ISSN 2189-1621

 

現在地

DHM 012

2011-08-27創刊

人文情報学月報
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄Digital Humanities Monthly

                 2012-7-28発行 No.012   第12号    

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 ◇ 目次 ◇
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◇「宗教者の災害支援をめぐる情報と研究者の活動」
 (黒崎浩行:國學院大學)

◇人文情報学イベントカレンダー

◇イベントレポート(1)
「Digital Classicists / ICS Work-in-progress seminar」
 (高橋亮介:ロンドン大学キングス・カレッジ)

◇イベントレポート(2)
Digital.Humanities@Oxford Summer School」
 (永崎研宣:人文情報学研究所)

◇編集後記

◇奥付

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
【人文情報学/Digital Humanitiesに関する様々な話題をお届けします。】
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◇「宗教者の災害支援をめぐる情報と研究者の活動」
 (黒崎浩行:國學院大學)

 昨年3月11日の東日本大震災発生から1年5ヶ月が経つ。この災害は私たちの社会の
あり方にさまざまな問いを投げかけるものとなった。それはたんに状況を傍観する
ようなものでなく、私は何ができるのかを突きつけるようなものであったと思う。

 2006年から「宗教と社会」学会の「宗教の社会貢献活動研究」プロジェクトに参
加し、その成果として刊行された『社会貢献する宗教』(稲場圭信・櫻井義秀編、
世界思想社、2009年)では、「情報化社会における宗教の社会貢献」という章を分
担執筆させていただいた。私の担当した後半部では、インターネットによる宗教の
社会貢献活動の情報交換について、静的情報と動的情報という枠組みを用いて論じ
た。宗教団体はウェブサイト等で社会貢献活動についての情報発信を行っているが、
そこで伝えられる社会貢献活動の意義は既定のものであるのに対して、ブログやSNS
などによる活動の当事者どうしの情報共有、情報交換では、社会貢献活動の意味づ
け自体がそこで生成、再定義される可能性があることを指摘したものだった。

 今回、震災発生直後から、さまざまな宗教者、宗教団体が現地の被災状況の確認
や救援活動の情報発信に、TwitterやFacebookなどのソーシャルメディアを中心とす
るインターネット技術を活用し始めていた。大阪大学の稲場圭信准教授は、こうし
た情報を広く共有して、研究者、市民が連携できるようにしていくために、「宗教
者災害救援ネットワーク(*1)」というFacebookページを立ち上げることを提案し、
私もそれに参加した。続けて、「宗教者災害救援マップ(*2)」というウェブサイ
トも立ち上げた。

 この活動は現在も進行中であり、どのような意味があったのか総括する段階には
ないと思うが、ひとつ言えることは、被災地における宗教施設や祭り、芸能などの
宗教文化、被災地にかけつけた宗教者の支援活動や悲嘆への寄り添いの公共的な意
義が指摘されているなかで、当事者とつながり、共に生きるきっかけ、よすがとし
てこうしたソーシャルメディアが実践的に役立っているということだ。

 これにはさらに検証が必要であろうし、またそこでの研究者の関与についても問
い直してゆく必要があるだろう。宗教者災害支援連絡会(2011年4月発足、宗教者、
研究者の連携による災害支援の充実と課題の共有を図る組織)や、東北大学大学院
の実践宗教学寄附講座(2012年開講、宮城県の宗教者の連携による「心の相談室」
の取り組みをベースに、人びとの苦しみ、悲しみに寄り添う現場に立つ「臨床宗教
師」の養成を目指す)といった関連する動きとも課題を共有しつつ、また、東北大
学の「みちのく震録伝」や、ハーバード大学ライシャワー日本研究所の「2011年東
日本大震災デジタルアーカイブ」など、震災に関するデジタル情報のアーカイブ化
の取り組みも参考にしつつ、走りながら考えていきたい。

