ISSN 2189-1621

 

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DHM 036 【後編】

人文情報学月報
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄Digital Humanities Monthly

             2014-07-26発行 No.036 第36号【後編】 490部発行

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 ◇ 目次 ◇
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

【前編】
◇《巻頭言》「板木デジタルアーカイブ構築・公開とその効用」
 (金子貴昭:立命館大学衣笠総合研究機構)

◇《連載》「Digital Humanities/Digital Historyの動向
      ~2014年6月中旬から7月中旬まで~」
 (菊池信彦:国立国会図書館関西館)

◇《特集》「デジタル学術資料の現況から」第5回
 「Enigma 中世写本のラテン語の難読箇所を解決する」
 (赤江雄一:慶應義塾大学)

【後編】
◇人文情報学イベントカレンダー

◇イベントレポート(1)
CH102 人文科学とコンピュータ研究会参加報告
 (永崎研宣:一般財団法人人文情報学研究所)

◇イベントレポート(2)
2014年度アート・ドキュメンテーション学会年次大会
シンポジウム「芸術アーカイブと上野の杜連携」および研究発表会
 (古賀 崇:天理大学人間学部総合教育研究センター)

◇イベントレポート(3)
情報メディア学会第13回研究大会報告
 (天野 晃:理化学研究所バイオリソースセンター
  石川大介:科学技術・学術政策研究所
  角田裕之:鶴見大学 文学部
  中林幸子:東北文教大学短期大学部 総合文化学科
  原島大輔:東京大学大学院 総合文化研究科
  岡野裕行:皇學館大学 文学部
  植松利晃:科学技術振興機構 総務部
  岡部晋典:同志社大学 学習支援・教育開発センター)

◇編集後記

◇奥付

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【人文情報学/Digital Humanitiesに関する様々な話題をお届けします。】
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◇人文情報学イベントカレンダー(□:新規掲載イベント)

【2014年7月】
□2014-07-22(Tue)~2014-08-01(Fri):
Summer School "Digital Humanities & Language Resources" @Leibzig
(於・ドイツ/Leipzig)
http://www.culingtec.uni-leipzig.de/ESU_C_T/node/97

【2014年8月】
■2014-08-02(Sat):
情報処理学会 第103回 人文科学とコンピュータ研究会発表会
(於・兵庫県/兵庫県立歴史博物館)
http://www.jinmoncom.jp/

【2014年9月】
□2014-09-06(Sat)~2014-09-07(Sun):
Code4Lib JAPANカンファレンス2014
(於・福井県/鯖江市図書館)
http://www.code4lib.jp/2014/06/1166/

□2014-09-06(Sat)~2014-09-07(Sun):
露光研究発表会 2014
(於・沖縄県/沖縄県立芸術大学)
http://rokouken2014.wordpress.com/

□2014-09-19(Fri)~2014-09-21(Sun):
JADH2014
(於・茨城県/筑波大学)
http://conf2014.jadh.org/

■2014-09-20(Sat):
計量国語学会 第58回大会
(於・東京都/東洋大学 城山キャンパス)
http://www.math-ling.org/

Digital Humanities Events カレンダー共同編集人
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小林雄一郎(日本学術振興会特別研究員PD)
瀬戸寿一(東京大学空間情報科学研究センター)
佐藤 翔(同志社大学教育文化学科 助教)
永崎研宣(一般財団法人人文情報学研究所)

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◇イベントレポート(1)
CH102 人文科学とコンピュータ研究会参加報告
http://jinmoncom.jp/index.php?%E9%96%8B%E5%82%AC%E4%BA%88%E5%AE%9A%2F%E7...
 (永崎研宣:一般財団法人人文情報学研究所)

 2014年5月31日、年間4回開催される、情報処理学会・人文科学とコンピュータ研
究会の2014年度第一回目の研究発表会が桜美林大学にて開催された。本メールマガ
ジンではこれまでに何度も採り上げてきた研究会である。今回も、筆者自身が研究
発表をさせていただく一方で、新規に参加された発表も数グループあり、見応えの
ある研究会となった。個別の発表タイトルと概要については上述のURLを参照された
い。特に今回の目玉は数年来恒例化しつつある学生によるポスター発表特集と学生
奨励賞であった。今回のエントリは3グループだったが、学術データベース、時空間
情報アーカイビング、ソーシャルリーディングと、いずれの発表も目的設定が明確
でありながら手法も適切に吟味されており、本研究会の発表としては将来に期待が
持てるものばかりであった。ポスター発表ということで、研究会の常連(筆者もこ
ちらに入る)から新しく参加した方々まで、様々な参加者のそれぞれの文脈に基づ
く多方面からの鋭い質問に延々と答え続けるという難行をそれぞれに見事にこなし
ていたことも印象的であった。結果として、学生奨励賞は岩崎陽一氏が受賞した。

