ISSN 2189-1621

 

現在地

DHM 057 【後編】

2011-08-27創刊                       ISSN 2189-1621

人文情報学月報
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄Digital Humanities Monthly

             2016-04-29発行 No.057 第57号【後編】 628部発行

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 ◇ 目次 ◇
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【前編】
◇《巻頭言》「言語学とコンピュータ」(山元啓史:東京工業大学)

◇《連載》「Digital Japanese Studies寸見」第13回
 「リンクトデータでデジタル日本学はどこにつながってゆくのか」
 (岡田一祐:東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)

◇《特別寄稿》
 「OMNIA:膨大な芸術作品を探索するためのオープンなメタデータの活用」
 (Niall O'Leary:独立系開発者)
 (日本語訳:永崎研宣・人文情報学研究所)

【後編】
◇人文情報学イベントカレンダー

◇イベントレポート(1)
リヨン高等師範学校講義「中世手稿のデジタル編集」参加記
 (長野壮一:フランス社会科学高等研究院博士課程)

◇イベントレポート(2)
「Research Data Alliance第7回総会」参加報告
 (池内有為:筑波大学大学院図書館情報メディア専攻博士後期課程)

◇イベントレポート(3)
「デジタル時代の人文学再生」参加報告
 (菊池信彦:国立国会図書館関西館)

◇イベントレポート(4)
国際シンポジウム「Memory, the (Re-)Creation of Past and Digital Humanities
-記憶、過去の(再)創造とデジタル人文学-」
 (安形麻理:慶應義塾大学文学部)

◇イベントレポート(5)
東アジア図書館協会(CEAL)・北米日本研究資料調整協議会(NCC)2016年次集会
参加報告
 (江上敏哲:国際日本文化研究センター図書館)

◇編集後記

◇奥付

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【人文情報学/Digital Humanitiesに関する様々な話題をお届けします。】
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◇人文情報学イベントカレンダー(□:新規掲載イベント)

【2016年5月】

■2016-05-14(Sat):
情報処理学会 人文科学とコンピュータ研究会 第110回研究発表会
(於・茨城県/筑波大学 筑波キャンパス 春日エリア)
http://www.jinmoncom.jp/

■2016-05-14(Sat)~2016-05-15(Sun):
日本語学会2016年度春季大会
(於・東京都/学習院大学 目白キャンパス)
http://www.jpling.gr.jp/taikai/2016a/

■2016-05-30(Mon)~2016-06-01(Wed):
CSDH/SCHN conference
(於・カナダ/University of Calgary)
http://csdh-schn.org/category/activites/conference/

【2016年6月】

□2016-06-03(Fri):
アーカイブサミット2016
(於・東京都/千代田区立日比谷図書文化館)
http://archivesj.net/?page_id=745

■2016-06-20(Mon)~2016-06-23(Thu):
DHA 2016 Working with Complexity
(於・豪州/University of Tasmania)
http://www.uqhistory.net/web/dha2016

■2016-06-24(Fri)~2016-06-27(Mon):
AAS-in-ASIA conference@京都
(於・京都府/同志社大学)
http://aas-in-asia-doshisha.com/

【2016年7月】

□2016-07-04(Mon)~2016-07-08(Fri):
DHOxSS 2016
(於・英国/Oxford)
http://digital.humanities.ox.ac.uk/dhoxss/2016

□2016-07-06(Wed)~2016-07-09(Sat):
Summer School in Chinese Digital Humanities
(於・英国/University of Leiden)
http://chinese-empires.eu/events/conferences/summer-school-in-chinese-di...

□2016-07-19(Tue)~2016-07-29(Fri):
"Culture & Technology" - The European Summer University in Digital
Humanities
(於・独国/Univesity of Leipzig)
http://www.culingtec.uni-leipzig.de/ESU_C_T/

□2016-07-30(Sat):
情報処理学会 人文科学とコンピュータ研究会 第111回研究発表会
(於・長崎県/五島市福江文化会館)
http://www.jinmoncom.jp/

Digital Humanities Events カレンダー共同編集人
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小林雄一郎(東洋大学社会学部)
瀬戸寿一(東京大学空間情報科学研究センター)
佐藤 翔(同志社大学教育文化学科 助教)
永崎研宣(一般財団法人人文情報学研究所)

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◇イベントレポート(1)
リヨン高等師範学校講義「中世手稿のデジタル編集」参加記
http://www.digitalmanuscripts.eu/
 (長野壮一:フランス社会科学高等研究院博士課程)

 西洋中世研究において、古文書学は実証研究にとって欠かせない歴史補助学の一
つとして、重要な役割を果たしてきた。かつては専らアナログな手法で取り組まれ
た古文書学だが、現在ではDHの影響を受けるようになっており、研究者や学生のDH
に対する関心も高まりつつある。そうしたニーズを受けて、中世研究を専攻する大
学院生を対象とした欧州共同のDH教育プログラムが昨年度より行われている。「中
世手稿のデジタル編集」(Digital Editing of Medieval Manuscripts)である[1]。

