ISSN 2189-1621

 

現在地

DHM 028 【後編】

2011-08-27創刊

人文情報学月報
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄Digital Humanities Monthly

             2013-11-25発行 No.028 第28号【後編】 402部発行

_____________________________________
 ◇ 目次 ◇
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
【前編】
◇《巻頭言》
「文化資源情報の真のハブとなりうるか-生まれ変わる京都府立総合資料館」
 (福島幸宏:京都府立総合資料館新館担当)

◇《連載》「Digital Humanities/Digital Historyの動向
      ~2013年10月中旬から11月中旬まで~」
 (菊池信彦:国立国会図書館関西館)

◇人文情報学イベントカレンダー

【後編】
◇イベントレポート(1)
国際会議:ソーシャル・デジタル・学術編集[第二日目]
 (Geoffrey Rockwell:アルバータ大学)
 (日本語訳:滝浪佑紀・東京大学大学院情報学環、永崎研宣・人文情報学研究所)

◇イベントレポート(2)
JADH2013(第3回 年次国際会議):Transcending Borders
「宙空の経験:JADH2013、その成果と展望」
 (鈴木崇史:東洋大学社会学部)

◇イベントレポート(3)
Society for Social Studies of Science (4S) 2013 San Diego(科学社会論学会)
「人文情報学のSTS的側面」
 (村上祐子:東北大学大学院文学研究科)

◇イベントレポート(4)
第100回 人文科学とコンピュータ研究会発表会
 (山田太造:東京大学史料編纂所)

◇イベントレポート(5)
日本オリエント学会 第55回大会企画セッション
「閉じた人文学から開いた人文学へ-資料のデジタル化がもたらすもの-」参加報告
 (永井正勝:筑波大学/企画代表)

◇編集後記

◇奥付

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【人文情報学/Digital Humanitiesに関する様々な話題をお届けします。】
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◇イベントレポート(1)
国際会議:ソーシャル・デジタル・学術編集[第二日目]
https://ocs.usask.ca/conf/index.php/sdse/sdse13
 (Geoffrey Rockwell:アルバータ大学)
 (日本語訳:滝浪佑紀・東京大学大学院情報学環、永崎研宣・人文情報学研究所)

 [編集室より]このレポートは、サスカチェワン大学で7月11日~13日に開催され
たシンポジウムの2日目の様子を報告するGeoffrey Rockwell教授のブログを翻訳し
たものである。1日目の様子については、前号を参照されたい。

http://philosophi.ca/pmwiki.php/Main/SocialDigitalScholarlyEditing

注:このカンファレンスのレポートは、ライブで書かれているので、誤字を多く含
んでいるだろう。また、私は本当に興味に引かれた場合、ないし退屈してしまった
場合、書くことを止めてしまう傾向にある。ゆえに、以下のノートは完全なもので
あると見なされるべきではない。

○Susan Brown:社会化された学問の緊張と教義

 Susanは、「情報の社会的生活」と社会的編集について話すことから始めた。彼女
は寄稿することまたは書き込むことでもあるという広い意味で、編集を捉え直した。
ここでのトピックは、知の変化しつつある社会的様態の緊張だった。その課題のい
くつかは以下の通りである。

  ・クレジット--私たちは単数の権威者から、チームによるクレジットに移行
   しようとしている。編者はWeb2.0のプロジェクトにおいて、それほど重要で
   はない。Susanは、クレジットの編集に関して整理された図式を提示した。
  ・ダイナミズム--私たちは、多くの異なる仕方で使用することができる編集
   版を開発することができる。Susanは、電子的なプロセスのヴァリアントがし
   ばしば、どのようにして失われてしまうのかについて話した。私たちは、ウィ
   キよりも良いモデルを必要としている。多くのプロジェクトが次々と出現し
   てきており、その創造の歴史は保存されるべきだろう。
  ・品質管理--テクスト編集は、信頼性、正確性、妥当性、一貫性、および明
   示性の問題に関して非常に多くのことを教えてくれる。私たちの社会的なツー
   ルには、品質を管理することを容易にしてくれる。
  ・データモデルとインターフェース--学術編集のコミュニティは、私たちを
   拘束することがありうる、複雑できめ細かなデータモデルのうちに埋め込ま
   れている。TEIをサポートしていないウィキやブログのようなより簡素なツー
   ルは、より容易にアクセス可能である。私たちは、各プロジェクトを孤立さ
   せる「多種多様な孤立主義(multivarious isolationism)」というプロジェ
   クトのサイロに陥ってしまう。私たちは、相互運用性を促進する必要がある。
   彼女は、インターフェースの重要性について話した。

 彼女はその後、編集インターフェースの話をし、Author/EditorとOxygenを比較し
た。Author/Editorは、Soft Quadから来ており、当時のワードプロセッサ(Word
Perfect)に似ている。テクストが前面にあるのだ。Oxygenは技術によって支配され、
そこではほとんどテクストを編集できない「ガイズ・ワールド(guys' world)」に
似ている。Susanは、この差異にはジェンダー化された側面があると示唆した。

 彼女は、Jeanette Wintersonの『The Stone Gods』について言及して終えた。ソー
シャル編集にとっての中心的課題は、テクストが経験される仕方への深い敬意、す
なわちテクストの物質性とインターフェースである。編集は社会的なものであって
きたのであり、印刷文化の痕跡を継承するだろう。私たちは新しいものを目指す必
要があるが、それは過去の理解の中でそうしなければならないのだ。

○Zailig Pollock:「フォンズの尊重(Respect des Fonds)」から「版の尊重
(Respect de la Page)」へ

 Pollockは、「EMiC」プロジェクトと、このプロジェクトで彼が従事している編集
について話した。彼は、「アーカイブ」の適切な使用および、なぜホイットマン・
アーカイブはその素晴らしさにもかかわらず、アーカイブでないのかについて話し
た。彼は、複雑な草稿の生成過程を辿ることができるようにするために、彼がこれ
まで主にHTMLとJavascriptを用いて取り組んできた、きれいに整えられた環境を示
した。

