ISSN 2189-1621

 

現在地

DHM 040 【後編】

2011-08-27創刊

人文情報学月報
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄Digital Humanities Monthly

             2014-11-27発行 No.040 第40号【後編】 530部発行

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 ◇ 目次 ◇
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

【前編】
◇《巻頭言》「人間文化研究のデジタル文化資源の広範な利用とは」
 (後藤真:人間文化研究機構 資源共有化事業特任助教)

◇《連載》「Digital Humanities/Digital Historyの動向
      ~2014年10月中旬から11月中旬まで~」
 (菊池信彦:国立国会図書館関西館)

【後編】
◇《特集》「デジタル学術資料の現況から」第8回
 「The digital Loeb Classical Libraryのご紹介(2)」
 (吉川斉:東京大学大学院人文社会系研究科 西洋古典学研究室)

◆発表募集
 ◇情報処理学会 人文科学とコンピュータ研究会

◇人文情報学イベントカレンダー

◇イベントレポート
第53回シェイクスピア学会セミナー
「Digital Humanities and the Future of Renaissance Studies」
 (北村紗衣:武蔵大学人文学部)

◇編集後記

◇奥付

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
【人文情報学/Digital Humanitiesに関する様々な話題をお届けします。】
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◇《特集》「デジタル学術資料の現況から」第8回
「The digital Loeb Classical Libraryのご紹介(2)」
 (吉川斉:東京大学大学院人文社会系研究科 西洋古典学研究室)

 前回、The digital Loeb Classical Library(以下DLCL)について、講読せずに
可能な範囲で簡単にご紹介しました。今回は、一歩進めて、講読してログインした
場合についてご紹介をしていきます。(なお、筆者の環境は、Windows8.1 Pro +
Firefox Betaです。環境によっては、多少表示が異なる可能性もあります。)

1.DLCLを講読してみる

 前回も書きましたが、DLCLはログインすることで全ての機能を利用可能な状態に
なります。(ログイン後のステップは後述します。)ログインするためには、まず
講読の手続きをしなければなりません。DLCL講読の手続きについては、「How to
Subscribe」ページにまとめられている通りですが[1]、DLCLでは、機関講読
(Institutions)と個人購読(Individuals)の二通りの講読方法が用意されていま
す。

 機関講読は組織毎の一括契約で、料金体系は組織の種類や規模に応じて要相談の
ようです。また、機関講読のみ、60日間の無料トライアルが用意されています[2]。
トライアルの案内を見る限り、IPアドレスによるアクセス管理となっています。

 個人購読は、各自が個別に手続きを行ないます。年間講読のみ、購読料は初年度
195ドル、二年目以降65ドルとなります。書籍版Loebが一冊26ドルですので、DLCL講
読の価格設定は、初年度は書籍版を8冊、二年目以降毎年3冊購入しておつりがくる
計算です。書籍版Loebは、過去のものの改訂版を含め、年間5冊前後の新刊が刊行さ
れていますので、それらを全部購入するのに比べて、価格は低めに抑えられていま
す。日本から講読する場合、為替相場の影響を受けますので注意が必要です。

 個人購読を希望する場合、メールでハーバード大学出版局の担当部署に連絡をと
る必要があります[3]。講読案内に書いてある通り、DLCLに関心があることと在住
場所を連絡すると、担当者から返信があります。購読料の支払いはクレジットカー
ドのみ対応です。(実際にはVisa prepaid[4]でも支払い可能でしたので、「クレ
ジットカード」必須というわけでもありません。Visa prepaid以外のプリペイドカ
ードが利用可能かどうかは、直接ご確認願います。)

 支払い等の手続きを済ませると、先方から手続き完了の案内と同時に、ログイン
用のユーザーネームとパスワードがメールで送られてきます。

http://www.dhii.jp/DHM/imgs/loeb/loeb_02_01.png
(図1:赤枠内に情報を入力してログインします。)

 手続き完了後、DLCLウェブサイトにログインできるようになります(図1)。なお、
講読後にまず行うべきことは、ログイン用パスワードの変更です。方法は手続き完
了メールに記載されています(ただ、登録機関内部からのアクセスの場合は、ログ
インを意識することはなさそうです)。

