2011-08-27創刊 ISSN 2189-1621
人文情報学月報
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄Digital Humanities Monthly
2017-08-30発行 No.073 第73号【前編】 680部発行
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◇ 目次 ◇
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【前編】
◇《巻頭言》「大学アーカイブズにおけるデジタルアーカイブと写真資料」
(加藤諭:東北大学史料館・准教授)
◇《連載》「Digital Japanese Studies寸見」第29回「‘*Rxiv’とプレプリントのこれから」
(岡田一祐:東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)
【後編】
◇《特別寄稿》「Europeanaの変革」
(西川開:筑波大学大学院図書館情報メディア研究科博士後期課程1年)
◇人文情報学イベントカレンダー
◇イベントレポート ワークショップ「南アジア研究におけるデジタルテクストの未来」
(苫米地等流:人文情報学研究所)
◇編集後記
◇奥付
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【人文情報学/Digital Humanitiesに関する様々な話題をお届けします。】
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◇《巻頭言》「大学アーカイブズにおけるデジタルアーカイブと写真資料」
加藤諭(東北大学史料館・准教授)
〈はじめに〉
現在筆者が勤務している東北大学史料館は国立大学としては日本で初めて設置された大学アーカイブズである。当館の設置経緯は大学史編纂後の収集資料の散逸防止であった。周年事業としての『東北大学五十年史』が1960年に刊行されたのち、収集された大学史関係資料の受け皿が課題となり1963年に設置されたのである(当時の組織名は記念資料室)。同じように、前職の東京大学文書館も『東京大学百年史』刊行後、恒常的な資料保存期間の必要性から1987年に設置された大学史史料室を母体としている。
このように日本における大学アーカイブズは、大学史編纂後の後継組織としての歴史を有していることが多く、大学アーカイブズにおけるデジタルアーカイブも大学史編纂の遺産と無関係ではない。しかし大学アーカイブズとデジタルアーカイブとの歴史的経緯はこれまでほとんどまとめられてきていないように思う。
この巻頭言では2017年7月15日東京大学史料編纂所画像史料解析センター主催の研究集会「写真資料の保存と学術資源化をめぐって」において筆者が報告した「大学アーカイブズにおける写真資料の位置づけ」の内容をもとに、日本における大学アーカイブズがどのようにデジタルアーカイブと接点を持っていったのか、東北大学を事例にその一端を述べてみたいと思う。
〈写真資料のデジタル化プロジェクトの経緯〉
東北大学では2007年に東北大学が創立百周年を迎えるにあたり、早い段階から百年史編纂計画が持ち上がり、1993年には東北大学百年史編纂構想委員会が設置され、同委員会で東北大学百年史の編纂構想が練られた。構想は1995年評議会で承認、以降編纂準備が進められることとなる。この過程で本部事務局や学生部などの書庫調査が行われ、調査の中で所蔵が確認された広報調査課所蔵写真のネガ等が大量に記念資料室に移管されることになった。
最終的に実現することはなかったが東北大学百年史の編纂計画当初では写真集の刊行も企図されており、学内の写真資料の調査は不可欠であったと思われる。このため1998年にまとめられた「記念資料室の長期的整備について」では、文書資料のマイクロ化とともに、写真資料の複製等の計画的進展が盛り込まれていくことになる[1]。
こうした流れを受けて、2002年東北大学教育研究協力基金による写真のデジタル化が学内プロジェクトとして認められ、2000年に記念資料室から改組した東北大学史料館がこの事業を担うこととなった。2002年成果の一端として企画展示「東北大学古写真館」が開催され、2003年には本部事務局(総長室、庶務部庶務課、広報調査課、施設部企画課、経理部管財課)から移管された写真資料を目録化[2]、2004年に東北大学写真データベースとしてWeb上で公開した(約3000点)[3]。
これが東北大学において大学アーカイブズが所蔵資料のデジタルアーカイブに挑んだ初めてのケースであったといえる。以降東北大学史料館では適宜学内から移管を受けた写真資料についてデジタル化を進め、2017年現在7091点を公開[4]、公開予定の整理中のものを含めると約1万点ほどとなっており、これは国立公文書館等指定の国内大学アーカイブズとしては最も多い公開点数となっている。
〈公文書管理法の枠組〉
写真資料のデジタル化と公開の流れは東北大学に限ったものではなく、例えば九州大学大学史料室(現:九州大学大学文書館)や京都大学大学文書館でも1990年代後半から2000年代にかけて行われており、全国的傾向であったといえる。いずれも九州大学七十五年史や京都大学百年史編纂時に収集した未整理のネガ・紙焼き写真等がベースになっている。大学アーカイブズによるデジタルアーカイブは年史編纂時の収集資料の利活用がねらいの一つであったといえよう。
