ISSN 2189-1621

 

現在地

DHM 045 【後編】

2011-08-27創刊                       ISSN 2189-1621

人文情報学月報
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄Digital Humanities Monthly

             2015-04-28発行 No.045 第45号【後編】 558部発行

_____________________________________
 ◇ 目次 ◇
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

【前編】
◇《巻頭言》
「人文情報学とコンピュータサイエンスのプリンシプル:IPSJ-ONE観覧記」
 (大向一輝:国立情報学研究所)

◇《連載》「西洋史DHの動向とレビュー
      ~外国(史)研究者としてDHの情報にどのように触れるのか~」
 (菊池信彦:国立国会図書館関西館)

◇《連載》「Digital Japanology寸見」第1回
「『笠間索引叢刊』が一部国文学研究資料館で公開に」
 (岡田一祐:北海道大学大学院文学研究科専門研究員)

【後編】
◇人文情報学イベントカレンダー

◇イベントレポート(1)
「デジタル学術研究に関するシンポジウム@ライデン大学図書館」
 (ジョナサン・シルク:ライデン大学、永崎研宣抄訳)

◇イベントレポート(2)
「アメリカシェイクスピア学会 第43回年次総会」
 (北村紗衣:武蔵大学人文学部)

◇イベントレポート(3)
「第一回 能美アートオープンデータシンポジウム」
 (上田啓未:合同会社AMANE)

◇編集後記

◇奥付

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
【人文情報学/Digital Humanitiesに関する様々な話題をお届けします。】
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◇人文情報学イベントカレンダー(□:新規掲載イベント)

【2015年05月】
■2015-05-16(Sat):
情報処理学会「第106回 人文科学とコンピュータ研究会発表会」
(於・東京都/国立国会図書館 東京本館)
http://www.jinmoncom.jp/

【2015年06月】
■2015-06-01(Mon)~2015-06-03(Wed):
Joint ACH & Canadian DH Conference 2015
(於・カナダ/University of Ottawa)
http://ach.org/2014/10/20/joint-ach-canadian-dh-conference-2015/

■2015-06-01(Mon)~2015-06-05(Fri):
Digital Humanities Summer Institute@Victoria
(於・カナダ/University of Victoria)
http://www.dhsi.org/

□2015-06-04(Thu)~2015-06-07(Sun):
アジア歴史空間情報システムによるグローバル・ヒストリーの新研究
第3回 研究会
http://www.l.u-tokyo.ac.jp/ahgis/info_j.html

□2015-06-06(Sat)~2015-06-07(Sun):
JADS 2015年度 アート・ドキュメンテーション学会年次大会
http://www.jads.org/news/2015/20150607.html

■2015-06-08(Mon)~2015-06-12(Fri):
Digital Humanities Summer Institute@Victoria
(於・カナダ/University of Victoria)
http://www.dhsi.org/

■2015-06-15(Mon)~2015-06-19(Fri):
Digital Humanities Summer Institute@Victoria
(於・カナダ/University of Victoria)
http://www.dhsi.org/

■2015-06-29(Mon)~2015-07-03(Fri):
DH2015@Sydney
(於・豪州/University of Western Sydney)
http://dh2015.org/

Digital Humanities Events カレンダー共同編集人
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小林雄一郎(日本学術振興会特別研究員PD)
瀬戸寿一(東京大学空間情報科学研究センター)
佐藤 翔(同志社大学教育文化学科 助教)
永崎研宣(一般財団法人人文情報学研究所)

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◇イベントレポート(1)
デジタル学術研究に関するシンポジウム@ライデン大学図書館
 (ジョナサン・シルク:ライデン大学、永崎研宣抄訳)

 2014年9月22日、ライデン大学図書館にて、中国史学のHilda de Weert教授(訳者
注:同教授は、ライデン大学着任前は、キングスカレッジ・ロンドンにおいてDHの
研究を行っていた。)がチェアとなってデジタル・ヒューマニティーズ(DH)のセ
ミナーが催された。ここでは、同大学の仏教学研究者であるJonathan Silk教授のメ
モに依りつつ、このセミナーの模様を報告したい。なお、講演資料が
http://www.library.leiden.edu/teaching-researching-publishing/manage-you...
に掲載されているので、詳細についてはそちらも参照されたい。また、本内容につ
いて誤りがあった場合には、抄訳者の永崎の責任としてご了承いただきたい。

