ISSN 2189-1621

 

現在地

DHM 013 【前編】

[DHM013]人文情報学月報【前編】

2011-08-27創刊

人文情報学月報
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄Digital Humanities Monthly

                 2012-8-28発行 No.013   第13号【前編】

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 ◇ 目次 ◇
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
【前編】
◇「『人文情報学月報』の1年を振り返って」
 (永崎宣研:人文情報学研究所)

◇人文情報学イベントカレンダー

◇イベントレポート(1)
「DIALEKT 2.0 & WBOE100」
 (小野原彩香:同志社大学大学院文化情報学研究科博士後期課程)

◇イベントレポート(2)
「第95回人文科学とコンピュータ研究会発表会」
 (山田太造:人間文化研究機構本部)

【後編】
◇イベントレポート(3)「Digital Humanities 2012 特集」

 3-0「Digital Humanities 2012イベントレポートについて」
  (『人文情報学月報』編集部)

 3-1「Digital Humanities 2012 @ Universita"t Hamburg」
  (中路武士:東京大学大学院情報学環)

 3-2「アシスタント奨学生としてのDH2012参加報告」
  (岩田好美:同志社大学大学院文化情報学研究科博士後期課程)

 3-3「DH2012 雑感」
  (日野慧運:東京大学大学院人文社会系研究科)

◇編集後記

◇奥付

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
【人文情報学/Digital Humanitiesに関する様々な話題をお届けします。】
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◇『人文情報学月報』の1年を振り返って
(永崎研宣:人文情報学研究所)

 『人文情報学月報』創刊後、ようやく1年が経過した。名称自体に月刊であること
が埋め込まれているゆえ、これまでに12回発行されたことになるこのメールマガジ
ンは、アカデミック・リソース・ガイド株式会社(ARG)との共同編集という形で開
始された。読者の方々にも恵まれ、発行部数は300を超えたところである。ARGのメ
ールマガジン発行に関するノウハウと、勃興しつつある人文情報学/デジタル・ヒ
ューマニティーズに関するコンテンツをうまく結びつけることを目指していたが、
読者のみなさまから見て、それが達成できていると思っていただけるとしたら、
それは寄稿者・協力者のみなさまのおかげであり心から感謝したい。巻頭寄稿では
いずれも、現在活躍中の研究者・実践者の方々がそれぞれの立場から人文情報学/
デジタル・ヒューマニティーズの面白さを垣間見せてくださり、また、世界各地で
開催される様々なイベントのスケジュールの掲示と参加のレポートをご提供いただ
き、イベントレポートは今月号まで含めると30件、うち11件は海外でのイベントと
なっている。イベントカレンダーの掲載数からするとレポートはほんの一部に過ぎ
ないことにはなるが、各地で様々に盛り上がる様子が多少なりとも垣間見えたので
はないだろうか。
 実際の所、この1年間、国内だけでも、この分野では様々な大きな動きがあった。
時系列で追ってみると……

2011年9月
・JADH(Japanese Association for Digital Humanities)、大阪大学にて設立、国
際会議を開催(*1)

2011年11月
・立命館大学にてグローバルCOE・日本文化デジタル・ヒューマニティーズ拠点によ
る国際シンポジウムDH-JAC2011開催。(*2)
・John Unsworthイリノイ大学図書館情報学研究科教授(当時)、長尾真国立国会図
書館長(当時)らによるDH国際シンポジウムが東京大学にて開催。(*3)

2012年4月
・東京大学大学院にて「デジタル・ヒューマニティーズ横断プログラム」開始(*4)

2012年7月
・JADHがDHの世界的な連合組織であるADHO(Alliance of Digital Humanities
Organizations)に加盟。(*5)

