ISSN 2189-1621

 

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DHM 134 【前編】

人文情報学月報/Digital Humanities Monthly


人文情報学月報第134号【前編】

Digital Humanities Monthly No. 134-1

ISSN 2189-1621 / 2011年08月27日創刊

2022年09月30日発行 発行数961部

目次

【前編】

  • 《巻頭言》「モチツモタレツOA
    横山説子シンガポール工科デザイン大学
  • 《連載》「Digital Japanese Studies 寸見」第90回
    島根大附属図書館、同館デジタルアーカイブに地域資料を追加
    岡田一祐北海学園大学人文学部
  • 《連載》「欧州・中東デジタル・ヒューマニティーズ動向」第51回
    静的サイトジェネレータ Jekyll・Hugo・Gatsby、および、Gatsby と CETEIcean を用いた TEI デジタル学術編集版のウェブサイト化
    宮川創人間文化研究機構国立国語研究所研究系

【後編】

  • 《連載》「デジタル・ヒストリーの小部屋」第9回
    デジタル・ヒストリーの情報源:学会・学術誌・研究機関・書籍を中心に
    小風尚樹千葉大学人文社会科学系教育研究機構
  • 《特別寄稿》「Iurisprudentia:スイス発の法史料オンラインアーカイブプロジェクト
    望月澪東京大学大学院人文社会系研究科
  • 人文情報学イベント関連カレンダー
  • 編集後記

《巻頭言》「モチツモタレツOA

横山説子シンガポール工科デザイン大学人文学・社会科学クラスター助教

今、実験的な出版方法に取り組んでいる。題してモチツモタレツOA (interdependent open access)。共同研究に欠かせない相互扶助の関係性を、そのままオープンアクセスの仕組みに反映させる試みだ。使用しているのは、minimal computing の法則[1]。2015年に提唱された minimal computing とは、「必要最低限で持続可能なデジタル技術の活用方法」を指す。加えて発案者の一人である Alex Gil によると、minimal computing の核心は「必要に迫られた物づくり精神」にある[2]。私が発起人である Digital Frost Project では、複数のアーカイブのデジタルコレクションとの連携、米国著作権の制限を調整するために、minimal computing を用いた。

Digital Frost Project は、20世紀を代表するアメリカ人詩人の一人である Robert Frost のデジタルプラットフォームを作る企画だ。主な参画者はアメリカ文学研究者、アーキビスト、それから詩人の家族・弁護士・友人・愛好家で、総勢14名。企画発足当初から、Frost に関する史料を誰もが閲覧し、議論に参加できる空間を提供することを目的としている。2015年からの試験的プロジェクト (pilot project) では、アメリカ文学研究者とアーキビストの協議に基づき、これまで見過ごされがちであった Frost 講演会テープからデジタル化・編集・出版することに決まった(図1)。ただ、これがなかなか容易にはいかない。

図1:Digital Frost Project 全体像

当時アメリカ文学博士課程の学生であった私の研究課題は、アーカイブに保管されている一次史料の編集・出版。特に、どうして1930年代から現在に至るまで、Frost 講演記録の出版が計画されては頓挫してきたのか?音声が文字に起こされる際に生じる、文学者・学術編集者・読者のさまざまな期待と思惑をまず考察。その後2020年代の今日どのように Frost 講演テープを出版するのが最もふさわしいかを見極めるのが、私の博士論文のテーマであった[3]。このような研究の第一歩はアーカイブ史料の分析だが、講演テープは1940年から1960年にオープンリールで録音されたもの。一部は過去にカセットテープコピーがつくられていて、アーカイブ敷地内で閲覧可能。残りは保存・管理の観点から、デジタルコピーができるまで閲覧不可。つまり研究に取り組む前段階として、まずはアーキビストに講演テープデジタル化のお願いが必要であった。

