ISSN 2189-1621

 

現在地

DHM 029 【後編】

2011-08-27創刊

人文情報学月報
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄Digital Humanities Monthly

             2013-12-27発行 No.029 第29号【後編】 414部発行

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 ◇ 目次 ◇
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【前編】
◇《巻頭言》
「人文学におけるデジタル技術のインパクト」
 (永井正勝:筑波大学人文社会系助教)

◇《連載》「Digital Humanities/Digital Historyの動向
      ~2013年11月中旬から12月中旬まで~」
 (菊池信彦:国立国会図書館関西館)

◇人文情報学イベントカレンダー

【後編】
◇イベントレポート(1)
JADH年次国際学術大会2013(JADH2013)
 (Espen S. Ore:オスロ大学)
 (日本語訳:永崎研宣・人文情報学研究所)

◇イベントレポート(2)
立命館大学文学研究科・文化情報学専修連続講演会(第6回)「画像の効用」
 (江上敏哲:国際日本文化研究センター)

◇イベントレポート(3)
PNC/じんもんこん合同カンファレンス
 (永崎研宣:人文情報学研究所)

◇編集後記

◇奥付

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【人文情報学/Digital Humanitiesに関する様々な話題をお届けします。】
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◇イベントレポート(1)
JADH年次国際学術大会2013(JADH2013)
http://www.dh-jac.net/jadh2013/
 (Espen S. Ore:オスロ大学)
 (日本語訳:永崎研宣・人文情報学研究所)

(編集室注:JADH2013のイベントレポートは前号にも鈴木崇史氏によるものが掲載
されています。テクスト解析の研究者である鈴木氏とアーカイビングの研究者であ
るOre氏とのおふたりの観点からの記事ということで、昨年に引き続き、JADH学術大
会に関しては2本掲載しております)

 今年の京都の立命館大学でのJADH国際学術大会は2011年に大阪で初開催されて以
来3回目のものであった。変化したところもあり、そのままのところもあり、同じで
はないとしても少なくとも同じ領域であった。しかし、全体としてみると、毎回、
興味深い論文発表と新しい手法があり、新たな問題が議論されている。

 80人以上の参加者のうち3/4くらいが日本からの参加であり、他には、アジア、
アメリカ、ヨーロッパ、オセアニアからであった。今回は、大阪や東京での学術大
会とは異なり、シングルトラックで開催された。学術大会の運営の仕方としては賛
否両論があるが、個人的には、裏番組の発表を聞き逃すことがないということを楽
しく感じた。

 この学術大会はこれまでと同様、事前ワークショップを開催した。今回は、1つは
開催校の矢野けいじ氏による歴史GISのワークショップ、もう1つは、オックスフォー
ド大学のJames Cummings氏によるTEIのワークショップであった。これまでの3つの
JADH学術大会では毎回TEI関連のワークショップが開催されており、このことは、デ
ジタル・ヒューマニティーズにおいてテクスト(より一般的にはデータ)のエンコー
ディングがいかに重要であるかということを示していると考えている。

 しかしGISもまた重要である。ほとんどすべての人文学における学術研究は時間軸
と空間軸を持っており、したがって、この重要性は歴史学者にとってのみにとどま
るものではない。本年の学術大会では、EADH(旧ALLC)の元チェアHarold Short(
キングスカレッジ・ロンドン)とADHOの元チェアRay Siemens(ヴィクトリア大学)
による事前講演会も行われた。彼らはデジタル・ヒューマニティーズの活動を概観
し、特に、国際的なコラボレーションの立ち上げと組織運営上の問題を検討した。

 学術大会の本番は文体分析、異文分析と地名の分析が一緒になったセッションか
ら始まった。Johathan Hope(英国Strathclyde大学)は英国の近代初頭の演劇にお
ける「fingerprinting」の分野に関して議論した。これは、歴史的なテクストコー
パスにこの分析が適用される際、1つのジャンルでの時代を超えた発展や変化の分析
の可能性を開くものであった。Maki Miyake(大阪大学)は聖書の異なる版の間の距
離を計測しその違いを評価するための様々な統計ツールを発表した。このセッショ
ンの最後の発表はAsanobu Kitamoto(国立情報学研究所)とYoko Nishimura(東洋
文庫)によるものであったが、曖昧な地名を含む古地図と旅行記を現代の地図と地
名にいかにして関連づけるかという課題に挑戦していた。この発表では、テクスト
資料の分析がどのようにして古写真と古地図の解釈を支援し得るかという例も示さ
れていた。