○Roger Osborne:Aust ESEワークベンチを使ったアーカイブ化、編集、読解--ジョ
セフ・ファーフィ『これが人生さ』の電子版をめぐる理論と実践

 Osborneは、ファーフィの『これが人生さ』の編集版について話した。彼は続いて、
編集版のために作成した一群のツール開発プロジェクトである、Aust ESEワークベ
ンチについて話した。『これが人生さ』は、このワークベンチのためのケーススタ
ディである。彼は、文書間のリンクを示すいくつかの印象的なネットワーク可視化
ツールを含めた、ワークベンチ・ツールのいくつかを見せてくれた。

○Edward Vanhoutte:言葉の入った袋、学術編集に関するソーシャルな視点

 Edwardは、本格的な学術印刷版以上にソーシャルな編集版は存在しないという話
から始めた。彼が論破したい第一の神話は、デジタル版は〔印刷版よりも〕アクセ
ス容易であるというものである。

 デジタル版は量的に、アクセス可能性を高めるのではない。それは質的にアクセ
ス可能性の異なる形式を提供するのである。

 〔彼が論破したい〕第二の神話は、デジタル版はより広い読者に到達するという
ものである。

 デジタル版は、一つのタイプの編集版ではない。デジタル版は、いくつかの別の
タイプ(複写版、集注版など)でもある。作成されつつあるデジタル版は、技術的
可能性の探求以上のものである。それは潜在的により広い読者に到達するが、こう
した読者は通常、〔従来とは〕異なった読者なのである。

 第三の神話は、デジタル版はより明示的であるというものである。

 テクストに関する学問の中心的目的は、テクストないし作品についてのすべての
言述に関する基礎データを人文学に対し提供することにある。興味深いことに
Edwardは、テクスト上のヴァリアントを共同墓地と呼んでいた。共同墓地は、学術
編集版がそこから何かを学び取ることのできるような、あらゆる種類の美徳を持っ
ているというのである。そういうわけでEdwardは、デジタル版とはそれほど明示的
なものではないと結論づけた。

 第四の神話は、デジタル版は読者をして、能動的に従事せしめるというものであ
る。

 Edwardは、2000年に出版され、読者に各パッセージをリンクすることを可能にさ
せたCD-ROM版を提示した。〔このCD-ROM版では〕ユーザーは、ヴァネヴァー・ブッ
シュのハイパーテクスト・トレイルを連想させる仕方で、自分の注釈を保存し、そ
れを他の人に送信することができた。続いて彼は、誰も本当にはこのリンク化を望
まなかったと主張した。読者が社会的な形で編集版に関わり合いたいと思っている
と考えることは、誤った想定である。Edwardは、専門的編者はいかにして過大評価
されるのかという議論に関連する、彼が関与した様々なプロジェクトについて語っ
た。様々な種類の人たちが、テクストを用いて編集者達が全く考えもつかなかった
ようなことをしたいと望んでいるのである。

 Edwardは、読者とつながるにあたっては印刷が未だに素晴らしい方法であるとい
う考えを支持した。

○Barbara Bordalejo:「ソーシャル編集」というフレーズにおいて、編集の意味す
るところとは何か

 Barbaraは、人々が「ソーシャル」という語で言うことに対して、Ray Siemensの
デヴォンシャー草稿に関するプロジェクトが実際に何をしているのかを注視した。
彼女は、ソーシャルな寄稿者が実際に複写を変えることはできなかったと指摘した。
彼らのアフォーダンスは注釈と解釈に向けられていたのだ。おそらく、ソーシャル
なものに対する理念は私たちの判断を曇らせている。彼女はプロの編集者の経験の
重要性を主張しているように思われた。彼女は、複写のような編集作業に対して、
アマチュアはそれほど大きな役割を果たしていないと感じていた。

 複写と編集の差異という論点に関して、多くの質問が彼女に寄せられた。

○Ray Siemens:ソーシャル編集版の基礎?

 Rayは、デヴォンシャー写本プロジェクトはいかなる意味で実験的であったのかに
ついて話した。この実験は、編集版の一つのタイプを構築しようと試みたものでは
なく、電子テクスト性に関する伝統を構築しようと試みたものであった。彼らは、
動的なテクストをハイパーテクスト版と連動させる、動的な版というアイディアを
試していた。彼らは、異なった読書のインターフェースを試し、人文学者が何をし
たいかを理解するため、諮問委員会で査証したのだった。Rayのチームは、ユーザー
が何をしたいかを尋ね、彼らが実際に何をしたのかを注視し、こうした過程を経て、
ユーザーはソーシャル・メディアのツールを使用し始めていたことに気づいた。彼
らは、ユーザーは自らの学問的領域の外で使っていたものを、学問の中で使いたい
と思っているというフィードバックを得た。

 Rayは、実験はどのようにして展開されたのかについて話した。これに関して重要
なのは、テクストに関心を持つ、あるコミュニティ(テレビドラマ『ザ・チューダー
ズ』の視聴者)との出会いだった。

○Joshua Sosin:デジタル・パピルス古文書学、デジタル古典学

 Sosinは、パピルス古文書学および、(画像とテクストを含む)古文書学の編集に
ついて話した。初期のインフラストラクチャは、何ができ、何をすべきかについて
のコンセンサスを得る合議コミュニティにつながった。彼はデューク・データバン
クに言及した。

 彼は、多くの点でオープンになっている「Papyri.info」プロジェクトについて話
した。彼はこのサイトに貢献しているスーパーユーザーについて説明した。

 彼らの次の大きなプロジェクトは、(紙の上のものというよりは)石碑上の碑文
に関するものである。彼は、多くの碑文プロジェクトがあるが、それのどれも同じ
仕方のものはないと指摘した。彼は、自分たちの新しいプロジェクトが他のプロジェ
クトの参加を誘発し、標準化に貢献することを望んでいる。

 彼は、短命なプロジェクトが基本的なインフラの代わりに資金を獲得するであろ
うことを案じている。私たちはまた、デジタルと非デジタルのプロジェクト間で競
い合うのをやめ、協力していくべきである。デジタル人文学と伝統的人文学は、手
を携えていく必要があるのだ。〔さもなくば〕私たちは、寄せ集めのデジタル技術
と些細な人文学で終わってしまうかもしれないのである。