 「中世手稿のデジタル編集」はエラスムス・プラス計画による教育プログラム。
参加機関はフランス社会科学高等研究院(EHESS)、プラハ・カレル大学、ロンドン
大学クイーン・メアリー、シエナ大学、クロスターノイブルク修道院図書館である。
授業はヨーロッパ中世学研究に携わる大学院生が手稿文書のデジタル編集・電子出
版を行うための技術を習得することを目標としており、全体の構成は次のようにな
っている。

●第1週(2月1~6日、於クロスターノイブルク):「中世テクストを編集する――
 古書体学、古書冊学、文献学」(Editing Medieval Texts: Paleography,
 Codicology, Philology)
●第2週(3月7~12日、於リヨン):「デジタル編集――コード化、タグ付け、電子
 出版」(Digital Editing: Encoding, tagging, and online publishing)
●第3週(6月20~25日、於ロンドン):「デジタル版中世テクストの図書館を創設
 する」(Creating a Library of Digitally Edited Medieval Texts)

 今回、筆者はフランス・リヨンにて行われた第2週目の授業に参加する機会を得た。
この授業は、DHを学ぶ前提として文献学一般を扱った第1週目の授業を踏まえて、
TEIの基礎を学ぶことを主眼に置いている。本稿は5日間に渡る集中講義の参加記で
ある。

 集中講義「デジタル編集――コード化、タグ付け、電子出版」は、2016年3月7日
から12日にかけて、リヨン高等師範学校のジャック・モノー・キャンパスにおいて
行われた[2]。主催者はフランス国立科学研究センター(CNRS)研究員の
Marjorie Burghart、ゲストスピーカーはJames Cummings(オクスフォード大学)、
Elena Pierazzo(グルノーブル第3大学)、Chris Sparks(ロンドン大学クイーン・
メアリー)、Magdalena Turska(元DIXIT研究員)と、高名な講師陣が多数集まった。

 全3週間のプログラムのうち2週目に当たる本授業は、「XMLの基本概念を概観し、
批判的校訂を行うために必要なTEIの知識を習得し、TEIにコード化したファイルの
変化形を例示する」ことを目標としている。初日の午前はCummings氏による導入講
義「デジタル学術編集」(Digital scholarly editing)から始まった。ここでは史
料をデジタル化・マークアップするための前提として、XML/TEIの基本的な事項に関
する概説が行われた。続いて、同じくCummings氏により、「TEIの基本構造と核とな
る要素」(Basic TEI Structure and Core Elements)を説明する講義が行われた。

 以上の座学を踏まえて、実際にTEI P5に基づいた簡単なXMLファイルを作成する実
習(Creating a basic TEI P5 XML file with oXygen XML Editor)が行われた。使
用したエディタはOxygen XML Editorのトライアル版であり、以後、授業を通してエ
ディタはOxygenの使用が推奨された。ここで学生は各自で短い詩のテキストファイ
ルへ教員の指示通りにタグ付けを行い、複数名の教員が机間巡視を行う形式での実
習が行われた。

 続けて、授業はTEI/XMLからHTMLおよびCSSのセクションに移った。Sparks氏によ
る講義「HTMLとCSSでWebページを作成する」(Creating Web Pages with HTML and
CSS)の後、あらかじめ教員によって作成されたHTMLとCSSのファイルを学生が組み
替えて、ブラウザ上における見た目がどのように変化するのか確認する実習が行わ
れた。この際に使用したツールはjsFiddleである。

 以上のように、初日の午前の授業ではXML/TEIおよびHTML、CSSの基本事項を座学
で学び、簡単なコードが書けるようになる段階まで進んだのである。

 昼食休憩を挟んで午後の授業では、中世の史料を用いてさらに実践的な内容が扱
われた。Cummings氏による講義「固有表現――人名、地名、組織名」(Named
Entities: People, Places, and Organisations)では、固有名詞をXMLに記述する
際のTEIのルールを学んだ。続けて行われた実習では、あらかじめ用意されたXMLフ
ァイル中の人名にタグ付けを行い、生没年などの注釈を付す作業を行った。これを
教員の作成したオンライン上のソフトウェアにアップロードし、ブラウザで表示さ
れる文章上の人名の部分にカーソルを合わせれば、正しくコードが書けている場合、
先ほど入力した注釈が画面上に表示されるという次第であった[3]。

 Burghart氏による初日の最後の授業「古文書の簡単な校訂版を作成する」
(Creating a simple edition of a diplomatic document)では、XMLファイルの題
名・行・段落などにタグ付けを行い、パラメータを変化させることで、ブラウザ上
において様々な形式で表示する練習を行った。