 締めくくりには、企画セッションとして主に奈良文化財研究所で展開されている
「古代木簡研究と情報技術」に関わる研究発表があった。このセッションでは、木
簡研究の現在に至る経緯とそのデジタル化を巡る状況が報告され、活発なディスカ
ッションも行なわれるなど、大変充実したものとなった。

 なお、本研究会は査読制を採っていないことから、色々な種類の発表を受容して
きた経緯があり、学術性についての判断が筆者にはやや難しいようなものも散見さ
れた。また、既存の先行事例を十分に踏まえていない発表もあり、質疑応答におい
てコメントを受ける場面もあった。そのようなことから、本研究会は単なる先端的
な発表の場というだけでなく、むしろ発展途上の研究実践を鍛え上げていく場とし
て機能していく役割をも担っているのだろうという思いを改めて確認した回であっ
た。読者の皆様におかれても、機会があればぜひご参加いただきたいところである。

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◇イベントレポート(2)
2014年度アート・ドキュメンテーション学会年次大会
シンポジウム「芸術アーカイブと上野の杜連携」および研究発表会
http://www.jads.org/news/2014/20140607.html
 (古賀 崇:天理大学人間学部総合教育研究センター)

 2014年6月7日(土)・8日(日)に、東京藝術大学(以下、東京藝大と略記)音楽
学部において、2014年度アート・ドキュメンテーション学会(JADS)年次大会が開
催された。以下、あくまで個人的な関心に絞ったところで、大会の参加報告をまと
めることとしたい。

 1日目には「芸術アーカイブと上野の杜連携」と題するシンポジウムが開催され、
東京藝大総合芸術アーカイブセンター( http://archive.geidai.ac.jp/ )の取り
組みを中心に据えつつ、「上野の杜」に位置する東京国立博物館、東京文化会館音
楽資料室(2014年12月中旬まで休室中)の活動も含め、芸術関連のアーカイブやデ
ータベースの取り組みが紹介された。

 この中で、何より個人的関心をひいたのが「藝大ミュージックアーカイブ」であ
った( http://arcmusic.geidai.ac.jp/ )。これは、東京藝大がかかわる各種演奏
会・公演の記録について、学内での権利処理手続きを済ませた後、「視聴・複製・
配信」のためにデジタルデータを活用する、という取り組みである。残念ながら学
外だとパンフやプログラム以外はほとんど見られないのが現状だが、今大会では学
内配信分として、演奏の録音・録画の一部を視聴することができた。報告者の山田
香・特任助教(作曲家)は、「教育利用における複製使用料について、他の機関と
連携しつつ、著作権管理団体との交渉を進めたい」(例えばシュニトケの作品につ
いては使用料が過度に高く、録音・録画アーカイブの使用を断念した)と話された
ので、具体的なところを当方から尋ねたところ、藝大のような取り組みは海外も含
めまだ確認できておらず、連携もこれからの課題との返答をいただいた。ともあれ、
こうしたアーカイブは芸術教育の蓄積を後世に伝えていく取り組みとして実に興味
深い。また、著作権の面など課題は多いが、演奏会・公演の記録について外部への
公開が進めば、東京藝大ないし日本の音楽史における「埋もれた音楽活動」の掘り
起こしにもつながるであろう。

 同じく音楽方面の取り組みになるが、橋本久美子・特任助教が報告された、同セ
ンターの「大学史史料室」の活動も興味深く拝聴した。とりわけ東京藝大の前身の
ひとつである東京音楽学校への依嘱作曲の復元音源公開の準備作業を進めるにあた
り、“作詞者不明、作詞者の生没年が不明、歌詞公募作品で作詞者名が公表された
か不明、使用形跡不明など、音源使用には著作権上の問題があることが確認された”
(予稿集より)作品が多いという事情、そして著作権上の問題を解消するための具
体的な「努力」が強いられた事情が、ユーモアをもって語られた。埋もれた音楽作
品の「復元」が、実際には「初演」になり得る(つまり今まで上演の機会がなかっ
た)、という側面もあるという。

