ISSN 2189-1621

 

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◇イベントレポート(1) 情報処理学会「人文科学とコンピュータ研究会 第105回研究発表会」

◇イベントレポート(1)
情報処理学会「人文科学とコンピュータ研究会 第105回研究発表会」
http://www.jinmoncom.jp/
 (小林雄一郎:日本学術振興会)

 2015年1月31日、大阪国際大学にて、情報処理学会人文科学とコンピュータ研究会
第105回研究発表会が開催された。一般口頭発表としては、坂本昭二氏(龍谷大学)
による「古文書料紙の科学分析データベースの構築に向けて」、丸川雄三氏(国立
民族学博物館)による「身装画像におけるモチーフの分析と絵引の研究」、市川創
氏(大阪文化財研究所)ほかによる「大阪上町台地を対象とした古地理図の作成と
普及について」、山田太造氏(東京大学)による「地域研究資料と対象とした時空
間情報に着目したデータの構造化」、高橋洋成氏(筑波大学)ほかによる「画像、
TEI、LODを用いた文字研究・言語研究のためのプラットフォームの構築」、白鳥和
人氏(筑波大学)ほかによる「法律業務のタスク構造化と支援システムに関する予
備検討」という報告がなされた。

 そして、今回の研究会では、「若手研究者と考えるCH研究会の次の一歩」という
企画セッションが開かれた。企画者である松村敦氏(筑波大学)が最初に趣旨説明
を行ったあと、上阪彩香氏(同志社大学)による「古典文を対象とした計量的研究
の現状」では、計量的言語研究の課題として、資料の電子化の遅れ、解析ツール開
発の遅れ、複数の写本の存在、などの問題点が指摘された。次に、小林の「デジタ
ル技術は人間の知性を再現できるか?-自動採点システムの現状と課題」では、人
工知能技術を用いた研究の可能性と限界、学際的研究に対する評価のあり方などの
話題が提案された。続いて、亀田尭宙氏(京都大学)による「知識・言葉の情報学
と地域研究」では、データ整備に関する要件や知見を共有し、評価するための枠組
みや媒体の必要であることが報告された。また、瀬戸寿一氏(東京大学)による
「参加型社会におけるGISと地理情報科学の役割」では、データや知識をどのように
入手しやすくするか、(研究者以外に)どのような人々がデータ発信を担っている
のか、などの論点が提起された。そして、清野陽一氏(奈良文化財研究所)による
「日本における考古学研究とCH研究の関係についての所感」では、学際領域の研究
者の育成にあたって、どのように教育していくか、どのような就職先があり得るか、
などの議論がなされた。

 最後に、企画セッションでの議論をふまえて、フロアを含めたパネル・ディスカ
ッションが行われた。発展途上の研究や「はみ出した」研究の成果を載せられるよ
うなディスカッション・ペーパーの発行、(主に)若手研究者の養成を目的とする
サマー・スクールの開催、若手の意見やニーズを汲み上げるような体制作り、海外
のトップ会議やトップ・ジャーナルにおける潮流の紹介など、多くのアイデアが提
案された。このように、今回の研究会は、単に分野の問題点を洗い出すだけでなく、
その問題点の解決に向けた「次の一歩」を考えていくことの重要性を認識し、関連
分野の研究者と共有・議論する良い機会であった。今後は、具体的な問題解決に向
けて、(私自身も含めて)個々の研究者が実際にアクションを起こしていくことが
求められている。

 なお、個々の報告の予稿は、情報処理学会の電子図書館(
https://ipsj.ixsq.nii.ac.jp/ej/index.php?action=pages_view_main&active_a...
)から入手することが可能である。

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DHM 043 【後編】

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