ISSN 2189-1621

 

現在地

DHM 011

2011-08-27創刊

人文情報学月報
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄Digital Humanities Monthly

                 2012-6-28発行 No.011   第11号    

_____________________________________
 ◇ 目次 ◇
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
◇「デジタルヒューマニティーズand/or人文情報学」
 (鈴木崇史:東洋大学社会学部メディアコミュニケーション学科)

◇人文情報学イベントカレンダー

◇イベントレポート(1)
「第94回人文科学とコンピュータ研究会発表会」
 (山田太造:人間文化研究機構本部)

◇イベントレポート(2)
「Digital Humanities Summer Institute 2012(DHSI2012)」
 (鈴木親彦:東京大学大学院人文社会系研究科文化資源学研究室)

◇編集後記

◇奥付

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【人文情報学/Digital Humanitiesに関する様々な話題をお届けします。】
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◇「デジタルヒューマニティーズand/or人文情報学」
 (鈴木崇史:東洋大学社会学部メディアコミュニケーション学科)

 Digital Humanitiesの日本語名称について考える機会がありました。おそらく、
現在日本でしばしば用いられている名称は、Digital Humanitiesをそのままカタカ
ナにしたデジタルヒューマニティーズ、漢語にした人文情報学、この二種類ではな
いでしょうか。

 ここでは、このいずれかがよいか、ということについて議論するのではなく、ま
た、他の名称を提案するのでもなく、それらの名称の背景を考え、それらの名称を
選択することの意味を考えたいと思います。

 出発点として、「Digital Humanities」の設立事情を振り返ってみましょう。

 田畑(2011)は、2000年代に、従来、Humanities Computingと称されていたこの
分野が、ADHO(Alliance of Digital Humanities Organizations)の設立にあわせ
て、Digital Humanitiesという名称に移行したこと、それによって、Head(主要部
)がComputingからHumanitiesへ移動し、デジタル時代の「人文学」という、人文学
へのフォーカス、分野の再定義があったことを指摘しています。

 このような、Digital Humanities設立の背景と設立者たちの意向、人文学へのフォ
ーカスをもっとも適切に反映する分野名称という観点からは、当然ながら、これを
そのままカタカナにしたデジタルヒューマニティーズが第一候補となるでしょう。
ADHOの活動と日本のDigital Humanitiesの活動を可能な限りリンクさせるためにも、
日本での分野名称を原語と近づけておくという戦略も一定の説得性があるでしょう。

 この観点からみると、もう一つの普及しつつある分野名称である「人文情報学」
は、ともすれば、主要部が情報学にあるかのような印象を与え、ADHO設立の趣意と
はズレが生じるという懸念を与えるかもしれません。科学研究費の最新(平成25年
度以降適用)の系・分野・分科細目表をみても、人文情報学に相当するのは、総合
-情報学-情報学フロンティア-図書館情報学・人文社会情報学であり、人文情報
学は、人文社会情報学とまとめられ、また、図書館情報学とともに、情報学の一分
野とされています(科学技術・学術審議会学術分科会科学研究費補助金助成審査部
会,2012)。

 しかしながら、ここで今一度考えてみたいのは、あえて漢語にこだわるというこ
との意味です。水村(2008)によれば、明治以降の日本の学問、とりわけ人文学は、
西洋学問の翻訳機関としての役割を主要なものとしており、その翻訳過程の中で、
日本独自の学術用語をつくり、さらにいえば、日本独自の学問的土壌を築いてきま
した。

 ほぼ一世紀半前、日本の学問の府は大きな翻訳機関として、日本語を学問ができ
る言葉にした-日本語を<国語>にした。それが、今、英語が世界を覆う<普遍語
>となるにつれ、日本の学問の府は、大きな翻訳機関に留まるのをやめようとして
いるのである。名ばかりの大学と成り果てた日本の大学ではもちろん日本語が中心
にあり続けるであろう。だが、日本の大学院、それも優秀な学生を集める大学院ほ
ど、英語で学問をしようという風に動いてきている。特殊な分野をのぞいては、日
本語は<学問の言葉>にはあらざるものに転じつつあるのである(水村,2008:25
6-257)。

