ISSN 2189-1621

 

現在地

[DHM023]人文情報学月報【後編】

2011-08-27創刊

人文情報学月報
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄Digital Humanities Monthly

             2013-06-23発行 No.023 第23号【後編】 369部発行

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 ◇ 目次 ◇
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
【前編】
◇《巻頭言》「境界領域が持つ魅力-人と人とのコミュニケーション-」
 (耒代誠仁:桜美林大学総合科学系)

◇《連載》「Digital Humanities/Digital Historyの動向
      ~2013年5月中旬から6月中旬まで~」
 (菊池信彦:国立国会図書館関西館)

【後編】
◇人文情報学イベントカレンダー

◇イベントレポート(1)
「英語コーパス学会シンポジウム『私のコーパス利用』」
 (藤原康弘:愛知教育大学外国語教育講座)

◇イベントレポート(2)
「International Conference on Japan Game Studies 2013」
 (尾鼻崇:中部大学)

◇イベントレポート(3)
「Around the World Symposium on Technology and Culture
-An All-Day Digital Humanities Live-Streamed Event!」
 (永崎研宣:人文情報学研究所)

◇イベントレポート(4)
「アート・ドキュメンテーション学会2013年度年次大会・研究発表会」
 (金子貴昭:立命館大学衣笠総合研究機構)

◇イベントレポート(5)
「対談:デジタル環境下の図書館、デジタル・ヒューマニティーズと日本文化研究」
 (江上敏哲:国際日本文化研究センター)

◇イベントレポート(6)
「日本語学会2013年度春季大会」
 (須永哲矢:昭和女子大学)

◇編集後記

◇奥付

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【人文情報学/Digital Humanitiesに関する様々な話題をお届けします。】
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◇人文情報学イベントカレンダー(□:新規イベント)

【2013年6月】
■2013-06-26(Wed)~2013-06-29(Sat):
Digital Humanities Summer School Switzerland 2013
(於・スイス/University of Bern)
http://www.dhsummerschool.ch/

□2013-06-28(Fri):
東京大学大学院情報学環 東京大学空間情報科学研究センター シンポジウム
「ユビキタスで知る空間、ユビキタスで探る人間行動」
(於・東京都/東京大学 本郷キャンパス)
http://www.iii.u-tokyo.ac.jp/event_detail.php?id=1656

■2013-06-29(Sat):
情報メディア学会 第12回 研究大会「ビッグデータ時代の図書館の役割
-データのカストディアンは誰か」
(於・神奈川県/鶴見大学)
http://www.jsims.jp/kenkyu-taikai/yokoku/12.html

【2013年7月】
■2013-07-08(Mon)~2013-07-12(Fri):
Digital.Humanities@Oxford Summer School
(於・英国/Oxford University)
http://digital.humanities.ox.ac.uk/dhoxss/

■2013-07-10(Mon)~2013-07-12(Fri):
The 5th International Conference on Asia-Pacific Library and Information
Education and Practice
(於・タイ/Khon Kaen University)
http://www.aliep2013.com/

■2013-07-16(Tue)~2013-07-19(Fri):
Digital Humanities 2013
(於・米国/University of Nebraska)
http://dh2013.unl.edu/

□2013-07-28(Sun):
白眉センター&応用哲学・倫理学教育研究センター(CAPE) 共催セミナー
「文化系統学・文化進化研究の現在-『文化系統学への招待』合評会」
(於・京都府/京都大学 物質-細胞統合システム拠点)
http://www.hisashinakao.com/cul_evo/

【2013年8月】
■2013-08-03(Sat):
人文科学とコンピュータ研究会 第99回研究発表会
(於・東京都/筑波大学 東京キャンパス文京校舎)
http://www.jinmoncom.jp/

■2013-08-04(Sun)~2013-08-09(Fri):
IGU 2013 Kyoto Regional Conference
(於・京都府/国立京都国際開館)
http://oguchaylab.csis.u-tokyo.ac.jp/IGU2013/jp/

■2013-08-06(Tue)~2013-08-09(Fri):
Balisage: The Markup Conference 2013
(於・カナダ/Montre'al)
http://www.balisage.net/

■2013-08-15(Thu):
IFLA 2013 Satellite Meeting "Workshop on Global Collaboration of
Information Schools"
(於・シンガポール/Nanyang Technological University)
http://conference.ifla.org/ifla79/satellite-meetings

■2013-08-19(Mon)~2013-08-23(Fri):
2013 DARIAH-DE International Digital Humanities Summer School
(於・ドイツ/Go"ttingen)
http://www.gcdh.de/en/events/calendar-view/2013-dariah-de-international-...

