ISSN 2189-1621

 

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DHM 115【前編】

人文情報学月報/Digital Humanities Monthly


人文情報学月報第115号【前編】

Digital Humanities Monthly No. 115-1

ISSN 2189-1621 / 2011年8月27日創刊

2021年02月28日発行 発行数636部

目次

【前編】

  • 《巻頭言》「デジタル・シフトとデジタル日本研究の未来
    Paula R. CurtisYale University
  • 《連載》「Digital Japanese Studies 寸見」第71回
    DH Awards 2020開催
    岡田一祐北海学園大学人文学部

【後編】

  • 《連載》「欧州・中東デジタル・ヒューマニティーズ動向」第32回
    人文学のための深層学習・多層人工ニューラルネットワークを用いた光学文字認識(OCR):kraken を中心に
    宮川創関西大学アジア・オープン・リサーチセンター「KU-ORCAS」
  • 人文情報学イベント関連カレンダー
  • イベントレポート「ワークショップ「古代文献の言語分析から読み解く社会背景のダイナミズム」
    塚越柚季東京大学大学院人文社会系研究科
  • 編集後記

《巻頭言》「デジタル・シフトとデジタル日本研究の未来

Paula R. CurtisPostdoctoral Associate and Lecturer in History, Yale University

2020年は、デジタルへの予期せぬ急速な転換をもたらしました。新型コロナウイルスの大流行の背後で、教育研究機関はリモート学習とオンライン業務に軸足を移すことにせまられ、多くの人々はこの突然の変化により人文社会科学がどのような影響を被るのか疑問に思っています。確かに、多くの人々が「デジタル・シフト」と呼ぶものは、この世界的な緊急事態によって加速化しています。世界中で、デジタル教育、デジタル研究、デジタル化、そしてデジタル・ヒューマニティーズが、これまで以上に広範に、教育・研究のための革新的で利用可能な方法の意義について語る際に重要な位置を占めるようになりました。では、この「デジタル・シフト」は、デジタル・ヒューマニティーズと日本研究とが交差する場においてどのような意味をもつのでしょうか。2020年、研究者たちは個人としても研究者としても多くの課題に直面しましたが、この変化はまた成長中のデジタル日本研究の分野において、これまで以上の国際的な協力関係を生み出す機会を与えてくれています。本稿では、この変化がもたらした諸課題を特定し、今が急成長するコミュニティを更に成長させる好機であることを明らかにし、今後、我々がどのような方向に向かっていくのか見通しを示したいと思います。

私のデジタル・ヒューマニティーズの経歴は前近代の日本に関する歴史家としてのものでありますが、Hoyt Long(シカゴ大学)、Molly Des Jardin(ペンシルベニア大学)、Mark Ravina(テキサス大学オースティン校)が主催したシンポジウム「The Impact of the Digital on Japanese Studies」に参加した2016年以降、デジタル・メソッドについて本格的に考えるようになりました。当時、私はデジタル・ツールを使って中世資料を首尾よく処理できるのか疑問に思っていました。これらの疑問がこのシンポジウムでの私の発表の中心課題であり、自分の研究においてデジタル・メソッドの追求が有益であるのか判断するために、私はネットワーク分析について独学しました。最終的に、手許の資料に基づきデータ・セットを作成し、Cytoscape や Palladio などのツールを介して人と人との繋がりを調査することを通じて、研究対象とする旧来の歴史資料について新たな見通しを得ました。すなわち、中世日本における文書によるやり取りの失われたネットワークについて仮説を立てることができ、この発見は私の最終的な研究成果の一部を構成することになりました。しかし、デジタルを用いての分析は私の研究活動の中心ではなく、単に裏側で機能するプロセスに過ぎません。では、私は「デジタル・ヒューマニスト」なのでしょうか?また、「デジタル・ヒューマニティーズ」に参画するとは、一体どういうことなのでしょうか?これらは当時自問したことであり、デジタル・シフトがかつてなく急速に進む現在、主にオンラインで活動することを余儀なくされている多くの人々も同じ問いに直面しています。「デジタル・ヒューマニティーズ」とはいかなるものであり、どのような可能性をもっているのか、このことに関するそもそもの曖昧さは人々の不安を深刻なものとするばかりです。

