ISSN 2189-1621

 

現在地

DHM 054 【後編】

2011-08-27創刊                       ISSN 2189-1621

人文情報学月報
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄Digital Humanities Monthly

             2016-01-31発行 No.054 第54号【後編】 614部発行

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 ◇ 目次 ◇
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

【前編】
◇《巻頭言》「古典籍活用の未来」
 (松田訓典:国文学研究資料館古典籍共同研究事業センター特任助教)

◇《連載》「Digital Japanese Studies寸見」第10回
「コレクション共有から拡がる展覧会、展覧会から拡がるコレクション共有
 -アムステルダム王立美術館でBreitner: Meisje in kimono展が開催」
 (岡田一祐:東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)

◇《特集》「海外DH特集-デジタル時代における人文学者の社会的責任」前編
 (横山説子:メリーランド大学英文学科博士課程)

【後編】
◇《特集》「海外DH特集-デジタル時代における人文学者の社会的責任」後編
 (横山説子:メリーランド大学英文学科博士課程)

◇人文情報学イベントカレンダー

◇イベントレポート(1)
「じんもんこん2015」参加報告
 (永崎研宣:人文情報学研究所)

◇イベントレポート(2)
国際シンポジウム「HathiTrustとデジタルアーカイブの未来」<前編>
 (永崎研宣:人文情報学研究所)

◇編集後記

◇奥付

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
【人文情報学/Digital Humanitiesに関する様々な話題をお届けします。】
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◇《特集》「海外DH特集-デジタル時代における人文学者の社会的責任」後編
 (横山説子:メリーランド大学英文学科博士課程)

●デジタル技術とブラックボックス社会

 Frank PasqualeはThe Black Box Society: The Secret Algorithms That
Control Money and Information(ブラックボックス社会-富と情報を支配する内密
アルゴリズム)において、いかにデジタル技術を介した日常の活動を通して、私た
ちが個人情報搾取の連鎖に取り込まれているかを指摘する。Pasqualeによれば、個
人情報は市場で売買され、時に不透明なアルゴリズムによって個人に不利益を生じ
させるという(アメリカの大手小売業Target社の消費動向データ分析に基づいて送
られたダイレクトメールが、妊娠を隠していた十代の娘の両親を驚かせた話や、ク
レジットヒストリーと呼ばれる個人の支払い履歴が、就職や住宅探しに影響を与え
る話は有名である)。Pasqualeはさらに、企業秘密主義に基づいた経済活動が、デ
ジタル技術全般の不透明さに拍車をかけると論じる。Pasqualeはデジタル技術の作
用に関心を払い、不当な搾取を注視する事を打開策の一つとして提唱する。“
[S]top being so careless about how technology creates reputations, and
start to rein in arbitrary, discriminatory, and unfair algorithms.” (57)
(技術がどのようにして評判を形成するか、ということについてあまりに不注意で
あることを止め、恣意的、差別的、そして不公平なアルゴリズムの抑制を始めよう)
。また、Lori Emersonは彼女の書籍Reading Writing Interfaces: From the
Digital to the Bookbound(文書の媒体を読み解く-デジタル媒体と紙媒体)の中
で、今日のデジタル技術はそのデザインが媒体の「不可視性」を重視する点を危惧
する。なぜなら、デジタル技術が日常生活に溶け込むことで、私たちが技術を疑問
視する機会が低減するからだとEmersonは指摘する。またEmersonは、宣伝文句がデ
ジタル技術をまるで魔法の様に扱うことで、私たちが一歩踏み込んでその仕組みを
探求するきっかけを隠す言語構造が出来上がっていると論じる。最新技術の魅力ば
かりが消費主義によって後押しされ、実際にデジタル技術の負の側面が考慮される
機会が見えづらいと言うのだ。果たして、初期のパーソナルコンピューター(例え
ばApple IIe)がハードディスクを開けて家庭で修理が可能であったり、そのプログ
ラミング機能が比較的安易であった事に対して、最新のMacデザインはそのようなや
りとりを拒むデザインへと以降した事を、一体どれほどの人が気にかけているであ
ろうか。ものづくり文化から消費文化への移行によって、どのような負の産物が生
まれているだろうか。iPhoneが頻繁にソフトウェアと機械のアップデートを強要す
る仕組みに対して、消費者は自らの判断で状況をコントロールできるであろうか。
何のために技術がつくられているか、そしてそれが私たちにどのような影響を与え
ているのか、健全な批評が日常に求められているように思われる。

