ISSN 2189-1621

 

現在地

DHM 041 【後編】

2011-08-27創刊                       ISSN 2189-1621

人文情報学月報
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄Digital Humanities Monthly

             2014-12-27発行 No.041 第41号【後編】 538部発行

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 ◇ 目次 ◇
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【前編】
◇《巻頭言》「EADの変容をめぐって」
 (五島敏芳:京都大学総合博物館 京都大学研究資源アーカイブ事業担当)

◇《連載》「Digital Humanities/Digital Historyの動向
      ~2014年11月中旬から12月中旬まで~」
 (菊池信彦:国立国会図書館関西館)

【後編】
◇《特集》「デジタル学術資料の現況から」第9回
 「The digital Loeb Classical Libraryのご紹介(3)」
 (吉川斉:東京大学大学院人文社会系研究科 西洋古典学研究室)

◇人文情報学イベントカレンダー

◇イベントレポート(1)
「じんもんこん2014」@NII
 (永崎研宣:人文情報学研究所)

◇イベントレポート(2)
第20回公開シンポジウム「人文科学とデータベース」参加記
 (永崎研宣:人文情報学研究所)

◇編集後記

◇奥付

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【人文情報学/Digital Humanitiesに関する様々な話題をお届けします。】
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◇《特集》「デジタル学術資料の現況から」第9回
「The digital Loeb Classical Libraryのご紹介(3)」
 (吉川斉:東京大学大学院人文社会系研究科 西洋古典学研究室)

 過去二回、The digital Loeb Classical Library(DLCL)の使用法などを中心に
ご紹介してきました。前回の予告通り、今回は少し視点をかえて、別の角度から
DLCLについて考えてみたいと思います。

 以前Perseus Digital Libraryをご紹介した際にも触れましたが、Loeb
Classical Library(の一部の刊本)については、既に20年以上前からPerseusプロ
ジェクトが電子化に取り組んでいます。そのPerseus主幹のGregory Crane教授が、
今回のDLCL開始にあたって、二つの記事(エッセイ)を公開しています。ひとつは
ハーバード大学出版局からDLCLに関する告知があった2014年2月[1]、もうひとつ
はDLCL公開後の2014年9月に発表したものです[2]。2月のものは、まだDLCL現物が
登場していなかったため、DLCLに直接関わる話はあまり含まれていません。一方、9
月のものは、DLCL公開を受けて、より直接的にDLCLに関わる見解を述べています。
とはいえ、いずれも、デジタル時代の古典研究の在り方に関するCrane教授の思想を
背景に(その実践たるPerseusプロジェクトとの比較を含めて)、DLCLに批判的な目
を向けるものとなっています。

 Crane教授の考え方は、いうなれば、「Open」がキーワードです。その発想に基づ
いて、Perseusでは早くからTEI/XMLを用いたデータ構築やCreative Commonsライセ
ンスを採用したデータ配布などを行っています。つまり、ただデータが「見える」
というだけでなく、データの可搬性や再配布可能性まで配慮しています。文献の電
子化自体もプロジェクトのひとつの成果ですが、それと同時に、その他の種々の研
究のための素材としても利用可能な形を整えているわけです。(さらにいえば、文
献データだけではなく、プログラムなどもすべて公開しています。つまり背後のシ
ステムまでOpenです。)

 最近は、Openをさらに推し進め、誰でもデータ構築に関与できるシステムが模索
されています。たとえば、データのさらなる利便性向上のために、本文データに語
形分析情報を付与することなども目指されていますが、これも全ての作業を一人で
行うのではなく、共同作業として、皆でデータを入力可能な仕組みが試行されてい
ます。また、これらのデータ入力は、基本的に機械処理可能な規格に従って行われ
ます。こうした手法は、それらを記述するための標準規格が整ってきたこと、それ
に対応した入力システムが整ってきたこと、そうした仕組みや発想に親しむ人が増
えてきたこと、なども背景として考えられます。そうなるようにPerseusが活動して
きたということでもあります。そして、もちろん、この手法は本文データの入力や
翻訳の作成などにも適用されます。