……という感じである。とりわけ、JADHがADHOに加盟したことは、この分野の今後
にとって非常に大きな出来事だろう。ADHOは世界のデジタル・ヒューマニティーズ
関連学会の傘組織として設立されたものであり、現在は、欧州(ALLC)・米国(ACH)
・カナダ(CSDH)・オーストラリア(aaDH)・日本(JADH)の学会と、世界のDH関
連研究機関による互助組織であるCenterNetが加盟しており、オックスフォード大学
出版局から発行されている学術雑誌、Literary and Linguistic Computingを媒介と
して運営が行われている。まったくの非英語圏からの加盟は初めてのことだが、デ
ジタル技術という共通の基盤を共有できるという前提から、日本に対しても様々な
面での活躍と貢献が期待されている。国際化は日本の学術全体にとっての大きな課
題でありながら、人文学においては言語の壁の問題から国際化が難しい状況にある。
そのようななかで、人文学における国際化の一つの経路としても、JADHがADHOに加
盟したことで日本において国際的な研究活動の基盤が確立されたということは今後
大きな意義を持ってくることだろう。JADH/ADHOは個人会員をベースとする学会と
なっており、入会はオックスフォードジャーナルのWebサイトからサブスクリプショ
ンという形で行えるようになっている。入会によるメリットは様々に用意されてお
りここでは敢えて挙げることはしないが、いずれにしても、この分野に貢献しよう
と考えるなら、JADH/ADHOへの入会は一つの重要な選択肢となるだろう。(*6)

 また、7月にはADHOが主催するデジタル・ヒューマニティーズの年次国際学術大会、
DH2012が開催されたが、ここでも少なからぬ日本の研究者が参加して研究発表を行
うなどし、さらに、今回は東京大学の下田正弘教授が基調講演を行う(*7)など、
国際的なデジタル・ヒューマニティーズの動向への日本の関わりがますます深く密
なものとなっていることを感じさせた。なお、DH2012に関しては、今号のイベント
レポート欄でも大きく採り上げているので、ぜひお楽しみいただきたい。

 最後に、『人文情報学月報』の今後の方向性についての検討課題を提示してこの
稿を締めくくりたい。『人文情報学月報』はメールマガジン配信システム『まぐま
ぐ』に全面的に依存して発刊してきている。配信システムは優れているのでこのま
ま採用し続けていくことになると思うが、バックナンバーに関しては、現状ではた
だWebページとして読めるだけであり、まだ工夫の余地が多くあるように思われる。
これに関しては、近いうちに、もう少し参照しやすい形で公開することを目指した
い。また、加えて、記事の内容の拡充である。これまでに数回、特別レポート、あ
るいは、イベントレポートという形で、人文情報学に関わるネット上のリソースや
研究手法等に関する現状報告を掲載したことがあった。人文情報学においては、対
象となるリソースについても、その手法に関しても、まさに日進月歩であり、最新
の情報の共有はなかなか困難である。分野によってはメーリングリスト等によって
最新の情報を常にフォローできるようにしているところもあるが、ある程度まとま
った形で、隣接分野の人にも参考にできるような形で情報が提供されていくように
することは、現在必要とされているだけでなく、今後ますます必要になっていくだ
ろう。そこで、そのような情報提供に関しても、ごく近いうちに、何らかの形で、
記事として提供していけるようにできたらと考えている。あるいは、そのような情
報提供をしたい方がおられたら、ぜひご協力・ご寄稿をお願いしたい。

*1 『人文情報学月報』No.003を参照
http://archive.mag2.com/0001316391/20111031191701000.html
*2 『人文情報学月報』No.004を参照。
http://archive.mag2.com/0001316391/20111201082118000.html
*3 『人文情報学月報』No.005を参照。
http://archive.mag2.com/0001316391/20111230220049000.html
なお、John Unsworth教授の講演の日本語訳は
http://21dzk.l.u-tokyo.ac.jp/CEH/index.php?Unsworth にて公開されている。
*4 http://dh.iii.u-tokyo.ac.jp/ を参照。
*5 http://www.jadh.org/ 等を参照。
*6 JADH/ADHOへの入会の仕方については http://www.jadh.org/joininadhoj などを
参照。
*7 下田正弘教授の基調講演とその日本語訳については
http://21dzk.l.u-tokyo.ac.jp/CEH/index.php?DH2012%20keynote%20address を参
照されたい。