 セミナーは、3つの発表と短い全体討論で構成されていた。参加者はテクストを扱
うプログラムについての短い発表とGISに関するものとの二つのグループに分けられ
ていた。筆者はテクストを扱うプログラムの方に参加した。

 このメモは包括的なものではないが、登壇者達が言おうとしていた重要ないくつ
かのポイントに焦点をあて、それらが、いくつかの点で、我々がなすべきことから
いかに離れているかを明らかにしている。そして、一方で、ツールの制作者と利用
者との間の、潜在的な利用者との、そして、ツール制作者同士の、より重要なコミ
ュニケーションの明白な必要性についても焦点を当てている。中心的な情報センタ
ーのようなものがまったく欠けているために、多くの人々が、協力し合うことなく、
同じ、もしくは似たような問題に自ら取り組もうとしているように見える。何度か
明らかになるように、問題の一つは、助成金の仕組みにおいて長期的視点のような
ものが見られないということであり、たとえ将来に向けて最善でなくても必ずしも
柔軟でなくても、とにかく何かをすればよいという勢いになっている。同時に、図
書館は多かれ少なかれ、自らを旧態依然とした資料の管理機関と見なし続けている
実際のところ、彼らは、資料を保護し保存し自由に利用できるようにすべく熱心に
働いている。これは必然的なスタート地点だが、保存する側と活用する側とをより
統合していく必要がある。図書館が非常に関心を持っていることの一つは、IPRだが、
この会議では、彼らがそれをどう扱おうとしているのか、よく見えなかった。

 冒頭の話題はライデン大学図書館長のKurt De Belderが提供した。彼は、大学に
とってのDHの重要性を強調するところから始め、次のように問うた。「デジタル学
術研究(Digital Scholarship)とは何を意味しているのか?」彼の答えは、デジタ
ル資料の利用と作成を含むものであり、図書館のためだけでなく研究者のためのも
のでもある、ということだった。ここでは、「文化の分析」と交換できるデータ
(商用のもので利用はできなくても良い)にも注意を払う必要がある。莫大なデー
タセットがデータと分析についての我々のアプローチを変えることになる。図書館
は分析し視覚化するためのツールの利用可能性について考えなければならない。

 量的な研究(たとえば、小説等の書かれたテクストにおける「ik」(オランダ語
の第一人称)の登場回数を数えることは、文体分析の一種であると言える)

 1980年代には、Keith Bakerは『フランス革命の発明』において、いかにして「世
論」が形成されたかに注目した。DHが発明される以前に、彼はテクストのコーパス
を活用し、いかにして「意見」が「世論」になったかを観察した。こういったもの
は、オントロジーを用いない、未発達な検索の時代であった。たとえば、KWIC
(Keyword in Context)検索のような。

 将来的には、図書館の役割は、パートナーシップにあり、研究者達自身のパート
ナーシップを促進するところにもある。

 次の提題者は、大学図書館のIsabel Brouwerであり、テクストとデータマイニン
グについて語った。

 Brouwerは、テクストとデータマイニングに対して図書館が提供できる支援として、
データの選別が重要であるとした。また、同様に重要なものとして、権利処理とGIS
を挙げていた。その他、この講演のなかで指摘されていたいくつかの点を挙げると、
ライデンではテクストマイニングは概ね生物学の分野で行われていること、出版社
のライセンスによる制限があること、EUはデータベースの活用を推奨していること、
などがあった。そして、図書館が果たし得る役割として、テクスト自身を豊かにし、
ツールを作成し、コレクションやコーパスとその教育、知的財産権とライセンスに
ついて助言することを挙げた。そして、図書館は、DHにおける協働のために、物理
的にも仮想的にも基盤としての役割を果たすことができるとした。

