ISSN 2189-1621

 

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DHM 068 【後編】

2011-08-27創刊                       ISSN 2189-1621

人文情報学月報
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄Digital Humanities Monthly

             2017-03-31発行 No.068 第68号【後編】 660部発行

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 ◇ 目次 ◇
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【前編】
◇《巻頭言》「文理融合とは何か」
 (堤智昭:東京電機大学情報環境学部助教)

◇《連載》「Digital Japanese Studies寸見」第24回
「大阪市立図書館デジタルアーカイブで権利の切れた画像資料が
オープンデータ化される」
 (岡田一祐:東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)

【後編】

◇人文情報学イベントカレンダー

◇関連図書レビュー
“Shakespeare and the Digital World: Redefining Scholarship and Practice”
(Christie Carson and Peter Kirwan, ed., Cambridge University Press, 2014)
(北村紗衣:武蔵大学人文学部)

◇イベントレポート
講演会“Encoding Sanskrit s'a_stra: The TEI for Indic Scientific Treatises”
 (鈴木洋平:東京大学大学院)

◇編集後記

◇奥付

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【人文情報学/Digital Humanitiesに関する様々な話題をお届けします。】
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◇人文情報学イベントカレンダー(□:新規掲載イベント)

【2017年4月】

■2017-04-15(Sat):
デジタルアーカイブ学会設立総会
(於・東京都/東京大学 本郷キャンパス)
http://dnp-da.jp/events-and-news/

【2017年5月】

□2017-05-13(Sat):
情報処理学会人文科学とコンピュータ研究会第114回研究発表会
(於・京都府/龍谷大学アバンティ響都ホール)
http://jinmoncom.jp/index.php?CH114

□2017-05-27(Sat)~2017-05-28(Sun):
情報知識学会 第25回(2017年度)年次大会
(於・京都府/同志社大学今出川キャンパス)
http://www.jsik.jp/?2017cfp

【2017年6月】

□2017-06-05(Mon)~2017-06-09(Fri):
2017 IIIF Conference in Vatican
(於・バチカン市国/Institutum Patristicum Augustinianum)
http://iiif.io/event/2017/vatican/

□2017-06-10(Sat)~2017-06-11(Sun):
2017年度アート・ドキュメンテーション学会年次大会
(於・東京都/東京工業大学大岡山キャンパス)
http://d.hatena.ne.jp/JADS/20161220/1482225138

Digital Humanities Events カレンダー共同編集人
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小林雄一郎(東洋大学社会学部)
瀬戸寿一(東京大学空間情報科学研究センター)
佐藤 翔(同志社大学教育文化学科 助教)
永崎研宣(一般財団法人人文情報学研究所)

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◇関連図書レビュー
“Shakespeare and the Digital World: Redefining Scholarship and Practice”
(Christie Carson and Peter Kirwan, ed., Cambridge University Press, 2014)
 (北村紗衣:武蔵大学人文学部)

 人文学におけるデジタル技術研究の進展はめざましいものがあり、シェイクスピ
ア研究においてもその注目度は高い。本書は幅広い意味でのシェイクスピアとデジ
タルをテーマに17本の論考を収録した論文集である。第1部はデジタル時代における
シェイクスピア研究、第2部はデジタル時代におけるシェイクスピア教育、第3部は
学術的成果の刊行と研究者のアイデンティティ、第4部はコミュニケーションとパフ
ォーマンスをテーマとしている。

 本書でまず問題となるのは、クリスティ・カーソンとピーター・カーワンによる
序論でも指摘されているように「シェイクスピア」とは何で、「デジタル」とは何
か、ということである(p. 1)。本書においてはシェイクスピア研究を広くとら
えており、初期近代ヨーロッパ文学から演劇研究まで、さまざまな視点による論考
が収録されている。たとえば、本書における最もユーモアに富んだ論考と言えるで
あろう、ブルース・E・スミスの‘Getting Back to the Library, Getting back
to the Body’(pp. 24-32)は、スミスがパサデナのハンティントン図書館にオン
ラインで入手できなかった刊本を見に行ったところ、しばらくウェブばかり用いて
いて図書館閲覧室を訪問していなかったため入館証が失効しており、大変なショッ
クを受けたというところから始まって、実際に物理的な実在体としての刊本を目の
前で見ることとオンラインで文献を見る経験の違いなどに思いをめぐらせていく論
考であるが、ここでスミスがハンティントン図書館で見ようとした文献はシェイク
スピアではなく、ユリウス・カエサル・スカリゲルの『詩学』である。初期近代ヨ
ーロッパの文書がどんどん電子化されている中、著名な学者であるスカリゲルの著
作がオンラインで見つからないということ自体がそもそもショッキングとも言える
一方、なんでもオンラインで調達できる我々シェイクスピアリアンはいささか研究
環境の上で甘やかされているのではとも思えてくる論考である。

