ISSN 2189-1621

 

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DHM 046 【前編】

2011-08-27創刊                       ISSN 2189-1621

人文情報学月報
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄Digital Humanities Monthly

             2015-05-27発行 No.046 第46号【前編】 567部発行

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 ◇ 目次 ◇
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【前編】
◇《巻頭言》「博物館資料と情報」
 (亀田尭宙:京都大学地域研究統合情報センター)

◇《連載》「西洋史DHの動向とレビュー
      ~西洋史学はウェブ情報をどのように位置づけているのか~
      『研究入門』を題材に」
 (菊池信彦:国立国会図書館関西館)

◇《連載》「Digital Japanology寸見」第2回
 「ADEACのアーカイブ追加
      :日本文化研究で小規模デジタル・アーカイブズをどう使うか」
 (岡田一祐:北海道大学大学院文学研究科専門研究員)

【後編】
◇人文情報学イベントカレンダー

◇イベントレポート(1)
ミシガン大学「デジタル人文学と日本研究の未来:シンポジウム・研修
       Digital Humanities and the Future: a symposium and workshop」
 (横田カーター啓子:ミシガン大学大学院図書館 日本研究専門司書)

◇イベントレポート(2)
「AAG 2015 Annual Meeting参加報告」
 (瀬戸寿一:東京大学空間情報科学研究センター)

◇イベントレポート(3)
「TOKYO 2020/2030-文化資源で東京が変わる」第1回東京文化資源区シンポジウム
 (鈴木親彦:東京大学大学院人文社会系研究科 博士課程(文化資源学))

◇編集後記

◇奥付

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【人文情報学/Digital Humanitiesに関する様々な話題をお届けします。】
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◇《巻頭言》「博物館資料と情報」
 (亀田尭宙:京都大学地域研究統合情報センター)

スミソニアン博物館は‘情報’である。- Richard H. Lytle

 スミソニアン博物館は、複数の博物館、美術館、動物園から成る世界最大級の博
物館の一つだ。デジタル化やオープン化にも積極的で、スミソニアン博物館に属す
るフリーア美術館とアーサー・M・サックラー・ギャラリーは、今年から40,000点以
上に及ぶアジア芸術のデジタル画像の公開を始めた[1]。もともと、「人々の知識
の向上と普及に」と委託された基金からはじまっており、アーカイブに関するディ
レクターが先のような発言をするのも、収集・収蔵・研究・発信といった博物館の
活動のうち発信によって届けられる情報こそが、社会における博物館の価値を生ん
でいるという強い認識があるのだと感じられる。

 これは決して、モノとしての資料の収蔵や研究を軽視しているわけではない。資
料から取り出しうる情報というのは文脈に応じて様々であるからこそ、モノとして
の資料も重要となってくる。資料に対する意外な観点の存在について、授業で紹介
され印象に残っている話がある。新聞を資料として扱う時には大抵、その中身や日
時といった情報が重要で、保存の利便性のために端を切り落としてしまっても構わ
ないと考えるかもしれない。しかし、輪転機の研究をしている人にとっては、輪転
機によって作られる新聞の端のギザギザの有無や形が重要になってくる。また、南
方熊楠の作成した植物標本は、メモ書きの入った台紙ごと新しい標本に差し替えら
れている部分があるが、これは生物学的観点からは問題の無い行為であっても、南
方熊楠という「人」を研究している研究者の観点からは残念な行為であったりする。

 技術が資料の解釈の幅を広げることもある。魚類標本といえば、一般的にはホル
マリン漬けのイメージがあるが、DNAを解析できる時代になり、形を良く保存するが
DNAの構造を破壊してしまうホルマリン漬けの標本だけではなく、DNAを破壊しない
エタノール漬けの標本も重宝されるようになった。このように、まわりを取り巻く
社会環境や技術によって、どのような情報が必要とされるか、取り出せるかという
のは様々に変化する。その様々なニーズに応える基盤として、モノとしての資料の
保存が重要になるわけである。