 さて、2日目には以下の研究発表が行われた。
(1)嘉村哲郎・佐野隆
  「データの再利用性を考慮した演奏会情報管理システムの構築」
(2)小林美貴・嘉村哲郎
  「Linked Open Dataの技術を利用した『技法・材料』用語整理の試み-東京藝
   術大学卒業・修了制作作品集を中心に」
(3)三輪紫都香・田良島哲
  「明治期における博物館への寄贈者について」
(4)若月憲夫・石川敦子
  「博覧会資料とアート・ドキュメンテーション」
(5)阿児雄之・奥本素子・加藤幸治
  「被災文化財レスキュー活動の記録情報群に基づく活動再現への試み」

 これらの中では、(2)においてLinked Open Data(LOD)の意義、具体的には
Getty財団のArt & Architecture Thesaurus(AAT)の意義を改めて実感した。すな
わちAATは2014年2月よりLOD方式で公開されており、オープンソースの用語辞書とい
う位置づけを得た。よって、AATの各項目の解説文まで、自作システムに取り込んで
活用できるという。また(4)については、2012・13年にさいたま・広島で開催され
た「日本の70年代 1968-1982」展(大阪万博を扱う)や、2013年・14年に東京・大
阪・京都で開催された「暮らしと美術と高島屋」展(明治期の博覧会を扱う)に見
られる通り、「日本美術史における博覧会の位置づけ」が再評価されつつある印象
を受ける。この観点も含め、発表者が所属する(株)乃村工藝社での博覧会資料(
https://www.nomurakougei.co.jp/expo/ )の分析・調査が進むことを期待したい。

 最後になるが、今回の大会において、「第8回野上紘子記念アート・ドキュメンテ
ーション学会賞」を岡野裕行氏が、同「推進賞」を飯野正仁氏が受賞された。詳細
は下記のページに譲るが、「アート」「アート・ドキュメンテーション」にとどま
らず、さまざまな領域に寄与しうる業績を世に送り出したご両名に、心より敬意を
表しつつ、お祝い申し上げる。
http://www.jads.org/award/NOGAMI2014.pdf

 なお今回の大会については、詳しくはJADSの『アート・ドキュメンテーション通
信』誌でも追って詳細が報告される予定だが、さしあたってはTwitterでのまとめ(
ハッシュタグ:#JADS2014)もご参照いただければ幸いである。
https://twitter.com/search?f=realtime&q=%23JADS2014&src=hash

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◇イベントレポート(3)
情報メディア学会第13回研究大会報告
http://www.jsims.jp/kenkyu-taikai/yokoku/13.html
 (天野 晃:理化学研究所バイオリソースセンター
  石川大介:科学技術・学術政策研究所
  角田裕之:鶴見大学 文学部
  中林幸子:東北文教大学短期大学部 総合文化学科
  原島大輔:東京大学大学院 総合文化研究科
  岡野裕行:皇學館大学 文学部
  植松利晃:科学技術振興機構 総務部
  岡部晋典:同志社大学 学習支援・教育開発センター)

 去る2014年6月28日(土)、科学技術振興機構(東京)にて「情報メディア学会第
13回研究大会」を開催した。本レポートでは、当日行われたパネルディスカッショ
ンを中心に報告する。

 情報メディア学会では、「情報」と「メディア」にかかわる広範なテーマを扱っ
ている。たとえば、これまでの研究大会の基調シンポジウムでは、「ビッグデータ
」「人工知能」「データのカストディアン」「ディスカバリーサービス&ラーニン
グコモンズ」といったさまざまなテーマを取り上げている。今回の研究大会では、
「デジタル化を拒む素材とアウトリーチ」というタイトルでパネルディスカッショ
ンを開催した。

 現在、韓国や中国などが資料のデジタル化を積極的に進めている一方で、日本の
取り組みは遅れており、デジタル化資料の生産や流通が貧弱であるといわれている。
その結果、資料へのアクセス困難性が高まり、海外からの日本研究が減少している。
また、近年注目を集めているトピックスのひとつに、「若手研究者問題」がある。
若手研究者が大学にポストを獲得することが困難になっており、研究機関に籍を置
いていないがために、研究用の資料にアクセスできないといった状況が問題視され
ている。

