ISSN 2189-1621

 

現在地

DHM 005

2011-08-27創刊

人文情報学月報
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄Digital Humanities Monthly

                 2011-12-30発行 No.005   第5号    

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 ◇ 目次 ◇
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◇「デジタル化の粒度と人文情報学」
 (上地宏一:大東文化大学)

◇特別レポート「ロシアにおける電子図書館と著作権」
 (松下聖:筑波大学大学院人文社会科学研究科)

◇人文情報学イベントカレンダー

◇イベントレポート(1)
東京大学大学院情報学環附属社会情報研究資料センター高度アーカイブ化事業共同
研究会&記念シンポジウム「研究者資料のアーカイブズ‐知の遺産 その継承に向
けて‐」
(添野勉:国立民族学博物館外来研究員)

◇イベントレポート(2)
国際シンポジウム「デジタル化時代における知識基盤の構築と人文学の役割‐デジ
タル・ヒューマニティーズを手がかりとして‐」
(永崎研宣:一般財団法人人文情報学研究所)

◇イベントレポート(3)
人文科学とコンピュータシンポジウム 「じんもんこん2011「デジタル・アーカイ
ブ」再考‐いま改めて問う記録・保存・活用の技術‐」
(永崎研宣:一般財団法人人文情報学研究所)

◇編集後記

◇奥付

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【人文情報学/Digital Humanitiesに関する様々な話題をお届けします。】
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◇「デジタル化の粒度と人文情報学」
 (上地宏一:大東文化大学)

人文情報学において、人文情報のデジタル化は重要なトピックであり、多くの研究
者が関与しています。デジタル化というのは例えば音声情報の場合、標本化:アナ
ログ波形を一定間隔でサンプリングすること、量子化:サンプリングした波の強度
を(整)数値で表現すること、および符号化:決められた方式を用いて実際にデー
タ化する、の3段階となっています。文字情報の場合、文字コードと呼ばれる文字と
数値を1対1で結びつける表をもとに文字列を数値列に置き換え、その後符号化によ
りデジタルデータとなります。いずれにしても情報を数値化することがデジタル化
の本質です。

さて、アナログ情報をデジタル化すると情報を離散値として扱うためにどうしても
誤差が生じて完全に元には戻せなくなってしまいます。そこで限りなく元の情報に
近づけるために、標本化や量子化の粒度を細かくします。技術の発展によって、さ
まざまな分野におけるデジタル化の粒度はどんどん細かくなってきました。身近な
例で挙げるとすればデジタルカメラが適切でしょう。1995年に発売され大ヒットと
なったカシオ社製デジタルカメラQV-10は8万画素(パソコンに取り込んだ後の画素
数)でしたが、現在ではiPhoneのカメラが800万画素の機能を持っています。このよ
うに、どんどん技術が進歩すれば我々の身の回りのデジタル情報が限りなくリッチ
になっていくのかといえば、そうでもないようです。最近のデジタルカメラで撮っ
た写真ファイルをメールで友人に送ろうとすると、サイズが大きすぎて送れない、
といった経験はないでしょうか。メガピクセルの数字が大きくなるのはいいけど、
撮った写真がそんなに変わるかな、と疑問に思った人もいるのではないでしょうか。
今ふと立ち止まって、我々に必要なデジタル化の粒度はどれぐらいなのだろうか、
と考えてみる必要があるのかもしれません。

話を少し私の研究分野に寄せてみたいと思います。私は漢字字形のコンピュータ処
理が専門です。先ほど文字情報をデジタル化する際に文字コードと呼ばれる表を用
いると書きましたが、文字コードの世界でも粒度が問題となっています。

例として渡辺さんの「辺」の字を挙げてみたいと思います。おそらくこのメルマガ
が送信されるときに用いられる文字コードでは「辺」のほかに「邊」と「邉」の異
体字(字典上は「邊」が正字ですが、便宜上異体字と表現します)を合わせて3種類
までを書き分けることができます。DTPの現場では独自の文字コード(厳密には字形
セット)を利用していて、「邊」と「邉」に対して合わせて23種類のバリエーショ
ンが用意されていましたが、2007年に国際文字コードであるUnicodeのIVS(IVD)に
この字形セットが登録されたため、理論上は24種類の「辺」を書き分けられるよう
になりました。IVSというのは日本語では異体字セレクタと呼び、一種の結合文字と
して字形を細かく指定するものです。IVDに字形セットを登録することでIVSを用い
てデジタルテキストにおいて異体字を細かく表現することができます。先ほど理論
上と書きましたが、実際にはフォントやOS、アプリケーションがIVSに対応して初め
て使うことができるようになります。

話はこれにとどまりません。日本では経済産業省の施策により、人名等に関する異
体字が収集・整理され、2010年にはその一部がIVDに追加されました。その結果IVS
を用いて先の24種類とは別の集合として50種類の「辺」を書き分けることができま
す。最終的にはさらに数が増えることになるようです。私はまだ年賀状準備のさな
かですが、パソコンで「わたなべ」と入力して変換すると50種類の渡辺さんの候補
が並ぶ…、そんな状況がはたして「リッチなデジタル文化」と言えるのでしょうか?