 この日の2つ目のセッションは、テクスト・エンコーディングとデジタル編集版に
関することに集中していた。Koichi Takahashi(東京大学)は
Madhyantavibhagatikaの1つの版において用いられるエンコーディングに関して発表
し議論していた。その版に関してエンコーディングを行う人、あるいはエディター
が直面している問題とは、元のサンスクリットテクストが、写本の一部が失われて
文章が欠けた多くの箇所を含む写本から作られたものであり、その欠落箇所はその
テクストのチベット語訳版から再構成されるということである。Espen S. Ore(オ
スロ大学)は、「デジタル編集版に関する北欧の伝統?」と題する発表において、
大規模なスカンジナヴィア(あるいは北欧)の編集プロジェクトには欧州の他の地
域や北米の大規模プロジェクトにはみられないいくつかの特徴、たとえば、デジタ
ル編集版の長期間にわたる保持といった特徴があると主張した。

 トリニティカレッジ・ダブリンは、DH領域においてEUの助成を受けた数多くのプ
ロジェクトのセンターとなってきた。それらのプロジェクトのうちの3つがパネルセ
ッションにおいて発表された。Cormac HamptonとSusan Schreibman(ヴィデオ参加
)は別々の発展中のプロジェクトを発表した。CULTURAは、構造化されていないテク
スト資料からメタデータを収集し生成することを目指すプロジェクトであり、
DigCurVはデジタル・キュレイターのためのカリキュラムを開発するプロジェクトで
あった。3つ目に発表されたプロジェクトCENDARIは、国や組織を横断するコレクシ
ョンを検索し操作するための全般的な枠組みを開発するものであった。

 初日のポスターセッションの前に全体セッション「DH-JAC特別セッション」が開
催された。ここではEllis Tinios(英国リーズ大学)、Akihiko Takano(国立情報
学研究所)、John Resig(カーン・アカデミー)、Ryo Akama(立命館大学)が文化
資料のデータベースとそれらを全般的に取り扱うため開発されているツールについ
ての話があった。Ellis Tiniosは日本の木版本についての成果について発表し、絵
の中での変遷を示す箇所を切り出して、それらがどのようにして異なる版において
現れるかということについて示した。これはJohn ResigがUkiyo-eデータベースに関
して行っている仕事とうまく対応するものであった。そのデータベースは、同じ絵
の様々なバージョンをグループとして探すことができるのである。Resigは彼の発表
をライブヴィデオで行ったが、これはとてもうまくいった。

 ポスターセッションは、通常通り、我々が歩き回ってすべての興味深いプロジェ
クトと質疑応答を行う前に、まずはすべてのポスター発表者が短い(訳注:1分ずつ
の)プレゼンテーションを行うことから始まった。例年通り、多くの興味深いプロ
ジェクトの発表があり、以前の学術大会で発表された物を改訂したりさらに発展さ
せたりしたものもあった。個人的には日本の伝統文化をセカンドライフで紹介する
立命館大学の仕事がとても気に入っている。セカンドライフが終了した場合にはオー
プンソースの仮想世界に移行させる選択肢もあるということでありそれもよいこと
である。

 今年のもう1つの気に入った発表は(古典ギリシャに私が興味を持っていることも
あるが)「プラトンのティマイオスへのプロクルスの注釈をテクストマークアップ
で視覚化する」というプロジェクトであった。ここでHiroto Doi(筑波大学)は、
Chris Meisterの指揮の下で、ハンブルク大学で開発されたマークアップツール
CATMAを用いており、3Dネットワークで概念のネットワークを構築するという視覚化
を行っていた。そして、この発表のなかで私が気に入ったのは、概念のネットワー
クのある小さな部分を3Dプリンターで実際に印刷して、ポスター発表の場で触れる
ようにしていたことである。しかし、冒頭で述べたように、たくさんの興味深いプ
ロジェクトがあったのであり、他にも多くの視覚化の様々な手法を用いたものがあっ
た。この点をJADH学術大会の1つの特徴であると言う人もいるかもしれない。そして、
それは、我々が学ぶことのできる素晴らしいものであると感じている。

