ISSN 2189-1621

 

現在地

DHM 022 【後編】

2011-08-27創刊

人文情報学月報
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄Digital Humanities Monthly

             2013-05-31発行 No.022 第22号【後編】 357部発行

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 ◇ 目次 ◇
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【前編】
◇《巻頭言》「利用者指向のその先へ~深い専門性と広い視野」
 (松村敦:筑波大学図書館情報メディア系)

◇《連載》「Digital Humanities/Digital Historyの動向
      ~2013年4月中旬から5月中旬まで~」
 (菊池信彦:国立国会図書館関西館)

【後編】
◇人文情報学イベントカレンダー

◇イベントレポート(1)
応用哲学会第5回年次研究大会におけるデジタル・ヒューマニティーズ
 (大谷卓史:吉備国際大学)

◇イベントレポート(2)
京都大学地域研究統合情報センターワークショップ「世界のエスキス」
 (谷川竜一:京都大学地域研究統合情報センター)

◇イベントレポート(3)
第98回人文科学とコンピュータ研究会発表会
 (山田太造:東京大学史料編纂所)

◇編集後記

◇奥付

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【人文情報学/Digital Humanitiesに関する様々な話題をお届けします。】
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◇人文情報学イベントカレンダー(■:新規イベント)

【2013年6月】
□2013-06-03(Mon)~2013-06-05(Wed):
2013 Annual Meeting of the Canadian Society For Digital Humanities
(於・カナダ/University of Victoria)
http://csdh-schn.org/2012/11/16/cfp2013/

□2013-06-04(Tue)~2013-06-07(Fri):
5th International Conference on Qualitative and Quantitative Methods in
Libraries
(於・イタリア/"La Sapienza" University)
http://www.isast.org/qqml2013.html

□2013-06-06(Thu)~2013-06-10(Mon):
Digital Humanities Summer Institute 2013
(於・カナダ/University of Victoria)
http://dhsi.org/

□2013-06-13(Thu)~2013-06-14(Fri):
17th International Conference on Electronic Publishing
(於・スウェーデン/Blekinge Institute of Technology)
http://www.bth.se/elpub2013

□2013-06-26(Wed)~2013-06-29(Sat):
Digital Humanities Summer School Switzerland 2013
(於・スイス/University of Bern)
http://www.dhsummerschool.ch/

□2013-06-29(Sat):
情報メディア学会 第12回 研究大会「ビッグデータ時代の図書館の役割
-データのカストディアンは誰か」
(於・神奈川県/鶴見大学)
http://www.jsims.jp/kenkyu-taikai/yokoku/12.html

【2013年7月】
□2013-07-08(Mon)~2013-07-12(Fri):
Digital.Humanities@Oxford Summer School
(於・英国/Oxford University)
http://digital.humanities.ox.ac.uk/dhoxss/

□2013-07-10(Mon)~2013-07-12(Fri):
The 5th International Conference on Asia-Pacific Library and Information
Education and Practice
(於・タイ/Khon Kaen University)
http://www.aliep2013.com/

□2013-07-16(Tue)~2013-07-19(Fri):
Digital Humanities 2013
(於・米国/University of Nebraska)
http://dh2013.unl.edu/

【2013年8月】
■2013-08-03(Sat):
人文科学とコンピュータ研究会 第99回研究発表会
(於・東京都/筑波大学 東京キャンパス文京校舎)
http://www.jinmoncom.jp/

□2013-08-04(Sun)~2013-08-09(Fri):
IGU 2013 Kyoto Regional Conference
(於・京都府/国立京都国際開館)
http://oguchaylab.csis.u-tokyo.ac.jp/IGU2013/jp/

□2013-08-06(Tue)~2013-08-09(Fri):
Balisage: The Markup Conference 2013
(於・カナダ/Montre'al)
http://www.balisage.net/

□2013-08-15(Thu):
IFLA 2013 Satellite Meeting "Workshop on Global Collaboration of
Information Schools"
(於・シンガポール/Nanyang Technological University)
http://conference.ifla.org/ifla79/satellite-meetings

■2013-08-19(Mon)~2013-08-23(Fri):
2013 DARIAH-DE International Digital Humanities Summer School
(於・ドイツ/Go"ttingen)
http://www.gcdh.de/en/events/calendar-view/2013-dariah-de-international-...