私は技術を身につけ、経験を積むにつれて、この問いに悩まされることが少なくなりました。しかし、多くの人々にとっては、この不安はデジタル・ヒューマニティーズに関する基礎知識とトレーニングの不足に由来しています。このような、デジタル・ヒューマニティーズは近寄りがたいという認識は、Stephen Ramsey が考えたことである程度説明できます。すなわち、デジタル研究の初期の進化が「DH 1」、つまり TEI のような高度な符号化や大規模な、しばしば文学的なコーパスの分析に向けた「ヒューマニティーズ・コンピューティング」であり、それに対するものが「DH 2」、つまりプログラミングの「細かい」専門知識なしにデジタル手法を用いて人文学的な探究をしていると現在多くの人が考えているもののことです。デジタル・ヒューマニティーズの経験が不足している人々は、デジタル・ヒューマニティーズのことを「DH 1」のようなもの、すなわち、計算機科学分野の専門的なものから導き出される難解なものであると想像してしまいます。とはいえ、デジタル・ヒューマニティーズには、多様なスキル・セット、ツール、研究メソッドが含まれています。日本研究に携わる人々はデジタル・メソッドの利用について二重の不安に直面しており、多くの時間とトレーニングが必要となることの他、成功と確信への別のハードル、すなわち、非西洋言語に固有のニーズに合わせて特定のツールを誂える方法が不明確であることに直面して、デジタル・ヒューマニティーズという分野に参入することにためらいを覚えています。

しかし、日本研究は比較的ニッチな分野であり、デジタル・ヒューマニティーズと交差する場であるので、今は助け合い、これらの障害を克服し、技能・経験値を問わず研究者を迎え入れる環境を作り出すまたとない好機です。近年の兆候として、日本研究のコミュニティにもデジタル・スカラシップ、共同研究、参入の進展を可能にする準備が整ってきました。

2016年のシンポジウム以来、このイベントに参加した少人数のグループは、日本研究の研究者間の交流と意見交換を促進するために、2017年にエモリー大学で開催されたワークショップ「Japanese Language Text Mining」や2018年にシカゴ大学で開催されたワークショップ「The Impact of the Digital on Japanese Studies, Redux」など多くの場を設けることに取り組んできました。Association for Asian Studies(AAS)がデジタルに携わる東アジア研究の研究者の支援を一層強化していこうとする中で、AAS 2019では、デジタル・ヒューマニティーズについて議論するためにワーキンググループ・セッションがもうけられ、50名強が参加しました(日本研究の研究者は私を含め2名だけでした)。ここで、私は日本研究におけるデジタル・スカラシップのコミュニティ・スペースを積極的に作り出すことが必要であると確信しました。以来、デジタル・リソースのウィキとメーリング・リストを管理する Digital Humanities Japan initiative を通じて、オンラインでの活動に努めてきました。AAS 2019では、初めて Digital Technology Expo がもうけられました。翌年、この取り組みは更に推し進められ、応募者はワークショップの運営、円卓会議でのプレゼンテーション、ライトニングトークに参加しました。そのうち、約12.5%は日本関連のものでしたが、それに対して中国関連のものは37.5%と多数を占めていました。Hoyt Long がかつて論稿中で指摘していたように[1]、デジタル日本研究はなかなか拡大しない分野です。しかし、日本研究の研究者の間での関心は確実に高まってきています。総じて、海外(日本を含む)から AAS に参加する研究者は増えており、それは励みになっています。

それでも、この分野は北米という環境だけでは成長することはできず、また成長すべきでもありません。革新的な研究と実りあるプロジェクトを持続させるためには、国際的な共同研究を更に進める必要があります。国際的な連携を築くことに、大学院生や若手研究者は大きな関心を寄せています。しかし、自分の業績がどのように受け取られるのかという個人的な不安に加えて、日本の研究者との接触をどのように始めるべきか(どの言語を使用するか、粗忽と見られないか、誤解されないかなど)が分からないという不安も抱えています。また、最も重要なデジタル・ヒューマニティーズの学会が何であるのか、そこでの参加者に何が期待されているのかも分かりません。日本の研究者が海外の学会に参加するときと同様に、海外の研究者は日本における学会の文化を理解していないのではないかと心配しています。

