2011-08-27創刊
人文情報学月報
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄Digital Humanities Monthly
2013-08-26発行 No.025 第25号【後編】 379部発行
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◇ 目次 ◇
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
【前編】
◇《巻頭言》「デジタルゲーム(ビデオゲーム)研究は人文情報学とむすびつくの
か?」
(尾鼻崇:中部大学人文学部)
◇《連載》「Digital Humanities/Digital Historyの動向
~2013年7月中旬から8月中旬まで~」
(菊池信彦:国立国会図書館関西館)
【後編】
◇人文情報学イベントカレンダー
◇イベントレポート(1)
WHAT ARE DIGITAL HUMANITIES?
(Oeyvind Eide & Espen S. Ore:オスロ大学)
(日本語訳:永崎研宣・人文情報学研究所)
◇イベントレポート(2)
Digital Humanities 2013
(上阪彩香:同志社大学文化情報学研究科)
◇イベントレポート(3)
Digital Humanities 2013
(永崎研宣:人文情報学研究所)
◇イベントレポート(4)
第13回国際チベット学会セミナーパネル“Tibetan Information Technology”
(苫米地等流:人文情報学研究所)
◇イベントレポート(5)
Corpus Linguistics 2013
(小林雄一郎:日本学術振興会/立命館大学)
◇編集後記
◇奥付
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【人文情報学/Digital Humanitiesに関する様々な話題をお届けします。】
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◇人文情報学イベントカレンダー(□:新規イベント)
【2013年8月】
■2013-08-31(Sat)~2013-09-01(Sun):
Code4Lib JAPANカンファレンス2013
(於・宮城県/南三陸プラザ ほか)
http://www.code4lib.jp/2013/07/1128/
【2013年9月】
■2013-09-02(Mon)~2013-09-05(Thu):
10th International Conference on Preservation of Digital Objects
(於・ポルトガル/Lisbon)
http://ipres2013.ist.utl.pt/
■2013-09-05(Thu)~2013-09-08(Sun):
3rd International Conference on Integrated Information, IC-ININFO
(於・チェコ共和国/Prague)
http://www.icininfo.net/
■2013-09-06(Fri)~2013-09-08(Sun):
State Of The Map 2013(SotM2013)
(於・英国/Birmingham)
http://wiki.openstreetmap.org/wiki/State_Of_The_Map_2013
■2013-09-10(Tue)~2013-09-13(Fri):
13th ACM Symposium on Document Engineering
(於・イタリア/Florence)
http://www.doceng2013.org/
■2013-09-16(Mon)~2013-09-18(Thu):
The International Conference on Culture and Computing(Culture and
Computing 2013)
(於・京都府/立命館大学 朱雀キャンパス)
http://www.media.ritsumei.ac.jp/culture2013/
■2013-09-17(Tue)~2013-09-21(Sun):
FOSS4G 2013
(於・英国/Nottingham)
http://2013.foss4g.org/
■2013-09-19(Thu)~2013-09-21(Sun):
JADH2013@Kyoto
(於・京都府/立命館大学)
http://www.jadh.org/JADH2013
■2013-09-24(Tue)~2013-09-26(Thu):
International Conference on Information and Social Science(ISS 2013)
(於・愛知県/ANAクラウンプラザホテルグランコート名古屋)
http://ibac-conference.org/iss2013/
□2013-09-28(Sat):
計量国語学会 第57回 大会
(於・東京都/首都大学東京 秋葉原サテライトキャンパス)
http://www.math-ling.org/
■2013-09-28(Sat)~2013-09-30(Mon):
日本地理学会 2013年 秋季学術大会
(於・福島県/福島大学)
http://www.ajg.or.jp/ajg/2013/05/20132-2.html
【2013年10月】
■2013-10-02(Wed)~2013-10-05(Sat):
2013 Annual Conference and Members’ Meeting of the TEI Consortium
(於・イタリア/Universita` La Sapienza)
http://digilab2.let.uniroma1.it/teiconf2013/
■2013-10-03(Thu)~2013-10-05(Sat):
Cultural Research in the context of Digital Humanities by The British
Society for the History of Science
(於・ロシア/Saint-Petersburg)
http://www.bshs.org.uk/cfp-cultural-research-in-the-context-of-digital-h...
