ISSN 2189-1621

 

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DHM 044 【前編】

2011-08-27創刊                       ISSN 2189-1621

人文情報学月報
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄Digital Humanities Monthly

             2015-03-28発行 No.044 第44号【前編】 552部発行

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 ◇ 目次 ◇
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【前編】
◇《巻頭言》「建築データベースから物語へ-ドラマ『昼顔』の中の夕照橋-」
 (谷川竜一:京都大学地域研究統合情報センター)

◇《連載》「西洋史DHの動向とレビュー
      ~デジタルヒストリー×パブリックヒストリー~」
 (菊池信彦:国立国会図書館関西館)

◇記事訂正のお知らせ:第38号【前編】イベントレポート(2)
 (編集室)

【後編】
◇人文情報学イベントカレンダー

◇イベントレポート(1)
「国立国会図書館のウェブページを使い尽くそうアイデアソン
 ~NDLオープンデータ・ワークショップ」
 (橋本雄太:京都大学大学院文学研究科 博士課程後期)

◇イベントレポート(2)
シンポジウム「Digital Humanities & The Futures of Japanese Studies」
 (橋本雄太:京都大学大学院文学研究科 博士課程後期)

◇イベントレポート(3)
公開研究会「イメージのサーキュレーションとアーカイブ」
 (古賀 崇:天理大学人間学部総合教育研究センター)

◇編集後記

◇奥付

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【人文情報学/Digital Humanitiesに関する様々な話題をお届けします。】
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◇《巻頭言》「建築データベースから物語へ-ドラマ『昼顔』の中の夕照橋-」
 (谷川竜一:京都大学地域研究統合情報センター)

1.物語の紡ぎ手を待つデータ

 筆者は、建築の歴史(建築史学)を専門とし、特に建築と人間がどのような関係
を取り結んで来たのかということを、20世紀のアジア・日本関係の枠組みの中で研
究している。その研究の一環として、例えばアジアの諸都市に過去200年の間に建て
られて、今も残っている近代建築のストックを地理空間上にデータベース化してい
る[1]。

 このデータベースの製作は、建築を様々な要素(情報)に分解・記録していく作
業と言い換えてもいい。つまり、都市や建築が出来た理由を調べ、それを記載し、
その上でどんどんそのカタチを細分化して、記録していく。構造、材料、部材の特
徴・・・建築の情報を人間の側の観点や、あるいはあらかじめ決められた「客観的」
な次元にカテゴリー分けし、区分していくわけだが、そうやって出来上がったデー
タベースは、正直に言えば退屈なデータの集まりである。しかも、この種のデータ
ベースはもはや研究者やある少数の人々の専売特許ではなく、ウェブ上には個人が
作成した優れたデータベースが溢れている。端末でちょっと検索をかければすぐに
情報を得ることができるわけで、近年はむしろ、必要な時に必要な情報を取捨選択
できる、あるいは数あるデータから興味深い発見や面白い物語を紡ぐ方法こそが、
重要性を増していると考えられる。そうした意味で、データベースの作成者たちは、
優れた物語の紡ぎ手を、常に期待に胸を膨らませて待っているのだ。

2.不倫を終える場所-ドラマ『昼顔』の夕照橋

 ではどんな人が、優れた物語の紡ぎ手なのだろうか。あるいは物語はどのように
紡がれうるのだろうか。その一つとして、唐突だがポピュラー文化である「ドラマ」
をここでは取り上げてみたい。ドラマは、様々な場所(ロケ現場)で小さな物語を
撮って、それをつなぎ合わせてできた長い物語だ。ロケ現場は、実際の街中にある
場所や建物を使って撮られることも多く、ドラマはいわば、そこで演じられる人間
の動作や言葉、思いとともに、場所や建物を物語へと紡いでいくものといってもい
いだろう。以下で事例とするのは、見た方も多いと思われるが、2014年にヒットし
た、不倫ドラマ『昼顔』の最後のシーンだ[2]。