【2013年9月】
■2013-09-02(Mon)~2013-09-05(Thu):
10th International Conference on Preservation of Digital Objects
(於・ポルトガル/Lisbon)
http://ipres2013.ist.utl.pt/

■2013-09-05(Thu)~2013-09-08(Sun):
3rd International Conference on Integrated Information, IC-ININFO
(於・チェコ共和国/Prague)
http://www.icininfo.net/

■2013-09-06Fri)~2013-09-08(Sun):
State Of The Map 2013(SotM2013)
(於・英国/Birmingham)
http://wiki.openstreetmap.org/wiki/State_Of_The_Map_2013

■2013-09-10(Tue)~2013-09-13(Fri):
13th ACM Symposium on Document Engineering
(於・イタリア/Florence)
http://www.doceng2013.org/

■2013-09-16(Mon)~2013-09-18(Thu):
The International Conference on Culture and Computing(Culture and
Computing 2013)
(於・京都府/立命館大学 朱雀キャンパス)
http://www.media.ritsumei.ac.jp/culture2013/

■2013-09-17(Tue)~2013-09-21(Sun):
FOSS4G 2013
(於・英国/Nottingham)
http://2013.foss4g.org/

■2013-09-19(Thu)~2013-09-21(Sun):
JADH2013@Kyoto
(於・京都府/立命館大学)
http://www.jadh.org/JADH2013

■2013-09-24(Tue)~2013-09-26(Thu):
International Conference on Information and Social Science(ISS 2013)
(於・愛知県/ANAクラウンプラザホテルグランコート名古屋)
http://ibac-conference.org/iss2013/

■2013-09-28(Sat)~2013-09-30(Mon):
日本地理学会 2013年 秋季学術大会
(於・福島県/福島大学)
http://www.ajg.or.jp/ajg/2013/05/20132-2.html

Digital Humanities Events カレンダー共同編集人
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小林雄一郎(日本学術振興会特別研究員PD)
瀬戸寿一(立命館大学衣笠総合研究機構専門研究員)
佐藤 翔(同志社大学教育文化学科 助教)
永崎研宣(一般財団法人人文情報学研究所)

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◇イベントレポート(1)
応用哲学会第5回年次研究大会におけるデジタル・ヒューマニティーズ
https://sites.google.com/site/jacapweb/home/annual_conf_5
 (大谷卓史:吉備国際大学)

 応用哲学会第5回年次研究大会におけるデジタル・ヒューマニティーズ関連のセッ
ションに参加したので、報告する。

 応用哲学会第5回年次研究大会は、南山大学で2013年4月20日(土)~21日(日)
の2日間開催された。この大会におけるデジタル・ヒューマニティーズ関連のセッシ
ョンは、次の2つである。

(1)発表:吉田幸司・目黒広和・古屋政紀「情報技術の発展と哲学のゆくえ」
(2)ワークショップ:久木田水生・永崎研宣・志田泰盛・林晋・大浦真「デジタル・
ヒューマニティーズの現在」

 (1)の発表は、筆者が司会を務めた。発表者は、「-哲学・思想・科学のポータ
ルサイト-」哲学舎( http://www.tetsugakusha.net/index.php )のスタッフであ
る。発表は、同サイトの運用経験と今後の展開の見通しの説明が中心であった。

 同サイトは、哲学関連の研究会における著名研究者の講演の動画・音声配信や、
哲学史を年表と地図の形式で解説する「哲学年表」、哲学の入門書の紹介などが主
要なコンテンツである。

 このようなサイトを立ち上げた背景には、哲学や関連分野を横断してさまざまな
研究者や愛好家を結ぶサービスが存在しないという、スタッフたちの認識があった。
とくに、哲学関連の博士課程で学んだとしても、アカデミズムの外に一度出てしま
うと、研究の最新情報と接触することができないなどの問題があるので、このよう
なサイトを構築することで、国内外の研究者だけでなく研究者を一時的にでも断念
し社会で働きながら哲学や関連分野に関心を持つ人びとを結びつけることができる
と、期待しているとのことだった。

 実際、同サイトのスタッフは、哲学および関連分野のポスドクや大学院博士課程
を修了し、アカデミズム以外に職を得た人びとが主だとのことである。

 今後の構想としては、哲学を含む人文学文献の検索や情報提供サービスに加えて、
哲学・関連分野の人々が参加できるSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)
などの参加者が情報を発信し、相互に交流できるサービスを追加していきたいとの
ことであった。