 学術大会二日目は少し違うものから始まった。それは、空間とコンピュータゲー
ムに関するJuan F. Belmonte(スペイン・ムルシア大学)による議論であった。我
々が知っており、参加者が人間の(あるいは人間のような)アバターとして現れて
くるような1つの世界における空間が扱われていた。しかし、アバターが人間ではな
いゲームもあり、ある程度までは人間的ではない世界を動き回ることになる。この
セッションの他の2つの発表は研究や研究ツールのインフラを志向するものであった。

 Jennifer EdmondとSusan Schreibman(トリニティカレッジ・ダブリン)は
DARIAH(欧州人文科学デジタル研究インフラ)において開発されたモデルについて
発表し、J. Stephen Downie(イリノイ大学)とDavid Bainbridge(ニュージーラン
ド・ワイカト大学)は著作権保護された資料に研究ツールを用いることを研究者に
許諾するための開発中の手法について述べた。J. Stephen Downieは、東京での
JADH2012にてHathiTrust研究センターについての発表を行い、今回は、HathiTrust
のツールボックスにニュージーランドのGreenstoneアーカイブの枠組みから機能が
追加されたことについて発表した。

 この日の第二セッションでは、様々な論文発表があった。最初はTakako
Hashimoto(千葉商科大学)とYukari Shirota(学習院大学)によるものであり、私
にとってはおそらくこの学術大会でもっとも重要なものの1つであった。それは東日
本大震災における女性の犠牲者に関する掲示板の枠組みを作り出すことを目的とし
たデータマイニングの実用的なアプリケーションに関するものであり、また、他の
災害一般においても応用可能なものであった。これに続いて、Christian Wittern(
京都大学)は中国の道教のテクストの編集版を作成する研究者のためのネットワー
クかあるいはフレイムワークを発表した。そして最後にPaul Arthur(西シドニー大
学)は、オーストラリアの人物事典における紙媒体のバージョンからオンラインバー
ジョンへの移行について発表した。

 James Cummingsは「TEIのライブラリの一部がいかにして利用可能であり変更し得
るかということについてのすべて」というタイトルであるかのような基調講演を行っ
た。公式には「ODDly Pragmatic: DHプロジェクトにおける文書の符号化の実践」と
いうタイトルであった(訳注:ODDはOne Document Does it allの略語でありTEI文
書の規格文書であるとともにそのフォーマットでもある)。この発表では、TEIに関
する一定の基礎知識を前提としていたが、JADH学術大会ではいつもTEIワークショッ
プが開催されていることを考えると、このくらいの基本は押さえてあるだろう。

 昼休みには、JADHの会員総会が開催された。いくつかの議題があったが、特に議
論があったのは2つのJADHの刊行物に関するものであった。1つは日本語でのもので
あり、もう1つは英語のものであった。

 昼休みの後、2つの興味深いトピックが議論された短いセッションがあった。
Yoshiaki Murao(奈良大学)とYoichi Seino(人間文化研究機構)は「編年時間参
照系モデル」あるいはCRと彼らが呼んでいる問題に着目していた。このモデルを開
発する理由の1つは、グレゴリオ暦のような暦に日付が沿っておらず、たとえば考古
学において用いられる時代に同定するような場合に対応するためである。この後、
Yu Fujimoto(奈良大学)もまたあるモデルを発表した。これは文化の分析と分類の
理念的なモデルをマックス・ヴェーバーの理念形に基づいて構築するというもので
あった。その分析によって生成されたデータはXMLで符号化され、それらのメタデー
タは最初に入力されたモデルを再生するのに用いることもできるということである。

 カナダからの研究者グループ(ゲルフ大学のSusan Brown、アルバータ大学のElena
Dergacheva、ブリティッシュコロンビア大学のTeresa Dobson、CWRCプロジェクトの
Ruth Knechtel、ブリティッシュコロンビア大学のErnesto Pen~aとGeoff G.
Roeder)は、出版のワークフローのためのツールについて議論するパネルセッショ
ンを行った。ここでは、Wikiを用いたグループワークやボーンデジタルの出版物等
も議論されていた。