 上戸彩が演じる主人公・笹本紗和と、斎藤工が演じた紗和の不倫相手であった北
野裕一郎の二人は、不倫の破綻後に、それぞれ再出発を決意し、新しい生活に踏み
出す。その際、紗和は荷物を引っぱりながら海岸沿いの道路を歩いていく一方で、
裕一郎は引越のトラックにのって、その道路を反対側から通りかかる。二人は、強
い意志で不倫にピリオドを打ったわけだから、ここで再度出会ってしまうとドロド
ロの不倫に戻ってしまうかもしれない。このシーンは、そんな不安や緊張感を見て
いる者に抱かせるのだが、予想に反し、二人ともお互いに気付かずに、すれ違って
別れていくのだ。

 最後のクライマックス、この感動の場面を、妻が食い入るように見ている横で、
夫の私は晩ご飯を食べつつ(妻の姿にやや不安を抱きながら)、テーブル越しにぼ
んやり見ていた。しかし、そのときにあることに気がついた。そう、このすれ違う
場所は「橋の上」だったのである。

 通常、橋は川に架かる。川は、それによって土地を二つの領域に分断する空間的
な境界線となるものであり、従って橋は、境界の上に架かる中間領域であるといえ
よう。つまり、どっちつかずの場所であり、ドラマにひきよせていえば、二人がま
だ新しい決意の境地に踏み出していないことのメタファーとして作用している。加
えて橋は、お互いに向かい合ってそこで出会う場合、単純にすれ違うことが非常に
難しい場所でもある。というのも、お互いに目を横に向けて脇道に逸れるわけには
いかないため(逸れれば川に落ちる)、基本的には前を見て、前進あるのみの場所
だからだ。つまり、反対側から人が来る場合、橋は他の場所に比べると、出会って
しまう可能性が比較的高い場所であるわけだ。

 これらのこと、つまり橋とは、決着のついていないどっちつかずの境界の場所で
あると同時に、他者との出会いの場所でもあることは、私たちは普段意識して言葉
にしないまでも、心のどこかで気付いているはずだ。例えば思い出してみて欲しい
のは、牛若丸と弁慶の伝説である。この伝説の場合は決闘だが、よく似た設定であ
り、遙か昔から私たちの文化に刻み込まれた橋の特性をよく示していよう。

 ここまで読み込んでいくと、この橋は実際にどこにあるのかという思いに駆られ
てきた。いくつかの情報を元に海岸沿いを探すと、おそらく神奈川県の金沢区野島
に架かる橋「夕照橋」に違いない。現実の場所それ自体は、ドラマのストーリーラ
インには直接関係ないが、筆者がこの橋の場所を探したのは、ある違和感を受けた
からだ。それは、紗和が歩く背景に橋の高欄が見え、その上に大きな桃のような装
飾が載っていたことである。専門的には擬宝珠(ぎぼし)というが、非常に宗教的
な印象を与える。橋の高欄にこうしたモチーフが使われることは、別段珍しいこと
ではなく、古代から続く橋のデザイン・コードの一つだが、筆者が気になったのは、
このドラマの中で夕照橋を使うことで、そのデザインによってストーリーに宗教色
が持ち込まれてしまうことを、ドラマの制作者たちが拒まなかったことだ。そう思
って、実際の橋の向こうを見ると、染王寺という寺が今建っており、そこは14世紀
に尼僧が庵を結んだことに、その起源があるらしい。夕照橋がこの昔日の尼寺への
アプローチとなっていることを考えれば、その上の擬宝珠のデザインは、尼寺に連
想を誘うものでもあろう[3]。そうか、それで繋がったわけだ。尼とはつまり出家
した女性であり、このドラマにおける紗和のことだ。彼女の行く末が、あるいは彼
女の決意が、尼寺の前に架かる夕照橋の高欄のデザインと共振しているのである。

3.建築が運命を紡ぐ?

 このドラマ『昼顔』の演出では、橋以外にもベランダや階段などが、それらの特
性に即した使われ方がされており、場所がもつメタファーとしての力や機能が、最
大限利用されていた。最後のシーンも、橋という出会うべきところで二人は向かい
合いながら、加えて普通ならお互いを気付くはずのところで気付かずに、結局すれ
違ってしまったのだ。こうした場所の使い方は見事だとしか言いようがない。建築
の専門家がバラバラに断片化し、記録や比較分類して、建築の分析を行う一方で、
ドラマの脚本家は場所の特性を読み解き、建物の情報の断片を紡ぎ合わせ、より大
きな物語としてドラマの中に再構成している。

