ISSN 2189-1621

 

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◇イベントレポート(2) 国際シンポジウム「歴史的典籍画像の30万点Web公開と国際共同研究」

◇イベントレポート(2)
国際シンポジウム「歴史的典籍画像の30万点Web公開と国際共同研究」
http://bokyakusanjin.seesaa.net/article/412275308.html
 (永崎研宣:人文情報学研究所)

 2015年2月18日 (水) 、国際シンポジウム「歴史的典籍画像の30万点Web公開と国
際共同研究」が大阪大学文学研究科にて開催された。筆者の知る限りでは最初の、
通称「歴史的典籍プロジェクト」の公開の場での発表ではなかったかと思う。筆者
としてはとても気になっていたプロジェクトの一つであったため、とにかく、大阪
まで出向いてお話をうかがうことにした。

 さて、この「歴史的典籍プロジェクト」が、何故気になっていたかというと、読
者の多くの方はすでに御存知かと思うが、このプロジェクトが最初に注目を浴びた
のは、「学術の大型施設計画・大規模研究計画のマスタープラン」の課題の一つ、
それも、人文科学系では唯一の課題として、テキストや画像を含む、日本の歴史的
典籍の統合的なデータベースを構築すべく210億円を投入する、という、その計画の
圧倒ぶり故であった(参照:http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-21-t90-2-2.pdf
)。この計画は海外でも公表され(参照:NAGASHIMA Hiroaki: 日本語の歴史的典籍
のデータベースの構築―文部科学省による学術研究の大型プロジェクトの推進と関
連して-(The Construction of a Database for Japanese Antiquarian Books:
the Advancement of a Large-scale Scholarly Project Funded by the Ministry
of Education, Culture, Sports, Science and Technology), EAJRS, 2011, at
Newcastle University,
http://eajrs.net/files-eajrs/EAJRS%202011%20programme%20%2818%20July%202...
)、世界中の日本文化研究者からの大きな期待を寄せられつつ、煮詰められていっ
たようである。

 最終的に、このプロジェクトは、国文学研究資料館が中心となる「日本語の歴史
的典籍の国際共同研究ネットワーク構築計画」ということになり、テキストデータ
ベースを中心に据えることを取りやめて画像の撮影収集を中心としつつ、国際的な
共同研究を組織していくという形に落ち着いたようである(参照:
http://www.nijl.ac.jp/pages/cijproject/ )。プロジェクトのWebサイトを見ると、
国内外の主要研究機関との連携を構築し、異分野との融合研究を醸成し、画像デー
タベースを提供する、という3つの柱によって構成されていることがうかがえる。筆
者としても、人文学における大型プロジェクトであると同時に、仏典に関わる部分
でも直接にこのプロジェクトとの関わりが出てくる(筆者は仏教学研究者として仏
典のデータベースの管理運営に携わっており国内外の仏典画像データベースへのリ
ンクも作成している)ことから、大きな期待を抱きつつ、その中間的な報告が公表
されることを心待ちにしていたのであった。

 このプロジェクトの(おそらくは)初の会合だろうということで、大入りが予想
されたため、筆者は早めに会場入りして席を確保していた。案の定、会場はほぼ席
が埋まる状況となった。おそらく70人くらいが参加していたものと思われる。平日
の午後のこうしたイベントとしてはかなり多い方なのではないかと感じたところで
あった。

 シンポジウムの具体的な状況については、数人の実況ツィートをまとめたものが
あるので、詳細はそちらを参照されたい(参照: http://togetter.com/li/784967
)。