【2013年9月】
■2013-09-02(Mon)~2013-09-05(Thu):
10th International Conference on Preservation of Digital Objects
(於・ポルトガル/Lisbon)
http://ipres2013.ist.utl.pt/

■2013-09-05(Thu)~2013-09-08(Sun):
3rd International Conference on Integrated Information, IC-ININFO
(於・チェコ共和国/Prague)
http://www.icininfo.net/

■2013-09-06Fri)~2013-09-08(Sun):
State Of The Map 2013(SotM2013)
(於・英国/Birmingham)
http://wiki.openstreetmap.org/wiki/State_Of_The_Map_2013

■2013-09-10(Tue)~2013-09-13(Fri):
13th ACM Symposium on Document Engineering
(於・イタリア/Florence)
http://www.doceng2013.org/

■2013-09-16(Mon)~2013-09-18(Thu):
The International Conference on Culture and Computing(Culture and
Computing 2013)
(於・京都府/立命館大学 朱雀キャンパス)
http://www.media.ritsumei.ac.jp/culture2013/

■2013-09-17(Tue)~2013-09-21(Sun):
FOSS4G 2013
(於・英国/Nottingham)
http://2013.foss4g.org/

■2013-09-19(Thu)~2013-09-21(Sun):
JADH2013@Kyoto
(於・京都府/立命館大学)
http://www.jadh.org/JADH2013

■2013-09-24(Tue)~2013-09-26(Thu):
International Conference on Information and Social Science(ISS 2013)
(於・愛知県/ANAクラウンプラザホテルグランコート名古屋)
http://ibac-conference.org/iss2013/

■2013-09-28(Sat)~2013-09-30(Mon):
日本地理学会 2013年 秋季学術大会
(於・福島県/福島大学)
http://www.ajg.or.jp/ajg/2013/05/20132-2.html

Digital Humanities Events カレンダー共同編集人
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小林雄一郎(日本学術振興会特別研究員PD)
瀬戸寿一(立命館大学衣笠総合研究機構専門研究員)
佐藤 翔(同志社大学教育文化学科 助教)
永崎研宣(一般財団法人人文情報学研究所)

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◇イベントレポート(1)
「英語コーパス学会シンポジウム『私のコーパス利用』」
http://english.chs.nihon-u.ac.jp/jaecs/WhatsNew/symposium2013.html
 (藤原康弘:愛知教育大学外国語教育講座)

 2013年4月27日(土)、大阪大学(豊中キャンパス)にて英語コーパス学会シンポ
ジウム「私のコーパス利用」が開催された。

 このシンポジウムは、題目にあるとおり、日本の英語コーパス言語学を牽引する
さまざまな分野の研究者達が、各自のコーパスの利用法を比較的自由に語るという
ものであった。我々にとって研究の「成果」を聞く機会は学会などであるが、研究
の「過程」における実体験を聞く機会はあまりない。よって大変貴重な催しといえ
るだろう。具体的には、次の4つの項目を主たるテーマとして話があった。

(1)なぜコーパスを使うのか
(2)どのようなコーパスをどのように使っているのか
(3)コーパスの威力と限界
(4)コーパスを使う際に注意していること

 司会は京都外国語大学の赤野一郎先生、登壇者の先生方と発表題目は下記の通り
である。

1.「コーパスの(消極的)利用:語法・文法・構文研究のために」
 滝沢直宏(立命館大学)
2.「理論に求める切り口」
 深谷輝彦(椙山女学園大学)
3.「コーパスシステム構築から見える英語学研究と英語教育」
 岡田毅(東北大学)
4.「英語史研究とコーパス利用」
 家入葉子(京都大学)
5.「私のコーパス利用:研究・創作・趣味」
 投野由紀夫(東京外国語大学)
6.「シノニム・語法研究と辞書編集のためのコーパス活用」
 井上永幸(広島大学)
7.「マイニングとテクスト分析」
 田畑智司(大阪大学)
8.「3つの柱『テクストの読み、言語理論、コーパスの利用』」
 堀正広(熊本学園大学)

 上記の題目を一瞥するだけでも、コーパスが多種多様な英語研究の分野の利用に
供していることがわかるだろう。具体的には、統語論、意味論、文体論、英語史、
認知言語学、応用言語学、第二言語習得論の研究分野などが挙げられる。また、研
究分野のみならず、英語教材作成、辞書編纂など、私たちの言語学習に直接かかわ
るところまで、コーパスの利用は広まっている。なお、発表ハンドアウトは以下の
ウェブサイトよりダウンロード可能であるので、そちらを参照いただきたい。
http://english.chs.nihon-u.ac.jp/jaecs/WhatsNew/symposium2013.html

 質疑応答時に、筆者の心に深く残ったのは「コーパス言語学の『言語学』がとれ
る時がいつか来るだろう」という未来予想であった。コーパス言語学は「理論」な
のか「技術」なのか、これはよくなされる議論のひとつである。どちらであれ、
「コーパス言語学」の「言語学」がなくなる時、つまりこのシンポジウムのように
一部の各分野の専門家が集まって「『私の』コーパス利用」としてコーパスが「有
標」のように紹介されるのではなく、上記の各分野で当然のようにコーパスが使用
される時代が来れば、確かにひとつの集合体としての「言語学」は存在しなくなる
のかもしれない。