 「デジタル」はさらに定義が難しい。本書においては「デジタル」をコンピュー
タを用いたデータ利用や通信一般であると定義し、文書の電子化からブログやソー
シャルメディアの利用まで、さまざまなテーマを扱っている。例えば編者のひとり
であるピーター・カーワンは‘“From the Table of My Memory”: Blogging
Shakespeare in/out of the Classroom’(pp. 100-112)において、初期近代にヨ
ーロッパの人々が備忘録としてあらゆることを書き込んでいたコモンプレイスブッ
クと現代のブログの共通性に留意しつつ、教育においてブログやツイッターといっ
たウェブメディアをどう使うかについて実際に自分が行っている実践方法を含めて
考察しており、大学でシェイクスピアを教えている教員にとっては興味深いもので
あろう。一方で‘The Impact of New Forms of Public Performance’(pp.
212-225)を寄稿したスティーヴン・パーセルはパフォーマンス研究の立場から、新
しい技術を使用したさまざま様々なシェイクスピア上演をライヴ性(liveness)と
デジタルを軸に考察しており、ベルギー生まれのイヴォ・ヴァン・ホーヴェが演出
し、映像などを多数使用しつつ観客の参加を促す『ローマ悲劇集』(Roman
Tragedies、2007)から、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーとマドラーク・プ
ロダクション・カンパニーがツイッターのみを使用して上演した現代版『ロミオと
ジュリエット』の翻案であるSuch Tweet Sorrow(2010)まで、さまざまなプロダク
ションをとりあげている。舞台上演とデジタル技術のかかわりはシェイクスピアを
含めた舞台芸術研究で現在非常に注目されているトピックであり、こうした論考は
タイムリーなものであると言えるであろう。

 全体としては幅広い分野をカバーしており、シェイクスピア研究者にとっては教
育から上演分析までさまざまなヒントを得ることができる書籍になっている。編者
たちは序論において、共著を書くよりも論文集を編纂することで「豊富な経験」
(p. 3)を読者に提供したかったと述べているが、この狙いはある程度成功してい
ると言ってよい。一方で一本一本の論考がやや短く、もう少し長く深い議論を読み
たいと思うようなところも多数あり、ここは欠点と言えるであろう。

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◇イベントレポート
講演会“Encoding Sanskrit s'a_stra: The TEI for Indic Scientific
Treatises”
 (鈴木洋平:東京大学大学院)

 去る2017年2月18日、東京大学文学部にてパトリック・マカリスター博士の講演会
が開かれ、サンスクリット語学術書(s'a_stra)のエンコーディングに関して講じ
られた。XMLによるマークアップ手法として人文学で幅広く用いられているText
Encording Initiative(TEI)に準拠したサンスクリット語を始めとするインド諸語
のデータベースとしてSearch and Retrieval of Indic Texts(SARIT)がある。マ
カリスター博士はそのプラットフォームの開発などで中心的なディベロッパーとし
て活躍してこられ、SARITの要点がサンスクリット語の言語的特徴に基づいて紹介さ
れた。

 まず、SARITの機能と特徴に関して概説された。SARITの機能は大きく三つに分け
られる。第一に検索と閲覧機能、第二にライブラリ及びリポジトリ、そして第三に
他のウェブアプリケーションによる拡張性である。これらそれぞれの用途に応じて、
http://sarit.indology.info/exist/apps/sarit/works/
https://github.com/sarithttp://tinyurl.com/sar-pm (いずれも2017年3月
25日閲覧)が用意されている。また、SARITの目的は信頼性、テクスト間の構造の共
通性、拡張性、TEIをサンスクリット語テクストに適用できるような示唆、明確なコ
ピーライト、そしてオープンソースのツールチェーンの提供にある。

 上記の目的の第四点目、すなわちTEIのサンスクリット語、特に学術書への対応に
関して課題と解決策が詳細に論じられた。サンスクリット語学術書の特徴として、
古いテクストへの注釈として議論を進める独自のスタイル(bha_s.ya style)と名
詞構文、作者によって設定された架空の登場人物による人工的な会話、そして他作
品からの引用の頻繁さという4点が挙げられ、これらを踏まえたマークアップの必要
性が説かれた。また、原文の階層構造については、章、セクションなどには
でのタグ付け、インデントやテクストのブロックにはでのタグ付けによって、
テクストの構造化とカテゴライズが出来るとした。