 会場からは、事業の継続可能性への関心を有するべきという助言と、哲学の未来、
もしくは現代的な哲学のあり方とこのサイトがどのように関連するかが見えないと
の指摘があった。

 事業の継続可能性に関しては、同サイトを研究プロジェクトとして位置づけ、外
部資金を導入することを考えるべきとの提案的助言があった。そのためには、従来
の人文学文献検索サービスやその他研究者交流サービス(ReaD & Researchmapなど)
との差別化が必要であるとの指摘があった。

 現在のところ、同サイトはスタッフがボランティアで運用しているが、今後機能
を拡大していくことを考えると、継続的・持続的な運用が可能となる資金基盤が確
かに重要であるように思われる。広告のさらなる活用や、研究資金など公的資金の
導入などを考慮すべきだろう。

 次に、哲学の未来、もしくは現代的な哲学のあり方と同サイトがどのように関係
するか、発表からでは不明であるとの指摘も、うなずけるものであった。おそらく
スタッフたちの胸のうちには哲学や関連分野に貢献したいとの強い思いがあると考
えられるので、現代の哲学のあり方について、同サイトがどのように貢献できるか、
より明示的に示せるとよいように思われる。

 いずれにせよ、若い世代の大胆かつ細心の挑戦を応援したい。

 (2)のワークショップは、デジタル・ヒューマニティーズの国内外の研究状況の
概観と、国内での研究の事例を紹介することを目的とするものである。

 第一の発表は、永崎研宣「デジタル媒体を軸とする人文学研究に向けて:近年の
デジタル・ヒューマニティーズの動向」であった。この発表では、デジタル・ヒュ
ーマニティーズ研究の歴史を振り返るとともに、現代の研究動向を紹介した。

 歴史的には、SGMLもしくはXMLをベースとするTEI(Text Encoding Initiative)
によって、一次資料を含む文書構造を記述する枠組みと方法が整ったということが、
デジタル・ヒューマニティーズの研究実践のためには重要であった点が再確認され
た(ただし、日本語文献におけるTEIによる文書構造記述のためのDTD開発などは遅
れているとのことであった)。

 また、現代のデジタル・ヒューマニティーズ研究の動向としては、インターネッ
トを媒介とする集合知の活用事例が紹介された。University College Londonによる
Benthamの一次文献の翻刻・出版プロジェクトであるBentham Project
http://www.ucl.ac.uk/Bentham-Project )が、それである。同プロジェクトで
は、スキャニングしたBenthamの手稿データをオンラインでアップロードし、インタ
ーネット経由で登録した多くの人びとがそのデータを見て翻刻を行うことを可能と
している。このプロジェクトの翻刻には、哲学などの分野でアカデミックなトレー
ニングを受けながら、諸事情からアカデミズムを離れた人々も参加している。精度
の高い校正を経たデータを紙で出版するほか、生データに近い翻刻をオンラインで
公開もしている。インターネットによる集合知活用の一例としても興味深いもので
ある。

 第二の発表は、志田泰盛「インド古典哲学文献写本の系統分析の可能性」。この
発表では、コンピュータを活用する、サンスクリット文献の撮影(スキャニング)
および翻刻、校訂などのプロセスについて、実際の画像を交えながら報告が行われ
た。電子化されたコーパス中の並行箇所を検索することで、一次文献における筆写
上の誤りの推定や、筆写上の誤りをもとに文字列を読解し翻刻するなどの方法があ
ることが紹介された。また、最終的には、デジタル化したコーパスを利用して、ソ
フトウェアによる自動的な写本間の系統推定を行うことを目指しているものの、現
段階ではまだ困難があることが示された。

 最後の発表は、久木田水生・林晋・大浦真「SMART-GS 史料研究のためのソフトウ
ェアツール」。この発表では、京都大学大学院文学研究科情報・史料専修の林晋教
授を中心として開発・応用されてきたSMART-GSの概要とその応用例について、紹介
が行われた。SMART-GSは、手稿などの一次文献をデジタル化して取り込むと、その
手書き文字を画像のまま検索でき、翻刻や読解、分析に役立てることができる。ま
た、研究メモなどを追加することもできる。同ソフトウェアは、林教授がヒルベル
トの手稿を読解するために開発したもので、現在は、京都学派の田辺元の手稿類の
翻刻や分析に主に活用している。