東北大学、京都大学、九州大学の各アーカイブズは2011年に施行された公文書管理法のもと、施行時に国立公文書館等の指定を受けることとなった。公文書管理法施行後、国立大学法人において保存期間満了後の法人文書の受け皿は国立公文書館等でなければならなくなったからである。それでは現状、公文書管理法はこうした写真資料についてどのように規定しているのだろうか。公文書管理法では法人文書は「図画及び電磁的記録」を含むとして紙文書のほか図面、写真、これらを写したマイクロフィルム等が含まれるとしている[5]。
また受け入れた法人文書は特定歴史公文書等として、「展示その他の方法により積極的に一般に利用に供するよう努めなければならない」と規定されており[6]、ガイドラインではこの利用の促進の具体的方法として「デジタル画像等の情報をインターネットの利用により公開すること」をあげている[7]。公文書管理法は、このように従来からの各大学アーカイブズでのデジタルアーカイブについての取り組みに対し、公文書管理法による枠組として制度的に位置づけを与えるものとなった。
〈制度運用の課題〉
しかし大学内の写真資料が「法人文書」として文書管理がなされているか、というと東北大学も含め現状網羅的に管理されているとはいえない状況にある。
これは大学アーカイブズの側からすると、写真の著作権や肖像権などの点から大学アーカイブズでWeb公開が進んでいる写真資料は帝国大学期のものが多くなりがちであること、また公文書管理法では受け入れ後1年以内の目録公開が原則であるので、大量の写真資料が移管された場合、目録作成に過重な負担がかかってしまうことから積極的な移管への取り組みを行ってきていないこと[8]、原課側でも写真資料が「法人文書」として位置づけられることへの認識が十分でないことなどが要因であろう。
一方東北大学史料館での2015年~2016年度の利用実績では、写真資料の画像利用申請件数は、簿冊の利用件数を上回っており、デジタルアーカイブの利活用を考えた場合、写真資料は大学アーカイブズにとって無視できない資料群であるといえる。年史編纂による資料収集から始まった写真資料のデジタルアーカイブを公文書管理法の制度運用の中でどのように適切に整理し公開していくか、大学アーカイブズにおける今後の課題といえよう。
[1]『東北大学百年史』第7巻部局史4、東北大学、2006年
[2]『東北大学関係写真資料目録』、東北大学史料館、2003年
[3]『東北大学史料館だより』No.5、東北大学史料館、2005年
[4]東北大学関係写真データベース http://webdb3.museum.tohoku.ac.jp/tua-photo/
[5]公文書管理法第2条第4項 http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H21/H21HO066.html
[6]公文書管理法第23条 http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H21/H21HO066.html
[7]公文書管理法第23条 http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H21/H21HO066.html
[8]特定歴史公文書等の保存、利用及び廃棄に関するガイドライン 第B章第1節B-1(2) http://www8.cao.go.jp/chosei/koubun/hourei/hozonriyou-gl.pdf
執筆者プロフィール
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加藤諭(かとう・さとし)東北大学史料館・准教授。専門は日本近現代史(百貨店史)、アーカイブズ学。東北大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得退学。東北大学史料館・教育研究支援者、東京大学文書館・特任助教を経て現職。東北大学百年史編纂に携わったのち、東北大学、東京大学の法人文書移管実務を担当。2017年現在、公文書管理法施行後の複数の大学アーカイブズ(国立公文書館等)で文書移管の実務経験を持つ唯一の研究者である。
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◇《連載》「Digital Japanese Studies寸見」第29回「‘*Rxiv’とプレプリントのこれから」
(岡田一祐:東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)
日本学というわけではないが、アメリカ化学会(ACS)が2017年8月14日に論文の投稿版(プレプリント)をネット公開できるサービスの試験を開始したとのことである[1][2]。ChemRxiv(ケムアーカイブと読む)というそれは、あきらかに、arXiv(アーカイブ)というプレプリント共有サービスにおいてもっとも著名なものを意識したものである(直接的には、2013年に始動したbioRxivという生物学におけるそれを踏まえたのであろう)[3]。
ACSを中心にイギリス王立化学会、ドイツ化学会等の助力を得、Digital Science社の科学データ共有サービスFigshareの基盤を利用して設置された。ChemRxivは、OAI-PMHというデータ・リポジトリ用のメタデータ検索プロトコルに対応したり、CrossRefとの連携機能があったりするなど、多様な機能が用意されている。また、プレプリントに対するDOIを附与できることで、ChemRxivに投稿された段階から引用しやすくなるという。
プレプリント共有サービスの走りであるarXivの歴史は1991年まで遡るという。Webがはじまるのとほぼ同時期である。arXivは、物理や数学などの論文を査読誌に投稿したあと、あるいは査読を経て受理されたあとなどに、いわば速報版を共有するために設置されたもので、いまでは130万もの論文がアップロードされる。したがって、査読に通るまえであれば、その論文がじっさいに掲載されるかは分らないし、査読や編集を経ていないため品質保証としても十分ではない。