 さらに興味深いのは、(インターネットを利用するため当然ながら、)明確に世
界中の人々が対象として考えられている点です。翻訳なども、フランス語やドイツ
語、スペイン語、中国語などなど、英語だけではなく多言語のものが必要だと述べ
られています。Openなデジタル化として、「誰でも」利用できるデータであるとい
うこともありますし、世界では英語だけが権威ではないとする意識が見られます
(さらには、世界の「古典」はギリシア語・ラテン語のものだけではないとも)。
また、印刷本であれば、紙面の制限などによって実現困難なことであっても、デジ
タルデータであれば、たとえば複数言語による翻訳を、あるいは切り替えながら、
同時に参照することも容易です。すなわち、現状の「本」の体裁にとらわれる必要
はありません。

ところで、多様な参加者による共同作業によって各種のデータを構築していく手法
は、従来の古典研究では行われてこなかった、新しい発想といえます(ただし、発
想自体は既存のものです)。Crane教授は、Citizen Scholarshipという言葉も使用
していますが、誰でも参加可能ということは、情報の質にばらつきが出ることも想
定されます。そこで重要なのが、個々の情報の根拠を明示することです。語彙の解
釈、翻訳と本文の対応、参照した文献など、結論だけでなく、その結論に至る根拠
などもきちんと示される必要があります。また、それらの示された根拠について、
誰でも容易に確認できる状態でなければなりません。つまり、それらの元情報のデ
ジタル化も求められ、同時に、それらの情報やその場所を記述するための一定の規
格も必要ということになります。先程述べたとおり、それを可能にする環境が次第
に整ってきているのが現在の状況です。文献をただデジタル化して公開するだけの
段階を越えて、まだまだ行きつく先は不明確ながらも、デジタルデータを利用した
新しい研究の世界が開き始めているともいえるでしょう。

 翻って、DLCLの在り方を見直すと、Crane教授の考える文献のデジタル化、デジタ
ルデータの利用法、多言語化、Openな発想とは対照的なものであることが分かりま
す。そして、そうした考え方を前提にしたCrane教授のDLCLに対する評価は、9月の
エッセイの一節(p.8)に端的に現われています。

We are reaching the end of the first generation of the digital age - and
with it, we are approaching the end of incunabular work, where digital
materials imitate the forms and internalize the limitations of their print
predecessors, just as print incunabula imitated their manuscript
predecessors. The Digital Loeb Classical Library is a classic incunabular
project …. But we need to move forward and to adapt to the digital,
global society in which we already live.
(私たちは、デジタル時代の第一世代の終焉へと到達している―そして、それとと
もに、私たちは、ちょうど印刷本がその前身たる写本を模倣したように、デジタル
資料が前身たる印刷本の体裁を模倣し、その限界を内部化する、デジタル揺籃期の
終焉へと近づいている。The Digital Loeb Classical Libraryは、古典的な揺籃期
のプロジェクトである……。けれど、私たちは前進し、私たちが既にその内に生き
ている、デジタルでグローバルな社会に順応する必要がある。)

 DLCLのプロプラエタリ(proprietary)な仕組みは、古典研究におけるOpenな環境
を志向するCrane教授には非常に不満の残るものであったと思われます。昔からの知
名度を誇るLoeb叢書が、今になって「古典的」な仕組みで電子化することで、むし
ろその仕組みが影響力を残し、「前進」を阻害する要因ともなることへの危惧もあ
るのかもしれません。