 この学術大会の最後のセッションは、アジア太平洋地域のDHのネットワーク形成
に関するパネルディスカッションであった。Paul Arthur(西シドニー大学)、
Masahiro Shimoda(東京大学)のふたりはADHOの構成組織であるaaDH(オーストラ
リア圏DH学会)とJADHを代表して登壇した。そして、Jieh Hsiang(国立台湾大学)
は台湾におけるDH関連のプロジェクトとセンターについてのいくつかの情報を提供
した。

特殊文字は次のように表記しています。
ティルデ:n~

Copyright(C)Espen S. Ore 2013- All Rights Reserved.
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◇イベントレポート(2)
立命館大学文学研究科・文化情報学専修連続講演会(第6回)「画像の効用」
http://www.arc.ritsumei.ac.jp/lib/GCOE/info/2013/11/post-100.html
(江上敏哲:国際日本文化研究センター)

 2013年11月29日、立命館大学文学研究科が主催する文化情報学専修連続講演会の
第6回が、同大学アート・リサーチセンターにて行なわれた。この講演は、2014年4
月同研究科に新設される予定の「文化情報学専修」を記念して開催されている、連
続講演会企画の第6回目である。

 前半は国文学研究資料館館長である今西祐一郎氏により、「画像の効用」という
題での講演が行なわれた。後半は、立命館大学アート・リサーチセンター教授であ
る赤間亮氏により、「海外古典籍デジタルアーカイブプロジェクト」の紹介が行な
われた。いずれもデジタルアーカイブの構築における文献・資料の画像(イメージ)
情報がメインのテーマとして扱われたものである。なお当日の模様はUstreamで中継
されたが、アーカイブの公開はされていないようである。

 前半、国文学研究資料館館長の今西祐一郎氏による「画像の効用」は、日本古典
籍のための“インフラづくり”の考え方が語られた講演だった。国文学研究資料館
では平成26年度からプロジェクト「日本語の歴史的典籍の国際共同研究ネットワー
ク構築計画」が本格的に稼働する( http://www.nijl.ac.jp/pages/cijproject/ )。
このプロジェクトは、同館が国内・海外の大学等と連携し、日本語の歴史的典籍約
30万点を画像化・データベース化するというものである。平成26年度から35年度ま
で、約88億円の事業費によるもので、完成すれば日本古典籍としては最大の画像デー
タベースとなることが期待される。

 今回の講演ではそのプロジェクトについての詳細が説明されたと言うよりも、そ
のプロジェクトのもとにある考え方とそこへ至る経緯として、日本古典籍研究にお
ける画像情報の効用が述べられたものであった。

 日本古典籍研究に不可欠な『国書総目録』(岩波書店)は、その登場以降、日本
の書誌学・文献学を飛躍的に向上させた。だが冊子体目録であるため、例えば戦前
の所蔵情報が更新されないなどの難がある。その後の追加情報や、国文学研究資料
館が行なってきた各地の文献調査の成果を含め、『国書総目録』と『古典籍総合目
録』(国文学研究資料館)を併せるかたちで構築・公開されているのが「日本古典
籍総合目録データベース」( http://base1.nijl.ac.jp/~tkoten/about.html )で
ある。当館所蔵の和古書目録データ・マイクロ資料目録データも収録されるなど、
すでにインフラとして欠かせない存在となっていることは誰もが認めるところであ
ろう。

 ただし、『国書総目録』にしろ「日本古典籍総合目録データベース」にしろ、必
ずしも充分な情報が掲載されているというわけにはいかず、限界がある。特に、版
ごと、場合によっては刷ごと・個々に書誌的特徴が異なることが多い日本古典籍で
は、その違いを明確に表現するには、端的な文字・単語だけの目録情報では分らな
いことが多い。

 例えば、『撰集抄』の「慶安三版(九冊)」「慶安四版(九冊)」という情報が
あったとき、文字列だけを見ると同様の本が継続して刷られたかのように思ってし
まいがちだが、実際に実物を見るとまったく異なる本であることがわかる。画像で
見ると一目瞭然である。また、寛永六年版『伊勢物語』の東大本と岩瀬文庫本を比
べたとき、片方には手彩色入りの挿絵が含まれているが、もう片方にはそれがない。
「目録データベース」上では「<寛永六版(二巻二冊)>東大,岩瀬」と記されて
いるのみであり、絵入りかどうかの区別もつかない。