(*1)宗教者災害救援ネットワーク http://www.facebook.com/FBNERJ
(*2)宗教者災害救援マップ http://sites.google.com/site/fbnerjmap/

執筆者プロフィール
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
黒崎浩之(くろさき・ひろゆき) 1967年島根県松江市生まれ。東京大学大学院人
文科学研究科修士課程修了(修士(文学))、大正大学大学院文学研究科博士後期
課程単位取得満期退学。國學院大學神道文化学部准教授。共著に『共存学:文化・
社会の多様性』(古沢広祐責任編集、國學院大學研究開発推進センター編、弘文堂、
2012年)、『神道はどこへいくか』(石井研士編、ぺりかん社、2010年)、『社会
貢献する宗教』(稲場圭信・櫻井義秀編、世界思想社、2009年)。メールアドレス
hkuro@kokugakuin.ac.jp ホームページ http://www.capnoir.jp/

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◇人文情報学イベントカレンダー(■:新規イベント)

【2012年8月】
□2012-08-01(Wed):
国立国会図書館 講演会
「HathiTrustの挑戦:デジタル化資料の共有における『いま』と『これから』」
(於・東京都/国立国会図書館)
http://www.ndl.go.jp/jp/event/events/20120801lecture.html

□2012-08-04(Sat):
情報処理学会 第95回 人文科学とコンピュータ研究会発表会
(於・京都府/京都大学地域研究統合情報センター)
http://jinmoncom.jp/

■2012-08-06(Sun)~2012-08-07(Fri):
国立情報学研究所 テキストアノテーションワークショップ
(於・東京都/国立情報学研究所)
http://nlp.nii.ac.jp/tawc/

□2012-08-26(Sun)~2012-08-31(Fri):
International Geographical Congress 2012
(於・ドイツ/University of Cologne)
https://igc2012.org/

【2012年9月】
□2012-09-03(Mon)~2012-09-08(Sat):
Knowledge Technology week 2012
(於・マレーシア/Sarawak)
http://ktw.mimos.my/ktw2012/

□2012-09-04(Tue)~2012-09-06(Thu):
FIT2012 第11回 情報科学技術フォーラム
(於・東京都/法政大学 小金井キャンパス)
http://www.ipsj.or.jp/event/fit/fit2012/

■2012-09-05(Tue)~2012-09-07(Fri):
ISIC2012 東京大会:The Information Behaviour Conference
(於・東京都/慶應義塾大学三田キャンパス)
http://www.slis.keio.ac.jp/isic2012/index-j.html

□2012-09-06(Thu)~2012-09-08(Sat):
State of the Map 2012; The 6th Annual International OpenStreetMap Conference
(於・東京都/会場未定)
http://www.stateofthemap.org/ja/about-ja/

□2012-09-06(Thu)~2012-09-08(Sat):
Digital Humanities Congress 2012
(於・英国/Sheffield)
http://www.sheffield.ac.uk/hri/dhc2012

□2012-09-15(Sat)~2012-09-17(Mon):
2nd symposium - JADH 2012
(於・東京都/東京大学)
http://www.jadh.org/jadh2012

□2012-09-18(Tue)~2012-09-21(Fri):
GIScience 2012 7th International Conference on Geographic Information Science
(於・米国/Columbus)
http://www.giscience.org/

□2012-09-29(Sat):
計量国語学会 第56回大会
(於・愛知県/名古屋大学東山キャンパス)
http://www.math-ling.org/

□2012-09-29(Sat)~2012-09-30(Sun):
英語コーパス学会 第38回大会
(於・大阪府/大阪大学豊中キャンパス)
http://english.chs.nihon-u.ac.jp/jaecs/

【2012年10月】
□2012-10-06(Sat):
三田図書館・情報学会 2012年度研究大会
(於・東京都/慶應義塾大学 三田キャンパス)
http://www.mslis.jp/annual.html

□2012-10-13(Sat)~2012-10-14(Sun):
地理情報システム学会 第21回研究発表大会
(於・広島県/広島修道大学)
http://www.gisa-japan.org/conferences/