 筆者は今回個人登録の手続きを行ないましたが、ウェブサイト上に申し込み用フ
ォームやメール送信用の雛型などが用意されていない点が気になりました。筆者は、
DLCLに関心がある点と東京在住である点に触れた上で、講読方法と詳細を教えてく
ださいとメールに記して連絡を取りましたが、「How to Subscribe」ページの情報
だけでは少々不親切ですし、手続きを始めようとしたときにちょっとした障壁とな
りえます。

 また、筆者が手続きをした際、何回かメールのやり取りをしましたが、ほぼ即日
で返信が返って来ていました(日本時間の午前3時前後にメールが届く形)。担当者
が何名いるかにもよると思いますが、現状のようにすべて人力での対応ということ
ですと、メールが多くなってくると対応も遅れがちになることも心配されます。
(価格設定をみると、個人登録にはあまり積極的ではない可能性もありますが--。
まだこのあたりは手探り状態なのかもしれません。)

2.ログインとサインイン

 さて、DLCLにログインすると、ページ閲覧数などの制限がなくなると同時に、
「サインイン」(Sign in)可能になります。DLCLでは、ログインした後、さらにサ
インインすることで、すべての機能が利用可能になります。(閲覧数制限などはロ
グインするだけでなくなります。)

http://www.dhii.jp/DHM/imgs/loeb/loeb_02_02.png
(図2:ログイン後のページ上部)

 ログイン後はページの構成が少し変わり、ページの上部に「Sign in」および
「Sign up」のリンクが表示されるようになります。

http://www.dhii.jp/DHM/imgs/loeb/loeb_02_03.png
(図3:「サインアップ」(Sign up)はウェブ上で可能です。)

 サインインするためには、ページ上部のリンクから「サインアップ」(Sign up)
して、サインイン用の登録を行ないます。登録後、サインイン可能になります。

http://www.dhii.jp/DHM/imgs/loeb/loeb_02_04.png
(図4:「サインイン」情報入力画面)

 やはりページ上部の「Sign in」リンクから、サインアップで登録したEメールア
ドレスとパスワードを使用してサインインします。(サインインするボタンが
「LOGIN」になっているのはご愛嬌。)

http://www.dhii.jp/DHM/imgs/loeb/loeb_02_05.png
(図5:サインイン後のページ上部)

 サインインすると、さらにページの構成が変わり、ページ上部にサインアップ時
に登録した名前が表示され、赤枠部分には「MY LOEBS」タブが追加されます。MY
LOEBSの名称からも想像できるとおり、サインインすることによって、DLCL使用者が
利用時の個別設定をサイトに保存できるようになります。

 以上のように、DLCLのウェブサイトでは、「ログイン」「サインイン」の二段階
の手順を踏みます。手続き完了メールにも注意書きが書かれていましたが、この点
は一部のユーザーを混乱させているようです。たとえば、Googleではログイン、
Amazonではサインインが用いられているように、いずれの表現も各社のウェブサー
ビスにアクセスする際の手続きを示す語として区別なく用いられていることを思う
と、混乱するのも分からなくはありません。(実際、図4のようにDLCL自身も混同し
ています。)

 簡単にいえば、DLCLでの「ログイン」はウェブサイトそのものへのアクセス、
「サインイン」はウェブサイト内部でのユーザーデータへのアクセスを可能とする
ものです。DLCLを壁に囲まれた町だと見れば、「ログイン」は壁の門をくぐるため
の手続き、「サインイン」は町に作った個人の住居に入るための手続きといえるか
もしれません。また、大学や図書館などの機関講読している場所からログインする
場合も、個人購読者が自分のアカウントでログインする場合も、いわば通過する門
の相違ですので、ログインしてしまえば、さらにサインインすることで、いずれの
環境からも各自のデータにアクセスできます。

 なお、Loebの原文や翻訳を読みたいというだけの場合、とくにサインインする必
要はありません。閲覧制限のはずれるログインだけで十分に用は足ります。

3.サインインして使ってみる

 それでは、サインインした場合にはどのような機能が利用可能となるか、実際に
試してみます。

http://www.dhii.jp/DHM/imgs/loeb/loeb_02_06.png
(図6:「MY LOEBS」を表示)

