2011-08-27創刊
人文情報学月報
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄Digital Humanities Monthly
2013-04-30発行 No.021 第21号【後編】 339部発行
_____________________________________
◇ 目次 ◇
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
【前編】
◇《巻頭言》「日本語歴史コーパスとコーパス利用リテラシー」
(近藤泰弘:青山学院大学文学部/国立国語研究所言語資源研究系)
◇《連載》「Digital Humanities/Digital Historyの動向
~2013年3月中旬から4月中旬まで~」
(菊池信彦:国立国会図書館関西館)
【後編】
◇人文情報学イベントカレンダー
◇イベントレポート(1)
「Code4Lib Conference 2013」
(大向一輝:国立情報学研究所)
◇イベントレポート(2)
日本デジタルゲーム学会 2012年次大会(DiGRA JAPAN 2012)
「デジタルゲーム研究の発展-アジアを背景としたコンテンツ創成・地域の魅力の発信」
(尾鼻 崇:中部大学人文学部)
◇イベントレポート(3)
「CAA 2013:考古学におけるコンピュータの利用と数量的方法に関する第41回国際会議」
(近藤康久:東京工業大学大学院情報理工学研究科)
◇イベントレポート(4)
文化情報資源政策シンポジウム「文化情報資源政策の確立を求めて:利活用に関わ
る課題を中心に」
(眞籠 聖:国立国会図書館)
◇編集後記
◇奥付
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
【人文情報学/Digital Humanitiesに関する様々な話題をお届けします。】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◇人文情報学イベントカレンダー(■:新規イベント)
【2013年5月】
□2013-05-11(Sat):
情報処理学会 第98回 人文科学とコンピュータ研究会発表会
(於・京都府/大谷大学)
http://jinmoncom.jp/
□2013-05-22(Wed)~2013-05-24(Fri):
The Music Encoding Conference 2013
(於・ドイツ/Mainz Academy for Literature and Sciences)
http://music-encoding.org/conference
□2013-05-24(Fri)~2013-05-26(Sun):
International Conference on Japan Game Studies 2013
(於・京都府/立命館大学衣笠キャンパス)
http://www.ptjc.ualberta.ca/en/Conferences/Japan%20Game%20Studies.aspx
□2013-05-25(Sat):
日本図書館情報学会 2013年 春季研究集会
(於・茨城県/筑波大学 筑波キャンパス 春日エリア)
http://www.jslis.jp/conference/2013Spring.html
□2013-05-25(Sat)~2013-05-26(Sun):
情報知識学会 第21回 2013年度 年次大会
(於・東京都/お茶の水女子大学)
http://www.jsik.jp/?2013cfp
【2013年6月】
□2013-06-03(Mon)~2013-06-05(Wed):
2013 Annual Meeting of the Canadian Society For Digital Humanities
(於・カナダ/University of Victoria)
http://csdh-schn.org/2012/11/16/cfp2013/
□2013-06-04(Tue)~2013-06-07(Fri):
5th International Conference on Qualitative and Quantitative Methods in
Libraries
(於・イタリア/"La Sapienza" University)
http://www.isast.org/qqml2013.html
□2013-06-06(Thu)~2013-06-10(Mon):
Digital Humanities Summer Institute 2013
(於・カナダ/University of Victoria)
http://dhsi.org/
□2013-06-13(Thu)~2013-06-14(Fri):
17th International Conference on Electronic Publishing
(於・スウェーデン/Blekinge Institute of Technology)
http://www.bth.se/elpub2013
□2013-06-26(Wed)~2013-06-29(Sat):
Digital Humanities Summer School Switzerland 2013
(於・スイス/University of Bern)
http://www.dhsummerschool.ch/
■2013-06-29(Sat):
情報メディア学会 第12回 研究大会「ビッグデータ時代の図書館の役割