とはいえ、デジタル・シフトにより、国際的な共同研究と意見交換の場を創出するためのオンラインでの交流は双方にとってより受け入れやすいものとなっています。たとえば、2020年6月から12月にかけて、私は中世資料に関する「日本史史料英訳ワークショップ」の一環として東京大学で開催された歴史家たちのためのワークショップに招待されました。日本の研究者たちとメールや Zoom で協働し、醍醐寺文書、御成敗式目、金沢文庫文書の一部を用いて、日本の若手研究者を対象とした中世資料の翻訳・解釈に関する3つのワークショップを開催しました。オンラインでの共同研究と会合というすばらしい経験を積んだことで、私たちは将来的に共同で研究成果の公表に取り組み、翻訳した資料を金沢文庫文書のウェブサイトに統合することを計画しています。パンデミックが発生する以前は、この種のワークショップがヴァーチャルな空間で開催されることはほぼありませんでしたので、ネットワーキングと学術交流の場を創出するためには、より多くのエネルギーを投入する必要があります。

このことは、日本と海外の研究者の間を橋渡しする場が他にないことを意味しているわけではありません。2019年6月3〜7日、永崎研宣(人文情報学研究所)、山田太造(東京大学史料編纂所)、関野樹(国際日本文化研究センター)、北本朝展(情報・システム研究機構データサイエンス共同利用基盤施設人文学オープンデータ共同利用センター)、橋本雄太(国立歴史民俗博物館)、中村覚(東京大学情報基盤センター)の研究者6名が、ビクトリア大学の Digital Humanities Summer Institute(DHSI)で「Digital Humanities for Japanese Culture: Resources and Methods」と題したコースを実施しました。このイベントは、日本デジタル・ヒューマニティーズ学会(JADH)と情報処理学会人文科学とコンピュータ研究会の共催によるものであり、大学院生、テニュア教員、図書館員を含む11名が参加しました。このコースでは、IIIF、TEI、みんなで翻刻、東京大学史料編纂所のアーカイブとマッピング・プロジェクト、HuTime などのトピックが取り上げられました。ここで明らかになったのは、北米には日本を主な対象としたツールについて基本的な手引きがなく、デジタル・ヒューマニティーズに関心をもつ日本研究の研究者には、新たなプロジェクトおよび研究について学んだり、共同研究を構築するために交流したりする機会のある者が少ないということです。

したがって、デジタル・シフトを相互理解を促進する好機として利用することがこれまで以上に重要になっています。DHSI は私たちがまだまだ異なる世界に住んでいることを示しています。昨夏、AAS 2020において、日本研究の将来に関する円卓会議をヴァーチャル開催したときも、このことが明らかとなりました。日本人の研究者が1名しか参加しなかったのです(しかも、その研究者は米国に本拠を置く機関の所属でした)。つまり、デジタルで関与する機会を創り出すヴァーチャルな環境においてさえも、日本の研究者に日本研究について意見を求めることは難しく、彼らの声は聞くことができなかったのです。現在、米国における日本研究に関わるデジタル・ヒューマニティーズの研究者は、デジタル・スカラシップに積極的に取り組むようより多くの学生および教員に促しています。2021年6月にはシカゴ大学で日本研究のためのテクストマイニング・ワークショップを開催する計画があります。また、同じく6月には、私がペンシルベニア大学の Dream Lab(デジタル・ヒューマニティーズのワークショップ)で「Digital Humanities & East Asian Studies」というコースを中国文学の専門家である Paul Vierthaler(ウィリアム・アンド・メアリー大学)と共同で担当することになっています。このコースは、デジタル・ヒューマニティーズに不慣れであり、東アジア研究というコンテクストの中で行われるこのデジタル・ヒューマニティーズのトレーニングから最も恩恵を受ける大学院生と任期付教員を対象としています。また、全てのイベントはヴァーチャルで開催されます。受け入れ可能な学生数は20名に過ぎませんが、すでに世界中からその3倍近くの応募がありました。本稿を書いている時点で、申請の締め切りはまだ一ヶ月先であり、デジタルという手段を介してのこの貴重な繋がりを求めて、更に多くの人々が応募することでしょう。