このたぐいの話は今に始まったことではなく、この10年来、文字コードの膨張によ
る弊害として問題となってきましたが、一部の専門家・実務者の間でのみ議論され
てきたことが、いよいよ身近な問題になろうとしています。解決策としては別次元
において異体字情報を持っておくことで、必要に応じてユーザーに提示する異体字
の粒度を調節するといったことが考えられます。つまりは無尽蔵にデジタル化の粒
度が上がっても人間は混乱するだけであるということです。このことは文字コード
の世界だけでなく、人文情報学の他の分野においても忘れてはならないことではな
いかと思いますが、いかがでしょうか。

執筆者プロフィール
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上地宏一(かみち・こういち)大東文化大学外国語学部講師・博士(政策・メディ
ア)。情報処理学会(人文科学とコンピュータ研究会)所属、漢字文献情報処理研
究会副代表。研究テーマは漢字字形(特に異体字)のコンピュータ処理であるが、
現職着任後は学部生時代からのサブテーマでもある語学デジタル教材・CALLシステ
ムに関する研究開発にも手を広げている。

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◇特別レポート「ロシアにおける電子図書館と著作権」
 (松下聖:筑波大学大学院人文社会科学研究科)

 中国に次ぐ「コピー天国」と称されるロシア。実際ロシアの都市では、あきらか
に海賊版のDVDやCDが露店で堂々と売られている。近年は取り締まりも強化されたよ
うだが、ネットを探せば多くのMP3等のデータファイルが無料でダウンロードできて
しまう。
 電子書籍についても例外ではなく、電子図書館(Электронная 
библиотека:elektronnaya biblioteka)や電子図書
(Электронная книга:elektronnaya kniga)と検索すると、無
料で古典から現代の文芸作品等を読めるサイトが星の数ほどヒットする。もちろん
有料販売や著作者の承諾を得て配信しているサイトもあるのだが、違法な配信が約
8割を占めるというから驚きだ。
 その一方で、ロシア連邦政府は近年、著作権法や図書館法を改正し、ネット上で
電子資料を扱う枠組みの構築や、公的な電子図書館の整備に向けて本格的に動き出
している。
 本稿ではそんなロシアにおける、電子図書館および著作権にまつわる歴史や最新
事情を紹介する。

1. ロシアの著作権事情
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 ロシアの著作権事情は、ソ連時代から主に法学研究者によって日本にも紹介され
てきたほか、現在は知的財産との関連でジェトロ(日本貿易振興機構)等も最新情
報を伝えている。このほかロシア語ソースも参考にし、ロシアにおける著作権法の
変遷をたどってみよう。

・ソ連時代
 まず、ロシア連邦の前身であるソヴィエト連邦では、1928年に著作権基本法が制
定され、次いで1961年にソヴィエト民事基本法が制定された。1961年以降はこの基
本法をもとに、ソ連を構成する15の各共和国はそれぞれの民法典で著作権について
の規定を設けたが、基本理念は1928年からソ連崩壊の直前まで変わることはなかっ
た。それは、何よりも優先されるのは著作者ではなく、公共(=国家)と社会主義
社会の利益である、という点である。よって、著作権の国家管理は当然であり、検
閲によって国家・共産党の意に沿わない著作物の発行は制限された。

・93年法~2004年の「著作権スキャンダル」
 しかしペレストロイカ末期の1991年に民事基本法は全面改定され、西側諸国と同
様の文言を入れた、著作権と著作隣接権に関する諸規定が置かれた。結局、この基
本法が発効される前にソ連は崩壊してしまったが、翌年から暫定的にロシア連邦法
として機能した。そして1993年には、同基本法の内容を受け継いだ「著作権及び隣
接権に関するロシア連邦法」(以下、「93年法」と記す)が発効された。1995年に
は著作権に関わる国際条約「ベルヌ条約」も批准し、ひとまずの法体系は整った。
 次に著作権法の大きな改訂が行われたのは、2004年である。
 1990年代後半からインターネットが普及し始めたことで、インターネット上での
著作権という新たな問題も現れた。特に書籍をスキャンし、OCRを施して文書化し無
料で公開する「電子図書館」の登場は、作家らの権利意識を刺激し、法廷闘争にも
発展した。2004年、電子書籍の有料販売を手掛ける「KMオンライン」と著作権契約
をしていた人気作家数名が、無料の電子図書館「マクシム・モシュコフ図書館
http://lib.ru/ )」の創設者らを著作権侵害のかどで告訴した。KMオンライン
が独占権を持つはずなのに、モシュコフ図書館で無料公開されていたからだ。結局、
モシュコフ図書館側が和解金を払って問題は解決されたが、同図書館の活動は低調
になっていった(ちなみに、KMオンラインも翌々年に著作権侵害で告訴されている)。
 こういった問題がクローズアップされている最中、著作権法の改訂が行われた。
この改訂においては、インターネット上での著作物の利用を作者が制限できる権利
と並び、図書館による電子化に関する規定が盛り込まれた。著者の許諾・使用料の
支払い無しの利用を定めた93年法の第19条2項では、図書館が一時的・無償で電子版
の書籍を提供する場合は「電子コピーの作成が不可能という条件において、図書館
内でのみ提供される」とされ、制約はあるものの図書館における書籍の電子化につ
いて、初めて法的な枠組みが提供されたのである。