○Catherine Nygren:1729年の教皇集注版の文化空間を構築すること

 Nygrenは、「グラブ・ストリート」プロジェクト(18世紀ロンドンに関するデジ
タル編集版)について話した。彼女は、空間の表象に関して彼女が行っていること
を提示した。「グラブ・ストリート」プロジェクトは、印刷文化に結びついたスト
リートや空間を中心に構成されている。彼女は〔ミシェル・〕フーコーの「ヘテロ
トピア」という概念について考察してきた。

 彼女〔および彼女のプロジェクト〕はテクストからではなく、物理的および比喩
的空間から始められたという点で、私は興味深く聴いた。そして、このプロジェク
トは、この空間と関係するテクスト、画像、地図などを探したのである。

 彼女はその後、『愚人列伝』の集注版--多くの文化的な事を参照する風刺叙事
詩--に目を転じた。このプロジェクトは、いまだ進行中である。彼女は、社交的
な編集者が互いに交流する空間について考察することがいかに重要であるかについ
て付け加えた。

○Gimena del Rio:中世カスティーリャ詩における韻律のレパートリー

 del Rioは、彼女にReMetCAプロジェクトの構築に伴う経験につながるスペイン語
圏のデジタル・ヒューマニティーズについて話した。彼女は、様々な国で同じ研究テー
マの下で研究している事柄の違いについて話した。異なる地域は、異なるローカル
な知識を持っているのだ。中世研究にとって悩ましいのは、そういったことが関係
のないことであるという観点である。

 彼女は、アルゼンチンやその他のスペイン語圏においてデジタル・ヒューマニテ
ィーズの仕事がないことを示すいくつかの地図を提示した。大学はデジタル・ヒュー
マニティーズのための資金を持ってはおらず、研究者は大学の外でこれまでの研究
を行ってきたのである。それから彼女は、ソーシャルなものおよび彼女のプロジェ
クトの話に移した。彼女のチームは少しの資金で、できるかぎりのことをしようと
試みている。そこで、Webやクラウド編集等を利用している。

 彼女は、私たちがグローバルとローカルをどのように結び付けるのかと問うこと
で話を締めくくった。

○Brent Nelson:アーカイブをグループソーシング(group-sourcing)する

 Brent Nelsonは、クラウドソーシングの代替としてのグループソーシング・モデ
ルについて話すことから始めた。スーパーユーザーのグループが現れてくるような
大勢の人々を魅了するツールを構築するところから、クラウドソーシングは始まる。
これとは対照的にグループソーシングは、小さなグループから始まり、そのグルー
プのためのツールを構築する。

 彼は、OEDのようなインターネット以前に多くのボランティアを引きつけたクラウ
ドソーシングのプロジェクトはどのようなものだったかについて話した。19世紀の
多くの定期刊行物は、ある社会的集まりないし別種のグループから生まれたのであ
る。

 その後、彼はジョン・ダン協会のデジタル散文プロジェクトの歴史に目を転じた(
これについては、 http://donneprose.blogspot.ca/ を参照)。協会はすでに、知
的産物を自発的に生産するような機構へと変化を経験していた。彼らは、そのモデ
ルおよび協会に基づきながら、デジタル散文プロジェクトを構築しようとしたので
ある。

 プロジェクトは多額の資金を期待していないが、積み重ねられている。彼らは一
度に少しだけ進める。彼らのモデルは、人々がさまざまな方法で貢献することを可
能にする。ある人は自分の時間を捧げるし、他の人は自分のリサーチ・アシスタン
トを割り当てる。私はこれをみて、教会が多様な仕方でボランティア労働を促す仕
方を思い出した。彼は自発的な労働の倫理に言及した。

 彼は、彼のチームが開発しているツールおよび、このツールがどのようにボラン
ティアの人たちとの関係を維持するのに役立つのかについて話した。

 私は、倫理的な問題について考えることになった。私が感じた問題は以下の通り
である。

  ・学生に授業の一環として、公共的プロジェクトに参加を強いることは非倫理
   的である。私たちは、ペナルティなしで学生に、彼らの作業〔の成果〕を共
   有しないことの選択肢を与える必要がある。
  ・学生がこれらの作業のために単位を取得することは非倫理的である。
  ・学生の作業〔の成果〕の所有権に関しては、知的財産の問題がある。私の考
   えるところ、学生は自らの仕事を所有しており、彼らがその著作権を譲渡し
   ていないかぎり、任意の時点でそれを取り除くように依頼することが原理的
   に可能である。倫理的問題は、彼らにその権利を通知しない場合に生じる。

○Fotis Jannidis:ソーシャル編集、ソーシャル編集版および、仮想研究環境にお
けるその要件

 Fotisは、まったくソーシャルな要素を持っていないTextgridについて話した。そ
れは一方で、インフラストラクチャであり、多くの人に関わっている。彼のチーム
は、Eclipseベースである「ラボラトリ」とゲッティンゲンの図書館によって維持さ
れている「リポジトリ」を持っている。

 彼はTextgridにおける知的財産について話した後、人々を組織するためのさまざ
まなモデルを検証した。参加を促すレトリックにもかかわらず、ジミー・ウェールズ
に連なる、パーミッションの階層があるWikipediaのモデルについて話した。〔Fotis
の考えるところでは〕オープンソースモデルは、階層がフラット化されている点で
異なっているが、それでもリーダーがおり、人々がそのリーダーシップを好まない
ときには、仕組そのものを改変できるものである。また最後に、クラウドソーシン
グモデルもある。

 真の課題は、テクストを外部のツールで使用し、その後システムに戻すことがで
きるよう、どのようにそのテクストを設定するかという方法にある。

 現時点では、3つのモデルとも問題を持っている。また、オーバーラッピングや異
なったマークアップといった古くからの問題もある。

 Gitは、特権的(ライブラリ)ハブという概念を捨てた。すべてのローカルハブは、
それを望む人たちに何かを送る。しかし、あるひとつのハブが中心的であるべきだ
という社会的慣習がある。Fotisは、私たちは技術的および社会的慣習の区分から学
ぶこともできるはずだと感じている。Gitのモデルは、ローカルな実験と社会的に特
権化されたリポジトリを緩やかに接続させることを可能にしてくれるかもしれない。