 「MY LOEBS」ページを表示すると分かりますが、サインインした場合、利用者は
「ブックマーク」(My Bookmark)・「検索データ」(My Searches)・「コメント」
(My Annotations)をサーバー上に記録できるようになります。またMost Recentに
は登録履歴が表示されますが、「ブックマーク」と「検索結果」のみで、「コメン
ト」は含まれません。なお、各データの編集・削除等は一覧画面の「Action」欄か
ら行うことができます(Edit/Delete)。

 「ブックマーク」はいわゆるしおりです。本文閲覧ページ下部に表示されるツー
ルバーのブックマークボタンから行ないます。(図7赤枠部分。登録済みのページに
は表示されません。)

http://www.dhii.jp/DHM/imgs/loeb/loeb_02_07.png
(図7:ツールバー。ブックマーク以外にも色々あります。)

http://www.dhii.jp/DHM/imgs/loeb/loeb_02_08.png
(図8:ブックマーク保存画面)

 ブックマークは「Collections」を作成してグループ分けして保存可能です。また、
ブックマークを作成したCollectionsに含めた場合、DLCLの他のユーザーと共有可能
になります。

http://www.dhii.jp/DHM/imgs/loeb/loeb_02_09.png
(図9 ブックマーク一覧画面)

 図6の画面でMy Bookmarksの箇所をクリックすると、ブックマーク一覧画面が表示
されます。左コラム「MY COLLECTIONS」内にある「share」のリンクから、DLCLの他
のユーザーとブックマークを共有できます。また、「Create Group」からメンバー
グループを作成し、グループでデータを共有することも可能です。

http://www.dhii.jp/DHM/imgs/loeb/loeb_02_10.png
(図10:検索結果画面右上のツールバー。他の機能も押せば分かります。)

http://www.dhii.jp/DHM/imgs/loeb/loeb_02_11.png
(図11:検索データ保存画面)

 「検索データ」は、検索結果ではなく検索パラメータの保存です。毎回データを
入力したり調整したりする手間を省けます。検索結果画面右上のボタンから保存し
ます(図10赤枠部分)。また、図11の通り、検索データを保存する際の画面に
「Note」欄がありますが、本稿執筆時点では、そこに何か入力するとエラーがでま
す(エラーが出てもデータ自体は保存されています)。なお、検索データには、共
有機能はないようです。

 サインインした場合の機能として、おそらく最も有用性が高いのは、「コメント」
機能と思われます。ギリシア語本文やラテン語本文および翻訳・解説の英文に対し
て、利用者がコメントを付記できます。さらに、各コメントは、ブックマーク同様
に、他のユーザーやグループと共有可能です。

http://www.dhii.jp/DHM/imgs/loeb/loeb_02_12.png
(図12:本文を選択する)

 本文を選択すると、鉛筆マークが表示されます。そのマークをクリックするとコ
メント入力画面が表示されます。既にコメントが存在する部分は黄色でマークされ
ています。

http://www.dhii.jp/DHM/imgs/loeb/loeb_02_13.png
(図13:コメント入力画面。日本語でも大丈夫です。)

 コメントは500字まで入力できます。システムはUTF-8対応ですので、日本語での
コメントも可能です。文字カウント機能もありますが、いずれにせよ500文字までし
か入力できないように入力欄で制限されています。

入力したコメントは、本文の黄色でマークされた部分をクリックすると閲覧・編集・
削除が可能です。また、同じ範囲を再度選択してコメントをつけると、別コメント
として保存できます。500字以上のコメントが必要な場合などには便利かもしれませ
ん。

http://www.dhii.jp/DHM/imgs/loeb/loeb_02_14.png
(図14:同一箇所に複数コメントの例)

 ただし、同一箇所に複数のコメントがあるかどうかは、表示してみない限り見分
けがつきません(図14)。なお、ここでの時間表示はアメリカ東部標準時間(EST)
となっています。

 また、作成したコメントは、図6の「My Annotations」の箇所で一覧表示もできま
す。

http://www.dhii.jp/DHM/imgs/loeb/loeb_02_15.png
(図15:コメント一覧表示画面の一部)