 こういった問題を俯瞰しつつ議論を深めるために、デジタル化資料を「つくる」
「つたえる」「つかう」という三つの視点を設定し、それらについて議論していた
だけるコーディネータ、パネリストをお招きした。コーディネータとして、国際日
本文化研究センターの司書であり、『本棚の中のニッポン』の著書でも知られる江
上敏哲氏にご登壇いただいた。また、パネリストとして、国立国会図書館の大場利
康氏(当日は個人の立場として登壇)、公益財団法人渋沢栄一記念財団実業史研究
情報センターの茂原暢氏、株式会社ネットアドバンスのJapanKnowledge営業担当者
である田中政司氏、花園大学文学部文化遺産学科で情報歴史学を専門とする後藤真
氏の4名をお招きした。

 まず、江上氏から「なぜデジタル化は進まないのか」「ユーザはどこにいるのか
」という大枠としての問いが投げかけられた。

 大場氏は、あくまでも本日は個人としての登壇であると断りつつ、主に「つくる
」の視点で議論をいただいた。資料のデジタル化には「アクセス改善」と「現物の
代替」という二つの大きな目的があるものの、(1)通覧性が欠落してしまうこと(
=不便)、(2)著作権保護の観点から情報が勝手に流通してしまうこと(=不安)、
(3)紙そのもの持つ質感などの情報が欠落してしまうこと(=不足)、という3点
がリスクとして存在することが指摘された。

 実業史研究情報センターの茂原氏からは、実際にデジタルアーカイヴを運用し、
メールマガジンやブログを用いて広報を行っているご経験から、主に「つたえる」
の視点で議論をいただいた。国立国会図書館などの他機関からリンクされていない
データベースをいかにしてユーザに発見してもらうか、現行の技術が30年後にもそ
のまま使えるのかといった問題のほか、こういったデジタルアーカイヴを運用し続
けるための人(4つ目の「つ」となる「つづける」の提案)が必要であることが指摘
された。

 ネットアドバンスの田中氏からは、実際に海外での営業を行ったご経験から発表
いただいた。「JapanKnowledge」という名称が海外では受け入れやすいこと、通常
の図書館では物品に対する支払いには慣れているものの、データベースという契約
形態での費目に図書館側も困っている(いた)こと、海外の司書は大きな決済権を
持っているために、交渉の場で即座に契約がまとまる場合もあること、CDやDVDによ
る納品は嫌がられる傾向にあることが言及された。また、日本での料金体系はその
まま海外の図書館で通用しないこと(日本研究者は大規模大学でもごく一握りのた
め)、日本語はマイナー言語であると日本側の提供者が思い込んでいることなどが
指摘された。

 情報歴史学の後藤氏からは、とくに研究者の立場から「つかう」の視点について
お話をいただいた。歴史学のデジタルアーカイヴの現状として、画像が主体であっ
た過去からテキストへと回帰する潮流があること、著作権が切れていても所蔵者か
ら許可が下りないためにデジタル化が不可能なこと、東寺百合文書のCC-BYが画期的
なものであること、データベースによっては利用資格のフィルタリングがかかる場
合があること、などの実例が指摘された。また、無料でデータベースが公開されて
いたとしても、何らかの研究機関に正式に所属していない場合には、その利用が制
限されてしまうという例もあることが紹介された。

 登壇者全員によるディスカッションでは、上記の論点を踏まえたさまざまな議論
が行われた。デジタルアーカイヴの持続可能性については、国立国会図書館の任務
の一つであるために今後も続けていくしかない(大場氏)、商用データベースなの
でカスタマーがいる限りは続けていくつもりだが、運用し続けられない状況に陥っ
た際に備えてDVDでも画像データを渡している(田中氏)、紙媒体が残されていれば
研究は続けられるが、データベースを維持し続けられなくなった場合に備えてライ
センスを整備しておく必要がある(後藤氏)、などのご意見をいただいた。人材育
成の問題については、「やれるひとがやる」という姿勢がこれまで主であったため、
注意がそれほど払われなくなっているが、ジェネラリスト的なスキルが必要である
という議論が行われた。そのほか、ビジネスモデルの問題、コスト的問題、データ
の可視化、アクセス容易性の問題など、終始ディスカッションは盛り上がった。ま
た、サービスに満足したユーザは黙っているケースが多いが、サービスを改善する
ために上層部を説得する材料にもなるので、サービス提供側としては「どのような
声でも意見をほしい」という切実なニーズがあることが指摘された。とくに「内部
の抵抗勢力をかいくぐるために、外部の好意的な意見を味方につける」という点は、
ユーザ側からはなかなか分かりにくい貴重な発話であったと考えられる。