 ところで、本シンポジウムは、実は2012年9月29日(土)、30日(日)に開催され
た英語コーパス学会第38回大会(於大阪大学)の最終イベントとして予定されてい
たものであった(*1)。しかしながら、その両日ともに関西圏は台風の接近が予想
され、結局のところ2日目の午前の日程を終えたのちに、このシンポジウムのみを延
期せざるを得なかった。その半年ほど待って開催された本イベントの参加者はなん
と86名、会場は空席がなく立ち見が出るほどの盛況ぶりであった。昨年の大会2日目
の朝、執行部の先生方は非常に難しい判断を迫られたことと推察するが、結果とし
て、より多くのコーパス言語学に関心を寄せる聴衆を得ることができたといって間
違いないだろう。大会実行委員の皆様には感謝したい。今後もプロが示す「結果」
のみならず、「過程」も知り得る機会に恵まれれば幸いである。

(*1) http://english.chs.nihon-u.ac.jp/jaecs/Archive/CONF/CONF_Index.html

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◇イベントレポート(2)
「International Conference on Japan Game Studies 2013」
https://sites.google.com/a/ualberta.ca/japan-game-study-conference-2013/
 (尾鼻崇:中部大学)

 2013年5月24日から26日の3日間にわたって、京都の立命館大学でビデオゲームの
国際カンファレンス「International Conference on Japan Game Studies 2013」が
開催された。今回のカンファレンスは、「立命館大学ゲーム研究センター」(*1)
とカナダ・アルバータ大学とのゲーム研究に関わる学術交流の一環として行われて
いる。

 なお、アルバータ大学側で運営の中心を担ったのはデジタル・ヒューマニティー
ズの重鎮でもあるジェフリー・ロックウェル教授である。その成り立ちは日本のデ
ジタル・ヒューマニティーズの拠点の一つである「立命館大学アート・リサーチセ
ンター」がかつて氏を招聘したことに端を発している。ここからもビデオゲーム研
究と人文情報学の本質的な親密性がうかがえるだろう。

 立命館大学は、2011年に日本初のビデオゲーム研究機関である「立命館大学ゲー
ム研究センター」を設立し、2012年には文化庁が主導するメディア芸術デジタルア
ーカイブ事業にも採択されている。同機関が主催する本カンファレンスは、日本に
おける国際的ゲーム研究拠点への第一歩として捉えることができる。ビデオゲーム
研究(ゲーム・スタディーズ)は国外において活発な動きをみせているが、我が国
は国際的に立ち遅れている感が否めない。その意味で、日本の研究機関の主催によ
る大規模なビデオゲーム専門の国際会議が開かれるのは貴重な機会といえる。

 さて、今回のカンファレンスの概要は次のとおりである。カンファレンスは、元・
任天堂株式会社開発第二部長で現在は立命館大学客員教授を務める上村雅之氏の
基調講演で幕をあけ、次に『ゼビウス』(1982)の製作者であり、宮城大学客員教
授の遠藤雅伸氏の招待講演が行われた。ここではビデオゲーム製作の最前線から大
学へと席を移し後進の育成に勤しむ両氏から、ゲームクリエイターとしての経験に
基づく今日のゲーム研究(およびその周辺)に対する提言がなされた。

 その後、「シリアスゲームと社会」、「ゲームデザイン」、「アジアのゲームと
産業」、「教育とシリアスゲーム」、「アーケードとゲーム保存」、「ゲーム開発
&ローカリゼーション」、「日本のゲームカルチャー」といったテーマのセッショ
ンが三日間にわたって行われ、国内外の人文社系ビデオゲーム研究者が一堂に会す
る形となった。

 この中でデジタル・ヒューマニティーズにとりわけ関連する報告としては、やは
り「ゲーム保存」の問題があるだろう。今回の報告では、「ビデオゲームをどのよ
うに保存するか」という問題に対して、ソフトウェアの動作環境をいかに後世に残
すかという点に着目しつつ検討がなされていた。その一つの手段として、立命館大
学では任天堂株式会社と共同で「ファミリーコンピュータ」の「公式エミュレータ
ー」を製作し、運用が始められているという。次に、問題意識は、ハードウェアの
相違による「ゲーム体験」の変化にまで及ぶ。「ファミリーコンピュータ」、「ニ
ューファミコン」、「Wii」のバーチャルコンソール、前出の「公式エミュレーター」
の各々で同タイトルのビデオゲームをプレイし、その経験の相違をテストプレイヤ
ーへのアンケート調査によって解析するという試みが報告された。これは、エミュ
レーターがどこまで「ゲーム体験」という得体のしれないモノを「エミュレート」
できるかを探るという研究であり、ゲームアーカイブの範疇がハードウェアやソフ
トウェアそのものの保存のみならず、ビデオゲームをとりまく様々な現象を指し示
している点で興味深い。

 今回のカンファレンスの特徴は、日英同時通訳によって開催された点であろう。
日本のビデオゲーム研究の「遅れ」の要因(すなわち海外との相違)は、国際的な
研究拠点が不在であることと、産学連携型研究基盤の未整備にある点にあると思わ
れる。これはビデオゲーム産業があまりにも急速に国際化を成し遂げたため、国際
的展開を成立させるための基盤構築が追い付いていないことに起因する。これらの
諸要因の根源には言語の問題がある。そのため、我が国では常識といっても過言で
もないようなビデオゲーム黎明期の諸相が、海外にはほとんど紹介されていないの
が現状である。それは近年、海外から多くのビデオゲーム研究者が調査のために日
本へと渡ってきていることが証左している(ロックウェル氏もまたその一人である)
。ビデオゲームは国際的な産業であり、海外の市場なくしては成立しえない。同様
に、ビデオゲーム研究もまた国際的な展開をみせるべきであり、今後は多言語での
研究成果の公開が必須といえるだろう。