 コメント一覧画面では、作成したコメントの検索が可能です。また、コメントを
一括して削除(REMOVE)、共有(SHARE)できるほか、データ書き出し(EXPORT)機
能も用意されています。これは、コメントの一覧データを他のファイル形式に書き
出してローカル保存できる機能です。DLCLでは、CSV・PDF・Wordの3つの形式に対応
しています。ただし、筆者の環境では、日本語コメントをPDF形式で書き出した場合、
適切に表示されませんでした。

http://www.dhii.jp/DHM/imgs/loeb/loeb_02_16.png
(図16:Wordで書き出した場合)

 データ書き出しは便利そうな機能ではあるのですが、前回も触れたように、テキ
ストの参照情報が問題となります。上記データのDocument URIの部分です。

 たとえば、データの一行目で、「 /homer-iliad/1924/pb_LCL170.13.xml 」と記
されていますが、これはLoeb叢書第170巻の13ページに「Μ~ηνιν」が記載されて
いることを意味しています。作者名と作品名は「Location」欄で分かるものの、
「Document URI」欄の情報では、実際にLoebの本文を確認しなければ、ホメロス
『イリアス』の第何巻の何行目の語句であるのか分かりません。ほかにも、この表
では「Μ~ηνιν」の行が離れていますが、図14の通り、これは同一箇所に対するコ
メントです。あるいは、同一ページの異なる場所に同一の語句(かつそれらに対す
るコメント)がある場合、この一覧のデータだけではそれらの位置関係を判断でき
ないものと思われます。つまり、データがあくまでLoebを基準としたものとなって
おり、外部に書き出したところで、あまり汎用的な情報とはなっていないわけです。
今のところ、こうした問題を回避するためには、コメントを作成する際に、コメン
トそのものに「1.1」といった参照情報を含めるなどの工夫が必要です。

 なお、そうした問題は別としても、現在の一覧ページでは、情報が作成順に表示
されるのみで、項目別のソートなどには対応していません。利便性を考えると、こ
のあたりも改善の余地があるようにみえます。

* * * * *

 以上、DLCLのサインインした場合の機能を概観してみました。筆者自身が実際に
確認できていない部分もありますが、個々の利用者が自身の関心に基づいてデータ
を蓄積できる「個別性」と、それらのデータの「共有」がポイントであろうかと思
います。また、ウェブベースのシステムであり、各データがサーバーに保存される
ため、サインインさえできれば、場所を問わずに蓄積したデータにアクセスできる
点も重要です。こうした特徴は、いわゆる今風の機能ということもできそうです。

 その一方で、それらがDLCLの囲いの中でのみ可能となっている点も注意する必要
があります。せっかく蓄積したデータも、汎用性がなければ活用しにくいものとな
ります。とくに古典研究という側面で考えると、原文にせよ翻訳にせよ、よほどの
事情がない限りLoebのみを参照することはまずありませんので、DLCLでも他の古典
関係のデータとの互換性が欲しいところです。(DLCLは後発の電子化プロジェクト
ですので、なおのこと。)

 DLCLの電子化データがどのような規格に従ったものであるのか、表示データのみ
では不明ではあるものの、現在の状態から察するに、本文データに付記されるべき
メタデータが不十分なのではないかと推測されます。とはいえ、あくまで「電子版
のLoeb叢書を読む」という点に限っていえば、残念な部分が見受けられるにせよ、
現在の形でも十分に有用なものになっていることは確かです。少なくとも、500冊を
超えるLoeb叢書を手軽に閲覧できるようになったことは、非常に大きな進展である
といえます。このあたりは、DLCLに何を期待するかという、目的意識によって評価
が変わってくるように思います。

* * * * *

 ところで、Loeb刊行本の電子化については、部分的とはいえ、既に20年以上前か
らPerseusプロジェクトによる試みが行なわれています。DLCLは発行元本家による電
子化ではありますが、そもそもLoeb叢書を含む西洋古典文献の「電子化」に関する
発想と実装という点では、Perseusプロジェクトに長期にわたる試行錯誤の歴史があ
り、蓄積があるわけです。前回、Perseus主幹のCrane教授によるDLCLに関する評価
についても扱う旨述べたのですが、結局本稿では触れることができませんでした。
ということで、次回は、そのあたりも眺めつつ、今回とはまた異なる角度から改め
てDLCLについて考える予定です。