 Adriaan van der Weelは「知の秩序」という表題の講演を行った。彼の指摘する
ところによれば、書物の世界に閉じられた知識が、検索可能になり、統計的に扱う
ことも可能になり、今や、精読と遠読(distant reading)の両方の手法ができるよ
うになっている一方で、オープンアクセスやプレプリントといった形で出版文化に
も変化が現れている。また、すでになくなってしまったものだが、Electronic
Text Center Leiden(ETCL)についての紹介も行われた。さらに、知の働き蟻とい
う新しい階層の存在、実証主義的でない、より伝統的な研究の位置づけが低くなっ
ていること、コンピュータおたくと古典的な人文学研究者の間に溝が生じてきてい
ること、「フリーな」知識が評価されないこと、といった問題を指摘した。

■Arno Knobbe 中世・近代初期文書の記録の関連づけ

 この発表は、2012-13年にかけて、欧米8カ国合同研究助成金「Digging into
Data Challenge http://diggingintodata.org/ 」による助成によって進められた
「ChartEx http://www.chartex.org/ 」というプロジェクトに関するものであり、
ライデン大学とブライトン大学、ヨーク大学、コロンビア大学、ワシントン大学、
トロント大学によって実施されたということである。その内容は、自然言語処理に
よるデータマイニングを活用した、中世の権利書(Charter)の分析であった。主な
対象となったのは、1950年頃にラテン語から翻訳された現代英語訳の短い文書だが、
これらは900年から1400年のものであり、ほとんどはイングランドのヨークからもた
らされた。元のラテン語の方がより豊富な情報を得られるのは確かだが、自然言語
処理では英語の方が簡単に扱えるので英訳を利用したことをKnobbeは認めていた。
課題としては、まったく構造化されていない自然言語であり、名字という概念がな
く人物同定が困難であること、番地の情報がないこと、スペルの仕方が様々である
こと、が挙げられていた。自然言語処理は、会話や言い回しの同定には使えるが、
自然言語からセマンティックWebへの移行が望まれているということであった。人と
記録の関連づけに関しても自然言語処理で試行したということだった。

■Peter Verhaar コンピュータによる批評:詩の解釈のための量的手法の活用

 英語詩とコンピュータによる批評に取り組んでいるVerhaarは、自身の博士課程で
の研究について語った。彼は、小さなテクストの研究から、マクロ分析である遠読
(distant reading)と機械読書への取り組みにまで触れた。精読と遠読はテクスト
の異なる側面に焦点をあてるものであり、後者は事実に関する問いを研究するもの
である。彼の研究は、Louis MacNeiceの詩に着目していた。

 テクストマイニングのツールは、批評によって生み出されるのと同じようなもの
を生み出すことができるのだろうか。こうった手法で、我々は、リズムや韻律、頭
韻等を研究することができる。統計的分析にあたっては、MorphAdorner
http://morphadorner.northwestern.edu/ 等のアプリケーションがある。発音情報
に関しては、MRC Psycholinguistic Database http://www.psych.rl.ac.uk/ が用い
られた。視覚化については、PerlやPython等で行われ、頭韻等に関する異なるパタ
ーンが見つかった。ただし、人の目での批評はまだ必要とされているということで
あった。

■Steven Claeyssens王立図書館における研究者のためのデータセット

 1980年代には、カードをデジタル化するプロジェクトがあり、それがメタデータ
となった。現在ではスペシャルコレクションのデジタル化に取り組んでいる。テク
ストの大規模デジタル化、ある程度構造化されたテクスト(OCR)、さらなるメタデ
ータからオンライン目録、という流れである。すでにスペシャルコレクションやそ
の他の資料(議会議事録)のための専門のWebサイトが存在している。新たな包括的
なWebサイトとして「Delpher」がある。ここでのデータセットは、手稿、新聞、初
期のオランダの本、議会議事録、定期刊行物等である。目標となっているのは、API
を提供し、大量の資料を入手し、それを「可能な限りオープンに」することである。
後者については、何らかの(たとえば存命の著作者の)データをオープンにするこ
との困難さに対する法的な挑戦にも言及していた。詳しくは、 http://polimedia.nl/
を参照されたい。ここでは、ニュースやニュース放送、定期刊行物、メディアにお
ける議論などがある。今後の計画や課題としては、kb.nl/labでは、まだベータ版だ
が、利用者がデータで「楽しむ」ためのツールがある。また、データを豊富にしつ
つリンクしていくこと、データを増やすこと、著作権、OCRの訂正、などがある。17
世紀の新聞のOCRデータの修正は、アムステルダムのMeertens研究所とともに行って
いる。