□2013-10-05(Sat)~2013-10-06(Sun):
英語コーパス学会 第39回 大会
(於・宮城県/東北大学)
http://english.chs.nihon-u.ac.jp/jaecs/WhatsNew/cfp39.html
■2013-10-06(Sun)~2013-10-09(Wed):
IEEE BIGDATA 2013: WORKSHOP ON BIG HUMANITIES
(於・米国/Silicon Valley)
http://bighumanities.net/
■2013-10-12(Sat):
情報処理学会 第100回 人文科学とコンピュータ研究会発表会
(於・大阪府/国立民族学博物館)
http://www.jinmoncom.jp/
■2013-10-12(Sat)~2013-10-13(Sun):
第61回 日本図書館情報学会 研究大会(60周年記念大会)
(於・東京都/東京大学 本郷キャンパス)
http://www.jslis.jp/conference/2013Autumn.html
■2013-10-23(Wed)~2013-10-26(Sat):
第34回TeX Users Group年次大会
(於・東京都/東京大学 駒場Iキャンパス)
http://tug.org/tug2013/jp/
■2013-10-26(Sat)~2013-10-27(Sun):
地理情報システム学会 第22回研究発表大会
(於・東京都/慶應義塾大学 三田キャンパス)
http://www.gisa-japan.org/news/detail_1087.html
■2013-10-28(Mon)~2013-10-31(Thu):
2nd International Conference on the History and Philosophy of Computing
(HaPoC 2013)
(於・フランス/Ecole Normale Superieure)
http://hapoc2013.sciencesconf.org/
■2013-10-28(Mon)~2013-11-01(Fri):
digital heritage international congress 2013
(於・フランス/Marseille)
http://www.digitalheritage2013.org/
【2013年11月】
□2013-11-14(Thu)~2013-11-16(Sat):
G空間EXPO 2013「地理空間情報科学で未来をつくる」
(於・東京都/日本科学未来館)
http://www.g-expo.jp/
□2013-11-20(Wed)~2013-11-22(Fri):
The 10th Conference of the European Society for Textual Scholarship
(ESTS 2013)
(於・フランス/E'cole Normale supe'rieure)
http://www.textualscholarship.eu/conference-2013.html
□2013-11-21(Thu)~2013-11-24(Sun):
PACLIC 27: The 27th Pacific Asia Conference on Language, Information, and
Computation
(於・台湾/National Chengchi University)
http://paclic27.nccu.edu.tw/
□2013-11-22(Fri)~2013-11-23(Sat):
東京大学空間情報科学研究センター 2013年度 全国共同利用研究発表大会
「CSIS DAYS 2013」
(於・千葉県/東京大学 柏キャンパス)
http://www.csis.u-tokyo.ac.jp/csisdays2013/
特殊文字については次のとおり表記しました。
アクサン・テギュ:e'
Digital Humanities Events カレンダー共同編集人
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小林雄一郎(日本学術振興会特別研究員PD)
瀬戸寿一(立命館大学衣笠総合研究機構専門研究員)
佐藤 翔(同志社大学教育文化学科 助教)
永崎研宣(一般財団法人人文情報学研究所)
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◇イベントレポート(1)
WHAT ARE DIGITAL HUMANITIES?
デジタル・ヒューマニティーズとは何か?
Seminar at the University of Oslo, Norway, June 14-15, 2013
デジタル・ヒューマニティーズセミナー 2013年6月14-15日於オスロ大学
: http://whataredigitalhumanities2013.wordpress.com/
(Oeyvind Eide & Espen S. Ore:オスロ大学)
(日本語訳:永崎研宣・人文情報学研究所)
○はじめに
このセミナーはオスロ大学のAnnika Rockenbergerによって開催された。主に博士
課程の学生が対象だったが、オープンなものであり、ノルウェー国立図書館やムン
ク・ミュージアム、さらに他の大学からの参加者も含めて40名ほどが参加していた。
そこでの講演としては、デジタル・ヒューマニティーズの現状についての一般的な
紹介や、ノルウェーにおける人文学へのコンピュータの応用に関わる歴史的な概観、
そして、プロジェクトやプロジェクト的なものについてのいくつかの発表があった。
プログラムとアブストラクトを含めたセミナーのブログは以下のWebサイトから参照
できる。http://whataredigitalhumanities2013.wordpress.com/
Jan Christoph Meister(訳注:ドイツのデジタル・ヒューマニティーズを牽引す
るハンブルク大学教授)によるセミナーのまとめといくつかのハイライトに関して
は以下のWebサイトにて参照できる。
http://jcmeister.de/whate-are-the-digital-humanities-public-phd-seminar-...
また、すべての発表のアブストラクトは以下のサイトを参照されたい。