 ここで、ふと思う。脚本家達は意識してやっていないのではないか。感覚のよう
なもので紡いでいるだけなのじゃないか。だとすると、むしろ感覚に訴え、脚本家
らに物語を紡がせているのは、建築の方ではないだろうか。場所や建築の側が、私
たちに出会いや別れの物語を用意し、私たちの生活は場所や建築の力によって紡が
れているのではなかろうか。

 こんな風に考えていくと、退屈なデータベースの先に、建築が紡ぐ運命の糸のよ
うなものが見えてくるのかもしれない。おそらく昔の風水などは、そうした建物や
場所が紡ぐ物語を、過去の人々が集め、そのエッセンスを理論化・公式化したもの
だろう。だとすれば、ポピュラー文化(ドラマ、映画、マンガ、小説など)を対象
に、建築と物語のセットを集めることで、現代の風水もまた描けるかも知れない。
建築データベースを作りながら、そして妻が見ているドラマをのぞき見する中で、
こっそりそんな計画を今練っている。

[1] https://auecr.wordpress.com/
[2]『昼顔~平日午後3時の恋人たち~』フジテレビ、2014年。
[3]擬宝珠については、脇田嘉夫「橋梁擬宝珠高欄の史的並びに美的考察」(『道
路』11月号、日本道路協会、1953年所収)を参照。ここで脇田は「擬宝珠高欄を設
計するにあたり、注意するべきことを記すれば、先ずその橋梁架設場所の歴史に思
いをめぐらし、その附近の環境を充分考慮して・・・」と述べている。

執筆者プロフィール
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谷川竜一(たにがわ・りゅういち)東京大学にて博士号(工学)取得後、東京大学
生産技術研究所・助教を経て2012年4 月から現職。主な業績に、『マンガミュージ
アムへ行こう』岩波書店、2014年(伊藤遊らと共著)。「東アジア近現代の都市と
建築―建築・都市に織り込まれた帝国・国・社会」、和田春樹ほか編『岩波講座 東
アジア近現代通史 別巻 アジア研究の来歴と展望』、岩波書店、2011年9月など。

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《連載》「西洋史DHの動向とレビュー
      ~デジタルヒストリー×パブリックヒストリー~」
 (菊池信彦:国立国会図書館関西館)

●はじめに
 先日、通勤電車の中でいつものようにKindleを開いたところ、見慣れない本が表
示されていた。ずいぶん前に予約注文をしたまま買ったことすら忘れていたもので、
タイトルは“Public History: A Practical Guide”、イギリスのManchester
Metropolitan UniversityのFaye Sayerによるものである。欧米のDHにおいて
Public History (PH)は、研究成果の一つのあり方として小さくない位置を占めてい
る[1]。PHの定義は様々だが、ここでは、歴史学と一般社会との関係をテーマとし、
歴史学の成果をどのように広めるかについて理論と実践を通じた研究領域としてお
く。もちろん、その担い手は歴史研究者だけに限られるものではなく、各種文化機
関のスタッフあるいは市民自身の手によるものもある。上述の本の他にも、この1か
月ほどの間にいくつかPHに関する記事が登場しているので、本稿ではそれらをまと
めて紹介したい。

●The AHA on the path to public history
 アメリカのPH組織National Council on Public HistoryのブログPublic History
Commonsに、The AHA on the path to public historyと題した記事が掲載された[2]
。著者Rob Townsendは、アメリカ歴史学協会(AHA)に24年間務め副事務局長となっ
たあと、現在はAmerican Academy of Arts and Sciencesのワシントンオフィスで
Humanities Indicatorsという人文学の統計的情報の分析等を行っている人物である。
このエッセイ風の記事では、1910年以前は一流大学の著名な教授らがAHAのPH関連の
委員会を率いたが、1920年代以降はそれら教授陣が姿を消し、PHの専門家が占める
ことになったというその事情と背景についての記事である。ここではその背景とし
て、職業の細分化とその結果としての歴史学のタコ壷化、いわゆる「科学的な歴史
学」として求められるものの変化、インデックスカードやタイプライターの浸透に
伴う研究サイクルのスピードアップ等が指摘されている。