■Martijn Storms 場所についてのすべて:現在と未来の地図のデジタル目録作成

 ライデン大学図書館には約10万枚の地図がある。目標の一つは、ジオリファレン
ス(地図的な画像をGISの地図画面上に取り込んで同じ座標位置に重ね合わせること)
によって地図をリンクすることであり、これは、地図の目録作成をするための新し
い手段である。ライデン大学には、王立熱帯研究所(KIT)の地図(
http://www.library.leiden.edu/special-collections/colonial-collection-ki...
)と王立東南アジア・カリブ研究所(KITLV)の地図(
http://www.library.leiden.edu/library-locations/university-library/unive...
)がある。図書館の地図は6万から10万に増えた。三つのコレクションのデジタル版
はまだ統合されておらず、インターフェイスも異なっている、検索の仕方も違って
いる。KITの資料は、かなり以前に構築されたものだが、より先進的であり、ほとん
どはジオリファレンスができている。そして、素晴らしい閲覧ソフトを提供してい
る( http://maps.library.leiden.edu/apps/s7 )。

 課題としては、1つの入り口を作成すること、複数の地名を関連づけること、出版
物や図面、写真にジオリファレンスを付与すること、そして、ボーンデジタルな地
理データセットへのアクセスを提供すること、である。

 他に、関連するプロジェクトとしては、大英図書館によって開発されたジオリフ
ァレンスツール、David RumseyのOld Maps Online、データレイヤーを選んでダウン
ロードできるようになっているVU Geoplaza、他、様々なものがある。また、王立図
書館では、今のところ十分にオープンになっていないAPIを、よりオープンにするこ
とに取り組んでいる。

■Peter Verhaar テクスト解析と視覚化:ツール概観

 再び、Verhaar氏の登壇である。ここでは、テクスト解析と視覚化に際して、技術
的なスキルがない研究者でも利用できる多くのツールが紹介された。以下、いくつ
か見ていこう。

・DiRTは、ツールのリストである。
・アルバータ大学のTaporも、同様にツールのリストである。
・DH Commonsには、ツール作成者が集まっている。
・Voyant-tools.org は、リッチで洗練されたツールセットである。

 大学図書館では、テクスト解析ツールに焦点をあて、サポートが続けられている
オープンソースのツールをリストし、機能やフォーマットを分析したりしている。

 また、語彙についての研究としては、テクストを任意の単位に分割する必要があ
る。「type」は使用した語彙数であり、「token」は延べ語彙数である。単語の頻度
情報は、著者の特徴を表す。不変化辞等のストップワードを除外するという点は興
味深い。typeとtokenの比率は、グラフに表示することができる。テクスト解析は、
一つのテクストの新しい側面を明らかにすることができるが、こういったツールは、
時としてプロジェクトに特有の仮定に基づいたものであることがある。しばしば、
自分自身でカスタマイズしたり新たに構築したりしなければならないことになる。

■Morana Lukac,コーパス言語学の解析・比較ツールWmatrix

 Lukac,は、Wmatrixについて発表し、デモを行った。これは、コーパス言語学に関
するもので、オンラインでもアクセスできるようになっている。 (
http://ucrel.lancs.ac.uk/wmatrix/

 頻度リスト、用語索引、キーワード、アロケーション、といったコーパス言語学
に必要な機能を備えており、品詞タグや意味論的なタグの追加もできるようになっ
ている。さらに、文法的範疇や意味論的な領域にキーワードを追加することもでき
る。仮説に基づく操作は「問い⇒構築⇒引用⇒検索⇒解釈」という流れであると言
えるが、これはデータに基づく操作であり、構築が最初に行われる。一つのキーワ
ードが、すべての関連するコーパスと比較されることになる。(たとえばBritish
National Corpusのように)。ここでは、タガーのCLAWSと意味論的解析システム
USASが紹介された。このデモは、発表者の最近の研究に限定されたものであった。
発表者は英語でしか利用できないとしていたが、あまりこのツールに詳しくないよ
うで、見たところ、オランダ語、中国語、イタリア語、ポルトガル語、スペイン語
でも利用できるようだった。