●デジタル時代における人文学者の社会的責任

 もちろんPasqualeやEmersonが指摘する問題点に、「学問界のサイロ化を打開し学
外との対話図ること」に解決策を見いだそうとする意見は、McPhersonに限ったもの
ではない。Alan Liuもまた、彼の論文“Where Is Cultural Criticism in the
Digital Humanities?”(デジタル人文学にはどこに文化批評があるのか?)の中で、
デジタル人文学をより広域な人文学ネットワークの中に位置づける必要性を説いて
いる。なぜなら、Liu曰く人文学は現代社会が抱える道具主義に関わる「問題山積鉱
山」での、カナリヤの役割を担っているからだ。“[Humanities at large] are
just the canary in the mine for the problem that modern society has with
instrumentalism generally” (500).(人文学は全体として、道具主義が普及した
現代社会の問題に関する鉱山のカナリヤなのである)。「人文学を専攻して何の役
に立つのか」という問いは大学経費削減の後押しによく使われるし、科学技術能力
の取得に力を注ぐSTEM(Science, Technology, Engineering, and Mathematics科学・
技術・工学・数学)教育に人文学(Art)を加えてSTEAMにしようというキャンペー
ンは、なかなか説得力を欠くように思える。それは、人文学の価値の尺度が(例え
ば)工学や科学のそれと異なるからである。NowviskieとLiuが鉱山のレトリックを
共有していることは偶然であるが、デジタル技術を人文学者が取り扱う意義が、そ
の社会文化批評にあることは明白である。Liuは人文学者こそデジタル技術の考察を
通してさらに権力、経済、政治の動向を批評するべきだと説く。また、人文学者が
率先して道具主義を再考することで、科学と人文学の領域双方から狭義なサービス
主義を上回る、社会貢献の精神を養う土壌を造れるとLiuは説く。つまり時代の風潮
に流されデジタル技術を鵜呑みにするのでは無く、人文学者こそ経済的利益だけで
はない価値観に従事し推奨することを提案しているのだ。

  My conclusion-or, perhaps, just a hopeful guess-is that the
  appropriate, unique contribution that the digital humanities can make
  to cultural criticism at the present time is to use the tools,
  paradigms, and concepts of digital technologies to help rethink the
  idea of instrumentality. The goals, as I put it earlier, is to think “
  critically about metadata” (and everything else related to digital
  technologies) in a way that “scales into thinking critically about
  the power, finance, and other governance protocols of the world.”
  Phrased even more expansively, the goals is to rethink instrumentality
  so that it includes both humanistic and STEM fields in a culturally
  broad, and not just narrowly purposive, ideal of service. (501)(私の結
  論、あるいはただの希望的観測、は以下の通りである。デジタル人文学が現代
  の文化批評になし得る特有の貢献は、デジタル技術、そしてそのパラダイムと
  概念を用いて、道具主義の概念の再考を後押しすることである。ゴールは、先
  述のように、「世界の権力、財政、その他の国家統治法について批判的な考え
  が及ぶように、メタデータ(そして他のデジタル技術すべてについて)を捉え
  ることである」。より広い言い方をすれば、ゴールは、道具主義を再考するこ
  とで、科学と人文学の領域双方から、狭義なサービス主義を上回る社会貢献の
  精神を養うことにある)。

 Nowviskieもまた、Liuと意見を同じくする。2015年度のNEHでの基調講演にて、
Nowviskieは「より包容力のある人文学」の必要性を説いている。Nowviskie曰く、
それは歴史を理解した上で未来の可能性を見いだし、分野をまたいだ効率的な連携
と理解に基づき、ローカルからグローバルまでの異なる尺度で事象を理解できる人
文学だという。Nowviskieの提言は、決して理想的なマニフェストではなく、産業社
会の台頭と時を同じくして形成されたフェミニスト倫理を参考に、今日必要な人文
学を想像しているのだ。Nowviskieは、経済利益至上主義が女性と社会的弱者をない
がしろにした事で成立した歴史を踏まえ、これからは互恵主義、思いやり、寛大の
精神、改善、関心を重視することを提案する。