 あるいは、同じような問題意識は、すでに外国文学研究者によって、より早い時
期から共有されてきました。塩川(2000)は、日本での学国文学研究-この場合、
フランス文学研究ですが-それには二種類のものがあることを指摘しています。

 日本のフランス文学研究には、主として翻訳を出発点として日本語によって日本
文化の枠内で行われる評論・研究と、国際的な学問共同体の土壌でフランス語で行
われる研究の二種類があり、それは、互いに科学史でいう「通訳不可能」の関係に
ありながら、全体として、日本文化の特質と力量を象徴的に表現している……(塩
川,2000:110)

 水村や塩川の問題関心は、日本でのDigital Humanitiesの将来を考える上でも、
示唆を与えるものでしょう。日本でのこの学問分野が、欧米のDigital Humanities
と密接に連携し、その趣意と一致した活動を行うことを指命とするならば、カタカ
ナのデジタルヒューマニティーズを分野名称として採用し、その理念を正確に伝え
ることが有用でしょう。一方で、日本独自の学問的展開、これを目指すのであれば、
あえて人文情報学、あるいは、他の名称をこの分野に与えることにも、意味がある
かもしれません。

 私たちが立っているのは、日本におけるDigital Humanities創設の時期であり、
やや大仰な言い方をすれば、この学問分野の名称にデジタルヒューマニティーズを
選択するか人文情報学を選択するか、という問題は、単に分野名称の選択の問題で
はなく、50年後、100年後のこの分野のあり方を決定づけるような、歴史的な選択と
なる可能性もあるのです。

 さて、Digital Humanitiesの日本語名称を出発点として、デジタルヒューマニティ
ーズと人文情報学のズレ、日本で、この分野の名称をいかにすべきかという問題に
ついて考えてきました。ここでの目的は、問題のありかを示そうとするものであり、
問題に解決を与えようとするものではありません。今後の日本でのデジタルヒュー
マニティーズand/or人文情報学の展開を考えていくなかで、その分野名称が重要な
意味をもつのではないか、そのような問題意識が共有できれば、ここでの目的は達
せられたことになります。

【文献】
1.科学技術・学術審議会学術分科会科学研究費補助金助成審査部会(2012)科学研
究費助成事業-科研費-「系・分野・分科・細目表」の改正について
http://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/06_jsps_info/g_120425_2/data/saimoku... ).
2.水村美苗(2008)日本語が亡びるとき:英語の世紀の中で,筑摩書房,東京.
3.塩川徹也(2000)日本語で外国語を研究することについて,文学,1(3),108-110.
4.田畑智司(2011)デジタルが変えるテクストと「読み」,人文情報学月報,3
http://archive.mag2.com/0001316391/20111031191701000.html).

執筆者プロフィール
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
鈴木崇史(すずき・たかふみ)東洋大学社会学部メディアコミュニケーション学科
講師。東京大学文学部卒業、東京大学大学院学際情報学府修士課程、博士課程修了。
博士(学際情報学)。国立情報学研究所コンテンツ科学研究系特任研究員を経て現
職。計量国語学会理事、人文情報学推進協議会運営委員。専門分野は、計量情報学、
計算文体論、テキスト分析。

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◇人文情報学イベントカレンダー(■:新規イベント)

【2012年7月】
□2012-07-02(Mon)~2012-07-06(Fri):
Digital.Humanities@Oxford Summer School 2012
(於・英国/Oxford)
http://digital.humanities.ox.ac.uk/dhoxss/

□2012-07-07(Sat):
情報メディア学会 第11回 研究大会
「重なり合う実空間と電子空間:ラーニングコモンズ×ディスカバリサービス」
(於・東京都/筑波大学 東京キャンパス)
http://www.jsims.jp/kenkyu-taikai/yokoku/11.html

□2012-07-16(Mon)~2012-07-22(Sun):
Digital Humanities 2011
(於・ドイツ/Hamburg)
http://www.dh2012.uni-hamburg.de/