-データのカストディアンは誰か」
(於・神奈川県/鶴見大学)
http://www.jsims.jp/kenkyu-taikai/yokoku/12.html
【2013年7月】
□2013-07-08(Mon)~2013-07-12(Fri):
Digital.Humanities@Oxford Summer School
(於・英国/Oxford University)
http://digital.humanities.ox.ac.uk/dhoxss/
□2013-07-10(Mon)~2013-07-12(Fri):
The 5th International Conference on Asia-Pacific Library and Information
Education and Practice
(於・タイ/Khon Kaen University)
http://www.aliep2013.com/
□2013-07-16(Tue)~2013-07-19(Fri):
Digital Humanities 2013
(於・米国/University of Nebraska)
http://dh2013.unl.edu/
【2013年8月】
□2013-08-04(Sun)~2013-08-09(Fri):
IGU 2013 Kyoto Regional Conference
(於・京都府/国立京都国際開館)
http://oguchaylab.csis.u-tokyo.ac.jp/IGU2013/jp/
□2013-08-06(Tue)~2013-08-09(Fri):
Balisage: The Markup Conference 2013
(於・カナダ/Montre'al)
http://www.balisage.net/
□2013-08-15(Thu):
IFLA 2013 Satellite Meeting "Workshop on Global Collaboration of Information
Schools"
(於・シンガポール/Nanyang Technological University)
http://conference.ifla.org/ifla79/satellite-meetings
Digital Humanities Events カレンダー共同編集人
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
小林雄一郎(日本学術振興会特別研究員PD)
瀬戸寿一(立命館大学衣笠総合研究機構専門研究員)
佐藤 翔(同志社大学教育文化学科 助教)
永崎研宣(一般財団法人人文情報学研究所)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
◇イベントレポート(1)
「Code4Lib Conference 2013」
: http://www.code4lib.org/conference/2013
(大向一輝:国立情報学研究所)
2013年2月11日から14日にかけて、イリノイ州立大学シカゴ校にてCode4Lib
Conference 2013が開催された。Code4Libはいわゆるシステムライブラリアンと呼ば
れる情報サービスを専門とする図書館員、あるいはそれらのサービスに関わるエン
ジニアを中心としたコミュニティであり、年に一度アメリカ国内で会議が開催され
る。今回で8度目の開催となる。
今回の参加者数は過去最高の400名であり、大半がアメリカからの参加だが、カナ
ダやヨーロッパからも数名ずつの参加があった。日本からは筆者を含めて6名が参加
した。参加者層としては大学図書館関係者が多く、全体の2/3以上を占めている。
Code4Lib Conferenceは当初から分科会を設けないシングルセッションでの開催を
貫いており、規模が拡大した現在でも活発に議論が飛び交う良質なコミュニティが
維持されていると感じた。
会議のテーマとしては、オープンソースのソフトウェアを活用した情報サービス
の事例紹介や、構築にあたってのノウハウの共有が中心となる。参加者の多くが実
際に開発・運用に携わっていることもあり、内容は技術的かつ実践的なものが多い
のが特徴である。プログラムとしては初日にワークショップがあり、2日目以降は基
調講演、一般発表、ブレイクアウトセッション、ライトニングトークが行われた。
一般発表は事前に発表希望者の募集があり、その中からコミュニティによる投票
結果に基いて22件が選ばれた。ブレイクアウトセッションではあらかじめ設定され
たいくつかのテーマごとに参加者が自由に集まって議論する。ライトニングトーク
は会議当日に募集され、希望者に1人5分の発表時間が与えられる。プログラムは下
記のウェブサイトに掲載されている。またネット中継が行われ、録画もされている
ので参照されたい。
http://www.code4lib.org/conference/2013
http://bit.ly/c4l2013
2日目の基調講演者はアメリカ議会図書館のLeslie Johnston氏である。Johnston
氏は資料デジタル化の専門家だが、基調講演では個別の技術ではなく、コミュニテ
ィをどのように育て、維持するかについて自身の経験から語られた。講演の内容は
Johnston氏のブログでも触れられているので参考にされたい。
http://blogs.loc.gov/digitalpreservation/2013/02/community-building-is-w...