 Bentham Projectの例を受けて、SMART-GSにおいても、集合知の活用が行われてい
ると、林教授らのグループは報告している。林教授らは、デジタル化した一次文献
を教室・演習室の壁に投影し、さまざまな分野の背景知識を有する研究者・学生が
同時に閲覧することで、翻刻を実施する研究方法を確立している。林教授らは、こ
れを共同翻刻と呼ぶ。

 デジタル・ヒューマニティーズにおいては、人間の知識と能力とコンピュータ
(ソフトウェア)の能力をどのように組み合わせて活用するかが重要であることが、
(2)のワークショップでは強く感じられた。人間の知識を活用するに当たっては、
オンラインもしくは対面での集合知の活用が有効であろうことが示唆された。

 今回2つのセッションに参加した経験から、人文学研究全体においては、情報技術
活用の方向性がかなり見えてきたようである。20世紀末においては、千葉大学など
の研究グループの提唱による印刷された文献をもととしたテキストデータベースの
活用による新しい文献解釈・読解が大きな潮流となったが、21世紀初頭に入り、一
次文献の翻刻・読解などの領域にまで、情報技術の活用が広がったことは非常に印
象深い。とくに、(2)のセッションから明らかになったように、一次文献の翻刻に
おけるインターネット経由もしくは対面による共同研究の可能性が広がっているこ
とは重要であろう。

 ただし、(1)のセッションでの批判にあったように、哲学分野などの個別の領域
に応用を限定した場合、その分野において特有の情報技術の活用法がありえるのか、
また、その分野の課題解決や新しい研究手法の開発に応用できるのかは、今後さら
に各分野において試行錯誤を続ける必要がありそうだ。この試行錯誤には、各分野
において研究とは何かを改めて問い直すなどの作業が伴うものとなるかもしれない。

Copyright(C)OOTANI, Takushi 2013- All Rights Reserved.
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◇イベントレポート(2)
京都大学地域研究統合情報センターワークショップ「世界のエスキス」
http://www.cias.kyoto-u.ac.jp/event/?p=1254
 (谷川竜一:京都大学地域研究統合情報センター)

 2013年4月27日土曜日、京都大学地域研究統合情報センター(以下、地域研)は、
研究発表ワークショップ「世界のエスキス」を開催した。

 エスキスという言葉は、多くの方々にとって耳慣れない言葉かもしれない。この
言葉は建築分野では、計画案を与条件の変化や現状に対応させながら、練り直して
いく作業そのものを指す。設計図や企画案を、何人もの人々で議論し、修正・刷新
し、実際の場所の状況に合うようにもっていく、そしてその知見を再びフィードバ
ックする……そんな営為のくり返しがエスキスなのだ。そうだとすれば、地域の現
場と学問の現場の往還を通して、地域像を練り上げていく地域研究者たちの姿勢は、
まさしくエスキスである。

 本ワークショップでは、地域研究者たちの分析手法や思考の構築作業をエスキス
という観点で捉え、そこから描き出される地域像を持ち寄った。具体的には、地域
研の柳澤、谷川、山本、福田、村上の5人が発表を行い、それぞれ地図や建築、映画
や体操、モニュメント彫刻などを対象にして、形態の読解とそこから浮かび上がる
地域像を提示した。

 中でも、村上勇介氏による発表「パチャママの涙と夢:ペルー社会の亀裂克服の
試み」は今回のワークショップの趣旨に最も合致したものであったといってよい。
村上報告では、ペルーにある一つのモニュメント彫刻を対象に、背景となる現代史
や社会的な事件、それに附随する記憶の分析がなされた。そして、このモニュメン
トをペルー社会の「涙」として読み解きつつも、それが新しい社会の創造の過程に
ある、いわば未来への「夢」として位置づけられるという建設的な結論を導き出し
ている。

 地域研究としてある社会の現状を分析し、批判することはたやすい。それは形態
を対象にしても同様だろう。しかしながら、あらゆる世の中の形態は単純に生み出
されたものではなく、どの形態も、試行錯誤や何らかの思惑が重なり合って形作ら
れたものである。それを読み解いた上で、批判にとどまることなく、そこから積極
的に評価できる点を見出し、建設的な未来の地域像を描こうとする態度こそ、地域
研究者に求められていることではないだろうか。その点で、村上報告は、背後にあ
る膨大な地域社会の情報と照らし合わせながら、一つのモニュメントの形態の読み
解きを通して、現在だけではなく未来の地域像を描き出そうとした点で、大変興味
深いものだったと私は考えている。

