ISSN 2189-1621

 

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DHM 042 【後編】

2011-08-27創刊                       ISSN 2189-1621

人文情報学月報
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄Digital Humanities Monthly

             2015-01-28発行 No.042 第42号【後編】 544部発行

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 ◇ 目次 ◇
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【前編】
◇《巻頭言》「分類と階層化」
 (松森智彦:同志社大学 高等研究教育機構・文化情報学部 特別任用助教)

◇《連載》「Digital Humanities/Digital Historyの動向
      ~2014年12月中旬から2015年1月中旬まで~」
 (菊池信彦:国立国会図書館関西館)

【後編】
◇《特集》「デジタル学術資料の現況から」第10回
CADAL(China Academic Digital Associative Library)利用レポート
 (王一凡:東京大学大学院人文社会系研究科修士課程)

◇人文情報学イベントカレンダー

◇イベントレポート
国際シンポジウム「デジタル文化資源の情報基盤を目指して:Europeanaと国立国会
図書館サーチ」
 (永崎研宣:人文情報学研究所)

◇編集後記

◇奥付

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【人文情報学/Digital Humanitiesに関する様々な話題をお届けします。】
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◇《特集》「デジタル学術資料の現況から」第10回
CADAL(China Academic Digital Associative Library)利用レポート
 (王一凡:東京大学大学院人文社会系研究科修士課程)

 CADALとは、中国国内の大学図書館が中心となって整備している共同デジタル化ラ
イブラリーのことで、各図書館の蔵書をデジタル化し、オンライン上で共有するこ
とを目的としています。2014年2月現在、270万冊以上の書籍・雑誌が収録されてい
ます( http://www.cadal.cn/zydt/index1402.htm による)。

CADALライブラリーポータルページ(CADAL数字図書館)
http://www.cadal.zju.edu.cn/index
プロジェクトトップページ
http://www.cadal.cn/

 このプロジェクトについては、日本語での紹介記事が2014年4月に国立国会図書館
ウェブサイトに掲載されており、日本国内の機関からもすでに活発に利用され始め
ていることが述べられています。

中国の資料デジタル化プロジェクト・CADALの利用と参加について
https://rnavi.ndl.go.jp/asia/entry/bulletin12-1-1.php

 登録から閲覧までの手順は上記記事(以下「NDL記事」と呼ぶ)で詳述されていま
すので、本レポートでは主に実際の利用にあたっての解説・考察・留意点などに焦
点を当ててお伝えしていきます。メールマガジンでは図表の使用ができないため、
画面イメージの詳細についてはNDL記事と対照しながら読み進めていただければと思
います。なお、本記事の内容は2015年1月現在の情報に基づきます。

1.コンテンツ
2.インターフェイス
3.検索
4.閲覧画面
5.メタデータ
6.ユーザー機能
7.日本からの参加について

1.コンテンツ

 NDL記事でも述べられている通り、全資料の閲覧は参加機関のIPアドレス内からの
アクセスのみに制限されています。現在日本には参加機関がなく、筆者個人も参加
機関には所属していないため、制限付き資料の貸出機能には触れず、一般ユーザー
資格で閲覧可能な部分に絞ってご紹介します。

 参加機関を通さない一般ユーザー資格で閲覧可能な部分は古典籍(23万冊余り)
全体と、外国語資料(76万冊余り)の一部のみです。外国語資料は一部と書きまし
たが、少なくとも英文の書籍については閲覧可能な点数は相当に多く、2000年以降
に出版された書籍も閲覧可能になっていることがあります。外形からは提供元機関
などの情報は得られませんが、閲覧可能な本文の蔵書印などから推察するに、少な
くとも中国・米国・インドから提供されていることが確認できます。確認可能な限
りでは著作権の保護期間との相関は薄く、閲覧の可否は提供元の裁量によっている
と思われます。