□2012-10-25(Thu)~2012-10-26(Fri):
The 5th Rizal Library International Conference:
"Libraries, Archives and Museums: Common Challenges, Unique Approaches."
(於・フィリピン/Quezon)
http://rizal.lib.admu.edu.ph/2012conf/

【2012年11月】
□2012-11-01(Thu)~2012-11-04(Sun):
37th Annual Meeting of the Social Science History Association
(於・カナダ/Vancouer)
http://www.ssha.org/annual-conference

■2012-11-02(Fri)~2012-11-04(Sun):
MediaAsia 2012/Third Annual Asian Conference on Media and
Mass Communication 2012
(於・大阪府/ラマダホテル大阪)
http://mediasia.iafor.org/

□2012-11-05(Mon)~2012-11-10(Sat):
2012 Annual Conference and Members’ Meeting of the TEI Consortium
(於・米国/Texus)
http://idhmc.tamu.edu/teiconference/

□2012-11-17(Sat)~2012-11-18(Sun):
情報処理学会 人文科学とコンピュータシンポジウム「じんもんこん2012」
(於・北海道/北海道大学)
http://jinmoncom.jp/sympo2012/

□2012-11-17(Sat)~2012-11-18(Sun):
第60回 日本図書館情報学会研究大会
(於・福岡県/九州大学箱崎キャンパス)
http://www.jslis.jp/

□2012-11-20(Tue)~2012-11-22(Thu):
第14回 図書館総合展
(於・神奈川県/パシフィコ横浜)
http://2012.libraryfair.jp/

Digital Humanities Events カレンダー共同編集人
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小林雄一郎(大阪大学大学院言語文化研究科/日本学術振興会特別研究員)
瀬戸寿一(立命館大学文学研究科・GCOE日本文化デジタルヒューマニティーズ拠点RA)
佐藤 翔(筑波大学図書館情報メディア研究科)
永崎研宣(一般財団法人人文情報学研究所)

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◇イベントレポート(1)
「Digital Classicists / ICS Work-in-progress seminar」
http://www.digitalclassicist.org/wip/wip2012.html
(高橋亮介:ロンドン大学キングス・カレッジ)

 ロンドン大学古典学研究所(Institute of Classical Studies)では、夏期休暇
中の6月から8月にかけての金曜日に、古代ギリシア・ローマ研究(西洋古典学)に
おけるデジタルヒューマニティーズのセミナーが開かれている。学期中に開かれる
博士課程の院生による研究報告セミナーWork-in-progress seminarに対応する形で、
Digital Classicists/ICS Work-in-progress seminarと呼ばれるこのセミナーは、
進行中の研究、あるいは研究の端緒についたばかりのプロジェクトについての報告
が行われ、活発な議論が行われている。

 古典学研究所の後援を受け、セミナーを組織するのはGabriel Bodard(King's
College London)とSimon Mahony(University College London)の2人を中心メン
バーとするDigital Classicist(*1)であり、セミナーの始まった2006年以降の報
告者とタイトルはウェブサイト(*2)で確認できる。さらに2008年以降の報告につ
いては、要旨と映写資料のみならず、報告と質疑応答の音声ファイル(MP3形式)に
もアクセスが可能である。最近はTwitter上でもハッシュタグ #digiclass を付して
セミナーの状況が伝えられることがある。このように特徴的な記録の残し方をして
いる本セミナーであるが、成果の一部は紙媒体の論文集として書籍化される。刊行
済みのものに、G. Bodard and S. Mahony (eds.), Digital Research in the Study
of Classical Antiquity, Furham, 2010(*3)があり、本セミナーでの報告をもと
にした論文が含まれている。

