ISSN 2189-1621

 

現在地

DHM 018 【前編】

[DHM018]人文情報学月報【前編】

2011-08-27創刊

人文情報学月報
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄Digital Humanities Monthly

             2013-01-31発行 No.018 第18号【前編】 327部発行

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 ◇ 目次 ◇
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【前編】
◇《巻頭言》「計算機アーキテクチャーの変化の波を越えるために」
 (守岡知彦:京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター)

◇「Digital Humanities/Digital Historyの動向」連載開始のお知らせ
 (人文情報学月報編集室)

◇《連載》「Digital Humanities/Digital Historyの動向
      ~2012年12月から2013年1月中旬まで~」
 (菊池信彦:国立国会図書館関西館)

◇《特別寄稿》「エジプト学におけるデータベースの利用例」
 (吉野宏志:筑波大学大学院人文社会科学研究科)

【後編】
◇DHイベント on Neatline公開のお知らせ
 (永崎研宣:人文情報学研究所)

◇人文情報学イベントカレンダー

◇イベントレポート(1)
「漢字文献情報処理研究会 第15回大会」
 (師 茂樹:花園大学)

◇イベントレポート(2)
「MLA2013」
 (Geoffrey Rockwell:University of Alberta)
 (日本語訳:滝浪佑紀・東京大学大学院情報学環、永崎研宣・人文情報学研究所)

◇編集後記

◇奥付

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【人文情報学/Digital Humanitiesに関する様々な話題をお届けします。】
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◇《巻頭言》「計算機アーキテクチャーの変化の波を越えるために」
 (守岡知彦:京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター)

 人文学研究におけるコンピューター利用ということを考えた場合、大量のデータ
からの情報検索の有用性はいまさら言うまでもないことだと思います。そのことを
認識した先駆者達は、現在のようにパーソナルコンピューターが安価で使いやすく
なり、スマートフォン、さまざまなモバイル機器が普及するようになる前から、研
究資料や文献等のデータベース化を試みてきました。こうした取組みは、徐々にそ
の対象分野やデータの規模を増やし、WWWの普及後はさまざまな情報サービスがイン
ターネット上で公開されるようになりました。

 その一方で、10年以上メンテナンスされ続けているデータベースや情報サービス
は必ずしも多くないような気もします。20年以上となると数える程ではないかと思
います。この理由は幾つか考えられますが、その理由のひとつは、これらの多くが
プロジェクト型競争的資金によって開発され、プロジェクト終了後には予算的・人
員的問題から十分な運用体制を取れず、機械の故障やセキュリティー対策、ソフト
ウェアのバージョンアップ等の問題が生じた時に対策することができないままやむ
なくサービスを終了してしまうということが考えられます。また、運用組織の改組
等によって受け皿を失ってしまったシステムもあったかも知れません。

 コンピューターシステムには、これまで、数年に一度位に、大きなアーキテクチャー
変化の波がやってきました。大形計算機(汎用機)からワークステーションやパー
ソナルコンピューターへの「ダウンサイジング」の波や、PC-9801からAT互換機への
波、DOSからWindowsへの波、サーバー用OSにおける商用UNIXからLinuxへの波、クラ
イアント環境としてのApple製品の流行といったハードウェアやOS等の変化の波もあ
りましたし、スタンドアローンからインターネット化への波、スマートフォンやタ
ブレットデバイス普及の波といった道具としてのコンピューターの位置付けの変化
もありました。

 また、Shift_JISからUnicode化の波という文字コードの変化やXMLの普及、RDBの
普及、RDBからNoSQLへの波というデータフォーマットの変化もありました(「ダウ
ンサイジング」の波では、汎用機の文字コードやデータ形式からの変化という非常
に大きな山を越える必要がありました)。

 長期にわたってデータベースや情報サービスを維持するためにはこうしたアーキ
テクチャー変化の波を乗り越える必要があり、それを乗り越えられなかったシステ
ムはサービスを維持できなくなったと思われます。あるいは、かろうじてサービス
を維持しても、古臭いインターフェースしか提供できずに使いにくくなってしまっ
たものもあるでしょう。コンピューター・アーキテクチャーは変化して行くので、
設計時に普及していた製品や技術、運用体制や使われ方といったもろもろの前提が
数年後には崩れてしまうということも少なくなかった訳です。