 古典籍以外の中国語資料については一律にブロックされている様子で、例えば民
国初期の地方誌や行政資料、魯迅などの作品は著作権が適用されるとしても明らか
に保護期間が満了していると考えられる(現在の中国でも創作後50年)にもかかわ
らず、一般ユーザーからはアクセスできません。それでも、古典籍の収録点数につ
いては膨大なものがあり、四庫全書をはじめとする各種刊本の原本をオンライン上
から閲覧できるメリットは大きいと言えるでしょう。特に、大部の全書・叢書類は
紙媒体での所蔵や図書館へのアクセスが負担となるため、オンラインで原典を参照
できることは多大な利便性をもたらします。

 なお「古典籍」の定義ですが、概ね影印本とみなされるものは一般ユーザーでも
アクセス可能なのに対し、校訂や編集が加えられているものはアクセスが拒否され
るようです。写本(抄本)の影印本の場合は原典が古くても、例えば『紅楼夢稿』
や敦煌文書の図版本がアクセスできないという微妙なケースもあります。人文情報
学研究所の永崎研宣氏によれば、収録されている大蔵経資料のうち卍蔵経・卍続蔵
経・頻伽精舍校刊大藏經・中華大藏經・高麗蔵の単冊本・大正新修大藏經(一部)
が一般アクセス可能で、頻伽精舍校刊大藏經(別版)・宋碛砂藏经(磧砂蔵)
が閲覧制限ありとのことでした。筆者が確認したところ、頻伽精舍本のうち
片方(出版者が「頻伽精舍」)は民国期図書扱いであり、もう片方(出版者が「大
綸頻伽精舍」)は古典籍扱いとなっていました。また、卍続蔵経では1994年出版の
もの(出版者が「新文豐出版公司」)が古典籍の影印とされているのに対し、戦前
出版されたもの(出版者が「上海涵芬樓」)は民国期図書として閲覧ができない状
態でした。このように全体として判断が一貫しているとは限らないことに留意して
おく必要があります。

 閲覧不可の画面を開こうとした場合、「500」エラー用のページにジャンプします。
これは単純なエラーページと区別が付きませんが、資料を開こうとして500エラーが
表示された場合、十中八九は閲覧不可であることを示しています。

2.インターフェイス

 表示言語には中国語(簡体字)と英語が選択できます。NDL記事の図1などに見ら
れるように、ページ上部の青く表示されているヘッダーの右端から言語設定を切り
替えることができます。個別に紹介しますが、現時点では中国語画面と英語画面で
は表示が完全に同じわけではなく、中国語画面の方がやや良く整備されていると言
えます。

 ヘッダー左側からは主に他コンテンツ(主題別データベースなど)にアクセスで
きますが、本稿の範囲を越えるので省略します。ヘルプ(帮助/Help)と
問い合わせ画面(客服/Customer Service)へのリンクもこちらにあります。

 ヘッダー右側からは、ログインしている場合、ユーザー個人のタグ(标签/Tag)
・コメント(评注/Comment)・メッセージ(消息/Message)・
おすすめ(推荐/Recommend)ページに直接ジャンプすることができます(ユーザー
機能の項を参照)。

 言語設定はグローバルに設定されているため、複数のタブで閲覧している場合、
特定のタブで変更すると次からすべてのタブで表示が切り替わります。また、切り
替えると現在見ているページにかかわらずトップページに戻されてしまいます。そ
の他、一部リンクミスが見られるなど、ユーザビリティの観点からはまだ改善の余
地があると言えます。

3.検索

 検索語を指定して検索画面を表示すると、上から検索語、絞り込み条件、結果の
順に表示されます。検索語はデフォルトではタイトル・作者名・キーワードから検
索されますが、タイトルや作者名のみを指定することが可能です。絞り込み条件は
上からジャンル(类型/Type)・タグ(标签/Tag)・出版社(Press)を指定でき、
ジャンルはいずれか一つ、タグと出版社は複数同時に選択可能です。現在選択中の
条件は「您已选择了/You Choose」の行に表示されますが、ブラウザの戻
るボタンなどで前の画面に遡って再操作すると、意図せぬ絞り込みの重複が発生す
ることがあります。なお、タグ情報は絞り込みに使用されますが、タグで検索する
ことは現時点ではできないようです。