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◇人文情報学イベントカレンダー(■:新規イベント)

【2012年9月】
□2012-09-03(Mon)~2012-09-08(Sat):
Knowledge Technology week 2012
(於・マレーシア/Sarawak)
http://ktw.mimos.my/ktw2012/

□2012-09-04(Tue)~2012-09-06(Thu):
FIT2012 第11回 情報科学技術フォーラム
(於・東京都/法政大学 小金井キャンパス)
http://www.ipsj.or.jp/event/fit/fit2012/

□2012-09-05(Tue)~2012-09-07(Fri):
ISIC2012 東京大会:The Information Behaviour Conference
(於・東京都/慶應義塾大学三田キャンパス)
http://www.slis.keio.ac.jp/isic2012/index-j.html

□2012-09-06(Thu)~2012-09-08(Sat):
State of the Map 2012; The 6th Annual International OpenStreetMap Conference
(於・東京都/東京大学駒場リサーチキャンパス)
http://www.stateofthemap.org/ja/about-ja/

□2012-09-06(Thu)~2012-09-08(Sat):
Digital Humanities Congress 2012
(於・英国/Sheffield)
http://www.sheffield.ac.uk/hri/dhc2012

□2012-09-15(Sat)~2012-09-17(Mon):
2nd symposium - JADH 2012
(於・東京都/東京大学)
http://www.jadh.org/jadh2012

□2012-09-18(Tue)~2012-09-21(Fri):
GIScience 2012 7th International Conference on Geographic Information Science
(於・米国/Columbus)
http://www.giscience.org/

■2012-09-19(Wed):
日本電子出版協会「XMLが開く学術出版の未来」
学術情報XML推進協議会設立記念講演会
(於・東京都/鶴屋総合ビル)
http://www.jsims.jp/event/20120919.html

□2012-09-29(Sat):
計量国語学会 第56回大会
(於・愛知県/名古屋大学東山キャンパス)
http://www.math-ling.org/

□2012-09-29(Sat)~2012-09-30(Sun):
英語コーパス学会 第38回大会
(於・大阪府/大阪大学豊中キャンパス)
http://english.chs.nihon-u.ac.jp/jaecs/

【2012年10月】
□2012-10-06(Sat):
三田図書館・情報学会 2012年度研究大会
(於・東京都/慶應義塾大学 三田キャンパス)
http://www.mslis.jp/annual.html

■2012-10-12(Fri):
情報処理学会 第96回 人文科学とコンピュータ研究会発表会
(於・東京都/国文学研究資料館)
http://jinmoncom.jp/

□2012-10-13(Sat)~2012-10-14(Sun):
地理情報システム学会 第21回研究発表大会
(於・広島県/広島修道大学)
http://www.gisa-japan.org/conferences/

□2012-10-25(Thu)~2012-10-26(Fri):
The 5th Rizal Library International Conference:
"Libraries, Archives and Museums: Common Challenges, Unique Approaches."
(於・フィリピン/Quezon)
http://rizal.lib.admu.edu.ph/2012conf/

【2012年11月】
□2012-11-01(Thu)~2012-11-04(Sun):
37th Annual Meeting of the Social Science History Association
(於・カナダ/Vancouer)
http://www.ssha.org/annual-conference

□2012-11-02(Fri)~2012-11-04(Sun):
MediaAsia 2012/Third Annual Asian Conference on Media and
Mass Communication 2012
(於・大阪府/ラマダホテル大阪)
http://mediasia.iafor.org/

□2012-11-05(Mon)~2012-11-10(Sat):
2012 Annual Conference and Members’ Meeting of the TEI Consortium
(於・米国/Texus)
http://idhmc.tamu.edu/teiconference/

□2012-11-17(Sat)~2012-11-18(Sun):
情報処理学会 人文科学とコンピュータシンポジウム「じんもんこん2012」
(於・北海道/北海道大学)
http://jinmoncom.jp/sympo2012/