最終日の基調講演はイギリスの図書館員で各種の標準化に関わるGordon Dunsire
氏によるLinked Open Data(LOD)についての講演であった。図書館におけるLODは
単に書誌の記述だけではなく、より詳細な内容や、単体の資料のレベルを超えたコ
ンテキストの表現にも用いることが可能であるとの議論は大変興味深いものであっ
た。資料はDunsire氏のウェブサイトに掲載されている。
http://gordondunsire.com/presentations.htm
一般発表は多種多様であったが、全体の傾向としてオープンソースの検索インタ
ーフェイスであるBlacklightを利用したプロジェクトが多いことが印象に残った。
前年度までは同じくオープンソースである検索エンジンApache Solrに関する発表が
多かったが、すでにSolrは一般化し、コミュニティの興味はSolrをインフラとして
用いた上でいかに魅力的なインターフェイスを提供できるかに移行している。
一般発表で紹介されたプロジェクトのほとんどはそのソースコードをGithubと呼
ばれる共有サイトで公開している。実際に使えるプログラムを配布し、そのプログ
ラムをまた別のプロジェクトが活用するというエコシステムが着実に形成されてい
るのが極めて興味深い。
ライトニングトークでは、物質・材料研究機構の高久氏(現・筑波大学)が災害
時の情報共有プラットフォームであるsaveMLAKについて、アカデミック・リソース・
ガイドの岡本氏が図書館におけるクラウドファンディングの活用について発表を行
った。Code4Libコミュニティにおける東日本大震災とその後の活動に対する関心は
昨年に引き続き高く、多くの支援の声をいただいた。
その他の内容については、3月24日に横浜にて行われた参加報告会の配信録画があ
るのでこれを参考にされたい。
http://www.ustream.tv/recorded/30310591
全体的な印象として、技術レベルはアメリカにおいても日本においてもさして変
わらないことが確認できた。しかし、Githubの積極的な活用など、プロジェクトを
速いペースで発展させ、より多くの参加者を巻き込む仕組みの構築に力が注がれて
いる点については参考になる。もともと図書館分野はエンジニアの参加が少ないこ
ともあり、限られたリソースを活かす工夫が求められる。また、SolrやBlacklight
についても多言語化などの部分で日本からの貢献が可能であるように思われる。
今回の参加者を中心として、2013年8月31日(土)、9月1日(日)に宮城県南三陸
町でCode4Lib JAPANカンファレンス2013を開催することとなった。詳細や最新情報
は下記のページに掲載されている。
http://www.facebook.com/events/508858532486640/
Copyright(C)OHMUKAI, Ikki 2013- All Rights Reserved.
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
◇イベントレポート(2)
日本デジタルゲーム学会 2012年次大会(DiGRA JAPAN 2012)
「デジタルゲーム研究の発展-アジアを背景としたコンテンツ創成・地域の魅力の
発信」
: http://digrajapan.org/conf2012/
(尾鼻 崇:中部大学人文学部)
2013年3月4日から5日にかけて、日本デジタルゲーム学会(DiGRA JAPAN)の第三
回年次大会が九州大学大橋キャンパスで開催された。日本デジタルゲーム学会は国
際学会であるDiGRA(Digital Games Research Association)の日本支部という位置
づけで2006年に設立されたものである。初代会長は東京大学の馬場章氏であり、現
会長は立命館大学の細井浩一氏が務めている。両者ともに、専門領域を越境した幅
広い活動を行っている研究者である。
デジタルゲーム(ビデオゲーム)は、70年代に米国から日本へと輸入されてきた
技術である。その後、1983年に任天堂株式会社から発売された「ファミリーコンピ
ュータ」の大ヒット以来、巨大産業へと成長し、我が国が世界をリードするに至っ
ている。しかし、デジタルゲームの学術研究という面に関しては、日本は完全に北