■討論:図書館の役割

図書館長Belder氏は、デジタル化を進めていきたいと述べた。全体として、午後の
議論は、図書館司書の関心事に限定されたものであった。しかし、同時に、重要な
疑問の一つとして、図書館はどのようにしてDHを支援し得るのか、という疑問が扱
われていた。筆者が考えるに、これは、図書館の側からのオープン化への良いサイ
ン、一つの始まりである、と考えるのが最良だろう。

特殊文字
セディラつきc: c,

Copyright(C)Jonathan Silk 2015- All Rights Reserved.
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◇イベントレポート(2)
「アメリカシェイクスピア学会 第43回年次総会」
http://www.shakespeareassociation.org/
 (北村紗衣:武蔵大学人文学部)

 アメリカシェイクスピア学会(Shakespeare Association of America)の第43回
年次総会が、ヴァンクーヴァーで4月1日から4月4日にかけて開催された。この学会
においては多数、デジタル人文学関連のセッションが開催されたため、本稿におい
ては簡単にその報告を行うこととする。

 4月1日はプレイベントが行われただけであったが、4月2日は朝からデジタル技術
関連セッションがいくつか行われた。午前10時からはデジタルサロンが開かれたが、
本報告者は同時間帯にある別のセミナー‘Women Making Texts in Early Modern
England’に登壇したため、残念ながらサロンには参加できなかった。しかしながら、
‘Women Making Texts in Early Modern England’セミナーにおいてもデジタル技
術は大きなテーマであり、様々な議論が行われた。アメリカシェイクスピア学会の
セミナーにおいては、登壇者はセミナー当日に発表をすることはなく、事前にそれ
ぞれのテーマに基づく予稿を交換し、セミナー中はそれに関する議論のみを行う。
フェミニスト書物史を主題とする本セミナーでは、flickrを活用してペンシルヴァ
ニア大学蔵書のもとの持ち主の痕跡(署名や蔵書票など)の写真を共有する画像コ
レクションであるThe Provenance Online Project[1]の他、ブリテン諸島の手稿
を集めたオンラインカタログであるThe Catalogue of English Literary
Manuscripts 1450-1700[2]や、初期近代ブリテン女性による手稿類のカタログで
あるThe Perdita Project[3]とThe Perdita Manuscripts, 1500-1700[4]などが
議論の題材となった。The Provenance Online Projectをはじめとするこうしたデー
タベース類の情報は一種のビッグデータのようなかたちでも扱い得るが、形式が統
一されていない手稿などのカタログ化、とくに初期近代によく見られる‘
Miscellany’と呼ばれるようなさまざまな雑多な文書をまとめた手稿の記述には大
変な手間がかかるという苦労がセミナーの議論においてシェアされた。

 2日の午後からは‘Reading the First Folio Then and Now’というワークショッ
プが開催された。このセッションにおいてもファースト・フォリオのデジタル化に
対する参加者の関心が高く、とくにMeisei University Shakespeare Collection
Database[5]やThe Bodleian First Folio[6]などをいかに教育の場で活用する
かということが議論のテーマのひとつとなった。こうしたファースト・フォリオの
デジタル化は、大学院レベルの学生や研究者にとっては貴重なリソースであるが、
一方で専門性の高い資料であるため、学部教育で用いるのはなかなか難しいところ
もある。実のところ、スマートフォン慣れした若い学生にとって、ネットで見られ
るこうした複製よりもむしろモノとしての稀覯本、実物のアウラのほうがはるかに
珍しく好奇心をそそるということは、本ワークショップに参加した教員たちも感じ
ているところであった。初学者にとっては、貴重な研究史料の複製がネットで見ら
れるということよりも、渋い色みのどっしりとした革の装丁に天金や紋章が輝く数
億円もする17世紀のフォリオが目の前に展示されているというほうがずっと刺激的
な体験であり得る。本ワークショップにおいては、教育への活用という議論を通し
て、デジタル技術によって得られる教育効果、得られない教育効果が浮かび上がっ
てきたように思われる。