http://whataredigitalhumanities2013.wordpress.com/abstracts/
○6月14日
■Oeyvind Eide(基調講演):「デジタル・ヒューマニティーズとは何か?」
Eideは、一つの分野としてのデジタル・ヒューマニティーズについて幅広く概観
した。彼は、昨年の組織的な発展やカリキュラムの発展、そして、主要なデジタル・
ヒューマニティーズ組織(訳注:ADHO)の近年の自己規定の仕方を描写するために、
国際会議での顕彰について概説した。(訳注:Eide氏はADHOの顕彰委員を務めてい
る。)彼は、デジタル・ヒューマニティーズへの近年の批判についても検討した。
たとえば、ポスト植民地主義やフェミニズムの思想に基づくものであった。そして、
それが原理的に良いものであると結論づけた。デジタル・ヒューマニティーズは、
あらゆる研究と教育の実践として、批判的なアプローチに根ざしていることが必要
である。彼はまた、ノルウェー語でデジタル・ヒューマニティーズという言葉をど
う表現するかということについても検討した。(この発表のスライドは以下のサイ
トにて参照できる。
http://www.oeide.no/research/dhOslo2013/eideKeynoteHDOslo2013.pdf )
■Espen S. Ore:「ノルウェーにおけるデジタル・ヒューマニティーズ、最初の25
年間、1975~2000年」
発表の中で、Espen Oreは、完了したプロジェクトを背景として提示するために、
ベルゲン大学のノルウェー人文学コンピューティングセンターの歴史を採り上げた。
このセンターは、1973年から1991年まで「Humanistiske Data」という学術誌を発行
しており、その歴史の多くは、デジタル版で確認することができる。(
http://gandalf.aksis.uib.no/info/arkiv/hd/ )Oreが示したのは、かつて、後の
デジタル・ヒューマニティーズの国内的な発展の基礎となってきた国立センターが
あり、たとえそこでの成果の多くが機能しなくなっていたとしても、今日の我々は
その方法論を活用している、ということであった。
■Jill Walker Rettberg:「電子文献知識ベース:文書化、連携、そして視覚化」
Jill Walkerは、自らのブログの中でこの講演について以下のように述べている。
「自分の講演は、自分達がELMCIP知識ベースで行っていることに関するものであり、
その大部分は、Scottがこの春に行った視覚化に基づくものであった。一方で、1月
にアムステルダムで行ったプロジェクトについても触れた。これは、この分野のイ
メージをつかむために、人々がデジタル・ヒューマニティーズに関して購入した本
をアマゾンのAPIを用いてグラフ化したものであった。ここでのスライドは、4月の
HASTAC会議のためにScottが作成したものを軽量化したバージョンである。」(
http://jilltxt.net/?p=3624 )そして彼女は、新しいブログ記事でもこのプロジェ
クトについて記述している。( http://jilltxt.net/?p=3649 )
■Oddrun Groenvik:「ありふれた進歩と大きくなりつつある苦労―デジタル化はノ
ルウェー語辞書2014版をどのように変えたか」
Groenvikは、長期間にわたって展開された辞書編纂プロジェクトノルウェー語辞
書の最後の時期について発表した。それは、1930年に始まったものであった。ノル
ウェー語辞書2014プロジェクトは、2002年に始まり、2014年に辞書を出版して終了
する予定である。その資料のデジタル化とカスタマイズされた辞書記述システムの
開発は、辞書記述の速さと質に大きな衝撃を与えた。Groenvikは、そのプロセスに
関する経験について検討し、それが、より信頼性と持続性が高い辞書へとつながる
ものであると結論づけた。
■Laetitia le Chatton:「対話する機械とデジタル・ヒューマニティーズにおける
その役割」
Laetitia le Chattonは、対話の相手となることが可能な機械の背景にある理論と、
人間との交流(あるいは会話)を通じていかにしてそれが対話の能力を構築し得る
かということについて発表を行った。彼女は、現在取り組んでいる実装におけるい
くつかの機能のデモンストレーションも行った。
■Scott B. Weingart:「近代科学のゆるやかな関係」
Scott Weingartは、初期の(主に欧州の)科学者の手紙のネットワーク解析に基
づく成果を発表した。彼の成果の一部は、すでに関係を構築した科学者の間での手
紙の解析であった。この手法に関して、デジタルツールが手で行った成果と一致し
た時、彼はデジタルツールが助けになると感じた。こういったツールが信頼に値す
るように見えるとき、個々の研究者がコンピュータを用いずに可能なことを超えた
大きな往復書簡のコレクションやグループの分析にも拡張可能となるのである。
○6月15日
■Lieve van Hoof(基調講演):「現在は使われない言語とデジタル・ヒューマニ
ティーズ:古代世界のソーシャルネットワーク解析」
van Hoofはもう一つのネットワーク解析の発表を行った。これは、古代へとつな
がるものであった。このなかで、van Hoofは、デジタル・ヒューマニティーズの最
古のテーマの一つであるデジタル古典学の歴史を概観した。そして彼女は、自らの
研究の中心、すなわち、4世紀の手紙のソーシャルネットワーク解析に焦点をあて、
ネットワーク解析が古典文献、さらに一般に、古典文化についての理解を深める可
能性をいかに有しているかということを示した。彼女はデジタル技術を用いない手
法との若干の比較をも行った。
■Jan Christoph Meister(基調講演):「[ウラジーミル・]プロップはおそらく
気がついていたようだが、しかし考えようとはしなかった。:コンピュータ
を応用した物語学へ向けて」
Meisterの発表は、物語学と構造主義的文学研究からくる伝統的な研究上の問いに
根ざしたものであり、それらが元々発表された時に利用できた手法に比べて、その
ような問いに対してデジタルツールがいかに良い答えを提供できるかということを
示した。彼は自らのグループが開発したCATMA (Computer Aided Textual Markup