 次に、サンスクリット語全体に関わる問題として、連声(sandhi)が取り上げら
れた。サンスクリット語では語と語の間で発音上の結合(母音間をも含むアンシェ
ヌマン)が発生した際に、その発生した結果が表記される。例えば、jn~a_na itiは
一つ目の語末音aと次の語頭音iが結合してeと発音されるが、写本や刊本上の表記も
jn~a_netiとなる。この場合にそれぞれの語を示しながら、刊本の表記も反映しなけ
ればならない。そこで、次のようなマークアップが有用である。

jn~a_neti

これによって、辞書見出し語をアテストしながら、ビューワーでは連声の結果が表
示可能である。

 最後に韻文の区切りに関して提案がなされた。サンスクリット語の韻文は基本的
に2行からなるが、各行が2つの節(pa_da)からなっている。この節の間に
タグを挿入することで節の句切れをマークアップしつつ、節間で連声が
起きている場合や単語が節を跨いでいる場合にも対処できる。

 以上のように、TEIに準拠しつつサンスクリット語特有の問題へ施されるべき対応
策が具体例を交えつつ説明された。いずれも筆者にとっても悩まされてきた問題で
あり、特に連声はサンスクリットの表記において広く課題となっていた箇所である。
或いは韻文のマークアップについても、行と節という複層的な構造を把握しながら
サンスクリット語の文法や正書法に則っている点などに意義を感じた。また、アク
セシビリティや拡張性という基本的役割に関してもSARITの他のサンスクリット語文
献データベースに対する優位性を確認できた。データベースとして、また研究者コ
ミュニティとしての将来性が期待されよう。

 一方で、サンスクリット語最大の問題点とも言えるであろう複合語のマークアッ
プや写本に存在する多様な文字種など、今後更なる議論が重ねられるべき箇所は少
なくないだろう。東アジア諸語に関しては近年TEIの内部でマークアップ手法の検討
がなされつつある( http://www.tei-c.org/Activities/SIG/EastAsian/ )が、同
様の場が南アジア諸語に関してももたらされることが望まれているものと考えられ
る。

 様々な課題に直面しているという事実を認識したものの、改めてSARITの実例を通
してTEIの潜在的な応用性と可能性を実感し、その普及や更なる発展がインド学を初
めとする文献学、延いては人文科学の将来的な展開に計り知れない力を持ちうるこ
とが明確に示された講演であるように強く思われた。

[編集部注]本文中のサンスクリット語は以下のとおり変換しています。
アセントつきs=s'
aの上部に-=a_
sの下部に.=s.

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 配信の解除・送信先の変更は、
    http://www.mag2.com/m/0001316391.html
                        からどうぞ。

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◆編集後記(編集室:ふじたまさえ)
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 今月の人文情報学月報は、いかがでしたか?巻頭言からイベントレポートまで、
それぞれの立場からの論考や視点がとてもバラエティに富んだ内容だったと思いま
す。ご寄稿いただいた皆さま、ありがとうございます!

 特に巻頭言でご指摘のあった、新しい分野についての発表の場が増えることが重
要とのご指摘については、このメールマガジンも一つの発表の場として捉えていた
だき、大いにご活用いただけたら嬉しいです。

 また、岡田さんの連載でご紹介いただいた件については、このメルマガの読者だ
けでなく、デジタルアーカイブを公開しているすべての文化機関に読んでいただき
たい内容だと思います。行政の一機関として、広く社会に貢献できるチャンスだと
考えます。

 後編の関連図書レビュー、イベントレポートはいずれも専門分野の幅広さを感じ
る内容でした。ぜひ今後もさまざまな立場からの寄稿をお待ちしています!

次号もお楽しみに。

◆人文情報学月報編集室では、国内外を問わず各分野からの情報提供をお待ちして
います。
情報提供は人文情報学編集グループまで...
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人文情報学月報 [DHM068]【後編】 2017年03月31日(月刊)
【発行者】"人文情報学月報"編集室
【編集者】人文情報学研究所&ACADEMIC RESOURCE GUIDE(ARG)
【 ISSN 】2189-1621
【E-mail】DigitalHumanitiesMonthly[&]googlegroups.com
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【サイト】 http://www.dhii.jp/

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