  It’s worth knowing that those theories of rational moral
  understanding [such as that of Kant and utilitarianism in contrast to
  feminist ethics of social networks] grew in concert with economic
  systems that valorized a private profit motive and circumscribed the
  participation of women and the servile under-classes. A competitive
  capitalist marketplace depends upon but does not assign much value to
  things we create through networks of reciprocity, compassion,
  generosity, mending, and care.(社会的ネットワークに基づくフェミニスト
  倫理ではなく、カントや功利主義に見られる合理的な倫理観は、個人的な利益
  の動機を値踏みし、女性と盲従的な下層階級の参画を制限する経済システムと
  共に発展したことを知っておくことには価値がある。競争的な資本主義の市場
  は、互恵主義、思いやり、寛大の精神、改善、関心のネットワークを通じて私
  たちが作り出すものに依存しておきながら、そこに価値を見いだす事は無い)。

 デジタル人文学者達がレトリックや理論にこだわるのには、デジタル技術と有用
主義を取り巻く支配的な意識に流されることなく批評をすることが、人文学者の社
会的責任だと捉えているからだと言えるだろう。研究手法と職業倫理を強く意識し
たデジタル人文学の動向をこれからも注視したい。

参考文献:
Emerson, Lori. Reading Writing Interfaces: From the Digital to the
  Bookbound. Minneapolis: University of Minnesota Press, 2014.
Liu, Alan. “Where is Cultural Criticism in the Digital Humanities?.”
  Debates in the Digital Humanities. Ed. Matthew K. Gold. Minneapolis:
  University of Minnesota Press, 2012.
McPherson, Tara. “Why Are the Digital Humanities So White? Or Thinking
  the Histories of Race and Computation.” Debates in the Digital
  Humanities. Ed. Matthew K. Gold. Minneapolis: University of Minnesota
  Press, 2012.
Nowviskie, Bethany. “On Capacity and Care.” Bethany Nowviskie. 4 October
  2015. Web. Last Retrieved on 18 December 2015. < http://nowviskie.org/2015/on-capacity-and-care/ >.
---. “What Do Girls Dig?.” Debates in the Digital Humanities. Ed.
  Matthew K. Gold. Minneapolis: University of Minnesota Press, 2012.
Pasquale, Frank. The Black Box Society: The Secret Algorithms That Control
  Money and Information. Cambridge, Massachusetts: Harvard University
  Press, 2015.

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◇人文情報学イベントカレンダー(□:新規掲載イベント)

【2016年2月】
□2016-02-05(Fri):
地球研コアプロジェクトFS「オープンサイエンス時代の社会協働に基づく地球環境
研究を支援する情報サービスの実現」
(於・京都府/総合地球環境学研究所)
http://www.chikyu.ac.jp/publicity/events/etc/2016/0205.html

□2016-02-06(Sat):
第11回 人間文化研究情報資源共有化研究会
「人間文化研究機構のもつ画像データ共有化の前進に向けて」
(於・京都府/ガーデンシティ京都)
http://www.nihu.jp/events/2016/01/12/-11/

□2016-02-06(Sat):
第5回「知識・芸術・文化情報学研究会」
(於・大坂府/立命館大学 大阪梅田キャンパス)
http://www.jsik.jp/?kansai20160206cfp

□2016-02-09(Tue):
東京大学大学院情報学環 DNP学術電子コンテンツ研究寄附講座
開設記念シンポジウム「これからの学術デジタル・アーカイブ」
(於・東京都/東京大学 福武ホール)
http://www.iii.u-tokyo.ac.jp/news/4166

□2016-02-17(Wed):
読みたい! 日本の古典籍
-歴史的典籍の画像データベース構築とくずし字教育の現状と展望
(於・大阪府/大阪大学 豊中キャンパス)
https://www.nijl.ac.jp/pages/cijproject/images/20160217_oosaka_sympo.pdf

■2016-02-27(Sat):
人文系データベース協議会 第21回公開シンポジウム「人文科学とデータベース」
(於・京都府/同志社大学 今出川校舎 寒梅館)
http://www.jinbun-db.com/symposium

□2016-02-29(Mon):
データシェアリングシンポジウム
(於・東京都/一橋講堂)
https://jipsti.jst.go.jp/rda/

【2016年3月】
□2016-03-01(Tue)~2016-03-03(Thu):
RDA Seventh Plenary Meeting
(於・東京都/一橋講堂)
https://rd-alliance.org/plenary-meetings/rda-seventh-plenary-meeting.html