 こうした問題に対する経験則としては、特定の製品(特にプロプライエタリーな
もの)に依存したデータは作らず、なるべくオープンな標準や自由なソフトウェア
を使うようにするとか、メンテナンスし易い設計にするといったものが知られてお
り、実際に、多くの人が実践されていることだと思います。また、XMLやUnicodeの
登場によって、特定の対象や問題固有の複雑な構造を持ったデータやさまざまな種
類の文字といったものを可搬性の高い形で記述できるようになり、昔に比べればず
いぶん楽になったということはいえるかと思います。

 こうした知恵、即ち、アーキテクチャーの変化の波が訪れた時に、新しい環境に
合わせて書き換える自由を確保するということは、長期にわたってデータベースや
情報システムを生き延びさせるための必要条件だといえますが、必要に応じて書き
換える能力も備えていなければそれは絵に描いた餅に終わってしまうでしょう。こ
れには、数年から10年に一度位、データベースやシステムを大改修することを想定
しておく必要があると思われます。そのための人員や予算等を用意することも必要
ですし、設計や実装、運用に関する資料も必要です(長期にわたって運用し続ける
場合、人の入れ替わりが生じることも少なくありませんから、時が経つにつれて、
人的なワークフローも含めたシステム全体を把握することが徐々に困難になること
も少なくないでしょう)。

 新たに設計する場合、変更が容易なシステムにしておくことも重要だと思われま
す。例えば、プログラムやデータを版管理システムを用いて履歴管理することは既
に実践されている方も少なくないと思います。また、システム全体に対するインス
トーラーを書いておき、システムの引越しをし易くするのも有用でしょう。プログ
ラムに対してテストケースを書くことで変更を容易にするという「テストファース
ト」の考え方やリファクタリングによってシステムを綺麗にし、メンテナンス性を
向上させる取組みを行ってる方も増えているかも知れません。このように継続的に
システムを改良するプロセスを日常的なワークフローの中に入れておくことは数年
に一度大きなジャンプを行うよりも中・長期的に見れば楽な方法だと思われます。

 ただ、現状、大規模なデータベースのリファクタリングはあまり容易なことでは
ないといえます。これは現在主流となっている関係データベース(RDB)のスキーマ
を変更するのは必ずしも簡単でなかったり、データベースに対するテストケースが
書きづらかったりするといったことによると考えられますが、特に後者の問題は記
述対象に関する(メタ)知識の形式化の問題に関わるといえ、人文学的な知をいか
に情報科学の理論でモデル化し、機械可読化するかという、極めて人文情報学的な
問題のひとつだと思われます。しかしながら、現状、こうした人文情報学的な理論
的研究は必ずしも盛んであるとはいえず、今後の発展が望まれる分野のひとつだと
思います。また、データベースや情報システムはコンピューターシステムだけでは
なく、人間の営みを含んだシステム全体をとらえる必要があり、利用者も含めたデー
タベースや情報システムをめぐる情報の生態系を分析することも重要かも知れませ
ん。いずれにしても、大規模なデータベースや情報システムを低コストでメンテナ
ンスするためには自動化が欠かせませんが、そのためには対象となるシステムやデー
タに関する知識が適切にモデル化され、機械可読化されている必要がある訳です。
人文情報学的な研究対象のややこしさ(^_^;を考えれば、これは必ずしも容易なこと
ではないですが、近年、Linked Open DataやセマンティックWebといったWeb上の情
報資源に対して知識処理技術を適用しようという動きが盛んになってきたおかげで、
こうした問題を解決するための道具も徐々に増えつつあるような気もします。

 いずれにしても、データベースや情報システムの継続を阻む要因はいろいろあっ
て、逆にいえば、そうした苦労を乗り越えて運用している方々に感謝の言葉を送り
たいと思います。また、人文情報学という学知を支える重要な一部として、メンテ
ナンスやリファクタリングという行為に対して関心を持って頂ける方が増えれば幸
いです。

執筆者プロフィール
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守岡知彦(もりおか・ともひこ) 京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学
研究センター助教・博士(情報科学)。主な研究テーマは知識処理技術に基づく文
字表現と一般キャラクター論。この他、古典中国語の形態素解析器に関する研究や
東洋学文献類目データベースの開発・運用等も行っている。

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◇「Digital Humanities/Digital Historyの動向」連載開始のお知らせ
 (人文情報学月報編集室)