デジタル・シフトは、北米における研究者の雇用にも影響を及ぼしています。近年、様々な分野の求人において、新規採用の教員にはデジタル・ヒューマニティーズの専門知識が求められることが強調され、また、デジタル・スペシャリストを採用することが明記されています。例えば、2021年、ジョージ・メイソン大学は「デジタル・ヒストリー」というポストを公募し、Roy Rosenzweig Center for History and New Media と協力してデジタル・ヒューマニティーズのメソッドを教授できる歴史家または美術史家の採用を目指していました。ワシントン大学は、デジタル研究について25%、他の分野(歴史、古典、アジア学など)について75%任用する「人文学データサイエンス」というポストを公募しました。現在、ハーバード大学は2年間のポスドク枠として Reischauer Institute Japan Digital Fellowship をもうけ、デジタル・スカラシップ・イニシアチブを主導および促進しようとしています。しかし、西洋の学界はまだデジタル・ヒューマニティーズに対応しきれていません。日本研究などでデジタルの研究者の数が比較的少ないのは、この種の最先端の研究に関するテニュア評価のシステム設計がなされていないことが理由の一つであり、(大学)執行部にはそのような業績を評価することが難しいのです。Tristan R. Grunow(パシフィック大学)が「“Making it Count”: The Case for Digital Scholarship in Asian Studies」という論稿の中で述べているように[2]、高等教育に対する大きな脅威のために学界とアジア研究は危機に瀕していますが、まさしく今は私たちが未来を念頭に価値観を再構築する好機です。デジタル・スカラシップと共同研究はそのような未来像の一部であり、学術機関はそのことを認識すべきです。

2016年以来、私はデジタル日本研究の研究者が築き上げてきたこの断続的な繋がりについて思いをめぐらせてきました。また、このような困難な環境下で革新的な業績を産み出そうと苦心してきた人々がどれだけいたのか考えてきました。私たちは海や国境を越え、自分たちの業績の重要性を明示することに、より大胆に挑む必要があります。10年以上前に Kathleen Fitzpatrick(ミシガン州立大学)が次のように言っています。「[デジタル・ヒューマニティーズにおいて]私たちが幾度も直面する重大な問題とは、共同研究プロジェクトへの参加の奨励、健全な保存と持続可能な実践の開発、制度変更への誘導、今後の数年間における学術研究の方法に関する新たな思考の促進といったものですが、それは技術的なものではなく、むしろ社会的なものです」と[3]。しかし、これらの問題は依然として解決していません。

デジタル・シフトが転機であるとするならば、デジタル・ヒューマニティーズと日本研究の専門知識とを異なる国や大陸の2つの個別の分野として扱うのではなく、両者が交差するところを新たな方向性を共に築く場と見なすよう心掛けるべきです。昨年、我々は困難に直面しましたが、このデジタル・ヒューマニティーズへの転換を利用して、この変化をデジタル日本研究というサブディシプリンとして躊躇せず受け入れることを私は願っています。このような取り組みを通して、私たちは知的交流に対してよりオープンになり、共同研究の新しい方法を見出し、言語、文化、およびディシプリンを越えて相互理解を深めることができるのです。

[1] ホイット・ロング「人文情報学と日本研究:北米からの報告」『人文情報学月報』第78号【前編】、2018年1月。
[2] Tristan R. Grunow, ““Making it Count”: The Case for Digital Scholarship in Asian Studies,” Association for Asian Studies (6 September, 2020), accessed 27 February, 2021, https://www.asianstudies.org/making-it-count-the-case-for-digital-scholarship-in-asian-studies/.
[3] Kathleen Fitzpatrick, “Reporting from the Digital Humanities 2010 Conference,” The Chronicle of Higher Education (13 July, 2010), accessed 27 February, 2021, https://web.archive.org/web/20130704180701/http://chronicle.com/blogs/profhacker/reporting-from-the-digital-humanities-2010-conference/25473.

(訳:青野道彦・永崎研宣

執筆者プロフィール

Paula R. Curtis(ポーラ・カーティス)。専門は日本中世史。現在、イェール大学の Council on East Asian Studies でポスドク研究員および歴史学講師を務める。12世紀から16世紀までの鋳物師組織と支配層との関係に焦点を当て研究を進めている。Digital Humanities Japan initiative、東アジア関連のデジタル・リソースのオンライン・データベース、東アジア研究における雇用機会に関するデータ収集・分析などの複数のオンライン・プロジェクトに参画している。
Copyright(C) Curtis, Paula R. 2021– All Rights Reserved.