・2008年‐著作権法の「格上げ」
 それから4年後の2008年には、さらなる改革が行われた。ロシアの法体系の中で基
幹となる「ロシア連邦民法典」の第4部に、著作権と隣接権に関する規定が置かれた
のである。これは、それまでの「連邦法」という地位からの「格上げ」を意味する。
 同法でも、図書館による電子化に関する規定が「情報提供、科学、教育、文化目
的における著作物の自由な使用」を定めた1274条2項に設けられた。なお、この規定
は同時期に改訂された政府の図書館振興計画と表裏一体の関係にあり、図書館法に
「国立図書館は古典資料、貴重資料、科学・教育関連資料の電子化を実行できる」
とした条項(18条)が追加され、さらに2009年にはロシア第二の都サンクト・ペテ
ルブルクに「エリツィン記念大統領図書館」という、電子資料中心の図書館が開設
された。
 
このように、ロシアにおける著作権法は、ソ連時代からの大変革と、ここ数年のめ
まぐるしい変化を経験している。著作権法は年々厳格化していく一方で、それと矛
盾しない範囲で、公的な電子化事業も進めたいというロシア政府の意思が、著作権
法の変遷によく表れている。
それでは最後に、そういった政策を受けて発展を続けている、2つのロシア国立図書
館を紹介しよう。

2.ロシアの国立「電子図書館」
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◇エリツィン記念大統領図書館( http://www.prlib.ru/
 エリツィン元大統領の名を冠したこの図書館は、2009年5月27日(図書館の日)、
サンクト・ペテルブルクに開設された。ロシア初の「電子図書館」であり、「読書
室」のコンピュータで所蔵資料約85,000点すべてを閲覧することができる。所蔵さ
れているのは古代から現代までのロシアに関する歴史資料など人文学系が中心だが、
農業、科学分野の資料も揃えられている。
 すでに著作権が切れている、または著者と合意ができている一部の資料は、外部
からブラウザ上のビュワーで閲覧することができる。例えば、日本
(Яония:Yaponiya)と検索すると、1924年に出版された「日本の地震」に関
する本や、日本に関する外交文書がヒットし、画像で見ることができる。またテー
マごとに分けられた72の「コレクション」があり、ロシア連邦内各州の歴史や、フィ
ンランド、イタリア、中央アジアなど近隣諸国についての資料をまとめて閲覧する
ことができる(中国と韓国のコレクションはあって日本のものはないが、いずれコ
レクションに加わることを期待しよう)。
 このように、歴史好き、ロシア好きには垂涎ものの資料が堪能できる。英語版ペ
ージも整備されているので、興味のある方はぜひ訪れてみていただきたい。

◇国立図書館( http://elibrary.rsl.ru/
 140年以上の歴史を誇り、モスクワに本館があるロシア国立図書館(蔵書数4,300
万点)も「電子図書館」を持っている。「論文」(約400,000点)、「一般書籍」
(79,457点)、「古文書」(8,401点)、「楽譜」(13,329点)の四部門があり、大
統領図書館と同様に一部資料は外部からの閲覧もできる。閲覧できる形式は、
DifviewとDVSという電子書籍に特化したファイル形式に加え、オンライン上に公開
されている資料の場合はPDFとブラウザ(オンラインビュワー)でも見ることができ
る。
 同図書館は特に学術書や教科書の電子化に積極的である。楽譜コレクションの公
開も、教育を目的としたものである。また権利問題にも敏感であり、ページ内の目に
つくところに「権利情報」として民法典の引用を載せている。
 ちなみに、国立図書館総裁のヴィクトル・フョードロフ氏と館長のアレクサンド
ル・ヴィースリー氏はメディアへの露出も多く、雑誌インタビューやカンファレン
スなどでたびたび電子化と権利の問題に言及している。今後とも、彼らと、国会図
書館および大統領図書館がロシアにおける公的な電子図書館の発展を牽引していく
ことだろう。

 以上、ロシアにおける著作権および電子図書館の状況を紹介してきたが、いかが
だろうか。冒頭でロシアを「コピー天国」と称してしまったが、法的には著作権の
扱いは非常に厳格であり、公的機関と権利所有者における意識も相当高まっている
ことがうかがえた。そして国立図書館など公的機関は、電子化への要望と現実の権
利問題の間で板挟みになりながらも、着実に歩を進めている。
 日本も図書資料の電子化に積極的に取り組む一方で著作権の問題が足かせとなる
という同様の課題を抱えている以上、お互いに学ぶ点は多いのではないだろうか。
内閣府の世論調査によると、「ロシアに親しみを感じない」人の割合は82.9%(平成
23年度)であるそうだが、著作権問題や電子図書館構築などでは、意外と良きパート
ナーとしてやっていけるかもしれない。政治や経済だけではなく、この分野におい
ても今後のロシアの動向は要注目である。