□2012-11-17(Sat)~2012-11-18(Sun):
第60回 日本図書館情報学会研究大会
(於・福岡県/九州大学箱崎キャンパス)
http://www.jslis.jp/

■2012-11-17(Sat)~2012-11-19(Mon):
2012 Chicago Colloquium on Digital Humanities and Computer Science
(於・米国/Chicago)
http://chicagocolloquium.org/

□2012-11-20(Tue)~2012-11-22(Thu):
第14回 図書館総合展
(於・神奈川県/パシフィコ横浜)
http://2012.libraryfair.jp/

Digital Humanities Events カレンダー共同編集人
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小林雄一郎(大阪大学大学院言語文化研究科/日本学術振興会特別研究員)
瀬戸寿一(立命館大学文学研究科・GCOE日本文化デジタルヒューマニティーズ拠点RA)
佐藤 翔(筑波大学図書館情報メディア研究科)
永崎研宣(一般財団法人人文情報学研究所)

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◇イベントレポート(1)
「DIALEKT 2.0 & WBOE100-VIIth Congress of the International Society for
Dialectology and Geolinguistics(SIDG) & 100 years of research in
dialectal lexicography in Austria in an international context」
http://sidg.oeaw.ac.at/
(小野原彩香:同志社大学大学院文化情報学研究科博士後期課程)

 2012年7月23日から28日までの6日間に渡って、方言学と言語地理学の国際会議
Congress of the International Society for Dialectology and Geolinguistics
(SIDG)がオーストリアの首都ウィーンにあるAustrian Academy of Sciencesにて
行われた。本会議は、1993年以来3年に一度のペースで開催されており、今回で7回
目を迎えた。今回は、副題としてdialect 2.0 & wboe100が設定されており、オース
トリアの方言辞書研究の100年を祝う式典でもあった(100 years of research in
dialectal lexicography in Austria in an international context)。

 今年度の発表領域は、New methodological and technical approaches to variety
linguistics & language geography、Interdisciplinary dialectology、Dialect
synthesis・Quantitative dialectology、Cognitive linguistics and dialectology、
Dictionaries, atlases、Dialect corpora(standards and norms, infrastructure
)、Online dialectology、Perceptual dialectology、Dialect dynamics between
standardization and dialectalization、Minority languages, interference
phenomena、Dialect and culture as well as dialect and cultural studies、
Dialect and youth language、Dialect and media(linguistics)、Dialect
translation、Science intermediation•Research reportsなどが挙げられ、実に多
彩なアプローチによる研究が一堂に会した。

 ここからは、一参加者の目から見た本大会の様子を簡単にレポートしたい。発表
は大きく、Atlases、Dialect descriptions and lexis、Dialect spelling、Dialect
dictionaries、Cognition and perception、Corpora、Methods、Names and
geolinguistics、Phonetics/Morphology/Syntax、Sociolinguistics、Language
contact、History of dialectologyという12の分野に分けられ、4セッション同時並
行にて行われた。

 このうち、Names and geolinguisticsのWorkshopでは、オーストリアのDepartment
for Geography and Regional Research, University of ViennaのWolfgang Kainz
教授によってGeographical information systems for linguists-an introduction
が行われた。このワークショップでは、参加者それぞれがGISでどのような研究を行
いたいかについて簡単なディスカッションを行った後、Kainz教授によってGISが成
立した簡単な歴史的背景とGISの役割、近年の動向、将来的な展望が説明された。近
年では、オープンソースの積極的な利用が活発になっており、VGI(Volunteered
Geographic Information)の高まりなどがあるそうである。これらは、従来型の多
機能で高価なGISソフトに対抗する形で出現したものであるらしい。将来的には各研
究者それぞれの目的によりマッチした無駄のないGIS研究が実現し、言語学者が要請
する空間情報をより適切に分析、表現できるようになるであろうことが説明された。