アーキビストに連絡をすると、これは Frost 講演テープを全て一度にデジタル化・一般公開する絶好の機会とのこと。それぞれの所属大学や公の基金に、デジタル化予算の打診をする計画を立ててくれた。ただ、アーキビストには一つ大きな懸念事項があった。それは、Frost 講演テープに関する著作権の問題。なぜなら、主に税金で成り立っている公の基金から資金提供を受ける場合、デジタル化した史料を一定期間内に一般公開することが条件であることが多いからだ。万が一、デジタル化の後に Frost の著作権を管理する弁護士からブレーキがかかってしまうと、アーカイブによる税金の使い道が不適切になってしまうからだ。

そこで Digital Frost Project 発起人兼コーディネーターの私は、Frost の著作権を管理している弁護士に話を聞いてみた。弁護士によると、Frost 講演テープへの研究者の関心が高いことは喜ばしく、詩人の家族・友人・愛好者が史料のデジタル化を望んでいることもあり、支援したいとのこと。著作権をクリアするためには、講演会の内容と講演会で読まれた詩のタイトル一覧を提示すれば、手続きを踏めるという。

さてこれをアーキビストに持ち帰ると、弁護士から提示された条件はかなり難しいことが判明。というのも、アーカイブの検索目録から得られる情報は、講演日時と場所のみ。講演会の内容はテープを実際に聞いてみるまで分からないが、人手不足でそのような時間は取れないとのこと。それもそのはず、各講演会は約1時間弱で、オープンリールテープの本数は400強。週40時間ずつフルタイムの職員が取り組んでも、10年以上かかってしまう。

図2:モチツモタレツOA

このような状況下で出来上がったのが、モチツモタレツOA (interdependent open access) という実験的出版方法だ(図2)。個人ごとではなく、チームの枠組みで考えることで課題を乗り越えることを目的としている。

まずはアーキビストが懸念していた、デジタル化のための資金源と史料の一般公開のタイミング。この点に関して突破口となったのは、プロジェクト発足当時から一緒に仕事をしていた個人の Frost 愛好家が、偶然にもこのタイミングで Digital Frost Project に資金援助をしてくれることになったことだ。そこで Digital Frost Project を代表する私は、このある程度自由が効く資金をアーカイブが使えるよう調整した。結果的にアーカイブは、公の基金が設ける一般公開のタイミングに制限されることなく、米国著作権法第108条に基づいて、史料の保全と敷地内閲覧のためのデジタル化に踏み切ることができた。弁護士にとっても、個人の愛好家からの支援は Digital Frost Project への期待の表れということで、このプロセスは好意的に受け取られた。

次にアーキビストが人手不足でテープの内容を確認できず、弁護士が著作権の調整に必要としている情報を提供できない問題。これはアメリカ文学者の私が担える。なぜなら、私が史料を検証し注釈を準備する際にテープ起こしの作業は必須で、この作業工程を通して弁護士が必要としている項目をリスト化できるからだ。

最後に、すでにあるものを活用することで「必要最低限で持続可能なデジタル技術の活用方法」を目指す minimal computing の理念に沿って、デジタル史料はアーカイブのレポジトリーにあるものを直接利用し、私がデザインするのは史料を閲覧する際のインターフェースのみに留めた。そうすることで私が弁護士から得るオープンアクセス許可が、インターフェース上に書写・注釈・解説と並んで直接埋め込まれている講演会音源のホスト・アーカイブ・レポジトリーまで届く設定だ。つまりデジタル史料は、編纂作業と著作権の調整を終えたものから、Digital Frost Project とアーカイブで同時一般公開される仕組みである。

図2に示された相互扶助の関係をまとめると、次の通り。1)Digital Frost Project とアーカイブの資金共有、2)アーキビストによる史料の保全と敷地内閲覧目的のためのデジタル化、3)文学研究者による史料の編纂作業と、それに基づいた弁護士との著作権の調整、4と5)アーカイブのオンラインレポジトリーと Digital Frost Project によるデジタル史料の同時一般公開。

モチツモタレツOA は、Digital Frost Project 発足当初からの目的を達成するための実験的出版構造だ。どうしたら Frost に関する史料を誰もが閲覧し、議論に参加できる空間を提供することができるか?著作権の問題を避けて通るのではなく、資金源とスキル共有という観点からチームの枠組みで捉え直し、まさに Gil が唱える minimal computing の「必要に迫られた物づくり」の考え方を体現している。史料のデジタル化を巡る試行錯誤はおもしろい。