 『平家物語』その他の軍記物では、カタカナ本かひらがな本かによってその意味
するところは違ってくる。ひらがな本はほとんどが絵入り本で初心者向け前提であ
り、カタカナ本とは基本的に使い分けられていた。これも、目録情報だけでは見分
けがつかないが、画像情報があれば容易に確認できる。

 このように、目録情報だけでは伝わらない情報を伝えることができるのが画像の
効用である、とのことだった。スクリーンで古典籍資料の画像を見比べつつ事例を
豊富に紹介するという講演であり、その実際を本レポートで文章にして説明するこ
とはなかなか困難であるが、そのことからもここに言う「画像の効用」は明らかで
あろう。

 後半は、立命館大学アート・リサーチセンター教授である赤間亮氏による「海外
古典籍デジタルアーカイブプロジェクト」の紹介であった。このデジタルアーカイ
ブには古典籍資料だけでなく、絵画や陶芸その他の工芸品も含まれている。例えば、
ロンドン・V&A美術館所蔵の浮世絵画像は現在V&Aのウェブサイトでデータベースに
より公開されているが、それをデジタル化したのがこの「海外古典籍デジタルアー
カイブプロジェクト」である。

 過去に行なわれてきた在海外日本資料の調査では、日本から行った日本人研究者
のみが、簡易な目録などをとるだけで終わることが多かった。このプロジェクトで
は、現地に赴いて日本古典籍を撮影・デジタル化し、その画像データを現地に寄贈
するということを基本としている。またそのための目録作成についても、現地の目
録規則等にそって作る。このような活動を、日本のスタッフだけで日本のためだけ
に行なうのではなく、現地の大学院生やスタッフ・研究者とともに行なう、とのこ
とである。

 プロジェクトが実施されたのは、4年間でイギリス3箇所、イタリア3箇所、ギリシ
ャ、チェコ、アメリカなど。数万コマ単位の撮影を行なわなければならないため、
高精細かどうかよりも速度のほうが重要となる。カメラ1台で実働8時間、浮世絵な
ら400枚、書籍なら1500枚が1日に処理されていく。

 プロジェクト実行のため「ARCモデル」というモデルが考案されている。これは自
炊型デジタル化作業モデルであり、研究者みずからが機材をセットアップし撮影で
きることとされている。実際に資料を取り扱うにあたっては、臨機応変な対応が必
要となる。そのため、資料知識を備えた研究者による実施が必要である。ARCでは最
低限の修復指導もできると言う。

 これをさらに発展させたのが「国際型ARCモデル」である。このモデルでは、現地
の学生・研究者に参加してもらい、自分たちでこのデジタル化作業が行なえるよう
にする。その一環として、2011年にはARCでワークショップを開き、各国から学生に
来てもらって研修を行なった。研修生たちは学んだことをそれぞれの国で他のスタッ
フに伝え、現地作業チームのみでプロジェクトを実行する。ノウハウが循環・拡散
していくモデルと言えよう。技術そのものの移転、情報の共有化、知識経験の移転、
それによる人材育成が期待できる。

 このモデルの効用は、小規模で表に出てきにくかった在海外の日本コレクション
に対し、研究の可能性が拓かれるようになったところにもある。北斎の資料が数十
点あることが新たに判明し、それを契機に北斎展を企画・実施したところもある。
また、作成された画像はARCのデータベースでも機関別・国別に構築されており、原
所蔵機関がデータベースを構築できない場合でもそれと同等のデータベースを公開
することができる。

 このように、日本にも存在しないが海外にはある、というような日本古典籍がウェ
ブで活用可能になることで、研究者・分野の幅がひろがり、見つかりづらい日本古
典籍が顕在化し、画像による原本研究が可能な若手研究者を増やすことができる、
ということが期待できるとのことであった。