■2016-03-15(Tue)~2016-03-17(Thu):
Nordic Digital Humanities Conference
(於・ノルウェー/University of Oslo)
http://dig-hum-nord.eu/?page_id=352&lang=en

■2016-03-18(Fri):
第27回「東洋学へのコンピュータ利用」研究セミナー
(於・京都府/京都大学人文科学研究所)
http://www.kanji.zinbun.kyoto-u.ac.jp/seminars/oricom/

Digital Humanities Events カレンダー共同編集人
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小林雄一郎(東洋大学社会学部)
瀬戸寿一(東京大学空間情報科学研究センター)
佐藤 翔(同志社大学教育文化学科 助教)
永崎研宣(一般財団法人人文情報学研究所)

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◇イベントレポート(1)
「じんもんこん2015」参加報告
http://jinmoncom.jp/sympo2015/
 (永崎研宣:人文情報学研究所)

 2015年12月19日(土)~20日(日)、同志社大学文化情報学部(京田辺キャンパ
ス)において、じんもんこんシンポジウムが開催された。このシンポジウムは、
1999年以来毎年、情報処理学会人文科学とコンピュータ研究会が主催して国内各地
で開催されてきており、査読を経た発表群は、この分野の国内研究集会としてはト
ップレベルに位置づけ得るものである。今回は「じんもんこんの新たな役割~知の
創成を目指す文理融合のこれから~」というテーマのもと、この分野の草分け的な
存在である村上征勝氏による基調講演やパネルセッションも用意され、研究会とし
てはもう30年近く継続されてきていながら未だに新しい、文理融合というテーマに
ついて様々な角度からの議論が展開された。

 個別発表については、今回はポスター発表が多かったのがやや目についたが、充
実した発表も多く、コンピュータを用いることで人文学がどのように展開し得るか、
という可能性を垣間見せてくれるものから、実際に便利なツールを作って提供して
いる、という話まで、相変わらずの多様な発表が展開されていた。いわゆるJポップ
の歌詞の特徴がどう変化したか、という発表や、歴史史料をデジタル媒体上で批判
的に扱うにはどのようにすべきかとう提案から、和暦を西暦に変換するための
Linked Dataの提供といった基盤的なデータ提供の話、古文書の字形を検索する試み
や、辞書がない言語にタグをつけていく仕組み等々、興味深い発表が盛りだくさん
だった。残念なことに、発表数の関係で2セッション同時並行開催となるため、興
味がありながら聞くことができなかった発表も多く、また次の機会にはぜひおうか
がいしたいと思っているところである。なお、筆者自身は、デジタルアーカイブの
持続可能性の問題を取り上げ、自分が関わっているプロジェクトがどのようにして
これに取り組んでいるかということを紹介しつつ議論を喚起する発表を行った。

 一方、じんもんこんシンポジウムは併催イベントに力を入れつつあり、前年、国
立情報学研究所で開催した際の併催イベント「人文科学データアイデアソン 「じん
もんそん」~文化芸術情報の活用を考える~」に続き、今回は、国文学研究資料館
の大型プロジェクト「日本語の歴史的典籍の国際共同研究ネットワーク構築計画」
による「歴史的典籍オープデータワークショップ~古典をつかって何ができるか!
じんもんそん2015~」が開催された。じんもんこん2015の模様は、すでに当メール
マガジンの前号にて橋本雄太氏によってご紹介済みだが、その後、さらに詳細が紹
介されているようなので、そちらも参照されたい。(
https://www.nijl.ac.jp/pages/cijproject/20151218_ideathon.html ,
https://www.nijl.ac.jp/pages/cijproject/report_20151218.html

 社会の中でのコンピューティングの位置づけがいっそう強く問われるようになっ
てきている現在、じんもんこんが形成する横断的で緩やかなコミュニティの果たし
得る役割はますます大きくなってきているように思われる。そのような中で、コア
な中堅研究者によって着実に支えられつつ、新しい時代のコンピューティングにあ
わせてその姿をゆるやかに変化させてきていることを感じさせられるシンポジウム
だった。

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◇イベントレポート(2)
国際シンポジウム「HathiTrustとデジタルアーカイブの未来」<前編>
http://21dzk.l.u-tokyo.ac.jp/DHI/index.php?sympo2015_1
 (永崎研宣:人文情報学研究所)