 セミナーの内容は多岐にわたるが、地名や人名に関するデータベースの構築と運
用、遺物・写本の画像処理やテキストの文字情報の処理の方法といったように、個
別研究よりは方法論や研究システムの構築に関わる報告が多いように思える。古代
ギリシア・ローマ研究に限ったことではないが、(文字情報を含む写本・金石文を
含む)物理的な遺物を扱い、その研究成果を紙媒体で蓄積してきた学問分野が、学
術情報のデジタル化とコンピュータでの処理の可能性を模索している現状であれば、
上述した内容の報告が多いこともうなずける。また初期の段階にある研究テーマに
ついて話されることもあるので、ディスカッションの内容は学術的あるいは技術的
なものにとどまらず、プロジェクトの組織の方法や資金の獲得の方法にまで及ぶこ
とがあり、英国での研究事情の裏側を覗くこともできる。

 筆者は恒常的なセミナーの出席者ではないため、今年度のセミナーの各回の内容
を網羅的に紹介することは出来ない。そこで以下では、筆者がとりわけ興味深く拝
聴した、7月6日のCharlotte Tupman博士(King’s College London)の報告
「Digital epigraphy beyond the Classical: creating (inter?)national
standards for recording modern and early modern gravestones」(古典古代以降
のデジタル碑文学:近現代の墓碑を記録するための国家(国際的?)規格化にむけ
て(*4))を紹介したい。

 ギリシア・ラテン語碑文学とそのデジタル処理を専門とする報告者が今回取り上
げたのは、英国における近現代(16世紀以降)の墓碑である。現在英国に現存する
墓碑の総数は不明であるが、10,000にも及ばんとする墓地の数からして相当数に上
ることは間違いない。墓地は行政の監督下にあるわけだが、1つ1つの墓碑にまでは
管理が行き届いているわけではなく保存状態が悪いものもある。そして古代の墓碑
がそうであったように今後、墓碑は滅失していくであろう。膨大な点数を誇り、そ
して貴重な史料となりうる墓碑の情報は、どのように集められ、管理され、公開さ
れるべきなのか。そして学術データベースとしてのどのような活用の方法があるの
か。このような課題に対して、古代ギリシア語・ラテン語碑文の情報をデジタル・
データとして記録するために作られたEpiDoc(*5)というマークアップの方法を普
及させることが有効ではないのか、との提案がなされた。

 報告の中で指摘されたように、個別の墓地が記録を取っているケースがあり、個
別の墓碑の写真や位置情報を記録したオンライン・データベース(例えば、
http://billiongraves.com/ )も既に存在している。こうした団体・組織との協力
関係、データ化の際に煩雑さやコストを極力抑える必要性、誰がどのように実際の
作業を行い、内容の質をどのように保証するのか。このような問題が報告と質疑応
答を通じて指摘された。さらに質疑応答の中では、祖先探しに関心を寄せる一般の
人々の参加や、学校教育の一環(地域の歴史)に組み込まれることが、データの蒐
集・入力者と利用者を同時に獲得できるのではないかとの指摘があり、また点数と
しては少ない戦争記念碑の記録のあり方を参考に出来るのではないかとの提案もあっ
た。このプロジェクトがどのような形で実現に向かうかは分からないというのが筆
者の偽らざる印象であるが、古代ギリシア・ローマ研究が発展させた技術が、本来
の領域を超えて活用される可能性を見いだせたことは大きな収穫であった。

(*1) http://www.digitalclassicist.org/
(*2) http://www.digitalclassicist.org/wip/
(*3) http://www.ashgate.com/isbn/9780754677734
(*4) http://www.digitalclassicist.org/wip/wip2012-06ct.html
(*5) http://epidoc.sourceforge.net/

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◇イベントレポート(2)
Digital.Humanities@Oxford Summer School」
http://digital.humanities.ox.ac.uk/dhoxss/
(永崎研宣:人文情報学研究所)