 その上で、デジタル化、ウェブ化、オープン化は、博物館資料の価値を引き出す
上で大きなインパクトを持ちうると考えている。冒頭の言葉には、次のような解説
が続く。

 “博物館はよりよく情報を伝えられるように収蔵・展示する資料を選択する。人
工物、標本、模型、絵画、写真、テキストなどは、それらがもつ代表性、歴史的意
義、または美的魅力が人々への情報伝達に有用であるという理由で選択されている。
博物館は、収蔵資料の作者や時代、材料といった資料の基本的な属性を明らかにし
たり、または人間社会との関連性を明らかにしたりといった形で、資料に情報を付
け加える研究を進めている。”[2]

 資料同士の関連性や資料と人間社会との関連性を、単一のコレクションや分野に
とどまらずに読み解くには、世界に散在する資料へのアクセスが簡便であるだけで
なく、ある観点から資料群をまとめなおして見せるような活動も自由にできること
が望ましい。

 そこで、博物館資料をウェブでオープンに情報を共有する試みとして広がってい
るのが Linked Open Data という形式での資料データ共有で、Europeanaがその代表
格である[3]。Linked Open Dataによるデータ提供では、

-作品やその作者、所蔵館といった個々のリソースが、ウェブ上の1ページ1ページ
 に対応して表現されている
-それらの間に、どういう関係があるかということが記述されている
-それらの情報が、コンピュータで処理しやすい形でも提供されている
-情報が再利用可能なように、ライセンスにも注意が払われている

 といった条件が満たされている。これによって、データをコンピュータ処理する
ことで新たな関連を発見したり、ある観点から資料群を繋ぎ合わせて見せたりとい
ったことが容易になっている。日本では、Linked Open Data for Academia(LODAC)
というプロジェクトで、博物館資料や生物分類といった情報をLinked Open Dataの
形で提供しており、その中では博物館の標本と生物の分類が結び付けられている[4]。

 また、見せ方としては、必ずしもリンクを辿ってウェブページを閲覧するという
形式に捉われることは無い。私の所属する京都大学地域研究統合情報センター(以
下、地域研)のサービスの一つであるアチェ津波モバイル博物館は、被災から復興
に至る過程の写真、新聞記事、被災証言といった資料をその被災地の場所と連動し
て町歩きの中でスマートフォンを通してみられるようにすることで、町全体をオー
プンな博物館のように体験する試みである。結びつける文脈が町の様子ならば、博
物館という箱に閉じた体験として提供するよりも、町中で体験できるようにするこ
との方が自然な形だろう。地域研は他にも、トルキスタンについてロシア帝国が収
集したコレクションや戦時中の絵葉書といった様々な資料をデータベース化して公
開しているが、これらの資料に関しても、適切な文脈を提示することで理解を促進
するような工夫に取り組んでいるところである[5]。

 最後になるが、私は個人的にも美術館や博物館に行くのが好きで、学部生の頃は
ぐるっとパス[6]を使って多くの博物館を回った。出張や旅行の際も時間があれば
博物館に赴く。どのように資料の魅力を伝えるかという点については、ここで書い
たように情報技術を用いた提案がある一方で、博物館の展示から学ぶことも多い。
日々研究資料と向き合っているみなさんも、博物館に足を運んではいかがだろうか。

[1]Digitocracy! | Bento http://bento.si.edu/uncategorized/open-fs/digitocracy/
[2]原典は Richard H. Lytle (1981) "Recommendations for development of
  information resources at the Smithsonian Institution" だが入手できなか
  ったので、同箇所を引用している E. Orna & Ch. Pettitt 編 (1998) 安澤秀一
  監修、水嶋英治 編訳 (2003) 『博物館情報学入門』や Ross Parry ed.(2009)
  『Museums in a Digital Age』で確認した。また、訳文はほぼ直訳している
  『博物館情報学入門』とは異なり、本記事用に説明を付加し分かりにくい用語
  を省いている。
[3]Europeana http://www.europeana.eu/
[4]LODAC Project http://lod.ac/about
[5]データベース一覧|CIAS 京都大学地域研究統合情報センター
   http://www.cias.kyoto-u.ac.jp/database/
[6]ぐるっとパス | 公益財団法人東京都歴史文化財団
   http://www.rekibun.or.jp/grutto/