and Analysis) というツールについて説明した。それは文学テクストの注釈と解析
のために用いられるものであり、Meisterは、研究上の幅広い問いに答える仮定にお
いてそれがどのように用いられることを目指しているのかを示した。そのCATMAとい
うツールは、以下のWebサイトにて見つけられる。 http://www.catma.de
■Stine Brenna Taugboel:「ヘンリック・イプセンの作品。デジタル学術編集版と
その読者達」
Stine Taugboelは、発表のなかで、ヘンリック・イプセンの作品のデジタル版に
おける機能とアーカイブの構造について要点を説明した。このデジタル版は、実際
のところ、オスロ大学での公式発表の数日前に、大阪で開催されたJADH2011でプレ
ビューが紹介されたことがある。その仕事は現在、最初の版でのユーザの使用感に
基づき機能が強化された新バージョンが完成に近づきつつある。デジタル版は以下
のサイトにて利用可能である。 http://www.ibsen.uio.no
■Christian-Emil Ore:「MENOTA:中世ノルウェーテキストアーカイブ(Medieval
Nordic Text Archive)」
Christian-Emil Oreは、MENOTAの構築に関する背景とその内容や機能の一部に関
して発表を行った。MENOTAは、最小限のテクストエンコーディングから最高レベル
のテクストエンコーディングに至るまでのステップを記述するという、テクストに
関する要求を含んだものである。すなわち、画像のレベル、翻刻のレベル、正規化
のレベルである。TEI (Text Encoding Initiative) P5のMENOTAカスタマイズ版が開
発されており、これはMENOTAハンドブックにおいてさらに説明されている。MENOTA
に関するさらなる情報は以下を参照されたい。 http://www.menota.org/
■Emma Ewadotter:「人文学と文化、情報技術」
Ewadotterは、スウェーデン北部のウーメオ大学におけるHUMlabについて説明した。
HUMlabはデジタル・ヒューマニティーズとデジタル芸術文化に関する研究センター
であり、人文学研究者と同様に創造的な芸術とも親密な関係がある。彼らが目指し
ているのは、様々な視点が融合されるような実践やプロジェクトを発展させること
であり、そしてまた、分野を横断して人々を支援するセンターとして機能すること
である。センターのWebページは以下である。 http://www.humlab.umu.se/
○終わりに:Digital Humaniora i Norge
このセミナーの後、参加者達は、オスロにおける、そしてさらに広い範囲でのデ
ジタル・ヒューマニティーズの未来に関して議論するために集まった。デジタル・
ヒューマニティーズの研究グループを新たに結成し、この秋に研究を目的としたワ
ークショップを開催し、その後、学期ごとにいくつかの定期的なセミナーを開催す
ることが同意された。ノルウェーと北欧のレベルでの連携に関しても議論が行われ
たが、結論には至らなかった。しかしながら、議論を継続することが同意された。
特殊文字については次のとおり表記しました。
ストローク付きo:oe
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◇イベントレポート(2)
Digital Humanities 2013
: http://dh2013.unl.edu/
(上阪彩香:同志社大学文化情報学研究科)
7月16日から19日にかけて、アメリカ・ネブラスカ州にあるネブラスカ大学リンカ
ーン校で開催されたADHO主催のDigital Humanities 2013(DH2013)に参加した。本
学会は世界中のDigital Humanitiesの研究者が参加する大会である。9のpanel
session、poster発表が52件、27のLong paper session、16のshort paper session
でpaperのセッションでは159件の報告が行われた大規模な大会であった。
今回の学会での研究発表は多岐にわたっており、多くの興味深い研究発表が行わ
れていた。ここでは私の印象に残った発表について述べたい。私の研究テーマがテ
キストの計量分析であるため、特に印象に残ったのはテキストの著者推定に関する
研究である。
今回の会議では映像での発表であったが、
“Stylometry and the Complex Authorship in Hildegard of Bingen's Oeuvre”
Kestemont, Mike;Moens, Sara;Deploige, Jeroen
の研究に興味を持った。今回の発表ではHildegard of Bingenがラテン語で著した作
品の中で、Guibert of Gemblouxが改変を行った作品に文章の著者Hildegardと改変
を加えたGuibertのどちらの文体の特徴が強く現れているのかということを、主成分
分析を用いて検討していた。
他にも中国の長編小説『紅楼夢』の著者に関する研究
“A Text-Mining Approach to the Authorship Attribution Problem of Dream of
the Red Chamber” Tu, Hsieh-Chang;Hsiang, Jieh
などテキストの著者問題に関する研究、テキストの分析に関するRのパッケージに関
する研究など多くの発表を聞くことができた。今回行われた発表のアブストラクト
は http://dh2013.unl.edu/ のAbstractsのページで読むことができる。
私にとって今回の国際会議への参加は、とても貴重な経験になった。世界でなさ
れているDigital Humanitiesの多くの研究を実際に見聞きすることができたし、懇
親会で多くの参加者と会話をできたことも研究を続けていくうえで、とても刺激的
な経験となった。
また今回はネブラスカ大学の“The Village”と呼ばれる寮に滞在したのだが、滞
在期間中にはルームメイトがいて、短い期間ではあったが同年代の海外の学生と同
じ部屋で時間を過ごせたことも貴重な体験となった。
今回の学会では、初めてのアメリカ、初めてのこのような大きな国際会議での発