《連載》「Digital Japanese Studies 寸見」第71回

DH Awards 2020開催

岡田一祐北海学園大学人文学部講師

DH Awards 2020が今年も開催されている[1]。この催しについては、すでに2回ほど触れているが[2]、今年も動向を見てみたい。

そもそも、この催しは、「副題を Highlighting resources in Digital Humanities とし、前年に始められたり、おおきなリニューアルを迎えたりした DH にまつわるリソースのなかから、いいものをみんなで選ぼうという試みである」[3]。自薦他薦をとわず、また、適性審査もない、コミュニティ内のお祭りである。前回は、受賞作品を中心に取り上げたが、今回は、配信がぎりぎり投票に間に合うはずなので、不偏の趣旨で紹介を試みる。今回は、特別部門として、「COVID-19 に対する DH 的対応」部門が設けられているほか、前回からは部門の並べ方が異なるようである。固定させない以上の意味はないのかもしれないが、掲載順にあわせて紹介を行うので念のため書き記しておく。

さて、今回は14件の応募があった「ブログ」部門からである(単一ないし一連の記事)。Center for Digital Humanities at Princeton Updates は、同センターの関係者が自由に同センターの取り組みについて議論を展開する場のようである。DH Lab at the Leibniz Institute of European History は、学術ブログプラットフォームである hypotheses.org で展開される独立研究所のライプニッツ・ヨーロッパ史研究所デジタルヒストリーラボのブログで、DH 向け Python 講座などもある。Gerastertes Wissen. Pixel in Kultur und Technik は、名前のとおり、文化や技術におけるピクセルの意義というものを考えるプロジェクトの情報発信の場であるようである。Mapping the Scottish Reformation Blog – A database of the Scottish clergy, 1560 to 1689 は、スコットランド宗教改革に関する地図化プロジェクトのブログである。プロジェクトの進捗や意義の説明などがある。Meeting in Virtual Reality | King’s Digital Lab は、コロナ禍下に VR 環境において集まる試みの可能性についてのブログ記事。MetoDHology は、コミュニティ基盤クラウドソーシング環境についての方法論について、さまざまな分野から取り組みを紹介することを目的とした議論の場ということである。Multilingual Jekyll: How The Programming Historian Does That は、Matthew Lincoln 氏の Programming Historian のページで、どうやってウェブサイト用フレームワーク Jekyll の多言語化を行ったかの解説記事。Peopling the Past は、考古学プロジェクトと考古学者の紹介ブログのようだが詳細不明。Reviews in Digital Humanities は、DH プロジェクトの評価と紹介に関するオンライン査読誌。Don’t Elect Me! – The Correspondence of Zachary Taylor and Millard Fillmore は、もし URL が誤りでないのならば(DH Awards 上のページ名とリンク先のスコープが食い違っている)、とんだ動乱とともに敗北した米国前大統領と類似した閲歴を持つ大統領の書簡について研究しているプロジェクトの1ブログ記事。The LaTeX Ninja Blog は、人文学者向け LaTeX(と DH 関係のさまざまな技術)の紹介。The Real Percy Bysshe Shelley は、Graham Henderson 氏の19世紀英国詩人パーシー・ビッシュ・シェリーについての学術ブログの一部を DH Awards 用にまとめたもの。Ticha Project, 2020 Blog Series は、メキシコ先住民のサポテク族のテキスト保存プロジェクトのブログ。Two Days of Shadowing Going on Thirty は、ヴァージニア大学図書館のスカラーズ・ラボで DH にかかわるジョブ・シャドウイングを体験したラテンアメリカ研究者の体験談。

「データ可視化」部門では、14件の応募があった。Ancient Family Tree: Am I a Descendant of a Royal Family? は、中国の王朝の系譜を立体化し、「じぶんは皇帝一族の血を引いているだろうか?」といった疑問に答えられるか取り組んだものの報告。Centering Spenser: A Digital Resource for Kilcolman Castle は、アイルランド入植者としてのエドマンド・スペンサーについて相対化するもの。ConGraCNet は、語の文法的な意味を可視化する補助たるべきもの。Cartography of COVID-19は、COVID-19に関する英語言説の「遠読」的こころみ。Data Beyond Vision は、視覚を超えたデータ変形について論ずる。David Bailie Warden Papers: Mapping a Transatlantic Network は、アイルランド共和派でのちに米国に亡命するデイヴィッド・ベイリー・ワーデンの書簡のマークアップおよびそれを活用したプロジェクト。Gaoqian Digital Memory Website(记忆高迁)は、中国浙江省の歴史的地区高遷についての記録ウェブサイト。GenoGraphiX-LOG 2.0は、テキスト生成論とキーボード打鍵記録とを結びつけて可視化するプロジェクトであるという。ツールではないのかとも思うが、そちらへのノミネートはない。Jiam Diary(지암일기 : 데이터로 다시 읽는 조선시대 양반의 생활)は、朝鮮時代両班の支庵こと尹爾厚の日記についての研究プロジェクト。Musivaria HD は、イベリア半島のローマ時代モザイク画についての調査プロジェクト。Press Picker は、研究プロジェクトの産物のひとつで、大英図書館所蔵新聞の紙名の変遷および刊行期間などの視覚化をするもの。Shipwrecks of the Ottawa River and Rideau Canal は、オタワ川・リドー運河で沈没した船を沈没した地点で地図化したもの。Tudor Networks は、テューダー朝の政府書簡の授受を可視化するものという。Using Palladio to Visualize Historical Migration Patterns in Chinese Head Tax Data は、中国人カナダ移民に対する人頭税のデータの可視化による再検討を述べたものである。