[1] http://www.loebclassics.com/page/subscribe/how-to-subscribe
[2] http://www.hup.harvard.edu/features/loeb/digital-edition-free-trial-request
[3] loebclassics_sales@harvard.edu (アットマークを半角に直してください)
[4] http://www.visa.co.jp/personal/cards/visaprepaid.shtml

[編集室注]
今回の記事のWeb版は人文情報学月報の公式サイトでもご覧いただけます。
公式サイトURL: http://www.dhii.jp/DHM/An_Introduction_to_LOEB_02

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◆発表募集

☆情報処理学会 人文科学とコンピュータ研究会
期日:2015年1月31日(土)
会場:大阪国際大学 守口キャンパス
★発表申込締切:2015年12月01日(水)
★詳細: http://jinmoncom.jp/

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◇人文情報学イベントカレンダー(□:新規掲載イベント)

【2014年12月】
■2014-12-01(Mon)~2014-12-02(Tue):
5th International Conference of Digital Archives and Digital Humanities2014
(於・台湾/Academia Sinica)
http://www.dadh.digital.ntu.edu.tw/index.php?LangType=en

■2014-12-02(Tue)~2014-12-05(Thu):
FOSS4G-ASIA2014
(於・タイ/バンコク)
http://www.foss4g-asia.org/2014/

■2014-12-13(Sat):
State of the Map Japan 2014 東京
(於・東京都/東京大学 駒場第2キャンパス)
https://stateofthemap.jp/2014/

■2014-12-13(Sat)~2014-12-14(Sun):
人文科学とコンピュータシンポジウム「じんもんこん2014」
オープン化するヒューマニティーズ-その可能性と課題を考える
(於・東京都/国立情報学研究所)
http://jinmoncom.jp/sympo2014/

■2014-12-20(Sat):
人文系データベース協議会 第20回 公開シンポジウム「人文科学とデータベース」
(於・大阪府/近畿大学 東大阪キャンパス)
http://www.osakac.ac.jp/jinbun-db/5.html

【2015年01月】
□2015-01-22(Thu):
国立国会図書館 国際シンポジウム
「デジタル文化資源の情報基盤を目指して-Europeanaと国立国会図書館サーチ」
(於・東京都/国立国会図書館 東京本館 新館)
http://www.ndl.go.jp/jp/event/events/20150122sympo.html

Digital Humanities Events カレンダー共同編集人
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小林雄一郎(日本学術振興会特別研究員PD)
瀬戸寿一(東京大学空間情報科学研究センター)
佐藤 翔(同志社大学教育文化学科 助教)
永崎研宣(一般財団法人人文情報学研究所)

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◇イベントレポート
第53回シェイクスピア学会セミナー
「Digital Humanities and the Future of Renaissance Studies」
 (北村紗衣:武蔵大学人文学部)

 2014年10月11日から12日にかけて、学習院大学で第53回シェイクスピア学会が行
われた。2日間かけて多数の研究発表が実施されたが、その中で2日目の13時より、
‘Digital Humanities and the Future of Renaissance Studies’と題して、ルネ
サンス・初期近代ヨーロッパの研究とデジタル資料に焦点をあてたセミナーが開催
された。組織者を東京女子大学のアンジェラ・ダヴェンポート(Angela Kikue
Davenport)講師がつとめ、上智大学のジョン・ヤマモト・ウィルソン(John
Yamamoto Wilson)准教授、青山学院大学のトマス・ダブズ(Thomas Dabbs)教授、
慶應義塾大学図書館の森嶋桃子(Morishima Momoko)司書が発表を行い、議論は主
に英語で行われた。同時間帯にワークショップとパフォーマンス関連のセミナーも
行われていたことを考えると、非常に盛況であったと言えるであろう。