 HathiTrustは、米国を中心に100以上の大学図書館が参加し、Googleによるスキャ
ンデータを含む1,380万冊以上のデジタル化資料を集積し、そのうち540万件ほどは
パブリックドメインとして公開されているという、世界でも有数の超大規模図書館
連合リポジトリとして、日本でも関係者筋では注目を集める存在である。2012年8月
1日には、国立国会図書館東京本館においてHathiTrust事務局長のジョン・ウィルキ
ン氏を招いての講演会が開催されており、『情報管理』にも2014年にはHathiTrust
を紹介する詳細な論考が掲載されている(
https://www.jstage.jst.go.jp/article/johokanri/57/8/57_548/_article/-cha...
注:ただし、本論考中「多くの検索結果は「Limited (search-only)」(図6のa参照)
となっているが、これは外部の利用者に対する制限である。この本を所蔵している
メンバー図書館だけが、電子版を自由に読むことができる」という点については、
メンバー図書館でも電子版は読めないという指摘をいただき、現在確認中のため、
この点は注意されたい)。

 HathiTrustは2011年に「研究センター(以下、HTRC)」を設置し、以降、如何に
してこの大規模リポジトリを研究に活用していくか、ということを研究として取り
組んでいく体制を作った。今回のシンポジウムの共催機関の一つである東京大学大
学院次世代人文学開発センターでは、ちょうどこの折りに、米国のデジタル人文学
の代表的な研究者でありHTRC設置に深く関わったJohn Unsworthイリノイ大学図書館
情報学研究科長(当時)や長尾真国立国会図書館長(当時)、武田英明国立情報学
研究所教授らを招聘してシンポジウムを開催し、HTRCの設置とその意義についての
話を含むUnsworth教授の講演録の和訳をWebに公開している(
http://21dzk.l.u-tokyo.ac.jp/DHI/index.php?Unsworth )。今回のシンポジウム
は、HTRCの共同所長である J. Stephen Downieイリノイ大学図書館情報学研究科副
研究科長よりHathiTrust及びHTRCの最新の動向についての基調講演を行い、さらに、
大場利康・国立国会図書館電子情報部電子情報企画課長、山本和明・国文学研究資
料館古典籍共同研究事業センター副センター長、下田正弘・東京大学大学院人文社
会系研究科世代人文学開発センター人文情報学拠点長、堀浩一・東京大学附属図書
館副館長がそれぞれの取組みについて報告し、デジタル化された資料をいかにして
研究活用するか、について様々な側面から議論する、という趣旨であり、第1回東京
大学大学院次世代人文学開発センター人文情報学拠点シンポジウム/国文学研究資
料館日本語の歴史的典籍の国際共同研究ネットワーク構築計画共催事業/東京大学
新図書館トークイベント16/科研費基盤研究(S)「仏教学新知識基盤の構築」シン
ポジウムという位置づけで、東京大学伊藤国際学術研究センターにおいて開催され
た。

 開催当日、2016年1月25日は、快晴で暖かかった関東を除いては全般的に強い寒波
に襲われ、関西方面からの参加予定者のなかにはキャンセルした方々も少なくなか
ったようだが、全体として、180名ほどの参加があったようだ。同時通訳に加えて配
布資料も日英両方が用意され、日本語と英語で相互に議論をするという目的のもと、
まずは、下田正弘氏より、イベントの開催趣旨が日本語で説明された。上述の2011
年のシンポジウム「デジタル化時代における知識基盤の構築と人文学の役割」を受
けつつ、デジタル時代の知識流通の課題として、従来のアーカイブ理解の枠組みを
超え、各専門分野の知見を適切に反映させつつ進めるべきことが、近年重要な課題
となりはじめたことを指摘し、大型知識データベースと専門的・個別的知に基づく
データベースやそれを含む活動がどのように交錯し、どのような場を形成していく
可能性があるかを、HTRCの最新動向を踏まえつつそれぞれの立場から議論し、それ
を通じて日本におけるデジタルアーカイブの可能性と将来像を探る、という趣旨の
説明がなされた。