 とりあえず一般ユーザーにアクセスできる書籍を探す場合は、ジャンルに「古籍」
または「英文」を指定しておくのが良いでしょう。

 検索語は常に「OR条件」で扱われます。複数検索語を入力すると結果がむしろ増
加してしまうので、不便さを感じます。

 検索用のデータベースは、元の表記と「簡体字化」した表記データを持っている
とみられ、「历史」(簡体字)で検索すると簡体字・繁体字両方の検索結果が取得
できますが、「歷史」(繁体字)で検索すると繁体字のみの結果が得られます。日
本の新字体は変換データに含まれていないようで、「歴史」(新字体)で検索した
場合、日本語の資料(と誤字のある中国語資料)のみが得られます。繁体字→簡体
字の変換はわずかに一意に定まらないケースがあることが知られていますが、「着」
で検索すると「著」を含む資料がヒットするのを除いて特に対策はとられていない
ようです。

 タグやキーワードは、中国からの利用がメインのため、簡体字で入力されること
が多いようです。

4.閲覧画面

 閲覧可能な資料を開いた場合、電子書籍のビューアに似た閲覧画面が表示されま
す。上部に操作パネルがあり、言語設定が英語の状態で閲覧画面を開いた時は英語、
中国語の場合は中国語で説明がポップアップします。パネルボタンはNDL記事の図4
にある通りですが、一番右のボタンで詳細な機能説明が出ます。

 主要なものは一番左が「目次を表示」機能、左から2番目が「タグを追加」機能、
左から4番目が「コメント」機能、左から5~7番目が表示モードの切り替えです。

 「タグを追加」はユーザーの既存タグから、または新規タグを入力して資料をタ
グ付けすることができます。タグは資料とともにユーザーページ(後述)から確認
できます。タグは検索にも利用されると考えられますが、反映には時間がかかるよ
うです。タグの削除方法は現在のところ不明です。

 「コメント」はボタンを押すと入力モードに変わり、表示が固定されます。この
状態でページの一部をドラッグして範囲指定することでコメントの入力欄が開きま
す。入力されたコメントは指定範囲とともにユーザーページから確認できます。資
料中にコメントがある場合、画面右側にユーザーごとのアイコンが表示され、ユー
ザーごとのコメントの表示切り替えが行えます。

 表示モードは標準解像度での単ページ表示・見開き表示、高解像度での単ページ
表示が選択可能です。見開き表示にした場合はさらに古典モード(古)と現代文モ
ード(今)が切り替えられ、古典モードでは右開き表示になります。外国語資料の
一部で見開きモードにすると必ず表示バグが発生することを確認しましたが、原因
は不明で、これが発生する資料では画面を開き直さない限り単ページ表示に戻らな
くなってしまいます。

 本文画像の品質については、近代デジタルライブラリーなどと比べると劣り、ま
たページによってバラツキがある場合がありますが、現代外国語資料を見る限りで
は、十分な解像度・画質が確保されていると思われます。ただし古典籍については、
残念ながら本文が白黒(もしくは階調の低いグレースケールか)の文献が多く、か
すれた部分や細かい印刷の状態を確認することには不適ですが、内容を把握するた
めにはさほど支障がないと思われます。

5.メタデータ

 検索画面から各資料の詳細(详情/Detail)をクリックする、または閲
覧画面から書誌情報(图书信息/Book's information)をクリックするこ
とでメタデータと目次情報が表示されます。ここでメタデータの編集が可能ですが、
言語設定が英語の場合、編集ボタンが表示されません。編集を行う場合は、必ず中
国語設定で画面に進入する必要があります。