 インターネットが全盛となり、Twitterやブログなど、簡単に情報発信したり公開
で議論をしたりする仕組みが広く受容されつつある現在、とりわけ、オープンアク
セスに力を入れる研究者が多いデジタル・ヒューマニティーズの世界では、多くの
情報がWebで公開され、時間さえあれば誰でも最先端の情報を収集し、最古の資料に
アクセスし、さらには、そのアクセスの仕方について議論したりさらなる研究・開
発に取り組むこともできるようになってきています。しかし、一方で、その情報量
は膨大なものであり、日本語以外の情報で流通しているものが多大な割合を占めて
いることからしても、常に情報を追い続けるというのはなかなか難しい状況となっ
ています。

 本メールマガジンの一つの目標は、そのような状況を改善することにあり、これ
まで、巻頭にて気鋭の研究者にご寄稿いただくとともに各地のデジタル・ヒューマ
ニティーズ関連のイベントレポートを掲載し、さらに、折に触れて特別寄稿を掲載
するという形式をとってまいりました。このたび、その目標へ向けてさらに前進す
べく、これに加えて、Digital Humanities/Digital Historyの動向に関する記事を
連載していくことにいたしました。

 この連載では、海外の関連する情報について、特に注目に値するものを中心に、
簡潔にご報告いただき、歴史学を中心にした人文学におけるデジタル化に関する全
体の状況を概観できることを目指しております。執筆は、現在、国立国会図書館に
てカレントアウェアネス・ポータル( http://current.ndl.go.jp/ )を執筆・編集
するとともに、ブログ「歴史とデジタル」( http://historyanddigital.tumblr.com/
を主宰しデジタル・ヒストリーの研究を行っている歴史学研究者、菊池信彦氏が引
き受けてくださることになりました。本連載が読者のみなさまのご関心に貢献でき
ましたら幸いです。

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◇《連載》「Digital Humanities/Digital Historyの動向
      ~2012年12月から2013年1月中旬まで~」
 (菊池信彦:国立国会図書館関西館)

○はじめに
 この連載記事では、最近1か月の、主に英米圏におけるDigital Humanities/
Digital Historyの動向について紹介を行う。今回は初回ということで、2012年12月
から2013年1月中旬までの1か月半を対象とした。以下からは、当該テーマについて、
「新聞・ブログ記事」、「イベント」、「プロジェクト・ツール」、「論文・学術
雑誌・研究書」、「レポート・報告書」の5項目に分け、各項目内で時系列順にトピッ
クを紹介していく。また、読者の利便性を考え、各記事末には参照文献のURLを記載
した。

○新聞・ブログ記事
 2012年12月4日、Adam Crymble(キングス・カレッジ・ロンドン博士課程学生)が
自身のブログ“Thoughts on Public & Digital History”に、“How to Download
Multiple Records using Python”という記事を掲載している。歴史研究者にPython
を使った研究手法を伝える“Programming Historian 2”の一つのモジュールを公開
したというものである。
http://adamcrymble.blogspot.jp/2012/12/how-to-download-multiple-records-...

 2013年1月5日、HASTACのブログに、“Digital History: Recap of the“Two-Part
Series””という記事が掲載された。これは、2012年10月から12月にかけてHASTAC
のDigital Historyグループのメンバーが、Digital Historyに関するトピックにつ
いて毎週リレー形式でポストし続けたシリーズ記事全8件を紹介したまとめ記事とな
っている。
http://hastac.org/blogs/tinadavidson/2013/01/05/digital-history-recap-%E...

 1月14日に“The Emergence of the Digital Humanities”というブログが立ち上
げられている。運営者はSteven E. Jones(ロヨラ大学)で、ブログと同名の図書を
2013年8月にRoutledge社から刊行予定とのことである。ブログでは同書に関連した
情報を掲載するという。
http://emergenceofdhbook.tumblr.com/

○イベント
 2012年12月13日から14日にかけて、フィレンツェでAssociazione Informatica
Umanistica e Cultura Digitaleの第1回大会が開催された。会議後に掲載された記
事では、今後もメンバー間での連携協力が図られることになっており、また、近々
Digital Humanitiesの雑誌を創刊するとのことである。
http://www.umanisticadigitale.it/archives/254

 12月21日から1月11日まで、第1回目となるDigital Humanities Awardsのノミネー
ト募集が行われた。これは、分野・言語・組織等を問わずDigital Humanitiesに関
する成果を称える年1回のアワードとして創設されたものである。選考委員会には、
人文情報学研究所の永崎研宣氏も名を連ねている。
http://dhawards.org/