表であった。最初は一人で参加したということもあり不安であったが、現地で多く
の先生方にお世話になり、とても有意義で楽しい時間を過ごすことができた。
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◇イベントレポート(3)
Digital Humanities 2013
: http://dh2013.unl.edu/
(永崎研宣:人文情報学研究所)
近年は「デジタル人文学」という訳語が広まりつつあるDigital Humanities(以
下、DH)の関連学会等の国際連合であるAlliance of Digital Humanities
Organizations(以下、ADHO)による年次国際学術大会、Digital Humanities 2013
が、7月16~19日、ネブラスカ大学リンカーン校にて開催された。
1989年に開催された欧州と米国のDH関連学会による合同学術大会から数えると25
回目、Digital Humanitiesと冠するようになってから8回目となるこの学術大会は、
例年に漏れず日本を含む様々な国から多くの参加者が集まるとともに、特に今回は
米国におけるDHの盛況ぶりを強く感じさせるものともなった。一方で、ADHOでは言
語文化の多様性を尊重しようとする意識が高く、たとえば、このたびの国際会議の
論文募集要項は、日本語を含む12カ国語で公開(*1)されていたことも付記してお
きたい。
プレカンファレンス・ワークショップも含めると236件にのぼる各発表については
アブストラクト集(*2)がHTML版とPDF版で公開されているのでそちらを参照された
い。例年に漏れず、テキスト解析やテキストアーカイビング(テキストエンコーデ
ィング)の成果や事例から方法論に至るまでの様々な発表を中心としつつ、マルチ
メディア的な事柄や教育に関する発表、あるいはフェミニズムとDHなど、様々なテ
ーマを扱う発表が集まっていた。また、世界的にコストカットの対象となりつつあ
る人文学に対してDHがいかにして救済策たり得るかということについてのパネルセ
ッション(*3)も組まれていた。一方で、DHが本当に人文学に資するものなのかと
いう問題提起も改めて行われていた。その他、特に筆者の印象に残った点としては、
時空間情報とLinked Dataへのアプローチがより強まったように感じられた。とりわ
け、「北の方へ少し向かってから」というような曖昧なテキスト情報をいかにして
時空間情報として扱うか、という事柄を扱う発表(*4)は大変興味深いものであっ
た。また、多くの発表は、全米人文科学基金(NEH)をはじめとする各国の研究助成
財団の支援を受けたものであり、DHに対するそうした支援のいっそうの広がりを感
じたところでもあった。
発表以外の興味深かった点としては、会期中の昼休みを順次利用しての欧州の学
会・米国の学会・ADHOの会員総会であった。特に、米国の学会の会員総会では研究
者を募集中の組織と求職中の研究者とがそれぞれにショートスピーチを行う場が提
供され大いに盛り上がっていた。また、ADHOの会員総会では、これに先立ち、分科
会(Special Interest Group)の仕組みを運営し始め、Global Outlook::Digital
Humanities という分科会を立ち上げたところであったが、続く分科会の候補という
ことで、地理情報、図書館とDH、社会正義とDH、Linked Open Data、学部教育での
DH、ポスト植民地主義に関するDH等がそれぞれにショートスピーチの場を与えられ、
参加者を募集していた。(*5)
2014年のこの学術大会は、スイス・ローザンヌで開催される。2015年はシドニー
である。基本的に間口の広い学術コミュニティであり、日本からの発表も歓迎され
るので、DHに関わるテーマの研究をしておられる方々はぜひ発表をご検討いただき
たい。例年、発表申し込みの概要締切りは10月末頃となっている。また、日本でも
ADHOのメンバー組織であるJADHの年次学術大会(*6)が本年は9月に立命館大学で開
催されるので、まずはそちらを視察していただくと良いかもしれない。
(*1) http://dh2013.unl.edu/call-for-proposals/
(*2) http://dh2013.unl.edu/abstracts/
(*3) http://dh2013.unl.edu/abstracts/ab-241.html
(*4) http://dh2013.unl.edu/abstracts/ab-319.html
(*5) http://www.adho.org/announcements/2013/update-proposed-adho-sigs
(*6) http://www.dh-jac.net/jadh2013/
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◇イベントレポート(4)
第13回国際チベット学会セミナーパネル“Tibetan Information Technology”
: http://www.iats.info/panels-and-sessions/
(苫米地等流:人文情報学研究所)
去る7月21日から27日までの7日間、第13回国際チベット学会セミナー(Seminar
of the International Association for Tibetan Studies)(*1)がウランバート
ル市のモンゴル国立大学にて開催された。3年ないし4年おきに開催される国際チベ
ット学会セミナーは、宗教・言語・社会・政治・歴史などチベット学の全分野をカ
バーする大規模な学術集会であり、今回は45のテーマ別パネルおよび17の一般セッ
ションで総数600を越える研究発表がなされた。(*2)
(*1) http://www.iats.info/the-thirteenth-seminar-of-the-iats-%E2%80%93-ulaanb...
(*2) http://www.iats.info/panels-and-sessions/
今回のセミナーでは、2010年12月に死去したEllis Gene Smith の追悼セッション
“Among Digital Texts-Remembering E. Gene Smith”(*3)が開催された。E.