 中国語設定の場合、上からタイトル(书名)、作者、出版社、出版年
月日(出版日期)、キーワード(关键字)、説明文(描述)、その他情
報(其他)について「編集」(编辑)および「編集履歴」(编辑历史)
の閲覧が可能です。「編集」の場合その場で入力欄が開き、注意書きが
書かれていることがありますが、赤太字で書かれている部分が正しい形式を表して
います。

 メタデータは古典籍の場合情報が不足していたり、外国語資料の場合非常に乱れ
ている(日本語資料の仮名部分が誤っているなど)ことがあるため、各々のユーザ
ーが修正していくことで、今後の利用により有益になると思われます(次項も参照)。

 目次情報は各項目のアイコンをクリックすると資料の該当箇所にジャンプします
が、当然閲覧できない資料は表示されません。

6.ユーザー機能

 CADALでは各ユーザーごとにユーザーページが設けられています(NDL記事の図3)。
ここでは自分のつけたタグ・コメントの表示、設定の変更を行うことができます。
また、貸出ができる環境の場合ブックリストなども管理できるようです。

 ユーザーページには簡易なソーシャル機能が付いており、コメントなどを通じて
他ユーザーのページを訪問し、フォロー(关注/Follow)することができ
ます。

 注目すべきは、現在サイト上の表示(中国語画面のみ)で、資料のスキャン不良
の報告やメタデータの修正への協力を呼びかけており、ユーザーの実績次第では個
人の制限付き資料へのアクセス特典を認めるという告知がなされています。具体的
な目標は不明ですが、幸いと言うべきか現状では古典籍について修正箇所に事欠く
ことはないので、継続的に利用していく見込みのある方は、ぜひ積極的に参与して
みてはいかがでしょうか。

7.日本からの参加について

 現在日本の機関でCADALに参加している所はありませんが、NDL記事でも触れられ
ている通り、CADALは現代図書や学位論文なども豊富に収録しており、それらへのア
クセスが可能になることで真価を発揮できます。参加の際には原則として3000点以
上の資料を提供する必要がありますが、単館での参加に限らず、複数館が共同で資
料を提供・参加することが認められています。

 懸念事項としては、日本国内で著作権が残る資料を複製・提供する場合の権利処
理が不透明であることです。CADALの貸出システム(資料ごとに同時貸出数の制限を
設ける)はおそらく中国国内の著作権法に基づいて図書館としての外形を満たすた
めに設計されたものですが、同様の利用方法が日本の著作権法で認められるか、送
信可能化権などに抵触しないかどうか判断が難しい面があります。このような国際
的な共同事業の円滑化のためにも、デジタル化著作物の利用方法について適切な施
策がとられることを願っています。

Copyright(C)WANG YIFAN 2014- All Rights Reserved.
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◇人文情報学イベントカレンダー(□:新規掲載イベント)

【2015年01月】
■2015-01-31(Sat):
情報処理学会 人文科学とコンピュータ研究会
(於・大阪府/大阪国際大学 守口キャンパス)
http://jinmoncom.jp/

■2015-01-31(Sat):
第1回U-PARLシンポジウム
「むすび、ひらくアジア:アジア研究図書館の構築に向けて」
(於・東京都/東京大学 情報学環福武ホール)
http://new.lib.u-tokyo.ac.jp/2359

□2015-01-31(Sat):
国立国語研究所 研究成果発表会2015
(於・東京都/一橋講堂 学術総合センター)
http://www.ninjal.ac.jp/event/specialists/project-meeting/m-2014/2015013...

【2015年02月】
■2015-02-07(Sat):
知識・芸術・文化情報学研究会 第4回 研究集会
(於・大阪府/立命館大学大阪キャンパス 大阪富国生命ビル)
http://www.jsik.jp/?kansai20150207

■2015-02-09(Mon)~2015-02-12(Thu):
Code4Lib2015
(於・米国/Hilton Portland & Executive Tower)
http://code4lib.org/

□2015-02-12(Thu)~2015-02-13(Fri):
EuropeanaTech 2015
(於・仏国/フランス国立図書館)
http://www.europeanatech2015.eu/