[1] 詳しくは ADHO Special Interest Group (SIG) Global Outlook :: Digital Humanities (GO::DH) の minimal computing webページか、Digital Humanities Quarterlyminimal computing 特別号をご覧いただきたい。Minimal computing の理念が技術的に応用される場合、static website といって、データベースを介さず主にHTLMで書かれたサイトづくりを指す場合が多い。Static website チュートリアルにご関心がある方は、Amanda Visconti の “Building a static website with Jekyll and GitHub Pages” をご覧ください。
[2] Gil, Alex. 2015. “The User, the Learner and the Machines We Make · Minimal Computing.” Minimal Computing. May 2015. https://go-dh.github.io/mincomp/thoughts/2015/05/21/user-vs-learner/.
[3] 詳しくは2023年にTextual Cultures から出版予定の論文 “The Tyranny of Prose & A Transmission History of Robert Frost’s Public Talks” をご覧ください。

執筆者プロフィール

横山説子(よこやま・せつこ)。シンガポール工科デザイン大学人文学・社会科学クラスター助教。専門はデジタル・スタディーズ。現在の研究は、自動文字起こし技術 (speech-to-text technology) の社会政治史。教育面では、理系学部生のためのデジタル人文学副専攻プログラムのあり方を模索中。
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《連載》「Digital Japanese Studies 寸見」第90回

島根大附属図書館、同館デジタルアーカイブに地域資料を追加

岡田一祐北海学園大学人文学部講師

島根大学附属図書館(以下同館)は、2022年9月16日、河本家所蔵資料と手錢美術館所蔵資料をそれぞれ同館のデジタルアーカイブ(以下、同館デジタルアーカイブ)に追加することを発表した[1][2][3]。これらの資料は、河本家住宅保存会・手錢美術館(旧手錢記念館)・島根大学附属図書館が共同で運営する TRC-ADEAC 社のデジタルアーカイブシステム ADEAC 上の山陰地域史資料アーカイブに掲載されていたが[4]、山陰地域史資料アーカイブ掲載分については、一定の移行期間ののちサービス終了することもあわせて発表されている。

同館デジタルアーカイブと山陰地域史資料アーカイブとについては、かつて本連載で触れたことがある[5]。そのときと比べると、同館デジタルアーカイブについては、二次利用ライセンスを改定・原則オープン化し[6]、学内限定コンテンツや認証コンテンツの搭載を開始するなどの変化があった[7]。なお、旧稿では同デジタルアーカイブを2009年からとしていたが、[7]によれば、学内での運用は2008年に遡るものらしい。山陰地域史資料アーカイブは、2015年から運用されていたもので、当初は河本家所蔵資料の公開がされていた。その後、2018年に手錢記念館(当時)の資料が公開されたようである[8]。

大学のデジタルアーカイブに地域資料をそのまま搭載することはそう多いことではない。同館デジタルアーカイブの運用要項には[9]、登録対象資料として、「本学外の図書館又は博物館等の機関及び個人(以下「学外機関等」という。)が所蔵する学術資料で、本学の研究・教育の対象となるもの」を掲げる。この2機関は、とりわけ島根大学とも関係の深い組織だと思われるが、それでも、このような条項を掲げることがもたらす効果として見るべきもののように思われる。

さて、今回の同館デジタルアーカイブへの資料追加が山陰地域史資料アーカイブから同館デジタルアーカイブへの移行と言えるかはすこしはっきりしないところがある。ADEAC は、レコードと目録、あるていど可変性の高い HTML ページから構成されるようであり、いわゆる CMS としてはブログ寄りの仕組みである。それに対して、同館デジタルアーカイブの採用するシステムは、ENU Technologies 社のシステムをカスタマイズしたものだというが[7][10]、リポジトリ等で採用されるシステムに近く、検索システム系を閲覧しやすく工夫するものである。善し悪しはさまざまあろうが、こちらのほうが近年のデジタルアーカイブシステムとして一般的である。そのため、利用様態にもよるが、単純な移行は原理的に難しいのである。