執筆者プロフィール
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亀田尭宙(かめだ・あきひろ)1984年京都生まれ。修士(環境学)。2009年度上期
情報処理推進機構 未踏IT人材発掘・育成事業 未踏本体 クリエータ。2012年9月東
京大学大学院情報理工学系研究科博士課程単位取得退学。情報・システム研究機構
の研究職を経て、2014年10月京都大学地域研究統合情報センター助教。ウェブによ
る知識共有、データ共有の研究に携わる。
http://researchmap.jp/cm3/

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◇《連載》「西洋史DHの動向とレビュー
      ~西洋史学はウェブ情報をどのように位置づけているのか~
      『研究入門』を題材に」
 (菊池信彦:国立国会図書館関西館)

 前号では、初学者がDHにどのように触れるのかという観点から、RU11の講義シラ
バスを取り上げ、DHの訳語として考えられる「人文情報学」「デジタル人文学」
「デジタルヒューマニティーズ」「文化情報学」の単語を検索し、そこでの西洋史
学の不在性を論じた。今号はこの問題について別の角度から議論したい。すなわち、
西洋史学の文脈でDHが――あるいはより広い言い方をすればウェブ情報が――どの
ように位置づけられているのか、ということである。とはいえ、再びRU11における
西洋史学の講義シラバスを取り上げ「DH」を検索しても、そもそも前号の段階で確
認できたはずである。今号ではこの問題を別の資料を題材に考えてみたい。それが
『研究入門』である。

 『研究入門』とは、学部生や修士課程の院生、あるいは一般市民を対象にした研
究案内書であり、自身の経験を交えて言えば、卒論に取り掛かる前の学生が、研究
テーマ探しや先行研究文献の確認等で利用するものである。筆者が学部生のころは
「古代史」「中世史」「近現代史」の時代別のものが主だったが、調べてみるとこ
こ5年ほどの間に各国史版での刊行が相次いでいる。具体的にどのような『研究入門』
が刊行されているか、後述の分析でも使用したものを出版年ごとに列挙すると、次
の通りとなる。

 (1)伊藤貞夫ほか編『西洋古代史研究入門』東京大学出版会、1997年
 (2)佐藤彰一ほか編『西洋中世史研究入門』増補改訂版、名古屋大学出版会、
   2005年(初版2000年)
 (3)望田幸男ほか編『西洋近現代史研究入門』第3版、名古屋大学出版会、
   2006年(初版1993年)
 (4)有賀夏紀ほか編『アメリカ史研究入門』山川出版社、2009年
 (5)近藤和彦編『イギリス史研究入門』山川出版社、2010年
 (6)佐藤彰一ほか編『フランス史研究入門』山川出版社、2011年
 (7)ロシア史研究会編『ロシア史研究案内』彩流社、2012年
 (8)大津留厚ほか編『ハプスブルク史研究入門』昭和堂、2013年
 (9)木村靖二ほか編『ドイツ史研究入門』山川出版社、2014年

 2009年に刊行された(4)『アメリカ史研究入門』を境に、時代別から各国史別へ
と変わっていることが分かると思う。上記の他にも、たとえば福井憲彦『歴史学入
門』(岩波書店、2006年)等のような、いわゆる教養教育向けの西洋史の入門書は
刊行されているが、本稿では専ら西洋史の「研究」を行うための入門書を対象とし
て取り上げることとした[1]。上記の9点の資料は、時代別・各国史別ともに、通
史を基軸とした記述となっており、トピックごとに研究動向と研究上の情報源や文
献紹介がまとめられている。本稿においてこれらの『研究入門』は、西洋史の初学
者にとって有益なウェブの情報はどのようなもので、かつそれらをどのように使え
ばよいのかという、西洋史学体系内でのウェブ情報の位置づけを確認できる資料だ
と捉えることができよう。