□2015-02-18(Wed):
国際シンポジウム「歴史的典籍画像の30万点Web公開と国際共同研究」
(於・大阪府/大阪大学 文学研究科本館)
http://bokyakusanjin.seesaa.net/article/412275308.html

□2015-02-21(Sat):
NDL Lab 国立国会図書館のウェブページを使い尽くそうアイディアソン
「NDLオープンデータ・ワークショップ」
(於・東京都/国立国会図書館 東京本館)
http://lab.kn.ndl.go.jp/cms/?q=opendata2015

【2015年03月】
□2015-03-09(Mon):
国際学術情報流通基盤整備事業 第4回 SPARC Japan セミナー2014
「グリーンコンテンツの拡大のために我々はなにをすべきか?」
(於・東京都/国立情報学研究所)
http://www.nii.ac.jp/sparc/event/2014/20150309.html

□2015-03-24(Tue)~2015-03-26(Thu):
Council on East Asian Libraries(CEAL)年次会議
(於・未定/未定)
http://www.eastasianlib.org/
[編集室注]2015年1月28日時点では、上記URLは更新されていない。

Digital Humanities Events カレンダー共同編集人
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小林雄一郎(日本学術振興会特別研究員PD)
瀬戸寿一(東京大学空間情報科学研究センター)
佐藤 翔(同志社大学教育文化学科 助教)
永崎研宣(一般財団法人人文情報学研究所)

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◇イベントレポート
国際シンポジウム「デジタル文化資源の情報基盤を目指して:Europeanaと国立国会
図書館サーチ」
http://www.ndl.go.jp/jp/event/events/20150122sympo.html
 (永崎研宣:人文情報学研究所)

 2015年1月22日、国立国会図書館にて、Europeana執行委員でありCollections
TrustのチーフエクゼクティブであるNick Poole氏を招いての国際シンポジウム「デ
ジタル文化資源の情報基盤を目指して:Europeanaと国立国会図書館サーチ」が開催
された。事前受付で満員御礼になるという大変な盛況のなか、生貝直人氏による基
調講演「オープンデータの潮流とEuropeana」に始まり、Nick Poole氏のEuropeana
紹介、そして、NDLサーチやそれと連携する各機関からの登壇者が続き、最後は原田
氏の司会になるパネルディスカッションで幕を閉じた。全体として盛りだくさんの
内容であり、それぞれの機関の目指すところや苦労話を聞くことができ、個人的に
は興味深いシンポジウムであった。これに関してはいずれ国立国会図書館発のいず
れかの媒体で公表されることが想定されるので、詳細はそちらに譲るとして、ここ
では、個人的に印象に残った点を述べていきたい。

 Europeanaに関しては、我国でもすでに色々なところで議論されてきている。特に
基調講演のプレゼンターを務めた生貝氏は「日本版ヨーロピアーナ」を提唱し各地
で精力的に講演をこなし、本メールマガジンも含め様々な媒体に執筆しているので
ぜひご参照されたい。

 さて、Poole氏による講演については、あくまでも筆者の個人的な印象として語ら
せていただくと、Europeanaはとにかくデータも展開も圧倒的に大規模であり、どう
してもそこに目が行きがちだが、Poole氏が特に強調していたのは、「パートナーと
ともに新たな価値を創り出すプラットフォーム」という点であり、様々な文化資源
の提供はそこを目指すものであるということだった。個人的に話した中で印象的だ
ったのは、オープンデータを前提とした上でサービス料を徴収するモデルについて、
やはりEuropeanaのコンテンツそのものではなく、例えば翻訳サービスなど、コンテ
ンツから生み出し得る固有のサービスを提供することで実現することを考えている
ということであった。筆者自身は完全に学術系なのでやや遠い話ではあるのだが、
あくまでもオープンデータを踏まえた上で、マネタイズにまで結びつけることで持
続可能な枠組みを目指すという姿勢は、我国でも大いに参考とすべきところだろう。