日本で紹介されているロシアの著作権・図書館事情(年代順)

石川惣太郎. 著作権法の変遷 : ソビエトからロシアへ. 成城法学(48),
p. 293-310, 1995-03
桂木小由美. ロシア国立図書館のIT化. カレントアウェアネス. 2002,(269),
p.3-4. http://current.ndl.go.jp/ca1447
石田三郎. ロシア ネット図書館告訴と著作権法の改定. 出版ニュース(2005),
p. 28,2004-05
兎内勇津流. ロシアの公共図書館の現状とその発展構想. カレントアウェアネス.
2010,(303), CA1710, p. 14-16. http://current.ndl.go.jp/ca1710
服部玲. 海外出版レポート ロシア 書籍のデジタル化と著作権. 出版ニュース.
出版ニュース(2232), p. 30, 2011-01
日本貿易振興機構(ジェトロ)ウェブサイト「ロシア 知的財産に関する情報」
http://www.jetro.go.jp/world/russia_cis/ru/ip/

ロシア語および英語の主な情報源

Copyright.ru:著作権に関する情報ポータルサイト
http://www.copyright.ru/
ロシア電子図書館協会:電子図書館に関する最新情報や、識者による様々な意見を
読むことができる
http://www.aselibrary.ru/

執筆者プロフィール
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松下聖(まつした・せい)筑波大学大学院人文社会科学研究科/人文情報学研究所
インターン
研究領域は、ロシア語、中央アジアの言語・文学

Copyright (C) MATSUSHITA, Sei 2011- All Rights Reserved.
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◇人文情報学イベントカレンダー(■:新規イベント)

【2012年1月】
■2012-01-07(Sat):
第17回公開シンポジウム「人文科学とデータベース」
(於・京都府/京都工芸繊維大学)
http://www.osakac.ac.jp/jinbun-db/51.html

□2012-01-20(Fri)~2012-01-21(Sat):
第105回情報基礎とアクセス技術研究会・第205回自然言語処理研究会
合同研究発表会
(於・福岡県/福岡大学 六本松キャンパス)
http://www.nl-ipsj.or.jp/NL205program.html

□2012-01-21(Sat):
第1回「知識・芸術・文化情報学研究会」
(於・大阪府/立命館大学 大阪キャンパス)
http://www.arc.ritsumei.ac.jp/lib/GCOE/info/2012/01/1-1.html

□2012-01-27(Fri)~2012-01-29(Sun):
情報処理学会 第93回人文科学とコンピュータ研究会発表会
(於・鹿児島県/奄美市立奄美博物館)
http://www.jinmoncom.jp/

【2012年2月】
□2012-02-15(Wed)~2012-02-19(Sun):
Asia Pacific Corpus Linguistics Conference
(於・ニュージーランド/University of Auckland)
http://corpling.com/conf/

□2012-02-24(Fri):
公開シンポジウム「情報処理技術は漢字文献からどのような情報を抽出できるか」
(於・京都府/京都大学人文科学研究所本館)
http://kanji.zinbun.kyoto-u.ac.jp/~ymzknk/kanzi/

■2012-02-29(Wed):
第5回 SPARC Japanセミナー2011「OAメガジャーナルの興隆」
(於・東京都/国立情報学研究所)
http://www.nii.ac.jp/sparc/event/2011/20120229.html

【2012年3月】
■2012-03-26(Mon)~2012-03-30(Fri):
Computer applications and quantitative methods in Archaeology 2012
(於・英国/University of Southampton)
http://www.southampton.ac.uk/caa2012/

□2012-03-28(Wed)~2012-03-30(Fri):
Digital Humanities Australasia 2012: Building, Mapping, Connecting
(於・オーストラリア/Australian National University)
http://aa-dh.org/conference/

【2012年4月】
□2012-04-11(Wed)~2012-04-14(Sat):
European Social Science History Conference 2012
(於・英国/Glasgow University)
http://www.iisg.nl/esshc/

【2012年6月】
□2012-06-04(Mon)~2012-06-08(Sun):
Digital Humanities Summer Institute
(於・カナダ/Victoria)
http://www.dhsi.org/

□2012-06-12(Tue)~2012-06-15(Fri):
The IS&T Archiving Conference
(於・デンマーク/Copenhagen)
http://www.imaging.org/ist/conferences/archiving/

□2012-06-15(Fri)~2012-06-17(Sun):
GeoInformatics 2012
(於・中国/香港)
http://www.iseis.cuhk.edu.hk/GeoInformatics2012/

【2012年7月】
□2012-07-16(Mon)~2012-07-22(Sun):
Digital Humanities 2011
(於・ドイツ/Hamburg)
http://www.dh2012.uni-hamburg.de/