 とはいえ、注意すべきは、DLCLはあくまで商用サービスであるということです。
DLCLがデジタル化している対象は、もともと彼らが持っているものです。現在の
Loeb叢書はいわばハーバード大学出版局の商材ですので、その売り上げによってシ
リーズが存続し、あるいはそれが広く古典研究の資金源ともなりえます。DLCLの場
合は、有料の購読者/講読機関の存在が、システムの存続を支えることにつながり
ます。その点では、現状のDLCLの在り方も一概に批判できるものではありませんし、
Crane教授も、必ずしもDLCLの在り方を否定している訳ではありません。(ただ、デ
ジタル化の手法の是非はともかくも、各種文献のデジタル化に公的な資金が投入さ
れつつあるヨーロッパの現状をふまえて、民間企業に依存するプロジェクトには懐
疑的であるようにもみえます。)

 ところで、筆者はDLCLを個人講読した関係で、図らずも、DLCLが利用しているプ
ラットフォームを知ることができました。DLCLは、PubFactoryという電子出版プラ
ットフォームを利用しています[3]。公開されている顧客一覧を見ると、大学出版
局や学術出版社が中心で、学術書や専門書、専門雑誌を多く扱うシステムの構築に
よく利用されているようです。その点では、Loeb叢書の電子化に際して、このプラ
ットフォームが選択されたことも、判断として分からないでもありません。しかし、
汎用の電子出版プラットフォームが使用されることで、DLCLでは、あくまでもLoeb
叢書の刊本を電子化することが意図されていたことも見えてきます。

… certainly, the development of the Digital Loeb was not a topic of
academic discussion and seems to have been conducted under the secrecy
typical of product development.
(確実に、the Digital Loebの開発は、アカデミックな議論の議題ではなくて、商
品開発に特有の秘密の下で行われたように思われる。)

 Crane教授は2月のエッセイで以上のように述べています(p.3)。この推察はDLCL
の公開前、つまり実際のシステムを目にする前ですが、DLCLの性質をよく見抜いて
います。

 Perseusプロジェクトの場合、デジタルデータの在り方を試行錯誤する場として、
基盤のシステムも独自に開発したものであり、そのシステム自体も含め、全体がア
カデミックな成果物といえるものです。そして、「古典」のデジタル化が主体であ
り、Loebはあくまでもその枠組みのなかで利用可能な素材のひとつということにな
ります。ただ、PerseusはOpen前提ですので、Loeb以外でも、存在する全ての素材を
電子化できるわけではありません。一方のDLCLは、印刷媒体のLoeb叢書の電子化を
目指したものであり、古典作品はその枠組みに収められるコンテンツのひとつです。
DLCLでは、Perseusが電子化していないIntroduction(英語)の部分など、Loeb刊本
のすべてのページを含みます。そして、最新のLoeb刊行本に電子版も追随します。
したがって、DLCLはあくまでも「Loeb叢書の電子版」であり、出版物の電子化に属
するものですが、だからこそ、まさに読者が手軽に「Loeb叢書」を読みたいという
場合には、非常に有用性の高いものともいえます。

 それにしても、Crane教授の考え方は、非常に先進的です。Loebのような独自のコ
ンテンツを抱える業者が、それらをOpenな形で電子化して公開するというのは、ま
だ簡単なことではないように思います。プロプラエタリなソフトウェアがOpen化す
る事例は最近増えていますが、出版業界で民間から同様の流れが生じるには、その
形態をとっても収益を確保できるモデルが必要です。とはいえ、標準規格の採用な
ど、電子化の方法として部分的にOpenな発想を取り込むことは可能と思われますの
で、少しずつでも開けた世界へと向かって行くことは期待できます。なお、DLCLに
関して、筆者は、とりあえずのところ、Loebは「古典」叢書ですので、少なくとも
「古典」の枠組みに配慮したデータ管理も行われると有り難いと感じています。

 ちなみに、最近、DLCLのウェブサイト上に「Log in with Shibboleth/Athens」と
いうリンクが追加されました。講読機関所属者の認証として、世界標準規格のシボ
レス[4]が利用可能となっているようです(ここではオープンソースの恩恵を受け
ています)。また、やはり最近、「Praise for the digital Loeb Classical
Library」というページが追加されています[5]。その内容を見ていて、これまで
にLoebの築いてきた知名度の大きさを改めて感じる一方で、Crane教授が展望する
Openな時代の到来には、一般の理解が追いついておらず、まだ時間がかかるような
気がしてなりません。

[1] http://sites.tufts.edu/perseusupdates/2014/09/20/the-digital-loeb-classi...