 このような各発表に対して、コメンテーターであるドイツ現代史研究者の川喜田
敦子氏より、形態を現実の象徴と見なして読み解くことは、形態を絶えず変わりゆ
く実態のデフォルメとして読み解くことに他ならず、時に実態を固定的なものとし
て理解しかねない二面性をはらんでいることが示唆された。次に、同じくコメンテ
ーターのランドスケープ・デザイナー・石川初氏からは、その二面性がゆえに、自
分の考えを他人の目で読み直す機会の必要性が、氏の具体的な経験を元にして示さ
れた。固定的になりがちな形態のアイデアやイメージを、バトンを渡すように異な
るものへと変化させるための動的な理解と創造の場が、エスキスであるというわけ
である。

 最後のコメンテーターである映画監督の深田晃司氏は、今回の各議論が一つの主
観と主観のパッチワークであり、ズレを補正しながら、皆で世界観を変容させてい
く作業だったと位置づけた。フィルムを繋ぎながら創造を行う、まさしく映画監督
ならではの言葉だろう。これらのコメントを通してエスキスという言葉がわかりや
すく定義されたと同時に、その後のディスカッションの方向性が整理され、充実し
たことは言うまでもない。

 今回提示されたそれぞれの形態に対する読み解きの手法は、これまでは専門毎の
名人芸として、ブラックボックスとなってきたことは否めない。それをわかりやす
く開示し、形態の読み解きとその知見の共有を目指したことは、主に文字情報を蓄
積してきた地域研にとって大きな挑戦であった。そしてこうした読み解きに加え、
そこから導き出された地域像を提示し、さらに未来像までをも描こうとした本研究
発表は、まさしくエスキスというタイトルにふさわしいものだったと考えている。

 新しい挑戦を重ねながら地域研究をブラッシュアップすると同時に、異分野間で
積極的に未来を議論する、そんな場所が地域研ワークショップである。

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◇イベントレポート(3)
第98回人文科学とコンピュータ研究会発表会
http://www.jinmoncom.jp/
 (山田太造:東京大学史料編纂所)

 2013年5月11日、大谷大学本部キャンパスにおいて、第98回人文科学とコンピュー
タ研究会発表会(以下、CH98)が開催された。本年度も人文科学とコンピュータ研
究会(以下、CH研究会)は年4回の研究発表会と1回のシンポジウムを開催する予定
である。今年度第1回目であるCH98では、一般セッションに加え、ここ数年おなじみ
である学生発表者による学生セッション、さらに開催校である大谷大学による特別
セッションも設けられた。会場である大谷大学本部キャンパスは京都駅から6、7km
程度離れているが、京都市営地下鉄烏丸線北大路駅すぐそばであるため、京都市内
にある大学において有数のアクセスのしやすさであろう。

 参加者数は、大谷大学関係者が多く参加されたこともあり、50名を超えた。毎年
春に行われるCH研究会においては盛況だったといえよう。

 CH98のプログラムは次のとおりである。

○学生ポスターセッション
(1)映像・画像資料アーカイブ連携・時空間処理システム
  戸根嘉元(龍谷大学)、岡田至弘(龍谷大学)
(2)絵巻の構造化記述による“絵解き”デジタルアーカイブの構築
  今村成昭(龍谷大学)、岡田至弘(龍谷大学)
(3)スマートフォンを用いた「景観文字」調査支援システムの試作
  佐村拓哉(岐阜工業高等専門学校)、田島孝治(岐阜工業高等専門学校)
(4)井原西鶴の『万の文反古』の文体分析
  上阪彩香(同志社大学)、村上征勝(同志社大学)

○一般セッション
(5)理念型モデル化分析法の実装と運用における技術的問題の整理
  藤本悠(奈良大学)
(6)論理構造と物理構造が混在するテキストのXMLによるマークアップに関する考

  高橋晃一(東京大学)
(7)人文学においてデジタル技術はどう活用されてきたか:CH研究会研究報告を手
がかりとして
  永崎研宣(人文情報学研究所)

○特別セッション
「タブレット型PCの人文科学への応用」(大谷大学)
(a)タブレットPCの人文情報学学部教育への応用
  池田佳和(大谷大学)
(b)iPadによる情報教育の電子教科書の評価
  高橋真(大谷大学)、生田敦司(大谷大学・龍谷大学)、山城稔暢(大谷大学・
  神戸山手大学)、柴田みゆき(大谷大学)
(c)タブレット型PCを利用した博物館ガイドシステムの検討
  平澤泰文(大谷大学・大阪電気通信大学)、松川節(大谷大学)、川田隆雄
  (同志社女子大学)、小南昌信(大阪電気通信大学)