「データセット」部門では、14件の応募があった。Atlas of Digitised Newspapers and Metadata は、電子化された世界の新聞に関するメタデータ附与プロジェクトである。Broadsides printed in Scotland 1650–1910は、スコットランド国立図書館の所蔵する広告類に関するデータセット。Chinese ceramics は、中国・聊城大学および仏サヴォア・モンブラン大学が中心となって実施されている中国陶磁器についての用語集プロジェクトである。Circulating American Magazines は、アメリカの雑誌流通についての情報を官公庁データから復元するもの。Digital El Diario は、コロラド大学ボルダー校のメキシコ系アメリカ人が発行していた独立系新聞の電子化プロジェクトである。DraCor は執筆時アクセスができない状態であった。Ministerratsprotokolle Habsburgermonarchie, 1848–1918, Digitale Edition は、神聖ローマ帝国皇帝を輩出したハプスブルク家の議事録を公開するものである。Newspaper Navigator は、米国議会図書館の Chronicling America プロジェクトにふくまれる新聞のうち、視覚的コンテンツを抽出したデータセットである。NovelTM Datasets for English-Language Fiction, 1700–2009は、HathiTrust のうち、英語で書かれたフィクションと思われるもののメタデータである。機械的に抽出されたものであり、また、精度を上げる意志がないことが明記されている点も興味深い。Runor は、ルーン文字碑文についての総合的検索サイト。Shakespeare and Company Project Dataset: Lending Library Members, Books, Events は、パリのシェイクスピア・アンド・カンパニー書店に関する文書を集成したもので、それにまつわる人物や貸し借りされた書籍、活動に関する記録からなるデータセットである。Sketchfab Public Domain 3D Collection は、3D データ共有サイトの Sketchfab が、Public Domain の3D 資源について共有をはじめたものである。SPADE -- Speech Across Dialects of English は、英語の方言差を複数のコーパスから分析するためのソフトウェアである。Index of DH Conferences は、種々の DH 研究大会のデータを集めたもの。驚くべきことではないのにせよ、収録には粗密がある。

「ツール」部門では、15件の応募があった。A Humanist’s Cookbook for Natural Language Processing in Python は、人文学者が Python で自然言語処理を行う際のガイド。CorpusExplorer は、コーパス言語学とテキスト・マイニングのための分析ソフト。DeezyMatch は、ディープラーニングを活用した曖昧検索のためのツールであるという。Digital Mappa 2.0は、サーバーインストール型の古典系 DH 作業環境。Documentos y colecciones especiales – Red de bibliotecas del Banco de la República は、コロンビア中央銀行図書館ネットワークの特殊コレクションにたどりつくためのツール。Edition Visualization Technology は、版間の相異を可視化するための一連のツール。Manifold は、サービス型の DH 作業環境であり、さまざまな環境で利用できる点が特徴という。Multi-dimensional Image Smart System (多维度图像智慧系统)は、IIIF を活用した図像註釈システムのようだが、あまりよく分からなかった。NLS Data Foundry Jupyter Notebooks は、スコットランド国立図書館の提供する Jupyter Notebooks 作業環境。Old English Online は、古英語を読み学ぶためのオンライン環境。tei-publisher-vscode は、TEI Publisher という電子出版環境用の VS Code の拡張。The open-cbgm library は、TEI 互換テキスト用のコヒーレンスによる系統探索のためのライブラリ。UniDescription は、資料記述のユニバーサルデザイン化に向けた場。Tone Perfect は、普通話の声調音声データベース。Transcription chain は、リンクが間違っているようであるが(Oral History & Technology - Transcription Chain)、インタビューから文字起こしまでの一連のワークフローを検討するものである。