 翌2日目の授業は、「TEIメタデータ概説」(An Overview of TEI Metadata)と題
されたCummings氏による講義から始まった。ここではTEIによって記述されるメタデ
ータについて、特にヘッダ部分の構造について解説が行われた。続いて、同じく
Cummings氏による講義「TEIによる手稿文書の翻刻・説明」(TEI for Manuscript
Transcription and Description)では、原本のレイアウトに関する情報を保持した
上で可読性を高めるためのTEI翻刻の方法、またタグによってTEIにメタデ
ータを付与する方法が説明された。これらの講義内容を踏まえた実習として、実際
にTEIに書誌情報のメタデータを付与する練習(Ms Desc. exercise in groups:
encode the description of mss we’re going to see at the City Library)が行
われた。

 午後からは市街地にあるリヨン市立図書館(Bibliothe'que municipale de Lyon)
に場所を移し、図書館の来歴や、図書館の保有する稀覯書コレクションについての
司書による解説が行われた。ここでは様々な中世写本の実物に触れることができ、
古文書の形式について具体的なイメージを持つ一助となった。

 3日目の午前の授業は、学生によるフィードバックの時間から始まった。これまで
の2日間の授業を踏まえて、自分の研究がDHやTEIのマークアップとどのように関わ
ることができるか、学生による報告と議論が行われた。

 続いて、Burghart氏の講義「批判的校訂版を理解する」(Understanding
critical editons)では、写本の異文に対するTEIを用いた註解の仕方を学んだ。

 これらの講義内容を踏まえて、午後からの実習(Critical apparatus exercise)
では中世のテクストの異文にTEIで注釈を付ける練習が行われた。完成したXMLファ
イルを教員の作成したオンライン上のソフトウェアにアップロードすると、異文が
うまく反映されているか確認できるという次第だった[4]。

 4日目の授業は、「文書の編集について学生が知りたいと思っている(けれども聞
きづらかった)こと」(Everything you wanted to know about documentary
editons (but were afraid to ask))と題されたPierazzo氏による講義が行われた。
ここでは、手稿文書をTEIに翻刻する際、例えばアポリネールのカリグラフに見られ
るような、直線状の行をなしていないレイアウトの文書形式を正確に表現するのは
困難であること、文書の形式によっては単なる翻刻ではなく、複製版(facsimile
edition)の方がよいことなどが説明された。すなわち、手稿文書のレイアウトが直
線状の行をなしているとき、レイアウトよりも内容が重視されるとき、可読性の高
いテクストのアウトプットが必要なときはタグを用いて表現し、手稿文書が
線状の行を成していないとき、著者による訂正が多いとき、内容よりもレイアウト
が重視されるときはのタグを用いて領域の集合として表現するべきこと、
またその方法が説明された。

 その後、これらの講義内容を踏まえて、手稿文書の画像データからタ
グを用いたXMLファイルを作成し、あらかじめ用意されたCSSと関連付けることで表
示例を学ぶ実習が行われた。その際、画像データ上の位置情報を抽出して要
素を作成するために教員の作成したソフトウェアを利用した[5]。

 最終日となる5日目の授業は、Turska氏によるデータベース「eXist」に関する講
義(eXist : DB basics)から始まった。講義ではデータベースの使用方法を学び、
その後、XPathを利用して、ツリー構造をなすXMLファイルの中から必要な情報を検
索する実習が行われた。

 ここまでの授業で、5日間で学ぶ内容をすべて終えた。午後からは学生によるフィ
ードバックの時間が設けられ、その後、プログラム全体の3週目に当たるロンドンに
おけるセミナー「デジタル版中世テクストの図書館を創設する」(Creating a
Library of Digitally Edited Medieval Texts)の予告が行われた。それによると、
最終週となるロンドンの授業では、学生がツールを制作する段階まで進むという。

 以上が授業「デジタル編集――コード化、タグ付け、電子出版」の概略である。
出席者は20名ほどであったが、エラスムスの選抜を経ていることもあり、EU諸国か
ら集まった学生の意欲は総じて高かった。中世研究の分野では史料批判の精度を高
めるため、TEIの技術の修得を望む学生が多いと聞く。ホスト校における受け入れ責
任者のBurghart氏も博士論文までアナログな手法を用いていたが、博士号取得後に
TEIの技術を修得したそうである。こうした欧州の中世研究におけるTEI人口の多さ、
教育・研究体制の充実ぶりは、史料論・古文書学が注目される昨今のわが国の歴史
学をはじめとした人文学に示唆を与える点も多いだろう[6]。