【2012年8月】
■2012-08-01(Wed):
国立国会図書館 講演会
『HathiTrustの挑戦:デジタル化資料の共有における「いま」と「これから」』
(於・東京都/国立国会図書館)
http://www.ndl.go.jp/jp/event/events/20120801lecture.html

□2012-08-04(Sat):
情報処理学会 第95回 人文科学とコンピュータ研究会発表会
(於・京都府/京都大学地域研究統合情報センター)
http://jinmoncom.jp/

■2012-08-26(Sun)~2012-08-31(Fri):
International Geographical Congress 2012
(於・ドイツ/University of Cologne)
https://igc2012.org/

【2012年9月】
□2012-09-03(Mon)~2012-09-08(Sat):
Knowledge Technology week 2012
(於・マレーシア/Sarawak)
http://ktw.mimos.my/ktw2012/

□2012-09-04(Tue)~2012-09-06(Thu):
FIT2012 第11回 情報科学技術フォーラム
(於・東京都/法政大学 小金井キャンパス)
http://www.ipsj.or.jp/event/fit/fit2012/

□2012-09-06(Thu)~2012-09-08(Sat):
State of the Map 2012; The 6th Annual International OpenStreetMap Conference
(於・東京都/会場未定)
http://www.stateofthemap.org/ja/about-ja/

□2012-09-06(Thu)~2012-09-08(Sat):
Digital Humanities Congress 2012
(於・英国/Sheffield)
http://www.sheffield.ac.uk/hri/dhc2012

□2012-09-15(Sat)~2012-09-17(Mon):
2nd symposium - JADH 2012
(於・東京都/東京大学)
http://www.jadh.org/jadh2012

□2012-09-18(Tue)~2012-09-21(Fri):
GIScience 2012 7th International Conference on Geographic Information Science
(於・米国/Columbus)
http://www.giscience.org/

■2012-09-29(Sat):
計量国語学会 第56回大会
(於・愛知県/名古屋大学東山キャンパス)
http://www.math-ling.org/

■2012-09-29(Sat)~2012-09-30(Sun):
英語コーパス学会 第38回大会
(於・大阪府/大阪大学豊中キャンパス)
http://english.chs.nihon-u.ac.jp/jaecs/

【2012年10月】
□2012-10-06(Sat):
三田図書館・情報学会 2012年度研究大会
(於・東京都/慶應義塾大学 三田キャンパス)
http://www.mslis.jp/annual.html

■2012-10-13(Sat)~2012-10-14(Sun):
地理情報システム学会 第21回研究発表大会
(於・広島県/広島修道大学)
http://www.gisa-japan.org/conferences/

□2012-10-25(Thu)~2012-10-26(Fri):
The 5th Rizal Library International Conference:
"Libraries, Archives and Museums: Common Challenges, Unique Approaches."
(於・フィリピン/Quezon)
http://rizal.lib.admu.edu.ph/2012conf/

【2012年11月】
□2012-11-01(Thu)~2012-11-04(Sun):
37th Annual Meeting of the Social Science History Association
(於・カナダ/Vancouer)
http://www.ssha.org/annual-conference

■2012-11-05(Mon)~2012-11-10(Sat):
2012 Annual Conference and Members’ Meeting of the TEI Consortium
(於・米国/Texus)
http://idhmc.tamu.edu/teiconference/

□2012-11-17(Sat)~2012-11-18(Sun):
情報処理学会 人文科学とコンピュータシンポジウム「じんもんこん2012」
(於・北海道/北海道大学)
http://jinmoncom.jp/sympo2012/

□2012-11-17(Sat)~2012-11-18(Sun):
第60回 日本図書館情報学会研究大会
(於・福岡県/九州大学箱崎キャンパス)
http://www.jslis.jp/

□2012-11-20(Tue)~2012-11-22(Thu):
第14回 図書館総合展
(於・神奈川県/パシフィコ横浜)
http://2012.libraryfair.jp/