 それから彼は、永続的識別子について話し、さらには品質保証およびワークフロー
に言及した。Textgridは、一般的なワークフローモデルを実装しようとしたが、失
敗した。そのためには、多くの持続可能なワークフローを作成する必要がある。多
くの人は、ある特定の地点でワークフローにクラウドソーシングのツールを追加し
たいと思うだろうし、それは数々の問題を引き起こす。Fotisは、過去にクラウドソー
シングで作成したデータをこっそり持ち込む方法を見つけようとしている。

Copyright(C)Geoffrey Rockwell 2013- All Rights Reserved.
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◇イベントレポート(2)
JADH2013(第3回 年次国際会議):Transcending Borders
「宙空の経験:JADH2013、その成果と展望」
http://www.dh-jac.net/jadh2013/
(鈴木崇史:東洋大学社会学部)

 2013年9月19日から2013年9月21日にかけて、JADH(Japanese Association for
Digital Humanities)が主催する第3回年次国際会議 JADH2013: Transcending
Bordersが立命館大学衣笠キャンパスで開催された。9月19日のPre-Conference
Lectureに始まり、20日、21日には、本会議ならびにJADHの年次総会が開催された。
残暑の折、国内、国外のDigital Humanities研究者が集い、活発な議論が展開され
た。

 著者は、20日9:30から11:00のセッションで、座長を務めるとともに、同日17:15
からのポスターセッションでAn investigation on Twitter use of researchers:
user type classification and text analysis[1]と題する発表を行った。本稿で
は、昨年に引き続き、著者が参加し観察した限りでの本会議の成果と今後の展望を
記したい。

 著者は、昨年のJADH2012会議について、「多様性」と「日本独自の題材を対象と
した研究の充実」が特徴であったと指摘した[2]。本年度はこれをさらに進め、「
個別具体的かつ普遍的な研究の充実」を最も印象に残った点として指摘したい。例
えば、著者が座長を務めたセッションでは、シェークスピア[3]、聖書[4]、ア
ジア古地図[5]といった個別具体的な対象について、テキスト分析、情報検索、GIS
といった情報学の諸手法を適用した成果が示された。

 しかし、同時に、それぞれの研究は、単に個別具体的な人文学の研究対象に情報
学の手法をあてはめたというにはとどまらない。シェークスピアのテキストを扱う
中から、著者推定、ジャンル判定を含む計算文体論の新たな分析上の観点を掘り起
こし、聖書の諸版の差異と共通点を明らかにするために、必要な情報検索の問題を
探し出し、アジア古地図のデジタル化、GISの適用を通じて、テキスト以外の歴史資
料を扱うための批判的考察、Data Critismを行う。

 つまり、それぞれの研究は、情報学の手法を人文学の問題に適用するにとどまら
ず、個別具体的な人文学の問題を解決することを通じて、新たに必要な情報学の手
法を探しだし、あるいは新たな方法を生み出そうとしているのである。

 これは、JADHにとって非常に大きな進化である。当然ながら、昨年までのJADHで
の発表にそのような姿勢が見られなかったというわけではない。しかし、本年度の
JADHでは、そのような問題意識を意識的に打ち出している研究が増えているという
印象を強くした。

 この点は、JADHが毎年日本国内で開催しているにもかかわらず、基本的には英語
で発表を行い、海外からの参加者を積極的に増やそうとしてきたことにも起因する
[6]。著者は、日本の人文学における特定の話題について、日本語で発表し、日本
語で議論することの意義を否定するものではないが、同様の話題を英語で発表し、
英語で議論することは、本質的に異なる経験を含むものであると考える。そこでは、
ある種、日本語の発表では無意識のうちに省略されてしまう共通了解や前提といっ
たものが、一度括弧に入れられ、宙に浮かび、よって、その前提を意識的に明示化
し、言語化する必要がある。このような、宙空の経験は、個別具体的な問題意識に
とどまらず、研究の方法論的深化をもたらすこととなる。

 著者は、この点にこそFieldではなくDisciplineとしてのDigital Humanitiesの萌
芽が見られると考える。Digital Humanitiesが人文学、情報学、人文情報学いずれ
なのか、あるいは、いずれでもないのか、それらはまだ明確な答えが与えられるよ
うな問いではない[7]。しかしながら、もしもDigital HumanitiesがDigital
Humanities、あるいは/そして、デジタル・ヒューマニティーズとして、その分野
の歩みを続け、一つのDisciplineとして確立することを目指すのであれば、本会議
に見られた大きな進化は、その可能性の一つの中心であると、ここに記しておきた
い。

 JADHは現在、アジア太平洋地域のDigital Humanities研究のハブの一つとなりつ
つある。この地域的特性を活かしつつも、個別具体的な各論にとどまらず、方法論
としてのDigital Humanitiesを推し進めていく、それによって、Digital Humanities
をより一層、発展させていく。それが、Digital Humanities研究にとっての可能性
の一つの中心であり、また、JADHにとっても、可能性の一つの中心となり得るであ
ろう。そのような期待を抱きつつ、本稿を閉じることとしたい。

[1]Arakawa, Yui、Yoshimoto, Ryosuke、Yoshikane, Fuyuki、Suzuki, Takafumi
(2013) An investigation on Twitter use of researchers: user type
classification and text analysis, JADH2013 & DH-JAC2013 Conference
Abstracts, 41-42.
[2]鈴木崇史(2012)JADH2012: 成果と展望,人文情報学月報,15.
http://www.dhii.jp/DHM/dhm15
[3]Hope, Jonathan (2013) The language of tragedy: tracking a shifting
target in a historical corpus, JADH2013 & DH-JAC2013 Conference Abstracts,
7-8.
[4]Miyake, Maki (2013) Different characteristics of variant readings
based on comparison of major textual similarity measures, JADH2013 &
DH-JAC2013 Conference Abstracts, 9.
[5]Kitamoto, Asanobu、Nishimura, Yoko (2013) Data criticism: a
methodology for the quantitative evaluation of non-textual historical
sources with case studies on Silk Road maps and photographs, JADH2013 &
DH-JAC2013 Conference Abstracts, 10-11.
[6]本家DH会議では、逆に会議を多言語化しようという動きもある。これは、また
異なる段階の問題意識であり、その当否も含め、別稿で議論すべき話題としたい。
[7]鈴木崇史(2013)人文情報学 and/or デジタルヒューマニティーズ,人文情報
学月報,11. http://www.dhii.jp/DHM/dhm11