 セミナー内でダヴェンポート講師も解説していたように、日本で英文学研究とデ
ジタル人文学をテーマとしたセミナーが開かれることは珍しく、シェイクスピア学
会においてはもちろん初めての試みであった。この種のセミナーやパネルや欧米で
は既に何度も開かれており、例えば2011年の7月17-22日にかけてチェコのプラハで
開かれた第9回世界シェイクスピア学会ではMITの研究者を中心に‘Global
Shakespeares in the Digital Archive’というワークショップが組織されているし、
2015年の4月1-4日にヴァンクーヴァーで行われることになっているアメリカシェイ
クスピア学会でも‘Using Data in Shakespeare Studies’というワークショップが
予定されている。本セミナーが企画されたのも、組織者のダヴェンポート講師がUK
などにおけるデジタル人文学の隆盛を知り、日本ではシェイクスピア関連分野にお
けるデータベースなどの研究がまだあまり進んでいないことを憂えたためであると
いう。日本においてデータベースを用いた英文学研究がまだなじみの薄い分野であ
ることを考えると、シェイクスピア学会においてデジタル人文学のセミナーが実施
されたことは日本の英文学研究や初期近代ヨーロッパ研究において大きな進歩とい
えるであろう。

 本セミナー報告の著者である北村が既にDHM035「デジタルなシェイクスピアリア
ンの1日」[1]でも指摘したように、初期近代英文学研究の主要なデータベースと
いってシェイクスピアリアンが第一に思い浮かべるのはEarly English Books
Online(EEBO)[2]である。本セミナーの最初の発表である、ジョン・ヤマモト・
ウィルソン准教授の‘Textual Analysis and the EEBO-TCP Database’はこのEEBO
を扱ったものであるが、現在有料データベースとして広く大学に提供されている通
常のEEBOではなく、さらに進んだデータベースであるEEBO-TCP[3]に関する話題が
中心である。TCPはText Creation Partnershipを意味しており、ミシガン大学図書
館を本拠地とするこのプロジェクトは、初期近代の刊本についてXML/SGML形式の電
子テキストを作成し、強力なフルテキストサーチ機能がついたデータベースとして
提供しようとしている。現在、EEBO-TCPのフルテキストはEEBO-TCPパートナー機関
にしか提供されておらず、日本にはこれに加盟している大学・研究所は無い。ダブ
ズ教授は実際にクリストバル・デ・フォンセカの著作を収録した古刊本をセミナー
に持ち込み、これとEEBO-TCPに入っているデータを比較しつつ、EEBO-TCPの強力な
フルテキスト検索機能のデモを行うという発表を実施した。様々な演算子を使用し
た検索が可能で、初期近代特有の綴りの揺れにも対応するテキスト検索機能は大き
な魅力があるが、一方でEEBO-TCPは印刷された文字のみを検索の対象として想定し
ているため、書き込みや蔵書票、装丁といったものを対象としている研究者にとっ
てはパラテクスト類の軽視につながるのではないかという点がいささか不安である。
本報告の執筆者である北村がこの点を質問してみたところ、基本的にEEBO-TCPは遊
び紙なども含めて全てのページのデータを保存し、pdfとhtml両方をきちんと見られ
るような設計にするということであった。必ずpdfファイルが提供されるということ
であれば、書き込みなども検索はできないが確認はできるということになる。

 二番目の発表であるトマス・ダブズ教授の‘As You Like It: A Work Sample in
Digital Reconstruction’は、ロンドンのセント・ポール大聖堂の北東側に位置し、
初期近代には書籍産業の中心地として賑わっていたポールズ・クロス・チャーチヤ
ードのデジタル復元を元に、シェイクスピアの喜劇『お気に召すまま』(As You
Like It)と16世紀末頃のロンドンの出版環境を結びつけて考察していこうというも
のである。本発表ではThe Virtual Paul’s Cross Project[4]という企画が紹介
されており、これが参加者の関心の的となった。このプロジェクトは1622年11月5日
にジョン・ダンが説教を行った時の環境を実験的に再現するものであり、ノースカ
ロライナ州立大学がNational Endowment for the Humanities(NEH)[5]のスター
トアップ補助金で実施したものである。本プロジェクトの特徴は、野外パフォーマ
ンスとしての説教を題材としているため視覚のみならずサウンドスケープにも焦点
をあてていることであり、セント・ポール大聖堂の庭の様々な位置で聞けたであろ
う音を追体験することができる。過去のパフォーマンス空間を再現するプロジェク
トとしては、アイルランド、ダブリンの伝説的な劇場であるアビー座のこけら落と
しの日を再現するAbbey Theatre, 1904[6]など既に良質な前例があるが、音の再
現という点ではThe Virtual Paul's Cross Projectは野心的な試みであり、研究の
みならず教育のためにも非常に役立つのではないかと考えられる。