Gene Smith は、およそチベット学に携わる者であれば知らない者はないと言って差
し支えない斯界の巨人・恩人であり、とくに彼が1960年代末より、米国国会図書館
ニューデリー事務所在勤時に亡命チベット人コミュニティーの協力で収集した膨大
なチベット語文献のコレクションは、その後のチベット学発展の大きな原動力とな
った。また、のちにはTibetan Buddhist Resource Center(TBRC)(*4)の設立に
主導的役割を果たし、仏教文献を中心としたチベット語資料デジタル化の先鞭をつ
けた。(*5)以下に報告するのは、Gene Smith追悼セッションの関連パネルとして
開かれた “Tibetan Information Technology”の概要である。
(*3) http://www.iats.info/gene-smith-memorial-session/
(*4) http://www.tbrc.org/
(*5)E. Gene Smithの経歴・業績については、E. Gene Smith, Among Tibetan
Texts. History & Literature of the Himalayan Plateau(Boston: Wisdom
Publications, 2001)所収のKurtis R. SchaefferによるIntroductionに詳しい。
なお、英語版WikipediaのE. Gene Smithの項目は、このSchaefferによる
Introductionに多くを負っている。
追悼セッションおよびパネルは、7月22、23日の2日にわたって開催された。22日
午前は、Gene Smithの業績を称えるトリビュートに続いて、各種デジタル化プロジ
ェクトを紹介するショートペーパーセッションが開かれたが、報告者は残念ながら
諸般の事情により(有り体に言うと、会場が狭隘なところに定員をはるかにオーバ
ーする聴衆が詰め込まれたのに辟易して)聴講しなかったため、その内容について
は割愛せざるを得ない。
パネル“Tibetan Information Technology”は同日午後より開催され、翌23日ま
で16件の個別発表および2つのラウンドテーブルセッションが行われた。以下にその
内容を報告するが、直前にネブラスカ大学で開催されたDH2013からのとんぼ返りで
時差ボケした頭でなかば朦朧としながら聴講し、殴り書きしたメモしか手許の資料
がない(今回の学会では、アブストラクト集などは配布されなかった。またパネル
の性格上、パワーポイントによるプレゼンが中心で配布資料もなかった)ため、不
備も多々あろうことをまずお断りしておきたい。
22日午後のセッションでは、まずTBRCのJeff Wallmanが、“Preservation &
Access of Tibetan Texts in a Global Setting”と題して14年間にわたるチベット
文献デジタル化の経験を振り返り、その間に遭遇した様々な問題について述べた。
次いで、コロンビア大学のPaul Hackettは“Digital Resources for Research
and Translation of the Tibetan Buddhist Canon”の題で、チベット語仏典翻訳を
サポートするツールとしてのBuddhist Canons Research Database(*6)について発
表し、同種のプロジェクト間の連携に向けた共通仕様の必要性および将来の展望を
示した。
オクスフォード大学Bodleian LibraryのCharles Mansonは、“Development of a
digital catalogue of the Bodleian Tibetan manuscripts: Bod Karchak@the Bod
”と題して、Bodleian 所蔵の200以上のチベット語写本および1950年以前に刊行さ
れたチベット語木版本の電子カタログ作成プロジェクトの紹介を行った。このカタ
ログは、英国全体で保存されるチベット語文献の統一カタログのサブセットと位置
づけられ、データの構造はアラビア語文献データベースであるFIHRIST(*7)のもの
を参考に設計されている。
Kelsang Tahuwa(東京・カワチェン)は、Digital Preservation Societyによっ
て刊行された、モンゴル国立図書館所蔵のチベット大蔵経(テンパンマ写本・北京
版)電子版(*8)について発表を行った。
Robert Chiltonは、Orient Foundation for Arts & Culture(インド・サールナ
ート)の公開する資料集Classical Tibetan Knowledge(*9)を紹介した。この資料
集は、チベットの伝統的な学問・芸術に関する知識の伝承を目的とし、主にチベッ
ト仏教僧・画家・音楽家・舞踊家などによる利用に供するため、音声データ・動画・
写真・文献を収集したものであるが、そのなかでも仏教哲学文献に対する口頭での
解説(Oral commentary)が収録されている点が特筆に値する。
米国国会図書館のSusan Meinheitは、“Tibetan Digital Project of the
Library of Congress”と題し、同図書館で遂行されている最新のチベット関連デジ
タル化プロジェクトを紹介した。このプロジェクトにおいては、チベット大蔵経な
どの文献資料に加えて、チベット現代史研究の第一人者Melvyn Goldsteinが寄贈し
た中国チベット自治区における聴き取り調査資料のデジタルアーカイブ化も進めら
れている。
Alexander Gardnerと Asha Kaufman(Shelly & Donald Rubin Foundation)は“
Collaborative On-line Database Publication: The Treasury of Lives”と題し、
チベット史上の僧俗にわたる著名人物の伝記データベースTreasury of Lives(*10)
について発表した。このデータベースは、欧文およびアジア諸語の資料に基づき、
peer reviewされた学術的信頼性の高い伝記資料を提供するものであり、転生活仏・
大寺院座主などの歴代一覧や図像資料とのリンクなど多岐にわたる情報を含む詳細
かつ包括的なものである。
第1日目の最後は、Klu tshang rDo rje rin chen(ルツァン・ドルジェリンチェ
ン)による発表(チベット語)“Bla brang dgon pa'i dpe mdzod du nyar ba'i
yig tshang glog rdul yig mdzod du phab dgos pa'i don snying rags bshad”
(ラブラン寺図書館蔵資料電子化の必要性について)であった。この発表は、中国
甘粛省にあるチベット仏教の名刹ラブラン・タシキル寺に現存する文献・図像資料
の重要性を示し、その散逸を防ぐ目的で行われているデジタル化作業の現況を報告
するものである。報告によると、現在までに2000巻以上の木版本・写本および仏画
が画像データ化されたという。
(*6) http://www.aibs.columbia.edu/databases/login/login-form.php
(*7) http://www.fihrist.org.uk/
(*8) http://www.tibet-dps.org/
(*9) http://www.tibetan-knowledge.org/en_home.asp