[1]Digital Editing of Medieval Manuscripts http://www.digitalmanuscripts.eu/
[2]Digital Editing, Lyon 2016 - Digital Editing of Medieval Manuscripts
http://www.digitalmanuscripts.eu/training-programme/digital-editing-2016/
[3]DEMM People & Places Exercise https://chrissparks.org.uk/tei/places/
[4]TEI Critical Edition Toolbox http://ciham-digital.huma-num.fr/teitoolbox/
[5]TEI Zoner https://chrissparks.org.uk/tei/
[6]わが国の歴史研究で史料論・古文書学が注目されている事情については、例え
 ば次の文献を参照。「ユーラシア東西における古文書学の現在」『史苑』第75巻、
 第2号、2015年。

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◇イベントレポート(2)
「Research Data Alliance第7回総会」参加報告
http://www.jst.go.jp/pr/announce/20160120-2/
 (池内有為:筑波大学大学院図書館情報メディア専攻博士後期課程)

 2016年3月1日から3日にかけて、RDA(Research Data Alliance:研究データ同盟)
第7回総会が一橋講堂(東京)で開催された。RDAは分野や国境を超えた研究データ
共有を目指して、技術やインフラ、制度などの課題を議論し、国際的な合意形成を
はかるための組織である。誰でもWebサイトでメンバー登録することができ、2016年
4月現在、110か国から約4,000名が参加している( https://rd-alliance.org )。

 第7回総会には、33か国から人文学、情報学、バイオ、地球科学、化学、社会科学
ほか多分野の研究者、IT技術者、図書館員、出版社、政府関係者など373名が出席し
た。開催に際しては、「Towards a Global Internet of Data in the Open
Science Era」と題するパネルディスカッションが行われ、データの共有基盤に関す
る各国の状況紹介と議論が行われた。欧州委員会は、欧州の研究者170万人、科学技
術の専門家7,000万人を対象としたEOSC(European Open Science Cloud)構想を進
めているが、世界規模の連携についても言及された。

1.分科会(Meeting Session)

 RDAでは“Digital Practices in History and Ethnography”など、分野や課題ご
とに分科会を作り、まずBoF(Bird of Feather)から議論をはじめる。その後IG
(Interest Group)を経て、最上位のWG(Working Group)に至ると18ヶ月間で成果
や提言(Recommendations)を完成させるというボトムアップ構造を取っている。今
回は3日間で7コマ(各1時間半)が設定されており、合計52の分科会が議論を行った。
分科会を踏まえて次のステップが決められ、総会後もメーリングリストやオンライ
ン会議での議論が続いている。

(1)リポジトリを持続可能にする収益モデル
 RDA/WDS Publishing Data Cost Recovery for Data Centres IGとDomain
Repositories IGの合同分科会では、データリポジトリの永続性を確保するための収
益モデルについて議論された。

 はじめに、RDA/WDSのIGによる最終報告書「データリポジトリのための収益のスト
リーミング」の解説が行われ、続いてOECDグローバルサイエンスフォーラムの「デ
ータリポジトリのための持続可能なビジネスモデル」プロジェクトが紹介された。
論点として、分野によって異なるデータの価値をどう示すか(たとえば美術のデー
タリポジトリの永続性はどうやって保つか?)、新たな収入源は考えられるか、多
様なステークホルダーに受け入れられる収益のストリーミングは何か、といった問
いかけが行われた。その後、研究者やデータリポジトリなどのグループに分かれて
議論が行われた。

 議論の結果として、ベストプラクティスが必要である、データは公益性があるこ
とを示す(ただし公益を分析するのは難しい)、論文のオープンアクセスは出版社
に支払う費用(APC)が問題となっているがデータは無料であるべきだといった意見
が述べられた。より良い方策を探る議論に、引き続き注目していきたい。

(2)相互運用のための法的枠組み
 RDA/CODATA Legal Interoperability IGは、国や分野によって異なるデータ公開
や再利用に関わる法律や規則を調和化し、データへの合法的なアクセスを容易にし
て再利用を促進することを目指している。

 分科会では、作成中の「原則」6条と「ガイドライン」8章が紹介された。4月から
7月にかけて複数の機関でテストやレビューを行った上で9月に完成させ、第8回総会
で報告する予定である。参加者全員に意見が求められ、テスト・レビューへの参加
も呼びかけられた。日本はフェアユース規定がないが、「ガイドライン」を適用し
た場合に不都合な点がないかどうかといった検討が必要だと考えられる。

 4月現在、テスト・レビュー機関としてHathiTrustやEuropeana、大学やデータリ
ポジトリ、出版社、クリエイティブコモンズ、ECやOECDなどが挙がっている。RDAの
サイトからグループに参加すれば、議論に加わることも、レビュー機関に立候補す
ることも可能である。

2.全体会合(Plenary Session)

 分科会の成果や策定中の提言は、2日目の全体会合で報告される。前回の総会から
WGの成果が出始めており、今大会では「データ出版サービス」や「小麦データの相
互運用性」など7件の提言が発表された。ここで興味を惹かれた分科会に出席するこ
ともできるし、出席できなかった分科会の内容を知ることもできる。なお、承認済
み・検討中の提言と成果は、RDAのサイト「All Recommendations & Outputs」で確
認できる。