 学生セッションの後に行われた一般セッションでは3件の報告があった。それぞれ、
地理情報システムの運用・時空間情報の扱い、サンスクリット語文献に対するTEI
P5に準拠したマークアップ、CH研究会における研究報告に関するデジタル技術の観
点によるサーベイであった。時空間情報はCH研究会の対象分野を広く横断し、TEI
P5のようにテキスト構造化はここ数年、じんもんこんシンポジウムも合わせ急速に
広がりつつある。今後もCH研究会において、もしくはCHやDH(Digital Humanities)
などの分野において重要な研究課題であると考えている。また、CH研究会の動向を
知る上で研究報告のサーベイは非常に重要な手がかりになりえ、さらに研究会とし
ての位置づけを明確にできる。それぞれ、今後の発展・続報を期待するものである。

 次に学生セッションについて述べる。4件の報告があり、今年度、学生セッション
はポスターによる発表とした。それぞれ、時空間情報を用いた史資料のデジタルア
ーカイブの閲覧方式、絵巻に関するデジタルアーカイブ構築、「景観文字」という
街路の看板などの文字の収集のためのシステム、国文学テキストの計量的観点によ
る文体分析であった。まず5分間の研究概要報告の後にポスター発表を行った。いず
れのポスターにも多くの人集りができ、活発かつ深い議論が展開されていた。これ
は若手研究者育成の点においても優れた方法だったと考えている。

 CH研究会では学生セッションを組んだ回において「人文科学とコンピュータ研究
会奨励賞」を設けており、CH研究会運営委員の投票により上阪氏がこれを受賞する
ことになった。

 一般セッションの後に大谷大学による特別セッション「タブレット型PCの人文科
学への応用」が行われた。3件の報告があり、いずれも大谷大学文学部人文情報学科・
博物館における実践利用における報告だった。タブレット型PCの利用について、ア
ンケート結果をもとにその効果・利便性を示したものであり、実践例として大変興
味深いものであった。惜しむらくは、時間の関係から質疑の時間がなかったことで
ある。

 以上がCH98の報告である。今回の研究会は参加者数も多く盛況だったが、残念な
点が2つある。1つはキャンセルが4件もあったことである。今回より論文提出が変わ
ったことも影響したためかもしれないが、大変残念なことである。もう1つは大谷大
学による特別セッションにおけるすべての報告がCH研究会としての報告として扱わ
れなかったことである。大谷大学のご尽力によりCD-ROMおよび冊子が配布されたが、
情報処理学会電子図書館にはこれら3件の研究報告は掲載されていない。

 このCH98から新主査・幹事体制で臨んだ。CH研究会を支えていただいている多く
の方々には引き続き本研究会の発展にご協力いただきたい。次回第99回人文科学と
コンピュータ研究会発表会(CH99)は筑波大学東京キャンパスで2013年8月3日に行
う予定である。ふるってご参加いただきたい。

Copyright(C)YAMADA, Taizo 2013- All Rights Reserved.
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 配信の解除・送信先の変更は、
    http://www.mag2.com/m/0001316391.html
                        からどうぞ。

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◆編集後記(編集室:ふじたまさえ)
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 第22号もたくさんの方にご寄稿いただき、ありがとうございました。

 今号では特に、イベントレポートで触れられている「エスキス」という言葉が新
鮮でした。建築の用語からきているとのことですが、研究者の皆さんが日々積み重
ねていくことそのものを指す言葉として、違和感なく受け止めて読むことができま
した。成果ばかりにとらわれず、その過程も重要であるということがひしひしと伝
わってきました。順番が前後してしまいますが、この点は巻頭言で松村さんが語っ
ていることにも通じていると思います。

 また、今回の連載の「プロジェクト・ツール・リソース」の動向の中で、国立国
会図書館の実験的サービスを提供する「NDLラボ(NDL Lab)」が紹介されています。
NDLラボでは、5月13日から情報通信白書や近代デジタルライブラリーからのデジタ
ルコンテンツが提供開始となりました。オープンデータ化されたデータを活用する
事例としても、今後の図書館サービスとしても動向が気になります。

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います。
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人文情報学月報 [DHM0022]【後編】 2013年05月31日(月刊)
【発行者】"人文情報学月報"編集室
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