「不首尾の検討」部門では、7件の応募があった。Data Fail: Teaching Data Literacy with African Diaspora Digital Humanities は、アフリカのディアスポラに関するデータ分析の現状について論じる。DSC 8: Text-Comparison-Algorithm-Crazy Quinn — Data-Sitters Club Notebook は、Jupyter Notebook 形式で書かれた「本」についての省察。Databases, Revenues, and Repertory: The French Stage Online, 1680–1793は、ホストがプロジェクトのデータを消してしまったときのあれやこれや。Fading Away... The challenge of sustainability in digital studies は、名詮自性のものだが、プロジェクトとして検討したものらしい。History, Digitized は、失敗を直接論ずるプロジェクトではなさそうだが、デジタルヒストリー固有に直面する問題についても触れているという様子である。Jim McGrath’s cautionary tweet thread on crowdsourcing COVID-19 materials for digital public humanities / digital archive projects は、今ここを資料化する暴力性やキャリアへの影響についての一連の議論であろうか。Talking about Viral Texts Failures は、DSC 8の著者への応答もふくめた、失敗を論じることを自身の経験を踏まえて論じるもの。

「楽しい事例」部門は、11件の応募があった。100DaysofDH Challenge は、100日間ダイエットではないが、100日間 DH をがんばろうといった自学自勉を支えあうプログラムか。Animal Crossing: New Digital Humanities は、「どうぶつの森」シリーズが DH と出会ったことについてのトークシリーズ。Aventurajs (A JavaScript library for creating Biterature)は、バイテラチャー(ひとかじり文学、Twitter の一連の投稿など極端に短いインタラクティブな内容のつながりからできる文学)を扱うための JavaScript ライブラリ。Climatophosis by Yohanna Joseph Waliya は、環境変化についての e 文学。DH in a Mug は、マグカップと DH のかかわり(文字通り!)についての retweet アカウント。ImprovBot — the world’s first AI generated Arts Festival は、世界最大規模の芸術祭エディンバラ・フェスティバル・フリンジが現地ではなく AI がオンラインで生成するものになった!というもの。Shakespeare and Company, 100 Years Ago twitter bot は、100年前のシェイクスピア・アンド・カンパニーのできごとを日々 tweet する。TEI Pelican は、GitHub 上の TEI 符号化文書を日々紹介するこころみ。The Data-Sitters Club Books — Data-Sitters Club Notebook は、ある資料のメタデータの謎についての往復書簡か? The Image du Monde Challenge – Transcribing The View of the World of Gossuin de Metz は、チーム対抗の翻刻競争のようである。Your Digital Humanities Peloton Instructor は、勉強しろ bot[4]のようなものなのだろうか。この部門は、英語圏偏重が目立つ。

すでに紙幅を超えており、しかも量が多いため「一般参加」・「コロナ禍応答」部門の紹介は割愛するが、それぞれ30件・19件の応募があった。

全点紹介をした DH Awards 2017とくらべると、かなり応募が増えたのが実感される。DH Awards 参加者向けの特設ページのあるものがあったのがいままでになかった印象である。がんばったところを褒めてほしいという点で、すなおなのかもしれない。それはそれで、お祭りらしくてよいということであろう。とくに英語以外のものは、誤解もあるかもしれない。いずれにせよ、DH の広がりを楽しんでみてほしいし、言及できなかったが、「コロナ禍応答」部門に関西大学のコロナアーカイブがあるように[5]、新規プロジェクトや大規模更新をした際にはぜひ推薦してみてほしい。

[1] Digital Humanities Awards | Highlighting Resources in Digital Humanities http://dhawards.org/.
[2] 本連載第35回「DH Awards 2017出場作品に学ぶ」『人文情報学月報』第79号、2018年2月。
本連載第60回「DH Awards 2019受賞決定」『人文情報学月報』第104号、2020年3月。
[3] 本連載第35回「DH Awards 2017出場作品に学ぶ」『人文情報学月報』第79号、2018年2月。
[4] 勉強しろ bot (@stuuudy_bot) / Twitter https://twitter.com/stuuudy_bot
[5] コロナアーカイブ@関西大学 · コロナアーカイブ@関西大学 · 関西大学デジタルアーカイブ ANNEX https://www.annex.ku-orcas.kansai-u.ac.jp/s/covid19archive/page/covidmemory
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