Digital Humanities Events カレンダー共同編集人
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小林雄一郎(大阪大学大学院言語文化研究科/日本学術振興会特別研究員)
瀬戸寿一(立命館大学文学研究科・GCOE日本文化デジタルヒューマニティーズ拠点RA)
佐藤 翔(筑波大学図書館情報メディア研究科)
永崎研宣(一般財団法人人文情報学研究所)

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◇イベントレポート(1)
「第94回人文科学とコンピュータ研究会発表会」
http://jinmoncom.jp/index.php?%E9%96%8B%E5%82%AC%E4%BA%88%E5%AE%9A%2F%E7...
(山田太造:人間文化研究機構本部)

 2012年5月26日同志社大学東京オフィスにおいて、第94回人文科学とコンピュータ
研究会発表会(CH94)が開催された。今年度、本研究会は年に4回の研究発表会と1
回のシンポジウムを開催する予定であり、その第1回目がこの研究発表会である。

 本研究発表会は、一般セッションに加え、昨年度最初の研究発表会(CH90)で好
評だった学生発表者による学生セッションを設けた。会場は東京メトロ大手町駅と
連結しており、JR東京駅からも程近くという、すばらしく交通の便の良い所で開催
することができた。そのためか、40名以上もの参加があった。

 CH94のプログラムは次のとおりである。

○一般セッション1

(1)読書による学際的言語情報処理-自分の知らない概念・情報・複雑概念はど
のようにして言語情報から獲得すればよいのか
 得丸公明(衛星システムエンジニア)

(2)龍安寺石庭に秘められた“メッセージ”の謎
 蔡東生(筑波大学)、望月茂徳(立命館大学)、浅井信吉(会津大学)

○学生セッション1

(3)計量文献学の観点から『万の文反古』の検討
 上阪彩香、村上征勝(同志社大学)

(4)揖斐川上流域の語彙に関する系統推定
 小野原彩香(同志社大学)

○学生セッション2

(5)語の使用頻度の計量分析による宇治十帖他作者説の検討
 土山玄、村上征勝(同志社大学)

(6)日本舞踊の身体動作における技の特徴抽出への試み
 鹿内菜穂、中村雄太朗、八村広三郎(立命館大学)

(7)図書館・博物館資料メタデータの評価のモデル化
 矢代寿寛(総研大)、宮澤彰(情報研)

○一般セッション2

(8)漢字字形データベースと文字オントロジーのデータ統合の可能性について
 守岡知彦(京都大学)

(9)OTDOにおける古チベット語文書のオンライン共同編集作業
 松田訓典、星泉(東京外国語大学)

○奨励賞表彰式

 研究報告について述べる。学生セッションの前後に行われた一般セッションでは
4件の報告があり、それぞれ、概念・情報に関する考察、鑑賞視線の解析による庭園
の分析、漢字字形共有と文字オントロジー、古チベット語文書のオンライン共同編
集システムであった。もっと深く議論し、さらなる研究成果を期待したい研究が多
かった。

 次に学生セッションについて述べる。発表は以下のとおり5件であった。
 
 上阪氏の発表は、文学作品における品詞出現率分析による作者同定の手法につい
て報告であった。この報告では、井原西鶴の作品と言われている『万の文反古』を
例に、他の井原作品である『好色一代男』および『西鶴織留』と比較している。

 小野原氏の発表は、地域間の使用語彙の差や語彙の分岐について語彙統計学や数
理言語学の観点からの分析に関する報告であった。語彙分析による地域研究という
側面を持つと思われる。揖斐川上流域を例として、選択した語彙に対して、様々な
データマイニング的手法を用いて地域ごとの特色を見出そうとしている。

 土山氏の発表は、上阪氏の発表と同じく、文学作品の作者同定に関する報告であっ
た。『源氏物語』の『宇治十帖』がそれ以外の諸巻と同じ作者であるかどうかの判
定を行うため、品詞だけでなく語も用いて分析している。

 鹿内氏の発表は、日本舞踊の熟練者の動作を計量的に測定し、熟練者の言及する
技を数値化し特徴を見出す手法について報告があった。モーションキャプチャを用
いて日本舞踊を計測する際、熟練者が指摘する良い動作と悪い動作を収録し、これ
により日本舞踊における技を明確化させることを意図している。