 ビデオゲーム研究は(国内外を問わず)極めて多様な領域の研究者からのアプロ
ーチによって形成されている。しかし、今回の一連の報告を鑑みても、実際のとこ
ろ研究の基盤となるべきディシプリンが不在であることは事実である。高度情報化
が進むビデオゲームのメディア的性質や製作工程を鑑みると、ビデオゲーム学の樹
立には情報人文学の存在が重要な位置を占めることになるだろう。

(*1) http://www.rcgs.jp/

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◇イベントレポート(3)
「Around the World Symposium on Technology and Culture
-An All-Day Digital Humanities Live-Streamed Event!」
http://aroundtheworld.ualberta.ca/
 (永崎研宣:人文情報学研究所)

 5月30日、カナダにおいてデジタル・ヒューマニティーズ分野を牽引する
Geoffrey Rockwell教授を中心に、技術と文化に関する世界一周シンポジウムが開催
された。LifeSize社の遠隔テレビ会議システムClearSeaを用いて行われたシンポジ
ウムは、アルバータ大学のKule Institute for Advanced Study(KIAS)(*1)にて
司会を行うRockwell教授と以下の発表会場を順次結んでいくとともに、その様子が
聴衆にも公開ストリーミングで自由に閲覧できるという形で展開された。

1.ヴァージニア大学(米国)
2.トリニティカレッジ・ダブリン(アイルランド)
3.エスピリトサント国立大学(ブラジル)
4.アルバータ大学(カナダ)
5.ヴァージニア大学(米国)
6.テキサス A&M大学(米国)
7.レスブリッジ大学(カナダ)
8.ヨーク大学(カナダ)
9.東京大学(日本)
10.西シドニー大学(豪州)

 シンポジウムは北米山岳部標準時夏時間(UTC-6:00)で6時にRockwell教授の司会
によって開始され、ヴァージニア大学スカラーズラボのDavid McClureによる
Neatline 2.0開発に関する報告が最初の発表となった。会場はその後アイルランド
のトリニティカレッジ・ダブリンに移り、Susan Schreibmanの司会により、アイル
ランドにおけるデジタル・ヒューマニティーズへの取り組みに関する発表が行われ
た。

 その後、順次会場を移していき、日本時間の朝10時には、東京大学のグループに
よる発表となった。ここではチャールズ・ミュラー教授の司会により、苫米地等流、
筆者、ミュラー教授がそれぞれに仏教学とデジタル・ヒューマニティーズに関する
発表を行った。そして、最後は朝の西シドニー大学に会場を移し、客員教授として
滞在中のHarold Short教授らが登場し、シンポジウムは幕を閉じた。プログラムの
詳細については http://aroundtheworld.ualberta.ca/?page_id=22 を参照されたい。
なお、シンポジウムにおける議論は主にTwitterを通じて行われることでストリーミ
ングシステムの不足を補う形となった。

 さて、筆者の個人的な感想を少し述べさせていただくと、飛行機に乗ることもな
く世界中の著名な研究者や新進気鋭の研究者達とシンポジウムを開催できたという
ことは、これまでの筆者の国際シンポジウム参加・運営の経験からしても大変感動
的な事態であったことをまずは記しておきたい。

 もちろん、シンポジウムとして十全なものであったとは決して言えず、まず、ア
ルバータ大学の時間で朝から夜まで開催されるという形であったため、日本では夜
から朝が開催時間になってしまった。日常的な職場で開催されることになったため
に通常業務からうまく離れることができず、シンポジウム全体にきちんと参加する
ことはできなかった。また、準備のためにテレビ会議システムのテストが必要であ
ったり、システムがたまに少しうまく動作しない時や、あるいはスライドが見づら
い時もある等、技術(環境)的制約から来る困難もあった。

 システムの制約上、直接の質疑応答が難しいことや休憩時間に細かなことを個人
的に、あるいは少人数で議論するといった国際シンポジウムの醍醐味が十分に味わ
えないという点もあったが、これは上述のようにTwitterなどである程度は解消され
ていたようである。

 とはいえ、これまでは、このように研究者が一堂に会して発表を行う機会を作る
ためには、数日をつぶし、かつてよりはずいぶん安価になったとはいえ決して安い
とは言えない旅費を工面して(そしてそのための膨大な申請書類を書いて)いたも
のが、広く普及している一般的な技術と機器を活用することである程度までは行え
てしまうということに、新しく大きな可能性を見た日であった。もちろん、ストリ
ーミングを通じて世界中の誰もが発表を視聴することができ、ハッシュタグを用い
てTwitterでコメントを行い、議論に参加することもできるのである。そして当然そ
の際にも旅費も参加費も不要なのである。