 7月2日から5日間、オックスフォード大学にてDigital.Humanities@Oxford Summer
School 2012が開催された。これは、デジタル・ヒューマニティーズに関する入門
者から中級者を対象とする、夏期休暇期間中の集中講義のようなもので、申し込み
をすれば誰でも参加でき、講義と実践を組み合わせて参加者のデジタル・ヒューマ
ニティーズに関する理解を深めようとするものである。本メールマガジンの前号(*1)
にて紹介されているヴィクトリア大学のDHSIと似たような試みだが、世界中から講
師が集まるDHSIとは異なり、こちらでは、講師の多くはオックスフォード大学の研
究者であり、参加者も60人ほどと、むしろこぢんまりとしたものであった。

 コースには次の4種類が用意されており、参加者は希望するコースを一週間受ける
ということになっていた。

(1)デジタル・ヒューマニティーズに関する基本的なツールとアプローチの入門
(2)XML/TEIの入門
(3)セマンティックウェブでの人文学データの扱い方
(4)TEIを扱う応用編

 基本的な流れとしては、午前中はマートンカレッジにて、特定のテーマに関する
希望者のみのディスカッションの場「Surgery」が用意されており、ディスカッショ
ンの後、全員が講堂に集まって講義を聞いてから各コースに分かれることになる。
各コースでは、それぞれランチタイムまで一時間ほどの講義を聞き、午後は徒歩で
20分ほどのコンピューティングサービスセンターに移動してコンピュータルームで
の実習を行う。夕方にはパラレル・セッションとして毎日2つずつ講義が用意され、
希望する方に参加した上で、講義の後に議論をするという形式となっていた。

 筆者は残念ながら途中の日からの参加となってしまったのだが、教育実践の参考
とするために、(1)デジタル・ヒューマニティーズに関する基本的なツールとアプ
ローチの入門のコースに参加した。以下、このコースについて簡単に報告する。

 これは毎日異なる種類の技術に関する使い方を扱うことでデジタル・ヒューマニ
ティーズの全体像を体験するコースであり、テキスト分析、データマイニング、TEI
マークアップ(*2 後述)、デジタル画像、GIS(地理情報システム)が採り上げら
れていた。筆者が参加できたのは3日間だけだったが、そのうちの最初の日は、TEI
マークアップ、すなわち、人文学資料のデジタル化におけるアノテーションのルー
ルに関する国際的なデファクト・スタンダードであるTEIガイドラインに準拠したXML
によるタグ付けに関するものであった。

 まず、TEIの主要な貢献者であるLou Burnard氏によるTEIの理念と概要に関する講
義が午前中に行われ、午後の実習では絵葉書が素材として採り上げられた。ここで
は、XMLエディタoXygen(*3)を用いて、絵葉書の両面を画像として扱った上で、記
述されている内容についてテキスト化し、住所や内容、意味のまとまりなどにそれ
ぞれ既定のタグをつけていくという実習であったが、時間内でちょうど終わるくら
いでありながらTEIに基づくテキストの構造化から様々なアノテーションの種類、さ
らに画像までも扱うことができ、入門編としてはよく考えられたものであった。

 翌日は、デジタル画像が扱われた。デジタル画像の原理に関する講義が午前中に
行われ、午後は、石に彫られた文字の陰影をうまく読み取るためのいくつかの手法
が解説された。まず、フリーの画像処理ソフトであるGIMP(*4)を用い、画像のパ
ラメータの操作による見え方の違いについて確認し、次に、Reflectance
Transformation Imaging(*5)の紹介と簡単な操作についてのレクチャーが行われ
た。これは、石や木に彫られたものに様々な角度から光をあてた写真を撮影してそ
れらをマージすることで立体の状況を簡単にうまく把握できるというものであった。
Webサイト(*6)には日本の木版画での事例も掲載されている。

 このコースの最終日はGISであり、これも午前中はシステムの基本的な考え方や様
々な応用事例についての紹介が行われ、午後の実習ではArcGISという標準的なGISソ
フトウェアを使って、地図上にプロットされた様々な情報の記述や情報検索・抽出
に関する様々な方法が取り扱われた。