(*10) http://www.treasuryoflives.org/
翌23日午前のセッションは、筆者と永崎研宣(人文情報学研究所)による発表か
ら始まった。この発表では、ハンブルク大学・人文情報学研究所・東京大学の共同
によるインド仏教語彙データベースプロジェクトIndo-Tibetan Lexical Resource
(ITLR)(*11)の概要が紹介された。
次いで、Pavel Grokhovskiyは、“The Basic Corpus of the Classical Tibetan
Language with a Russion Translation and a Lexical Database”と題する発表を
行い、チベット語教育をサポートするためのコーパス作成にまつわる技術的諸問題
(マークアップ・分節・検索手法など)について述べた。
Lobsang Monlamの発表“On the Framework of the Complete Monlam Tibetan
Dictionary”(発表はチベット語)は、チベット語のインターフェースを備えた教
育のためのチベット語デジタル辞典Kun btus tshigs mdzod chen mo(総合大辞典)
(*12)を紹介するものであった。この辞典の特色の一つは、共同作業によるコンテ
ンツの拡張であり、これによって古典語彙・方言・新造語を含む包括的辞典の構築
が目指されている。
Edward Garrett(The School of Oriental and African Studies, University
of London)は、“NLP Pipelines for Tibetan Corpus”と題し、チベット語自然言
語処理のためのツール開発について発表した。(*13)
Tashi Tsering(China Tibetology Research Center, CTRC)は、“Introducing
Two Tibetan Unicode Fonts and One Tibetan Input Method for Windows System”
の演題で、Windows、Mac OS X、Unix-like OSで利用可能なチベット語フォントおよ
びWindows向けのチベット語インプットメソッドの紹介を行った。(*14)なお、こ
のフォントは無料でダウンロード可能である。(*15)
“Automatic Scribal Analysis of Tibetan Writings”と題するNachum
DershowitzとLior Wolf(Tel Aviv University)の発表は、彼らがヘブライ語文献
の分析で成果を挙げた手法(*16)のチベット語写本に対する適用を試みたものであ
る。具体的には、料紙の特徴・筆跡・内容・語彙などを分析することによってばら
ばらの写本断簡を分類し、もとの形を復元しようとする研究である。
Michael Sheehy(TBRC)は、“Charting Par khang Culture: Towards an
Analytics of Early Xylographic Literary Production in Tibet”と題して、チベ
ット木版本の系譜を地理的に整理したデータベースの作成を通して、チベットの初
期出版文化を明らかにしようとする試みについて発表した。
個別発表の最後は、Lauran Hartley(Columbia University)による“
Re-examining the Role of University Libraries in the Service of Tibetan
Studies”と題する図書館学の視点からのサーヴェイであった。この発表では、大学
間の協力体制やコレクション充実のためのユーザーの役割など多方面から見た、大
学図書館におけるチベット学リソースの整備についての現状分析・提言がなされた。
(*11) http://www.kc-tbts.uni-hamburg.de/index.php/en/projects/33-what-is-the-i...
(*12) http://www.monlamit.org/
(*13) http://www.soas.ac.uk/religions/research/tibetan-in-digital-communicatio...
(*14) http://digitaltibetan.org/index.php/Tibetan_Fonts では、当該フォン
トの作成者をCTRC = Central Tibetan Relief Committee とするが、誤り。こ
れはチベット亡命政府関連の機関であり、本発表者Tashi Tsering の所属先で
ある中国蔵学研究中心(CTRC = China Tibetology Research Center)とは異な
る。
(*15) http://www.yalasoo.com/English/docs/yalasoo_en_font.html(旧版?)
(*16) http://www.genizah.org/
パネル二日目の午後は、2つのラウンドテーブルセッションに充てられた。セッシ
ョンはそれぞれ、I. Tibetan digital humanities: the wider perspective、II.
Technical issues and future directions と題して、幅広いテーマについて自由な
議論が行われた。その内容については、あまりにも多岐にわたるためここで紹介す
ることは避けるが、いずれのセッションもチベット学における情報技術利用に対す
る参加者の熱気が感じられるものであった。また、デジタル技術の進化に対し、3、
4年に一度だけ開催される学会での会合だけではとてもキャッチアップはおぼつかな
いことから、国際チベット学会として正式にデジタル化に関するコミッティーを立
ち上げ、本パネルの参加者を中心としてメーリングリストなどを通じた情報交換を
常時進めていくことが合意されたのもラウンドテーブルの重要な成果であった。
以上、駆け足ではあるが、国際チベット学会セミナーで催されたパネル“
Tibetan Information Technology”の概要をお知らせした。このパネルに参加して
驚いたのは、人文情報学あるいはDigital Humanitiesと呼ばれる分野で研究・活用
されている手法のほぼ全てが、チベット学という少々マイナーなエリアにおいても
実際に消化吸収され、応用されていることである。もちろん、デジタル技術の活用
はチベット学に限らず広く人文系諸学において浸透をつづけることであろうが、そ
の一端を垣間見ることができたのは、人文情報学に携わる者として大いに意を強く
したところである。またそれと同時に、逆説的ではあるが、本当の意味で人文情報
学が真価を発揮するのは、「人文情報学」が人文学に完全に吸収・同化され、もは
や「人文情報学」を殊更に標榜する必要がなくなった時なのではないかという思い
を抱かせた今回の学会参加でもあった。
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◇イベントレポート(5)
Corpus Linguistics 2013
: http://ucrel.lancs.ac.uk/cl2013/index.php
(小林雄一郎:日本学術振興会/立命館大学)
2013年7月22から26日、イギリスのランカスター大学でCorpus Linguistics 2013
が開催された。この会議は、コーパス言語学の分野では最大規模のものであり(今