Copyright(C)SUZUKI, Takafumi 2013- All Rights Reserved.
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◇イベントレポート(3)
Society for Social Studies of Science (4S) 2013 San Diego(科学社会論学会)
「人文情報学のSTS的側面」
http://www.4sonline.org/meeting/13
 村上祐子(東北大学大学院文学研究科)

 2013年10月9日から12日までの4日にわたり、アメリカ・サンディエゴでSociety
for Social Studies of Science(4S)第38回年会が開催された。今回は共催学会が
なかったが、参加登録者は1,200人(うち学生とOECD外からの参加者が500人強)を
越える大きな集会であった。約750人がアメリカ・カナダからの参加であったが、ヨー
ロッパ・オーストラリアから約340人、アジアから70人、ラテン・アメリカから45人、
中東・アフリカから5人が参加し、参加者の地域でも国際的な広がりが見られた。

 参加者の所属やバックグラウンドも多彩である。大学関係者が多いが、インテル
などの企業やNPO、また独立研究者も少なからず参加している。専門領域も科学技術
社会論専攻や技術経営・科学技術政策が中心ではあるが、社会学・教育工学・哲学・
心理学・経営学・マーケティング・情報学などさまざまであり、きわめて広範なト
ピックが扱われている。共通点としては科学技術の社会的利用に関するトピックに
関するものと大きく括ることができるが、発表者の目的も理論的分析・プロジェク
ト実施報告・提言につなげようとする批判的分析・社会活動的なものなど、政治的
・社会的にもさまざまな目的が交錯している。

 セクションでは大きく分けて生医学、経済・市場研究、エネルギー・核問題、工
学、環境学、食品学、ジェンダー学、情報学、市民参加・社会運動、科学コミュニ
ケーション、科学技術政策、方法論の12カテゴリがカバーされている。さらに今年
ははじめて映画の独立セッションがプログラムに含まれた。各セッションは原則と
して3から5本の発表からなり、今回は全252セッション中ICTカテゴリのセッション
が103件あった。この中にはゲーム研究、ビッグデータ、プライバシー、監視などが
含まれる。

 それぞれのセッションを人文情報学の観点から分類してみると、(1)情報学の手
法がSTSに導入されるものと、(2)学際的プロジェクトの一つとして個別科学の他
に情報学と人文社会科学が並列されて結果としてSTS的なものとなっているもの、さ
らには(3)情報学をSTS研究の対象として批判的に分析するものの三つのカテゴリ
に大きく分けられる。

 (1)はもはや普通であり、文献情報によるクラスタ解析・ビッグデータ分析・計
器を用いた行動解析など情報学的なアプローチがとりたてて言及されることもなく
用いられる。

 (2)は宇宙生物学など先端科学技術の社会的影響を考察する学際テーマに人文社
会科学と情報学とが投入されるケースである。このとき、たとえば異分野協同につ
いては、アカデミックな側面だけではなく、産学連携の観点からの実務的な分析や
経営学の観点からの組織論として議論されていた。

 (3)については情報倫理のさらに一般化のようなことになるが、ビッグデータに
関してはセッションが開催され、社会的・倫理的影響を扱うもの、軍事・地政治学
的問題を扱うものなど幅広い議論が展開されていた。

 たとえば、「科学的知識のコミュニケーション:メディアと流通(Communicating
Scientific Knowledge: Media and Dissemination)」のセッションでは、ICTを利
用しているが多様なアプローチの発表があった。まずマーケティングの側面では、
レストラン等のオンライン口コミ(Online consumer review, OCR)の社会的影響に
関する分析がなされた。

 また、情報学からは、Digital Humanitiesが未成熟の分野であることを踏まえて、
digital humanitiesを標榜するブログをクラスタ分析することにより、何が人文情
報学なのか探ろうとする発表があった。さらに医療情報学の観点から、卵巣切除法
に関するブログ情報の社会的影響に関する発表があった。

 オンライン情報流通の分析に関する大まかな傾向としては引用関係・共著関係と
いった図書館情報学での基本的・量的ツールを越えて、質的分析を目指そうとする
研究のなかでも、ブログによる発信・交流を数千件にわたって調査するものが目に
ついた。またTwitterの分析についても定番の手法として定着した感がある。

 また、ICTを利用した監視に関する発表もさまざまなアプローチから各セッション
に分散して多数行われていた。特にスペインのグループがリードするヨーロッパ全
域での監視につながるICT技術導入に関する社会的意思決定への市民参加プロジェク
トに関しては、大規模の情報聞き取り手法が興味深かった。

 異分野共同については、異分野という側面に着目した振り返りを含むプロジェク
トの実施報告が主体であった。いくつかのプロジェクト報告を聞き、自らの経験を
思い起こすと、「感情のこじれ」をキーワードとしたコミュニケーションの様式の
違い、時間感覚・資源感覚の違い、行動規範の違いによるプロジェクト実施上の障
害というほぼ共通した問題が浮かび上がる。これは科学技術者に関しても適用され
る問題である。その中で雑談ラウンジなどインフラ整備によって相互理解という解
決を目指す方策が注目に値した。

 日本からの参加者を中心として東日本大震災関連の連続セッションも企画されて
いたが、福島原子力発電所の事例を含む今回の事例だけに着目する傾向は海外の参
加者からはむしろ敬遠されていたように思われる。一方で、当然のように原発事故
の事例を踏まえた上で、災害一般、公害一般、また巨大技術の導入といったより大
きい文脈への位置づけを行い、各事例から得られる教訓をどのように共有し史料を
保存していくかという論点をめぐって、ラウンドテーブルで研究者・社会活動家・
警察・政府関係者などさまざまな角度からの意見が交わされていたのが印象的であっ
た。なおこの方向性で次回も災害セッション開催が企画されるということである。