 色々な問題点も見えたものの、少なくともデジタル・ヒューマニティーズ分野で
は初の試みであり、世界的にみても人文学系としては比較的珍しい事例であると思
われるため、今後、試行錯誤を経ていくことで、さらなる技術的進歩とあいまって、
近い将来、このような形の国際シンポジウムも選択肢の一つとなっていくことだろ
うと感じた一日であった。

(*1) http://www.kias.ualberta.ca/

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◇イベントレポート(4)
「アート・ドキュメンテーション学会2013年度年次大会・研究発表会」
http://www.jads.org/news/2013/20130601.html
 (金子貴昭:立命館大学衣笠総合研究機構)

 2013年6月1日(土)から2日(日)にかけて、アート・ドキュメンテーション学会
(以下、JADS)2013年度年次大会・研究発表会が開催された。

 1日目はシンポジウム「近現代日本工芸・デザイン史のドキュメンテーション」が
金沢21世紀美術館で行われた。「工芸・デザインのためのドキュメンテーションが
あるならば、その際だった特性とは何か」をテーマとする魅力的な企画だったが、
残念ながら報告者は参加できなかったため、以下にプログラムのみ掲載する。

○基調報告 ドキュメンテーションの生成を考える-近代日本の工芸、デザイン資料
データベース化を踏まえて
 森仁史(金沢美術工芸大学)

○実践報告 日本近代工芸、デザイン史データベース「工図林」における技術的配慮
 デザインにおける配慮事項と今後の課題
 木村裕文、大方北鴻(ラティオインターナショナル)

○事例報告
(1)京都工芸繊維大学における工芸・デザイン史のドキュメンテーション
  並木誠士(京都工芸繊維大学)
(2)アート・ドキュメンテーションの考え方:科研協力資料-金沢21世紀美術館<
粟津潔コレクション>を中心に
  北出智恵子、石黒礼子(金沢21世紀美術館)・不動美里(元・金沢21世紀美術
  館学芸課長)
(3)金沢工業大学ポピュラー・ミュージック・コレクション(Popular Music
Collection : PMC)のドキュメンテーション
  竺覚暁(金沢工業大学)

○討論

 2日目は会場を金沢美術工芸大学に移し、公募研究発表会が行われた。発表は以下
の6本である。透視図法を利用したフロアの俯瞰図と、利用者視点の空間立体図で構
成される「燕瞰図」の分析からフロアマップを検討した(2)、芸術祭の活動を集積
したアーカイブの利活用を報告した(4)、陶画工のアーカイブ資料を美術史研究に
活用した(6)など、バラエティに富むラインナップであるが、本レポートでは(1)
、(3)、(5)の3本を中心に報告したい。

(1)水野治三郎画・教育掛図とその情報公開について
  上田啓未(金沢大学資料館)、堀井洋、堀井美里(合同会社AMANE)、古畑徹
  (金沢大学資料館)
(2)フロアマップに示された掲出情報の抽出とその構成-東京工業大学博物館「燕
瞰図」の分析-
  阿児雄之、遠藤康一(東京工業大学博物館)
(3)デジタル技術による平等院鳳凰堂内部装飾の復元と利活用
  神居文彰(平等院)、小野博(コンテンツ株式会社)、荒木恵信(金沢美術工
  芸大学)
(4)大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレにおけるアーカイヴの取り組み
-現状と課題
  芝山祐美(NPO法人越後妻有里山協働機構)
(5)学術資源リポジトリによる地域学術資料の蓄積・公開の試み
  堀井洋(合同会社AMANE)、上田啓未(金沢大学資料館)、林正治(一橋大学情
  報基盤センター)、堀井美里(合同会社AMANE)、高田良宏(金沢大学総合メデ
  ィア基盤センター)、古畑徹(金沢大学資料館)
(6)小松市立博物館寄託「松雲堂資料」の美術史からの考察とその活用について
  田邉陽子(あいちトリエンナーレ実行委員会事務局)

 (5)は、文献資料に比べて構築・普及が遅れている非文献資料(博物資料)のリ
ポジトリ構築に取り組み、学術資料全般を対象とする横断的なリポジトリ構築の実
践と問題点を報告したものである。この活動は、2011年に結成された学術資源リポ
ジトリ協議会を中心に行われている。協議会では、参加団体がすでにリポジトリを
運営している場合は外部から横断検索を、運営していない場合は協議会が運営する
共有リポジトリを提供しているとのことだった。本発表では、リポジトリに登録さ
れた科学実験機器資料を素材として、一組の機器が複数機関に分散して所蔵されて
いる現状について説明がなされた。横断的なリポジトリ上では、それらの仮想コレ
クションを形成して一元的に取り扱うことができること、さらに、研究成果を反映
させた上で、自由な学術コレクションを形成できるという意義が述べられた。

 (1)は、(5)と連関をなし、金沢大学資料館バーチャルミュージアムプロジェ
クトの中で、とりわけ学術資源リポジトリ協議会が取り組んでいる教育掛図プロジ
ェクトについて報告したものである。水野治三郎画の教育掛図を例に、複数の所蔵
機関(または公開機関)にわたる資料の拡がりが報告され、今後の連携についての
展望が示された。