回の延べ参加人数は330人)、2001年以降イギリス国内で2年おきに開催されている。
今大会の口頭発表は、4部屋のパラレル・セッションで行われた(口頭発表以外に
は、基調講演、ポスター発表、ワークショップなどがあった)。全46セッションの
テーマを見ると、“Discourse, Politics & Society”に8セッションが割り当てら
れており、最多であった(これ以外に、“Discourse”というセッションも2つあっ
た)。そして、“New methods”が4セッション、“Annotation”、“Grammar”、“
Corpus construction”、“Collocation”がそれぞれ3セッションずつと続く。一見
して分かるように、今大会では、談話(discourse)に関わる発表が非常に多かった。
談話関係の発表が多かった理由としては、以下の2点が考えられる。まず、近年の
コーパス研究の流れとして、単語レベルや文レベルの分析だけでなく、いくつかの
文のかたまり、あるいはテクスト全体を射程に入れる談話レベルの分析が注目を集
めている点である。たとえば、コーパス言語学の書籍を多く出版している
Bloomsbury Academicは、“Corpus and Discourse”というシリーズを刊行中である
[1]。また、前回大会のCorpus Linguistics 2011[2]のテーマが“Discourse
and Corpus Linguistics”であり、そのときも談話関係の発表が多かった。
さらに、もともとイギリスでは談話分析の研究者が多く、彼らがコーパスを使い
始めた部分もあるかも知れない。次に、ランカスター大学でCorpus Approaches to
Social Sciencesというプロジェクトが行われている点も見逃せない。このプロジェ
クトのウェブサイト[3]を見ると、メディア研究や政治的言説の分析など、社会科
学分野でのコーパス利用が進められているようである。実際、今回の会議の“
Discourse, Politics & Society”セッションでは、そのような発表が数多く行われ
ていた。
なお、今大会における日本人による発表は、
・Kazuko Fujimoto,“Corpus frequency or the preference of dictionary
editors and grammarians?: The negative and question forms of used to”
・Akira Murakami,“Longitudinal development of L2 English grammatical
morphemes: A clustering approach”
・Yukio Tono,“‘Criterial feature’ extraction from CEFR-based corpora:
Methods and techniques”
・Fujiwara Yasuhiro,“Discourse characteristics of English in news
articles written by Japanese journalists: ‘Positive’ or ‘negative’?”
・Tomoko Watanabe,"A critical exploration of the use of English general
extenders in a corpus of Japanese learner speech at different levels of
speaking proficiency”
・Yuichiro Kobayashi & Toshiyuki Kanamaru,“Identification of linguistic
features for predicting L2 proficiency levels using Coh-Metrix and
machine learning”
であった(敬称略、発表順)。
また、Digital Humanitiesと強く関連する発表として、Ian Gregory, et. al.“
Geographical text analysis mapping and spatially analysing corpora”があっ
た。これは、コーパス言語学と地理情報システム(GIS)の技術を融合させた研究で
あり、コーパスから得られた地名の頻度を用いて、様々な視覚化を行っていた。今
後、このような学際的研究の発展が非常に楽しみである。
なお、次回の大会は、2015年に再びランカスター大学で開催される予定である。
個人的には、狭義の言語研究者のみならず、歴史学、地理学、宗教学など、様々な
領域の研究者によるコーパス利用が一段と進むことを願っている。
[1] http://www.bloomsbury.com/us/series/corpus-and-discourse/
[2] http://www.birmingham.ac.uk/research/activity/corpus/publications/confer...
[3] http://cass.lancs.ac.uk/
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配信の解除・送信先の変更は、
http://www.mag2.com/m/0001316391.html
からどうぞ。
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◆編集後記(編集室:ふじたまさえ)
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今号は、人文情報学月報の第25号で、3年目の第1歩となる号です。この記念の号
にふさわしく、素晴らしいご寄稿文をいただきましてありがとうございました。
最近の寄稿文で、ゲームに関するイベントレポート等が目立っており、巻頭言に
てこのテーマを扱った論考をご寄稿いただいたことは、満を持して、という印象で
した。巻頭言でも言及されていますが、ボーンデジタルであるゲームについてどの
ような切り口で「人文学的」な研究があるのかといったことは、編集しながら私自
身も興味深く読ませていただきました。
その他のイベントレポートも今回、だいぶ中身が濃いものとなっています。特に
Digital Humanities 2013についてはお二人からそれぞれの視点でご寄稿いただきま
した。紙幅が足りず全てに言及することはできませんが、その他のレポートも興味
深いものが揃っています。次号もお楽しみに!
◆人文情報学月報編集室では、国内外を問わず各分野からの情報提供をお待ちして
います。
情報提供は人文情報学編集グループまで...
DigitalHumanitiesMonthly[&]googlegroups.com
[&]を@に置き換えてください。
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人文情報学月報 [DHM025]【後編】 2013年08月26日(月刊)
【発行者】"人文情報学月報"編集室
【編集者】人文情報学研究所&ACADEMIC RESOURCE GUIDE(ARG)
【E-mail】DigitalHumanitiesMonthly[&]googlegroups.com
[&]を@に置き換えてください。
【サイト】 http://www.dhii.jp/DHM/
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