 4月3日の午後からは‘Using Data in Shakespeare Studies’というワークショッ
プが行われた。本ワークショップでは、登壇者全員がデータを用いた何らかのシェ
イクスピア関連分析を行い、その結果をヴィジュアル化するという試みを実施した。
ヴィジュアル化の結果については聴講者全員にダウンロードアドレスが配布され、
zipですべての画像とその解説が入手できる。「シェイクスピアのテキストのうち、
上演で人気があるものと教育現場で人気があるものはどれか」「どの地域の研究者
がどういったオンラインのシェイクスピアリソースを利用しているか」「演劇チケ
ットの売り上げの比較分析」など、シェイクスピアリアンであれば気になるような
トピックが多数並んでおり、図表を見ているだけで目に愉しいワークショップであ
ったが、他方でこうしたデータ解析に伴う研究者の不安感といったものも浮かび上
がってきた。いわゆるビッグデータ的なものをソフトで処理してわかりやすくイン
フォグラフィックにするということは見た目の印象が強く、また教育においても便
利であるが、一方で分析しヴィジュアル化したデータの信頼性や解釈について、ひ
とつひとつのデータの背景分析を伝統的に重んじてきた人文学徒は時として「自分
の解釈は正しいのだろうか」「いったいこのデータはどれくらい信頼できて、何が
わかるのだろうか」といった不安を感じることがある。ワークショップの議論では
こうした心配がユーモアまじりに登壇者から口にされた。

 こうしたデータへの不安については、本報告者も一点、ペーパーをきく中で思い
当たるところがあった。本ワークショップにおけるローラ・エスティル(Laura
Estill)のペーパー‘Performing Englishness Globally’は、シェイクスピアの芝
居の中でもとくに「イングランド性(Englishness)」を主題とした芝居である『ヘ
ンリー五世』の上演が世界のどこでどの程度なされているかをマッピングするとい
う研究[7]であり、アメリカ合衆国での本戯曲の人気ぶりはいささか意外で、これ
だけでも面白みのある研究結果であると言える。エスティルは日本における日本語
での上演が一件だけあることについて、「日本ではシェイクスピアを上演するのが
伝統的に盛んである」というそれ自体は適切といえる理由を仮説としてあげていた
が、実はこれは図表をクリックするとわかるように、楠美津香がひとり芝居ですべ
てのシェイクスピア作品を上演するシリーズ公演で『ヘンリー五世』が扱われたた
めである。日本の観客であれば、「この事例はスタンダップコメディ形式によるひ
とり芝居なので通常の上演とかなり違う」という知識を当たり前のものとしてデー
タに切り込めるが、ローカルな知識がない場合、データをマッピングしただけでは
いったい誰が何の目的でこんなところで上演を行っているのか、深みのある分析を
提供するのが大変難しい。全体的に、データが見せてくれるものと、見せてくれな
いものについて考えさせられた。

 最終日の4月4日には、午前中に‘The Way We Think Now: Shakespearean
Studies in the Digital Turn’というパネルセッションが行われ、3人の発表者が
登壇した。エレン・マッケイは16世紀イタリアの文人で記憶に関する著書『劇場の
イデア』で有名なジュリオ・カミッロを起点に、現在の最新技術による記憶の保存
をルネサンス的な記憶術のモデルに結びつける議論を行った。二本目のクリストフ
ァー・ウォレンの発表はソシオグラム的発想についてのものであり、17世紀の文人
ジョン・ウィルキンズによる人間関係の分類などを参照しつつ、サミュエル・ピー
プスやサミュエル・ジョンソンなど文人の人間関係ネットワーク可視化について論
じた。三本目のジェンテリー・セイヤーズによる発表は少しルネサンスから離れ、
19世紀の発明家ギュスターヴ・トルーヴェが作ったバッテリーで動く「電気宝石
(electric jewelry)」の3D化についてのものであるが、この発表については画像
も含めたいろいろな資料がセイヤーズの研究室によってウェブ公開されているので
([8]や[9]など)、そちらを参照したほうが想像しやすいだろう。本パネルは
手稿・刊本や上演などにとどまらない、非常に広い視野でデジタル技術を扱うもの
であったため、シェイクスピアリアンにとってはフレッシュな気持ちできけるセッ
ションであったのではないかと思われる。