 両発表ともに、所蔵機関ごとのメタデータ規格の違いや、あるべきメタデータ構
成が文献と非文献の間で一致しないなど、メタデータレベルの課題が指摘されたよ
うに、小さくない障壁がまだまだ存在するようであるが、それにしても、リポジト
リのポータル構築に期待を大きくふくらませるものであった。

 (3)は、肉眼ではすでにその実態を観ることができない国宝平等院鳳凰堂内の
「日想観」図の復元をテーマとした発表である。復元にあたり、現状を記録した上
で、偏光カラー画像・赤外線画像・蛍光画像・蛍光X線分析により、目視では窺えな
い情報を記録し、斜光を利用した立体感まで再現した上で、復元模写を作成したと
のことである。この分析・復元により、風景の写生地・用いられていた染料・描か
れていた物語のモチーフなどが判明し、文化財の姿からその内容に至るまで、多く
の発見が報告された。「日想観」図の現状は、超高精細画像で記録されており、各
分析によって得られた情報をレイヤーで重ね、原図と分析情報、復元図までをシー
ムレスに、かつOSに準拠せずに閲覧可能な興味深いデジタルコンテンツのデモンス
トレーションも行われた。

 それぞれ分析技術や活用事例はすでに多くの例があると思われるが、本報告では、
原図・数種の分析・復元、オリジナルと複製、アナログとデジタルの見事な連携が
余すところなく報告され、文化財の分析・復元とそのデジタルコンテンツ化の、現
在の到達点が示されているようで圧倒された。また、「日想観」図以外の文化財へ
の応用も期待せずにはいられなかった。

 JADSでは、年次大会の他、秋季研究発表会も開催されており、例年多彩な発表を
聞くことができる。2013年度の秋季研究発表会は、11月17日(日)に跡見学園女子
大学文京キャンパスで行われる。発表申込はすでに始まっているが(7月26日〆切)、
プログラム詳細は決まり次第、JADSのウェブサイト( http://www.jads.org/ )に
掲載されるので、ご興味の方はチェックされたい。

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◇イベントレポート(5)
「対談:デジタル環境下の図書館、デジタル・ヒューマニティーズと日本文化研究」
http://www.arc.ritsumei.ac.jp/lib/GCOE/info/2013/06/post-95.html
 (江上敏哲:国際日本文化研究センター)

 2013年6月11日、立命館大学文学研究科が主催する講演会「対談:デジタル環境下
の図書館、デジタル・ヒューマニティーズと日本文化研究」が、同大学アートリサ
ーチセンターにて行なわれた。この講演は、2014年4月同研究科に新設される予定の
「文化情報学専修」を記念して開催される、連続講演会企画の第1回目である。当日
は前後45分ずつに分けられ、第1部でデジタル環境下の図書館と日本文化研究が、第
2部でデジタル・ヒューマニティーズと日本文化研究が、それぞれテーマとして話し
合われた。なお、当日の模様はUstreamで中継されたが、アーカイブの公開はされて
いないようである。

 第1部、デジタル環境下の図書館と日本文化研究についての対談は、同大学教授・
湯浅俊彦氏とハーバード大学イェンチン図書館司書・マクヴェイ山田久仁子氏によ
って行なわれた。イェンチン図書館は米国内でも最大級の東アジア研究専門図書館
である。山田氏は同館で日本語書籍コレクションの司書として勤めるほか、北米の
日本専門司書の集まりである北米日本研究資料調整協議会(NCC)の現議長も務めて
いる。

 この対談で主に問題とされたのは、電子書籍や電子ジャーナル・データベース等
のe-resourceの整備が日本では大幅に遅れ、不足しているという点だった。冒頭で、
2012年11月、第14回図書館総合展でのフォーラム「デジタル環境下における出版ビ
ジネスと図書館」の様子を映したUstreamアーカイブの一部が上映された(
http://www.ustream.tv/recorded/27215382 )。流されたのは当日参加していた山
田氏がフロアから質問しているシーンで、ビジネス目線からの議論に偏ったパネリ
ストに対し、「アメリカの日本研究者が日本語の図書を参照したくても、インフラ
として電子書籍化されておらず、生産性があがらない。なぜ整備されないのか」と
いうユーザー側からの訴えが述べられていた。この議論をベースに、当日の対談が
展開していくかたちとなった。

 海外で日本について研究する研究者・学生にとって、オンラインでアクセス可能
な資料は不可欠なはずである。しかし現在日本のe-resourceは欧米・中韓等に比べ
て圧倒的に不足している。ハーバードではProquestやEBSCOなどのe-resourceを一括
購入・提供している。例えば講義で必読の文献であればコースウェアのサイトから
これも各e-resourceへのリンクがあり、オンラインですぐに読むことができる。し
かし日本語書籍については冊子を求めるしかなく、オンラインでのアクセスに高い
期待を持ったユーザーはがっかりすることになる。これでは研究が進まない、日本
の資料・情報をもっとオンライン・デジタルで発信してほしい、ということが訴え
られた。