●The Power of Public History
 そのAHAの月刊誌Perspectives on History 2015年2月号に、“The Power of
Public History”[3]という記事が掲載されている。これは、AHA会長Vicki L.
Ruiz(カリフォルニア大学アーヴァイン校、20世紀アメリカ史・ジェンダー史)が
過去20年にわたって関わってきたPHの実体験を基に、PH実践におけるガイドライン
を示したもの。その内容は、自分の課されている役割を正確に把握しておくこと、
インタビューの際は流れを作るほどに準備を仕込むこと、受け手のことをしっかり
と考えておくこと、等である。

 以上の2つは、DHという文脈に必ずしも交差するものではないが、AHAという巨大
な組織のこれまでのPHへの関わりの振幅を示すようで興味深い。一方で、DHという
文脈に関わるものに、以下の2つがあった。

●Public History: A Practical Guide
 これは冒頭で紹介した、PH実践の手引きである。同書第8章Digital Mediaでは、
PHにおけるデジタル技術活用について歴史的な経緯をたどりつつ、PHにおけるDHの
タイプが実例とともに紹介されている。具体的には、9.11デジタルアーカイブを例
にクラウドソースでの歴史的記憶の収集やTwitterやFacebook等の使い方がまとめら
れている。やや内容的に物足りなく感じるのは、1章分のみという短さのほかに、同
書も言うように「PHや歴史学におけるデジタルメディア活用が未だ揺籃期にある」
からともいえるだろう。

●Crowdsourcing Digital Public History
 この記事は、Organization of American Historians (OAH)のThe American
Historianに掲載されたもので、著者はJason A. Heppler(スタンフォード大学歴史
学部のアカデミックテクノロジースペシャリスト・ネブラスカ大学リンカーン校の
博士課程院生)らである[4]。その内容は、曖昧なままに使われているDHにおける
「クラウドソーシング」の定義とDH・PHの実例を踏まえ、クラウドソーシングの成
功のためには次が必要だと結論する。すなわち、クラウドソーシングは単にデータ
を集めるものではない、プロジェクトと始める前にその「クラウド」自身について
リサーチをする必要がある、と。

[1]日本の西洋史学界におけるパブリックヒストリー研究に関しては、例えば2012
年度からの科研費プロジェクトに剣持久木らによる「歴史認識の越境化とヨーロッ
パ公共圏の形成―学術交流、教科書対話、博物館、メディア」がある。
https://kaken.nii.ac.jp/d/p/24320149.ja.html
ちなみに、Faye Sayerの専門は考古学寄りであり、その点では日本の考古学界には
既に『入門パブリック・アーケオロジー』(松田陽・岡村勝行著、同成社、2012)
等の成果がある。
[2]Rob Townsend. “The AHA on the path to public history”. Public
History Commons. 2015-03-08.
http://publichistorycommons.org/the-aha-on-the-path-to-public-history/
[3]Vicki L. Ruiz. “The Power of Public History”. Perspectives on
History.
http://historians.org/publications-and-directories/perspectives-on-histo...
[4]Jason A. Heppler. Gabriel K. Wolfenstein. “Crowdsourcing Digital
Public History”. The American Historian.
http://tah.oah.org/content/crowdsourcing-digital-public-history/

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◇記事訂正のお知らせ:第38号【前編】イベントレポート(2)
 (編集室)

人文情報学月報第38号【前編】イベントレポート(2)
「2014公開ワークショップ デジタル・ヒューマニティーの最前線と経済学史研究」
(2014年8月25日、於東京大学大学院経済学研究科・小島ホール1階第1セミナー室)
参加記の冒頭の段落で記載している課題番号を以下のとおり訂正いたします。

[誤]課題番号: 40194609

[正]課題番号: 26590031

http://www.dhii.jp/DHM/dhm38-1

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 続きは【後編】をご覧ください。

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 配信の解除・送信先の変更は、
    http://www.mag2.com/m/0001316391.html
                        からどうぞ。

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◆人文情報学月報編集室では、国内外を問わず各分野からの情報提供をお待ちして
います。
情報提供は人文情報学編集グループまで...
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                  [&]を@に置き換えてください。

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人文情報学月報 [DHM044]【前編】 2015年03月28日(月刊)
【発行者】"人文情報学月報"編集室
【編集者】人文情報学研究所&ACADEMIC RESOURCE GUIDE(ARG)
【 ISSN 】2189-1621
【E-mail】DigitalHumanitiesMonthly[&]googlegroups.com
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【サイト】 http://www.dhii.jp/

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