 矢代氏の発表は、図書館、博物館、美術館等で公開されているデータの二次的利
用における、その難しさや作業に影響を与える要因の分析についての報告であった。
昨今凄まじいスピードで浸透しつつあるLOD(Linked Open Data)や複数のデータ源
をマッシュアップして検索できるDBシステムなどのWebサービスにおいて、データの
二次的利用を促進するためのメタデータ評価のモデル化を試みている。

 いずれの発表に対しても、研究会参加者からの多くの質疑・コメントがあった。
大変厳しいものが多かったと思う。たしかに、未熟なところがあり、研究背景、目
的、目的を達成するための手段、評価方式等について改めるべき点があったと思う。
試みている範囲を定義し、他領域との位置づけを明確にすることが求められよう。
しかしながら、研究のポテンシャルの高さ、重要さ、面白さを認めているからこそ、
途切れなく様々な分野の方々からのコメントいただけたと私は理解している。さら
なる研究の深化を目指し、実践して、再びこの場で発表していただきたいと切に思
う。

 「人文科学とコンピュータ研究会奨励賞」なるものがある。本研究発表会に参加
された本研究会運営委員の方々の投票により、今年度は土山氏が受賞することになっ
た。本研究会ウェブサイトには「奨励賞は、当研究会が優秀な研究発表を行った学
生を表彰する機会を設けることにより、次世代を担う研究者の研究を奨励し、人文
科学分野へのコンピュータの応用に関する研究の発展を促すことを目的としたもの
です。毎年1回程度、通常の研究会の中で開催される学生セッションから、最も優
秀な発表に対して授与されます。」とある。学生セッションは、単に学生による発
表をまとめただけでなく、将来のCH研究の担い手の育成の場である。また、“若い”
世代の新たな考え方・取り組み方から、CH研究をすでに担っている研究者への刺激
にもなりうる機会でもある。CH研究の将来を切り開き、さらなる発展を目指す上で、
学生セッションは重要な要素の1つであり、今後も続けていくべきだと考えている。

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◇イベントレポート(2)
「Digital Humanities Summer Institute 2012(DHSI2012)」
http://dhsi.org/
(鈴木親彦:東京大学大学院人文社会系研究科文化資源学研究室)

 6月4日から8日まで、カナダのビクトリア大学で開催されたDHSI2012に参加してき
た。自身の振り返りも兼ねてイベントレポートをまとめてみたい。

 DHSIそのものについては多くの方がご存知かもしれないが、簡単にまとめておく
(詳しく知りたい方は、公式サイト http://dhsi.org/ や、“The Chronicle of
Higher Education”に掲載の記事
http://chronicle.com/article/Summer-Camp-for-Digital/45865 を参照)。

 DHSIは人文情報学に関する複数のコースと、Colloquiumでの研究発表をメニュー
とし、UnConferenceでの自由な討論も行われるサマーキャンプである。運営のコア
チームはビクトリア大学にあり、人文情報学の基礎文献“A Companion to Digital
Humanities”( http://www.digitalhumanities.org/companion/ )の編者である
Raymond Siemensが会長になっている。2004年に開始されて以来、毎年夏期休暇期間
に開催されており、当初100人に満たなかった参加者数も、今年は400人を超えるま
でに拡大した。まさに北米での一大人文情報学イベントとなっている。

 報告者のDHSIへの第一印象は、「不思議なカルチャーを持った集団」というもの
だった。日本においては「美術史学会」「日本出版学会」「文化資源学会」など、
ディシプリンが組み立てられた大規模な学会、研究者と実務家が同居する学会、新
たに作られ分野を横断したテーマを持つ学会といった風に、特徴の異なる複数の学
会に所属している。