 次回は2014年7月末から8月初頭にかけてアルゼンチン・ブエノスアイレスで開催
される(ラテン・アメリカ科学社会学会との共催)。片道30時間超、往復航空券35
万円以上と相当の旅になるのは覚悟の上となるが、発表してみる価値はあるだろう。
また、特に注目すべき参加形態はオープン・セッションへの企画持ち込みである。
オープン・セッションとして企画が採用されると、自らの論文だけではなく、一般
投稿発表を受け入れることとなるので、地域や専門を越えた議論の場を設定できて、
問題意識・研究関心をともにする研究者とのネットワークを広げることが可能であ
る。国内にとどまらず仲間を探すのはオンラインでも可能ではあるが、それが容易
になるほど実際に対面で対話する機会はより貴重なものとなっていくだろう。

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◇イベントレポート(4)
第100回 人文科学とコンピュータ研究会発表会
http://www.jinmoncom.jp/
 (山田太造:東京大学史料編纂所)

 2013年10月12(土)に国立民族学博物館において、第100回 人文科学とコンピュー
タ研究会発表会(以下、CH100)が開催された。今回は100回記念ということもあり、
通常の研究発表会とは異なり、一般の研究報告は一切行わず、基調講演、およびCH
研究会歴代主査を中心としたパネルディスカッションが行われた。会場を国立民族
学博物館としたのはほかならぬ第1回の研究発表会が行われたためである。ここで報
告、もしくはパネリストとして壇上頂いた方々が一同に揃うことは今後おそらくな
いであろう。それくらい“レア”な回だった。参加者は34名だった。その内訳は研
究会会員が28名、学生会員が2名、非会員が4名だった。非会員の方もCH研究会に全
く無関係な方というわけではなかった。また終了後に行われた懇親会には32名と、
参加者のほとんどが関係者だったといえる状況の下、“お祭り”としてCH100は行わ
れた。

 CH100のプログラムは次のとおりである。

・開会挨拶
・基調講演
 及川昭文(総合研究大学院大学)
 「じんもんこん24年のあゆみ -どこからはじまり、どこへ向かうのか-」
・パネルディスカッション第1部
 「歴代主査による話題提供:主査経験者として思うこと」
・パネルディスカッション第2部
 「歴代主査を交えての討論:これまでのじんもんこんと、これからのじんもんこ
  ん」
・閉会挨拶
・懇親会

 発足の立役者のお一人である及川氏による基調講演では、タイトルの通り、1989
年に発足したCH研究会の24年間の歩みについて語られた。内容としては、発足の経
緯、研究会設立から6年目(1995年)から開始した科学研究費重点領域研究「人文科
学とコンピュータ」および第72回研究会で達成された全国制覇(47都道府県全てで
研究会を催した、という意)の2つの大きな節目、全国制覇の後の研究会の目標、だっ
た。

 発足時の取り巻く状況を、それを知る方から聴くことができたのは大変面白い。
全国制覇達成時に取りまとめられた内容をもとに説明があり、発足時から現在に至
るまで、どのような発表をどの分野の方が行ってきたのかなど、日本における人文
情報学の沿革ともいうべき話だった。

 講演の中で何度も「全国制覇達成」というタームが取り上げられていた。発足時
の目標の1つだったという説明があった。これに対し、全国制覇達成後の目標のあり
方についても述べられていた。これまで年間約35件の発表をコンスタントに保持し
てきているが、次の100回に向かって何を目指すべきかを考えるべき、という発言が
あった。この喚起に対する回答を我々は用意すべき時期に差し掛かったかもしれな
い。

 基調講演の後に行われたパネルディスカッションは2部構成で行われた。第1部は
歴代主査による、当時のエピソード・研究会の目標や課題・期間中にできたこと/
できなかったことなどについて、第2部はCH研究会のこれまでとこれからについて討
論した。

 第1部でのパネリストは歴代の主査のうち出席頂いた次の方々だった:杉田繁治氏、
及川昭文氏、八村広三郎氏、柴山守氏、加藤常員氏、鈴木卓治氏、後藤真氏、関野
樹氏。初代主査から順番に報告があった。3番目の八村氏の報告のときである。「文
理融合は無理だから文理融合くらいが現実的だろう」、という旨の発言があった。
ここから急展開した。この後に柴山氏の報告で「文理融合はNoであり、文理融合で
はなく文理協同」という発言もあり、歴代主査から文理融合とはなにか、文理融合
は可能か、について論ずるところとなった。この流れのまま第2部の討論へ突入し、
そこでも文理融合について討論した。

 第1部終了後に新旧の歴代主査が揃って記念撮影を行った。圧巻である。CH研究会
より歴代主査への感謝状授与があった。授与者は次のとおりである:杉田繁治氏、
及川昭文氏、八村広三郎氏、山田奨治氏、柴山守氏、加藤常員氏、桶谷猪久夫氏。
また、懇親会において、これまで歴代主査から当研究会にこれまで尽力された方々
への感謝状授与も行われた。この授与者は次のとおりである:安永尚志氏、高橋晴
子氏、小澤一雅氏、洪政国氏、星野聡氏、村上征勝氏。これまで24年間に渡って当
研究会を支え、この分野にご尽力いただいた方々に厚く御礼申し上げる次第である。

 さて、今回の100回を記念し、これまでの全研究会論文、全じんもんこんシンポジ
ウム論文、全国制覇達成記念資料、科学研究費重点領域「人文科学とコンピュータ」
論文・資料、などを盛り込んだDVDを発刊することになった。これはCH研究会の歩み
を記した「全集」とも言えるものである。じんもんこんシンポジウム(じんもんこ
ん2013)の会場で発売する予定である。

 じんもんこん2013は2013年12月9日(月)から14日(土)の間に京都大学百周年時
計台記念館で行う予定である。今回はPNC/ECAIとの共催であり、12日(木)から14
日(土)がじんもんこん2013の中心となる。また“新たな一歩”となるCH101は2014
年1月25日(土)に同志社大学において行われる予定である。ふるってご参加いただ
きたい。

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◇イベントレポート(5)
日本オリエント学会 第55回大会企画セッション
「閉じた人文学から開いた人文学へ-資料のデジタル化がもたらすもの-」参加報告
http://www.j-orient.com/meeting/
(永井正勝:筑波大学/企画代表)