 もちろん、JapanKnowledgeやCiNiiからのオープンアクセス文献へのリンクなどの
ように、海外でも日本でも広く使われ好評を得ているものもある。また、日本語の
電子書籍の提供を始めているサービスもいくつかある。しかし問題はタイトル数の
少なさである。日本側の湯浅氏からも、タイトルが少なく講義・研究に必要な書籍
が含まれていないという問題が指摘され、その解決につながるような仕組みや試み
についても紹介された。またフロアからは、視覚障害者を支援するという視点から、
日本の電子書籍の多くがテキストデータを伴っておらず読み上げ機能での利用に難
がある、というコメントがあった。

 対談全体を通して感じられたのは、図書館を含む日本のユーザーがもっと要望の
声を大きく上げるべきだろう、ということであった。これは対談中でも指摘されて
いたことである。山田氏からは「日本のベンダー・出版者には、まずは日本のユー
ザーに使いやすいe-resourceの仕組み作りに専念してほしい」とのコメントがあっ
た。また冒頭の動画でもユーザーとしての疑問をパネリストに投げかけたのは山田
氏であった。しかしこれらの意見は、アメリカのライブラリアンの口から言わせる
よりも先に、本来当事者であるはずの日本のユーザーや図書館員が積極的に発言し
ていくべきことではないか。

 第2部のデジタル・ヒューマニティーズと日本文化研究についての対談は、同大学
教授・赤間亮氏、鈴木桂子氏、及び引き続き山田氏によって行なわれた。大学や図
書館が所蔵する文化資源のデジタル化については、立命館大学のアートリサーチセ
ンターでもまたハーバード大学でも積極的に活動している。

 山田氏からはハーバード大学イェンチン図書館が持つ日本仏教関係の古典籍等に
ついて紹介とデモンストレーションが行なわれた。デジタル化された日本の掛軸は
約400本にのぼる。一方で同館内の中国語漢籍については、中国国家図書館とハーバ
ードとの協働プロジェクトとして約60,000冊のデジタル化が進行していたとのこと
である。アメリカではほかにもボストン美術館、フリーア美術館(ワシントンDC)
をはじめ多くの美術館に日本の江戸絵本類が所蔵されている。アートリサーチセン
ターによる海外所蔵の江戸絵本類のデジタル化についても言及があった。

 また鈴木氏からは、ハーバード大学図書館のOPAC(蔵書検索用データベース)で
あるHOLLISを日本からもよく使っている、という話があった。HOLLISでは例えば
「kimono」というキーワードで検索すると、図書に限らずデジタル化・公開されて
いる古写真も同様にヒットし、その検索一覧画面で着物姿が映ったたくさんのサム
ネイル画像を一覧できる。資料のデジタルアーカイブ化においては、画像データの
技術的要件その他だけでなく、こういった見つかりやすさ・探しやすさのための仕
組みの提供についても充分に整備されるべきであろう。またハーバード大学では図
書館内に撮影・複製を行なう部署があり、専任のカメラマンが常駐している。

 また、ハーバード大学に近いMITでジョン・ダワー教授らによって行なわれている
「MIT Visualizing Cultures」というコースについても紹介された。これは、日本
その他のビジュアルな歴史的資料をデジタル化し、それを歴史学の研究・教育に活
用するというものである。単にデジタル化・アーカイブ化して終わるのではなく、
新しい価値を生み出すこと。人文系の学問において蓄積されてきた“知”を、デジ
タル化して外部に出すことで、複数の広い範囲の研究分野で活用され次の生産につ
ながるようにすること。そのような“知の循環”を起こす人材を育成していくのが、
新設される文化情報学専修である、とのことであった。

 連続講演会の第2回目(*1)は「日本古典籍デジタル化と活用:その行方をめぐっ
て」と題し、2013年6月28日に行なわれる。早稲田大学図書館特別資料室の藤原秀之
氏、ベルリン国立図書館東アジア部日本担当司書のクリスティアン・デュンケル氏
による講演・対談が予定されている。

(*1) http://www.arc.ritsumei.ac.jp/lib/GCOE/info/2013/06/post-97.html

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◇イベントレポート(6)
「日本語学会2013年度春季大会」
http://www.jpling.gr.jp/taikai/2013a/2013a_program.html
 (須永哲矢:昭和女子大学)

 2013年6月1日、2日に、大阪大学豊中キャンパスにて「日本語学会2013年度春季大
会」が開催された。初日のシンポジウム・ワークショップに続き、2日目の発表件数
は口頭発表3会場17件、ブース発表4会場8件の総計25件であった。当大会はその名の
通り、日本語学関連の様々な研究発表がなされる場であり、発表内容は人文情報学
に限るものではない。むしろ人文情報学とは縁遠い「昔ながらの人文系」の参加者
が多数を占めるような大会である。そのような場でも、次のような2件のブース発表
があり、ともに一般参加者からも注目を集めていた。

(1)雑誌『国語学』全文データベースの運用と改良
  高田智和(国立国語研究所)・堤智昭・小木曽智信
(2)「日本語歴史コーパス 平安時代編」先行公開版デモンストレーション
  小木曽智信(国立国語研究所)・中村壮範・須永哲矢・冨士池優美・田中牧郎・
  近藤泰弘

