ISSN 2189-1621

 

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イベントレポート(1) DH-JAC2011を振り返って

◇イベントレポート(1)

DH-JAC2011を振り返って: http://www.arc.ritsumei.ac.jp/lib/dhjac2011/
(瀬戸寿一:立命館大学文学研究科博士課程後期課程・GCOE日本文化デジタル・ヒューマニティーズ拠点RA・日本学術振興会特別研究員)

2011年11月19-20日、立命館大学衣笠キャンパスにて、The 2nd International
Symposium on Digital Humanities for Japanese Arts and Cultures(DH-JAC2011)
が、立命館大学グローバルCOEプログラム「日本文化デジタル・ヒューマニティーズ
拠点」主催により開催された。本拠点は、前COEの研究から今年で10年にわたり、京
都文化ひいては日本文化に関するデジタル・ヒューマニティーズの確立に向けた幅
広い研究活動を行なってきている。このシンポジウムは、2009年に開催された
DH-JAC2009( http://www.arc.ritsumei.ac.jp/lib/GCOE/info/dh-jac2009.html
に続き、2回目で、本年度がグローバルCOEプログラムの最終年度に当たることから、
過去5年間の拠点の研究成果を総括するとともに、今後のDHの展開を企図した国際シ
ンポジウムであった。今回のシンポジウムでは、世界の第一線で活躍するデジタル・
ヒューマニティーズ研究者による多くの講演はもちろんのこと、基調講演者同士の
鼎談や、拠点を構成する5つの研究班と海外からの招待講師との合同セッション、特
定のテーマによる3つのパネルセッションが行われた。さらに、本拠点若手研究者に
よる研究成果発表が口頭発表・パネルセッション・ポスターセッションという多様
な形で行われるなど濃密な2日間となった。

初日のセッションでは、長尾真(国立国会図書館)館長から「国立国会図書館にお
ける電子図書館への努力」と題する基調講演があり、続いて、金田章裕(人間文化
研究機構)機構長やSimon C Lin教授(台湾TELDAP会長)の基調講演では、日本・台
湾を代表する機関での取り組みが紹介された。基調講演を受けた鼎談では、資料へ
のアクセスがデジタル化に伴い容易になっている現状を認めつつも、研究や活用の
ニーズと合致しているのかという問題提起や、デジタル化することによってこれま
で必ずしも把握されてこなかった貴重な文化資源へアクセスできるようになり、活
用の可能性が開かれるのではといった議論も行われた。

続いて午後のセッションでは、各研究班の5年間の活動総括とそれを受けた招待講演
者からの講評が行われた。具体的には、京都文化研究班×並木誠士(京都工芸繊維
大学)教授、日本文化研究班×Ellis Tinios(リーズ大学)名誉講師、歴史地理情
報研究班×Peter Bol(ハーバード大学)教授、Web活用技術研究班×Geoffrey
Rockwell(アルバータ大学)教授、デジタルアーカイブ技術研究班×Hongbin Zha
(北京大学)教授というメンバーで構成され、いずれも活発な議論が展開された。
中でも印象的だったコメントとしてBol教授からあった、期限付きのプロジェクトと
永続的に続く必要のあるプロジェクトをどう位置づけるのか、それらをどうやって
財政的・組織的に維持するのか、等の問題提起であった。これについては、例えば
Tinios講師が提起した日本文化資料のdiasporaをデータベース化することによって
解決するための手立てや、Rockwell教授におけるGlobal Research上の課題とも関
わっており、2日目のセッションでも引き続き議論されることとなった。