 このほか、上演に関する発表などでも映像アーカイヴ化や、マルコフ連鎖を用い
てテキストを組み替えた上演など、様々な技術が取り上げられ、またDigital
Renaissance Editions[10]の記念レセプションが行われるなど、第43回アメリカ
シェイクスピア学会におけるデジタル人文学的関心のプレゼンスは非常に高いもの
であった。一方で、既に述べたようにデジタル技術を教育・研究で使用する際の課
題も多数浮かび上がってきたといえる。2016年には世界シェイクスピア学会がスト
ラットフォード・アポン・エイヴォンで開かれる予定であるが、その際にこうした
課題がどの程度とりあげられるか、報告者としては個人的に気になるところである。

[1] https://provenanceonlineproject.wordpress.com/
[2] http://www.celm-ms.org.uk/
[3] http://web.warwick.ac.uk/english/perdita/html/
[4] http://www.amdigital.co.uk/m-collections/collection/perdita-manuscripts-...
[5] http://shakes.meisei-u.ac.jp/j-index.html
[6] http://firstfolio.bodleian.ox.ac.uk/
[7] http://estill-henry-v.silk.co/
[8] http://maker.uvic.ca/aesthetics/
[9] http://scholarslab.org/podcasts/podcast-jentery-sayers-on-remaking-the-p...
[10] http://digitalrenaissance.uvic.ca/

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◇イベントレポート(3)
「第一回 能美アートオープンデータシンポジウム」
 (上田啓未:合同会社AMANE)

 4月11日(土)石川県能美市根上総合文化会館で、第一回 能美アートオープンデ
ータシンポジウムが開催された。能美市では“ウルトラアート”による観光事業を
継続して行っており、これまでには多くのアートイベントを開催している。“ウル
トラアート”には、「シェア(共有)を認めるアート」をはじめ、「その地に相応
しい「Localアート」、地球や環境に優しい「Ecoアート」、誰もが楽しめる参加型
の「Interactiveアート」、先端の「Mediaアート」」のコンセプトがあり、本シン
ポジウムはシェアアート(アートのオープンデータ)のコンセプトに沿う形で、ア
イパブリッシング株式会社の主催で開催された。

 基調講演には、嘉村哲郎氏(東京藝術大学)を迎え、「広がるオーブンデータ活
動と芸術・文化資源の可能性-つかえるデータからつながるデータへ」と題し、昨
今の芸術・文化資源の公開状況とオープンデータの動向について講演された。参加
者は“ウルトラアート”関連者を中心に30名ほどであり、オープンデータに関わり
の薄い方にも分かりやすく、実際的なオープンデータ活用事例も示され、参加者が
今後アイデアの検討・実践を行う際の情報源となる講演であった。その中で特に
「Open Dataは魔法や奇跡ではない」と述べられた事が印象的で、Wikipedia Townの
例からも、公開する努力と公開されたデータを繋げて行く仕組みの重要性を感じた。

 休憩を挟んで、打楽器アンサンブルによる記念コンサートが開催された。このコ
ンサートは、演奏曲の著作権に配慮し、演奏者の許可も得、演奏を動画として記録、
オープンデータとして公開する目的で開催された。楽曲はよく知られたものばかり
で、マリンバを中心としたアンサンブルは珍しいように感じられた。演奏のみなら
ず楽器についての解説もあり、コンサートは和やかに進んだ。演奏は、プロの奏者
も参加しており、聞き応えのあるものだった。会場がコンサート向けでは無かった
のがやや残念であったが、演奏を公開する試みは、アートオープンデータシンポジ
ウムに相応しいコンサートであった。

 コンサートは後日 https://www.youtube.com/channel/UCLzv6t_UVVz1QKxF0B_HzRw/videos
から公開されている。