 それでは『研究入門』では、DHあるいはウェブ情報源に関して、どのように記述
しているのだろうか。

 まず、上述の『研究入門』9点の目次からは、ヨーロッパにおけるDHの動向を論じ
た章は見当たらなかった。もちろん、だからといってウェブ情報に言及していない
ということではないわけで、特に米・仏の2か国の『研究入門』ではそれをテーマに
した章が立てられていた。その一つ『アメリカ史研究入門』の「アメリカ史研究の
デジタイズ」では、史資料の検索方法と電子情報を論文等で引用するためのウェブ
の活用がテーマに掲げられている。具体的には、米国議会図書館(LC)やOCLCの
WorldCat、国立国会図書館(NDL)等の書誌情報検索サイトや、LCのAmerican
MemoryやInternet Modern History Source Book等の史料電子化プロジェクト、その
ほかに学会のウェブサイト等にも言及していた。もう一方の『フランス史研究入門』
の「フランス史研究におけるオンライン情報の活用」という章では、同国における
ウェブをめぐるいくつかのトピックに触れられている。同章は、フランスにおける
インターネット普及の歴史や、元フランス国立図書館長(BNF)ジャン・ヌネーによ
る対Googleの姿勢とそのBNFが提供する電子図書館Gallicaの紹介に始まり、電子情
報の信ぴょう性や剽窃の危険性の指摘をしつつも、それらの電子情報を「猛進する
ものでも、忌避されるべきものでもない」として、歴史研究における利用のための
ルール策定の必要性を訴える内容となっている。さらにそれに続いて、「フランス
史研究にとって有益と思われる、インターネット上の各種サイトのリンクを収録」
(同書、p.364)するとして、具体的には、検索サイトや政府系組織、図書館・文書
館・データベース、大学・研究機関、学会・学術雑誌、マスメディアのウェブサイ
トのリンクを列挙している。

 その他の『研究入門』でも、章には表れない形でウェブ情報に関する記述が認め
られた。『イギリス史研究入門』では「レファレンス・専門誌・史料・リソース」
の章の中に、「ウェブサイト・ディジタル史料・リソース」の項目があり、この中
で「総合・検索」や「図書館・文書館・大学」、「史料」等の小項目ごとにウェブ
サイト情報が列挙されている。『ドイツ史研究入門』では、「近年のインターネッ
トなど電子媒体の進展と、その学術的利用の普及に対応して、本書ではドイツ史関
係のサイトの案内・紹介にもできるだけ最新の情報と研究状況を伝え、自力で研究
上有用な情報を入手できるよう配慮しています。」(同書、p.2.)と述べ、ドイツ
史一般および時代別の研究文献の紹介をする際、研究活動の流れの中――すなわち、
「歴史の流れを理解する(通史・概説書)」→「文献を検索し、入手する(文献目
録・文献検索サイト)」→「専門用語を調べる(参考図書)」→「研究動向を把握
する(専門誌・書評)」→「史料にアクセスする(刊行史料・史料翻訳)」→「学
会に参加する、現地の図書館・文書館を利用する」――でウェブ情報を提示してい
る。

 以上見たように、とりわけ近年刊行されている各国史版の『研究入門』において
は、ウェブ情報は史資料の情報収集・入手のためという位置づけで記載されている。
だが『研究入門』におけるウェブ情報の位置づけに共通する点はそれだけではない。
一貫してウェブ情報に対する慎重な姿勢もうかがうことができる。例えば、ウェブ
情報の引用をテーマにした『アメリカ史研究入門』の記述では、ウェブ情報の検索
が従来のような足をつかった史料収集と調査を代替するものではないと注意する。
『フランス史研究入門』では上述の通り電子情報の信ぴょう性や剽窃の危険性を指
摘し、『イギリス史研究入門』では「…インターネットをはじめとするITに習熟す
ることが必要であるのはいうまでもない。ウェブ情報は有用にして即効性があり、
本書でも積極的な活用を促している。だが、これは著書や論文と同じように、誰が
制作し、いかなる版元(サイト)が公にしたものなのか、つねに責任を確認しながら
読むほかない。ディジタルな情報を活用し、その大海で漂流しおぼれないためには、
……非ディジタルな能力と素養が欠かせないのである。」(同書、p.2)と読者に注
意を促しているのである。

 西洋史学においてウェブ情報はどのように位置づけられているのか。この問いへ
の答えを一言で述べるとすれば、「情報収集・史料入手に有用だが、扱いに注意せ
よ」となるだろう。そのためこの位置づけでは、西洋史にとってのウェブ情報の利
用は史資料の入手段階までとなり、どうやってそれらのデータを分析するのか、そ
の後どのように研究成果を紙に限らずウェブで発信するかにまで議論が及ばないこ
とになる。もっと言えば、史資料の検索および史資料入手以降の研究の流れの中で
は、ウェブ情報の積極的な活用はさほど重視されていないと言えるだろう。とはい
え、本稿はあくまで初学者向けの研究入門書数点を取り上げたに過ぎないので、結
論を急ぐこともない。最新の西洋史学の成果たる論文ではどのようなウェブ情報を
利用し、そしてそれをどのように分析しているのかという問いが考えられるが、こ
の問題については今後の課題としておきたい。