 2013年1月3日から6日まで、アメリカ歴史学会(AHA)の2013年年次大会
(AHA2013)がニューオーリンズで開催された。昨年同様THATCamp が催されたほか、
“The Public Practice of History in and for the Digital Age”等のDigital
Hisotry関連のセッションが行われており、Digital Historyに対するアメリカ史学
界の関心の高さがうかがわれる。また、Modern Language Association(MLA)も同
じ1月3日から6日までボストンで年次大会を開催し、ここでもTHATCampをはじめいく
つかのDigital Humanitiesのセッションが開催された。これらの詳細については、
Digital Humanities Nowが、関連情報をまとめている。
http://digitalhumanitiesnow.org/2013/01/editors-choice-aha2013-and-mla13...
http://blog.historians.org/what-we-are-reading/1904/what-were-reading-12...
http://dhcommons.org/mla2013
http://www.mla.org/convention

○プロジェクト・ツール
 2012年12月3日、バッファロー大学のAlex Reid准教授とDan Schweitzer(博士課
程学生)による共同プロジェクト“Digital Humanities Interview Project”が公
開された。Digital Humanitiesの研究者に対するインタビュー動画を作成・公開す
るものである。
http://dhinterviews.org/

 12月6日、Folger Shakespeare Libraryがシェイクスピアの戯曲12編のテキストを
収めた“Folger Digital Texts ”を公開している。
http://www.folgerdigitaltexts.org/

 12月7日、英国JISCやポーツマス大学の研究者らが、第二次世界大戦期のドイツに
よるロンドン大空襲(The Blitz)での爆撃地点をマッピングしたプロジェクトサイ
ト“Bomb Sight”を公開した。
http://www.bombsight.org/

 12月25日、国立国語研究所が「日本語歴史コーパス(先行公開版)」を公開した。
なお、利用にあたっては申込が必要となっている。
http://www.ninjal.ac.jp/corpus_center/chj/

 2013年1月1日からEUのFP7の一部として“tranScriptorium”というプロジェクト
が開始された(2015年12月31日までの時限付き)。手書きテキストの認識技術
(Handwritten Text Recognition)を用いて、歴史的な手書き文書画像のインデキ
シング、検索、全文テキスト化の手法を開発するというものである。
http://transcriptorium.eu/

 1月8日、British Libraryが新ブログ“Digital Scholarship Blog”を開設した。
デジタル技術を活用した研究に対する支援をテーマに情報発信を行うとのことであ
る。
http://britishlibrary.typepad.co.uk/digital-scholarship/

 1月8日、スタンフォード大学歴史学部のJason Hepplerが“What Is Digital
Humanities?”というウェブサイトを公開した。これは、2009年から2012年までのDay
of Digital Humanitiesにおいて、イベント参加者が発信したそれぞれの「Digital
Humanitiesとは何か?」を紹介するものである。ページをリロードすることで参加
者のDigital Humanitiesの定義がランダムに表示される。
http://whatisdigitalhumanities.com/

 2012年末に、高・中・低所得経済国をまたいでDigital Humanitiesの研究者間の
連携促進を目指すプロジェクト“Global Outlook::Digital Humanities(GO::DH)”
が結成され、2013年1月14日に、Alliance of Digital Humanities Organizations
(ADHO)の最初のSpecial Interest Groupとして認定された。
http://www.globaloutlookdh.org/

 1月17日、TEI P5のバージョン2.3.0がリリースされた。
http://textencodinginitiative.wordpress.com/2013/01/17/tei-p5-version-2-...

○論文・学術雑誌・研究書
 2012年12月に季刊誌“Journal of Digital Humanities”の第1巻4号が刊行された。
デジタル技術を活用した研究成果や活動に対する評価を特集テーマとしている。
http://journalofdigitalhumanities.org/

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◇《特別寄稿》「エジプト学におけるデータベースの利用例」
 (吉野宏志:筑波大学大学院人文社会科学研究科)

1.はじめに
 「エジプト学(Egyptology)」とは、古代エジプト文明の様々な側面を学問する
研究分野の総称である。歴史学、考古学、文学、宗教学、社会学、建築学、美術な
ど、実に様々な研究分野が含まれている。エジプト学の中心はヨーロッパや北アメ
リカにあり、同地域にある大学等の研究機関からは紙媒体から電子媒体まで数多く
のデータベースが作られ提供されている。また、近年ではパソコンやインターネッ
トの普及に伴って、個人研究者でも容易にデータベースの構築と提供を行なえるよ
うになり、日本の研究者によるものも見られるようになっている。

 エジプト学でデータベースが用いられる用途として、(1)文献目録、(2)所蔵
品のリスト、(3)特定の分野の事典・辞書、(4)データベースのデータベースが
挙げられる。ここでは特に電子媒体で提供されるデータベースについて具体的な利
用例を見ていく。