米や欧州の後塵を拝しているのが実情である。このような背景から、日本デジタル
ゲーム学会は世界各国の研究者や産業関係者とのネットワークを担保し、活発な研
究や交流活動を通じて「日本固有のデジタルゲーム研究」を樹立せしめることを目
的に設立された。今回は、その三度目の年次大会となる(過去の二度の年次大会は
それぞれ芝浦工業大学、立命館大学で開催された)。
第三回年次大会は、企画セッション「デジタルゲームのアーカイブ~世界の動向
と日本」によって幕が開かれた。セッションの座長を務める学会長の細井氏から
「日本におけるゲーム保存の取り組みの発展とその課題」と題した報告が行われ、
国内のゲームアーカイブの全体像が明示された。次に学会創立メンバーの一人であ
る立命館大学映像学部の中村彰憲氏から「英米におけるゲームアーカイブの実践に
関する比較事例に見る一考察」が報告され、国外(主にアメリカやイギリス)にお
けるゲームアーカイブの興味深い事例が多数紹介された。最後に、元・任天堂株式
会社第二開発部長で現在は立命館大学客員教授を務める上村雅之氏が登壇し「ゲー
ム保存はなぜ必要か」と題したゲームアーカイブの必要性と特殊性に関する報告が
行われた。以上の報告の後に『パックマン』の作者である岩谷徹氏や、『ゼビウス』
の遠藤雅伸氏らを交えたディスカッションが展開され、ゲームアーカイブの方法論
や、保存に値するゲームタイトルの策定規準にまで議論は及んだ。
今回テーマとなったゲームアーカイブの問題は、デジタルゲーム研究の範疇に留
まらず、日本文化の保護・保存の問題としても重要な課題といえる。そもそも立命
館大学のゲームアーカイブは、1998年に発足した「ゲームアーカイブプロジェクト」
を起点としているが、その後、立命館大学アート・リサーチセンターを拠点に研究
活動が行われた文部科学省グローバルCOEプログラム「日本文化デジタル・ヒューマ
ニティーズ拠点」の主要プロジェクトの一つとして進められてきており、日本文化
や情報人文学の諸問題と関連付けて扱われている(なおこれらの活動は2012年の設
立の「立命館大学ゲーム研究センター」の母体となっている)。
ゲームアーカイブの興味深い点は、そのメディアとしての特徴の一つに「ボーン
デジタル」が挙げられることにある。デジタルゲームは生まれた時点で既にデジタ
ルデータとして存在している。そのためゲームアーカイブは、従来のアーカイブの
方法論だけでは解決しえない複雑な課題を抱えている。加えてデジタルゲームはプ
レイすることではじめて完成するメディアであるという特性も持っており、上村氏
が提起するような「遊びをアーカイブ」するための新たな方法論の樹立が必須とな
ろう。このように、まだまだゲームアーカイブの方法論は未成熟であり、今後はよ
り幅広い分野の研究者との協議を経て検討を重ねる必要があると思われる。
その後、韓国や中国のオンラインゲーム市場の分析を扱った「アジアオンライン
ゲーム産業の過去、現在、未来」、近年飛躍が目覚ましい福岡のゲーム製作企業の
代表者が一堂に会した「デジタルゲームのこれまで、そしてこれから」、学生を対
象に行われた「第6回福岡ゲームコンテスト授賞式」といった企画が進められ、産学
の連携を強調したプログラム構成が読み取れた。
年次大会二日目は、主にデジタルゲームと教育に関する問題が扱われた。国際シ
ンポジウム「これからどうなる?どうする?シリアスゲーム!」では、韓国中央大
学教授のウィ・ジョンヒョン氏が「Gラーニングが教育を変える、世界を変える」と
題した基調講演を行った。「Gラーニング」とは、オンラインゲーム(ネットワーク
上で多人数がプレイするゲーム)をベースとした教育コンテンツのことを指す。
たとえば、オンラインゲームの空間上でチームを組んで様々なクエストタイプの
イベントをクリアしていくことで英語や数学の学習効果を高めるといったものであ
る。ジョンヒョン氏は2003年からこの「Gラーニング」に取り組んでおり、現在では
世界で200校を超える教育機関で採用されているという。ジョンヒョン氏によると、
「Gラーニング」は従来の教育カリキュラムにデジタルゲームのニュアンスを取り入
れることで教育効果を高めるという役割のみならず、人間関係の構築や、社会との
コミュニケーションを学ぶためにも有用であるという。
近年、「ゲーミフィケーション(ゲーム化)」という言葉を随所で耳にするよう