 このコースの内容は、いずれも、比較的平易な内容でありながら、基本的な考え
方と使い方をきちんと押さえた上で、それらを用いることで利用者が自分の持って
いる問題意識に基づいて資料からの発見を支援するという「人文学の延長としての
デジタル・ヒューマニティーズ」とも言うべき手法を学習するものであり、人文学
を志す人や人文学の研究者が最初にデジタル・ヒューマニティーズを学ぶことを想
定してよく考えられたものであったというのが筆者の率直な感想である。また、そ
れぞれの内容に関して、教材も素材もきちんと準備されており、短時間で重要なポ
イントまでうまくたどり着けるようにきちんと配慮されていたことも印象的であっ
た。

 このような具体的な技術の手ほどきに加えて、上述のように、全体講演も毎日行
われ、デジタル・ヒューマニティーズについての様々な視座が参加者に提供される
ようになっていた。中でも、King's College London に最近新設されたDepartment
of Digital Humanitiesの学部長であるAndrew Prescott 教授による講演(*7)はデ
ジタル・ヒューマニティーズにおける新しい展開の必要性を主張するもので、賛否
はともかくとして、大変刺激的なものであった。また、パラレル・セッションでは、
イギリスを中心としたヨーロッパのデジタル著作権に関するセッションや、近年、
欧米の一部大学を中心に広まりつつあるデジタル・ヒューマニティーズの短期集中
トレーニングコースに関するセッションなど、興味深いセッションが目白押しであっ
た。大学院生から老齢の教授まで、様々な国からの参加があり、講師も意欲的で小
規模ながら盛り上がりもよく、デジタル・ヒューマニティーズに関して入門的な勉
強をしてみたいと思う人や、筆者のように、デジタル・ヒューマニティーズの教育
方法について関心がある人にはお勧めのサマースクールであったように思う。

(*1)人文情報学月報 第11号 バックナンバー:
http://archive.mag2.com/0001316391/20120629095957000.html
(*2)TEIマークアップ: http://www.tei-c.org/index.xml
(*3)XMLエディタoXygen: http://www.oxygenxml.com/xml_editor.html
(*4)GIMP: http://www.gimp.org/
(*5)Reflectance Transformation Imaging:
http://culturalheritageimaging.org/Technologies/RTI/
(*6)Reflectance Transformation Imagingの事例集:
http://culturalheritageimaging.org/Technologies/RTI/more_rti_examples.html
(*7)Andrew Prescott教授による講演:
http://digitalriffs.blogspot.jp/2012/07/making-digital-human-anxieties.html

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 配信の解除・送信先の変更は、
    http://www.mag2.com/m/0001316391.html
                        からどうぞ。

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◆編集後記(編集室:ふじたまさえ)
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 人文情報学月報 第12号を無事に発行することができ、嬉しいです。1年間欠かす
ことなく継続することができたのは、読者の皆さまを始め、ご寄稿いただいている
人文情報学関係者の皆さまのおかげです。ありがとうございます。
 メールマガジンの編集に携わることで、人文情報学の素人だった私も1年前よりは
研究者の皆さまに近づけたのではないかと感じています。これからも、新しい学問
のお手伝いを微力ながら続けていきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。
 人文情報学月報では今後も、さまざまな立場からのご寄稿を掲載していきたいと
思います。

◆人文情報学月報編集室では、国内外を問わず各分野からの情報提供をお待ちして
います。
情報提供は人文情報学編集グループまで...
       DigitalHumanitiesMonthly[&]googlegroups.com
                  [&]を@に置き換えてください。

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人文情報学月報 [DHM012] 2012年7月28日(月刊)
【発行者】"人文情報学月報"編集室
【編集者】人文情報学研究所&ACADEMIC RESOURCE GUIDE(ARG)
【E-mail】DigitalHumanitiesMonthly[&]googlegroups.com
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【サイト】 http://www.dhii.jp/

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