 (1)では日本語学会の機関紙『国語学』第1輯から219号(1948~2004)の収録記
事を電子テキスト化し、文字列検索を可能にしたテキストデータベースが紹介され
た。雑誌『国語学』全文データベースの取り組みは、言語系諸学会の中でも着手時
期が早く(90年代後半)、また、1948年の創刊時点まで、過去にさかのぼって機関
誌の電子化を実現したことは特筆に値するといえる。

 雑誌『国語学』全文データベースは、2011年3月から国立国語研究所サイト(*1)
で一般公開されており、会場では簡易検索、詳細検索、各号目次検索といった3種の
検索方法が紹介され、公開後、現在までの改修状況なども報告された。運用状況と
しては1日平均アクセス数が30件ほどで、まだ決して多いとは言えない状況ではある
が、中国・韓国をはじめ欧米諸国からのアクセスも確認されており、その点だけで
も十分意義深いものに思えた。

 また、雑誌『国語学』全文データベースの主たる利用者となりうる日本語研究者
の中には、データベースの利用自体にあまり慣れていない研究者も多いため、本学
会でこのデータベースが利用方法込みで詳しく紹介されたことは、今後の利用拡大
のためにも、絶好の機会であったと思われる。

 (2)では国立国語研究所「通時コーパスの設計」プロジェクトで構築が構想され
ている「日本語歴史コーパス」の一部として、平安仮名文学10作品が、インターネ
ット上(*2)で利用可能な形で先行公開されたことが発表され、実際の利用法など
のデモが行われた。コーパスの利用は日本語学においても一般化しつつあるが、そ
の多くは現代語中心のものであり、今回のように高度にアノテーションを施され、
語数の面でも79万語という規模の古典作品のコーパス化というのは画期的なことと
言える。

 「日本語歴史コーパス 平安時代編」は、小学館『新編日本古典文学全集』版の
古典作品を電子化、形態素解析を施したうえで人手修正を行い、全ての語に正しく
形態論情報が付与されており、この情報を利用することで複数の共起語の検索など、
従来の索引では不可能であった様々な検索が容易に可能となる。

 当デモンストレーションに寄せられる関心は特に高く、参加者の多さを予測して1
ブース貸し切り状態で行われたが、それでも参加者が入りきれず、時間ごとに入れ
替え制になるほどの盛況であった。実際、複雑な条件での検索から集計までが瞬時
に実現されるデモンストレーションは反響が大きく、会場では限られた時間の中で
様々な質問や利用者視点での要望が寄せられた。

 今大会で「雑誌『国語学』全文データベース」と「日本語歴史コーパス」の2つが
紹介されたことは、この種の資源に親しくない潜在的利用者がその存在と利用法を
知る機会となり、かつ、そのような層の利用者が抱く疑問や要望が制作者側に届け
られた点で、利用拡大・さらなる改良にとって意義深かったと言えよう。

(*1) http://www.ninjal.ac.jp/database/SJL/
(*2) http://www.ninjal.ac.jp/corpus_center/chj/

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 配信の解除・送信先の変更は、
    http://www.mag2.com/m/0001316391.html
                        からどうぞ。

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◆編集後記(編集室:ふじたまさえ)
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 お気づきの方も多いかもしれませんが、今号から発行日を1週間ほど繰り上げるこ
ととしました。ご寄稿者の皆さまには、お忙しいなかにもかかわらずスケジュール
の変更に合わせてご執筆いただきありがとうございました。

 今号の巻頭言では「境界領域」とは何か、また一見研究には直接関係がなさそう
にみえる研究者同士のコミュニケーションが新しい領域の開拓につながっていくこ
となどをご紹介いただきました。一つのことを極めていくことだけに執着せずに、
既存の価値を融合させて新しいことに取り組むという姿勢がこの分野の研究者の原
動力であることがよくわかりました。

 後編のイベントレポートでは特に、江上氏のレポートで触れられていた、日本の
e-resourceの不足についての問題提起が印象的でした。前号に引き続きレポートさ
れているゲーム研究の国際化にも通じる話だと思いますが、日本語文献の電子化は
国際化以前の重要な問題といえます。それぞれの分野をつなぐ総合的な立ち位置に
ある人文情報学が担う役割のひとつがここにあるのではないかと、研究者という立
場ではない私でも感じています。

◆人文情報学月報編集室では、国内外を問わず各分野からの情報提供をお待ちして
います。
情報提供は人文情報学編集グループまで...
       DigitalHumanitiesMonthly[&]googlegroups.com
                  [&]を@に置き換えてください。

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人文情報学月報 [DHM0023]【後編】 2013年06月23日(月刊)
【発行者】"人文情報学月報"編集室
【編集者】人文情報学研究所&ACADEMIC RESOURCE GUIDE(ARG)
【E-mail】DigitalHumanitiesMonthly[&]googlegroups.com
                 [&]を@に置き換えてください。
【サイト】 http://www.dhii.jp/

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