2.文献目録
 インターネット上で利用可能な文献目録として最も有名なのはOEB(Online
Egyptological Bibliography)(*1)だろう。その前身は1947年からオランダ・ラ
イデン大学で運営されていたAEB(Annual Egyptological Bibliography)で、2009
年にイギリス・オックスフォード大学への移転とともに現在の名称へ変わった。会
員制のデータベースではあるが、CD-ROM形式でも提供されており、大学の図書館な
どを通じて使用することができる。OEBはChristine Beinlich-Seeberの著作
『Bibliographie Alta"gypten』をもとに1822年から現在までのエジプト学に関する
出版物のデータを獲得している。また2009年には、OEBと並ぶ文献目録である
AIGYPTOS(ミュンヘン大学)(*2)と統合して、より包括的サービスを提供できる
ようになった。この統合により2012年中にAIGYPTOSは無償でのサービス提供を終了
する。

 書籍情報のデータベースは、その研究分野に関わらず文献研究を行う上で欠かせ
ない。半世紀前や19世紀の資料を用いる場合がある。紙媒体の文献目録は定期的に
出版されていたようだが、デジタル化されオンラインで使用可能になったことによ
り常に最新の文献リストを手に入れることができるようになった。

 また、著作権が切れたものや著者自身が公開している論文など、文献そのものが
インターネット上(例えばGoogle BooksやInternet Archiveなど)に置かれるよう
になり、文献目録は単に書籍情報を得るだけでなく直接その文献にアクセスするこ
とも可能となった。そのような文献目録として、The Egyptologists' Electronic
Forum(EEF)(*3)やETANA(*4)などがある。

3.大学や博物館の所蔵品のデータベース
 所蔵品の情報のデータベースを提供している大学や博物館には、ロンドン大学(
Digital Egypt for Universities)(*5)、オックスフォード大学グリフィス研究
所(Electronic resources from the Griffith Institute Archive)(*6)、ミュ
ンスター大学(Aegyptiaca: Datenbank Literatur A"gyptologie)(*7)、大英博
物館(*8)などがあり、遺物の画像だけでなく、文字資料の翻字や翻訳などデジタ
ル化資料も多数オンラインで提供されている。またシカゴ大学のオリエント研究所
では新たに研究所の博物館所蔵品を中心としたデータベースを構築しており、近い
うちに公開されるようである。

 概してインターネット上で手に入れることのできる遺物の画像は低画質であった
り、展示された状態のものをガラスケース越しに撮影したものであったりするため、
細部の詳細な調査を行なうには適していない。しかし大英博物館は高画質画像のサー
ビス(free image service)を提供しており、問い合わせをすれば誰でも無償で画
像を受け取ることができる。大英博物館の画像提供サービスは利用するにあたり登
録作業が必要で、個々の資料について申請する必要がある。若干の手間と時間がか
かるものの、用途によってはこのサービスで事足りるし、実際に現物を見る必要が
ある場合でも大英博物館を訪れる前に予備調査的な使い方ができる。

 またエジプト学ではラテン文字などで翻字された文字資料を「1次資料」として用
いられる傾向(悪習?)があるので、資料によっては半世紀前に写真が紙媒体で出
版されただけということもある。そういった点で、大英博物館のこのサービスは文
字資料を扱う研究分野においても役に立つ。

4.特定の地域や史料・資料のデータベース
 特定の地域についてのデータベースは、Giza Archive Project(ギザ)(*9)、
Saqqara.nl(サッカラ)(*10)、Deir el-Medina Database(デル・エル・メディ
ナ)(*11)やDeir el Medine online(デル・エル・メディナ)(*12)、Theban
Mapping Project(テーベ)(*13)やネクロポリステーベデータベース(テーベ)
(*14)などがある。(ギザとサッカラは三大ピラミッドや初期の王達が埋葬された
ネクロポリス(「死者の街」)があるエジプト北部の古代都市メンフィスだ。また
デル・エル・メディナはツタンカーメンやラムセス2世らの時代に「王家の谷」で王
墓を作った職人の町、テーベは同時代における宗教の中心地だった。)

 また特定の種類の資料を扱ったデータベースでは、例えば、壁画をその内容から
検索することができるOxford Expedition to EgyptのScene-details Database
(*15)や、葬送用コーンと呼ばれる遺物の膨大なデータをまとめたThe World of
Funerary Cones(銭廣健人氏)(*16)などがある。