Digital Humanities Events カレンダー共同編集人
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小林雄一郎(大阪大学大学院言語文化研究科/日本学術振興会特別研究員)
瀬戸寿一(立命館大学文学研究科・GCOE日本文化デジタルヒューマニティーズ拠点RA)
佐藤 翔(筑波大学図書館情報メディア研究科)
永崎研宣(一般財団法人人文情報学研究所)

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◇イベントレポート(1)
東京大学大学院情報学環附属社会情報研究資料センター高度アーカイブ化事業共同
研究会&記念シンポジウム「研究者資料のアーカイブズ‐知の遺産 その継承に向
けて‐」: http://www.center.iii.u-tokyo.ac.jp/sympo
(添野勉:国立民族学博物館外来研究員)

 2011年11月26日、東京大学本郷キャンパス福武ホールにおいて、東京大学大学院
情報学環附属社会情報研究資料センター高度アーカイブ化事業共同研究会&記念シ
ンポジウム「研究者資料のアーカイブズ‐知の遺産 その継承に向けて‐」が開催
された。本シンポジウムは東京大学大学院情報学環附属社会情報研究資料センター
(以下、社会情報研究資料センターとのみ表記)と、新たに立ち上げられた同大学
院メディア・コンテンツ総合研究機構が主催し、アート・ドキュメンテーション学
会と日本図書館情報学会の共催を受けて行われた(後援:国立大学図書館協会、日
本アーカイブズ学会)。

 社会情報研究資料センターの高度アーカイブ化事業は、現物の新聞・メディア資
料保存公開施設であった同センターのアーカイブ機能強化を眼目として2007年度よ
り5年間に亘り推進されてきた事業である。そこでは現物資料保存機能の強化ととも
に、先進的なデジタルアーカイブ開発が行われてきた。もともと2004年度より情報
学環で開始された21世紀COE「次世代ユビキタス情報社会基盤の形成」(代表:坂村
健教授、2008年度終了)の一環として資料整理・分析とアーカイブ化が進められて
きた東京帝国大学教授、坪井正五郎(人類学・考古学)の関係資料を包含しつつ、
これに情報学環の前身である新聞研究所の創始者小野秀雄の関係資料を加え、研究
者資料を活用したさらなる次世代アーカイブ開発を目指したのがこの高度アーカイ
ブ事業である。斯く記す筆者も特任教員として21世紀COEの時代からアーカイブ構築
に従事しており、今回のシンポジウムを企画した研谷紀夫氏とともに、情報学環に
おけるアーカイブ開発の歩みに直接関わった者として、今回の総括的かつ未来志向
のシンポジウムの開催には感慨深いものがあった。

 このような事業の展開を背景に、各大学における研究者資料の保存・利活用状況
に注目し、その現状と課題を包括的に議論しようと試みたのが、今回の「研究者資
料のアーカイブズ」シンポジウムである。共催するアート・ドキュメンテーション
学会の秋期研究会と合同開催の形式を採用し、午前中は2トラック8テーマの研究発
表が行われた。その内容に簡単に触れると、東京大学大学史史料室の谷本宗生氏は
史料室の所蔵する東大総長関係資料をもとに、渡邊洪基や古在由直の資料について
そこに内包された可能性と史料室運営上の課題を述べ、金沢工業大学の栃内文彦氏
は坪井家資料の一環である坪井誠太郎資料の科学史的意義を論じた。慶應義塾大学
の本間友氏は同大学アート・センターの所蔵する油井正一アーカイヴの内容を解説
し、玉井建也氏は社会情報研究資料センターの小野秀雄資料の整理に従事した立場
から、その活用可能性と課題について言及した。

 もう一方の自由テーマセッションでは大阪大学の要真理子氏がローラ・アシュレ
イ社の企業アーカイブについて、筒井弥生氏がワシントンD.C.のアリス・ルーズベ
ルト・ロングワース旧蔵コレクションについてそれぞれ報告を行い、お茶の水大学
の北岡タマ子氏は研谷氏とともに凸版印刷との共同研究の成果として作成した「文
化資源のデジタル化に関するハンドブック」について、その特徴を解説した。日下
九八氏は論点をデジタルに特化し、ウィキペディアを活用した資料・情報の活用に
ついて自身の経験を交えつつ報告を行った。いずれもアーカイブの本質に関わる重
要な論点を内包しており、筆者には聴き応えのある報告であった。

 午後のシンポジウムは、基調講演として東京女子大学に寄贈された丸山眞男関係
資料の整理を主導されている平石直昭氏より、受け入れの経緯や整理作業上の課題、
供用に向けてのクリアすべき課題が提示された。続く東京藝術大学の植村幸生氏か
らは、小泉文夫記念資料室という現物の楽器を大量に所蔵する機関ならではの活用
方法や、教育用デジタルコンテンツに関する報告がなされた。さらに京都大学総合
博物館の五島敏芳氏・山下俊介氏からは、研究資料と研究者資料という、似て非な
るアーカイブのありようについて、現状に対するかなり厳しい意見を交えつつ、理
想のアーカイブをいかにして形成するかについての実践的な課題が提示された。こ
れらの登壇者に続き、研谷紀夫氏と大和裕幸氏からは、東京大学において情報学環
と新領域創成科学研究科という別々の部署で制作されたアーカイブのもつそれぞれ
の課題と教育への活用について、実例とともに言及がなされた。