になったが、「Gラーニング」はその先駆的事例の一つとして大変興味深い結果を示
している。今後、デジタルゲームのニュアンスは領域を超えた強い影響力を持つ可
能性があるが、その際にデジタルゲーム学会が蓄積してきた研究成果が重要な役割
を担うことは間違いないだろう。
以上の二日間に渡った年次大会は、デジタルゲームという高度な情報技術に裏付
けられた産業色豊かな題材を扱う学会として、産学の連携を活かした独特の構成が
なされている点が大変興味深いといえよう。とりわけ福岡市はデジタルゲームを対
象とした産官学の協力体制が強固な地域であり、このことも多分に影響していると
思われる。研究発表の公募セッションにおいても、研究者のみならず企業に所属す
る/していた技術者が多くエントリーしており、報告者の専門分野も情報科学から
認知科学、産業論、デザイン論、教育学、そして哲学に至るまで非常に多岐にわた
っている。このような文理を越境した構成もこの学会の魅力のひとつであり、人文
情報学との親和性の高さを示しているといえるだろう。
Copyright(C)OBANA, Takashi 2013- All Rights Reserved.
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
◇イベントレポート(3)
「CAA 2013:考古学におけるコンピュータの利用と数量的方法に関する第41回国際会議」
: http://www.kanji.zinbun.kyoto-u.ac.jp/seminars/oricom/2013.html
(近藤康久:東京工業大学大学院情報理工学研究科)
2013年3月25日から28日にかけ、オーストラリア・パース市に所在する西オースト
ラリア大学において、考古学におけるコンピュータの利用と数量的方法(Computer
Applications and Quantitative Methods in Archaeology;略称CAA)の第41回年次
会議が催された。
会議には、開催国のオーストラリアをはじめ、ヨーロッパ各国と米国・カナダ・
中国などから約280名の研究者が参加した。パースは「北半球の主要都市から最も距
離的に離れた都市」であり、結果として英国サウサンプトンで開かれた前回大会[1]
に比べると参加者が半減した。それでも地元オーストラリアから約100名が参加し、
また西ヨーロッパのすべての国から参加があったことで、新しい交流が生まれたよ
うに思う。日本からの参加者は2名であった。
開催地の西オーストラリア州は、鉱産資源が豊富であり、経済が活況を呈してい
る。余談だが、そのために物価も上昇しており、昨今の円安相場も相まって物価が
東京の2倍近くに感じられた。鉱山開発に伴う緊急考古学調査に大きな需要があり、
大学・博物館等の研究機関のほか、発掘コンサルティング会社に多数の考古学者が
在籍している。当地では、新人ホモ・サピエンスのオーストラリア大陸への到来、
アボリジニ(最近はTraditional Ownerと呼ばれることも多い)の生活痕跡や岩画、
沈没船の水中考古学などが主な研究トピックとなっている。オーストラリアはたい
へん広大な国土を持つことから、地理情報システム(GIS)による文化遺産マネジメ
ントを官民あげて推進しているように感じられた。
会議の初日は、6つの会場で7つのワークショップが催された。筆者は「航空レー
ザ測量と考古学的解釈」というワークショップに参加した。ワークショップは事前
申込・定員制であり、定員の20名で満員であったが、当日聴講希望者もオブザーバ
ー(傍聴者)の形で参加が許された。参加したワークショップでは、新刊『考古地
形を解釈する:三次元データ・可視化・観察』[2]の編者であるレイチェル・オプ
ティス(Rachel Optiz)氏を講師に迎えて、LiDAR(航空レーザ測量)のデータを
LAStools[3]というオープンソースソフトウェアを用いてGISのラスタ形式に変換
し、同じくオープンソースのGISソフトウェアSAGA GIS[4]で可視化する方法を学
んだ。また、デジタル標高モデル(DEM)の陰影起伏図は入射角などのパラメータ次
第で結果の「見え方」が異なることを実例で学び、どのように地形を可視化し判読
するのがよいか参加者全員で議論した。
2日目から4日目(最終日)には、30本のセッション(分科会)で口頭発表とポス