詳細を検討することはできないが、執筆時(9/20時点)で、両アーカイブで「日記」をキーワードに検索してみたところ、同館デジタルアーカイブでは「手錢家文書」5件と「河本家古典籍」9件がヒットし、山陰地域史資料アーカイブでは、「手錢家文書」8件と「河本家古典籍」9件がヒットした。結果の異なった「手錢家文書」について比較してみると、山陰地域史資料アーカイブでは目録の内容および雑誌記事にもヒットがあったいっぽう、同館デジタルアーカイブでは、それらの内容がヒットしなかったようである(目録の情報量がそもそも異なり、同館デジタルアーカイブのほうが簡素である)。コレクション全体の件数としても、山陰地域史資料アーカイブでは「手錢家文書」424件に対して、同館デジタルアーカイブ422件、「河本家古典籍」は1,007件に対して1,006件と、とにかくも単純な移行とはなっていないことが窺えるのである。また、山陰地域史資料アーカイブ全体が廃止されるのか、そこにあって同館デジタルアーカイブにないものがほかにもあり(目録や参考資料など)、それがどうなるかは執筆時の調査では把握しきれなかった。

目録の情報量が異なることをさきに述べたが、翻刻も現状では山陰地域史資料アーカイブから同館デジタルアーカイブへ移行がなされていないようだ[11]。翻刻支援機能が実装されているということなので[12]、データとして失われたわけではないのだろうが、どう一般に利用できるかたちになるか気になるところである。そもそも、同館デジタルアーカイブに直接組み込まれないのかもしれない。同館デジタルアーカイブには、小泉八雲の自筆書簡画像データが追加されているが、その本文提供はバーチャル展示という形式を取っている[13]。システム設計としての相違がある以上、同じようにはできないのはやむを得ないことであり、URI の同一性もコンテンツという単位は大きすぎるところがあって、担保しにくい側面はたしかにあるものである(かつて本連載で述べたことと齟齬するようであるが)。

移行という点でもうすこし触れると、[2]・[3]には、「(※移行期間ののち ADEAC システムから画像データはなくなりますが、島根大のデジタルアーカイブの当該資料画像へのリンクが付与されますので、引き続き ADEAC 経由での利用も可能です)」という記載がある。その意味するところはかならずしも自明ではないが、山陰地域史資料アーカイブそのものは引き続き公開され、画像データについては削除のうえ同館デジタルアーカイブへのリンクに置き換わるということかとも思われる。参照地点の永続性という点で最良ではない(インターネットの仕組みを利用した移行ではない)が、現実世界の制約としては、次善の策とは言えようか。

デジタルアーカイブが一般化したつぎの段階として、システムの移行ということが問題となってくるのは必然的なことである。また、今回のように、サービスを超えた移行というものも、今後増えてくるものであろう。島根大学附属図書館は、デジタルアーカイブの導入においてもはやい段階で取り組んだ組織であり、が、それゆえにこのような課題にもはやく取り組むこととなった。その点で注目に値する点は多々あるものと思われる。