[2] http://sites.tufts.edu/perseusupdates/2014/09/22/the-digital-loeb-classi...

[3] http://www.pubfactory.com/
[4] http://www.internet2.edu/products-services/trust-identity-middleware/shi...
[5] http://www.loebclassics.com/page/praise

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◇人文情報学イベントカレンダー(□:新規掲載イベント)

【2015年01月】
■2015-01-22(Thu):
国立国会図書館 国際シンポジウム
「デジタル文化資源の情報基盤を目指して-Europeanaと国立国会図書館サーチ」
(於・東京都/国立国会図書館 東京本館 新館)
http://www.ndl.go.jp/jp/event/events/20150122sympo.html

□2015-01-26(Tue):
アーカイブサミット2015
(於・東京都/千代田区立日比谷図書文化館)
http://archivesj.net/?page_id=19

□2015-01-31(Sat):
情報処理学会 人文科学とコンピュータ研究会
(於・大阪府/大阪国際大学 守口キャンパス)
http://jinmoncom.jp/

□2015-01-31(Sat):
第1回U-PARLシンポジウム
「むすび、ひらくアジア:アジア研究図書館の構築に向けて」
(於・東京都/東京大学 情報学環福武ホール)
http://new.lib.u-tokyo.ac.jp/2359

【2015年02月】
□2015-02-07(Sat):
知識・芸術・文化情報学研究会 第4回 研究集会
(於・大阪府/立命館大学大阪キャンパス 大阪富国生命ビル)
http://www.jsik.jp/?kansai20150207

□2015-02-09(Mon)~2015-02-12(Thu):
Code4Lib2015
(於・米国/Hilton Portland & Executive Tower)
http://code4lib.org/

Digital Humanities Events カレンダー共同編集人
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小林雄一郎(日本学術振興会特別研究員PD)
瀬戸寿一(東京大学空間情報科学研究センター)
佐藤 翔(同志社大学教育文化学科 助教)
永崎研宣(一般財団法人人文情報学研究所)

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◇イベントレポート(1)
「じんもんこん2014」@NII
http://jinmoncom.jp/sympo2014/
(永崎研宣:人文情報学研究所)

 2014年12月13~14日、情報処理学会人文科学とコンピュータ研究会主催による年
一回のシンポジウム「じんもんこん2014」が国立情報学研究所にて開催された。こ
のシンポジウムは、1999年以来、毎年国内にて開催されているこの分野の研究集会
であり、アブストラクトに対する査読を経た口頭発表・ポスター発表が集まってく
る。大学院生からベテランまで、幅広い発表者があり、分野としても、歴史学や言
語学、文学など、多様な人文科学分野があり、それぞれにコンピュータを活用した
研究についての発表が行なわれている。

 本年も、口頭発表のセッション名を見ていくと、データベース利用/舞踊研究/
空間情報/文字情報・コーパス/日本史/計量分析/と多様なものがあり、さらに
ポスターセッションでも様々な研究が紹介されていた。個々の発表を見ていくと、
音楽学やダンス、古典中国語形態素解析から学術情報リポジトリに関する発表まで、
多様なもの発表が行なわれ、それぞれに活発な議論が行なわれた。詳細については、
上記URLにて大会プログラムを参照されたい。プログラム上の発表タイトルから各発
表論文のPDFファイルへのリンクも張られている。総じて、ビッグデータとはいかな
いまでも、大量のデータや大きな計算能力を必要とする研究が徐々に増えてきてお
り、この分野の発展を感じさせるものがあった。