 最後の森嶋司書の発表‘Databases in University Libraries: Backgrounds of
E-resources'は、現役の図書館員によるプレゼンテーションということで、大学図
書館におけるデータベースの使用や図書館コンソーシアム、慶應義塾大学が擁して
いる強力なディスカバリーサービスであるKOSMOS[7]など、実用的な話題が中心で
あった。大学図書館コンソーシアム連合(JUSTICE)[8]や、コンソーシアム向け
の電子ジャーナルアーカイブであるNII-REO[9]は、年々高騰するデータベースや
電子ジャーナルの価格に悩まされている大学にとっては学術文献にアクセスするた
めの解決法のひとつとして有用なものであり、参加者の関心も高かった。一方で学
生にデータベースの使い方を指導する際に教員が直面する問題など、教育上の課題
についても質疑応答を含めて議論がなされた。

 本セミナーに参加して報告者である北村が感じたのは、デジタル人文学分野の成
果に関心を持つ初期近代英文学研究者の間でも、相当なデジタルディバイドがある
ということである。本セミナーには、EEBOの使用法がまだよく理解できていない初
学者から、自分でデータベースを作成できるレベルの専門家まで様々な研究者が参
加していた。こうしたあらゆるレベルの参加者にとって関心のある話題を提供でき
たという点では本セミナーは非常に実りのあるものであったと考えられるが、一方
で情報技術に関する知識を研究者が共有し、学生に教えるためには超えなければな
らない壁が多数あるということも認識されたように思う。テキストのデジタル化や
パフォーマンス空間の再現などは今後の初期近代ヨーロッパ研究、英文学研究に多
大な影響を及ぼすものであり、日本におけるこの分野の研究がさらなる進展を見、
研究者がこうしたデータを扱う技術も向上していくことを切に望むものである。

[1] http://www.dhii.jp/DHM/dhm35-1
[2] http://eebo.chadwyck.com/home
[3] http://eebo.odl.ox.ac.uk/e/eebo/
[4] http://vpcp.chass.ncsu.edu/
[5] https://securegrants.neh.gov/publicquery/main.aspx?q=1&a=0&n=1&ln=Wall&f...
[6] http://blog.oldabbeytheatre.net/
[7] http://kosmos.lib.keio.ac.jp/primo_library/libweb/action/search.do?vid=KEIO
[8] http://www.nii.ac.jp/content/justice/
[9] http://reo.nii.ac.jp/oja

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 配信の解除・送信先の変更は、
    http://www.mag2.com/m/0001316391.html
                        からどうぞ。

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◆編集後記(編集室:ふじたまさえ)
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 人文情報学月報も無事に第40号を発行することができました。今回もシェイクス
ピアからデータベースまで幅広い専門分野に関するご寄稿をいただき、ありがとう
ございました。

 今回の巻頭言でご紹介いただいた、国立国語研究所のデータベースについては、
私自身は触ったことがなかったのでこのご寄稿をきっかけに、試しに使ってみまし
た。緯度経度での範囲指定ができるのはとても面白いと感じました。NDLサーチまで
幅広くカバーされているということですので、図書館の資料に関する調べ物にも使
えそうです。

 ここ1ヶ月の話題の中ではヨーロピアナに関する話題が引き続き盛り上がっている
と感じました。残り1ヶ月あまりとなった2014年締めくくりの12月にも「じんもんそ
ん」など、気になるイベントが予定されていることも楽しみです。

◆人文情報学月報編集室では、国内外を問わず各分野からの情報提供をお待ちして
います。
情報提供は人文情報学編集グループまで...
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人文情報学月報 [DHM040]【後編】 2014年11月27日(月刊)
【発行者】"人文情報学月報"編集室
【編集者】人文情報学研究所&ACADEMIC RESOURCE GUIDE(ARG)
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