 これらの内容について、ここで詳しく触れる紙幅はないが、資料の収集から公開・
共有に至るアーカイブという一連の行為のいくつかの段階ごとにそれぞれの課題が
存在し、そのいずれの段階において困難に直面したかが、各登壇者の論じる内容に
色濃く影響しているように感じられた。それは丸山文庫で言えば資料収集・選別の
時点にあろうし、京都大学ではアーカイブにおける資料分類の方法論の時点であり、
大和氏の平賀譲アーカイブや芸大の小泉記念室であれば、利活用の部分である。し
かし、困難は同時に新たな発見の契機でもあり、必ずしも全てのアーカイブで困難
が乗り越えられたとは言い切れないまでも、ともすればデジタル化・フラット化さ
れて個性を失ってしまう研究・研究者の資料アーカイブがそれぞれ独特の「表情(
かお)」を再獲得する機会をそこに見出すことができるのではないかと思われた。

 最後に、こうしたアーカイブをいったい大学のどこが受け皿となっていくのか、
ということであるが、パネルディスカッションでも人材養成とともにその点が繰り
返し議論されていた。登壇者の多くは大学図書館にその役割を期待しており、デジ
タル化の波が急速に押し寄せる大学図書館の新たな機能として、研究の軌跡をどの
ように保存し共有していくかが課題として挙げられていた。当日は多くの大学図書
館や資料館の関係者が会場に参集していたが、共感・反論も含め、今後ますます議
論が深められることを期待したい。

 なお、今回のシンポジウムで配布された予稿集はまもなく社会情報研究資料セン
ターのサイト(*1)にて公開・配布される予定である。超満員のため締切に間に合
わず、会場に足を運べなかった方にもぜひご一読いただき、論点を共有していただ
ければ幸いである。

(*1)社会情報研究資料センター: http://www.center.iii.u-tokyo.ac.jp/sympo

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◇イベントレポート(2)
国際シンポジウム「デジタル化時代における知識基盤の構築と人文学の役割‐デジ
タル・ヒューマニティーズを手がかりとして‐」
http://21dzk.l.u-tokyo.ac.jp/CEH/sympo
(永崎研宣:一般財団法人人文情報学研究所)

 11月29日、東京大学福武ホールにて、日本、米国、英国において文化資料のデジ
タル化に取り組む方々により、国際シンポジウム「デジタル化時代における知識基
盤の構築と人文学の役割‐デジタル・ヒューマニティーズを手がかりとして‐」が
行われた。

 このシンポジウムのプログラムの概要は以下のとおりである。

○「シンポジウムの趣旨説明」
 下田正弘(東京大学大学院人文社会系研究科教授)

◎講演1「国会図書館のデジタル・アーカイブへの取り組みと人文学への期待」
 長尾真氏(国立国会図書館長)

◎パネル「デジタル・アーカイブにおける人文学の現在・未来」
 司会:A. Charles Muller氏(東大文学部次世代人文学開発センター特任教授)

○パネル講演1「共有・再利用のための知のデジタル・アーカイブ」
 武田英明氏(国立情報学研究所教授)

○パネル講演2「日本の文化資源の海外発信における課題」
 江上敏哲氏(国際日本文化研究センター図書館)

○パネル講演3「隙間に注意:デジタル・ヒューマニティーズを機能させるには
“Mind the Gap: making digital humanities work”」
 James Currall氏(グラスゴー大学ITサービス部門情報政策・サービス基準担当部長
         兼文学部人文学高度技術情報研究所上級リサーチ・フェロー)
 Michael Moss 氏(グラスゴー大学文学部人文学高度技術情報研究所研究教授)

◎講演2「デジタル化と人文学研究 “Digitization and Humanities Scholarship”」
 John Unsworth氏(イリノイ大学大学院図書館情報学研究科長)

◎全体ディスカッション
 コメンテーター:吉見俊哉氏(東京大学大学院情報学環教授)

(さらなる詳細は http://21dzk.l.u-tokyo.ac.jp/CEH/sympo を参照)

 シンポジウム冒頭では、全体進行を務める下田正弘氏により、シンポジウムのバッ
クグラウンドの説明が行われた。下田氏自身の個人的な経験として、関わってきた
大規模な仏典デジタル化プロジェクトの中で、デジタル化、すなわち媒体を転換す
るというプロセスを通じて紙媒体が持っていた問題を顕在化させたこと、そして、
固有の知への深い理解なくしてはより良いデジタル化はできないということがあり、
こうした理解に基づいて人文学者は理想的な協力関係を図書館、企業、デジタル・
アーカイブ関係者と築いていく必要があり、そこにデジタル・ヒューマニティーズ
の大きな役割があるという期待がこのシンポジウムにつながっているということで
あった。