 基調講演では、情報処理学会会長かつ国立情報学研究所所長、つまり、本シンポ
ジウムの主催団体及び会場の双方の長である喜連川優先生による特別講演があり、
人文科学とコンピュータという研究動向へのエールをいただけたことは、筆者とし
てはうれしいことであった。

 その後、パネルディスカッション「オープン化に向かう研究基盤と人文情報学の
ゆくえ」が開催され、オープンな研究基盤に取り組む3人の登壇者と、人文系データ
ベースを中心として研究を進めている研究者とによる研究情報のオープン化につい
ての議論が行なわれた。筆者としては、いくつかコメントや質問等があったのだが、
残念ながら、時間切れでフロアとのディスカッションは実現しなかった。

 ここでシンポジウムは終了となったが、その後に付随するイベントが2つ開催され、
そのうち、「じんもんそん」と名付けられたものが珍しい試みだったので少し紹介
したい。ここしばらく、「ハッカソン(hackathon)」と呼ばれるイベントが世界各
地で開催されるようになり、プログラマーやデザイナーが集まってアイデアや技術
を競い合ったり共同作業をしたりということが流行している。これにあやかって命
名され開催されたのが「じんもんそん」である。本シンポジウムとは別イベントと
して、あくまでも人文系のデータを扱うという趣旨で参加募集が行なわれ、参加費
も無料であったことなどから、50名ほどの参加者のうち半分近くは「じんもんそん」
のみの参加者であり、純粋にデータに興味を持っているという参加者も少なくない
ようであった。NIIの大向一輝先生の司会のもと、会はつつがなく進行し、人文系デ
ータの紹介や、その在り方についての討論など、様々なテーマで盛り上がりを見せ
ていた。その成果の一部は以下のGoogleスプレッドシートにて垣間見ることが出来
る。

https://docs.google.com/spreadsheets/d/1KvcAuagAya12yiLsmnpf4T3UyPJezrbh...

 なお、「じんもんそん」の詳細について知りたい方は、次回に参加されることを
強くおすすめしたい。

 ということで、じんもんこん2014は、これまでの研究動向を着実に反映しつつ、
さらに、「じんもんそん」を通じて新しい動きへの道筋も多少なりともつけられた
ようなシンポジウムとなった。ここで発表された様々な成果は、近年、再び盛り上
がりつつあるデジタル・アーカイブを活用する局面では特に有益なものとなるだろ
う。それらがいかにしてうまく伝えられていくか、そして、ネットワークを形成し
ていけるか、ということもまた今後の大きな課題となっていくだろう。

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◇イベントレポート(2)
第20回公開シンポジウム「人文科学とデータベース」参加記
http://www.jinbun-db.com/news/20th-schedule
(永崎研宣:人文情報学研究所)

 2014年12月20日(土)、近畿大学にて第20回公開シンポジウム「人文科学とデータ
ベース」が開催されたので、それについての簡単かつ主観的な報告を記しておきた
い。

 このシンポジウムは、文部科学省科研費重点領域研究「人文科学とコンピュータ」
(平成7年度~10年度)におけるデータベース研究グループを中心として発足した
「人文系データベース協議会」の主催により毎年開催されてきたものである。今回
の会場は近畿大学本部キャンパスで、7件の発表と1つのパネルディスカッションと
いう構成で開催された。開催直前に1つ発表キャンセルがあったようで、プログラム
の構成が当日になって若干変わってしまったのは少し残念なことであった。プログ
ラムの詳細については大会Webサイトを参照されたい。

 発表は、主に、若手研究者によるものと企業によるものがあり、これに国立国会
図書館からの発表が加わるという感じであった。

 若手研究者の発表は、いずれも個性的であり、将来を期待させるものであった。
既存のデータベースに対していかにしてコンテクストを与えていくかという観点や、
計量的に過去の暮らしの一端を明らかにしていこうとする試みなどは、特に筆者と
しては期待するところであった。

