2011-08-27創刊
人文情報学月報
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄Digital Humanities Monthly
2012-4-26発行 No.009 第9号
_____________________________________
◇ 目次 ◇
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
◇「文字コードの標準化」
(高田智和:国立国語研究所)
◇人文情報学イベントカレンダー
◇イベントレポート(1)
「国際GISセミナー: GIS and Digital Humanities」(3月13日)
(瀬戸寿一:立命館大学衣笠総合研究機構ポストドクトラルフェロー)
◇イベントレポート(2)
「CAA 2012 conference:考古学におけるコンピュータの利用と数量的方法」
(清野陽一:京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程)
◇編集後記
◇奥付
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
【人文情報学/Digital Humanitiesに関する様々な話題をお届けします。】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
◇「文字コードの標準化」
(高田智和:国立国語研究所)
1.文字コード規格
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
私たちは、パソコンや携帯電話を使って、日常的に文字を書いています。パソコ
ンや携帯電話などの情報機器で扱う文字は、どのように決められているのでしょう
か。
多くの情報機器は、情報交換のための文字コード規格に採録されている文字を、
標準的に扱える文字として登載しています。文字コード規格にはさまざまあって、
日本の国内標準にはJIS X 0208やJIS X 0213など、国際標準にはISO/IEC 10646があ
ります。国内標準に「JIS」が使われていることからわかるように、文字コード規格
は工業標準です。工業標準ではありますが、文字を扱うために、規格を作る際には、
情報処理の専門家だけでなく、文字の専門家も参加します。文字コード規格は、人
文学との関係も深く、工業標準としてはやや異質なものです。
2.ISO/IEC 10646
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
日本の国内標準は、日本国内で用いることを目的としているため、主として日本
語表記に必要な文字・記号、すなわち、平仮名・片仮名・漢字・ローマ字・アラビ
ア数字などを収録しています。日本に限らず他の国でも、国内標準はその国の使用
言語を書き表すための文字・記号を収録しています。しかし、国際化が進んでくる
と、国際間での情報交換が必須となり、情報機器でも多言語環境が求められてきま
した。そこで登場したのが国際標準です。
文字コード規格の国際標準はISO/IEC 10646です。世界中の文字・記号を情報機器
で扱うための国際文字コード規格です。1993年に最初の版(ISO/IEC 10646-1:1993)
が制定され、それ以降、追補や改定を重ねて、2011年3月には最新版(ISO/IEC 106
46:2011)が制定されました。追補や改定のたびに収録文字を増やし、現在では10万
字を超える巨大文字セットになっています。
ISO/IEC 10646の大部分を占めているのは漢字です。CJK統合漢字と呼ばれる漢字
領域は、当初は21,000字程度でしたが、その後拡張A領域、拡張B領域を加え、最新
版の規格では、拡張C領域、拡張D領域を収録するに至っています。拡張C領域、拡張
D領域ともに、日本から提案された文字も含まれています。
拡張C領域には、日本製漢字(いわゆる「国字」)が提案されました。標準化の審
議を経て、日本から提案された「国字」は、最終的に367字が収録されました。この
367字の中には、日常生活ではほとんど見たこともないような文字が含まれています。
例えば、偏が「哥」、旁が「舞」の文字が2A8A6に入っています。これは「契情お国
〓妓(けいせいおくにかぶき)」(享保15年(1730年)刊、浮世草子)、「酒迎御馳
走〓妓(さかむかえごちそうかぶき)」(明和8年(1771年)初演、歌舞伎脚本)のよ
うに、江戸時代の文芸作品の題目に用いられます。「哥舞」の二合字(2文字を組み
合わせて作った文字)と考えられる文字です。