ター発表あわせて計230件の研究報告がなされた。各日とも、朝一番のコマで総会型
の基調講演が行われた。2日目の基調講演は『考古学2.0』[5]の編者であるエリッ
ク・カンサ(Eric Kansa)氏「21世紀の考古学の出版・公開を再考する」、3日目は
ジェレミー・グリーン(Jeremy Green)氏「海事考古学におけるコンピュータ・テ
クニックの活用」,4日目はドミニク・パウレスランド(Dominic Powlesland)氏
「Googleググってググっときた(My mind Boggles as I Goggle at my Google)、
あるいは英国北ヨークシャー州、ヴァレ・オブ・ピッカリングの耕地景観に埋もれ
た1万年」であった。いずれも考古学コンピューティングとデジタルヒューマニティ
ーズの最先端をいく研究事例とコンセプトを提示するものであり、大変エキサイテ
ィングな内容であった。
セッションは最大で5本並行して開催された。私にとっては会議のテーマが専門分
野そのものであるため、聴講したいセッション・報告がしばしば重複し、悩ましく
も、うれしく感じた。全体を俯瞰すると、三次元計測分野ではUAV(無人航空機)と
LiDAR、空間解析分野では定量的な予測モデリング、シミュレーション分野ではエー
ジェント・ベース・モデルによる複雑系モデリングがホットトピックとなっている
印象を受けた。また、先史考古学を対象とする研究が例年よりも多かったように思
う。
セッションが行われた3日間は、会場ホワイエでブッフェ形式のランチが提供され、
テラス席で世界の研究仲間と和やかに食事と会話を楽しむことができた。また、夕
刻には同じ場所がパブとなって、ビールやワインのグラスを片手に談論に興じ、大
変有意義な情報交換ができた。
会議後のエクスカーション(29日)では、パースの外港フリーマントルの沖合
10kmに浮かぶロットネスト島を日帰りジェット船で訪れた。地元の考古学者ドルチ
父子(Charlie & Joe Dortch)が案内役を務めてくれた。同島は完新世の海進以降
本土と隔絶しており、大型のリスに似たクォッカなど独自の動植物相が見られる。
ドルチ父子の案内で島を一周し、後期更新世28,000年前の海岸遺跡などを見学した
後、ビーチでしばし遊び、帰路についた。参加者の中にはこの後オーストラリア周
遊の休暇旅行に出かけたり、次週にハワイで開かれるSAA(米国考古学会)へはしご
したりと、さらに南洋での滞在を楽しむ向きもあった。
次回CAAは2014年4月にパリで開催される。また、次々回はイタリアのシエナで
2015年3月末から4月初旬に開かれることが年次総会で議決された。CAAは40年余の歴
史をもちながらまだ一度も日本で開催されたことがなく、学会関係者の間で日本開
催への期待が大いに高まっていることを、末筆ながら読者諸氏に報告しておきたい。
[1]清野陽一(2012)「CAA 2012 conference:考古学におけるコンピュータの利
用と数量的方法」『人文情報学月報』009.
http://www.dhii.jp/DHM/dhm09
[2]Optiz, R. S. and Cowley, D. C. (eds.) (2013) Interpreting
Archaeological Topography: 3D Data, Visualisation and Observation.
Occasional Publication of the Aerial Archaeology Research Group 5. Oxford:
Oxbow.
[3]http://www.cs.unc.edu/~isenburg/lastools/
[4]http://www.saga-gis.org/en/index.html
[5]Kansa, E., Whitcher Kansa, S. and Watrall, E. (eds.) (2011)
Archaeology 2.0: New Approaches to Communication and Collaboration. Cotsen
Digital Archaeology. Los Angles: Cotsen Institute of Archaeology.
Copyright(C)KONDO, Yasuhisa 2013- All Rights Reserved.