 一方の国立国会図書館サーチについては、筆者も色々な形で利用しており、まだ
色々と問題点はあるものの、提供しているWeb APIを通じて、別な組織や個人により
いくつかのWebサービスが立ち上げられたり、パブリックドメインの画像を用いた電
子出版が行なわれたりするなどしてきている。このことは、直接ユーザに働きかけ
ていくだけでなく、むしろ、Webサービスの提供者等の媒介者のような人々への働き
かけにより、国立国会図書館自身が宣伝しなくとも、媒介者が勝手に宣伝をしてく
れるという流れが徐々にできつつあることを示しており、今後の展開を期待させる
ところである。連携各機関からの登壇者は、どちらかというと国立国会図書館サー
チにデータを提供している側の方々であり、それぞれの苦労話が聞けた点はとても
興味深いことであった。特に、大向一輝氏による、ビジョンとミッションを明確に
打ち出すべきという主張はCiNiiの現状ともあいまって、説得力のある提言であった
ように思われる。

 全体の感想としては、国立国会図書館サーチもまた、上述のごとく、Europeanaが
目指すところの新しい価値の創造というところをある程度は実現できているように
も思われる。というのは、Europeanaのみならず、学術向け大規模リポジトリたる米
国Hathitrustや統合検索サービスである米国デジタル公共図書館など、いずれも、
自らをベースとした新しい取組みを支援するための枠組みを提供しつつあるが、国
立国会図書館でも「NDLラボ」を運用しており、そこでは、手前味噌で恐縮だが、近
代デジタルライブラリーの共同電子翻刻を行なうシステム「翻デジ2014」など、外
部の取組みをうまく展開させるような枠組みが提供されているからである。さらに
付言するなら、欧米でのそうした取組みはデジタル・ヒューマニティーズの研究動
向との深い関わりの中で進められつつある。また、一方で、Europeanaにもまだ既知
の技術的な問題が十分に解決されていないような状況もある。(詳しくは、筆者の
ブログ記事 http://d.hatena.ne.jp/digitalnagasaki/20141211/1418312081 を参照
されたい。)というようなことで、国立国会図書館の取組みは、個別にはまだまだ
色々な課題が感じられるものの、全体としては欧米のそれに比べるとそれほど遜色
ないようにも思われるので、関係者の皆様には、それなりの自信を持っていただけ
ると良いのではないかと思った次第であった。

 なお、当日に流れた関連するツィートは以下のURLにてまとめておいたのでこちら
も参照されたい。
 http://togetter.com/li/773108

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 配信の解除・送信先の変更は、
    http://www.mag2.com/m/0001316391.html
                        からどうぞ。

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◆編集後記(編集室:ふじたまさえ)
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 今回もさまざまな視点からのご寄稿をいただき、ありがとうございました。巻頭
言では、数学的思考に基づいて、分類と階層化についての論考をいただきました。
普段なかなか意識できない部分を文字や図を使って考えてみることで、新たな視点
が見えてくるということがよくわかりました。

 また、連載記事中にも「ご挨拶」として書いていただきましたが、2013年1月末発
行の第18号から丸2年間の動向をまとめていただいた連載が今回で最後の記事となり
ました。今後は、菊池さんの主題である西洋学史に重心を置いた記事の連載になる
とのことです。引き続き、執筆を続けていただけることに感謝しつつ、ひとまず、
これまでの連載にお礼申し上げます。ありがとうございました!

 今年も引き続き、さまざまな話題をお届けできれば嬉しいです。

◆人文情報学月報編集室では、国内外を問わず各分野からの情報提供をお待ちして
います。
情報提供は人文情報学編集グループまで...
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人文情報学月報 [DHM042]【後編】 2015年01月28日(月刊)
【発行者】"人文情報学月報"編集室
【編集者】人文情報学研究所&ACADEMIC RESOURCE GUIDE(ARG)
【 ISSN 】2189-1621
【E-mail】DigitalHumanitiesMonthly[&]googlegroups.com
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【サイト】 http://www.dhii.jp/

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