 これらのデータベースでは世界各地の大学や博物館などに収められている所蔵品
や研究成果を横断的に、単一のテーマのもとで調べることができる。特に特定の地
域に特化したものは地図上の遺跡(例えば王墓)を選ぶと、その遺跡に関する情報
が得られる。これらの情報は、建築や宗教はもちろん、実際の社会がどのような姿
であったのかを知る手がかりとなり、使用されていた建材や素材は古代の植生や物
品の流通や輸送方法などの研究にも役立てることができる。

5.関連ウェブサイトのデータベース
 インターネット上のエジプト学関連ウェブサイトのデータベースとして代表的な
のはSISYPHOS(ハイデルベルク大学)(*17)である。このデータベースには個人研
究者によるウェブサイトも多分に含まれている分、その情報量は非常に多い。リン
ク先のウェブサイトの質には確かに偏りがあるが、個人研究者のプロフィールや業
績を参照する手段としても役立つ。

6.字形の画像データベース
 画像を用いたデータベースのうち、字形を扱ったものは多くない。辞書形式のも
のは、シカゴ大学オリエント研究所のウェブサイトでPDFでも公開されているThe
Chicago Demotic Dictionary(*18)のように研究機関が主体となっているものから、
古代エジプトのファンが自らまとめたものまで多数ある。しかし字形そのものにつ
いては半世紀以上前の研究者たちがそれぞれ独自な分類や区別を行い、それを現在
でも利用している。

 そんな中、ヒエラティックと呼ばれる筆記体の字形の画像データベースの構築が
永井正勝氏(筑波大学人文社会学系準研究員)によって進められている。まだ一般
に公開されていないが、半世紀以上前に紙媒体で出版された字形リストのデジタル
化およびタグ付けを行って全3巻の膨大な字形リストを横断的な検索を可能にしたも
のや、大英博物館に所蔵されているアボット・パピルス(新王国時代の墓泥棒に関
する行政文書)の高解像度画像を用いた字形のデータベースなどが研究されている。

7.おわりに
 これらのデータベースは個人研究者の尽力による成果物である場合もあり、HTML
で記述されたものや検索フォームのないものも目立つ。だが近年データベースの統
廃合が進んでおり、新たなデータベースについてはXMLの利用率が高いことも分かっ
た。日本の古代エジプト研究者たちは特に考古学の分野で世界的に活躍しているが、
データベースという点ではヨーロッパやアメリカが常に先陣を切っているようだ。
日本の人文情報学のさらなる発展とともに、日本のエジプト学でもデータベースの
利用がこれまで以上に活発になることを期待したい。

(*1) http://oeb.griffith.ox.ac.uk
(*2) http://www.aigyptos.uni-muenchen.de
(*3) http://www.egyptologyforum.org
(*4) http://www.etana.org
(*5) http://www.digitalegypt.ucl.ac.uk
(*6) http://www.griffith.ox.ac.uk/gri/4elres.html
(*7) http://www2.ivv1.uni-muenster.de/litw3/Aegyptologie/index01.htm
(*8) http://www.britishmuseum.org
(*9) http://www.gizapyramids.org
(*10) http://www.saqqara.nl
(*11) http://www.leidenuniv.nl/nino/dmd/dmd.html
(*12) http://dem-online.gwi.uni-muenchen.de
(*13) http://www.thebanmappingproject.com
(*14) http://www.littera.waseda.ac.jp/egypt/index_j.html
(*15) http://www.oxfordexpeditiontoegypt.com
(*16) http://www.funerarycones.com
(*17) http://www.ub.uni-heidelberg.de/helios/sisyphos/Englisch/Welcome.html
(*18) http://oi.uchicago.edu/research/pubs/catalog/cdd

*特殊文字については次のように表記しました。
ウムラウト:a"

執筆者プロフィール
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吉野宏志(よしの・ひろし)筑波大学大学院人文社会科学研究科文芸・言語専攻。
研究分野は歴史比較言語学。古代エジプト語およびアフロアジア諸言語の動詞活用
について形態論的研究に取り組んでいる。古代語の研究では文献学の重要性が非常
に高いことから、文献資料のデジタル化に興味を持っている。また、アフリカの少
数言語をフィールドワークによって調査研究しているため、一次資料である音声デー
タの検索可能なデータベース化にも関心がある。

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今号より、【前編】と【後編】に分けて配信しています。続きは【後編】にて。

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人文情報学月報 [DHM018]【前編】 2013年01月31日(月刊)
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