[2] デジタルアーカイブに地域資料(河本家所蔵資料)を追加しました | 島根大学附属図書館 https://www.lib.shimane-u.ac.jp/new/2022091600011/
[3] デジタルアーカイブに地域資料(手錢美術館所蔵)を追加しました | 島根大学附属図書館 https://www.lib.shimane-u.ac.jp/new/2022091300010/
[4] 河本家住宅保存会・手錢記念館・島根大学附属図書館/山陰地域史資料アーカイブ https://trc-adeac.trc.co.jp/WJ11C0/WJJS02U/3290515100
[5] 「島根大学附属図書館デジタル・アーカイブと近畿大学貴重資料デジタル・アーカイブ」『人文情報学月報』82、2018年。
[6] E2221 - 島根大学附属図書館デジタルアーカイブのライセンスの改定 | カレントアウェアネス・ポータル https://current.ndl.go.jp/e2221
[7] CA1988 - 島根大学附属図書館デジタルアーカイブの IIIF Authentication API 導入 / 青柳和仁 | カレントアウェアネス・ポータル https://current.ndl.go.jp/ca1988
[8] 「お知らせ」 https://trc-adeac.trc.co.jp/render/news/ に2018年9月28日付けで「『河本家住宅保存会/手錢記念館/島根大学附属図書館/山陰地域史資料アーカイブ』(旧・河本家住宅保存会/島根大学附属図書館/河本家古典籍)をリニューアルしました。」とある。
[9] SUL Digital Archive の「6. 関連規則」。
[10] 以下のページの採用事例がそれかと思われる。
Earmas V2 - ENU Technologies http://www.enut.jp/ja/page/Earmas-v2.
[11] 山陰地域史資料アーカイブで翻刻ありとされる以下のもので確認した:
ADEAC(アデアック):デジタルアーカイブシステム
さりつ文集 - SUL Digital Archive
[12] 島根大学附属図書館デジタルアーカイブ、認証コンテンツを搭載:デジタル化資料の翻刻支援機能も実装 | カレントアウェアネス・ポータル https://current.ndl.go.jp/node/40520
[13] 島根大学附属図書館、同館デジタルアーカイブに小泉八雲の自筆書簡画像データを公開 | カレントアウェアネス・ポータル https://current.ndl.go.jp/node/46706
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《連載》「欧州・中東デジタル・ヒューマニティーズ動向」第51回

静的サイトジェネレータ Jekyll・Hugo・Gatsby、および、Gatsby と CETEIcean を用いた TEI デジタル学術編集版のウェブサイト化

宮川創人間文化研究機構国立国語研究所研究系

静的サイトジェネレータ(SSG)とは

昨今いわゆる static site generator(SSG;静的サイトジェネレータ)の、デジタルヒューマニティーズ(DH)における実用性が高くなってきている。ニューカッスル大学で今月開催された TEI2022[1]では、DH のテキスト構造化の世界標準である TEI を、SSG の一つである Gatsby で生成したウェブサイト上に表示させるプログラムのワークショップがあった。このことについては、本稿の最後のセクションで解説する。

静的サイトとは、サーバサイドで動くプログラムやデータベースなどの動的なコンテンツを有しないウェブサイトのことであり、WordPress[2]などを使った動的サイトよりも、軽量であるため高速で表示される[3]。それに、データベースがなくサーバ側に介入されにくいためセキュリティが堅固である。もちろん、HTML を一から打ち込む、もしくはテンプレートの HTML 部分を変更して作成したサイトも静的サイトの1つである。しかし、このようなサイトを大人数で作成する際、全員が HTML や CSS の知識を有していることが必要である。そのため、WordPress など、視覚的にウェブサイトのページを追加・編集できるコンテンツ管理システム(CMS)が、プロジェクトのウェブサイトに用いられてきた。デジタルアーカイブでよく用いられている Drupal[4]や Omeka Classic もしくは Omeka S[5]も CMS である。

しかしながら、今回紹介する SSG は、コンテンツ自体は、Markdown 記法など学習コストが低い記法で書かれており、基本的に Markdown 記法さえ覚えれば、容易にコンテンツを作成することができる[6]。例えば、Markdown では、見出し1は、見出しのテキストの前に#、見出し2は##を行の先頭につける。リストは、*もしくは-を個々のアイテムにつけ、タブキーで字下げすれば、リストも下部リストになり、数字.を使えば、番号付きリストになる。---ではライン挿入、* *でテキストを囲めばイタリック、** **でテキストを囲めば太字になるなど、記法は非常に簡単である。

Jekyll(ジキル)と GitHub Pages

SSG によるウェブサイト開発に関しては、筆者は Jekyll から入門した。Jekyll は、Ruby 言語で書かれているプログラムで、GitHub Pages[7]で使用されていることで有名である。GitHub は、バージョン管理システム Git を装備させた、開発プラットフォームで、チーム、または、クラウドソーシングで、プログラムを開発するのによく用いられている。GitHub Pages は、プログラムやプロジェクトの紹介 Web ページを簡単に作るもので、いくつかのテーマを選んで、readme.md というマークダウンファイルに web ページで表示するテキストを書くと、それが、Web ページとして表示される。

