーロッパにおけるデジタルコンテンツへの取り
組みが紹介された。日本との違いとして、人文学研究者の立場からのデジタルコン
テンツへの要求がきちんと提示されつつデジタル化が展開されていること等が指摘
されていた。
最後に行われたディスカッションでは、DMC研究センターの具体的な課題からデジタ
ルメディアの本質的な在り方にいたるまで様々な議論が活発に展開され、時間切れ
となるまで続けられた。シンポジウム後の研究交流会でも議論は続けられ、また、
3D映像編集ソフトウェアのデモンストレーション等も行われ、最後まで活況であっ
た。
このシンポジウムのキーとなるのは、文化資料のコンテクスト化と高度なIT技術で
あったと言っていいだろう。その両者がうまく結びつくことができたなら、デジタ
ルメディア時代における新たな人文学の姿が、DMC研究センターから見えてくること
だろう。今後の展開に大きく期待したい。

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