 他にも、Names and geolinguisticsのセッションでは、空間的な言語拡散に関す
るモデル研究など興味深い発表が行われ、大いに刺激を受けた。

 また、Corpora のセッションでは、University of Vienna/Austrian Academy of
SciencesのGerhard Budin教授による Interdisciplinary aspects of space
annotation in language corporaという発表が行われた。当該研究では、空間的な
言語情報を扱う基準として“ISO-Space”という概念が、言語コーパスのアノテーシ
ョンを行っているISO/TC 37/SC 4によって研究、発展途上にあることが紹介され
た。この概念を構築する上で、最大の鍵となるのは、空間的には一意に決まるオブ
ジェクト名でも、時間的には、様々な呼ばれ方、すなわち方言が存在し、アノテー
ションの行い方に工夫が必要となる点であることが紹介された。

 その他、言語地図を作るに当たってのプロセスの効率化、方言コーパスの構築方
法、方言辞書作りの歴史的な変遷など、興味深い発表がどのセッションでも数多く
行われ、どの会場でも活発な議論が繰り広げられた模様である。

 以上、非常に偏りのある筆者の興味関心に依存した形のレポートになってしまっ
たが、本会議が将来の方言学および言語地理学研究に多大な影響を及ぼすものであ
ったことを書き添え、末筆としたい。

Copyright(C)ONOHARA, Ayaka 2012- All Rights Reserved.
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◇イベントレポート(2)
「第95回人文科学とコンピュータ研究会発表会」
http://www.ipsj.or.jp/kenkyukai/event/ch95.html
(山田太造:人間文化研究機構本部)

 2012年8月4日に京都大学地域研究統合情報センター(以下、地域研)において、
第95回人文科学とコンピュータ研究会発表会(CH95)が開催された。今年度第2回
目の本研究会である。

 本研究発表会は地域研との共催で行われた。一般セッションに加え、地域研の研
究活動に関する特集セッションを設けた。会場は地域研のある稲盛財団記念館であ
り、京都大学吉田キャンパスのもっとも西に位置し、薬学部と付属病院に隣接する
川端通沿いにある。京阪神宮丸太町駅からほど近くにあるため、吉田キャンパスの
中ではアクセスしやすいと言える。参加人数は36名だった。

 CH95は10件の発表があり、プログラムは次のとおりであった。

○一般セッション1
(1)無名付箋の画像資料への適用方法について
  津田光弘(イパレット)
(2)明治前期の漢字活字とJIS漢字包摂規準-『明六雑誌』活字字形への、包摂規
準適用実験-
  須永哲矢(国立国語研究所)、堤智昭(東京農工大)、高田智和(国立国語研究所)
(3)「全国方言文法辞典」におけるWebによる調査データの報告システム開発につ
いて
  林良雄(秋田大学)
(4)近代文献のデジタルアーカイブ化とテキストマイニング-岩波書店『思想』を
題材に
  美馬秀樹、丹治信、増田勝也、太田晋(東京大学)

○一般セッション2
(5)多元的デジタルアーカイブズのVR-ARインターフェイスデザイン手法
  渡邉英徳、原田真喜子、佐藤康満(首都大学東京)
(6)デジタル地球儀を用いた成長型海洋生態系アーカイブのデザイン手法
  高田百合奈、渡邉英徳(首都大学東京)、植田佳樹(ケンコーコム)
(7)ソーシャルサービスを用いた災害証言アーカイブズのデザイン手法
  原田真喜子、渡邉英徳、高田百合奈、蜂谷聖未、佐々木遥子、太田祐介(首都
  大学東京)、松田曜子(関西学院大学)、山田泰久(日本財団)

○特集セッション
(8)資源共有化システムの機能拡張について-京都大学地域研究統合情報センター
の試み-
  原 正一郎(京都大学)
(9)災害地域情報マッピング・システムとその応用
  山本博之(京都大学)
(10)地域研究における時空間情報の活用
  関野 樹(総合地球環境学研究所)、原 正一郎(京都大学)