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
◇イベントレポート(4)
文化情報資源政策シンポジウム「文化情報資源政策の確立を求めて:利活用に関わ
る課題を中心に」
: http://www.waseda.jp/enpaku/news/2012/2013-0330.html
(眞籠 聖:国立国会図書館)
1.はじめに
2013年3月30日、早稲田大学大隈会館において、文化情報資源政策研究会が主催し
たシンポジウム「文化情報資源政策の確立を求めて:利活用に関わる課題を中心に」
の概要を報告する。
2.文化情報資源政策研究会について
同会は、我が国の文化情報資源の創出と利活用を促進するため、産学官を横断し
た個人が参加する政策研究会である。我が国のソフトパワーの源泉として「コンテ
ンツ」の整備・活用政策を論議する対象は、マンガ・アニメ・ゲーム等の現代サブ
カルチャーあるいは伝統的な歴史文化遺産といった特定の分野に限定されがちであ
る。しかし既に注目され市場で展開されている文化資源以外にも、利活用の基盤を
整備(情報資源化)することで、新たな「コンテンツ」を創出できる分野は多く存
在する。ただし文化資源の利活用にあたっては、法律・産業政策のみならず、様々
な分野に課題が存在し情報資源化を妨げている。多くの国では文化芸術政策と文化
産業政策をひとつの省庁で担当し、総合的な文化政策がなされているが、我が国で
は各省庁が独自に政策を進め、連携がなされていない。同会はあらゆる分野から有
志を募って横断的な論議を進め、総合的な文化情報資源の政策提言を目指している。
3.今回のシンポジウムについて
同会は2012年4月の立ち上げから1年を迎え、その記念とこれまでの論議をまとめ
た中間報告として本シンポジウム(司会:境真良(国際大学GLOCOM))を開催した。
本シンポジウムは、早稲田大学坪内博士記念演劇博物館(以下、「演博(えんぱく)
」)との共催によるものである。
演博は、演劇の直接資料(舞台装置・小道具・衣装・脚本等)に加えて、間接資
料(ポスター・演劇雑誌等の上演情報)や演劇記録(映像・音源等)といった様々
な形態の文化資源を収集している。最近ではアニメを専門とするスタッフも所属し、
同会の趣旨とする包括的な文化資源のアーカイブ機関として、利活用の基盤整備を
担っている。
基調講演では、竹本幹夫氏(演博館長(当時))が、「演劇資料の特徴と利活用
の可能性」と題して、総合芸術としての演劇の社会的有効性と利活用の形態につい
て報告し、課題と活用のために必要な政策提言を行った。社会的な評価の高い演劇
が正当な芸術・研究分野として認められず、法的規制や研究助成、教育において、
次の創作活動につながる支援政策が取られていないという。また学術研究に際し、
商業的価値の失われた資料を公開すれば演劇研究は著しく進展することを指摘し、
アーカイブ化に関わる著作権制度の改革を提言した。
基調報告では、同会幹事の柳与志夫氏(国立国会図書館)が前述の研究会趣旨と
論議対象範囲を説明した。続いて同会事務局長である渡邉太郎氏(国立国会図書館)
が、これまでに同会の研究例会で論議されたテーマの課題と各領域における取り組
みのまとめを発表した。
シンポジウム後半では、文化情報資源の利活用に関わる課題について、権利者不
明で権利処理さえできない孤児作品(オーファンワーク)や表現規制に関わる政策
設計の観点を中心としたディスカッションが行われた。パネリストは、太下義之氏
(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)、後藤和子氏(埼玉大学)、福井健策氏
(弁護士)、吉見俊哉氏(東京大学)、赤松健氏(漫画家)の5名である。
4.論議のまとめ
文化情報資源を利活用し新たな知識と文化を創出するためには、著作権処理が各
分野に共通の課題として確認された。中でも、孤児作品がデジタルコンテンツの流
通を妨げていることから、欧米が競って法整備を進めている状況を福井氏が報告し
た。日本は既に文化庁長官裁定制度を有し孤児作品対策では先行しているものの、
運用のハードルが高く、活用しきれていない点を指摘した。
後藤氏は、公的介入の手段として、著作権制度設計・政府による補助金・市民の
寄付を活用する税制を挙げた。会場からは、第4の方法として、先行する制度・仕組
みへの支持によって、クリエイティブ・コモンズのような新たな枠組みを支援する
ことができるという意見があった。