※本稿は、2015年5月15日(金)に国立国語研究所で開催された、京都大学人文科学
研究所共同研究班「人文学研究資料にとってのWebの可能性を再探する」における筆
者の報告「西洋史におけるWebの活用:2つの視点から」の一部をもとに、加筆修正
を行ったものである。

[1]このように言い訳がましい限定をつけても、『研究入門』を網羅的に取り上げ
られていないことは率直に認めておきたい。たとえば、踊共二、岩井隆夫編『スイ
ス史研究の新地平』昭和堂、2011年などがある。

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◇《連載》「Digital Japanese Studies寸見」第2回
「ADEACのアーカイブ追加
        :日本文化研究で小規模デジタル・アーカイブズをどう使うか」
 (岡田一祐:北海道大学大学院文学研究科専門研究員)

 TRCの運営する「歴史資料検索閲覧システム[1]」(A System of Digitalization
and Exhibition for Archival Collections: ADEAC)に、続々と資料が追加されて
いる。ADEACは、TRCがホストとなって、各地の自治体がみずからの所有する文献や
資料をインターネット上で公開するプラットフォームである。この半年の新規公開
アーカイブには、上賀茂神社(2014年11月)、東京都江戸川区(12月)、東京都練
馬区貫井図書館和装本(2015年1月)、高山城下町絵図(3月)、小島資料館梧山堂
雑書新選組関連資料・長野県立歴史館信濃史料・今治市立図書館国府叢書・河本家
稽古有文館(4月)があり、既存のアーカイブにも資料が追加されている。これらの
アーカイブでは、自治体史や自治体の作成した資料が提供されるものも少なくない
が、史資料を電子化し公開するものも数多い。おしなべていえば、史料系は翻刻を
中心に提供されることが多く、資料系は画像を中心に提供されることが多い印象で
ある(ここでは、文書等を史料と称し、それ以外のものを資料と称す)。

 このようにアーカイブが多数公開され、利用可能な史資料が増えることじたいは
慶賀すべきことにちがいない。では、これらの増えた史資料を、日本文化研究でど
う使っていくことができるだろうか。

 このようなシステムで公開される史資料は、なによりも、地域にとっての意味が
大きいのだろうと思う。自治体史がまさにその典型であるし、このたび追加された
アーカイブのなかでも、小島資料館や河本家稽古有文館など、土地の名家に伝来さ
れた資料を電子化する目的のものや、江戸川区のように文化財紹介の冊子を電子化
したものも、それぞれの地域が伝来してきた文物を確認し、後世へとつなぐために
必要とされているものと言ってよいだろう。しかも、ADEACでは、とくに活字資料は
翻刻するのを基本とするし、画像史資料に関してもおおく翻刻が行われ、部分的に
は翻刻との重ね表示ができるようにもなっているなど、史料利用の効率化が図られ
ているものが多いように見受けられる。このシステムにおいては、各自治体ごとに
史資料公開の体制が異なり、見せ方が異なっている。たとえば、あるところではテ
ーマごとに史資料を分類し、あるところは図書館的な分類を行っているごとくであ
る。それもまた、それぞれの自治体がどのような文化財を有し、またどのように文
化財を保護・継承しようとしているかを如実に示すものであろう。

 ADEACでは、各アーカイブの横断検索ができるが、これはInternet Archive[2]
(以下IA)や、Google Books[3](以下GB)などのように多数のコレクションをひ
とつところに収めるシステムとはその使い勝手においておおきく異なる。ADEACがあ
くまで各コレクションの公開を意図し、横断検索は附加的であるのに対し、IAやGB
では、各コレクションは前景になく、あたかもひとつの図書館があってそこを縦横
無尽に探すことができるかのように作られている。これは設計思想の問題なので、
稿者にアーカイブズかくあるべしとの考えがあるわけではないのだが、すくなくと
も、GBでキーワードを入れてなにかを探すような感覚でADEACで検索できないことは
うたがいがない。そもそも、ADEACでは複雑な見せ方ができるかわりに、統一フォー
マットで史資料を提供していないので、どうしても横断検索機能の恩恵に与ること
が難しい側面がある。