GitHub Pages を利用すれば、ターミナルやコマンドラインを触らずにマークダウンファイルだけでウェブサイトが作れてしまう。自前の環境で Jekyll を使用するには、まず、ruby -version コマンドで Ruby がコンピュータにインストールされていることを確認した後、RubyGems から gem install jekyll コマンドで jekyll をコンピュータにインストールする。もし、Ruby さえインストールされていない場合は、Ruby をインストールしなければならない。また、bundler というプログラムも Jekyll を起動するときに必要であるため、gem install bundler でインストールしておく。次に bundle exec jekyll new mywebsite というコマンドを用いれば、jekyll サイトが作成できる。mywebsite フォルダに移動した後、bundle exec jekyll serve で作成した jekyll のウェブサイトを起動できる。http://localhost:4000/ をブラウザで開くと作ったウェブサイトが表示できる。Jekyll は多数のテンプレートがあり、好きなテーマをその中から選ぶことができる。テンプレートは、Jamstack Themes というウェブサイトでは324個用意されている[8]。

しかし、このままだとローカルのコンピュータで作成したウェブサイトを表示できるだけである。ウェブサイトとしてインターネット上でどこからでも表示できるようにするには、まず、このウェブサイトをビルドして、デプロイしなければならない。ビルドの方法は簡単で、1つのコマンドを実行するだけであり、その後、作成されたファイルを、サーバにアップロードする。サーバは自前のものでも、さくらのレンタルサーバ[9]や Netlify[10]、Reclaim Hosting[11]などのレンタルサーバでも良いし、GitHub をウェブサーバ代わりに用いても構わない。

Hugo(ヒューゴ)と Gatsby(ギャツビー)

Jekyll の他に、有力な SSG としては、Hugo[12]と Gatsby[13]がある。どちらも Jekyll より新しく、Jekyll と同じく少ないコマンドでウェブサイトを立ち上げることができる。Hugo は Google が開発した Go 言語、Gatsby は JavaScript のフレームワークである、Facebook が開発した React を用いている。Jamstack Themes では、Hugo には、現在112のテーマ・テンプレートが用意されており[14]、Gatsby には、234のテーマが用意されている[15]。Jekyll のテーマも含め、これらの SSG のテーマの中には、JavaScript を用いた全文検索機能を最初から装備しているものがあったり、ライトモードとダークモードを切り替えることができるものも存在する。これらの SSG を用いて、様々な機能に富んだ静的コンテンツのデジタルアーカイブを作成することが可能である。

図1:Hugo(テーマは Hugo Curious[16])によって作られたウェブサイト(左)と Markdown 記法で書かれたページの元データ(右)

Gatsby と CETEIcean(シーティーシャン)による TEI のウェブサイト化

そして今回、TEI2022ニューカッスル大会で、Raffaele Viglianti 氏によって、CETEIcean を通して直接 TEI ファイルを Gatsby のウェブサイトに取り込むプログラムのワークショップが開催された[17]。筆者は、自身の発表が他にあり、残念ながらこのワークショップに参加することができなかったが、実際に参加した共同研究者からその詳細を聞くことができた[18]。

このプログラムを用いれば、非常に簡単に、 デジタル学術編集版として作成した TEI ファイルをウェブサイト化して公開することができる。このプログラムを使用するには、まず、GitHub 上からこのプログラムをダウンロードするか、git clone を用いる[19]。そして、ダウンロードしたファイルに cd gatsby-ceteicean-workshop で移動し、そこでまず npm -i というコマンドを実行した後、npm start を実行する。その後、ブラウザ上で localhost:8000をアドレスバーに入力し、エンターキーを押すと、次のサイトが表示される。

図2:ウェブサイト上で TEI を表示した画面

元のデータの TEI ファイルは以下である。

図3:TEI XML の元データ

static フォルダのなかに TEI ファイルを追加すれば、それが図2のようにウェブサイトで表示される。表示などを変えたい場合は、scripts および src フォルダ内部の JavaScript や CSS のファイルをカスタマイズする必要がある。これは CETEIcean という TEI をウェブサイトに表示する JavaScript ライブラリを用いている。TEI と JavaScript の知識があれば、自由自在に TEI ファイルからウェブサイトを作成することがこれで可能である。