 アカデミックな国際会議と比較したRDAの特徴は、異分野の研究者やリポジトリ管
理者、政府組織、企業などからの参加者との意見交換やコネクション作りの機会が
得られることだと感じた。3月17日に国立国会図書館で行われたRDA報告イベント(
http://www.ndl.go.jp/jp/event/events/201603forum.html )では、日本から参加
した空間情報学や地球電磁気学などの専門家からメタデータやメトリクスの議論が
紹介された。フロアからは図書館員をはじめ、医学や社会科学分野からの意見や、
大蔵経データベースのAPIを活用した文献へのリンクといった事例が紹介された。こ
うした分野ごとの課題やベストプラクティスを共有することによって、データ共有
が加速するだろう。RDAのような、多様なステークホルダーが参加する日本のコミュ
ニティの立ち上げも提案された。

 次回は、9月15日から17日にコロラド州デンバーで開催される。同地では、9月11
日から17日にかけてInternational Data Week 2016が行われるため、一層の盛り上
がりが期待されている。

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◇イベントレポート(3)
「デジタル時代の人文学再生」参加報告
https://nwugender.wordpress.com/2016/02/18/2016-3-4%E9%96%8B%E5%82%AC%E3...
 (菊池信彦:国立国会図書館関西館)

 2016年3月4日、筆者は、奈良女子大学アジア・ジェンダー文化学研究センター主
催による公開セミナー『デジタル時代の人文学再生――Reframing the Humanities
in the Digital Age』[1]において、コメンテーターとして参加する機会を得たの
で、本稿ではその内容を紹介したい。

 同セミナーでは、アイルランド・トリニティ・カレッジ・ダブリンから招かれた
Peter Arnds氏とJenifer Edmond氏の2名の研究者による講演が行われ、それぞれに
対してコメンテーターがコメントを行い、そののち全体討論を行うという形式で開
催された。まずPeter Arnds氏の報告“Close Reading, Distant Reading and
Mapping Metaphors in World Literature in the Digital Age”では、古代から近
現代までの文学作品において、動物、特にオオカミがどのような意味を与えられ登
場してきたのかを論じたものであった。比較文学を専門とする氏の視野の広さと読
みの深さの感じられる講演であったが、ことDHに関しては最後にDistant Readingに
言及される程度であまりDHを全面に出したものではなかった。「デジタル時代の人
文学再生」というセミナーのタイトルにより直接的に関わったのは、セミナー後半
のJenifer Edmond氏による講演“How is Technology changing the nature of
humanities research in the 21st Century? An introduction to the issues and
methods of digital humanities”であった。

 Edmond氏の講演内容は多岐に渡るものだった。氏は、まず、DHが学問分野でも学
際的研究でもなく、研究のための道具であると方法論として定義づけ、次にDHの様
々なプロジェクトを取り上げ、DHが実際いかなるものであるのかを論じた。具体的
に例示されたのは、19世紀小説のTopic Modelによる分析、Republic of Lettersの
ネットワーク分析、イングランドの乳児死亡率の低下の歴史的経緯について歴史GIS
を用いてビジュアル化した研究、ベンサムの手稿をテキスト化するTranscribe
Bentham等であった。その後、ヨーロッパと北米におけるDHの歴史を踏まえ、氏が関
わっているCENDARI(Collaborative European Digital Archive Infrastructure)
[2]というDHプラットフォームを中心に紹介された。これは、デジタル化史料を横
断検索し、史料分析のための作業スペースを提供する歴史研究者向けのデジタルイ
ンフラプロジェクトである。最後に、デジタル化されてもメタデータの不備によっ
て検索できなくなる危険性や、図書館への追加財源がないにもかかわらずますます
デジタル化要求が高まり続けていることへの危惧、そしてDHが暗黙の裡にジェンダ
ーバイアスを生み出している可能性を指摘され、講演は括られた。

 Edmond氏の講演に対する筆者のコメントでは、主催者から事前に与えられていた
設定を踏まえて、次の3点を述べた。1点目は、DHが人文学、特に歴史学に与える影
響についてである。ここでは、筆者が特に重視しているポイントとして、DHが一人
の研究者が読解可能な時空間領域を超えうる大規模なデータ分析を可能としている
点、そして、DHが研究成果の発信と表現方法を多様化させている点を指摘した。2点
目は、例えば、国文学研究資料館を中心に進行している「日本語の歴史的典籍の国
際共同研究ネットワーク構築計画」等に言及しつつ、日本におけるDHの課題と現状
について論じた。最後に3点目として、日本におけるDHを知るための情報源(研究会、
主要雑誌、情報サイト等)を紹介することで、DHにあまりなじみのない聴衆への
「お土産」とした。