それでも、あたらしい成果をいちはやく共有したいという善意の輪によって普及したものである(競争という意味もいまではあるのだろう)。今年の5月・6月には現在ではコーネル大図書館が運営しているが、もともとはポール・ギンスパーグという物理学者が開設したものである。一般の利用者からは料金を徴収しておらず、維持費はコーネル大とシモンズ財団、および利用者の多い機関が負担している(日本では東大・京大などが負担の多い機関である)。
いわゆる文系でいえば、いずれも英語が基盤であるが、LingBuzz[4]という言語学系のサービスがあり、心理学ではPsyArXiv[5]というサービスがある。Academia.eduやResearchGate、Researchmapなどの研究者向けSNSでもプレプリントを公開することはできるだろうが、専門のサービスと異なってメタデータを十分に附与し、かつ他者がそれを利用することがしにくいという欠点がある。さきほど挙げたようなFigshareなどといった論文データ共有は、すこし毛色がちがってプレプリントを公開するにはそこまで適切でないだろう。
プレプリント共有サービスをめぐっては、学界の慣行も大きく影響する。arXivが誕生した物理学の分野では、ギンスパーグの試みにさきだって、ジョアンヌ・コーンという物理学者がメールで論文やプレプリントを回覧していたというような文化があった。アメリカの言語学においても、いいかどうかはべつのこととして、最適性理論という生成文法系のある有力な理論の主要な著作が草稿のまま多くの論文に引用され、じっさいに刊行されたのは評価も一通り定まったあとだったというようなことが思い出される。
それに対して、日本学のすべてを知るはずもないけれど、ほとんどの分野でプレプリントすら多くの雑誌に規定される「未公刊」用件に觝触するか、あるいはどうなるかはっきりさせていないのではないか。博士論文のリポジトリ登録をめぐって議論があったのは記憶に新しい。これは、雑誌というより出版への影響を懸念してのことが多いように感ずるが、とはいえ、雑誌論文として投稿するにあたって、まったく認めないわけではないにしても、なんらかの改訂を暗に陽に求めることも少なくないのではないか。
この点、bioRxivでは、学術誌がみずから投稿規定にプレプリントの共有は刊行ではないと明記するようになったという[6]。また、PsyArXivでは、学術誌のプレプリントに対する対応を一覧にして対応している[7]。今回のChemRxivのようにサービスの内容にお金をかける必要があるかどうかは別としても、曖昧な体制を見直したり、情報を集約したりなどといった事柄は、プレプリント共有の成否に係わるだろう。
プレプリント共有に特化したサービスの利点としては、Google Scholarなどの論文情報検索サービスがチェックしてくれるので論文を読んでもらいやすくなるというのもさりながら(しかも無料である)、ここをチェックしておけばいいという分かりやすさがいいのだろう。その論文がどこに投稿・公刊されようと、arXivにいけばあるという安心感である。論文を読む時間は日に日に奪われるばかりだろうが、さりとて読まないわけにはいかない(はずである)。
そういうとき、情報を共有できる文化は限られた資源を有効に使ううえで強みとなっていくのではなかろうか。
[1]ChemRxiv data repository https://chemrxiv.org/
ChemRxiv(TM) Beta open for submissions and powered by Figshare - American Chemical Society https://www.acs.org/content/acs/en/pressroom/newsreleases/2017/august/ch...
[2]化学分野のプレプリントサーバー“ChemRxiv”のベータ版が公開 | カレントアウェアネス・ポータル http://current.ndl.go.jp/node/34512
[3]arXiv.org e-Print archive https://arxiv.org/
[4]lingbuzz - archive of linguistics articles http://ling.auf.net/lingbuzz
[5]PsyArXiv Preprints https://osf.io/preprints/psyarxiv
[6]BioRxiv at 1 year: A promising start | Science | AAAS http://www.sciencemag.org/news/2014/11/biorxiv-1-year-promising-start
[7]PsyArXiv Frequently Asked Questions - PsyArXiv Blog http://blog.psyarxiv.com/2016/09/19/psyarxiv-faq/ 中、とくに‘How do journals deal with preprints?’
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続きは【後編】をご覧ください。
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人文情報学月報 [DHM073]【前編】 2017年08月30日(月刊)
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