2A8A6は、江戸文学を研究したり、図書館が目録を作成したりするときには、現代
でも十分に使われる可能性のある文字です。例えば、国立国会図書館の蔵書検索で
は、「契情お国哥舞妓」と一文字ではなく二文字「哥舞」で表示されます。標準的
な文字コードで表現できないために、「哥舞」で代用していると考えられます。
また、拡張D領域には、各国・地域で緊急に必要とされる漢字が提案されました。
日本からは、行政の情報処理で使われる漢字の中で、特に緊急度が高いものを選ん
で提案し、最終的に107字が収録されました。この107字はいずれも地名や人名に使
われる文字です。例えば、偏が「金」、旁が「当」の文字が2B7F0にあります。北海
道弟子屈町(てしかがちょう)の地名「〓別(とうべつ)」に使われます。「鐺」
の略体です。
2008年9月に弟子屈町に行ったことがあります。街路の表示には、2B7F0と「鐺」
の双方が使われているのを見ました。しかし、公式の字名表記に2B7F0を用いるため、
住民票や公図などの公文書では2B7F0を使う必要が生じます。そのため弟子屈町役場
では、パソコン用の外字を作成して、日々の業務を行なっていました。住民の転出
などにより、弟子屈町以外の自治体と公文書を電子的にやりとりする場合に不便が
生じると、役場の方は困っておられました。国際標準に追加収録されたからといっ
て、追加された文字がすぐに実装されるわけではありません。しかし、国際規格と
して標準化されたことにより、パソコンや業務システムで扱え、情報交換ができる
ような環境の実現に、一歩近づいたと言えるでしょう。
3.博物学的興味だけではいけない
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
かつて揶揄されたように、文字コードは「青天井」の一途をたどっています。最
新版のISO/IEC 10646には、現在使われている言語の文字だけでなく、かつて使われ
ていた文字も収録されています。さながら世界文字博物館です。日常的に使う文字
は、規格にほぼ網羅されているので、歴史的な文字の収録がより大きな部分を占め
ていくことになるでしょう。
歴史的な文字を標準化する際には、学術的な裏付けが大切です。古代エジプトの
ヒエログリフがISO/IEC 10646に収録されましたが、これは古代エジプトの研究者コ
ミュニティで標準となっているものを、文字コード規格として標準化したものです。
単に、未収録のものがあるからそれを追加しようというのではなくて、文字の使用
者である研究者たちが合意して使っている文字セットがあって、さらに、その研究
者たちが文字コード規格として標準化されていることが必要だと望まないかぎり、
安易に標準化をするべきではありません。歴史的な文字の標準化は慎重さが必要で
す。標準化の動機が、博物学的興味だけではいけないのです。
執筆者プロフィール
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
高田智和(たかだ・ともかず) 国立国語研究所 理論・構造研究系准教授 専門は、
国語学(文字・表記)、漢字情報処理。漢字の字体や異体字をコンピュータで適切
に扱う方法や、文字コード規格などの収録文字(文字セット)の規模や質について
考えてきました。文字を書く手段としてコンピュータが加わった現在でも、紙と筆
とが主流であった時代と同じように、文字・表記の問題は形を変えて残り続けてい
ます。最近は、文字コード標準化や、訓点資料の構造化記述にも取り組んでいます。
Copyright(C)TAKADA, Tomokazu 2012- All Rights Reserved.
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◇人文情報学イベントカレンダー(■:新規イベント)
【2012年5月】
□2012-05-12(Sat):
日本図書館情報学会春季研究集会
(於・三重県/三重大学上浜キャンパス)
http://lis.human.mie-u.ac.jp/jslis2012s/
□2012-05-16(Wed)~2012-05-18(Fri):
第3回 教育ITソリューションEXPO
(於・東京都/東京ビッグサイト)
http://www.edix-expo.jp/
□2012-05-26(Sat):
情報処理学会 第94回 人文科学とコンピュータ研究会発表会
(於・東京都/同志社大学東京オフィス)
http://jinmoncom.jp/index.php?%E9%96%8B%E5%82%AC%E4%BA%88%E5%AE%9A%2F%E7...