 セミナーは以上のような内容であった。最後に筆者の感想を述べて擱筆したい。
今回参加してみて、DHに対する聴衆の関心の高さとは裏腹に、DHに関する情報があ
まり広まっていないように感じた点が気になった。日本語で読むことのできるDHの
情報は、本誌をはじめとしてそれなりに豊かになってきたと思っていたが、DHを議
論するための“体系的な”前提知識が参加者の間であまり共有されていなかったよ
うに思う。DHを知らない聴衆が集まるセミナーであったとはいえ、「そもそもDHと
は」からいつも話を始めていては、いつまでたっても議論が深まらないだろう。そ
れを解消するために、日本に限らず世界を含めたDHの現状や課題などを体系的にま
とめた日本語の解説書がそろそろ必要なように感じた次第である。

[1]2016.3.4開催 公開セミナー『デジタル時代の人文学再生-Reframing the
 Humanities in the Digital Age』開催.奈良女子大学アジア・ジェンダー文化学
 研究センター.
https://nwugender.wordpress.com/2016/02/18/2016-3-4%E9%96%8B%E5%82%AC%E3... ,(参照 2016-04-06).
[2]CENDARI. http://www.cendari.eu/ ,(accessed 2016-04-17).

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◇イベントレポート(4)
国際シンポジウム「Memory, the (Re-)Creation of Past and Digital Humanities
-記憶、過去の(再)創造とデジタル人文学-」
http://www.keio.ac.jp/ja/news/2015/osa3qr000001fti3.html
 (安形麻理:慶應義塾大学文学部)

 2016年3月15日、慶應義塾大学三田キャンパスにおいて標記の国際シンポジウムが
開催された( http://www.keio.ac.jp/ja/news/2015/osa3qr000001fti3.html )。
主催は、徳永聡子氏(同大文学部准教授)を代表とする「慶應義塾クラスター研究
推進プロジェクトプログラム」創造クラスター「西洋初期印刷本の書誌学的研究成
果を統合する画像付きデータベースの構築」プロジェクトで、スーパーグローバル
大学創成支援事業、慶應義塾大学デジタルメディア・コンテンツ統合研究センター
(DMC)、慶應義塾図書館(三田メディアセンター)の協力を得たものである。筆者
は主催者側かつ発表者という立場から、このシンポジウムについて報告する。

 徳永氏の司会の下、シンポジウム冒頭では、クラスターリーダー・DMC所長・大学
院文学研究科長である松田隆美氏から挨拶があった。続いて英国図書館(BL)の
Head of Collections and CurationであるKristian Jensen氏による基調講演
「Memory, Memory Institutions, and the Use of Past(記憶、記憶の機関、そし
て過去の活用)」が英語で行われた。「記憶(memory)」という観点から図書館な
どの文化財所蔵機関やデジタル化をとらえ直すという、スケールの大きな講演であ
った。以下に、要旨を述べる。

 まず、図書館、文書館、博物館は記憶の機関と呼ばれ、国の記憶を保持する、あ
るいは国の記憶そのものと言われることも多いが、記憶と個人の感情や経験との強
い結び付きを考えると、おかしな表現である。記憶は19世紀以降の思想家によって
非常に個人的なものとしてとらえられてきた一方、常に社会的文脈の中にあり、
Halbwachsが提唱した集合的記憶(collective memory)という側面をもつ。BLは
「国家の記憶(nation’s memory)」を名乗ったことはないが、「記憶の機関」や
「知識の機関」と称することはある。図書館等のコレクションは、記憶の源ではな
く、集合的記憶の枠組みを形作るものについての知識の源である。

 他方、記念(commemoration)は、政治的、社会的、文化的な目的のために、集合
的記憶を作り上げようとする政治的な操作であり、多くの人が個人的な記憶をもた
ない出来事に対して記憶の強力な感情を関連付けようとする。記念は歴史の輝かし
い英雄を、記憶は歴史の犠牲者を重視する。

 文化もまた批判的分析の対象とすべき概念である。さまざまな国や文化の遺産を
所蔵するBLにおいて、多層的な解釈を付したデジタル化を行うことは、多様な文化
的背景をもつ利用者を益する。個別の国の文化と人類全体の世界にとってのその普
遍的重要性の両方を認めることにより、BLのような記憶の機関は、国と世界が何を
記念すべきかを議論する場を作りだすことができるだろう。

 質疑応答における、日本では原爆や東日本大震災などの被害を物語る物が保存さ
れるが、イギリスでは第二次世界大戦の痛みに満ちた記憶を伝える物はほとんど保
存されず、それは戦勝国であるという記念との不整合によるものであろうという指
摘は興味深い。