 シンポジウムは、冒頭、三谷副研究科長によるご挨拶があった後、国文学研究資
料館・古典籍共同研究事業センター山本和明副センター長による「日本語の歴史的
典籍画像データベース構築計画について」という講演から始まった。このプロジェ
クトは「人文社会科学分野として初めての大規模学術フロンティア促進事業」とし
て平成26年度から開始され、SINET、KAGRA、TMT計画等の他の大規模学術プロジェク
トと一つの財布として運営されることになる、単年度毎に予算請求を行なう類のも
のであると紹介された。海外の文化資料デジタル化プロジェクトに比べて日本の立
ち後れが目立ってきているという危機感が背景にあることにも言及しつつ、10カ年
で画像データ約30万点をWeb公開し、平成28年度中から新データベースを公開する一
方、タグ付けを行なうことで検索機能の高度化し、多くのユーザの検索の便を図る
べく、本文中の人名・地名などの固有名詞、術語にタグを付与し、それらの検索も
可能とすること、等の具体的な計画が語られた。

 また、網羅的に資料を探す場合はサイト毎に検索しなければならず、そもそも
「そこにある」ことがわからなければ検索が困難であるという現状について、「古
典籍総合目録データベース」を国文研から発信しているので、それに画像をプラス
して発信していくと言う形でユーザの利便性を向上させようとしていることも明ら
かにされた。さらに、DOIを用いた古典籍コードの導入を導入し、研究者がそれを引
用・参照することで、読者がすぐにWebで典拠を確認できるようにするという構想も
語られた。さらに、資料画像を用いて、異分野融合型の研究や、Web上での翻刻や絵
本化、メディアミックス展開など、様々な目に見える具体的な成果が、プロジェク
トの存続発展のためにも、ひいては人文学の発展のためにも必要とされているとい
うことが強調された。

 その後、エレン・ナカムラ「世界の果てまで広がる日本の歴史的典籍と近世医学
史研究」(オークランド大学)、田世民「懐徳堂文庫所蔵典籍の画像データベース
化と懐徳堂研究」(淡江大学)の発表が続いた。いずれも、海外の日本研究者とし
て資料にどのように向き合ってきたのか、という話から、デジタル画像をどのよう
に活用して研究を行なっているか、という報告まで、幅広く具体的な講演で興味深
いものであった。

 最後は、総合討論を経て閉会となった。色々な課題が明らかになりつつ、それら
に真摯に向き合おうとしている状況がよくわかり、筆者としては得るものの多いシ
ンポジウムであった。このようなシンポジウムを開催された大阪大学文学研究科の
方々にも感謝すること至極であった。

 また、もう一つ、興味深かった事柄として、「日本語の歴史的典籍画像データベ
ース構築計画について」の講演の中で出てきた「検証可能な人文学の確立」という
言葉がツィートされたところ、これに反応するツィートが続出し、少し議論になっ
たことが挙げられる。「人文学は検証可能ではなかったのか」という驚きや、「検
証可能でないところがあるのが人文学の一側面だ」という受け入れ方など、様々な
反応があったが、筆者としては、同じ一次資料をきちんと確認できる体制を確立す
ることがそれにあたるのではないか、という反応が妥当であるように感じた。筆者
自身も、一次資料を確認しようとしたらすでに所蔵先とされる図書館には存在せず
確認のしようがなくて途方に暮れた経験が幾度かあり、また、存在することは知ら
れているものの閲覧するための手続きが特に明確に定められていない一次資料を、
相当な時間をかけてなんとかお願いして参照したこともあった。こういったことが、
画像データベースの構築によって問題なくごく短時間で行えるようになれば、それ
だけでも大きな進歩だろう。

 このプロジェクトに潜在する吸引力の故か、多くの参加者、盛り上がるツィッタ
ーだけでなく、そのツィートのまとめ(参照: http://togetter.com/li/784967
もまた、本稿執筆時点ですでに4400viewを超え、さらに増え続けている。我国の文
化資料の根幹に関わる部分の話であり、関心が高いのはむしろ当然であるとも言え
るが、こうした期待を引受け、実現していけるよう、プロジェクトの方々には引き
続き大いに活躍していっていただきたく、また、機会があればぜひとも御協力させ
ていただきたいと思った次第であった。

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DHM 043 【後編】

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