【2012年6月】
□2012-06-04(Mon)~2012-06-08(Sun):
Digital Humanities Summer Institute
(於・カナダ/Victoria)
http://www.dhsi.org/
□2012-06-12(Tue)~2012-06-15(Fri):
The IS&T Archiving Conference
(於・デンマーク/Copenhagen)
http://www.imaging.org/ist/conferences/archiving/
□2012-06-12(Tue)~2012-06-15(Fri):
2012年度 人工知能学会全国大会 第26回「文化、科学技術と未来」
(於・山口県/山口県教育会館)
http://www.ai-gakkai.or.jp/conf/2012/
□2012-06-15(Fri)~2012-06-17(Sun):
GeoInformatics 2012
(於・中国/香港)
http://www.iseis.cuhk.edu.hk/GeoInformatics2012/
【2012年7月】
□2012-07-07(Sat):
情報メディア学会 第11回 研究大会
「重なり合う実空間と電子空間:ラーニングコモンズ×ディスカバリサービス」
(於・東京都/筑波大学 東京キャンパス)
http://www.jsims.jp/kenkyu-taikai/yokoku/11.html
□2012-07-16(Mon)~2012-07-22(Sun):
Digital Humanities 2011
(於・ドイツ/Hamburg)
http://www.dh2012.uni-hamburg.de/
【2012年9月】
□2012-09-03(Mon)~2012-09-08(Sat):
Knowledge Technology week 2012
(於・マレーシア/Sarawak)
http://ktw.mimos.my/ktw2012/
□2012-09-04(Tue)~2012-09-06(Thu):
FIT2012 第11回 情報科学技術フォーラム
(於・東京都/法政大学 小金井キャンパス)
http://www.ipsj.or.jp/event/fit/fit2012/
□2012-09-06(Thu)~2012-09-08(Sat):
State of the Map 2012; The 6th Annual International OpenStreetMap Conference
(於・東京都/会場未定)
http://www.stateofthemap.org/ja/about-ja/
■2012-09-06(Thu)~2012-09-08(Sat):
Digital Humanities Congress 2012
(於・英国/Sheffield)
http://www.sheffield.ac.uk/hri/dhc2012
□2012-09-15(Sat)~2012-09-17(Mon):
2nd symposium - JADH 2012
(於・東京都/東京大学)
http://www.jadh.org/jadh2012
□2012-09-18(Tue)~2012-09-22(Sat):
GIScience 2012 7th International Conference on Geographic Information Science
(於・米国/Columbus)
http://www.giscience.org/
【2012年10月】
■2012-10-25(Thu)~2012-10-26(Fri):
The 5th Rizal Library International Conference:
"Libraries, Archives and Museums: Common Challenges, Unique Approaches."
(於・フィリピン/Quezon)
http://rizal.lib.admu.edu.ph/2012conf/
Digital Humanities Events カレンダー共同編集人
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
小林雄一郎(大阪大学大学院言語文化研究科/日本学術振興会特別研究員)
瀬戸寿一(立命館大学文学研究科・GCOE日本文化デジタルヒューマニティーズ拠点RA)
佐藤 翔(筑波大学図書館情報メディア研究科)
永崎研宣(一般財団法人人文情報学研究所)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
◇イベントレポート(1)
「国際GISセミナー: GIS and Digital Humanities」(3月13日)
: http://www.arc.ritsumei.ac.jp/lib/GCOE/HGSG/2012/03/gis-gis-and-digital-...
(瀬戸寿一:立命館大学衣笠総合研究機構ポストドクトラルフェロー)
2012年3月13日(火)立命館大学歴史都市防災研究センターにて「GIS and
Digital Humanities」と題されたセミナーが開催された。告知期間が短かったにも
関わらず、遠方からの来場者を含め30名以上の参加者を迎えることができた。
本セミナーでは、英国St.Andrews大学よりジオインフォマティクス・センターの
所長で「地理的加重回帰モデル」の第一人者であるA. Stewart Fotheringham先生と、
台湾Soochow大学よりSocial GISセンターの所長であるC.S. Stone Shih先生をお招
きし、ご講演いただいた。
Fotheringham先生は主に定量的なデータを、Stone先生については主に定性的なデ
ータを用いて空間分析するためのアプローチがそれぞれ紹介され、多くの歴史的資
料を駆使することにより当時の社会状況を詳細に再現(説明)するモデルとなるも
のであった。また、アイルランドの事例では歴史的な統計GISデータのデジタル化を
通したオンライン歴史アトラス( http://ncg.nuim.ie/redir.php?action=projects/famine/explore )
を、台北の事例では音楽文化のアーカイブを通じた洪一峰(台湾語歌曲の第一人者)
に関するオンラインミュージアム( http://www.musicgis.tw/music.html )への展
開など、研究成果の応用・活用について参考となる興味深い例が紹介された。
当時の発表の模様については、「立命館大学グローバルCOE 歴史地理情報研究班」
の活動ブログにも掲載されているので、興味がある方は参照いただきたい。
http://www.arc.ritsumei.ac.jp/lib/GCOE/HGSG/2012/03/gis-gis-and-digital-...