以上、Jekyll・Hugo・Gatsby という3つの SSG と、Gatsby と CETEIcean を用いた TEI デジタル学術編集版のウェブサイト化について述べた。SSG によるウェブサイト開発は、セキュリティ面の強さと読み込みの速さ、テーマや機能の豊富さから、これからデジタルアーカイブやデジタル学術編集版への応用が増えてくると期待される。

[1] TEI2022, accessed September 18, 2022, https://conferences.ncl.ac.uk/tei2022/.
[2] “WordPress.org: Blog Tool, Publishing Platform, and CMS,” WordPress.org, accessed September 18, 2022, https://wordpress.org/.
[3] ただし、WordPress を静的サイトにするプラグインも存在する。
[4] “Drupal - Open Source CMS,” Drupal.org, accessed September 18, 2022, https://www.drupal.org/.
[5] “Omeka,” omeka.org, accessed September 18, 2022, https://omeka.org/.
[6] Markdown 記法の詳細については、「非エンジニア向けの Markdown 記法入門」BioTech ラボ・ノート、閲覧日2022年9月18日、https://biotech-lab.org/articles/3211 など多数の入門サイトがある。Markdown 記法で書かれたファイルは、拡張子 .md で保存する。
[7] “GitHub Pages | Websites for you and your projects, hosted directly from your GitHub repository. Just edit, push, and your changes are live,” GitHub Pages, accessed September 18, 2022, https://pages.github.com/.
[8] “Jekyll Themes,” Jamstack Themes, accessed September 19, 2022, https://jamstackthemes.dev/ssg/jekyll/.
[9] さくらのレンタルサーバ、最終閲覧日2022年9月19日、https://www.sakura.ad.jp/.
[10] “Netlify: Develop & deploy the best web experiences in record time,” Netlify, https://www.netlify.com/.
[11] “Reclaim Hosting – Take Control of your Digital Identity,” Reclaim Hosting, accessed September 19, 2022, https://reclaimhosting.com/.
[12] “Hugo: The world's fastest framework for building websites,” HUGO, https://gohugo.io/.
[13] “The Fastest Frontend for the Headless Web,” Gatsby, accessed September 19, 2022, gatsbyjs.com.
[14] “Hugo Themes,” Jamstack Themes, accessed September 19, 2022, https://jamstackthemes.dev/ssg/hugo/.
[15] “Gatsby Themes,” Jamstack Themes, accessed September 19, 2022, https://jamstackthemes.dev/ssg/gatsby/.
[16] “vietanhdev/hugo-curious,” GitHub, accessed September 19, 2022, https://github.com/vietanhdev/hugo-curious.
[17] Viglianti, Raffaele, “Adapting CETEIcean for static site building with React and Gatsby,” Zenodo, accessed September 19, 2022, https://zenodo.org/record/7085753#.Yyd3rexBxCU. なお、CETEIcean は、TEI をウェブサイトにして表示する JavaScript のライブラリである。”CETEIcean,” GitHub, accessed September 19, 2022, http://teic.github.io/CETEIcean/ を参照。
[18] この情報を伝えてくださった、筆者の共同研究者である加藤幹治氏(東京外国語大学・日本学術振興会)に感謝を表する。
[19] ワークショップの教材などは、GitHub で公開されている。Viglianti, Raffaele, “raffazizzi/gatsby-ceteicean-workshop,” GitHub, accessed September 19, 2022, https://github.com/raffazizzi/gatsby-ceteicean-workshop. 他にも、このワークショップで用いられたスライドが次で入手可能である。Viglianti, Raffaele, “Building TEI-powered websites with static site technology: A hands on exploration of the publishing toolkit of the Scholarly Editing Journal” https://docs.google.com/presentation/d/1u_TpHrenyI0uBmb9jU0Sm9XeGNaatKWtpxWY8ZSJdt4/edit#slide=id.g1355503e369_2_182.
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