 しかし、DHSIの様に会長自らが家族を引き連れてTシャツ姿で受け付けを行い、
Colloquiumでの発表に際しては笑いやブーイングが飛び交い、UnConferenceでは文
字通り「リンゴをかじりながら」学生も教授もなく議論を行うという状況は初体験
であった。もちろんDHSIは研究者向けのサマーキャンプであり、通常の学会大会と
単純に比較はできないが、この自由でフラットな関係が北米のDHの魅力であり、ま
た発展の原動力である一方で、後で詳しく述べるが、いくつかの問題も作り出して
いるのだろう。

 会期中は朝8時からColloquiumで4~6人のプレゼンターによる報告を聞き、9時30
分から各コースに分かれてのレクチャーを受ける。1時間程度ある昼休みには、食事
を持参して少人数のUnConferenceで様々なテーマについて討論を行う。その後、午
後のレクチャーが4時頃まで行われ、6時過ぎまで再びColloquiumが行われるという、
まさに人文情報学漬けの5日間だった。

 UnConferenceについては聞き慣れない方も多いかもしれない。実際、報告者も
DHSIに参加するまで知らなかったし、DHSI事務局側からも
http://www.unconference.net/ にあるブログを見ておくと様子が分かる」とい
う事前説明があった。簡単に言えば、発表者が設定されプレゼンに対して聴衆から
質疑を行う形式ではなく、全参加者がオープンな関係でテーマについて議論を行う
というスタイルのことである。メインのイベントとして設定されているConference
の問題点についての議論が行われることもあるようだ。

 報告者はブラウン大学のJulia Flandersと、ビクトリア大学のConstance
Cromptonが講師の“Text Encoding Fundamentals and their Application”コース
に参加した。このコースは2004年にDHSIが始まって以来毎回開講されており、
Julia Flandersは毎年講師を務めている。コースマテリアルも、説明に使われるプ
レゼンテーション画面も整理されており、初心者にも理解しやすい流れが組み立て
られていた。内容は名称通り、TEIの基本的作法を学ぶというものであった。TEIと
は人文科学系を中心とした文章の電子化を推進する団体Text Encoding Initiative
の略称であり、その団体が打ち出している電子化のためのガイドラインの名称でも
ある。1987年以来、マークアップ言語を前提としたガイドラインが作られてきてお
り、現在はXMLでの利用が普及してきている。このコースでも、XMLによるマークアッ
プが扱われた。

 すでにTEIにある程度親しんでいる報告者にとっては復習的な内容であったが、様
々な研究分野や分析対象におけるTEIの利用方法の説明、ケーススタディとしての紹
介されたプロジェクトなどは大変に参考になった。また大きな刺激になったのが、
受講者の様々なバックグラウンドから出る質問と議論である。参加者のなかで学生
の占める割合はそれほど大きくなく、半数に満たない印象だった。むしろ図書館お
よび文書刊関係者、若手研究者、大学に長年勤めた教授など、すでに何らかの形で
研究者としての地位を持った受講者が多く、質問も自分の専門に引き付けての具体
的なものになるため、レクチャー内容以上に参考になる場合もしばしばだった。

 少々本筋からはそれるが、XMLの経験が浅い受講者からの質問も、今後日本で同じ
ようなレクチャーを行う際のシミュレートとして参考になった。繰り返されたのが
「そのタグをつけると、その部分はどう見えるようになるのか?」と言う質問であ
る(例えば「William Shakespeareとすると、William
Shakespeareは太字になるのかイタリックになるのか?」といったもの)。

 XMLを少し触ったことがあれば、「スタイルシート次第」と言うことがすぐ分かる。
実際レクチャー中に行われた回答も「表現したいようにスタイルシートで決めるこ
とができる」というものだが、文章の構造化や意味づけと、アウトプット形式(出
版本来の意味でのマークアップ)が別であるという点が、意外にも分かりにくい問
題になっていると言う事に気づかされた。

 実はこの話題、TEIを使って電子出版するというテーマでのUn-Conferenceの議論
でも繰り返されていた。構造化とアウトプットイメージの問題は意外に根が深いの
かもしれない。今後の普及にあたっては、文章の目的別に分かりやすく、簡単に参
照できるサンプルスタイルが用意されるなどの対策が必要になるかもしれない。