 研究報告について述べる。特集セッションに先立って行われた一般セッションで
は7件の報告(2セッション)があった。

 セッション1では、それぞれ、文字画像に対するアノテーション手法、「漢字の字
体の包括基準」の明治前期漢字活字への有効性、方言辞典システムの開発状況、近
代文献のデジタル化の報告であった。(4)の報告では文献資料のデジタル化手法だ
けではなく、テキストマイニングについても報告があったが、大変残念なことにテ
キストマイニングについては、時間の関係からあまり多く触れられなかった。この
分野では、これまで多くのデジタル化に関する報告があった。デジタル化ではどの
ように利用されるかという点については多くの議論がなされていないように思える。
そのため、テキストマイニングのようにどのように利用し得るか、という点は今後
のCHにおける非常に重要な研究テーマの1つであると言えよう。

 セッション2はデジタルアーカイブズのVR-AR(仮想現実-拡張現実)インターフ
ェース利用、Twitterを用いた災害証言アーカイブズ発信に関する報告があった。前
者は第2次世界大戦に関するデジタルアーカイブズに関するもの((5)の報告)と
海洋生態系に関するもの((6)の報告)の2つが報告された。(5)はテキスト、画
像、動画を時空間に関する情報をもとに地図システム上にマッピングさせたシステ
ムについてであり、デジタルアーカイブズをどう見せるか、どう検索させるかとい
う点で大変興味深い内容であり、本研究会でもっとも盛り上がった報告だった。ソ
ーシャルメディアに関して、CHではこれまでWikiやBlog利用の研究報告はあったが、
Twitter利用はあまりない。(7)はTwitter botを用いてアーカイブしたテキストを
証言させるシステムについてであり、目新しさがあった。

 次に特集セッションについて述べる。地域研は平成18年に創設された。その設置
目的は1)地域研究情報資源の統合と共有化、2)相関型地域研究の推進(
http://www.cias.kyoto-u.ac.jp/about/idea/ )である。この目的に従って行われ
てきた地域研における研究に関する報告が行われた。

 原氏の報告は、地域研の設置目的の1)に相当する内容であり、地域研における情
報基盤システムの構築を中心としたものだった。地域研のニーズや実情に対応しな
がら、地域研究に関する情報資源のデータベース化、検索インターフェースといっ
たシステムの個々に触れていた。日本における地域研究における情報発信の中心的
存在として、今後も期待される。

 山本氏の報告は、2004年のスマトラ島沖地震・津波の災害情報とインドネシアの
地域情報のマッピングに関する報告であり、地域研究がどのように行われ、何を用
いて問題を解決していくか、それの一例を示した。災害情報を地域情報と結びつけ
蓄積していくことで、進行中の防災・人道支援や将来起こりうる社会問題の早期発
見などに役立つ「地域の知」として発展しうるストーリーであった。

 関野氏の報告は、地域研究における時空間情報の重要性、活用方法、活用のため
のツール、および活用事例について報告があった。時空間情報の利用においては、
時間辞書・空間辞書が必須であるが、それらの構築についても触れている。全体を
通して地域情報学とはどういう範囲にあるものかがよく分かった報告だった。

 地域研究はそれ自体が複合した研究分野であるが、その根底として、時空間情報
が存在することがよく分かった。この切り口は、実は地域研究のみならず、人文学
研究および人文情報学において適用しうる研究が多くあると感じている。

 人文科学とコンピュータシンポジウム「じんもんこん2012」が、「つながるデジ
タルアーカイブ-分野・組織・地域を越えて」と題し、2012年11月17日(土)から
18日(日)( http://jinmoncom.jp/sympo2012/ )に北海道大学にて行われる。ま
た、CH96は2013年1月に東京大学史料編纂所で行われる予定である。文字情報とその
連携をテーマとした企画セッションを設ける予定である。一人でも多くの方に奮っ
てご参加いただきたい。

Copyright(C)YAMADA, Taizou 2012- All Rights Reserved.
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今号は、【前編】と【後編】に分けて配信しています。続きは【後編】にて。

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人文情報学月報 [DHM013]【前編】 2012年8月27日(月刊)
【発行者】"人文情報学月報"編集室
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