2日目のセッションでは、最初に本拠点若手研究者6名の研究成果発表が行われた。
これらの発表については各10分と大変短い時間であったが、発表者全員がデジタル
化やデータベース化された(あるいは発表者自身が資料のデジタル化を通した)資
源を通して従来の人文学研究ではなし得なかった、大量の史料や扱いの難しい対象
に対してアプローチした。今回発表された内容は研究として完成した部分以外にも、
今後の研究を拓く上で重要な課題が提起されており、今後一層の研究展開が期待さ
れる。本発表のほとんどは英語で行われ、アート・リサーチセンターで同時開催さ
れた若手研究者のポスター発表も英語であったことから、研究成果の国際発信が5年
間で定着したことが伺える。また、第2部の若手研究者によるパネルセッションでは
「モチーフの位置・アイディアの大衆化-江戸時代の浮世絵、工芸、芸能において
共有された視覚言語-」と題され、日本美術、デザイン、風俗、歴史地理などの視
点から視覚文化論の新たな可能性が模索された。タイトルや発表者の研究テーマか
らも明らかなように、学際的な協働研究がデジタル・ヒューマニティーズの大きな
特徴であるが、他方でそれを実現するには他分野への方法論や関心が重要であるこ
とも本パネルから改めてわかった。

続いて午後のセッションでは、「在外日本美術品のデジタル化-現状と未来-」と
題し、ジャパン・ソサエティー バイス・プレジデントのJoe Earle氏や、大英博物
館プロジェクト・キュレーターのAlfred Haft氏、さらには京都文化協会理事の田辺
幸次氏より、それぞれの活動について紹介があった。いずれの機関においてもデジ
タル技術を用いた先進的な試みが数多く実践され、その成果の一端についてはWebサ
イトを通じて知ることが可能である(例えば、大英博物館ではResearch Spaceとい
う活動の一環でSemantic Web Collection Onlineが展開)。後半のディスカッショ
ンでは、HUMI Projectに関わってこられた樫村雅章(慶應義塾大学)講師を加えて、
個別の小さなコレクションから大規模なコレクションへの拡張が可能か?という点
や、日本文化のdiaspora的状況(デジタル・アーカイブ化が進んだ結果、流出した
ゆえに多くの日本文化に関する資源が利用できるようになってきているのでは?)
をどのように捉えるかについて活発な意見がかわされた。

2日間を通じた最後のパネルセッションは、“Asia-Pacific centerNet Meeting”と
題され、Neil Fraistat(メリーランド大学)教授と、Jieh Hsiang(国立台湾大学)
特聘教授からの講演から始まった。まず、Fraistat教授はcenterNetに関する紹介や、
そのイニシアチブを総括した。またHsiang教授から、Asia-Pacificに存在するDH拠
点の研究動向を総括する報告がなされた。これらの報告を受けたディスカッション
には、本拠点の八村広三郎・稲葉光行教授も参加し、研究を続けていくための組織
的・資金的持続性に関する問題や、デジタル・ヒューマニティーズの各国における
研究上の位置づけをめぐる議論、さらには日本におけるDH研究の経緯(例えば、日
本ではテキスト研究よりも「人文科学とコンピュータ研究会」を中心に、当初マル
チメディア研究が先行していたことなど)を基に活発な議論が展開された。

以上のように本シンポジウムには、海外からの多数の発表者・出席者をあわせ延べ
約140名の出席者を数えた。多くの先進的な研究発表に加えて、研究の継続性や人文
学研究における位置づけなど根本問題に関わる議論も活発に交わされ、研究成果を
世に発信する機会のみならずその本質論にも迫る機会となった。今回提起された議
論は、特に日本では端緒についたといった状況であり、実践的かつ先端的な研究成
果を蓄積しつつ、デジタル・ヒューマニティーズを一つの学問分野としてどのよう
に成長させるかについて、今後とも関係する多くの機関との協働の中で議論される
ことが望まれる。また、今回多くの国から参集頂いた海外で活躍されている皆さん
との交流も継続されることが期待されよう。

※本イベントのまとめとして、Twitterのハッシュタグ機能を用いたまとめサイト
(Togetter)に、山口欧志氏(@H_Y77)がまとめてくださっている。
http://togetter.com/li/216655 および、 http://togetter.com/li/216651 。ま
た、講演者としてご参加頂いたGeoffery Rockwell教授も自身のWebページ上で解説
されている。 http://www.philosophi.ca/pmwiki.php/Main/DH-JAC2011 こちらも
あわせて参照されたい。

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