 DHSIでは、人文情報学が抱える問題点も透けて見えた。Colloquiumでの発表は、
多くは興味深いものだったが、「この新しい情報ツールを使ってデータをまとめま
した」と、文章を読む喜びを拡大させた段階にとどまっている発表が散見された。
もちろん学会の全国大会ではなく、サマーキャンプでの初学者の発表という点を考
える必要はあるが、「それをどう意味づけて学問の発展に結び付けるのか?」と疑
問を持つことが何度かあったのも事実である。また、UnConferenceでも、自由に発
言できるがゆえに、前述したとおりXMLとはどういうものなのかが分からないままに
意見が出され、議論の方向性がずれていくと言う状況が生じていた。

 もちろん、ディシプリンが過剰に押し出され、発言ができるのは一部の研究者と
いうスタイルが良いとは思わない。しかしこの状況を見ると、人文情報学によって
研究を行うために、最低限修めるべき訓練というものがまとめられても良いのでは
ないかとも感じてしまう。日進月歩の技術と共にある分野ゆえに、難しいと言う事
も確かであろうが。

 脱線になるが、このように感じたのは、報告者が、やはり新しいがゆえに基礎的
訓練方法が存在しない学問領域に関わっているためと言う事もあるだろう。ある学
会ではこの問題を重要視するようになり、従来推薦者不要だった入会システムを、
研究者による推薦が必要とする方針に切り替えるなどの動きが生じている。横断性
を重視する新しい分野であるが故の方法論の確立の難しさは、どちらでも共通して
いる問題と言えるだろう。

 ディシプリンの問題は、将来の「人文情報学者」をどのように育成するかという
問題にもつながってくるかもしれない。Colloquiumで人文情報学をメインに研究し
てきた大学院生は何の職を目指すべきかという問題提起を行ったチームがあったが、
年長の参加者の多くは言語学や文学研究者として大学に職を得ている状況で、今後
すそ野を広げていくために避けては通れない問題を突き付けられた感がある。

 人文情報学の可能性と問題に気づき、技術的な新しい知識を得ることができ、人
的交流も含めて得る者が非常に多いサマーキャンプであった。つたない主観的な報
告ではあるが、これを読んで興味を持たれた方は(もちろんこれを読んで「実際は
どうなんだ?」と疑問を持たれた方も)、是非参加することをお勧めしたい。

 すでにDHSIのWebサイト上( http://dhsi.org/ )では、来年に向けての準備が始
まっている。2013年は6月10日から14日の5日間が開催期間、報告者自身も今から予
定を確保しておこうと思っている。

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 配信の解除・送信先の変更は、
    http://www.mag2.com/m/0001316391.html
                        からどうぞ。

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◆編集後記(編集室:ふじたまさえ)
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 人文情報学月報 第11号いかがでしたか?巻頭言では、Digital Humanitiesの日本
語名称の表記の仕方を考えることで、今後の展開を考えるためのきっかけにもなる、
というご指摘をいただきました。イベントレポートでは、今後のDigital Humanities
を支えるであろう若手へのエールと学生セッションの重要性を改めて認識させられ
ました。また、海外キャンプ参加のレポートでは人文情報学が抱える根本的な問題
点にはっとさせられつつも、「Unconference」の醍醐味がよく伝わってきました。
ご寄稿ありがとうございました。

 人文情報学月報では今後も、さまざまな立場からのご寄稿を掲載していきたいと
思います。

◆人文情報学月報編集室では、国内外を問わず各分野からの情報提供をお待ちして
います。
情報提供は人文情報学編集グループまで...
       DigitalHumanitiesMonthly[&]googlegroups.com
                  [&]を@に置き換えてください。

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人文情報学月報 [DHM011] 2012年6月28日(月刊)
【発行者】"人文情報学月報"編集室
【編集者】人文情報学研究所&ACADEMIC RESOURCE GUIDE(ARG)
【E-mail】info[&]arg-corp.jp [&]を@に置き換えてください。
【サイト】 http://www.dhii.jp/

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