 最初の講演では長尾氏により国立国会図書館でのデジタル化への取り組みが紹介
された。すでに大量の資料がデジタル化されているが、データ容量の制約により40
0dpiでデジタル化せざるをえないこと、マンガでの裏写りをどうするかといった問
題点も指摘された。また、デジタルカメラで大量に撮影された東日本大震災の記録
アーカイブへの取り組みや、三次元風景・三次元動画の撮影といった将来的な可能
性にも言及があり、Webサイト情報の収集にあたってのメタデータ付与の自動化への
期待なども語られた。また、原資料の部分を取り出し、それを対象として検索を行
うことの必要性にも言及があった。これには画像のパターン認識技術への期待の一
方で、脚本と映画等のリンクによるテキストからの映像検索といったことも提示さ
れた。さらに、すでに展開しつつある日中韓の図書館間機械翻訳検索サービスも紹
介され、すでに日本韓国ではかなりうまく検索できているということであった。そ
して、最後に、新しい知の形成に資する図書館ネットワークの形成を作っていくこ
との重要性について指摘された。

 その後、Muller氏の司会によりパネルセッションが開催された。ここでは、まず、
武田氏によるLinked Open Dataを手がかりとした文化資料のデジタル化へのアプロ
ーチが紹介された。情報のライフサイクルという観点から、ミュージアム・図書館・
文書館等によってすでに公開されている情報を相互にリンクづけていくことでデー
タをより生かしていく可能性が提示され、その例として、Europeana、そして、LOD
ACプロジェクトへの言及があった。

 次に、江上氏による日本のデジタル化資料の問題点についての発表が行われた。
日本のデジタル化資料が海外から見ると極めて貧弱なものであり、デジタル化時代
が進むにつれて事態がますます深刻になりつつあることが様々な資料を通じて紹介
された。

 パネルセッションの最後はCurrall氏とMoss氏の二人による「ギャップにご注意」
であった。デジタルな世界、図書館、デジタル・ヒューマニティーズにおける多く
のギャップの指摘とそこへの対応の仕方ということで二人が代わる代わる話をする
という体裁であり、様々な問題点が指摘された。特に、個々の小さなプロジェクト
では継続性が難しく、「インダストリアルスケール」にのせることが重要であり、
グーグルなどのデータには色々問題はあるにせよ、想像力や創造性によって乗り越
えていくことが可能であり、そのためにはデジタル・リテラシーが必要となるとい
うことであった。

 次に、Unsworth氏による講演が行われた。Unsworth氏は全米図書館情報学大学院
ランキング1位のイリノイ大学において図書館情報学研究科長を務めるとともに、長
年にわたって国際的な人文学デジタル化の動向を牽引してきた人物であり、現在で
も国際的なデジタル・ヒューマニティーズのコミュニティにおいて主要な役割を果
している。この講演では、まず、これまでの欧米での図書館・文書館での議論をふ
まえ、デジタル複製物の可能性と限界、そしてリスクに関する見解が示された。特
に、リスクとしては、デジタル複製物を完全なものと思い込んで現物を処分してし
まうことと、デジタル化において文脈が失われる結果、文脈不在の理解が生まれて
しまうということが挙げられた。それから、デジタル化において解釈をどう扱うか
という問題が必ず出てくることについて様々な経験に基づいて示した上で、それは
むしろ我々の知を外在化させるというメリットとしてとらえるべきでありそのよう
にして学問が発展し得ること、そしてそれもまたデジタル・ヒューマニティーズの
新しい可能性であることが提示された。

 全体ディスカッションでは、まず、吉見氏によるコメントが行われた。16世紀の
印刷革命の状況が21世紀の情報爆発と似通っていることから当時の如く新しい知が
生成される可能性を指摘しつつ、そこに向けた日本における困難さと、デジタル・
ヒューマニティーズという枠組みへの期待が、全体に対するコメントとして語られ
た。次に、アルバータ大学教授のGeoffrey Rockwell氏により、各プロジェクト、各
大学が競合状態にならないように注意してもらいたいこと、東アジアといった地域
でのデジタル・ヒューマニティーズの発展にも力を入れてもらいたいこと、ゲーム
文化のアーカイビングの重要性などが指摘された。その後、フロアから出された質
問や意見について活発な議論が展開された。テーマとしては、デジタル・ヒューマ
ニティーズにおける研究者としての評価の問題、社会における評価の問題、教育の
問題、16世紀の知の転換についての問題、データの持続可能性の問題、といったこ
とが議論され、時間切れとなった。

 全体として、やや忙しいスケジュールであったが、全体ディスカッションの時間
は1時間近く確保され、同時通訳がついたこともあり、フロアとも様々な議論が展開
された。人文学のデジタル化に関わる方々には大変有益なものとなったと思われる。
なお、本シンポジウムについては前出のRockwell氏がブログにまとめているのであ
わせて参照されたい。
http://www.philosophi.ca/pmwiki.php/Main/TokyoDHSymposium2011

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◇イベントレポート(3)
人文科学とコンピュータシンポジウム 「じんもんこん2011「デジタル・アーカイ
ブ」再考‐いま改めて問う記録・保存・活用の技術‐」
http://www.jinmoncom.jp/sympo2011/
(永崎研宣:一般財団法人人文情報学研究所)