 その後のディスカッションでは、一般・教育向けのサイトの構築や、メタデータ
のオープンな流通、ユーザーからの情報やフィードバックの受付などについて議論
があった。

 国文学研究資料館では現在も多くの画像が公開されているが、その権利に関する
注意書きが数多く表示されていることについてユーザーのブログで指摘されていた
http://blog.livedoor.jp/yatanavi/archives/53088776.html )。この件にも講
演者から言及があり、表示は閲覧・研究の邪魔にならないようにするべきだし、む
しろ使ってもらったほうがいいと考えている、とのコメントがあったことを記して
おきたい。国内最大規模の古典籍画像データベースとなることが予想されるからこ
そ、他のデータベースへの影響も大きいだろう。ユーザーの期待にそった公開・提
供が行なわれることを望みたい。

Copyright(C)EGAMI, Toshinori 2013- All Rights Reserved.
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◇イベントレポート(3)
PNC/じんもんこん合同カンファレンス
http://jinmoncom.jp/sympo2013/
http://www.pnclink.org/pnc2013/english/
 (永崎研宣:人文情報学研究所)

 2013年12月9日(月)~14日(土)、京都大学百周年時計台記念館にて、人文科学
とコンピュータに関するPNC(Pacific Neighborhood Consortium)と情報処理学会
人文科学とコンピュータ研究会の合同会議が開催された。

 PNCはアジア太平洋地域の研究者によるコンピュータ利用に関するシンポジウムで
あり、カリフォルニア大学バークレー校や台湾中央研究院を中心に運営されている。
毎年、アジア太平洋地域でカンファレンスを開催し多数の発表者を集めているが、
今年は2002年以来の日本での開催となった。今回は2002年日本大会と同様、人文科
学とコンピュータシンポジウムとの共催となり、テーマは「ヒューマニティーズ・
コンピューティング―人間の活動に関する知識をリンクする」というものであった。

 シンポジウムの詳細は上記のURLを参照されたい。概略としては、12月9日にプレ
カンファレンスイベントとして、関連するANGIS、ECAI、ZINBUN/DHIIによるシンポ
ジウムがそれぞれ行われた後、10日、11日は主にPNCによるセッション、12日は共通
セッションとしてポスター・デモンストレーション発表が行われ、13、14日は例年
通りのじんもんこんシンポジウム、という形であった。

 PNCは最大5つのパラレルセッションという大規模なものとなり、そもそも全体像
を把握するにはなかなか難しいものがある。また、筆者自身としても日帰りの困難
な京都大学で開催ということでフル参加することはできなかったため、ますます全
体の状況の把握は困難な状況ではあった。とは言うものの、上述のZINBUN/DHIIシン
ポジウムを主催し、PNCのセッションのチェアやじんもんこんシンポジウムでの発表
やチェアを行うなどしたため、そうしたところから見えた若干のことについて報告
させていただきたい。

 プレイベントとなるZINBUN/DHIIシンポジウムは「東洋学におけるテクスト資料の
構造化とWebの可能性( http://www.dhii.jp/dh/zinbun/sympo2013.html )」と題
して行われ、活発で濃厚な議論が展開されたが、これについては本メールマガジン
の次号にて詳細が報告される予定である。また、同日のANGISシンポジウムについて
もご報告いただく予定である。

 10日、11日のPNCのセッションでは、パラレル数が多かったこともあり筆者は比較
的少人数のセッションばかり参加することになったが、いずれも濃厚な議論が展開
されていた。大きなモデルを提示するものから具体的な資料に即していかにして適
切な情報を効率的に取り出すか、さらにはそのためにどのようにして資料を構造化
するか、といった様々な観点からの発表が行われていた。

 個人的な関心としては、Dharma Drum Buddhist Collegeの面々による2014年版の
大蔵経閲覧システムとそこに至るマネジメントに関する2つの連続した発表がとても
興味深いものであった。Google Books n-gram Viewerのようなものを、彼らがこれ
までに構築してきた目録情報とテクストデータを組み合わせて表示するというもの
のようであった。これによって用例の時系列での変遷が確認できるということであ
り、それ自体、研究のみならず教育にとっても有益なものだろうと想像された。ま
た、筆者としては、そこから、既存の人物情報やテクストの内容についての問題点
が明らかになり、さらに、1つの本文のみを前提とするテクスト解析や1つの系統の
メタデータしか扱わない情報分析についての問題意識が広まるのではないかという
ことについても期待したところであった。