 J. Stephen Downie氏による基調講演「HathiTrust Research Center: Latest
Development and New Opportunities」は、まさにHathiTrustとHTRCの最新動向と今
後の方向性についての話であり、知的刺激に満ちたものであった。HathiTrustにつ
いては前掲論文を、HTRCの当初の目的については前掲URLをご参照いただくとして、
2011年7月に設立されたHTRCが研究活用の場で実際にどう活用されているのか、とい
う具体的実践的な話はとても興味深いものであった。世界中の研究者がテラ規模の
テクストデータマイニングと分析をできるようにする、という目的のもと、HTRCで
は、パブリックドメインの資料のみならず、著作権保護期間中の資料であっても、
デジタル撮影・OCR読み取りを行い、研究者がこれをテクストマイニングできるよう
な「非消費的利用」の仕組みも用意されている。ここで研究者は、直接テクストデ
ータに触れることはなく、バーチャルマシン(Ubuntu)上で解析を行い、その解析
結果だけが取得できるというのである。これは「データカプセル」と名付けられて
いた。生データを見られないことへの不安はあるものの、あまりに膨大な量であれ
ばそもそも人が見て確認することにあまり意味がないかもしれない、という意味で
は一つのやり方としては首肯し得るものだろう。フランコ・モレッティの提唱する
遠読(Distant Reading:本誌前号の杉浦清人氏の論考を参照)についてもこの観点
から言及されていた。また、読書障害にどう対応するかという観点も常に触れられ
ていた。著作権上利用可能なデータに関しては、カスタマイズしたワークセットを
作成するWebツールが提供されており、研究者が自由にワークセットを作ってダウン
ロードできるようになっている点も、HathiTrustのデータの膨大さを考えるなら妥
当な方法であると思われた。具体的な研究活用については、米国内のみならず、カ
ナダや英国の大学からも参加があり、OpenRefineとOpen Annotation を用いてメタ
データの欠如や誤りを発見して修正するプロジェクトやEEBOの文書とHathiTrustの
データをLinked Data的にマッピングするプロジェクトなど、HTRCの枠組みを通じて
様々な研究活用プロジェクトが展開されていた。ただ、ここで紹介されていたのは、
分野的には、人文学か、あるいは図書館情報学、ひとくくりにするならデジタル・
ヒューマニティーズと言えるような研究ばかりであった。この点について、全体討
論の中で質問が出た際には、図書館情報学自体が、そのような形で研究者、特に人
文学と連携を続けてきていて、それがHTRCにも反映されたのだ、という説明があっ
た。これは2011年のUnsworth教授の講演とも符合するものであり、米国における図
書館情報学の一つの特徴なのかもしれないと感じたところであった。今後は、アウ
トリーチと連携支援のモデルを改良しつつ、ワークセット作成システムとデータカ
プセルのシステム(これにはメロン財団から120万ドルが支援されているとのこと)
を完成させ、さらに、翻訳研究への取組みなどを行っていくとのことであった。

 これに続いて、国立国会図書館の大場利康氏をはじめ、各登壇者からの講演が続
いていき、最後の全体討論へとつながっていくが、それらについては、締切りの関
係上、次号に掲載とさせていただきたい。

 なお、筆者は、本シンポジウムの開催に関わった立場ではあるが、本誌における
イベントレポートについては、あくまでも非公式な、個人の立場からの報告という
ことであり、内容としてもすでに公表されている情報のみに基づいて執筆している
ので、その旨ご了解いただきたい。

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 配信の解除・送信先の変更は、
    http://www.mag2.com/m/0001316391.html
                        からどうぞ。

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◆編集後記(編集室:ふじたまさえ)
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 第54号、いかがでしたでしょうか?

 今月の内容も素晴らしく濃い物となっていたと思います。ご寄稿いただいた皆さ
ま、ありがとうございました!

 今回のテーマは「デジタル化」がキーワードだったように思います。個人的な感
想ですが、どれも進行中の話題でしたのでとてもエキサイティングな内容となって
いたと思います。誰にとって、何のためのデジタル化なのかという2つの軸が重要な
ポイントなのではないかと思いました。

 次号もお楽しみに。

◆人文情報学月報編集室では、国内外を問わず各分野からの情報提供をお待ちして
います。
情報提供は人文情報学編集グループまで...
       DigitalHumanitiesMonthly[&]googlegroups.com
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人文情報学月報 [DHM054]【後編】 2016年01月31日(月刊)
【発行者】"人文情報学月報"編集室
【編集者】人文情報学研究所&ACADEMIC RESOURCE GUIDE(ARG)
【 ISSN 】2189-1621
【E-mail】DigitalHumanitiesMonthly[&]googlegroups.com
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