 本稿の筆者は、2011年9月5日にKing’s College Londonで開催されたDigital
Palaeograpyのシンポジウム“'Digital Resources for Palaeography' One-Day
Symposium”に参加した[1]。その際、企画者のDr.Peter Stokesが、「伝統的なパ
レオグラーとデジタル・パレオグラフィーは対立するものではなく、互いに補完し、
協力していくものだ」という主旨のことを述べておられた。この言葉の背景には様
々な思いが込められていたのだと察せられるが、私は彼の言葉を聞いて、日本のオ
リエント学の中にも、デジタル・ヒューマニティーズの潮流を踏まえたデジタル化
の動きができればよいなぁと、漠然と考えていた。

 その翌年の春、日本オリエント学会[2]より年次大会のエントリー案内が届き、
偶然にもそこに一筋の光明を見いだした。というのも、2012年に開催される第54回
大会において、会員有志による企画セッションのコーナーが初めて設けられたから
である。案内を見た瞬間、デジタル・ヒューマニティーズのセッションを企画し、
エントリーしてみようと思ったのである。

 そこで企画したのが、「文献資料のデジタル化とその活用-オリエント研究にお
けるデジタル・ヒューマニティーズの可能性-」であった。私自身が古代エジプト
語の言語研究を行っているので、まずは文献資料を対象としたデジタル化について
取り上げることとし、発表内容においては、デジタル化の(1)目的、(2)技法、
(3)作成、(4)利用というフローをカバーするものとした。更に、オリエント学
会という間口の広い組織の特徴を生かし、対象言語も、古代エジプト語、シュメー
ル語、中世ラテン語、アラビア語というように、古代から近現代までをカバーする
ように設定した。

 このセッションの内容についてはすでに報告済[3]であるので、詳細については
割愛するが、最後の全体討論では、人文系学問におけるデジタル化の意義について
論じられ、データの共有、暗黙知の形式知化、学史上の位置づけ、などが指摘され
た。このような指摘を更に発展させるべく、2013年に開催された第55回大会でも、
デジタル化の企画を立ち上げることとした。

 2012年度のセッションでは、資料を統一した上で、縦の流れとして研究作業をフ
ローする内容にしたので、2013年度は資料を横断するかたちで(1)古代音楽資料、
(2)壁画資料、(3)遺跡資料、を対象とした発表を設け、以下のようなセッショ
ンを設定した。

■日本オリエント学会 第55回大会企画セッション(2013年10月27日、京都外国語大
学)
 「閉じた人文学から開いた人文学へ-資料のデジタル化がもたらすもの-」
 代表:永井正勝(筑波大学)
(1)竹内茂夫(京都産業大学)「音楽資料のデジタル化-微分音などの記譜の共有
  に関する試み-」
(2)菊地敬夫(早稲田大学)「古代エジプト壁画資料のデジタル化-アムドゥアト
  書の史料化を例として-」
(3)江添誠(慶應義塾大学)「東地中海地域の初期キリスト教会堂遺構のデータベ
  ース化」
(4)コメント・討論

 このように、今年度のセッションでは、資料の種類--それはすなわち学問の幅
に結びつく--を広げたわけだが、その意図は、人文学における学問手法の再考に、
一石を投じたいという期待があったらからでもある。以下、簡単に、企画者の観点
からそれぞれの発表の内容を紹介したい。

 最初に行われた竹内氏(専門:古代ヘブライ語言語学)の発表は、古代オリエン
トの音楽(主に古代ヘブライ語の音楽)の記譜に向けて、特にテトラコード(四音
音階)の六つの形式をデジタル的に記譜して共有するための試みを紹介したもので
あった。その際に重要となる点は、西洋音楽の一般的な音階ではなく、古代ギリシ
ア音楽やアラブ音楽のような微分音などを記譜するための技法の検討である。それ
を行うために、竹内氏はLilyPond[4]というオープンソースのアプリケーションを
選定した。これは、TeXの文法に似たソフトで、楽譜を文字情報で記譜できるため、
特定の環境に依存せず、データの共有が容易になるというメリットがある。

 竹内氏の発表は、楽譜が整っている現代の音楽のデジタル化ではなく、楽譜の存
在していない古代オリエント音楽を記譜するという野心的な試みであり、それだけ
に、古代オリエントの音楽に微分音があったかどうかなど、古代オリエント音楽の
検討・復元作業が重要となる分野の発表であったと言える。この発表は、昨年度の
企画セッションで出た課題で言えば、データの共有と暗黙知の形式知化を論じたも
のだと言える。

 菊地氏(専門:エジプト学)の発表は古代エジプトの壁画資料のデジタル化に関
する内容であった。菊地氏は早稲田大学エジプト調査隊の隊員としてエジプトの王
家の谷にあるアメンヘテプ3世の王墓に描かれている「アムドゥアト書」の宗教的研
究と高精細画像を用いたデジタル化の研究に従事されている。

 菊地氏の発表の要点は2点である。1つ目は、今日、エジプト学の学史上の要請と
して、資料のデジタル化を行う時代にあるという指摘である。資料のデジタル化に
は研究実績として見なされ難い側面があるが、それでも、我々は、資料のデジタル
化を行う役目を負っているのではないかというのが菊地氏の指摘である。

 そして2つ目は、エジプト学として重要なこととして、「モノ」として存在してい
るアムドゥアト書(壁画資料)の意義を明らかにするための手段としてデジタル化
を活用することができるという指摘である。壁画として描かれているアムドゥアト
書は、絵とテキスト(文字資料)から構成されているが、研究が進むにつれて、絵
とテキストの分析が乖離していった。そのなかでも、テキスト部分が、当時の宗教
思想を解明する一級の資料として扱われてきたのだが、しかしながら、絵とテキス
トのセットとして存在している「モノ」のあり方こそが、アムドゥアト書の機能と
して重要なのであり、そのような姿を他者に提供するための手段として、壁画のデ
ジタル化に取り組んでいるとの旨が説明された。

 このように菊地氏の発表は、学史上の位置づけとデータの共有について具体的に
論じるものであった。

 最後の江添氏(専門:ローマ文献考古学)の発表では、自身が作成しているオリ
エント地域における教会堂遺構のデータベースの経験をもとに、発掘作業における
学問伝統にメスを入れるような指摘が行われた。つまり、考古学という学問におい
て、発掘という作業は、悪く言えば現状の破壊と解釈の連続であるのだが、そのよ
うなプロセスが現場の人間にだけに共有されており、発掘報告書として結果が公に
される際に、そのようなプロセスがいわば隠蔽され、発見された資料の一部のみが
あたかも絶対的な「事実」として扱われる傾向があるという考古学のあり方を、鋭
く指摘したものであった。