 さて、12日のハイライトは、PNC/じんもんこん合同セッションということで、ポ
スター・デモンストレーション発表が行われ、さらに当日中の審査によるポスター
賞が発表されるということになっていた。ポスター・デモンストレーション発表は、
国際会議であるPNCに配慮してじんもんこん側も英語でポスターを記述することとなっ
ており、質疑応答は英語でも行われていたようであった。活発な議論の後、PNCの閉
会式がこの日に行われ、ここでポスター発表の表彰も行われた。金賞・銀賞・銅賞
の三発表が選ばれ、それぞれ、国語学におけるテクストの構造化、博物館資料のLOD
化、歴史資料のアノテーションと構造化をテーマとするものであった。このうち金
賞と銅賞はいずれもTEIガイドラインに準拠することを視野に入れた発表だったとい
うこともあり、研究資料のデジタル化の基礎作りに向けた動きが着々と進んでいる
ことをうかがわせる表彰となった。

 13日、14日は全体での基調パネルセッションの後、2つのパラレルセッションに分
かれてそれぞれに議論が展開される形となった。基調パネルセッションでは、「『
地域の知』の情報技術」として、登壇者がそれぞれに取り組んできた立場からの提
言が行われ、その後の全体ディスカッションでは、人文学資料としてそれをうまく
展開するためにはどういった構造化と配慮が必要かということがさらに議論された。
個別のセッションでは、例年通り、査読付き国内シンポジウムとして、様々な濃厚
な発表と議論が行われた。詳細については上記URLにプログラムが掲載されているの
で参照されたい。また、いずれは論文集も無償公開されることが予想されるのでそ
の際にはそちらもぜひご参照されたい。

 ただ、筆者が見聞きした限りでは、やはり先行研究、あるいは、関連研究の検討
やそれらへの言及といったことが十分ではない発表がいくつか見受けられた。基本
的には個々人がきちんと努力すべき事柄ではあるものの、この種の研究での関連研
究を探すことの難しさが1つの原因であると思われるため、それを解決するための方
策の必要性を改めて痛感したところであった。また、問題解決型の成果発表となっ
ていなければ評価が難しい面があることから、研究をしている人が、自分自身の研
究が何の役に立つのかを説明できることが重視される1つのポイントになってしまっ
ていることを改めて感じたところでもあった。個別の発表としてはそこを重視する
とともに、そこからある程度抜け出すための議論の枠組みも今後は本格的に検討す
る必要があるだろう。

 最後に、このような大規模な複数のシンポジウムを一体感をもって盛会へと導い
た原正一郎実行委員長をはじめとする主催者の皆様の影ながらの大きな努力に感謝
しつつ、本レポートを締めくくりたい。

Copyright(C)NAGASAKI, Kiyonori 2013- All Rights Reserved.
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 配信の解除・送信先の変更は、
    http://www.mag2.com/m/0001316391.html
                        からどうぞ。

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◆編集後記(編集室:ふじたまさえ)
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 2013年の締めくくりとなる今号はいかがでしたか?ちょうど2013年1月から連載を
開始し、前編・後編の2部体制となって1年を一回りした形となります。

 数えてみたところ2013年1月発行の第18号から第29号まで、1年間にご寄稿いただ
いたイベントレポートの数は、延べ44本ありました。多い月ではレポートだけで6本
のご寄稿をいただきました。

 巻頭言の論考には毎回さまざまな話題が提供され、連載でまとめていただいてい
る動向をチェックすると全世界の情報を手に入れることができます。

 配信数も2013年11月配信の時から400を超え、順調に読者を増やしている人文情報
学月報ですが、来年もさまざまな角度からの論考を掲載できれば嬉しいです。

 今号はもちろんのこと、この1年間にご寄稿いただいた皆さまに感謝して、編集後
記を締めくくりたいと思います。ありがとうございました。

◆人文情報学月報編集室では、国内外を問わず各分野からの情報提供をお待ちして
います。
情報提供は人文情報学編集グループまで...
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人文情報学月報 [DHM029]【後編】 2013年12月27日(月刊)
【発行者】"人文情報学月報"編集室
【編集者】人文情報学研究所&ACADEMIC RESOURCE GUIDE(ARG)
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