 企業による発表については、どちらかというと、むしろ、採算ベースでデータベ
ースを構築運用していくことと新たに普及しつつある技術に適切に対応していくこ
ととの距離を埋めることの難しさを感じさせられるものが多かったように感じられ
た。データベースの構築運用に際しては、人文系に限らず、内製か外注かというこ
とがしばしば問題になるが、この点については外注の問題点がうまく解決できてい
ないという印象を持った。とは言え、現場や資料に即した工夫や細かな改良につい
ての言及もあり、全体としては楽しめるものであった。

 国立国会図書館からの発表で興味深かったのは、デジタル化資料の図書館間送信
において人文系資料が比較的多く送信対象となっているという点である。多くの公
共図書館がこれに対応しつつあることから、これまでアクセスしにくかった資料に
一気にアクセスしやすくなるという状況が広がりつつあることは全体として好まし
いことであると感じた。ただ、一方で、送信対象となる資料には偏りがないわけで
はなく、その点が今後どのように収斂していくのかということについても気になる
ところであった。

 個別発表の後、最後はパネルディスカッションで締めとなった。今回は、すでに
文化情報学の学部・大学院を展開し、卒業生も輩出している同志社大学と、今年度
から新たに文化情報学専修を開始した立命館大学から、村上先生・矢野先生をお招
きしての開催となった。同志社大学は、文化資料をいかにして計量的に分析するか
ということに重点を置き、立命館大学は、どちらかと言えば、日本の文化資料をい
かにしてデジタル化するかということに力を入れているということで、両者の特色
が改めて明らかになった。教育から研究まで、様々な観点からの活発な議論が行な
われ、とても興味深いものとなった。筆者としては、両者の連携によってより良い
研究サイクルが展開できるのではと思ったところであった。

 近年、研究会やシンポジウムの開催数が多すぎであるという問題がクローズアッ
プされつつあるが、この分野でもやはり、やや飽和気味の感じがあり、きちんと一
通り参加していこうとするとなかなか大変になってきてしまっている。とは言え、
参加してみるとどれも様々に重要かつ興味深い議論が展開されており、本シンポジ
ウムもまた、参加した意義は大きなものであったと思う。SNSの普及等、仮想的な場
で議論する機会もどんどん増えつつあるが、関心を持つ人が実際に集まって議論す
る場の重要性ということも改めて実感したところであった。本シンポジウムは、開
かれた場を目指しているということもあるので、何かヒントを得る機会、というこ
とで気軽に参加してみるとよいかもしれない。

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 配信の解除・送信先の変更は、
    http://www.mag2.com/m/0001316391.html
                        からどうぞ。

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◆編集後記(編集室:ふじたまさえ)
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 年の瀬も迫ってきましたが、無事に2014年の締めくくりとなる第41号をお届けで
きてほっとしています。ご寄稿いただいた皆さま、ありがとうございました。

 個人的には、普段目にする機会がすくないアーカイブの世界についてLinked Open
Dataとのつながりも感じ、一歩身近なものに感じることができたと思います。また、
毎月欠かさず人文情報学界の動向をレポートいただいた菊池さんにも改めてお礼申
し上げます。ありがとうございます。

 ということで、この1年間に人文情報学月報に関わってくださったすべての皆さま
にお礼申し上げまして、今回の編集後記をおえたいと思います。ありがとうござい
ました!

 来年も、たくさんの皆さまにさまざまな話題をお届けできることを楽しみにして
います。

◆人文情報学月報編集室では、国内外を問わず各分野からの情報提供をお待ちして
います。
情報提供は人文情報学編集グループまで...
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人文情報学月報 [DHM041]【後編】 2014年12月27日(月刊)
【発行者】"人文情報学月報"編集室
【編集者】人文情報学研究所&ACADEMIC RESOURCE GUIDE(ARG)
【 ISSN 】2189-1621
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