 休憩をはさみ、第2部では、2件のデジタル人文学の研究事例が発表された。1件目
は筆者と安形輝氏(亜細亜大学国際関係学部准教授)による共同研究「A New
Approach to Image Recognition and Clustering of Gutenberg’s B42 Types(グ
ーテンベルク聖書の活字の自動識別とクラスタリングへの挑戦)」である。発表は
英語で、レジュメは日本語であった。グーテンベルク聖書の10ページ分の画像デー
タを用いて活字の自動認識を行い、1万7千文字を対象に、統計的な分析やクラスタ
リングを行った中間的な結果が発表された。各文字の底面の揃い方の分析からは、
初期に印刷されたページでは分散が大きく、活字の上下の位置が不揃いであること、
また同じ文字の異形活字の幅の分析からは、100年以上前の先行研究で観察されてい
た植字規則の再検討が可能となった。この手法は大規模なデータに応用した場合、
インクのにじみや撮影条件の違いといった、活字を研究する上で悩まされる問題の
影響を受けにくいことが示された。なお、質疑応答にもあったように、この研究は、
活字画像のクラスタリング結果から、最初期の活字は金属製の母型による鋳造では
なかったという仮説を提示した先行研究を意識したものではあるが[1]、直接的な
回答ではなく、今後に期待されるところである。

 2件目は、永崎研宣氏(一般財団法人人文情報学研究所主席研究員)による「デジ
タル時代における仏教研究の再構築に向けて(Re-Creation of Buddhist Studies
in the Digital Era)」と題する発表である。デジタル・キュレーション、ウェブ
上の協同、そして研究を核とする仏教研究のEcosystemが示されたうえで、日本にお
ける具体的な二つの中心プロジェクトとして、永崎氏が技術面を担当しているSAT大
蔵経テキストデータベース(以下、SAT)( http://21dzk.l.u-tokyo.ac.jp/SAT/
)およびインド学仏教学論文データベース(INBUDS)( http://www.inbuds.net/
)が紹介された。SATは、『大正新脩大藏經』の漢文と日本語のテキストデータと画
像データからなるもので、電子仏教辞典や書誌データベース、外部のデジタルアー
カイブなど、さまざまなリソースと連携することで、仏教典籍研究のポータルとな
っている。Unicode 8.0への梵字の6つの異形の追加や、ウェブ上の協同による部分
画像へのタグ付け(たとえば、あるページの隅に描かれた高僧の事物や座法、装身
具、台座といった項目)、といった最新の動向も紹介された。後者は夏には試験的
に公開されるとのことで、注目される。SATはデジタル人文学の先進的な事例として
評価の高いデータベースであるが、本シンポジウムには西洋史や西洋書誌学のバッ
クグラウンドをもつ参加者が多かったことから、詳細について知ったのは初めてと
いう参加者も多かったのではないだろうか。

 休憩中には、会場後方に、慶應義塾大学図書館が所蔵するグーテンベルク聖書の
写真複製本2セットの展示や、丸善雄松堂書店による書物関係のデータベースのデモ
ンストレーションも用意されていた。

 最後に、第3部として、フロアを交えた自由討論が池田真弓氏(同大理工学部専任
講師)をモデレータとして行われた。記憶の機関の役割、データの活用、標準化の
必要性などについて、活発な議論が行われた。本シンポジウムを主催したプロジェ
クトは3年計画の1年目を終えたところである。これからにますます期待していただ
きたい。

[1]Agu:era y Arcas, Blaise. “Temporary Matrices and Elemental Punches
 in Gutenberg’s DK Type”. Incunabula and Their Readers. Jensen,
 Kristian, ed. London, British Library, 2003, p.1-12.

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◇イベントレポート(5)
東アジア図書館協会(CEAL)・北米日本研究資料調整協議会(NCC)2016年次集会
参加報告
http://www.eastasianlib.org/
 (江上敏哲:国際日本文化研究センター図書館)

 2016年3月29日から31日まで、アメリカ・シアトルにおいて東アジア図書館協会
(以下CEAL)の2016年次集会がおこなわれた。

 CEALはCouncil on East Asian Librariesの略であり、北米の東アジア分野の図書
館・ライブラリアンによって構成される協会である。AAS(アジア学会)の下位組織
であり、毎年AASの学会がおこなわれるのと同じ時期・同じ場所でこの年次集会が催
される。今回はこの年次集会、およびそれに伴っておこなわれたもろもろのミーテ
ィングの中から、デジタルヒューマニティーズに関わると思われるものについてい
くつか報告したい。