 それでは、日本文化研究を行おうと思ったときに、これらのアーカイブズはどの
ような使い方ができるだろうか。史資料の用い方は研究の分野・対象・方法によっ
て異なるので、一概に言うことはできないが、すくなくともADEACを総体として求め
る資料を探索することは難しいと考えるべきであろう。それは横断検索機能の弱さ
もゆえでもあるし、統一的な分類がなされていないのでそもそも総体を把握するこ
とができないという文献学的な不都合がある。しかしながら、個々のアーカイブが
個性的であるということは、それぞれのアーカイブの特徴を控えておくことで、パ
スファインダーのように使うこともできるということだろう。たとえば、上賀茂神
社のアーカイブでは加茂氏の系図や足汰競馬会雑記などが提供され[4]、信州地域史
料アーカイブで善光寺参りに関してパスファインダーが提供されている[5]ことは、
ほかの調べものにもしごく便利であると予想される。津山藩の「江戸一目図屏風」
などもそのように使えたかと思うのだが、現在は有料化されてしまったということ
である。サービスの持続的提供について考えさせられるはなしである。

 もちろん、こうであればいいのにということがないわけではない。たとえば、コ
レクションを全体的にデジタル化したアーカイブは、どうしてもコレクション中の
「重要性の高い」資料から選ばれることになるが、しかしながら、往々にしてその
ような資料は版本のしかも後刷り本で、もっと素性のよいものは三都にあったり、
いいものがあっても、とくにそのコレクションを特徴付けるような資料ではなかっ
たりする問題がある。もちろん、伝本調査をするのであれば、このようなアーカイ
ブは負担をかなり減らしてくれるが、つねに伝本調査をしながらものを見るわけで
はないから、それがありがたいひとは限られる。そのような資料もゆくゆくは公開
してほしいものであるが、それに力を入れるならば、むしろ、写本類(印刷ではな
く手書きされた資料全般)を優先して公開してほしいと思う。版本であれば、目録
さえあれば(くりかえすが、伝本調査でなければ)そこでしか見られないことは稀
だが、写本はすべて一点ものであり、ほかに代えることができないというちがいが
ある。稿者はいちど江戸時代に手習塾で用いられたいろは歌手本について調べたこ
とがあったが、あまりに一般的すぎてほとんどのデジタル・アーカイブズに収載が
なかった。しかし、このようなありきたりな資料こそがその地で作られ伝えられて
きた資料であり、まさにそのコレクションを彩るものなのではなかろうか。

 コレクションの由来やアーカイブ化の方針などをより明確にすると、もっと使い
やすくなるだろうとも思う。東京都練馬区貫井図書館和装本[6]などは、どうして
このようなコレクションが形成されたのか、コレクションのどのくらいがアーカイ
ブに入っているのか示してあるだけで、アーカイブとしての信頼性が増すだろうに
と惜しんだりもした。これは、自前で稀覯書をデジタル・アーカイブ化する小さめ
のコレクション全般に言えることであろう。

 さらに欲を言えば、これらのアーカイブズが総合データベース、たとえば日本古
典籍総合目録データベースなどと繋がってほしい。どうしても日本の資料全体のな
かで考えたいときはあるものだから。

[1] https://trc-adeac.trc.co.jp/
[2] https://archive.org/details/texts
[3] https://books.google.com/
[4] https://trc-adeac.trc.co.jp/WJ11C0/WJJS02U/2600515100
[5] https://trc-adeac.trc.co.jp/WJ11C0/WJJS02U/2000515100
[6] https://trc-adeac.trc.co.jp/WJ11C0/WJJS02U/1312015100

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 続きは【後編】をご覧ください。

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人文情報学月報 [DHM046]【前編】 2015年05月27日(月刊)
【発行者】"人文情報学月報"編集室
【編集者】人文情報学研究所&ACADEMIC RESOURCE GUIDE(ARG)
【 ISSN 】2189-1621
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