 紙幅の都合上、本報では本シンポジウムで行われた多面的な議論のごく一部しか
記述できていないが、当日の映像記録の全編をYouTubeにアップロードしているので、
詳細についてはそちらを確認していただきたい。

・「情報メディア学会 第13回研究大会 パネルディスカッション「デジタル化を拒
む素材とアウトリーチ」」
 ( http://youtu.be/qpq9zqf9V1I

 そのほか、江上氏によるコーディネータのための準備や振り返りについてのブロ
グ記事は必読である。
・「パネルディスカッションのコーディネータをユーやっちゃいなよと言われたの
でドゥしたらどうだったかについて。」
 ( http://egamiday3.seesaa.net/article/400797440.html

 また、フロア参加者によるブログ記事などもあり、そちらも同時に参照されたい。
・「第13回情報メディア学会研究大会発表パネルディスカッション「デジタル化を
拒む素材とアウトリーチ」に行ってきた。~その1」(2014年6月29日)
 ( http://d.hatena.ne.jp/xiao-2/20140629/1404050455
・「第13回情報メディア学会研究大会発表パネルディスカッション「デジタル化を
拒む素材とアウトリーチ」に行ってきた。~その2」(2014年7月2日)
 ( http://d.hatena.ne.jp/xiao-2/20140702/1404313744
・「情報メディア学会2014パネルディスカッション(1)」(2014年6月30日)
 ( http://senolight.hateblo.jp/entry/2014/06/30/184348
・「情報メディア学会2014パネルディスカッション(2)」(2014年6月30日)
 ( http://senolight.hateblo.jp/entry/2014/06/30/212005

 最後に、主催側としての感想を述べさせていただきたい。今回のパネルディスカ
ッションは「重い」テーマにもかかわらず、大変和やかな、また、ときには笑いも
飛び交うような議論となった。フロアからの質問票を「おたより」と表現するよう
なパネルディスカッションは、本学会としてはおそらく前代未聞である。「重い」
テーマだからこそ、軽やかに、しぶとく、長くつきあっていく必要性も感じられた。
また、本学会はサイエンスやインフォマティクスに近い参加者もいる一方で、人文
社会科学寄りの研究者も多い。「知っている人は当然のように知っており、知らな
い人はそれほど知らないが、しかし実は全員にかかわる問題である」というような
ことを、分野を横断する学際領域の学会として議論できたことは大いに喜ばしい。

 ご登壇いただけたコーディネータやパネリストの皆様、および会場に足をお運び
いただけた参加者の皆様には深く感謝申し上げる。

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 配信の解除・送信先の変更は、
    http://www.mag2.com/m/0001316391.html
                        からどうぞ。

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◆編集後記(編集室:ふじたまさえ)
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 今回もたくさんの皆さまにご寄稿いただきありがとうございました。特に、イベ
ントレポート(3)の執筆者にはそうそうたるメンバーでレポートに取り組んでいた
だいたようで、コンパクトながら内容の濃いレポートだったと思います。もちろん、
その他のご寄稿文も楽しみながら編集させていただきました。改めてお礼申し上げ
ます。ありがとうございました。

 次号ローザンヌで開催されたDigital humanities 2014に関わるご寄稿やレポート
が掲載される予定です。お楽しみに。

◆人文情報学月報編集室では、国内外を問わず各分野からの情報提供をお待ちして
います。
情報提供は人文情報学編集グループまで...
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人文情報学月報 [DHM036]【後編】 2014年07月26日(月刊)
【発行者】"人文情報学月報"編集室
【編集者】人文情報学研究所&ACADEMIC RESOURCE GUIDE(ARG)
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【サイト】 http://www.dhii.jp/

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