 まず3月30日にシアトルのシェラトンホテルでおこなわれた全体集会では、東アジ
ア分野の図書館司書全員が参加し、基調講演、パネル、ディベート等がおこなわれ
た。イェール大学の日本研究司書によるコレクション収集とデジタル化に関する報
告、UCLAの日本研究司書による変体仮名学習アプリ開発の報告(参考:
http://alcvps.cdh.ucla.edu/support )、ピッツバーグ大学の中国研究司書による
デジタルヒューマニティーズ関連の研究プロジェクトと図書館・司書の役割につい
ての報告(参考: http://d-scholarship.pitt.edu/27664 )等があった。質疑応答
において、日常業務で多忙な中、タイムマネジメントとプライオリティをどうして
いるかという質問に対する、パネリストの「忙しいからこそ、コラボが必要」との
答えが印象的だった。

 日本研究・日本資料に関わる分科会としては、NCC(北米日本研究資料調整協議会
North American Coordinating Council on Japanese Library Resources)および
CJM(CEAL内の日本資料委員会Committee on Japanese Materials)主催のものがい
くつかあった。NCC/CJM Joint Session(3/30夜)“Updates from Japanese
Partners”では、特に国文研から報告のあった「日本語の歴史的典籍の国際共同研
究ネットワーク構築計画」への北米ライブラリアンの関心が高く、セッション後に
持たれたインフォーマルなミーティングの場では、具体的な参加方法等について熱
心な質疑応答がおこなわれた。

 3月31日午後のNCC分科会では、「Digital Humanities in Japanese Studies Now」
と題しデジタルヒューマニティーズに関する北米・欧州のライブラリアンからの実
践報告があった。2015年11月にハーバード大学で催された「Advancing Digital
Scholarship in Japanese Studies: Innovations and Challenges」(
http://guides.nccjapan.org/c.php?g=397542 )の報告。ライデン大学東アジアコ
レクションのライブラリアンによるデジタル化事業やデジタルヒューマニティーズ
に関する活動報告など。

 また、デジタルヒューマニティーズの議論のために触れておきたいのが、3月31日
夜間におこなわれた、多巻もの内容索引の電子化に関するインフォーマルミーティ
ングである。北米のライブラリアン有志と日本の出版関係者によるこの話し合いで
は、日本の多巻もの・全集もの(冊子・マイクロ資料コレクションなど)の内容索
引・目次情報の類がいまだ電子化されず紙媒体の目録しかないものが多いため、検
索・書誌事項確定などに不便が生じていること、それが海外における日本研究の減
退につながりかねないこと、そのデジタル化・データベース化に取り組む必要があ
ること、そのために各出版関係者の協力が必要であることなどが議論された。

 これは報告者の考えであるが、そもそもこのような基本的な文献情報のデジタル・
オンライン提供環境の整備というのは、日本側の問題であり、日本の図書館のユー
ザにとっても不利益な状態にあるということであって、北米の日本研究という文脈
に限ることなく日本国内でも広く議論され、解決に取り組まれるべき問題であろう。
データベースやディスカバリーサービスでの整備、オープンアクセスやオープンデ
ータの観点からも議論されると良いのではないか。

 全体を通して印象に残ったのが、参加者がみな何らかのかたちで、ライブラリア
ンの新しい役割と今後の活動指針について、考え、模索している、ということであ
った。その答えは人によってちがうであろうが、少なくともデジタル(デジタルヒ
ューマニティーズ)の要素を抜きにして今後の議論が成り立つことはないだろうと
思われる。

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 配信の解除・送信先の変更は、
    http://www.mag2.com/m/0001316391.html
                        からどうぞ。

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◆編集後記(編集室:ふじたまさえ)
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 第57号前編、後編ともにいつも以上に読み応えのある内容となりました。巻頭言
をはじめ、ご寄稿いただいた皆さま、ありがとうございます!

 どの内容も素晴らしかったのですが、特に個人的な興味としては、特別寄稿をい
ただいたOMNIAのことが気になっています。また、巻頭言として掲載している山元先
生の文章も、大変興味深い内容でした。

 後編のイベントレポートの中では、国立国会図書館関西館の菊池さんがおっしゃ
っていた「DHの現状や課題などを体系的にまとめた日本語の解説書」が気になりま
す。個人的な感想ですが、本メルマガが扱っている話題も含め、DHについて体系的
にまとめなおすにはどういった媒体が良いのか考えてみると、印刷物よりは
Wikipediaのようなデジタルのもののほうが合っているようにも思いました。

◆人文情報学月報編集室では、国内外を問わず各分野からの情報提供をお待ちして
います。
情報提供は人文情報学編集グループまで...
       DigitalHumanitiesMonthly[&]googlegroups.com
                  [&]を@に置き換えてください。

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人文情報学月報 [DHM057]【後編】 2016年04月29日(月刊)
【発行者】"人文情報学月報"編集室
【編集者】人文情報学研究所&ACADEMIC RESOURCE GUIDE(ARG)
【 ISSN 】2189-1621
【E-mail】DigitalHumanitiesMonthly[&]googlegroups.com
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【サイト】 http://www.dhii.jp/

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