Copyright(C) SETO, Toshikazu 2012- All Rights Reserved.
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
◇イベントレポート(2)
「CAA 2012 conference:考古学におけるコンピュータの利用と数量的方法」
: http://caaconference.org/
(清野陽一:京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程)
CAA(The Computer Applications and Quantitative Methods in Archaeology/
考古学におけるコンピュータの利用と数量的方法[1])の2012年大会が、2012年3
月26日(月)から30日(金)にかけて、イギリス・サウサンプトン大学の人文学部
(Faculty of Humanities)において、同大学のArchaeological Computing Research
Groupの主催のもと開催された。今年は世界各国から480名の参加があり、日本から
は筆者を含め4名が参加した。
本学会は毎年1回、考古学におけるコンピュータの利活用と応用、また統計的手法
等の定量的研究手法の考古学における適用等について、考古学に携わる研究者が中
心となって参加する国際学会である。もちろん参加者の中には隣接諸科学の研究者
も数多く存在するが、中心は考古学研究者であるところが本学会の特徴の一つであ
ろう。今年度の大会の詳細は公式Webサイト( http://caaconference.org/ )に掲
載されている。大会終了後、徐々に情報も整理され、現在は発表資料やその映像、
SNSの過去ログや大会事務局および参加者が撮影した写真等のアーカイブが閲覧でき
るようになっている。こちらをご覧いただけば大会の全容を知ることが出来るだろ
う。
本学会は今年で40周年を迎える、歴史の古い学会である。開催期間中にはこの40
年間を振り返るセッションも開催され、創立時から関わっているメンバーらが招か
れ、これまでの軌跡を振り返った。また、期間中、会場の壁面に学会の年表が貼り
出され、参加者が自らの思い出を付箋でそこに貼り付けていく、というイベントも
開催された。
なお、関連イベントとして、学会開催前の日曜日には同じ会場において、The
Connected Past( http://connectedpast.soton.ac.uk/ )という学会も開催された。
ここでは簡単に今大会の概要を紹介したい。日程は5日間だったが、研究発表は2
7日(火)から29日(木)の3日間で、初日の26日(月)はワークショップと基調講
演、さらに夜にはサウサンプトンの旧市街地内に散在する歴史的建造物内を会場と
して、その場を活用したオープニングセレモニーが開催され、地元産のビールが多
数振舞われた。基調講演では、グラスゴー大学のJeremy Huggett博士が
「Disciplinary issues:the research and practice of computer applications
in archaeology」というタイトルで、考古学におけるコンピュータ利用とその概念、
考え方、研究としてのタイトルの付され方の変遷を示して、この分野の来し方とこ
れからを示し、またCultural Heritage ImagingのMark Mudge氏が「Computational
photography's emergence and the ascent of digital image transparency」とい
うタイトルで、考古学における最新の画像取得法とその活用方法について発表され
た。ワークショップは全部で12のプログラムが用意され、主にソフトウェアや調査
機器のハンズオン(講習会)や考古学データに関係のある規格・概念等に関するラ
ウンドテーブル(意見交換会)が行われた。最終日の29日(金)はエクスカーショ
ンであった。サウサンプトン開催だけに、一番の目玉は会場からそう遠くないスト
ーンヘンジへのツアーであった。他にも、ポーツマス海軍基地の博物館(Portsmouth
Historic Dockyard)や、フィッシュボーンのローマ時代宮殿(Fishbourne Roman
Palace)へのツアーも用意された。
研究報告は3日間に渡って開催され、主要テーマとしてSimulating the Past、
Spatial Analysis、Data Modelling & Sharing、Data Analysis, Management,
Integration & Visualisation、Geospatial Technologies、Field & Lab Recording、
Theoretical Approaches & Context of Archaeological Computing、Human