太下氏からは、孤児作品を公知しつつ作品として活用する「オーファンワークス
ミュージアム」の提案があった。収益を留保し、権利者が現れたら補償するオプト
アウト方式によって作品の流通促進を目的としている。
赤松氏は、「クールジャパン戦略」で既に成功している企業を支援するよりも、
表現活動を委縮させるような表現規制を緩和する方が、創作の現場には有益である
と提言した。また規制によって流通から締め出された「封印作品」や廃盤ソフトに
ついて、もはや違法P2Pでしか手に入らない問題点を指摘し、抜本的な保存対策を求
めた。
吉見氏は、「culture」とは「耕す」ことであるとして、現時点での価値判断を含
めず多種多様な作品を生む土壌を育む意識を持つことが、豊かな文化の基礎となる
と指摘した。既に創作現場に存在する多様性に敬意を払い、活かす道を探すことが、
現実に即した専門家の育成につながると提言した。
5.今後の取組みについて
同会では、5月以降もゲーム等の個別の文化資源の現況把握と問題点・課題を明ら
かにするための検討を進めると共に、各種文化資源に横断的に関わる制度的・政策
的な課題について論議を深めていく予定である。
このテーマにご関心のある方は、ぜひご参加いただきたい。
Copyright(C)MAGOME, Takashi 2013- All Rights Reserved.
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
配信の解除・送信先の変更は、
http://www.mag2.com/m/0001316391.html
からどうぞ。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆編集後記(編集室:ふじたまさえ)
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
人文情報学月報第21号はいかがでしたか?今号もたくさんの皆さまにご寄稿いた
だくことができ、大変読み応えのある内容となりました。ご寄稿いただいた皆さま、
ありがとうございました。
巻頭言では、コーパスを作成した立場である近藤氏がコーパスを利用する立場に
たった上で、改めて作成者として「コーパス利用のリテラシー」の必要性とその理
解を進める必要があること、そして、その役割は作成者に課せられているのではな
いか、との見解を示しています。「リテラシー」についての様々な課題は、往々に
してその利用者の問題と決め付けがちですが、この巻頭言を読んでみると、作った
立場の人にしかわからない情報にアクセスしやすくなっているかも「リテラシー」
に大きく関わっているとわかりました。
連載記事やイベントレポートをみると、国内外を問わず、世界各地で人文情報学
に関する出来事がいかに盛り上がっているかが伝わってきます。特に、これまでに
あまり目にすることがなかった「ゲーム」に関する話題が、「教育」や「学習」と
つながってきているということが印象的でした。
毎回、さまざまな立場の方からご寄稿をいただいていますが、例えば巻頭言だけ
を続けて読んでみたりすると、分野の垣根を超えた人文情報学の面白さがよくわか
ります。2013年4月から、バックナンバーについては「人文情報学研究所」のサイト
内でご覧いただけます。ご活用いただければ幸いです。 http://www.dhii.jp/DHM/
◆人文情報学月報編集室では、国内外を問わず各分野からの情報提供をお待ちして
います。
情報提供は人文情報学編集グループまで...
DigitalHumanitiesMonthly[&]googlegroups.com
[&]を@に置き換えてください。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
人文情報学月報 [DHM021]【後編】 2013年04月30日(月刊)
【発行者】"人文情報学月報"編集室
【編集者】人文情報学研究所&ACADEMIC RESOURCE GUIDE(ARG)
【E-mail】DigitalHumanitiesMonthly[&]googlegroups.com
[&]を@に置き換えてください。
【サイト】 http://www.dhii.jp/
Copyright (C) "人文情報学月報" 編集室 2011- All Rights Reserved.
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