 パネルディスカッションは、「アート系オープンデータのこれから」と題し、本
シンポジウム主催の福島健一郎氏(アイパブリッシング)がモデレーターを務め、
パネラーには嘉村哲郎氏、北野道規氏(株式会社マシロ)、佐久間忍氏(能美市九
谷焼資料館 施設長)、山近泰氏(九谷焼作家 大志窯)、中田守重氏(能美市観光
交流課課長)がそれぞれのお立場で“ウルトラアート”を語られた。北野氏からは
九谷焼業界との関係、佐久間氏からは資料館としての関わり方、山近氏からは作家
からの観点、そして中田氏からは能美市の政策としての意義を伺う事ができた。“
ウルトラアート”ではこれまでに九谷焼と白山関連フォトが、クリエイティブコモ
ンズライセンスに則り、資料情報と画像がCC-BYで公開されている。公開されている
九谷焼は、九谷焼資料館所蔵のもので、資料情報のオープンデータ化には「期待の
方が大きい」との理解を示され、協力をされたそうだ。これは行政も加わった形で
“ウルトラアート”に取り組んでいる強みなのだろう。

 印象としては、“ウルトラアート”では、芸術家等の著作者にとってのメリット
が多く語られてないように感じた。これまでの活動では著作者側の利益となった事
例もあるようなので、ぜひ今後ご紹介頂きたい。継続して運営して行く仕組みもま
だまだこれからのようである。また、後日サイトを確認すると、CC-BYで情報公開さ
れている資料情報がまだ少ないように思え、公開情報だけを見ると所蔵先が明示さ
れていなかった。今後公開資料を増やして行く予定ならば、詳細な資料情報と、嘉
村氏が事例で示したようにメタデータと画像それぞれにライセンス表示の必要性を
感じた。さらに九谷焼資料館のサイトでは、“ウルトラアート”での公開情報が利
用されていなかった。これらにも嘉村氏が述べられた「つながるデータ」のつなげ
て行く工夫が今後さらに必要である。しかし、その素地は出来つつあるように感じ
られた。

 地域資料の情報公開に関わる身としては、“ウルトラアート”には課題もあるが、
可能性もあるように感じられ、今後このように地方発信の事例と活発な議論が継続
されるように望む。

ウルトラアート http://ultraart.jp
能美市九谷焼資料館 http://www.kutaniyaki.or.jp

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 配信の解除・送信先の変更は、
    http://www.mag2.com/m/0001316391.html
                        からどうぞ。

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◆編集後記(編集室:ふじたまさえ)
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 今回も、さまざまな切り口での原稿をいただき、ありがとうございました。巻頭
言では、国立情報学研究所の大向さんから歴史学における情報学の目的とコンピュ
ータサイエンスの研究手法の質的共通点から、DHの存在意義を語っていただきまし
た。異分野に共通の切り口を見出していくことで、今後のDHの発展が期待できそう、
と勝手にわくわくしながら読んでしまいました。

 また、菊池さんの連載では、日本におけるDHに関する情報をいかに得ていくのか、
国外における情報の入手のしやすさと比較しながら、今後のDHを担う種をまいてい
る大学教育におけるDHの情報をシラバスから追っていき、具体的な内容まで踏み込
んだ分析のレポートをいただきました。ありがとうございます。

 イベントレポートは今回も中身の濃い3本をいただきました。特に、「アート」と
「オープンデータ」という以外な組み合わせの分野があると知り、驚きました。つ
いつい、社会的貢献の面が強調されがちですが、オープンデータにより地域の文化
的な面の発展が期待できるということは、ふだんいる図書館の世界ともつながり、
新しい視点だと思いました。

 次号もお楽しみに。

◆人文情報学月報編集室では、国内外を問わず各分野からの情報提供をお待ちして
います。
情報提供は人文情報学編集グループまで...
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人文情報学月報 [DHM045]【後編】 2015年04月28日(月刊)
【発行者】"人文情報学月報"編集室
【編集者】人文情報学研究所&ACADEMIC RESOURCE GUIDE(ARG)
【 ISSN 】2189-1621
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