Computer Interaction, Multimedia, Museumsの8トラックが用意され、それぞれが
並行して行われた。各トラックの中には、多少の差はあるが更に多数のセッション
が用意され、一般的な研究内容のものやケーススタディを扱うセッション以外にも、
企画者によって公募され、特定の目的に即して設定された、テーマ性の高いセッシ
ョンも存在する。また、上記の口頭発表以外に、ポスター発表や、参加企業による
製品展示、書籍販売等も行われた。
筆者は主としてGIS、地理情報に関わる研究に興味があり、自らもその分野におい
て発表を行い、またその分野に関する発表を集中的に聴講したが、この分野は例年
通り、非常に活発で、CAAにおいては主要テーマの一つであることを改めて認識させ
られた。日本の考古学系の学会でここまで地理情報系の発表本数があるものはなく、
しかもそれが一部分でしかない、というのは驚くべきことである。しかし、他にも
興味深い発表が多数行われていたが、同時並行で行われているため、他の発表がど
のようなものであったのかは事前に示されたアブストラクトおよび後日刊行される
予定の論文集を見ることでしかわからないのが、残念なところである。以前は並行
セッションの数ももっと少なかったようであるが、近年はこの研究分野の成長・拡
大に伴って、発表件数も増加しており、こうした状況も避けられない状況となって
いる。もう少し他の多くの発表を聞けるようになれば良いが、その為には会期の長
期化等解決すべき問題も多く、悩ましいところである。プログラム等を概観した限
りにおいては、博物館等における展示系や考古学情報の公開、そのためのビジュア
ライズ等の発表が近年増加してきており、またそれらに伴ってデータの標準化や透
明等に関する議論も活発に行われていたことが個人的には特に注目された。これは、
今大会において初めて設けられた、CAA Recycle Awardという、過去の研究データに
基づき、そこから更に新しい今日的な研究へと発展させるような研究を奨励する賞
の存在を見ても明らかであり、近年の主要なテーマである。
来年はオーストラリアのパースで開催され、再来年はフランス・パリでの開催が
決定している。日本国内の学会ではここまで専門的かつ深く掘り下げた議論を行え
る学会は無く、学問的に非常に有意義な数日間を過ごせる学会であるため、今後は
日本からの参加者が更に増えることを期待している。
[1]邦訳は、森本晋 1992 「CAA92参加記」『考古学研究』第39巻第1号 考古学研
究会 によった。
Copyright(C) SEINO, Yoichi 2012- All Rights Reserved.
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
配信の解除・送信先の変更は、
http://www.mag2.com/m/0001316391.html
からどうぞ。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆編集後記(編集室:ふじたまさえ)
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
今号の前半は、文字コードの標準化にあたり、とにかく収録する文字を増やせば
良いというものではなく、きちんとした学術的裏付けが欠かせないというご指摘を、
後半のイベントレポートではGIS and Digital Humanities、CAA 2012 conferenceの
模様についてご寄稿いただきました。新年度の切り替わりのお忙しい時期にも関わ
らず、ありがとうございました。
今年度も続々と学会や講演会などの予定が埋まりつつあります。日頃の経験や成
果を論文よりも気軽なスタンスで、学会よりも幅広い方に紹介してみたいといった
方は、ぜひご寄稿をお寄せください。
◆人文情報学月報編集室では、国内外を問わず各分野からの情報提供をお待ちして
います。
情報提供は人文情報学編集グループまで...
DigitalHumanitiesMonthly[&]googlegroups.com
[&]を@に置き換えてください。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
人文情報学月報 [DHM009] 2012年4月26日(月刊)
【発行者】"人文情報学月報"編集室
【編集者】人文情報学研究所&ACADEMIC RESOURCE GUIDE(ARG)
【E-mail】info[&]arg-corp.jp [&]を@に置き換えてください。
【サイト】 http://www.dhii.jp/
Copyright (C) "人文情報学月報" 編集室 2011- All Rights Reserved.
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