 そのような状況を解決する1つの手段として、Facebookなどのソーシャルメディア
を通じてリアルタイムに資料を公表し、その資料に対する意見を広く提供してもら
うというスタイルの導入が指摘された。これは、考古学資料の解釈を発掘者が一方
的に決めるのではなく、それらに関心のある人で意見を公表し合いながら、より深
い理解へと至るというプロセスの提案であり、データ共有という課題ばかりではな
く、象牙の塔的な組織で決定される「事実」に対する学問伝統への警鐘にもなって
いた。

 最後の全体討論では、最初に代表者の永井が企画の趣旨を説明した後、永井が「
お題」として発表者にお願いしていた課題に対する回答を頂いた。その課題とは、
「資料のデジタル化が人文学に何をもたらすのか」という問いである。

 竹内氏の回答は、資料のデジタル化を行うことによって、従来以上に資料と真摯
に向き合うようになり、今まで曖昧にしていた点がかえって浮き彫りになるという
ものであった。これはつまり、デジタル化の作業の意義が作成者自身に還元される
という指摘である。

 菊地氏は、可能な限り解釈の入らないかたちで壁画のデジタル化を行っており、
自身の作成したデジタル資料が公開されたならば、作成者の思いとは別に、利用者
が自由にそれを使い、新たな学問が展開するのではないかという期待を提示された。
これは、デジタル化の意義が利用者という外の世界に広がっていくことの意義を説
いたものであった。

 江添氏の回答は、インタラクティブな意見交換の場として、デジタル資料が活用
されてもよいのではないかというものであった。つまり、元来、人文系の学問では、
資料公開者が資料にまつわる「事実」を決定していたのだが、その決定を資料保有
者のみに委ねるのではなく、デジタル資料をプラット・フォームにして、提供者と
利用者とが双方向的に、しかも時間の制限なく、情報共有を行うようにするのが良
いとの提案があった。

 フロアーを交えた討論ではいくつかの話題が出たが、そのうち特に重要だと思わ
れる点を2つ紹介しておきたい。1つ目は、デジタル資料で提示されるアノテーショ
ンに関するものである。言語資料のデジタル化に対するアノテーションでは、資料
に対する種々の解釈・判断をデジタル資料作成者が付与することになるが、その解
釈・判断が常に正しいとは限らず、アノテーションに対するコメントを付与するこ
とのできるシステムが望まれるというのが会場で共通した意見であった。文科系学
問は、いわば資料に対する解釈の集積で出来ており、学史上の見解を自説の補完材
料として提示することも珍しくはない。そのような学風をさらに昇華させるために
も、資料のデジタル化は大きな意義を持つものだと言えよう。

 そして2つ目は、デジタル・ヒューマニティーズに関する共同研究をしたいが、そ
の契機がないという人文系の学者の切実な悩みであった。資料(コンテンツ)はあ
るが、デジタル化の技術がないというのが、おおかたの文科系学者に共通する状況
であり、そのような人々にとって、デジタル・ヒューマニティーズの同行は、関心
があるものの、近づき難いという思いがあるようである。

 このような状況を打破するためには、学会間の交流を通じた人文系と情報系の「
お見合い」のような場があると良いのではないかというような、人文系の学者にとっ
ては都合のよいように思われる提案もなされた。

 以上、簡単にセッションの紹介を行ったが、昨年度のセッション同様、今年度の
セッションの発表者も、日々、一次資料と格闘している人文系研究者である。資料
から何がわかるのか、あるいは資料をどのように保存するのか、という問いの先に、
伝統的な学問手法に加え、資料のデジタル化がある。

[1]その報告は『人文情報学月報』第2号(2011-09-29)を参照。
http://www.dhii.jp/DHM/dhm02
[2]1954年に設立された学会で、古代からイスラーム期にかけてのオリエントに関
する歴史、宗教、言語などの研究者が集う。現在の会員数は700名ほど。
http://www.j-orient.com/
[3]『人文情報学月報』第17号(2012-12-27)
http://www.dhii.jp/DHM/dhm17
[4]LilyPond
http://www.lilypond.org/

Copyright(C)NAGAI, Masakatsu 2013- All Rights Reserved.
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 配信の解除・送信先の変更は、
    http://www.mag2.com/m/0001316391.html
                        からどうぞ。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆編集後記(編集室:ふじたまさえ)
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 今号も充実の内容となった第28号ですが、いかがでしたか?巻頭言を始め、イベ
ントレポートをご寄稿いただいた皆さまに感謝します。ありがとうございました。

 巻頭言では、新しいMLA複合館に向けた「予告編」ともいうべき京都府立総合資料
館新館についてご寄稿いただきました。参加者を巻き込んだイベントを開催し、現
在抱えている問題点を共有・克服しつつ、新しい資料館のあるべき姿を探ってきた
経緯をうかがい知ることができます。今後の方向性については、今月開催されたシ
ンポジウムの内容にかかっているとのこと。こちらも、気になるところです。

 読者の皆さまにとっては自明の事実かもしれませんが、イベントレポートの中で
は特に、「STS」という言葉が気になり、Wikipediaで調べてみました。「STS」とは、
「Science, technology and society」の頭文字で、日本語にすると「科学技術社会
論」のことだそうです。あくまで、私自身の理解ですが、科学論から技術的な指向
を取り入れて発展してきた研究が、さらに情報学の要素が強くなった現代において、
人文情報学とも結びついた分野なのでしょうか。毎号、さまざまな新しい分野に触
れ合うことができるのも、人文情報学月報の良い所ですね。

◆人文情報学月報編集室では、国内外を問わず各分野からの情報提供をお待ちして
います。
情報提供は人文情報学編集グループまで...
       DigitalHumanitiesMonthly[&]googlegroups.com
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人文情報学月報 [DHM028]【後編】 2013年11月25日(月刊)
【発行者】"人文情報学月報"編集室
【編集者】人文情報学研究所&ACADEMIC RESOURCE GUIDE(ARG)
【E-mail】DigitalHumanitiesMonthly[&]googlegroups.com
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【サイト】 http://www.dhii.jp/

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