 2011年12月10日~11日、京都駅にほど近い龍谷大学大宮キャンパスの、重要文化
財として指定されながら今なお現役として活用される校舎にて「じんもんこん2011
「デジタル・アーカイブ」再考‐いま改めて問う記録・保存・活用の技術‐」が開
催された。情報処理学会・人文科学とコンピュータ研究会によって毎年開催される
シンポジウムとしてすでに十数回を数える「じんもんこん」は、人文科学における
コンピュータの応用に関して、より幅広く、より高度な議論の場を形成すべく、有
志のプログラム委員による査読を経た発表と開催校による特別プログラム等といっ
た形で毎年開催されてきた。本年は、龍谷大学と花園大学の共催という、ともに仏
教資料のデジタル化に力を注いできた大学によるものであり、特別プログラムはそ
れにふさわしいものであった。龍谷大学はブリティッシュライブラリーが主催する
国際敦煌プロジェクト( http://idp.bl.uk/ )にはやくから参加するなど、仏教に
関わる資料のデジタル画像がとくに有名である。また、花園大学では、国際禅学研
究所( http://iriz.hanazono.ac.jp/ )による電子達磨や花園明朝フォントなど、
禅学に関わるテクストの電子化に先進的な取り組みを行ってきており、その一方で、
文学部では情報歴史学を提示し教科書を出版するなど、この分野での教育にも力を
注いでいる。このような二つの先進的な大学の共催によるシンポジウムは、とりわ
け特別プログラムにおいてその魅力が発揮された。特別セッション「大規模災害に
際し人文科学とコンピュータ研究がなしうること」では、東日本大震災を受け、文
化資料の保存と活用についての現在の取り組みと課題が紹介され、当該分野の研究
者からの様々な問題提起が行われた。そして、「仏教資料のデジタル化と公開・活
用をめぐって」では、龍谷大学・花園大学のそれぞれのこれまでの仏教資料のデジ
タル化と公開に関わる国際的な幅広い取り組みと今後の展開についての紹介があり、
また、研究・教育においてそうした資料をいかにして扱うかということについての
様々な議論が行われた。

 個々の研究発表は、発表数が多かったため、2会場に分かれ、パラレル・セッショ
ンという形で行われた。全発表数60のうち、対象とする資料の種類で見た場合には、
テクスト研究に関わるものが30、それ以外には、画像、音声、舞踊、地理情報、メ
タデータなどがあり、分野として見た場合には、文学、国語学、言語学、歴史学、
博物館学、仏教学、舞踊学、美術史学等、多岐にわたる分野に関わるものがあった。
大学院生による発表も多くみられ、この分野の将来が期待されるところでもあった。
また、Linked Open Data(LOD)に関わる発表が増えてきており、今後これが人文学
にどのように応用されていくかということも注目されるところである。なお、これ
らの発表の論文については、すでに無料で公開されている。情報処理学会電子図書
館( https://ipsj.ixsq.nii.ac.jp/ )より、「シンポジウム」→「シンポジウム
シリーズ」→「じんもんこんシンポジウム」→「2011」とリンクをたどっていくと、
個々の論文がPDFで閲覧できるようになっている。

 じんもんこん2011は、参加者総数187人と、なかなかの盛り上がりを見せただけで
なく、例年以上にTwitterへの書き込みが多かった。これをまとめたものが以下のURL
から閲覧できる。もちろん、会場での議論を再現しているのではなく、あくまでも
それについての(ほぼリアルタイムな)感想が拾い上げられているに過ぎないが、
会場の雰囲気を垣間見せるものとしては有用だろうと思われる。あわせて参照され
たい。

・じんもんこん2011 開催前~初日
http://togetter.com/li/226013

・じんもんこん2011 2日目~終了~その後
http://togetter.com/li/226440

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 配信の解除・送信先の変更は、
    http://www.mag2.com/m/0001316391.html
                        からどうぞ。

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◆編集後記(編集室:ふじたまさえ)
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今回も寄稿文、イベントレポートともに充実しています。人文情報学という学問自
体の盛り上がりも感じる内容ととなり、本年のしめくくりにふさわしい構成となっ
たのではないでしょうか。
人文情報学月報が私の年内最後の仕事となりました。まだまだ編集の仕事に慣れた
とは言えませんが、来年もさまざまな文章と出会い、皆さまにお届けできることを
楽しみにしています。ありがとうございました。

◆人文情報学月報編集室では、国内外を問わず各分野からの情報提供をお待ちして
います。
情報提供は人文情報学編集グループまで...
       DigitalHumanitiesMonthly[&]googlegroups.com
                  [&]を@に置き換えてください。

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人文情報学月報 [DHM005] 2011年12月30日(月刊)
【発行者】"人文情報学月報"編集室
【編集者】人文情報学研究所&ACADEMIC RESOURCE GUIDE(ARG)
【E-mail】info[&]arg-corp.jp [&]を@に置き換えてください。
【サイト】 http://www.dhii.jp/

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